No.910329

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~とある舞い上がった朴念仁~

2017-06-16 15:14:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2395   閲覧ユーザー数:2162

~リベール王国 ルーアン市~

 

Ⅶ組のリベール王国招待を明かされた翌日。その面々にサラ、ラグナ、スコール……そしてもう一人その招待を受けた人物はまだこの状況に慣れない様子を見せていた。

 

「私もホントびっくりだったよ。学院長から『皇族からの謝礼』って言われてたから」

「まぁ、慣れないほうが当たり前かと思いますよ、トワ会長」

「だな」

 

トールズ士官学院の生徒会長でもあるトワ・ハーシェルその人であった。本来ならば学院での仕事に追われる予定だったのだが、それを解決してくれたのはスコールだった。

 

「道理で楽してるかと思えばこのようになっていたとは監督不行き届きだったな。帰ったら100倍プッシュだから覚悟しておけよ?」

「か、堪忍してつかぁさい……」

「あのサラ教官がここまでになるとは……」

「えと、スコール教官はサラ教官の武術の師匠なんでしょうか?」

「まぁ、言うなればそういうことになるな。流石は武に長けた両親を持つだけはあるな」

「……その分気苦労も増えたが」

 

サラ本人が処理するはずの書類も生徒会側にブン投げていたということを知り、あの説明の後スコールがサラを駆り出して徹夜で生徒会室に溜まっていた書類すべてを片付けさせたのだ。なので、道中の列車内では完全グロッキー状態となっていたほどだ。

 

一行はボースで列車を降り、定期飛行船でルーアン市に到着した。かつての寂れかけた風景は一変し、観光客の姿が多くみられる。元々港湾都市としての機能だけでなく、ジェニス王立学園とリベール王国内で最大規模の総合病院を抱える関係でレミフェリア公国との高速直通便があり、教育・医療にも力を入れている。

 

飛行船を降りたところで彼らを出迎えたのは、想定しにくい人物の姿であった。

 

「到着したか」

「あっ……」

「シュトレオン殿下!?」

「忙しいんじゃないのか? まだ火消しも終わっていないだろうに」

「そっちは声明発表前から適材適所にお願いをしていたから想定の範囲で収まってる。さて、立ち話もなんだから移動しようか」

 

シュトレオン宰相の案内で辿り着いたのは船乗り場。そこに停泊しているのは新造されたばかりの高速巡航の導力船。それに乗って約30分……到着したのは、リベール王国本土から南西に浮かぶ島―――エイフェリア島。その桟橋に降り立った彼らが見た光景はまさにリゾート地そのものであった。

 

「す、すごい……」

「ふぇ~、まるでクロスベルのミシュラムみたい!!」

「ハハ、この分だとカジノもありそうだな」

「先輩、あのですね……」

 

海のリゾートと呼ぶに相応しい場所。ひとまず落ち着いたところでシュトレオン宰相が口を開いた。

 

「さて、先日のあらましはオリビエもといオリヴァルト皇子から聞いた。君たちの働きがなければ今頃女神<エイドス>の御許に逝っていたかもしれないからね」

「えっ、それじゃあの一件は……でも、エステル達がいたんだから、当然ご存知ですよね」

「リベール国内には公表されていないことだがな。別に君らを責める気はないし、そんなことをしてこれからの時間を台無しにしたくはないからな」

「言いたいことはわかるが、こっちを見て言う台詞じゃないよな、シオン」

 

あからさまというか、露骨に『俺の気苦労を少しでも味わえ』という視線を向けられたアスベルはジト目で辛辣な言葉を吐く。それを知らないかのごとくシオンは笑顔を浮かべた。

 

まだ政務が残っているというシュトレオン宰相を見送った一行は宿泊先のリゾートホテルに向かった。プレオープンということもあって従業員だけであり、しかもそのすべてが実は王国軍の軍人ということをアスベルは瞬時に見抜いた。まぁ、同職であるだけにわからないほうがおかしいのだが。その理由はこの島の持つ事情である。

 

「アスベル。あの振る舞い、もしや軍人なのか?」

「ラウラあたりなら見抜くよな……正解。この島の半分は軍関係の施設があるからな。その絡みでもあると思ってくれ」

 

一般客が間違って軍関係施設に迷い込まないよう配慮するには、そのあたりの知識を持っている人間が適任。それに加えて昨今の情勢からテロリストが紛れ込まない保証がない以上、すぐさま対処できる配慮は必要。そのために、リゾート地の従業員は軍事訓練を受けて選抜されたエキスパート揃い。

 

というか、軍人なので当然アスベルのことは知っているわけで……

 

「あ、アスベル中将! ご苦労様です!!」

「知り合い?」

「まあね…シュトレオン殿下から話は聞いていると思うけれど、案内してもらえるか?」

「りょうか…コホン、失礼しました」

 

どうしても軍的挨拶が抜けきらないのは仕方ない。さて、今回の部屋割りはというと……

 

「むむ……まぁ、今回は我慢してやるか」

「ほう、珍しく殊勝な心掛けだな。もしや誰かの変装か?」

「あわわ……」

「まぁ、順当というべきか」

 

マキアス、ユーシス、エリオット、ガイウスの四人部屋。

 

「わーい、ふかふかだー!!」

「楽しそうだね」

「ふふっ、そうですね……サラ教官?」

「さて、早速酒でも」

「何やってるんですか!?」

「生徒がいる前で容赦ないね。スコール教官に伝える?」

「やめて」

 

ミリアム、フィー、エマ、トワ、サラの五人部屋。

 

「てか、なんで俺はむさくるしい組み合わせなんだ」

「ほう、若造がいっぱしの口を利くか……スコール」

「ああ、一年をやり直している意味合いも込めて叩き上げるか」

「あ……(俺、やっちまったか?)」

 

クロウ、スコール、ラグナの三人部屋。とまぁ、ここまでは同性組。

次は異性組。

 

「予想してたとはいえ、この組み合わせになるとは……セリカとのことは言ってなかったはずなんだが」

「あー、たぶん空気を読んだのではないかと」

「ふふ、まさか三人一緒の部屋とはね」

(理性保てるよう努力するか……)

 

アスベル、セリカ、アリサの三人部屋。

 

「やりやがったな、アイツ!」

「えと、私と一緒だと不服なんでしょうか?」

「いや、そういう意味は微塵も含まれてないからな?」

 

ルドガー、リーゼロッテの二人部屋。そして……

 

「これ、夢じゃないよな?」

「あきらめろ、これが現実だ」

「えと、いいんでしょうか?」

「まぁ、せっかくそうしていただいたんだから、お言葉に甘えましょう」

(このことをエリゼやソフィアに知られたら怒りそうで怖いんだよな……)

 

リィン、ラウラ、アーシア、ステラの四人部屋という組み合わせとなった。なお、この部屋割りを決めたのは他でもないシュトレオン宰相であることを明記しておく。ラウラがある意味達観しているのは、特に母親の影響もあったりする。

 

で、そのまま全員せっかくなのでビーチに出てきた。九月とはいえまだまだ暑さは続いており、特に南に位置するリベールはその影響を強く受けている。流石に学院で使う水着は持っていないのだが、レンタル水着があるということで着替えた。

 

「うー、やっぱりリィン達を見てると自信なくすなぁ」

「同じ男性からすればそう思うのも無理はないけれど、その顔立ちだと下手に筋骨隆々になると軽くホラーになるぞ」

「ギャグキャラに見えてきそうで逆に恐ろしくなるな」

 

エリオット以外の男性陣は鍛えており、特に鍛えられているのが目立つアスベルとルドガーが揃って苦言を呈するほどであった。元々パラソルなどの装備はすでにセッティングされているという準備の良さには溜息を吐きたくなったが、そんなことを考える前に水着に着替えた女性陣が姿を見せた。

 

「ふぅ、やっぱり暑いわね」

「この分だと日焼けしそうですね」

「暑いけど、制服のままよりかはいいか」

 

赤のビキニに赤基調の花柄のパレオを纏ったアリサ、黒基調のホルターネックタイプのビキニを身に着けたセリカ、そしてなぜあるのかは不明だがスクール水着のフィーが最初に姿を見せた。

 

「レベル高いというべきか、元々がいいというべきか……写真集に出てても表紙を飾れそうだな」

「あれ、てっきり恥ずかしがると思いましたけど……」

「ビーチに来てるんだから水着ぐらいは想定できるよ。それはともかく、アリサもセリカもよく似合ってるけど……フィー、そんなのよくあったな」

「ん。色気よりも動きやすさを優先したらこうなった」

「私らは止めたんだけどね……」

 

着くずれや大胆なドレス姿とは異なり、元々露出が高くなることは解っていたので心の準備ができていた、とアスベルは述べつつフィーの言葉には苦笑せざるを得なかった。

 

「フフ、せっかくの機会だから目一杯泳ぐとしよう」

「あはは、ラウラらしいですね」

「よーし、ボクもガーちゃんで」

「それはダメです」

「ぶーぶー」

 

次に姿を見せたのは濃紺の競泳水着を纏ったラウラ、白を基調としたビキニにレース仕様の白のパレオを身に着けたステラ、そして白いスクール水着を着たミリアムの登場であった。これを見た一部を除く男性陣は唖然としていた。

 

「唖然としてやがる……」

「ふむ、確かに似合っているとは思うが……俺がおかしいのだろうか、アスベル」

「うーん、男としての反応はアイツら間違ってはないんだよな。でもガイウス、無理に合わせる必要はないからな?」

 

ガイウスにもいつか『守りたい、支えたいと思える女性』が現れれば解る、という意味も込めてアスベルは諭した。

 

「えと……よく似合ってるよ。俺がスカウトだったら間違いなく声をかけてるぐらい輝いてるよ」

「ふふ、そうか」

「まったく、そういうことを平気で言ってるとエリゼさんやソフィアさんに怒られますよ?」

「えへへ、ありがとリィン!!」

 

「そして、アイツのあれは相も変わらずか……ビーチバレーでのしていいか?」

「一応周りの許可はとっとけよ?」

 

そして……

 

「すみません、お待たせしました。委員長のがなかなか決まらなくて……」

「まぁ、仕方ないといえばそうかもしれませんけど」

「ほら、何緊張してるのよ!」

「キャッ!?」

 

青のビキニを身に着けたアーシア、黒のワンピースタイプを身に着けているリーゼロッテ、紫のモノキニを身に着けたサラ、そしてパーカーを羽織って上半身は隠しているがおそらくは下のほうから推測して緑のビキニを身に着けているエマが姿を見せた。

 

「鼻の下が伸びているぞ、副委員長殿?」

「なっ!? 言いがかりもほどほどにしたまえ!!」

「いやー、ここにカメラを持ってこれなかったことが一生の不覚あだだだだだ!?」

「クロウ君? そんなことして何を考えていたのかなぁ?」

「スミマセン、ナンデモアリマセン」

 

そしていつの間にクロウの背後に立って背中を抓り、更には笑顔で威圧している黄緑のワンピースタイプの水着を纏っているトワの姿に周囲の人間は冷や汗が流れた。

 

 

ともあれ、まずは入念に準備体操。遊びとはいえ事故を避けたいのは当然のこと。そして各々遊びに興じることとなるのだが……アスベルは二人一組のビーチバレーに参加することになったわけだが、ペアとその相手は

 

「よろしくね、アスベル君」

「こちらこそ、トワさん。で、相手は……」

「うっ、アスベル相手か」

「会長には悪いが、加減はしないぞ」

 

アスベル・トワ ペア 対 リィン・ガイウス ペアという組み合わせ。いくらアスベルとてペアがトワならば勝ち目があるとリィンは踏んだのだが、ふとトワがアスベルに小声で話しかけた。

 

(アスベル君、久々にちょっとだけ本気だしていいよね? 女の子に対して鈍いリィン君にアスベル君を見習うぐらいになってほしいから)

(別に構いはしないけど……リィンのこと好きなの?)

(ラウラちゃんやステラちゃんを見てたらそう思っただけだよ。よく相談も受けてたし。それに、私が好きなのはアスベル君だけだもん!)

(……え?)

(……あっ……)

(………とりあえず、今日の夜あたりに話をしようか)

(うん………)

 

戦う前からトワの爆弾発言でハンデを食らったような気分だが、それはさておいて女性関係が鈍すぎるリィンにお仕置きの意味で少し本気を出すことを決め、アスベルは少し息を吐いた。

 

「ま、なるようにしかならんが……トワさんや、ぼやぼやしてるとHS(ヘッドショット)されるぞ?」

「う、うん!」

「いくぞ、ガイウス!」

「ああ!」

 

五点先取の試合展開はというと……それこそなぞった様な試合展開であった。最初にリィンらのペアが四点連取するとそこから破竹の勢いでアスベルとトワのペアが四点連取。デュースからのアドバンテージを得て、アスベルらに勝利のリーチがかかる。

 

「…会長って、あんなにすごかったの?」

「私も驚きよ。あの小柄な体のどこにあれだけの速力を生み出せる筋肉が備わってるのよ」

「スコール、あの子……」

「相当武芸をやりこんでないと、あの動きはできないな。推測だが、達人クラスの領域に踏み込んでいるかもしれない」

「リーゼロッテといい、見た目で判断すると痛い目を見るな」

「えへへ……」

「ご機嫌ですね、リーゼちゃん」

 

トワの動きに感心する中、今の一個前の試合で勝者となったルドガーとリーゼロッテのペアは、彼女の希望でルドガーの足の上に座っているような形となっている。その様子を少し羨ましそうにステラが呟いた。ここでデュースに戻すのが先決だとリィンがスパイク体勢に入る。本来ならばアスベルがブロックに回るのが筋なのだが、彼はトワに目線を送り彼女はそれで何かを察したようで軽く頷いた。

 

「(ブロックしない……?)いけえぇ!!」

 

狙うは二人の範囲外にあたるコートの隅。ここならば取れないだろう……だが、それもアスベルの計算の内。

 

「ふぅ………っ!!」

 

ここで<神速>を発動させて視界をモノクロに染めると、アスベルは完ぺきな体勢でそのボールをレシーブする。これには流石のリィンらも驚くが、すぐさま防御態勢に入る。ボールはトワが前方にトス―――バックアタックの体勢だ。リィンもガイウスも捕球の体勢になっている。実に完璧で理想的な備えだ。

 

「そこまで瞬時に整えられるとは感動すら覚えるよ。だが、“無意味”だ」

 

アスベルは再び視界をモノクロに染め、ボールを追う。そして高く飛び上がると通常のスパイクの体勢ではなく、剣術における突きの構えのまま跳んだ。彼が放つのは彼が修得している中で最長射程を誇る剣技。

 

「爆ぜろ、朴念仁!!」

 

<神速>を乗せた状態での彼の得意とする剣技“射抜”。それをビーチバレーに応用したのだ。<神衣無縫>を使っていない状態だがそれでもかなりの威力を乗せたボールは気が付けばリィンの顔面の目の前に到達し

 

「―――え」

 

クリーンヒット。一瞬にしてリィンの意識は刈り取られる形となった。

 

 

「ついカッとなった。反省も後悔もしてないが……やっぱりリア充だな」

「だな」

 

ジト目で見つめる二人の目線の先には、ラウラに膝枕されているリィンの姿があった。ふとラウラと視線が合ったが、『感謝する』というメッセージが伝わってきそうな表情であったので、アスベルは僅かに笑みをこぼした。

 

 


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