No.913541

真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 38

風猫さん

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。


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2017-07-10 00:06:17 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:775   閲覧ユーザー数:721

(さて、どうするか……)

 

 皆から離れた俺は一人、人気があまりないところで考えに耽る。

 

(つーか、よくよく考えればあいつらが董卓の軍にいるってことは、洛陽とやらで会うのは確定しているようなものだよな)

 

 そうなれば確実に枷が外れるのは目に見えている。

 

(……だったら、ここで別れをある程度告げておくべきか?)

 

 だが、そうなると白装束のことを話さなくてはいけなくなる。

 

(……そうなったら、協力してくれるだろうな、あいつら)

 

 なんというか、人が良い連中だ。間違いなく協力を申し出てくれる。実際、その方が目的を達成できる可能性は上がるだろう。何せ、一人では集められないような情報を大量に得ることができる。

 

(だが、情報が手に入るまでの間、正気でいられるわけがない)

 

 あの温かい場所を俺は間違いなく破壊する。それはあってはならない。

 

「そもそも、復讐しか詰め込んでないこの体にここは眩しすぎる……」

 

 そう。俺の体は復讐という想いだけでできている。それ以外のは諍いを起こさないための紛い物。

 

(……さすがに紛い物は言い過ぎか)

 

 唯一残った人の心というべきかもしれない。

 

(……自分で何言ってるのやら)

 

 思わず自虐の笑みがこぼれる。くだらないことを考えたものだ。

 

(まっ、今はどこで切り出すか、どこまで話すかだな)

 

 まず、話の切り出しは、“何事もなければ”この戦の後でいいだろう。

 

 どこまで話すかは、難しい。さすがに何も触れないで去るのはできないだろう。とくに、関羽には。

 

(……あいつに、腕輪を返してもらわないとな)

 

 あれは、俺の世界の、ただ一つ残った形見だ。

 

 あの世界が幻想じゃなくて、ちゃんとあったってことを証明できる唯一のもの。そして、母さんの……

 

(……忘れるものか。忘れるわけがねぇ!)

 

 右手を握りしめ、あの悪夢を思い出す。

 

(……殺す。何があろうと、あいつらを一人残らず痕跡すら残さず)

 

 思い出した怒りを一だけ体中に巡らせて、心の奥底に戻す。

 

「……ふぅー」

 

 一度、深呼吸をして精神状態をもとに戻す。

 

(さぁ、気持ちを切り替えろ。今は目の前の戦いを終わらせる、それが最優先事項だ)

 

 それを自身の心の中で認識した後で皆のところへ戻ろうとした時だった。

 

「御剣様」

 

 黄仁が駆け寄ってきた。

 

「黄仁、どうした?」

「は、実は斥候が戻ってきまして」

「斥候が? 何かあったのか?」

「その、白装束の集団を見かけた、とのことなのですが……」

「なんだと!?」

 

 一瞬、さっき静めた心がまた波風を立たせ始めるが、それを抑え、続きを話すように促す。

 

「洛陽の城門周辺にいたようで、何かをしていた、とのことです」

「何かをしていた? それが何かわからなかったのか?」

「その、実は思い出せないと……」

「……そうか」

 

 やはり、というべきか。

 

「……驚かれないのですか?」

「まぁ、思い当たる節があったからな」

 

 そう言って俺はある人物のもとへ足を向ける。

 

「御剣様、どこへ?」

「なぁに、詳しそうなやつに話を聞きに行くのさ」

「さて、ご機嫌いかがかな、華雄将軍」

「……貴様か。良いかどうかで言えば最悪だな」

 

 そう、俺は華雄のもとへ足を向けたのだ。見張りをしていた兵士6人には少し外すように伝え、二人きりになる。ちなみに、さっき俺たちの元へ来たときは見張りの兵を足だけで倒してきたらしい。そのせいで見張りの兵を3倍に増やすことになった。

 

 まぁ、それはいい。本題じゃない。

 

「俺が聞きたいことは何かわかってるよな?」

「………………」

「お前が戦いのときに言っていた言葉、そして、白装束の軍団についてだ」

 

 その言葉を聞いた華雄の眉が吊り上がる。

 

「知っていることを全部話せ。包み隠さず、だ」

「……断ったら?」

「まぁ、構わないが、俺個人には恨まれると思え」

 

 その言葉を聞いた華雄はため息を吐いて顔だけこちらへ向け、俺の目を見つめる。

 

「恨むのは本音だろうが、何かする気がないのであれば下手な脅しをするものではないぞ」

「……何もする気がないかどうか、試そうか?」

「……ふん」

 

 そう言って華雄は体ごとこちらへ向ける。

 

「……正直言えば私もほとんど覚えておらん。どうにもお前に負けた時に奴らの呪縛から解放されたようだ」

「呪縛?」

「……奴らのことを話した瞬間に董卓の命が奪われるのだ」

「なんだと?」

「冗談だと思うかもしれんが事実だ。そして、その呪縛が解けたからこそ、奴らに関する記憶がどんどん抜けて落ちていく感覚がしている。今もな」

 

 そうなると……あまり時間はないか。

 

「少しでも教えろ」

「……いいだろう。まず、奴らには統率をしている存在がいる。名は知らんし、男か女かどうかも忘れた」

 

 なるほど、主がいるってわけか。

 

「他は?」

「奴らの目的は……くそっ、忘れた。いや、確か何か言っていたな」

 

 そう言って必死に思い出そうとする華雄はやがて思い出したのと同時に口にした。

 

「そうだ! “シン”と言っていた。その言葉をやたら言っていた」

「“シン”? なんだそれは?」

「やたら言っていただけで、その意味はよく知らん。これに関しては忘れたわけではない。本当にわからないのだ」

 

 “シン”……?

 

(なんだ? 真、新、心、芯……)

 

 思いつく限りの“シン”と読む言葉を思い浮かべていくが皆目見当がつかない。だが、少なくともそれが何かしらの鍵なのは間違いない。

 

「……奴らの総数は?」

「知らん。奴らはまるで影のように湧き出てくる。あれは、人ではない」

「人ではない? どういう意味だ?」

「……くそっ、今、抜けた。だが、人ではないのは間違いない」

 

 嘘を言っているわけではなさそうだ。

 

「他に思い出せることは?」

「……これ以上は」

「そうか。分かった」

 

 そう言って俺はその場を後にしようとするが、それを華雄が引き留めた。

 

「お主、あいつらと何か繋がりがあるのか? 繋がりがない人間が覚えられているとは思えん」

「……ああ、そうだ。まぁ、一方通行ではあるがな」

 

 そう言い残して今度こそ完全に後にする。

 

(シン……)

 

 その言葉の意味は分からない。だが、何かはあるはず。奴らにつながる何かが……!

「すまん、少し遅くなった」

 

 そういって皆のもとに戻るとさっきまでの変な空気はなくなっていて、いつものような空気になっていた。

 

「玄輝、ちょうどよかった。さっき斥候が」

「ああ、黄仁から聞いた。白装束の情報が入ったんだろ? まぁ、斥候もほとんど思い出せないって話だったようだが」

「うん。そのことで少し話していたんだ」

「俺も華雄に話を聞いてきた。それはあとで言う。まずはその話を聞かせてくれ」

 

 俺がそういうと、北郷は孔明に目配せをして、それを話すように促し、孔明はそれに従って説明を始める。

 

「実は、愛紗さんと鈴々ちゃんから聞いたんですが、鈴々ちゃんは華雄将軍と戦っているときに命を狙われたんですよね?」

「ああ」

「では、おそらくそれも白装束の人たちの仲間ですね」

「……だろうな」

 

 攻撃されたことを忘れる、それと似たような現象を起こせるのは現状、白装束の軍団以外に当てはまらない。となればそう考えるのが自然だろう。

 

「斥候さんが見たことを覚えていなかったこと、そして鈴々ちゃんが忘れてしまったことから、白装束の軍団は恐ろしく強力な仙術を使うのではないかと思っています」

「仙術って、お前さん信じているのか?」

 

 正直、孔明がああいった類のもの、迷信を認めるとは思えないのだが……。

 

「信じる、というよりは理屈が今、分からないものをそう呼んでいるというのが正しいですね。私たちが知らない法則や薬、それが仙術だと思っています」

「なるほど」

 

 孔明らしい考え方だ。それを確認した後でその続きを話すように頼む。

 

「ですが、彼らが戦場に出てきたのは鈴々ちゃんの時の一回で、それ以降は出てきませんでした。そのことから、彼らは董卓軍ではない、と私たちは考えています」

「……だろうな」

「ですけど、これから洛陽に向かう以上は何かしらの妨害はあるのではないかと踏んでいます。そのため、これからどうするかを話し合っていたところです」

 

 成程な。

 

「じゃあ、次は俺の情報だな」

 

 そして俺は華雄から得た情報を全員へすべて伝えていく。

 

「……率いる者がいる人ではない軍団、情報を口にしただけで別の人間の命を奪う術、そして“シン”という言葉」

 

 全部聞いた孔明はいつも以上に険しい表情で思考に耽る。だが、それを遮ったのは鳳統だ。

 

「……朱里ちゃん、もしかしたらその人たち洛陽にいないかも」

「雛里ちゃん? どうしてそう思うの?」

「だって、その人たちはその“シン”って言葉を何回も言っている、つまり、何かしらの目的を持っているってことだよね? その目的は董卓さんじゃなきゃ叶えられないのかな?」

「それは、わからないかな。董卓さんのそばにいたってことは何かしらの意味があったわけだし」

「私も、そう思う。でも、そうなると董卓さんが持っているものって何だろう? 領土? 戦力? 洛陽?」

「……そうだね。思いつくものはどれもいつ失うかわからないものばかり」

「それが本当に白装束の人たちは必要なのかな? 私にはそうは思えないの……」

 

 そう言って言葉を一度切った鳳統は少しだけ言葉を選ぶようにその続きを口にする。

 

「もっと大きい何か、それが白装束の人たちの目的のような気がするの」

(もっと大きい、何か、か)

 

 確かに、あながち間違いではない気がする。俺が知っている限りで、奴らは二つの世界に渡って活動をしている。そんなことをしている奴らが鳳統の挙げた不安定なものを欲しているとは思えない。

 

(そうなると……)

「“シン”が彼らにとって必要なもの、って言うことなのかな……?」

 

 俺の言葉を代弁するかのように孔明が言ったことに対し、鳳統が頷いて肯定する。

 

「そうだと思う。でも、ここまで特に手を出してこなかったってことは、董卓さんはシンを持っていなかった、あるいは」

「シンに必要ではなかった……?」

「そういうことじゃないかな……?」

 

 やはり、奴らのことを知るには“シン”を解き明かさねばなるまい。

 

「えっと、もう大丈夫?」

 

 と、さっきから会話に入れなかった皆を代表して北郷が話しかける。

 

「はわぁ!? ご、ごめんなさい! つい……」

「あわわ……すみません……」

「いや、謝ることじゃないよ。でも、白装束の軍団はこれから警戒していかなきゃいけないね」

 

 その言葉に全員がうなずく。

 

「よし、じゃあこれから白装束の軍団の情報はできるだけ集めていこう。それと、次の斥候は話をすばやく伝えられるような仕組みを後で言うから、朱里と雛里の意見を聞かせて」

「“御意!”」

「愛紗、星、鈴々、玄輝はこの戦が終わるまでは最大限の警戒を。いつ白装束の軍団が出てくるかわからないから、大変だとは思うけど」

「“はっ!”」

「了解した」

「桃香は、そうだ! あのことを皆に」

「あ、うん。そうだね」

 

 ん、あのこと? そういや、何度か北郷と話し合っていたな。

 

「実は董卓さんの事をずっと考えていて、みんなに相談したいことがあるの」

「相談、ですか……? 桃香様、董卓の事とはいったい?」

 

 関羽がそう問いかけると、劉備は真剣な面持ちで話し始める。

 

「もしも、もしもだよ? 董卓さんに会うことができて、悪い人じゃないってわかったら保護したいと思うの」

「はぁ!?」

 

 思わず大きな声で驚いてしまったが、驚いたこと自体は皆同様だったようで、北郷以外はみな目を見開いている。

 

「ちょ、ちょっと待て、劉備。本気で言っているのか? どんなことが起こり得るか全て考えた上で言っているのか?」

「う、全てって言われると少し自信はなくなるけど、でも、ご主人様とは何度も話し合ったよ。どんなことが起こるかは特に」

「……北郷」

「ま、まぁ、玄輝の言いたいことはわかるけど、全部聞いてからもう一度話し合わないか?」

「別に最後まで聞かないとは言わんが、もう少し他の、最低限でも軍師二人には相談すべきだろうが……」

 

 実際、軍師二人は真剣な表情で考え始めてるし。この二人がこんなことを今考えるなんてのはあり得ない。つまり、知らされていなかったということだ。

 

「そ、それはそうだね……。ごめん」

 

 北郷は素直に二人へ頭を下げる。対して、下げられた二人の片方、孔明は両手と首を横の振って返事を返す。

 

「い、いえ、それは構わないのですけど、その、こういうことはやはり事前に言っていただかないと、こちらも困ってしまいますので……」

 

 その言葉を聞いた後で劉備も頭を下げる。

 

「ご、ごめんね、朱里ちゃん、雛里ちゃん……。でも、二人には言わないでってお願いしたのはわたしなの。大事な戦の時に、別の事で考えを乱したくはなかったから……」

 

 まぁ、劉備の言いたいことも分からなくはない。それに、この話を切り出すタイミングっていうのもなかなかなかったのも事実だ。

 

「……それで、どうしてそんなことを考えたんだ?」

「うん。皆も気が付いてるかもしれないけど、この戦って明らかに袁紹さんの私欲がものすっごく絡んでるよね?」

「……まぁ、否定しようがないな」

 

 俺の言葉に全員が無言の肯定をする。

 

「だから、もしかしたら董卓さんは巻き込まれただけの、その、被害者なんじゃないかなって思うの。もし、もし本当にそうなら私はそれを見過ごすなんてできないし、しちゃいけないと思うの」

「で、助けてどうする? 安全なところで開放するのか?」

「ううん。多分、袁紹さんはどんなことがあっても首を獲らないとあきらめないと思う。だから、私たちで“殺そう”と思うの」

 

はいどうも。短い間隔でおはこんばんにちは、作者の風猫です。

 

さて、もうそろそろ董卓編の終わりも近づいてきたわけなのですが……

 

う~む、筆のノリが……本当に7月中に終わらせることができるのだろうか……?

 

……とまぁ、そんな不安に駆られていますが、どうにかその近辺では終わらせたいです、はい。

 

では、また次回。

 

……シン、あなたは何を思い浮かべますか? 

 


 
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