No.921703

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第001話

どうも皆さんこんにちは。
序章を投稿して一気にお気に入り・フォロワーが10人近くも増えてくれて、大変うれしく思います。
本当に仕事疲れの最中、短い時間文章を打った甲斐も十二分に噛みしめれました。

さて今回は嬉しさのあまりすぐに作っちゃいましたが、やや少なめです。

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2017-09-09 16:48:52 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3765   閲覧ユーザー数:3320

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第001話「日常」

 「はぐはぐモグモグ」

「こら恋。もう少し噛みながら落ち着いて食べなさい」

呂北、真名を一刀。彼の収める扶風の拠点のある城の厨房にて、五人が椅子を並べて円形状の卓にて食を取っており、そのうちの一人、恋の周りには、既に食べ終えたのか、多くの皿が積み重なっており、恋は最初と変わらないペースで料理を食べ続けている。なお恋と卓を並べているのは、音々と夜桜、留梨の三人であり、隴は次々と出来る料理を運んでいる。

「よっぽど今回の戦で暴れまわってお腹が空いているみたいね」

「そうなんじゃけ、愛華(メイファ)の姐さん。お嬢の活躍ぶりといやぁ、儂らなんぞ足元にも及ばんかったじゃき」

「でも、それでまた一刀に何か言われたんじゃないの?」

食卓スペースと厨房スペースを隔てる壁の小窓から顔を出す愛華と名乗る女性の問いに、隴の背中は伸びて四苦八苦しながら体をもたつかせる。

「……ふぅ。一刀の過保護ぶりにも困ったもんだけど、貴女のその余所余所しい態度も相変わらずね......」

鉄板を片手に、反対におたまを持った女性が、厨房から出てきて隴に言った。この白のカッターシャツに茶色の革のズボンと同色の革のブーツを履く女性は、姓は高、名は順、字を逓雁(ていがん)といい、真名を愛華(メイファ)と表す。現在は料理中なのか、青色のエプロンを着けて、シャツの裾を手首にまでまくっていた。

「……こんな乙女が、本当に『金龍(コンロン)』と称される侯成(こうせい)将軍なのかねぇ」

愛華は隴の名称を口にすると、動揺で皿を落とさないようにしているのか、隴の体が固まったままになる。

隴の姓は侯、名は成、字を僇庵(りくあん)という。独特の訛り口調にて軍を統率し、また腰元まで伸びた金色の髪を靡かせながら兵に激を飛ばすその姿に、『(ロン)軍曹』との別名を持つ。何故名称に”鬼”ではなく”龍”と称されているかというと、それは普段の格好と、彼女の背中に掘られた入れ墨に秘密がある。隴の一日は朝の完封摩擦から始まる。裸になり布で自らの体を擦っているその姿を侍女が確認した時、背中にそれは見事な龍が描かれていたのだという。その龍は彼女が布で擦ろうとも落ちることはなく、侍女の噂から始まり、何時しか「侯成将軍の背には龍が宿っている」という噂が流れ始めた。それからである。龍を宿す者として云われ、『金龍』と称され始めたのは。

「そうなのネ。普段はこの訛り口調で皆を威嚇する二、主の前なら隴は乙女なのでアルヨ」

ニヤニヤと茶化す夜桜に釣られて、隣に座る留梨もニヤニヤと顔を緩めている。両手に皿を持っているためか、隴は顔を赤らめ、今手に持つ皿を同僚に投げつけたい衝動に駆られるも、グッと堪えて我慢をする。

ちなみに目の前に座る隴の同僚、夜桜と留梨にも呼称はある。

姓は(かく)、名は(ほう)、字を元奘(げんじょう)、真名は夜桜(ヤオウ)。隴と同じく一刀に仕える将であり、隴とは幼馴染。彼女はあらゆる拳法に精通しており、付いた呼称は『聖拳』である。幼い頃よりあらゆる拳法に興味を持ち、時に山籠もりなども行いながら一つの拳法習得に励んだこともあるほどの拳法好きなのである。彼女の将としての気質は、相手の撹乱にある。彼女が先頭に立ち、大軍に少数でぶつかり、荒らすだけ荒らして速やかに撤退していく。撹乱こそが彼女の真骨頂なのだ。

姓は(そう)、名は(けん)、字を婁邊(るへん)、真名は留梨(るり)。彼女も隴や夜桜の幼馴染であり、彼女の呼称は『傀儡使い』である。その名の通り、かつてこの大陸を秦が支配していた時代、中華大陸を統一した始皇帝はある秘薬を求めていた。それは不老不死の薬。財力・権力・名声、全てを手に入れた始皇帝も、時の流れには叶わなかった。老いていく始皇帝が最後の最後まで追い求めたもの、それが不老不死の薬である。その仮定で、裏では人体実験・呪術などの非人道的なことも行なわれた。そして生まれた異例が『傀儡使い』一族であり、いろいろあってその一族も時の流れと共に色々あって衰退し、留梨はその一族の数少ない生き残りである。無論彼女らも最初からこの様な大層な呼び名があったわけでもない。そのことはいずれ語る日がくるであろう。

 そもそも、三人が一刀と出会ったのは4年ほど前になる。当時、扶風の政情はとても安定していると言える状態ではなく、一刀に仕えていた将も愛華と郷里だけであった。ある日一刀が近隣を脅かせる賊の討伐に向かい、襲撃を受けた村に向かうと、とある三人の少女に守られたと聞く。その三人が目の前にいる隴、夜桜、留梨である。一刀は彼女たちの中に眠る何かに目を付け、村を守る駐屯兵を付ける代わりに彼女を引き抜き、以降今日までの間、彼女たちはこうしている。

「そういえば、今回の賊は少し手強かったって聞いたけど、どんな奴らなの?」

一仕事終えた愛華は、大皿の料理を机に置いて、肩肘を机に預けて座る。大皿が置かれた瞬間、恋の箸がどんどん進み、彼女の取り皿に次々盛られていく。

「そうなんじゃ姐さん。黄巾党というものをご存じで?」

「いいえ、知らないわ」

「最近出てきた黄色頭巾のいなげな(おかしな)奴らじゃき。まぁ、お嬢にいびせいてイモ引いて行きましたがね」

隴が恋を褒め称えるように笑うと、愛華は人差し指と親指で顎をなぞりながら思考する。ちなみに『いびり⁼恐れて』、『イモを引く⁼怖じ気づく』である。

【確か前に一刀が農民の一向一揆が起こっているって言っていたわね。今回の件、それと無関係ではない気もする。それに数も質も増えてきているのよね】

そんなことを考えていると、愛華は何か自分を突く気がして、その方向を振り向いた。

「......おかわり」

恋が自らの取り皿を手に持ち、愛華にせがむ。

「恋、駄目よ。これでもう50皿目じゃない。あまり食べ過ぎると逆に体に悪いわ」

「......でも……」

恋が一拍おいて言葉を繋げると、彼女のお腹が鳴る。続けて恋は愛華を見つめる。

「......駄目よ。暴飲暴食の影響で、体が要求しているだけよ。食べなくても死なないわ」

「.........」

「......そんな目をしても駄目よ――」

「............」

「.........ダメって――」

「...............ウルッ――」

愛華の頑な姿勢が、遂に恋の涙腺に響き、その目で見つめられる愛華は一つため息を吐いて降参し、「あと一皿だけよ」っと言うと、恋の頭の触手は嬉しそうに右往左往と動き回った。

「......まぁ、私が気にしても仕方がない。私たちは一刀に言われたと通りに動くだけ」

大皿用のフライパンを振るいながら、愛華が調理用の酒を加えフライパンから豪勢に炎が沸き上がったところで、恋が愛華を呼ぶ。

「......お姉ちゃん。......まだ?」

 

所変わり、執務室。

静寂な部屋、竹簡に筆を滑らせる音と、時々竹簡の音が聞こえてくる。そんな部屋に一つノック音が流れる。

「失礼します」

部屋に入ってくるのは、顔の整った優男の文官である。

「呂北様、今月の物流生産の報告でございます」

彼から手渡される。竹簡の乾いた音が静寂な部屋を満たし、相対す文官も緊張で体が強張る。

「李封、この紙の生産性はどうなっている?」

「はっ。今月は梅雨が続きました為、紙が乾きにくく、著しく減少しました」

「『出来なかった』などは聞きたくない。問題は次だ。次同じようなことが起こればどうやって防ぐかだ。商人・職人とよく話し合って事態の収拾に当たれ。それに加え、半年までに生産性を2割上昇させ、価格も2割落とせ」

「こ、これ以上価格を落とすのですか!?」

「紙はこの扶風の名産品の一つ。それを求めて態々大陸の商人、都の役人もこっちに来るのだ。もちろん質も落とすな」

「そ、それは......」

「無理なら他の者に回すが?」

一刀から放たれる眼光に李封と呼ばれた青年は一つ喉を鳴らし、そのまま頭を下げ一つ礼をして彼は部屋を出ていく。

一人部屋に残った一刀は、窓の外を見ると既に昼を少し回った頃だと気づき、昼前に恋と街に繰り出す約束をしていたことを思い出し、取り掛かっている仕事に付箋をして、筆を置き、引き出しから財布を取り出してそのまま部屋を出ていく。

 現在、一刀は恋と合流し街を闊歩しており、一刀の上には音々が肩車として乗っている。また足元には恋が飼っている短足胴長で焦げ茶色の犬であるセキトが歩いている。闊歩する3人と一匹の表情は活き活きと笑顔絶わず、傍から見ればさながら夫婦親子の様であり、だが一刀と恋は兄妹であるために、家族という点では間違いではない。恋は饅頭の入った紙袋を抱えて、黙々と食べふけっていた。

「.........」

「どうした?音々音」

頭の上で動きの止まった音々を見ると、彼女の視線は本屋の方に向けられている。その入口には「新刊『孫氏の戦術論』出ました」との立て看板が出ている。

一刀はおもむろに音々を下ろし、その場で待つように言うと、そのまま本屋に入っていった。そして少しすると...。

「ほら音々音。最近俺は忙しくて読む暇が無いから、お前が読んで要点をまとめといてくれ」

そう言って彼が手渡したのは立て看板に書かれていた新刊である。音々は喜々として本を受け取り「ありがとうなのです」と言いながら、胸に抱え飛び跳ねていた。

それから三人は夕方まで街を練り歩き、日が沈み始めた辺りで、隴が恋を迎えに来た。

「さぁ恋様、音々様。お館様はまだ仕事もございます。我らもそろそろ帰りましょう」

隴に施され、恋の手を引く音々でもあるが、恋は未だに一刀の方を向いていた。

「......お兄ちゃん。次はいつ遊べるの......?」

「そうだな。少なくても今の仕事が落ち着いてからだな」

「......寂しい」

恋はそう俯きながら呟いた。扶風の太守として常に仕事に追われる一刀。恋も兄のそうした状況も理解しているつもりであり、こうした妹ととの時間を余り取れない一刀も恋に対しての申し訳なさと、時間を作れない歯痒なさに苦く笑う。少しでも恋と長くいるために、彼は恋を自宅まで送ることを提案し、恋は頭を上げて、嬉しそうに頭の触角(アホ毛)を動かす。

一刀はなるべく一緒にいるために歩幅を狭めたりストロークを遅くしたりするものの、やはり時は無常であり、いつの間にか恋の自宅までたどり着いていた。彼女の自宅は街の外側にあり、少し向かえば一刀の自宅もそこにある。領主の妹の自宅ということもあり、無論一般的な家よりかなり大きく、またその家に住んでいるのは、恋だけではなく、音々、隴、夜桜、留梨が同居している。

「ほら恋、また明日な。音々も隴もご苦労だった」

「はいなのです」

「あ、ああ、ありがたき幸せ」

一刀が恋との別れを惜しみ、頭を撫でていると、おもむろに彼女は一刀に抱き着き、彼もそれに応える様に優しく包む。やがて恋は一刀の体から離れ、「またね」と言うと、そのまま自分の自宅へと引っ込んでいった。

「それじゃあ二人とも、また仕事場で――」

そう言うと一刀は二人と別れ、自分の自宅へと向かっていった。

「......ふぅ」

一刀は一つため息を漏らして、持っていた筆を机に置いた。

現在彼は自宅の自室にてやり残した仕事の片づけを終えたところである。恋たちと街で闊歩している間に、自宅に仕事を持ってこさせたのだ。無論その中には重要案件もある為に城から持ち出せないものもある。そうものは持ってこさせずに、代わりに明日片付けねばならないであろう案件を持ってこさせたのだ。仕事を終えた一刀は侍女に食事を持ってこさせ、遅めの夕餉を済まし、湯殿を堪能し、寝室にて先ほど食事を持ってきていた侍女と戯れ、本日の一日を終えた。

 


 
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