No.909451

ガイシイレブン 第二話

リーヨさん

黄巾党襲来。

2017-06-09 23:18:03 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:929   閲覧ユーザー数:887

北郷 一刀……この名を恐らくサッカー経験者で、同世代からその前後であれば聞いたことのないやつはいないだろう。

 

ポジションはフォワードを担当し、小学生の頃からその類稀なる才能は遺憾なく発揮……勿論の事だが本人の努力もあり、中学に上がった頃には既に同世代では殆ど敵なしの絶対的なストライカーへと成長した。

 

だが一刀は余りにも才能に恵まれ過ぎていた。

 

一刀がボールを持てば誰も取れない……一刀がシュートを放てば誰も止められない、一刀が出れば負けない。

 

そうした一刀の光が強ければ強いほど、影が強くなった。

 

一刀にボールを渡せば良い……一刀にシュートを打たせれば良い……一刀に任せれば良い、と。

 

それが顕著になったのは一刀が中学二年の時の全国大会決勝戦だ。

 

相手チームは一刀を徹底的にマーク……するとどうだろう、面白いほど相手の攻撃が通った……

 

パスは通り、ドリブルで抜かれ、シュートは必ず入る。だがそれ以上に見ていられなかったのはチームメイトの態度だった……彼らは通っても仕方ない、抜かれても仕方ない、入れられても仕方ないとばかりの態度だった。

 

誰一人喰いつこうとしない。無理だと思えばすぐに諦め、そうして最終的なスコアボードは15対0……完敗なんてものじゃないほどの敗北だ。

 

だがそんな状況でも彼らは一刀が動けなかったんじゃ仕方ないと言わんばかりの態度で、勿論その態度に一刀はぶちギレた。しかし、

 

「俺たちなんて所詮こんなもんだよ」

 

誰かがそう言った……一刀は一瞬何をいってるのかわからなかった。だが彼らは言った。一刀は特別だ。そして自分達は凡人だ。だから今日の負けも仕方ない。みんながみんな一刀じゃない……そう言ったのだ。天才様は羨ましい。自分達だったら諦めることを諦めない……何て素晴らしいのだろうと……

 

そして一刀は気づいたのだ……自分と言う存在が彼等を堕落させたのだと……勿論努力を怠った者達の言い訳にしか過ぎないのだが、当時の一刀にはそんな思考は回らなかった。

 

皆で全国一を目指してると思っていた。皆でやると信じていた……だが彼等の気持ちに気づけなかった一刀は結果的に裏切られ……彼はサッカーをやめた。

 

サッカー部を辞めた一刀は中学三年目を静かにすごし、サッカー部のない学校に進学……当時ちょっとした騒ぎになったが全て無視してのことだった。

 

誰も自分を知らない高校生活は暇に感じるほど平和で、毎日悪友と遊んだりゲーセンに行ったりしていた……だがそんな生活の中でもサッカーのことを油断すると考えそうになる。

 

だがもう一度やると言う選択肢は生まれなかった。いや、生まれないように抑えていた……が正しいだろう。

 

二年のブランクがあってもあれだけ強力で正確無比なシュートを打てるほど根っ子はサッカー馬鹿な一刀……しかしそれを否定し、見ない振りをする。また中学二年の時のようなことになるのは嫌だった。

 

そうやって自分の気持ち気づかない振りを続ける一刀は今何をしているのかというと……

 

「お恵みくだせぇ……」

 

と、道端で小銭を貰ってたりする……

 

 

「おう坊主……調子はどうだ?」

 

そう声をかけてきた物乞いに一刀は困ったような表情を浮かべた。

 

「駄目だな……全然だ」

 

こっちの世界に来て早くも一週間ほど経ち、まず最初に困ったのは家がないことである。

 

雨を凌ぐ場所がない、フカフカの布団もない、そんな生活を考えられない現代っ子の一刀にとってはカルチャーショック……だがすぐに別の問題に直面した。

 

それは金がない……と言うことだ。

 

金がないと言うことは家どころかご飯も食べられない。だが稼ぐ方法がないため結局こうして物乞いになっている。

 

だがこれが中々難しい。何せこうしていてもお金をくれる人が少ない上に暑いのだ。

 

そう、暑い……ただ暑いんじゃない。ギンギラギンに全然然り気無くない太陽が自分を苛めてくるのである。

 

しかも頭がいたいのは偶に劉備たちが未だ自分を諦めておらず探しに来るため隠れなければならないと言うことだ……いい加減諦めてほしいが彼女は全くそんな様子はなく、前に一度見つかってしまった時なんてどこまで走っても追い掛けてくるし撒いたかと思っても野生の嗅覚かなんかで隠れてる場所を的確に見抜いてくる……さながら歴戦のハンターと言ったところか?

 

「だろうなぁ。最近は皆金がねぇ。誰も俺達物乞いに金をくれるやつなんて居ねぇさ」

「そんなもんか?」

 

一刀がそう聞くと男は答えた。

 

「あたりめぇだろ。最近じゃ黄巾党とか言う賊の集団も出てきたとか言うしもうこの国も長くねぇのかもなぁ……」

 

そんな風に男が呟いた時のことだ!

 

「大変だ!」

 

一刀の目の前にある店の前で若い男が駆け込んできた。

 

「黄巾党だ!黄巾党が来たんだ!」

『なにっ!』

 

その男の言葉に店の中だけじゃない。周りにいた通行人まで動揺する。

 

「と、とにかくサッカーに自信があるやつはこいって言われた!誰か来てくれ!」

 

その若い男の声に店の中にいたうち何人かが立ち上がる。

 

「なんでサッカーなんだ?」

 

一刀はそんな光景を見ながらもの物乞いの男に問う。

 

「はぁ?お前なに言ってんだ?領地や食糧……ありとあらゆる闘争は禁止され、全ての決め事はサッカーで決めること……常識だぞ?」

 

知らんがな……そう一刀は思いつつ男たちの行き先を見る。

 

「行かないのか?」

 

そう声をかけられ、見てみると物乞いの男は荷物をまとめていた。

 

「見にか?」

「あぁ、負ければここは黄巾党の場所になる。出ていくなり黄巾党の言うことを聞くなりしなきゃならん……」

 

そういわれ一刀もこの勝敗が自分のその後を決める上で参考に位はなるかもしれない……そう思った。

 

「分かった。見に行こう」

 

と、思ってしまいついていったのが運の尽き、何故ならそこにいたのは……

 

「あ!一刀さんだ!」

「……」

 

何故か劉備たちがいたのだから……


 
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