No.902419

艦隊 真・恋姫無双 126話目

いたさん

遅くなり、申し訳ありません。 今回、艦娘達は殆んど出て来ませんので、ご注意を。

2017-04-23 14:11:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1434   閲覧ユーザー数:851

【 悪役 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

于吉「さて、どこから説明すればいいか悩みますが……とりあえず、内応者の説明をしましょうか?」

 

冥琳「ああ、そうしてくれ。 今までの経緯を考えても、司徒である王允が濃厚。 北郷が命じた理由は内応の証拠を捜す為……と見るが?」

 

ーー

 

その言葉に冥琳以外の者が頷く。 

 

一刀達を排除しようとする意志も明確、納得できる余罪もある……漢王朝の重鎮。 誰から見ても間違いないと思えた。

 

ーー

 

于吉「それですと、一つだけ………理由が付きませんよ?」

 

冥琳「どういう事だ?」

 

于吉「『深海棲艦』の関与、です」

 

「「「 ──────あっ! 」」」

 

ーー

 

その言葉に事情を知る冥琳達は驚くが、知らない極一部の者は仲間に話を聞こうと小声で会話する。 『巨大な火の玉を吐く化物』という簡単な説明で終わったが、そんな説明でも直ぐに理解された。 

 

逆に言えば、それだけ印象が強かったと言う意味である。 

 

勿論、悪い意味で………だ。

 

ーー

 

于吉「そもそも……深海棲艦とは世界の滅亡を望む者達。 漢王朝の永続を必死に願う王允なる小者、その目的が重なるとは到底思えません」

 

冥琳「だが、司徒の権力は絶大。 いいように取り込んでしまえば、私達や北郷の動きを封じる事など容易いぞ?」

 

于吉「ふふ……その小者の企みを破り弄んだ貴女が言いますか? あんな小者は虎の威を借る狐にしか過ぎないのですよ。 そんな者を味方にしては、深海棲艦側も迷惑至極と考えるでしょう」

 

冥琳「……………」

 

ーー

 

王允に夜戦での報告で一泡吹かせた事を指摘する于吉。 その言葉を無言で肯定する冥琳との間に静かな時が流れる。 

 

だが、その沈黙も別の人物が口を挟み、簡単に霧散した。 

 

ーー

 

華琳「とりあえず、王允は違うと………貴方は言いたいのね?」

 

于吉「そうですが、一つだけ訂正しましょう。 王允は内応者ではありませんが、情報の漏れは間違いなく………王允より流れています」

 

華琳「…………推測ではなく、確信って事でいいのかしら? 小者扱いと言えど王朝最大の権力者。 後で間違いだと言っても、訂正などできないわよ!」 

 

于吉「勿論ですとも」

 

華琳「ならば、その証拠を示しなさい!」

 

ーー

 

華琳としても、情報の大切さは理解している。

 

何故ならば……彼女の愛読書の中に孫子があり、その孫子には『用間篇』と記載されている間者の扱い方、情報の重要性があるからだ。

 

孫子を愛読し実践、更には自分自身で孫子の注釈書『孟徳新書』『兵書接要』を残すほどなのだから、その傾倒振りは徹底していると言えるだろう。

 

だから、華琳は確固たる証拠を求めたのだ。

 

勿論……………先程、自分が仕出かした出来事を踏まえての行動である。 

 

別名『八つ当り』と……人は言うのだが。

 

ーー

 

于吉「証拠………ですか? 成る程、証拠ですか!」

 

華琳「そうよ、王允の出所だと判る証拠。 それを私に、いえ、私達に示してみせなさい!」 

 

ーー

 

華琳より問い詰められた于吉は、一瞬……唖然とした表情を出すが、その表情は直ぐに消えて、次の表情を浮かばせた。

 

それは────『笑い』

 

ーー

 

于吉「ふっ………ふふふ……」

 

華琳「……………?」

 

于吉「ふふふ、ふっふっふっ!」

 

華琳「………何が、そんなに可笑しいの?」

 

「「「 ──────! 」」」

 

ーー

 

于吉は口を噤みながら、さも愉快だと笑った。 まるで、華琳の行動を予測し、その通りだったと言わんばかりに、だ。

 

当の華琳は、美しい顔を僅かに歪ませ冷やかな眼差しを于吉に向けて、その非礼を問う。

 

当然ながら、周囲で固唾を飲んで様子を窺っていた者達も、首を傾げて理由を考えたり、于吉と華琳のやり取りを更に注視し出た。 勿論、先程まで于吉と語っていた冥琳も、その集団の中に何食わぬ顔で混じっている。

 

そんな張り詰めた空気の中、于吉は一頻り(ひとしきり)笑うと、華琳の問いとは別の答えを返した。

 

ーー

 

于吉「いやぁ~、思わず笑わせて貰いましたよ。 聡明かつ頑固、そして孤独を愛する覇王様が、私如きの言葉に耳を傾けて下さるとは………」

 

華琳「何を言って……………あっ!!」

 

ーー

 

于吉の語る言葉を聞いて、ようやく笑った意味が理解できた華琳。

 

『腹心や艦娘の言葉を疑うのに、胡散臭い自分の言葉を信じるのか?』

 

オブラートに包む込んでの返事だったが、要は対応が違うと嘲笑っていたのだ。

 

ーー

 

于吉「ふふっ、別に恥じなくてもいいのですよ? 私にも経験がありますから。 恋は盲目と、よくぞ言ったも─────」

 

華琳「はぁ、早くっ! 説明しなさいっっ!!」

 

ーー

 

桂花や鳳翔に対して行った自分の態度を、改めて于吉から指摘され、今まで冷静だった華琳の顔が朱色に染まり、少しだけ強張った態度を見せる。

 

このままでは形勢不利と瞬時に判断した華琳は、于吉の言葉を遮り自分の意見を前面に押し出す。 

 

ーー

 

于吉「ふふっ、説明などしなくても簡単に理解できますよ。 証拠なら……貴女の目の前にあるではありませんか?」 

 

華琳「……………どう言う意味?」

 

于吉「貴女の愛しい彼こそ、私の答えなのですから!」

 

ーー

 

そんな言葉を華琳に投げ掛けながら、于吉は視線を『とある人物』に向ける。 華琳も、周囲の視線も于吉が見る先を注目する。

 

 

視線の先に居るのは────赤城と加賀。

 

そして、その二隻が寄り添うように支える『北郷一刀』の姿が見えた。

 

于吉の視線は一刀を焦点に当て、『これが答えですよ』と言わんばかりに物語っていた。

 

 

 

◆◇◆

 

【 暴発 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

事情を知る艦娘達は、于吉の行動を落ち着きを払い静観するのだが、華琳を始め他の将達の目が険しくなる。

 

特に夏侯姉妹は、華琳へ無二の忠誠を捧げている為、主に敵対する者には容赦はしない。 まるで親の敵だ言わんばかりに于吉を睨み付け、戦場に居る時よりも強烈な殺気を真面に浴びせる姉妹。

 

ーー

 

春蘭「────き、貴様っ!」

 

秋蘭「幾ら……北郷の仲間とは言え……!」

 

于吉「…………おや、やけに微風(そよかぜ)が吹くと思えば。 ふふっ、主が主ならば、臣下も臣下ですか。 実に期待外れ………と申しておきましょう」

 

ーー

 

しかし、于吉の口許には余裕の笑み。

 

そんな殺気を受けても、于吉の飄々たる態度に変化など無い。

 

そんな中、先程より明らかに声と態度が数段冷ややかとなった華琳が、鷹揚がない口調で于吉に再度問い掛ける。

 

ーー

 

華琳「…………………もう一度だけ言うわ。 どういう意味なのか、疾くと貴方自身で説明なさい」

 

于吉「おやおや、曹孟徳とあろう者が『百聞不如一見』という言葉を知らないのですか? それとも……見ただけでは私の真意が理解できない、とでも? 貴女なら簡単に気付くと思ったのですが、私の眼鏡違いでしたか……」

 

ーー

 

于吉は更に煽るよう言葉を連ねて嘲笑し、周囲から押し寄せる非難や戸惑いの視線を浴びても、その態度は変わらない。 それどころか語り終わった口許には、先程と同じ笑みを浮かべている始末。 

 

そんな態度を腹に据えた春蘭は、遂に我慢の限界を越え─── 

 

ーー

 

春蘭「貴様っ! これ以上の華琳様への侮辱、許すわけには……いかんっ!」 

 

秋蘭「………姉者………」

 

春蘭「─────なんだ、秋蘭!? 止めても無駄だぞ!!」

 

秋蘭「いや………私も我慢の限界だ。 華琳様に対し失礼極まりない輩を放置しておけるものか。 例え姉者が断ろうとも、勝手に参戦させて貰うぞ!」

 

春蘭「そうか、流石は私の妹だ! この不届きな奴を二人掛りで叩きのめしてやろうっ!!」

 

華琳「二人とも、待ちなさい! ここは、一刀達が招待してくれた場所であり、陛下の膝元である洛陽の中心! それを道士の挑発如きで、この地を血で汚すなど言語道断! 控えなさい!!」

 

春蘭「御安心下さい、華琳様! 武器を使わなくても、この夏侯元譲! あのような優男に遅れをとるつもりなどありません! 軽く嬲(なぶ)り、華琳様の高名を知らしめてやるだけですっ!!」

 

秋蘭「申し訳ありません、罰は後ほど受けさせて頂きます。 敬愛する華琳様に対し、これ以上の暴言を吐く者を放っておく事などできませんので!」

 

春蘭「……………ん? 秋蘭、どうして私を見るのだ?」

 

秋蘭「そんな些細な事より姉者! あの者を注視しないと何を語り出すか判らないぞ!」

 

春蘭「そ、そうだな!」

 

ーー

 

于吉に意識がいっていた華琳は、春蘭の暴走に始め気付かず、慌てて叱り控えさせようとするが、既に怒りMAXの魏武の大剣には届かない。

 

それに、いつもは姉を抑えるストッパー役の秋蘭さえも、今回は春蘭に追随する様子を見せ、事態は深刻な立ち位置を招いてしまったのだから。 

 

 

 

だが、于吉を襲撃する最悪の事件は未然の内に防ぎ止められた。

 

 

 

結果としては、華琳が止めた事により防げたのだが、その止め方は華琳にしては異質なやり方であり、天の御遣いの記憶を持つ者には納得する方法。 

 

ーー

 

華琳「──────ありがとう」

 

 

春蘭「……………か、華琳様………?」

 

秋蘭「…………………」

 

ーー

 

自分達の主を嘲笑う不届き者へ目に物見せようとする二人に、突如として聞こえた優しき声音に秋蘭達が戸惑う。

 

その言葉を発する姉妹達の主は、先程の威厳のある固い話し方ではなく、親しみのある柔かな言葉使いで声を掛けた。

 

ーー

 

華琳「貴女達の忠義は、私にとって大事な絆よ。 だから、私の為に怒りを表してくれるのは、とても嬉しいわ」

 

春蘭「ならば、あの不届き者を────」

 

華琳「春蘭、秋蘭。 私を信頼してくれるのなら……尚更、止めなさい!」

 

秋蘭「理由を、お聞かせしても………」

 

華琳「秋蘭なら簡単に判るでしょう。 あの道士は仮にも孫呉の客将よ」

 

秋蘭「……確かに………」

 

春蘭「ならば、北郷とは関係は無いでないですか! ならばこそ────」

 

華琳「あの者の挑発に乗り貴女達が手を出せば、孫呉に絶好の口実を与える事になる。 もし、その責を負うのが私達だけなら未だしも、民達にも迷惑が及ぶのは看過できない。 それに、私は─────」

 

ーー

 

二人に理由を話していた華琳は、その話しの途中で区切る。 

 

そして、自分の言葉に耳を傾ける秋蘭、恍惚の表情で華琳を見詰める春蘭へ慈愛の込もった眼差しを見せて、強く語り掛けた。

 

ーー

 

華琳「私は貴女達に……そんな真似をさせたくない。 大切な貴女達を、私の矜恃如きで……傷つけたくないの。 だから、止めなさい。 これは、曹孟徳しての命令であり、華琳としての嘆願なのよ」

 

春蘭「………………くっ!」

 

秋蘭「………姉者……」

 

ーー

 

華琳より物腰柔らかく言われ、少し惚ける春蘭ではあるが、その直後には横へ首を強く振り、自分の意識を持ち直す。 

 

華琳が許しても、于吉からの謝罪の言葉が無ければ、主を馬鹿にされたままで終わる。 つまり、自分達の主は客将よりも下の立場だと、有力な諸侯の前で表明したようなもの。 

 

自分の主こそは至高と考える春蘭にとっては、己の身を代えてでも阻止しなければならない、重大な出来事だったのだ。 だから、その目に宿る闘争心には衰えは無けれ無かった。

 

だが、華琳は最後に………止めの言葉を呟く。

 

ーー 

 

華琳「それに、貴女達は終始……私を支えてくれるのでしょう? 『天の御遣い』との誓い、忘れたとは言わせないわ」

 

春蘭「──────!?」

 

秋蘭「…………御存知、でしたか……」

 

ーー

 

それは、春蘭、秋蘭、一刀の三人が、最後まで華琳を支えると誓いあった、あの遠き出来事。 しかし、幾星霜を重ねても色褪せぬ約束であり、三人だけが繋がる絆である。

 

だが、これは他言無用、絶対秘密の話だった筈が、何故か本人が知っていると言うサプライズ。 

 

流石に秋蘭も交えて唖然とするのだが、華琳はニッコリと笑うと、その情報元を直ぐに晒した。

 

ーー

 

華琳「あのバカから……直接ね。 私達から消える少し前に、話してくれたわ。 『春蘭と秋蘭からの信頼、忘れないでいてくれ』って………」

 

春蘭「…………よ……余計な……世話を……っ!!」

 

秋蘭「………ふっ、北郷らしい……」

 

ーー

 

その言葉を聞いた春蘭は顔を俯かせ、ブルブルと身体を震わせる。 秋蘭は腕を組みながら目を伏せて微笑む。

 

かの御遣いは───自分が居なくなる分を、寂しがり屋の女の子に託して逝ったのだと、理解したのだ。

 

次の瞬間、ガバッと顔を上げた春蘭は、秋蘭に大声で叫ぶ。

 

大きく見開いた目から、滂沱の涙を流しながら────

 

ーー

 

春蘭「秋蘭! 私は華琳様に口答えなどしないぞ! 華琳様が止めるのなら……文句など無い! そんなもの………あるものかぁ────っ!!」

 

秋蘭「……………そうか、ならば私も同意しよう。 ほら、姉者……華琳様の邪魔になる。 私達は下がるぞ?」

 

春蘭「う、うぅぅぅぅ………」

 

ーー

 

華琳の側には、既に秋蘭達の代わりで季衣と流琉が入り、周囲の守りを固めた。 先程まで心配そうに見ていた二人だが、春蘭の暴走が鎮まりホッとしていている様子が窺える。

 

嗚咽を漏らす春蘭を秋蘭を宥めつつ、秋蘭は華琳に一言、暇乞いを伝える。

 

ーー

 

秋蘭「………華琳様、私達は控えていますので……」

 

華琳「ええ………春蘭の事、頼むわね……」

 

秋蘭「────はっ!」

 

ーー

 

もし、これが………ただの命令だけならば、春蘭と言えど反発し于吉に突撃していた事だろう。 そして当然、簡単に返り討ちされていた筈だ。

 

だから華琳は、春蘭の猪突猛進な性格、自分に長年仕えて覚えていた行動様式を逆にとり、予想外の行動をとって説得したのが、この結果だった。

 

 

────兵法三十六計 第一計 『瞞天過海』

 

(天をだまして海を渡る)

 

 

いつもの行動をすれば、華琳の対処に慣れている春蘭だけあり、華琳の真意が届かず、その言葉の表面だけ聞いて返事をする。 深く考えずに、自分の心のままに従って対処しようとするだろう。 

 

だから華琳は………普段の『命令』を『お願い』として虚を突き、更に天の御遣いより止められていた話を暴露した。 

 

これにより、構えていた春蘭の心に想いが透過し、華琳の意思を伝えることが出来たのだ。

 

★☆☆

 

ついでに言えば、この春蘭の暴走しようとした時に、一連の様子を見ていた翠や霞、祭達一騎当千の将達が止めに動こうとしたのだ、とある人物に止められ、ついに出来なかったという経緯(いきさつ)があった。

 

これを阻止をしたのが……賈文和、真名は『詠』である。 

 

翠が気色ばんで詠に問えば、詠も明確な理由を一言を発して黙らせた。

 

詠曰く────『内政干渉になるから』と。 

 

霞と祭は納得するが、翠と華雄達が『?』を複数浮かべ腕を組むが、理解した将達が苦笑いしながらも丁寧に説明し、渋々納得していた。

 

★☆☆

 

 

春蘭達が去ると、此方を黙ってニヤつきながら眺めている于吉へと、顔を向ける。 あれほど荒れていた陣営に、于吉が更なる言葉を発して春蘭を暴走させれば、如何に華琳と言え短時間での収束は不可能。

 

それなのに………何故、黙って見ていたのか?

 

ーー

 

于吉「これ以上、私が弄くったと知れば………左慈に愛想を尽かされてしまいますから………」

 

華琳「…………そんな理由で………」

 

于吉「何やら勘違いしているようですが、言っておきます。 私は愚鈍な貴女達へ説明する為に参ったのですよ? そこを忘れられると……困りますね」

 

ーー

 

意外な理由に華琳が小さく驚くと、于吉は見下すような冷笑を伴い顔を向ける。 

 

彼にとっては、この大陸に居る者など全てが……幻想。 もしくは、有象無象の産物。 心を動かすものなど、何も無かったのだから。

 

 

◆◇◆

 

【 覇王 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

華琳「────それは此方が言いたいわ」

 

于吉「…………ほう?」

 

ーー

 

于吉は、目前の少女が再度反論してきた事に、思わず目を見張った。

 

あれほどまで愚弄したのに関わらず、冷静な目で此方を探る様子を窺える少女────曹孟徳、真名は華琳。

 

以前、銅鏡を巡り北郷一刀と対峙した際、傀儡として利用した少女であったが、今では当時とは段違いの覇気と英気を纏い、大陸を代表とする英傑の一人となっている。

 

悪戯好き左慈大好きの于吉は、その実力を図りに面白半分嫉妬半分で目の前の少女を愚弄し、此方に殺気を飛ばす姉妹にも挑発して見せた。

 

姉妹の姉の方は相変わらずだったが、妹の方は姉の意志に従う振りをして巧みに姉を誘導し暴発を抑え、主である少女も配下を完全に封じる。

 

普通なら……怒りに任せて配下を突撃させる輩が多い中、少女は言葉で説得し完全に配下の暴走までも統制して見せたのだ。 かの北郷一刀さえ、配下の暴走を止めるのさえ、文字通り身体を張ったと言うのに。 

 

ーー

 

華琳「『百聞不如一見』………確かに物事の本質を掴んでいる言葉ね。 だけど、貴方が普通に使用した今の言葉、その言葉には更に続きがある事を知らないの?」

 

于吉「ほう……それは初耳ですね?」 

 

華琳「じゃあ、教えてあげる。 『百聞不如一見』の続きは………『百見不如一考』『百考不如一行』『百行不如一効』『百効不如一幸』『百幸不如一皇』と言うのよ。 よく、覚えておきなさい」

 

于吉「それはそれは……この于吉、大いに勉強させて貰いました。 で、貴女は何を言いたいのですか?」

 

ーー

 

語った言葉尻を捉えての反撃。

 

確かに『百聞不如一見』の話は後漢時代の成立だが、その後の言葉は後世の付け加えというのが一般論と、于吉は頭の中で呟く。 このくらいの誤差は外史では当たり前の話だから、目くじらなど立てる必要も無いからだ。 

 

この場合は敢えて判らないように振る舞い、その意図を探るべきと考え、于吉は惚けた(とぼけた)口調で説明を促す。 

 

華琳は動じる事もなく于吉へ丁寧に説明をする。

 

だが、口調は何時も通りでも……于吉を睨む眼光は強まるばかり。 

 

ーー

 

華琳「『百行不如一効』……既に結果が出ているならば、わざわざ『百聞不如一見』するなど、無駄で愚かしい行為じゃないかしら?」

 

于吉「なるほど……しかし、しかしですよ? 私が説明して、もし誤解されても責任は持てません。 それでも………宜しいですか?」

 

華琳「『百見不如一考』……説明くれた方が私を含む皆の理解が早いのよ。 貴方の言った事を信じるかは、私達が判断して決めるわ」

 

于吉「二言は……ありませんか?」 

 

華琳「しつこい男ね。 ならば、この私『華琳』の真名に懸けて誓うわ。 これなら文句はないでしょう?」

 

于吉「そうですね、確かに承知しました。 では、ご説明いたしますが、呉々も誤解などなされないように………」

 

ーー

 

華琳の決意に『やれやれ』というジェスチャーをした後、一瞬だけ笑顔を見せた于吉は説明を開始する事を承諾した。 

 

話が一段落ついた様子を見て、冥琳や詠が参加を希望したので、華琳は少し落ち着く為に席を離れる旨を于吉に説明し、その場を離れた。

 

そんな離れて行く華琳に、于吉は興味深げな視線を送る。

 

ごく僅かだが………この話し合いで華琳に対する認識を改めたのだ。

 

ただの人形、有象無象な輩を改めて一人の人間として。

 

 

後、ちょっぴりだが……左慈に対する恋敵の認識も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 北〇 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

春蘭を恋に預け、華琳の下へ秋蘭が戻って来たのは少し後の事。 

 

愚図る春蘭に意外に手が掛かった様子で、戻って来る足取りは、離れる時よりも遥かに軽く、また何時もの倍以上も早かった。

 

ーー

 

華琳「秋蘭、春蘭の暴走を抑えてくれて……本当に助かったわ」

 

秋蘭「お気になされないように。 姉者の暴走を抑えるのは、妹である私の役目。 それに、華琳様や北郷以外で暴発した姉者を任せるのは、流石に心配ですので…………」

 

ーー

 

さて、ここで………違和感を覚え、尚且つ理由まで理解された提督諸兄が居らっしゃれば、かなり聡明な方だと断言できる。

 

それは、今回の騒動で秋蘭のとった行動は、春蘭への肩入れする場面しか無いのに関わらず、華琳から『春蘭の暴走を抑えた』と讃えているのだ。 

 

これは、どういう意味なのだろうか?

 

ーー

 

秋蘭「これも、北郷から伝聞した『姉者を抑える言葉』を実践したお陰です。 真に……珠玉の金言でした……」

 

華琳「天の国の武人が語った言葉……『激流を制するは静水』……ね?」 

 

秋蘭「はい。 『激流に逆らえば呑み込まれる。 むしろ、激流に身を任せ同化する』と。 あの姉者を、こうも容易く操れるとは……天の国の武人には感謝してもしきれません!」

 

ーー

 

春蘭の暴走を止めるのは逆効果だと覚った秋蘭は、春蘭の行動に敢えて加わりつつ、その行動を少しずつ修正するように動こうとしたわけである。

 

その献身のお陰で華琳自身にも考える間があり、最悪の事態を防ぐことが出来たのだ。

 

ーー

 

華琳「その武人に、私も敬意を表して対面したいけど……天の国の住人では無理な話なんでしょうね。 秋蘭もそう思わない?」

 

秋蘭「はい。 ただ北郷の話では………その武人も兄である覇者と争い、志半ばで倒れたと。 また、その覇者も末弟に倒され『我が生涯に一片の悔い無し』と言い遺し、壮烈な自害をして……果てたそうです………」

 

華琳「孔子曰く『朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり』……それを実践する兄も凄いけど、その兄を倒す末弟も賛辞しかでないわね……」

 

秋蘭「………その通りかと……」

 

ーー

 

華琳と秋蘭は、その武人と兄弟対決の話を少しだけしたが、急に華琳が疑問を呈した。 

 

折しも秋蘭も考え、その答えも先程思い付いたばかりだ。

 

ーー

 

華琳「でも…………一刀の居た国は平和な所だったと聞いていたけど………どうして、そんな英傑達が集まっているの………」

 

秋蘭「華琳様、もしかすると……北郷に自覚が無いのかも知れません。 自分の立場さえ、最後まで理解しなかった……英傑の一人ですから」

 

華琳「そうね、天の国の英傑の逸話は一刀の口からしか聞けないけど、私や秋蘭達は実際に一刀に助けられ大陸の覇者となったわ。 一刀は私達を天の英傑と同一視するけど、一刀こそ……本当に……」

 

秋蘭「………はい」

 

 

「「 『天の御遣い』と尊称する英傑 」」

 

 

華琳「…………でしょう?」

 

秋蘭「間違い無いですね」

 

華琳「ふふふっ………本人は変わらず不定するのでしょうけど……」

 

秋蘭「天の御遣いとして、功績、人格、そして人望。 往古来今に至るまで、このような人物など居ないと断言できますし、英雄好色を体現した『魏の種馬』ですから、一片の疑いなどありません」

 

華琳「それで、今は………あの状況。 まったく、何が『ただの軍人』よ、あのバカ………」

 

ーー

 

艦娘側に居る一刀の様子を見ながら、頬を膨らませる覇王様。

 

そんな華琳に同意しながら……秋蘭は別の事を考えた。

 

『末弟の肩書きは……《救世主》とか言っていたが、まさか北郷……お前自身……なのか?』

 

其々の思惑が飛び交う中、一刀を眺めながら語り合う二人であった。

 

 


 
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