No.906520

「真・恋姫無双  君の隣に」 第67話

小次郎さん

仲国本拠地の南皮に迫る一刀。
華国対仲国は最終局面へ。

2017-05-21 05:40:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5089   閲覧ユーザー数:3633

大分と陽射しが強くなってきましたわね。

ただ城壁より景色を眺めているだけですのに、うっすらと汗が出てきますわ。

「麗羽、こんなところにいたのか。もう全員本殿に集まってるぞ」

「少しくらい待たせてもかまいませんわ、どうせ自分で考えて行動など出来ませんもの」

出来る事は責任を放り投げるか押し付ける事だけですわよ。

「そう言うなよ、みんな華が怖くておまえだけが頼りなんだから」

本当に白蓮さんはお人好しですわね。

あの人達は一刀さんに権力を奪われるのが恐ろしいだけですわ、わたくしでなくても勝てる相手なら誰にでも尻尾を振りますわよ。

鄴からわたくしが戻るまで責任の擦り付け合いと聞きましたわ。

・・虚しいですわ、何の為にわたくしは戦いますの?

斗詩さんも猪々子さんも、于吉さんも左慈さんもわたくしの傍に居ませんのに。

今は白蓮さんだけ。

・・そういえば、今迄考えもしなかった疑問が浮かびましたわ。

「白蓮さんはどうしてわたくしから離れませんの?貴女は劉備さんの元学友と聞いてますわ、一刀さんとの仲を取り持ってくれますわよ?」

大敗で多くの将兵を失った事を聞いて、譜代の臣ですら我先にと投降してますのに。

「ど、どうしたっ、麗羽!日に当たりすぎて頭が逆上せたのか?」

「何を失礼な事言ってるんですの、おかしいのは白蓮さんですわ。わたくしに国を奪われた貴女に付き従う理由こそありませんわ」

「い、いや、だから麗羽がそんな事を考えるなんて、ましてや私を気遣うなんて余りにも意外でさ」

本当に失礼ですわね、わたくしを何だと思ってらっしゃいますの。

「それでっ、どうしてですのっ!」

逃げる機会が無かったと言うのでしたら許可しますわ。

わたくしを哀れに思っての同情でしたら大きなお世話ですわ。

「う~ん、私は単におまえに恩があるから従ってるだけなんだけどなあ」

は?恩?

「い、意味が分かりませんわ。わたくしは貴女の国を滅ぼしたのですわよ?」

「だから、おまえは降伏勧告で私が降ったら兵や民を傷付けないって、約束して守ってくれただろ?」

「そんな事は当たり前ですわ。ですから攻め込んだのはわたくしなのに、どうして恩に思うのですの!」

言ってる事が理解できませんわ。

「そりゃ偶々おまえと私が隣国だっただけで、別に北郷や曹操でも結果は同じだったさ。私の器量じゃ戦乱の世で生き残るなんて元々無理だったよ」

苦笑しながら達観した事を言ってましたけど、続く言葉と共にありましたのは初めて見ます白蓮さんの無防備な笑顔。

「単純な理由だよ、麗羽。私は幽州の民達を愛してる。彼等を護ろうとしてくれるのなら喜んでお前に従うよ」

・・以前の一刀さんの言葉を思い出します。

王の器。

迷い無く断言する白蓮さんは、紛うこと無き幽州の民の王でしたのね。

そんな白蓮さんに忘れていました事を、いえ、気付かせていただきましたわ。

わたくしは袁本初、仲国の王。

この身が護らなければいけないものがありますのを。

皆の集まっています本殿に行き、王の務めを為します。

「投降を望む者、逃亡を望む者には許可を出しますわ。各々思うように為さい。戦いを望む者はわたくしが全責任を持ちます、その命、わたくしが預かりますわ」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第67話

 

 

目の前で起こった現実は私の頭を急速に冷やした。

過ちを犯していた事に気付かせるほどの。

振り返るは桃香様が御遣いに降った事が面白くなくて、周囲に桃香様だけにお仕えすると公言した事。

桃香様の気持ちもお立場も全く考えていない独り善がりな発言。

思い返してみれば桃香様は困った顔をされていた。

「桔梗様、私は本当に愚か者です」

「焔耶よ、必要以上に己を卑下する事は無い。誤りに気付き正しきを認める事が出来る様になったのは成長の証よ。真に賢き者は先の物事を想像で見抜くが、殆んどの者は経験せねば事実を理解できぬのだ。わしとて同じよ」

「しかし、それでは取り返しのつかぬ失敗をしてしまうのでは。以前の私のように」

己の力を過信して、自分は正しいと思いこんで。

「だからこそ人は支えあうのよ。如何に努力しようと限界があるように、人も正しき道を選び続けるは難しい。そんな時に導いてくれるのが家族や友であり王なのだ、それは依存ではなく敬意なのだとわしは思う」

私は己の意思のみ主張していた。

そんな私を桔梗様や華雄殿は導いて下さってたのに、自分の都合のいいようにしか捉えていなかった。

此度の戦でも桃香様のお傍ではなく、桔梗様に付くのを内心不満に思っていた。

理由が今なら解る、馬鹿な真似をしないように桔梗様が私に付いていてくれたのだ。

世界の広さは途方も無く、知り得た事は極々僅か。

戦においても武力が強い者が勝つ、信じて疑う事は無かった。

だが強大な力を持つ仲軍二十万は敗れた、武力ではなく腹を満たす食べ物に。

「これだけの糧食、どれほど苦労して集めたのか想像も出来ません」

「一時だけの苦労ではない。普段からの積み重ねがあってこそ成し遂げられる事がある。戦は武官だけのものではない」

「はい。肝に銘じておきます」

今一度、全てを見直してみよう。

私の凝り固まった考えではなく、相手の気持ちを知ろうとする事から。

 

 

虎牢関のねねから仲軍を無力化させた報告が届いた。

此方の仲への追撃戦も大きな戦果が挙がってる。

討ち取った者は約三万、降服した者は十万以上で今も増え続けてる。

麗羽と共に南皮に辿り着けた者は十二万程、鄴城に五万が籠城してるから仲本軍の四割近く叩いたといえる。

それに併せて虎牢関の降服兵二十万、凡そだが仲の軍事力を半分以上は削れた。

此方の損害は全部併せても五千に届かず、大勝利と言っていい。

でも手は緩めない、このまま一気に敵本拠地である南皮も陥とす。

士気は最高潮で兵の顔は明るい、軍師の雛里も幾つもの策があると言って自信に満ちた顔をしていた。

だからこそ俺は気を引き締める意味も兼ねて一つの天幕を訪れ、座り込んでる二人に声を掛ける。

「怪我の状態はどうだい?まだ痛むようなら医師を呼ぶけど」

追撃戦で捕らえた斗詩と文醜。

流石に将軍格を武装解除だけでは済ませられず、手枷と足枷をしてもらってる。

「薬が効いて大分楽になりました、ありがとうございます」

「もっと飯を食わせてくれたら早く治るんだけどなー」

「文ちゃん!」

「ハハッ、流石に余裕が無くてね。勘弁してくれないかな」

二人が捕らえて連行されたきた時は、満身創痍で口すら効けない状態だった。

傷が回復してきても話してはくれなくて、麗羽が南皮に着いた事を教えてからようやく会話に応じてくれるようになった。

それと先程届いた別働軍からの報告も伝える。

「左慈と于吉の所在が分かったよ。幽州琢県の古い砦に三百ほどの兵と篭ってるそうだ」

「そうですか、無事だったんですね」

「無事とは言えないだろ、直属軍三万が三百って事だろ」

「彼等が殿じゃなかったら、おそらく麗羽も捕らえてたと皆が言ってたよ」

追撃戦の将兵は選りすぐりの精兵で編成されていたのに、称賛に値する奮戦で半日近く足止めされた。

左慈軍の大半は討ち取って散り散りになったけど、先行した本軍には予想以上に距離を稼がれた。

その後に猛追したが、総大将の麗羽は逃してしまった。

斗詩と文醜は裏道を知っていた星の襲撃時に盾となって力尽きた。

「明日、南皮に着く。早々に決着を付けるよ」

斗詩達のような将兵がいる仲軍は、決して侮ってはいけない相手だ。

「あ、あの、一刀さん。姫様に降服勧告をしては頂けないのでしょうか?」

「したよ。でも俺の降服条件は呑めないそうだ」

逆に交渉を持ち掛けられたけど一切突っぱねた。

今迄民を苦しめてのうのうと生きていた奴等の権力は全て取り上げる。

妥協は絶対にしない。

「な、なあ、アニキ。姫は民を苦しめようなんて思っちゃいない、やってるのは周りの奴なんだよ。姫の代わりにアタイが罰を受けるからさ」

分かってるよ、君等にこんなに慕われてるんだから。

それでも俺は華の王として、しなくてはいけない事がある。

何も言わずに天幕から出る。

無責任な気休めを言う事は出来ないから。

 

 

つまらないのだ。

「愛紗、敵は攻めてこないのか?」

こうやって鄴城の監視をしてるだけなんて、鈴々の腕の振るいどころがないのだ。

「籠城の守将は軍師沮授だ。忠篤き者で賢明と聞く、まず無いだろう」

「だったら兵の半分はお兄ちゃんと一緒の方がいいと思うのだ」

必要なのは分かるけど、それなら愛紗だけで充分なのだ。

「おまえの気持ちは分かる。一刀様の御身を心配するのは私も一緒だ。それに南皮が陥ちてしてしまえば鄴城は孤立無援、労せず軍門に降るだろう」

そこまで考えてなかったけど、ここは話に乗るのだ。

「うんうん、そうなのだ。だから鈴々はお兄ちゃんのところへ行くのだ」

「そうはいかん。此処の兵を減らせば流石に出てくる可能性が上がる。進軍中の本軍や別働軍の為にも無用な戦は避けねばならん」

「だったら旗を立てて兵を多く見せるのだ」

「ほう、擬兵の計か。面白い、やってみせてくれ」

え?

「お前もようやく将としての自覚が出てきたのだな。今まで学問を嫌っていたのに、義姉としてとても嬉しいぞ」

あれ?なんか雲行きが怪しいのだ。

「そうだ、お前はやれば出来るんだ。よし、これは私もお前のやる気に応えねばなるまい」

あ、愛紗?

「丁度いい、計略だけではなく補給等の軍運営をこの機に学ぼう。実践に勝る教えはないからな」

じょ、冗談じゃないのだ、そんな面倒臭いのは嫌なのだ。

「あ、愛紗、気持ちは有難いけどいきなりでは他の人に迷惑を掛けてしまうのだ。また今度でいいのだ」

「安心しろ、私が丁寧に指導する。さあ、頑張ろう!」

や、藪蛇だったのだー。

 

 

川の流れが聞こえてくる、もうすぐだな。

「星、明日は戦だぞ。休まなくていいのか?」

「まあまあ、中々に良い場所がありましてな。少しお付き合い下され」

主の手を引きながら、林の中を歩く。

夜中に二人だけで出歩くなど無用心なのは承知の上だが、皆にも事情を説明して納得して貰っている。

遠巻きに護衛も配しておるしな。

「主、見えてきましたぞ」

「うん?何か光って・・、そうか、蛍か!」

「ええ、まだ少し早くはあるのですが、此処は蛍の群生地でしてな。気の早い者達が既に飛んでおると思ったのですよ」

私は冀州の出自なので此の辺りの地理には詳しい。

まだ数えれる程しか飛んでおらぬが、それもまた良し。

「うん、綺麗だ。ありがとう、星」

川べりにある少し大きめの岩に並んで座る。

酒が欲しいところだが今日は止めておく、お連れした目的を果たさなければな。

暫く何も言わずに時を過ごし、静かに二人して蛍を眺めていた。

主の表情が少し柔らかくなる。

「少しはお気持ちが晴れましたかな?」

「・・お見通しか、情け無いな」

「主はお優しいですからな、敵だった、だけでは割り切れぬでしょう」

敗戦した国への対応とは難しいものだ。

特に主のように、自国の民として分け隔てなく受け入れようとする場合は尚更に。

「・・どんなに嫌な奴でも大事にしてる人がいる」

「ですな。逆も然りで愛されている者もいるでしょう」

秩序を保ちつつ政を一新させるには、速やかに処断しなければいけない事が必ずある。

優しさと甘さを取り違えては国が成り立たない。

仲は大国だ、命は奪わずとも多くの者が路頭に迷う事になるだろう。

その中には一人では生きていけぬ者も多数いる、だが手を差し伸べる訳にはいかない。

考えれば限の無い事だが、考えてしまうのが主だ。

「おこがましい考えなのは分かってるんだけどね」

私は立ち上がり、主と背中合わせの形で座り直してそのままもたれ掛かる。

「星?」

「このままお聞き下され」

背中の温もりを感じながら私は言葉を紡ぐ。

一人で悩まれる事はないと。

無理に王たらんとされずによいと。

主は主のままでいて欲しいと。

お傍に居させて欲しいと。

私だけでなく皆も同じ思いだと。

普段の私には言えぬ言葉が自然と流れる、気恥ずかしくはあるが止まらない。

「私は主に出会えて、本当に幸せなのですよ」

大陸中を渡り歩き、遂に見つけた龍玉。

何時からか、私は後ろから抱き締められていた。

そのまま身を委ねる。

月は雲に隠れていたが、蛍の光は私達を優しく照らしていた。

 


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