No.911904

「真・恋姫無双  君の隣に」 第72話

小次郎さん

華琳が一刀のもとに辿り着く。
戦は、終わりを告げる。

2017-06-28 12:29:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7288   閲覧ユーザー数:5527

緊張感で張り詰めている周りの華国兵達。

当然ね、あと一歩踏み込めば大事な主君に私の刃が届く距離なのだから。

むしろ私と一刀の間に入り込みたいのを懸命に堪えているのが分かるわ、しないのは一刀に命を受けているからね。

それに比べて、気負いもなく自然体でいる一刀。

大陸の王と成るのが目前でありながらも、その姿は私の知る一刀のままだった。

一刀は何も言わず私を見ている。

私の何かを、待っている。

・・此処に辿り着くまで、私の心は屈辱と怒りで一杯だった。

私に全く無かった勝機を、一騎打ちによる勝敗を覆す機会を故意に作りだしてまで私を誘った。

武で私に勝つ可能性が無いのは分かっている筈なのに。

雪蓮がその事に気付いた瞬間、私は対峙していた季衣の事など思考から吹き飛んだ。

一刀が私を死なせない為に自分の命を懸けたと。

許せなかった、それが無数の民を導く王の取る行動かと、情けをかけられた事も拍車をかけた。

ならばお望み通りにと出陣した、愚かな王の首を刎ねる為に。

・・でも一刀の目を見て分かった。

一騎打ちなんて一刀は受けない。

逆に一刀の目こそ私に問いかけていた、魏国の王である私に此の戦に対しての答えを。

武人や王の誇りなどと言って確定している敗戦を覆そうなんて、それこそ敗者の都合のいい勝手な考えなのだと気付かせられた。

本当の誇りとは、そんな浅はかなものではないと。

どれほど泥を被ろうとも、責任を取ろうとする者は本質を見誤ったりはしては駄目だと。

私が奸雄の呼び名を受け入れたのは、正にその為だった筈。

勝手に個人的感情で乱世から退場しようとした行動をこそ咎めていたのよ。

私は何時から誇りを取り違えていたのか。

醜い感情が洗い流されて、改めて一刀を見る。

そして私はその何かを、ようやく一刀の真意に気付く。

・・絶を手放す。

そう、一刀が求めているものは、

「北郷様、降服を申し出ます、どうかお受け下さい」

私が自ら降服を口にする事。

万人が納得出来る形で戦を終わらせ、両国の後々への凝りを少しでも減らす。

新しい世を迎え入れ生きていく全ての者の為に。

「曹操殿の言葉、確かに聞き届けた。降服を受け入れる」

一刀は戦が終わった事を全軍に知らせるようにと兵を走らせる。

・・ああ、終わったのね。

私は王として最後の義務を果たした。

無念の気持ちが無いと言えば嘘だけど、でもこれは胸に収めておくもの。

私は、負けたのだから。

「よし、華琳、やろうか」

えっ?

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第72話

 

 

「荘厳苛烈、豪奢先鋭、猛氣凜冽、剣閃烈波、七星・・」

「長い」

「ぬおっ!呂布、決め台詞の最中に仕掛けてくるのは駄目だろう。集中が切れたでは無いか!」

「お前、でたらめ」

「姉者、援護はするがそこまで長い時間は無理だ」

横目で恋さん達の闘いを確認してましたが、流石は恋さん、春蘭様と秋蘭様のお二人が相手でも問題は無さそうです。

親衛隊の人達は全員投降したようですし、私も季衣との闘いに集中します。

ですが寿春の時とは違って、これは私達が昔から繰り返してた喧嘩の延長です。

倒すのが目的ではなくて、単に力を振るいあってるだけの私と季衣の意思疎通。

「季衣、私に勝てたら新しく覚えたお菓子を作ってあげるよ」

「ようし、絶対だからね、流琉」

暫く経って、華琳様が降服したと兵士さんが伝えに来てくれました。

季衣との勝負は引き分けです、でも私はこれまで通りお菓子を作ってあげる事になりました。

 

 

す、凄い闘いです。

馬上で奇しくも似通った偃月刀を振るわれるお二人の勝負は、美しさすら感じさせるほどのもので演舞を行なっているかのように見えます。

大陸にその名を轟かせ数多の戦場で磨き抜かれた武は、素人の私ですら魅了するものでした。

「最高やで、愛紗!ウチの武はこの時の為にあったんや!」

「フッ、それは私の台詞だ。天に感謝しよう、霞、貴女との出会いに」

闘いは更に続いて、気付いた時には両軍の兵士達が近寄ってきていて互いの将に声援を送っていました。

敵を倒す事を期待するのではなくて、ただ応援したいからというお顔で。

「全く、楽しそうにしてるわね」

「賈駆さん」

「詠でいいわよ。貴女の事は色々と聞いてるわ、特に仲との戦いでの用兵術は見事の一言だったもの」

「あ、ありがとうございます。わ、私は龐士元で、雛里と申します」

私も詠さんの御高名は耳にしてまして、尊敬してます軍師のお一人です。

初めてお会いしましたけど、今迄の戦歴等から不思議とどのような方か想像に浮かんでて、此れが初対面の気がしません。

詠さんも私と同じなのか、だからこそ真名を交わす事に抵抗が無かったのかと思ったりします。

愛紗さん達を観戦しながら色々と話していましたが、

「・・そろそろ終わりかしら」

お二人の動きが止まり、申し合わせたように互いに少し下がって呼吸を整えられてます。

兵の声援も静まり、一切の物音が無くなります。

私も息を吸う事すら忘れてお二人を見つめます。

そして、同時に駆け出して武器が振り下ろされました。

!!!

表現しがたい音が響いて、思わず目を瞑ります。

恐る恐る目を開けて見えたものは、愛紗さん達の互いに刃が欠けている偃月刀を持つお姿でした。

 

 

へえ、以前よりも随分動きが洗練されてるわね。

華雄の攻撃は攻守の比重が取れてて隙が無いわ。

誘いにも乗らないし、斧の長所を上手く使ってる。

その変わりようには驚きよ、でも人ってそう簡単に変わるものじゃないでしょ、特に追い詰められればね。

それに、私の方が強いのも同じだし。

時間が経つ毎に華雄の傷が増えていくわ。

「少しはましになってるけど、貴女は私に及ばないわ、よ!」

私の剣を受け止めた華雄が後ずさる。

決めるつもりの一撃は防がれたけど、効いてはいるわね、片膝が落ちたわ。

斧を杖代わりにして立ち上がりながら、華雄が私に返答する。

「・・そうだな。私はお前に及ばぬ」

「・・だったらもういいでしょ、退いてくれる?」

内心は言葉ほど冷静じゃないわ、実力差を素直に認めるなんて、別人じゃないの?

「そうはいかん。孫策、貴様を今の状況で主のもとへ行かす訳にはいかぬ」

「及ばないって言わなかった?私には勝てないわ」

「勝つ必要は無い。貴様を足止めする事が私の役目だ。それだけなら私でも何とかなるだろう」

華雄が構え直すけど、私は何とも言えない気分になってた。

目の前の華雄にもそうだけど、その主である一刀に対しても。

・・私は負けを素直に受け止められなくて、国から飛び出してまで一刀に抗ってきた。

国力の差が大きかったのが敗因で、私個人は負けてないって思ってたから。

だけど私と一刀の違いって、武とか知じゃなくて人を育てられるかどうかだったのかしら?

華雄だけじゃなくて蓮華達の事も思い出す。

実益重視で結果のみで人を見ていた私と、人を顧みて効率を横においていた一刀。

乱世において失敗は命を失うことに繋がるわ、決して許されない事と処断してた。

例え失敗しない人間なんていないと分かっていても、私自身繰り返していてもね。

でも反省だけなら、叱責だけなら誰にでも出来る。

そこから学ぶ事こそが肝要だったのかもしれない、自分に対しても、周りに対しても。

一概には言えないけど、私は人の成長の芽を摘み、一刀は芽を伸ばしていたと状況が語ってくる。

それこそが私が一刀に負けた本当の理由だって。

国の力は人の力、単純な数字じゃない。

そして人の力は常に同じじゃないわ、刻一刻と変われるもの。

それなのに負けた理由が国力の差なんて、表層しか見ていない言い訳だったのね。

私は・・・。

・・ようやく得心したわ。

負けるべくして、私は一刀に負けてたのよ。

「・・華雄」

「・・何だ?」

「私の負け。一刀のところに連れてってくれる?」

 

 

全く、つくづく御遣いは私の予想の斜め上をいく。

これでは味方であっても苦労しているであろうと容易く想像がつく、だが不思議と心を温かくしてくれるのだろうとも。

成程、雪蓮や蓮華様たちが惹かれる訳だ、碌に会話を交わした事もない私ですら興味が尽きない。

「ちょっと、冥琳。一体何なのよ、これは!」

「降服されたと聞いて来たのですが、何故このような事に?」

「やはりお兄さんは女性の天敵ですね。乙女心を踏みにじるように見せて鷲掴みですかー。」

降服の報を聞いて駆け付けた桂花達が私に問いかける。

風は察したようだが、桂花と稟には説明せねばいかんか。

既に戦は魏の降服で終わった。

雪蓮を始め、各所の一騎打ちも矛を収め華国本陣に集まっている。

だが終戦した筈の戦場で新たな闘いが始まっていた。

絶対にあってはならない事であるのに、私を含め誰一人止めようとしない。

先程から雪蓮が頬を膨らませ的確な表現を口にする。

「何が一騎打ちよ、こんなの只の痴話喧嘩でしょ!」

 

 

本当に、本当に腹が立つわ。

「ここまで私を虚仮にしてくれた以上、覚悟は出来てるんでしょうね!いえ、そんなものどうでもいいわ、今すぐ死になさい!」

「待って待って、冷静に、冷静になろう、な?」

私の絶を小癪にも受け止める一刀。

普段の私ならこんな見え見えの大振りで絶を振るうなんて有り得ない。

でも感情が抑えきれなくて身に付けた武技は身を潜めたまま。

鍔競り合いの状態で睨み続ける。

私は降服したのに、何故一刀と闘っているのか。

そもそもの発端は一刀からの一騎打ちの申し込み。

全く理解出来ない私に一刀が言った言葉は、

「だって華琳、納得しきれてないだろう?少し発散しときなよ。訓練だよ、訓練」

 

ここまで分かり易い攻撃なら何とか受け止められる。

いい具合に気持ちを剝き出しに出来てるし。

あのままだと意地を張って国から出て行きかねなかったからな。

・・此処で絶対に捕まえる、もう二度と離さない。

 

攻撃が当たらない。

そういえば春蘭が防御だけは評価してたわね。

・・でも、何の真似よ!

「どうして攻撃してこないのよ!私を舐めてるわけ?」

「どうして俺が華琳を傷付けないといけないんだよ!それこそ有り得ない!」

「!!、戦を仕掛けておいて・・・、馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にしてーー!!!」

 

確かに俺は戦を仕掛けたよ。

矛盾してるだろうさ。

それでも俺は華琳が欲しいんだ!

惚れてる相手に当たらなくても真剣を振るなんて出来るかっ!

 

「女誑し!そうやって口説きまくってるのね、死になさい!」

「華琳に言われたくない!大体口説いてない、気持ちを伝えただけだ!」

「それが口説いてるって言うのよ!・・この種馬王!!」

「風評被害だ!断固抗議する!」

「私の物のくせに!私を置いていって!何が愛していたよ!」

「!」

繰り返される悪夢。

現実では無いと分かっていても私を苛み続けている。

・・腕が重い。

絶を振るうのも言葉を吐くのも全力で行なっていたから疲労が激しい。

「勝手に過去にしてるんじゃないわよ!馬鹿ーーー!!」

最後の渾身の力を込めた攻撃を、防がれる。

一刀は尻餅をついたけど、体力の限界を迎えた私の手から絶が落ちた。

もう、動けない。

それでも絶対に倒れないと気力を振り絞る私に、立ち上がった一刀が近付いてきた。

抱き締められる。

「・・やっと、捕まえた」

その言葉が、私の最後の意地を溶かす。

一刀の胸から聞こえてくる心音が私を包む。

「・・馬鹿」

 

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あとがき

小次郎です、読んでいただきありがとうございます。

ようやっと此処までこれました。

戦を一気に書ききる為に気が緩まないよう、あとがきの挨拶をしばらく省略させていただいてました。

ご支援やメッセージを頂いていながら、大変失礼な真似をした事をお詫び申し上げます。

残る数話、よろしければお付き合いいただけたらとお願いするものです。

 


 
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