No.910740

異能あふれるこの世界で 第十八話

shuyaさん

対局の模様(新子憧視点)

2017-06-19 01:38:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:472   閲覧ユーザー数:472

【阿知賀女子学院・麻雀部部室】

 

 

≪南一局・一本場の新子憧≫

 

東家:小走 33,500    

南家:戒能 20,400  

西家:赤土 20,200  

北家:末原 25,900  

 

 

憧『やった!小走先輩のザンクオール炸裂ぅ』

 

憧『あの手牌からドラを残しつつ、最後はドラカンチャンのリーチを敢行かあ。私なら仕掛けを意識してドラを先に切っちゃってたかも。うーん悔しいけどまだまだ届かないなあ』

 

憧『さすがは奈良のトップだよ。後でリーチ判断の肝を教えてもらおっと』

 

憧『さあこれでトップまで突き抜けた。ここでもう一回あがればジャイアントキリングだってある!』

 

憧『小走先輩、ここで高校生の意地を見せつけてやってくだ……はああっ?』

 

 

憧『なんで今にも吐きそうな顔してんのよーっ!』

 

 

憧『えっ、なに?おかしくない?なんか変だよ、この対局』

 

憧『さっきも末原先輩がちょっと具合悪そうにしてたし、これまさか戒能プロの異能とか?』

 

憧『って、そんなわけないか。戒能プロ、見た目と違って意外とノリが良いんだけど、見た目のまんますっごく頑固らしいもんね。受け入れたルールはきっちりと守るはず』

 

憧『それに、ハルエがスルーしてる。なら二人に何かが起こっていたとしても、受け入れなきゃいけないことなんだよね』

 

憧『とはいえ。何かって何、って話になるよね。すぐ近くにいる私には伝わらないモノが、卓上に存在しちゃってるってこと?』

 

憧『いやいや、そんなオカルトありえない。和じゃなくても言いたくなるわよ』

 

憧『……あっ。嘘でしょ、小走先輩がツモる途中に牌を落とすとか』

 

憧『もう、だめなんですか?』

 

憧『その顔、昔のハルエを思い出すから、ちょっとキツいな……』

 

 

 

 

≪南二局の新子憧≫

 

憧『……』

 

憧『麻雀って、不思議よね』

 

憧『精神的に負けちゃったら、何故か勝負にも負けちゃうんだから』

 

憧『ほんと、残酷』

 

 

北家:小走 29,300    

東家:戒能 20,400  

南家:赤土 24,400  

西家:末原 25,900  

 

 

憧『ハルエの仕掛けに3,900の振り込み。喰いタンっぽいから読みやすいかと思ったんだけど、まさかの単騎待ち』

 

憧『しかも序盤に二枚切った牌の外側。そんなの止めてたら麻雀にならないよ。ハルエって、時々ガチで底意地悪いことするからなあ』

 

憧『ってか、その二枚あったら先にあがってんじゃん。落としたように見えたんだけど、頭がなかったってどういうこと?いったいどんな手順で作り上げてるのよ』

 

憧『……あーもう!なんかわかんなすぎてイライラしてきた。そんな時に限って、さっぱりわかんない超格上二人の間で見る順番がきちゃうし』

 

憧『これ、勉強になってるのかなあ。そういえばハルエから言われてたっけ。わかんない麻雀になるだろうから多角的に見ろって』

 

憧『多角的……』

 

憧『うーん。多角的、ねえ……』

 

憧『よしっ!どうせわかんないんだから、ちょっと視点を変えてみようか。理解するのは諦めて、何考えてるのかなーってぼんやりとイメージしていく感じで』

 

憧『一打の理由を考えるのはやめて、一局の狙いとかを考えていこう。そこが少しでもつかめたら、色々わかってくるかもしれないし』

 

憧『せっかくプロの後ろで見させてもらえるんだから、何かは学ばないと失礼よね。このままだと、後でハルエががっかりしそうだし。さあ、気分も入れ替えて、頭働かせていくわよ!』

 

 

憧『さてさて親の戒能プロ。また手役を狙いにいくのかな?全員二万点台の状況で迎えた南場の親なら、私は素直にあがりを目指す。連荘狙いが本線』

 

憧『第一打は……うん。今までみたいな無理はしないみたい。すごい決め打ちをした局もあったからなあ。流石にここはあがりにいくよね』

 

……

 

憧『五巡目。少し手順がおかしいように見えるけど、伸びやすいところを大事にしながら打ってるっぽい。効率的な打ち方に近いかな。誤差の理由はわかんないけど、まあ納得できる』

 

憧『ただ、仕掛けを考慮しないような打ち方にも見える。いざって時の対応が遅くなるから、私の好みじゃないな。けど、こういう打ち方を得意としているプロもいるのよね』

 

憧『面前と仕掛けのバランスは打ち手によって全然違う。私はちょっと仕掛けに偏ってるし、面前に偏っている人もいる。当たり前よね。得手不得手も考え方も違うんだから、打ち方も人それぞれよ』

 

憧『戒能プロは仕掛けも得意だったはずだけど、この半荘はまだ仕掛けていない。理由があるとすれば、仕掛けで点数が伸びる手が来なかったか……そうでなければ仕掛け合いを避けているか』

 

憧『もしかしたら、仕掛け合いは分が悪いと思っているのかも?戒能プロが動いたら、ハルエがソッコーで対応するだろうし……その場合は、ああハルエだけじゃなくて……』

 

憧『そっか!なーるほどね』

 

憧『そういうことだったんだ。戒能プロが警戒しているのは、ハルエ主導の共闘』

 

憧『下家で仕掛けを得意としている末原先輩と組まれたら、親なんて一瞬で流れるって読みがあるわけか』

 

憧『ん?ってことは……ああっ!』

 

憧『この並びになった時点で、戒能プロの親連荘は超高難度になっちゃったんだ。だから、東場の親も無理そうならあっさり降りた。小さな手で局を回して親番勝負を拒絶しているのも、それをやった場合の親番は他家の三人が全力で対処してしまうから』

 

憧『しかもハルエは他家を使うのが異常に上手い。戒能プロの口振りは、ハルエの強さは熟知しているみたいだった。じゃあ、警戒されていることがわかっている戒能プロはどうするかっていうと……』

 

憧『共闘され難い展開や、共闘されても戦える展開にしたくなるわよね』

 

憧『ってなあたりを前提として、半荘を制するための戦略的な観点から戦術を組んだのならば……』

 

憧『この局は、例外。今までとは違う戦術で攻めることになる、かな?』

 

憧『今の点数状況なら、安すぎない程度の手を一回あがるだけでも意味がある。逆にこの親番を逃してしまうと、約一万点の差のラスという状況がさらに悪化してしまう』

 

憧『親番が流れてしまえば残り二局。点数的に、今までのような手作りを成功させるか、二度のあがりが必要な状況に追い込まれる。トップ確率の変動が大きい一局になるわね。是が非でもあがりたいところよ』

 

憧『だから……ああ、ここで今までの布石も効いてくるわけか。半荘を通してやってきた無理な手作りの気配は、たぶんみんな気付いてる。この親はどうくるのか、ってあたりは気にしてるだろうな。手作りを続行するようなら、今まで通りの対応でもいけるわけだし……』

 

憧『……』

 

憧『んっ?』

 

憧『なんか、引っかかるような』

 

憧『んー?』

 

憧『……』

 

憧『いやいやいやいや、違うよ。違う!』

 

憧『そうだ。これ、戒能プロの捨て牌。仕掛け拒否の手順なんかじゃない』

 

憧『手作りをしているように見せてるんだ!』

 

憧『捨て牌を作りながら、並行して行える最大限の効率的手順で進めようとしてるんだよ。手作りをしていると思ってくれれば、今まで通りの対応してくれるから』

 

憧『戦略レベルの転換は行っていないけれど、戦術レベルの転換は行っている。でも、それを気付かせないように細心の注意を払っている。全ては、ハルエと末原先輩が危険を察知して対応に走るのを防ぐため』

 

憧『戒能プロが、あがることができなかった今までの局を全て布石にして仕掛けた、罠』

 

憧『そう考えてみれば……見える。見えるよ。河に並んだ牌の別の意味が』

 

憧『少しおかしな手順の数々が、渾身の一打の連なりに見えてくる。全力で打っていることが、疑いようのない事実として伝わってくる』

 

憧『……やば。なんかこれ、理屈が通っちゃってる』

 

憧『勘違いをさせるため。その可能性を少しでも上げるため。ほんの数巡でも対応を遅らせるため。迷いを生じさせるため。どちらであるかを決めきれない状態にするため』

 

憧『些細な緩みを、生み出すため』

 

憧『……』

 

憧『もちろん全部、私の勝手な妄想。でも少しは当たってる、と思う』

 

憧『なんかすっごい、自信ある』

 

憧『戒能プロが、もっとたくさんのことを考えて打っているのはわかってる。けど、少しだけ理解できた気がする。やっぱプロってすごいんだって気持ちが、実感として心の中に広がっていく』

 

憧『ああ、不思議なもんね。一打一打を理解してやるって思ってたら全然わからなかったのに、何を考えてるのかなあって想像してたら、それっぽい考えが浮かんでくるなんて』

 

憧『もしかして、麻雀って、案外そういうものだったりするのかな?』

 

 

 

……

 

憧『テンパった。八巡目のタンピンドラ一は立派の一言。先切りの数牌と、わざと後に残した端牌の絡みで、よく見ている人ほどわかり難くなっている。七対子って読む人もいそうな捨て牌を作り上げている』

 

憧『まあ、素直に読めばあり得る待ちではあるんだけど、この捨て牌で素直に読むって難しいよね。捨て牌の順番をを逆にしてくれた方が読みやすいくらい。なのにほぼ最速の聴牌……ううん、違う』

 

憧『役有り好形に限れば最速だから、むしろこっちがあがりへの最速と見ていい。捨て牌を仕込みながら、最速を選べているんだ』

 

憧『すごいよ。後ろで見てるだけでも震えてくる。考えていることのレベルが、私たちなんかと全然違う』

 

憧『ここって、あ、やっぱりダマだよね。リーチをかけたらハルエが動く。共闘されて流される可能性が一気に高まっちゃう。この局だけ打ち方を変えてるんだから、見破られないうちに上手くあがりきりた―――』

 

 

赤土「チー」

 

 

憧『えっ?!三面待ちの部分から仕掛けるの?』

 

憧『タンピンドラ一同士のぶつかり合いになると思ったんだけど――――』

 

 

打:6

 

 

恭子「っ!チー」

 

 

憧『あっ、これ』

 

憧『ソウズを346で残してる意味がわかんなかった。けど、末原先輩に仕掛けさせるための牌だとしたら。対応させるための牌だとしたら』

 

 

戒能「……」

 

 

打:9

 

 

憧『戒能プロ、引けなかった』

 

憧『ハルエも引けなかった。ってことは、ハルエの切る牌は』

 

 

打:(3)

 

 

恭子「ロン。2,000点です」

 

 

憧『だよね。ハルエはここで差し込むんだよね』

 

憧『いつもながら的確すぎるよ。ここぞって時は絶対に外さないもん。私ならこの末原先輩の手、五つくらいの候補から絞り切れない』

 

憧『ってかそもそも、この点差での差し込みなんて絶対にしない。いいじゃん別に。三つ巴なら十分有利でしょ。なんであっさりと確実な失点を選べるの?』

 

憧『しかも、こういうことをする時の方が強いってのがパターンなのよねえ。おかしくない?ハルエの麻雀ってホントわけわかんないわ』

 

憧『しっかしこれが戒能プロの警戒していた展開かあ。全部読めていたとしても止められないってキツすぎでしょ』

 

憧『ハルエもなんで気付くかなあ。私だったら絶対ノーテンだと思って点数を取りに行っちゃうのに。そういう点数状況で、そういう場に見えるのに。戒能プロがそう仕組んでいたのに』

 

憧『一回でいいから、ハルエに半荘を全部解説してもらいたいよ。遊びで色々やってもらったことがあるけど、笑えるくらい見すかされちゃうんだもん。対処のタイミングが絶妙だから、乗せられてるのがわかっていたとしても乗らざるを得ないっていうか……』

 

憧『あ、末原先輩もちょっと微妙な顔してる。気付いてるのかな?こうするべきなのはかっているんだけど、狙い澄まされるといい気しないってやつかも』

 

憧『ん……あれ、違う?』

 

憧『あがった手の方を見てるっぽい、かな。ちょっと考え込んでる感じもあるし』

 

憧『なんだろ。末原先輩っぽい良いあがりだと思うんだけど』

 

憧『ひょっとして、別の狙いでもあったりしたのかな?』

 

 


 
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