【阿知賀女子学院・麻雀部部室】

≪東三局・一本場の末原恭子≫

西家:小走　21,100

北家:戒能　25,000

東家:赤土　25,000

南家:末原　28,900

恭子『なんなんやろ』

恭子『わけがわからん。なんでこんなことになってんねん』

恭子『手応えが無さすぎるわ。この人ら、真面目に打ってんのか？』

恭子『戒能プロは手役狙い一辺倒。赤土さんは……そもそもあがる意思が見えん』

恭子『前局も、あの人らに気配はなかった。終盤に念のため思て降りてしもたけど、案外あがりきれたんかもな。けど、流石に悪形の2,000点でゴリ押しっちゅうのもなあ』

恭子『仕掛け時でも間違えたんやろか。でも結局、チーから仕掛けられる牌はあれしか出てこんかったし……』

恭子『まあええ。戒能プロの親が流せたんは大きい。赤土さんの親も流して親番持ってきたる』

恭子『親を蹴落とすんは早あがりの得意技や。ここ、しっかり決めてこか！』

……

…

≪東四局の末原恭子≫

南家:小走　20,700

西家:戒能　24,600

北家:赤土　24,400

東家:末原　30,300

恭子『めっちゃあっさりあがれたわ』

恭子『300・500の一本付けとはいえ、こんな簡単にあがれる麻雀はなかなか無いで』

恭子『……なーんか嫌な感じや。準決ん時のあれ思い出してしゃーない』

恭子『前半飛ばして後半息切れ。負けパターン？いやいや、その考えはあかんやろ』

恭子『あん時まではリードを奪って逃げ切るんを勝ちパターンにしとったんや。なのに……』

恭子『くそっ！あれと、瑞原プロとの電話のせいでわからんくなってきたわ。ほんまにこれでええんか？』

恭子『いうて、この親できっちりあがったったら、流石のお二方でも少しは難しいと思うてくれるやろ』

恭子『よし。あがる気なさげなお二方はほっといて、きっちり私の仕事をこなす。これでええな』

恭子『配牌は……おあつらえ向きのタンヤオ気配。仕掛けが利く形はありがたい』

恭子『ほなタンヤオドラ1か、ドラ重ねてのドラ2あたりでいかせてもら――』

恭子『……』

恭子『くっ』

恭子『なんやねん！この気持ち悪いんは』

恭子『いつも通り仕掛けたらええやんけ！』

恭子『なにが悪いねん。リードを広げて有利になったら勝ちやすいんちゃうんか』

恭子『私はなにを恐れてるんや？』

恭子『あがって、リードを広げたらそれでええやろ』

恭子『親でこの一回をあがりきれたら、かなり有利になる。私の有利が確定したらその後は……』

恭子『狙われる』

恭子『そらまともなトップに立ったら狙われるわなあ』

恭子『は？ちょう待てや』

恭子『この面子を相手にか？』

恭子『中途半端なリードで、格上一人とはるか格上二人を相手に狙われたまま逃げ切れと？』

恭子『いや、無理やろ』

恭子『……はあ？』

恭子『なら、この局はどうしたらええねん』

恭子『親やで？ここであがらんでどなせえっちゅうんや』

恭子『けど……わかる。いつもみたいにあがったら、終わる。有利になった途端に格上が次から次へと攻めてきたあの準決のパターンみたいに、どうしても勝ち切れん展開になる』

恭子『しかも今日はあれより強いんが二人もおる。今の私じゃ間違いなく凌ぎ切れん……』

恭子『待てや！待ってくれ！』

恭子『ええ感じで親番回してきて、得意の展開に持ち込んだら、それが理由で負けるっちゅうんかっ！』

恭子『嘘やろ？』

恭子『そんなん、もう詰んでるやんけ……』