No.914327

双子物語79話

初音軍さん

双子妹の雪乃、仕事見学するお話。詳しくないのでざっくりした説明で盛り上がりに欠けましたがまぁ本筋としてはそれなりにまとまった気がします。個人的には久しぶりのキャラをいくつか出せたので満足。こういう個人の作品は自己満足できればそれでいいんですw

2017-07-16 17:13:13 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:350   閲覧ユーザー数:349

双子物語79話~見学

 

【雪乃】

 

 部屋の中で叶ちゃんとくつろいでいると携帯が鳴ったので誰かなと確認をすると

父さんの名前が表示されていて、メールが届いていた。

 

 私が以前母さんに将来どうするかという話をしたのを耳にしたのだろう。

父さんの性格だから考え込むようなこととかなく、さらっと自分の会社に見学しないか

という内容が書かれていた。見た目クールで堅苦しい感じなのに文面には絵文字顔文字を

ふんだんに盛り込まれていて女子かと勘違いしてしまいそうだ。

 

 父さんの会社の仕事といえばゲーム関連か…。私は物語を作るのが好きで、

まだ趣味の領域だけど仕事にできればいいなぁとは思っていた。

だけど話を聞く限りじゃけっこう厳しい世界だからな~。まぁでも…。

 

「見学だからね~」

「先輩、どうしました?」

 

 私の反応に彼女の叶ちゃんが覗き込むようにして尋ねてくるから私はわかりやすく

まとめて叶ちゃんに話した。

 

「この間、帰省した時にこれからのこと話に言ったじゃない。その後に会社の見学に

来ないかって父が言ってきてね」

「いつです?」

 

「この日」

「あぁ…この日は私用事でした。ついて行きたかったのに残念です…」

 

「いや、遊びに行くわけじゃないんだからね…」

 

 私は苦笑しながら叶ちゃんの頭をポンポンと軽く叩いた。

 

「はーい」

 

 叶ちゃんは叩かれたところを触りながら嬉しそうに笑みを浮かべながら返事をした。

 

 そういえば。私がまだ小さい頃、お世話になったお兄さんがいた。同人誌を描いていて

拘りを感じられて今でも個性があったことは覚えていた。

 

 こういう作品作り関係に興味を持たないだろうか。気になったので以前帰省した時に

交換したメールアドレスを使って連絡をしてみた。

 

 その後すぐに父にもその人を連れていくかもという内容とありがたく見学させて

いただきますという内容のメールを打って送信した。

 

 父からはほどなくして返事が来てOKサインが出ていた。あの人からは一日後に

返事が来て驚いた様子の文面の最後に参加するという内容のメールが届いた。

 

 私が話し作りをするきっかけになった人。尊敬する師匠みたいな人だ…。

 

 

***

 

 当日、父が車で連れていってくれるということで待ち合わせは実家の前。

 

 私は一日早く家についてその日久しぶりに休みが取れた母さんと一緒にのんびり

していた。彼女と普段何をしているか恋バナみたいなノリで聞いてきてちょっと

恥ずかしかったけれど楽しかった。

 

 そして当日に近所に住んでる師匠こと田之上さんが昔より表情が少し柔らかくなって

私の元まで小走りできた。

 

「久しぶり、雪乃ちゃん」

「お久しぶりです」

 

「今回の件を金城のやつが知ったら行きたい行きたいって大騒ぎしてさ。

止めるの大変だったよ」

 

 とか文句みたいに言いながらどこか嬉しそうに話す田之上さんを見て私は何となく

察していた。似たもの同士というものだろうか。持っているものにはわかるのだ。

 

「それは大変でしたね」

 

 私が小さい頃から子供みたいにはしゃいで、アニメとかマンガのことを隠さず

楽しそうに話してそういう人だったっけ。今でも変わらないのかと、少し安心した。

 

「雪乃ちゃんの方はどう? …生活上手くやってる?」

「はい。毎日充実した日を送ってます」

 

「でも俺といると…彼女さんに勘違いとかされない?」

「大丈夫ですよ。お互いに気持ち伝え合ってますし、

ただの知り合いだと思ってくれています」

 

 そう思ってくれているはず…。たまに叶ちゃん嫉妬が深くなるからそうなっていない

ことを祈るばかりである。

 いや、信じあってるから大丈夫、大丈夫なのだと思うことにした。

 

「それを言ったら私といても彼には悪いんじゃないですか?」

「え!?」

 

「金城さんと付き合ってるんでしょ。何となくわかりますよ~」

「そ、そっか…まぁそうかもしれない」

 

 いきなり言われてしかも肯定されてるものだから面食らった表情をして

焦りながらも頷く田之上さん。微笑む私に田之上さんは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「昔と比べてずいぶん柔らかくなったみたいだね」

「それはお互い様ですよ。田之上さんもずいぶん柔らかくなった気がします」

 

「俺が…?そっか、自分じゃ気付かないものだな…」

「私もそうです」

 

 そうして二人で昔話に花を咲かせていると父の車が来たので二人で乗り込んで

出発した。

 

 

***

 

 走らせてる中、珍しい顔を見た父は自分の方から話しかけてきた。

「君、珍しいね。こういうの興味あるのかい?」

「はい。違う分野ですが同じ物作りとして興味があります」

 

「嬉しいね、うちは人材がカツカツで。もしその気になったら戦力になってよ」

「は、はい…」

 

 多分本気ではないのだろうけど、人材が少ないというのは本当なんだろうなと感じた。

作業自体はある程度才能と努力があればできるけど、シナリオ音楽デザイン等の発想力は

そういう独特な閃きがないと生み出せない。

 

 生み出せたとしてそれを活かせることができるのも更に限られてくる。

人を魅せられるようなゲームを作るには…だ。うちのゲーム会社は客視点から見て

良ゲーをいくつか作っている小さい会社っていうイメージ。

 

 赤字にはなってはいないが才能ある人はいくらあっても足りないくらいだろう。

特にジャンルを幅広く扱っているウチとしてはより一人でも多く欲しいくらい。

それでも役に立たない人材は要らないからそういう言い回しになる。

 

 私もその要らない内の一人に入る可能性は高い…。

 

 そう考えている内にいつの間にか2階建ての建物の裏手にある駐車場に車を停めた。

 

「では見に行こうか」

 

 言われて二人返事をすると会社の中に入ると入り口に二人の明るい雰囲気の二人組が

待っていた。

 

「どうも~。プログラム班の櫻田美咲です。今日は君たちの案内をするのでよろしく」

 

 明るい茶色がかった髪にポニーテールをしているちょっと背の低い気さくな雰囲気の

女性がそう言って隣にいた同じく明るい雰囲気でちょっと体育会系なイメージがする

見た目の男性が佐々野隆二ですって自己紹介して早々、父と一緒に会社から出ていった。

今から宣伝やら契約やらの仕事に二人で向かうのだろう。

 

「では、案内しましょう。私はメインはプログラムだけど他にも見て回っているから

安心してね」

 

「ありがとうございます」

 

 二人で挨拶をすると櫻田さんは笑みを浮かべて私たちを見比べる。

 

「もしかして二人はそういう関係?」

『違います』

 

 これははっきりと二人で同時にきっぱりと否定した。今の笑みは本気の分も

あるだろうけどからかってるのも半分くらいありそうだったのではっきり言った方が

わかってもらえるだろうと思った。

 

「そう、お似合いに見えたのに」

「…お互い、恋人いるんで」

 

「そうなの。羨ましいな~」

 

 歩きながら簡単な世間話をしながらある部屋に着くと表情が真剣なものに変わり

真面目な口調で説明を受けた。最初は自分の仕事場のプログラム関係の説明だった。

 

 ゲームを動かしたり、バグの取り除き。他にも細かいことはあるが動作全てに

関わる最後まで責任が重い仕事なのだと。上司が説明している間、近くにいる人はみんな

緊張の度合いが強いのがわかる。こんなに明るい人でも仕事では怖いのだろう。

 

 真剣に仕事に向かえば向かうほどそういう怖さというのは強くなっていくのは…

素人ながらもわかる気がした。

 

 それから続けてグラフィック関係。エフェクト、モーション、背景やキャラグラの仕事。

現段階では全体的に初期なのでそんなに忙しくなく修羅場になることはないのだとか。

おおよその説明を受けていると最近流行っているゲーム作りのマンガやアニメを見てると

似たようなとこがいくつかあるなと感じた。

 

 他にも企画やデバッグのチーム、ゲームの基礎を練り外へアピールしていく

プロデューサーとディレクター。この二人は責任が他よりも重いので今確定している

人材がいないのだとか。知識をある程度は知ってる社長である父、一緒に行動している

佐々野さん。そして今案内しているプログラムのリーダー櫻田さんが3人で協力して

回しているらしい。正直…大変過ぎる気がする…。

 

 2階建てとはいえ広さは一般家庭の二階建て住宅の広さと変わりないから

人数もそんな多くはないけれどけっこう狭い印象を受けた。

 

「どうだった?暑苦しいでしょー」

「でも…それぞれの役割がはっきりしていて、仕事に集中できる。知らないことが

いくつもあって勉強になりました」

 

 と、田之上さんが言う。私も正直現場を見るまでは何となくでしかわからなかった

ことがちゃんと現実としてその熱気を味わえた。正直怖さまで感じていたけど…。

 

「今すぐじゃなくていいから考えておいてね~。優秀な人材はいつでも募集中~」

 

 にこっと綺麗な笑顔を向けながらも棘のある言葉をもらって別の車で櫻田さんに

元の場所に送っていってもらった。

 

 

***

 

「ただいま~」

「先輩、おかえりなさい!」

 

 実家に送られた後、またすぐに大学近くのアパートに戻ってきた。本当は実家に

泊まりでもよかったんだけど叶ちゃんに癒されたかったから。

 

 私は帰ってきて叶ちゃんを見たら安心しきって倒れこむように叶ちゃんに抱きついた。

 

「けっこう疲れた」

「けっこうってレベルじゃないですよね…。とりあえず休憩しましょう」

 

 叶ちゃんがお茶とお茶菓子を用意してホッと一息吐く。

 

「どうでした?」

「頭ではわかっていたけど想像以上より大変そうだったわ」

 

「まぁ、それが仕事ですからね」

「そうね…」

 

 デバッグの方の人数がやたら少ないのは人件費に余裕がないからと聞いた。

デバッグはするものの、それぞれの班から少しでも時間に余裕が出来た者から

やっていくらしい。休憩らしい休憩は昼食時くらいしかなさそうに見えた。

 

「普通の人なら、普通の仕事の方が楽そうだね」

「ですか~」

 

「叶ちゃんは?」

「せっかく周りにも言われてるし私自身も手ごたえを感じているので

柔道の道を進みますよ~」

 

「そっか。うん、応援する」

「いざとなったら私が先輩を養えるくらいがんばりますよ!」

 

「うーん…。ありがたいけど、私も出来るだけがんばりたいな。叶ちゃんと対等の

立場でいたいし」

「あ…そうでしたよね。すみません」

 

 ソファで体勢を崩して叶ちゃんの肩に頭を預けながら言う。

体力的にハンデの大きい私にできるだろうか…いやそうじゃないな…。

やってからじゃないとそれすらわからないのだ。諦めることはいつだってできる…。

 

「よし、とりあえず目の前のことから始めていこうか。今回のことで少し頭の中で

話の構想ができたし」

「楽しみにしてます。先輩の書くお話読みやすくて楽しいですから」

 

「ふふっ、ありがと」

 

 可愛い反応をしてくれる叶ちゃんに私はつい抱きしめた。ちょっと汗の匂いがして

鍛えてるわりに筋肉が柔らかくて抱いていて心地良かった。

そのまま眠くなるのを堪えてちょうど食事の時間になるのを確認して二人で

食堂へ向かうのだった。

 

 ゲーム作りは道の一つとして考えておくとして、他にもまだやりたいこと。

やれることはあるだろうと思い、勉強と部活をしながらその合間に模索していこうと

思う。

 

 とにかく今回のことは新鮮で楽しかった。そう、辛いことを考えるよりもやりがいが

あるか、勉強になったことを身につけておけばいいと思った。

 

 久しぶりに父にも会えたし。緊張して疲れはしたけど私は満足していた。

 

 ご飯を食べた後、叶ちゃんとゆっくり二人でお風呂に入って話をしているとうとうと。

叶ちゃんの声が耳に心地良くてうっかり寝落ちしてしまいそうになる。

 

 そんな私を見て叶ちゃんの慌てる声が聞こえて。今この時間が静かで幸せなんだなと

改めて思えた。

 

 寝る時も同じベッドで今日のことを少し話してから私は叶ちゃんの手を握りながら

眠りに就いた。今後のことについてずっと考えていたからか夢の中でも仕事の夢に

振り回された気がしたけど起きたらすっかり忘れていたけど何かスッキリしていた。

 

 何を見たのか気になりつつも、無理に思い出さないようにする。

でかける準備をゆっくりしてから先に行く叶ちゃんを玄関で見送り。

私は外に出て綺麗な青空を見て昨日のことを思い出しながら背を伸ばしてから歩き出した。

 

 さてと、本日も勉学に励むとしますか。爽やかな風に包まれながら私は今日も大学へ

向かったのだった。

 

続。

 


 
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