No.91768

真・恋姫無双 蒼天の御遣い12 前編

0157さん

どうもです。相変わらずの遅筆ですいません。orz

夏は色々と忙しくて・・・・・・これは言い訳ですね。

とにかく、これ以上お待たせするのも申し訳ないと思いまして、中途半端だとは思いますが投稿させていただきます。

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2009-08-26 23:08:54 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:37757   閲覧ユーザー数:26003

司州にある許昌の都では今日も人が絶えずに行き来していた。

 

その中にある少し大きめの通りに見事な黒馬を連れて歩く男女がそこにいた。

 

一刀と雫である。

 

「随分大きい町だよなぁ」

 

一刀がこの許昌についての感想を一言で表した。

 

「はい、ここは洛陽からも近いですから自然と人が集まるのです」

 

雫が端的に説明してくれる。

 

「そうか・・・それならここで必要なものを全てそろえられそうだな」

 

「そうですね、一刀様」

 

一刀たちがここに来た目的、それはここで旅に必要なものの買い足しだった。

 

もちろん、食料や水などの必需品は町や村に寄るつど補充をしている。しかし、今回はそれだけではなかった。

 

以前、荊州でひどい怪我を負った女性を助けるために手持ちの薬や包帯などをほとんど使い切ってしまったのだ。

 

旅先では何が起こるか分からない。だから、それらの物も買い足しておかなければならないのだ。

 

「一刀様、これだけ大きいとなると手分けをして行ったほうがよろしいかと思います」

 

雫の提案に一刀はうなずいた。

 

「そうだね。じゃあ、俺は薬などを買ってくるから雫と黒兎は食料と、あと宿を探してきてくれないか?」

 

「・・・一刀様?薬なら私が行ったほうがいいのでは?」

 

雫が控えめにそう主張した。確かに薬などに関しては雫のほうが詳しいだろう。しかし、一刀は首を横にふった。

 

「駄目駄目、薬とかって意外に重たいんだから。そんなの女の子に持たせられるわけないだろ?」

 

一刀がそう言うと雫がわずかに顔を伏せた。心なしかその顔にはかすかに赤みがさしている。

 

「大丈夫だって。足りなくなった薬は俺だって知ってるんだから。それを買えばいいんだろ?」

 

一刀はそれを知ってか知らずか、平然とそう言う。

 

「・・・・・・分かりました。それならお願いします、一刀様」

 

「じゃあ、一刻(二時間)後に城門の前で待ち合わせしようか」

 

「はい。それでは一刀様、後ほど・・・」

 

「ああ、他に必要な物や欲しいものがあったら買ってきていいから」

 

一刀と雫は互いに必要なものを買いに別れた。

 

 

「さて、薬屋はどこかな?」

 

雫と別れた一刀は一人そうつぶやき、並ぶ店を一軒一軒見回した。

 

「それにしても、やっぱり広いなぁ・・・」

 

まだ先のこととはいえ、魏の五指に入るほどの都市だ。活気も今まで見てきた町とは段違いだ。

 

下手したら迷子になってしまうかもしれない。

 

さすがにこの年で迷子になるのは恥ずかしすぎる。一刀は来た道をしっかり覚えながら歩いていった。

 

時折、人に道を聞いたりしながら歩いていると、探していた薬屋が見つかった。

 

一刀は店の中に入って中を見回すと、中はそれなりに年季の入った店構えだった。

 

それでも、古ぼけた印象は感じない。中は所々清潔に保たれていて、ほのかに漢方薬の匂いがした。

 

いい店だ。一刀は心の中でなんとなくそう思った。

 

「いらっしゃいませ、何かご入用ですか?」

 

一刀がそうしていると、店の人が声をかけてくれた。

 

「ああ。旅に必要な薬をいくつか買いに来たんだけど」

 

「分かりました。それならこの傷薬はいかがですか?よく効きますよ」

 

そう言って店の人はさりげなく、少し高価な薬を取り出した。

 

商魂たくましいな。一刀がそう思いながら苦笑した。

 

「いや、必要な物はもう知ってるんだ。だからそれは遠慮しておくよ」

 

「そうですか、それならどれにしましょう?」

 

店の人は別段気にするでもなく尋ねた。

 

「えーっと・・・・・・あれとこれと・・・あとこの薬と・・・・・・」

 

一刀が必要な薬を選んでいくと店の人は若干驚いたような顔を浮かべた。

 

「・・・・・・お客さん、えらく詳しいですね?もしかして医術の心得がおありで?」

 

「いや、詳しいのは俺の連れの方だよ。あと必要なのは・・・・・・」

 

一刀が頭の中で、必要な薬のリストにチェックを入れていき、やがて最後のやつを探しだした。

 

少しして一刀はその薬を見つけた。棚の端のほうに置いてあったので見つけにくかったのだ。

 

「「この薬をもらおうか」」

 

一刀がそう言うのと、誰かの声がピッタリと重なった。

 

 

すでに食料の買い足しも宿の手配も済ませた雫は手持ちぶさただった。

 

黒兎は宿の近くにある馬屋番に預けてある。だから珍しく一人だ。

 

(・・・・・・一人というのは意外と退屈です・・・)

 

まだ約束の刻限まで時間はある。雫は何をするでもなく広い通りに並ぶ店をぼんやりと眺めながら歩いていく。

 

(・・・・・・変ですね?前はそのようなことは思ってもなかったのに・・・)

 

雫は自分の心境の変化に軽く驚いていた。

 

以前、一人で旅をしていた頃は退屈とは無縁だったはずだ。

 

見るもの全てが新鮮だったし、その中で新しい発見があれば、嬉しく感じたはずなのに。

 

それが今ではこんな感じだ。何が自分をここまで変えてしまったのだろうか?

 

(・・・・・・・・・・・・)

 

自然と一人の青年の顔が思い浮かんだ。誰よりも強く、そして優しい自分の主の顔が。

 

(・・・//////////)

 

雫は顔が熱くなるのを感じた。そして心の中が温かく感じる。

 

しかし、雫はなぜそうなるのか分からなかった。どうして彼の顔を思い浮かべるだけで胸の鼓動が早くなるのだろう?

 

雫は自分の中の形容しがたい感情を持て余しながら、無理やり目線を立ち並ぶ店に向けた。

 

すると、雫の目がある店に止まった。

 

その店はたくさんの本が並んでいる・・・・・・つまり、本屋だった。

 

ふと、別れ際の一刀との会話を思い出した。

 

『必要な物や欲しいものがあったら買ってきていいから』

 

無論、雫としてはその言葉に甘えるつもりはない。

 

旅を続けていく上で路銀は大切だ。だからこのような所で無駄づかいをする気は全くなかった。

 

だけど、時間をつぶすにはちょうどいいだろうと、雫の足は自然とその店に向いた。

 

中に入ると、外の活気とはうって変わって店の中は閑散としていた。

 

まぁ、確かにこのご時世にわざわざ本を買って読もうだなんて物好きな人はそうそういないだろうが・・・

 

雫は立ち並ぶ本を流しながら見ていくと、とある本に目がとまった。

 

「あっ・・・・・・先生の新刊だ・・・」

 

ほんの表紙には『著・水鏡』と書いてある。

 

雫はその本を手にとってみようと本に手を伸ばすと・・・

 

「えっ?」

 

「あら?」

 

誰かの手と重なった。

 

雫は思わず本から手を離しその相手を見た。

 

その者は自分とそう変わらない背格好をした少女だった。

 

しかし、その者が出す雰囲気は、およそ余人に出せるものではなかった。

 

それは気高いというか、近寄りがたいというか・・・・・・とにかく相当の身分の者であることは予想がついた。

 

少女の後ろにいるのは護衛なのだろう、二人の女性が立っていた。

 

「あなたもこの本を買いにきたの?」

 

少女は手に持った本をかざした。

 

「えっと・・・」

 

急に話しかけられてどう言おうかと言葉に詰まっていると、後ろに控えていた護衛のうち、髪の短いほうが少女に話しかけた。

 

「華琳さま、どうやらその本はそれ一冊しかないようです」

 

「そう、困ったわね・・・」

 

「いえ、私は・・・」

 

買うつもりはありません。そう続けようとした所に、もう一人の髪の長い護衛が口を挟んだ。

 

「残念だったな。その本は華琳さまがお買いになられるのだ。だからあきらめて他を当たるといい」

 

「おやめなさい、春蘭。どちらかといえばこの者のほうが私より先に手に取ったのだから、彼女にこの本を買う権利があるわ」

 

「あの、私は・・・」

 

「さすがです、華琳さま!!その寛大なお心遣い、この夏侯元譲、感服いたしました!!」

 

雫は最後まで言えなくてどうすればいいか悩んでいると、華琳と呼ばれた少女が話しかけてきた。

 

「それにしても・・・この本を選ぶなんて、あなた中々見る目があるわね」

 

「・・・いえ、それは先生の本ですから」

 

「先生?あなた、水鏡の元で学んでいたの?」

 

「はい。私は先生の開く私塾で学問を学んでいました」

 

「ふぅん・・・・・・あなた、名は?」

 

「・・・徐庶といいます」

 

名前を聞かれたことを不思議に思いながらも、雫は答えた。

 

「徐庶。あなた私のところに来ない?」

 

「えっ?」

 

「彼女の元で学んでいたのならそれなりの知恵はあるのでしょう?なら、それを私のために役立ててみないかと聞いているの」

 

そしてその少女は雫を見てこうつぶやく。

 

「ふふ、それに見た目も私好みの可愛い子だし・・・」

 

「はぁ・・・また華琳さまの悪いくせが・・・・・・」

 

突然のことに雫が呆然としていると、春蘭と呼ばれた女性があきらめたかのようなため息をついた。

 

「どう?あなたのような子だったら歓迎するわよ」

 

再度、少女が問いかけた。だが、雫の心は決まっている。

 

「・・・せっかくの申し出ですけど、お断りします」

 

雫は丁寧に、だけど、きっぱりと断った。

 

「貴様!せっかくの華琳さまの申し入れを断るというのか!」

 

「落ち着け、姉者。理由も聞かずにそういきり立つのは良くない」

 

長髪の女性が声を荒げて怒りをあらわにすると、短髪の女性がいさめた。どうやら、彼女らは姉妹であるらしい。

 

「そうね、理由を聞かせてもらえないかしら?」

 

「・・・理由は二つあります。一つは私はあなた方のことを知りません。名前も素性も知らない方についていくなど子供でもしないことです」

 

「そういえばまだ名乗っていなかったわね。私は曹操、後ろにいるのは夏候惇と夏候淵よ」

 

「曹操・・・・・・もしかしてあなたは陳留の刺史していらっしゃる方ですか?」

 

ふと、漢中で出会った星たちの話が頭をよぎった。

 

「ええ、そうよ。よく知っているわね。それで?あとの一つは何なのかしら?」

 

「・・・二つ目の理由は、すでに私は仕えている主がいます。ですからあなたに仕えることは出来ません」

 

「そう・・・・・・その者から私に乗り換える気は?」

 

「あり得ません」

 

雫がきっぱりと断言すると、それを聞いた夏候惇が気勢をあげた。

 

「何だと貴様っ!華琳さまがそいつより劣っていると、そう言いたいのか!?」

 

「だから落ち着けと言っているだろう、姉者」

 

「しかし、秋蘭!こやつは華琳さまのことを侮辱したのだぞ!?」

 

「落ち着きなさい、春蘭。彼女の言っていることは本気よ。決して私をけなすために言ったわけではないわ」

 

「はぁ・・・華琳さまがそうおっしゃるのなら・・・」

 

曹操にもいさめられて、夏候惇は不承不承といった感じで引き下がった。

 

「・・・一つ、聞いてもいいですか?」

 

ふと、雫は気になったことを聞いてみた。

 

「何かしら?答えられることならいいわよ」

 

「あなたは何故ここにいるのです?ここは許昌ですよ?」

 

そう、曹操は陳留の刺史なのだ。だからこの許昌の町にいることはおかしい。

 

唯一、考えられることといえば、ここの城主と知り合いでその人に会いに来たことぐらいだが、それでも護衛の二人だけを連れてここにいることはないだろう。

 

雫の言いたいことが分かったのか、曹操は不敵な笑みを浮かべた。

 

「ああ、そのことね?別に大したことではないわ。ただの視察よ」

 

「視察・・・・・・ですか?ですがここは・・・」

 

「そうね、確かにここは私の領土ではないわ。そう・・・『今は』ね』

 

「!」

 

雫はそのことに気づくと共に驚愕した。曹操は近いうちに起こるであろう戦乱の時代を予期してここを『偵察』しにきたのだ。

 

「ふふ、やはり頭は回るみたいね。惜しいわ。それほどの智謀が手に入らないなんて」

 

曹操はそう言うと雫に本を差し出した。思わず雫はそれを受け取ってしまう。

 

「徐庶。気が向いたらいつでも来なさい。そうすれば天下というものを見せてあげるわ」

 

そう言って背を向けた曹操を雫はただ見ているだけしか出来なかった。

 

そして、曹操が店を去ってからしばらくして、雫はハッと思い出したかのように手元の本を見た。

 

「・・・・・・どうしましょう、この本」

 

何となく棚に戻すのは気が引けた。かといって、わざわざ曹操を追いかけて買わないと言いにいくのもどうかと思うし・・・

 

「・・・はぁ」

 

雫はため息を吐いてこの本を買うことにした。

 

 


 
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