No.901799

彼女によろしく

raluzuさん

夢も破れ、40代に足を踏み入れた「僕」

まだ20代前半の、夢を叶えようとしている「彼女」

舞台は北海道札幌市に程近い小さい町

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2017-04-18 22:30:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:241   閲覧ユーザー数:240

 
 

 昨日洗車したばかりのジムニーの白いボディが、朝日の下でピカピカに輝いている。

 乗り始めて14、5年になるスズキのジムニーは、僕の体の一部と言っても過言ではない。だが、年数が経てば経つほど修理する箇所が多くなり、いつも車検に出している修理工からも「もう直すのに限界がある」と半ばさじを投げられてしまったため、早くてあと2、3年以内の買い換えを考えなくてはならなくなってしまった。

 廃車にするのは忍びないので、本当はガレージがあれば保存し、完全プライベート用として乗り続けたいのだが、僕にはそんな場所も無ければ、ジムニーの足回り等々全ての修理をできる程の金も無い。せめてエンジンが壊れれば、いい加減僕も諦めが付くのだけれど…。

 リアシートにジャケットを放り込み、彼女との待ち合わせ場所に急ぐ。

 彼女のアパートに一番近いセブンイレブンが、いつもの待ち合わせ場所だった。彼女は約束の時間の最低でも10分前に来る。

 僕はそれよりも早く着くようにして、そこでコーヒーや眠気覚ましのガムなどを買っている間に彼女もフラリと現れる。今日もそうだった。

 飾り気の無い白い膝丈のスカートに、青いスニーカーの彼女は、何より僕の目を引く。店の中で僕を見つけた彼女が、カメラバッグを持っていない右手で、レジ前に立つ僕に手を振った。

「おはよう」

「おはよ。待たせてごめん」

「ううん、大丈夫」

 会計を済ませて、先に車で待ってるから、と伝える。それから彼女はペットボトルの無糖のストレートティーを買って戻ってきた。足元にカメラバッグを置いてから、助手席に座る。

「今日、どこに行くの?」

「海がいいんでしょ?」

 普段あまり表情を変えない彼女だが、行き先を問う時はいつもより嬉しそうな顔を見せる。

 何があるのかは知らないが、彼女はとにかく海が好きだとずっと前に言っていた。一人で写真撮影がてらバイクで走る時はほぼ必ず海に出掛け、海の写真だけでアルバムが4、5冊出来た程だと、例のはにかみ笑いを浮かべて言っていた。

「積丹は、どう?もう行った?」

「…うん。でももう一回行きたい」

「じゃあ、そうしよう」

 行き先を決めると、彼女はふんわり笑って「うん」と大きく頷く。この顔が見たいがために、彼女と出掛けるのかもしれないと、僕はいつも思うのだ。

 エンジンの十分温まったジムニーで、国道337号線の石狩新港を走る。この工業地帯のあちこちで風力発電の白い羽根が、ゆっくりと風に回されていた。

 巨大な風車を見送って石狩新港を抜けてひたすら道なりにまっすぐ走り続ける。

 小樽を抜けて、余市と古平町を繋ぐ一車線の雷電道路を、時速60~70km前後を維持したまま、海に沿って走る。少しだけ開いた窓から、潮風がふんわりと香る。

「自分で運転してると、撮れないからなぁ…」

 シャッターを切りながら、彼女がぽっつりと呟く。それもそうだね、と返事をした。

「結構色んなとこ行ってるよね?」

「初めて行ったのは、浜益…。積丹は、だいぶ走れるようになってから、9月くらいだったかな…」

 彼女が足に使っているYAMAHAのRZ250は、父親から譲り受けたものだ。

本当は彼女の父親がその昔に乗りたいと買ったのだが、自動車の方に熱を入れてしまったため片手で足りる程度にしか乗っていなかったらしい。自動車のほうが圧倒的に楽なのは分かっていたが、免許を取って車を買えるほどの余裕は無い。けれど今すぐにでも足となるものが欲しいから、妥協して自動二輪の免許を取りに行ったと、以前彼女は話してくれた。

「それに腐らせておくのはもったいないし…」

「まあ、それもそうだね」

 妥協した、と言うあたり、彼女がそのバイクの価値を分かっているとは僕には思えない。きっとRZが2ストロークスポーツバイクだということも、本気で走れば250ccながら400ccのバイクと対等あるいはそれ以上のスピードで走ることのできるバイクだということも知らないのだろう。

彼女がそのバイクに跨っている姿を見たことが無い。

僕は、写真こそ短期間しか撮っていなかったが、バイクは18歳から30代前半程まで乗っていた。乗らなくなったのは、結婚して乗る時間が少なくなったのと、妻だった人の理解を得られなかったことが大きかったのではないかと思う。

「バイクかぁ…しばらく乗ってないなぁ」

「…乗る?」

「いや、もういいかな…」

「いいの?」

「…うん…いいんだ、もう」

 彼女の話を聞いていて羨ましく思わないこともない。バイクに乗っていた当時、この先一生バイクを手放すことは無いだろうと思っていた。だがそれから数年後結婚し、妻だった人から「いつまでバイクなんて乗ってるの?」と言われてバイク乗りを辞めた時、僕は喪失感よりも、あんなに大好きだったものをいとも簡単に手放すことが出来てしまった自分に深いショックを覚えていた。

 大人になったのだ。

 何かを取り繕うように、そう考えるようにしていた。

「なんか、意外」

 眉を下げて、彼女が僕の顔を見ながらそう言う。え?と僕は彼女の顔を見返した。

「どうして?」

「妥協してるみたい」

「…そう?」

 妥協、の一言に僕は心臓を握られたような感覚を覚える。バイクを手放したのが妥協だとは、思いたくなかった。

「うん。ジムニー、すごく大事に乗ってるように見えるから、バイクも同じかと」

「そっか…」

 たしかにジムニーはもう15年程乗って、それなりに手を加えてある。バイクだって同じだ。転ぶことすら楽しくて、触れていないところを探すほうが難しいくらいに手をつけた。もっと長く乗っていたらやってみたかったことはたくさんあったが、手放したことにより全て出来なくなった。それを彼女は妥協だと言うのだろうか。

「好きなの」

 何の前触れもなく突然そう言われて、僕はギクッとする。

「……へっ?」

「ジムニー。大事に乗ってるの分かるから、好き」

 心臓がドキドキする。だが彼女が好きと言ったのはジムニーだ。僕のことではない。

「いろんなところ、行ったんだよね?」

「そりゃ、そりゃあね!北海道で行ってないところって、離島くらいだよ」

 動揺していることを悟られないように返事をしたかったのだが、裏腹に喉は裏返って変なボリュームの声を出す。

 けれど、大切に乗っている車を好きだと言われるのも、なかなか悪い気はしない。言ってしまえばジムニーは、バイクを失った今、唯一残された僕の体の一部のようなものだと思っているからだ。今日のためにピカピカにしたのは無駄ではなかったが、やはり照れ臭く、つい話を逸らしてしまう。

「何か、撮ってみたいものとかあるの?」

「…北海道の海、全部」

 日本海、オホーツク海、道東・道南太平洋、北海道を囲む海を、海岸線沿いを走り北海道をぐるりと一周しながら撮るのが夢だと言う。

「まだそのためのお金と道具を集めてる最中だから、まだ先だけど」

「北海道一周かぁ…、僕も昔やってみようと思ったけど、出来なかったんだよなぁ…。北海道一周してみたかった」

 結婚したからなぁ、と呟くと、彼女は不思議そうに「なぜ?」と問うた。

「まぁ…お金の問題かな」

 妻だった人は、僕の趣味にあまり寛容ではなかった。おそらく北海道を一周したいと言ったなら、その時間と金は家のために使ってくれと言っただろう。実際、僕の給料だけで家のローンを払いながらバイクとジムニーを維持していくのはあまりにも厳しく、小遣いは減らされた。だからバイクを手放したのだ。もっと言えば、ジムニーからもっと乗り心地の良い車に変えて欲しいと言われて、危うくジムニーすら乗り換えなければならないところだったのを、なんとか説得して現在に至っている。

「ジムニー手放しちゃわなくてよかった」

「どうして?」

「大切にしてるクルマに乗せてもらえて嬉しいって思うことって、変?」

 その言葉に思わず口角が上がって、顔の筋肉が緩む。僕はしばらく、吊り上がってくる口の端を下げる努力をしなければならなかった。

 本当は、彼女はあのRZに少なからず愛着くらい持っているのかもしれない。

「・・・だいぶボロだけどね」

 擦れて薄くなったセミバケットシートのカバーを撫でながら言う。

「言われると思ったよ。でもこれでいいんだ、愛着があるから」

 

 時計が11時を回り、北海道の形に沿って続く道路を走るのにもそろそろ飽きた頃、国道229号線の新豊浜トンネルを抜けてすぐ脇の防災記念公園の駐車場に車を停めた。ジムニーを降りて雲の少ないスッキリとした青空に腕を伸ばし、体をほぐす。来た道のほうを見れば犬の遠吠えに似ているというセタカムイ岩が目に入る。駐車場正面は柵を越えればすぐ海で、波が静かな音を立てて寄せては引いていた。

彼女も車を降りて、うろうろと写真を撮っていたが、僕が車に戻ったのを追うように続いてジムニーに乗り込む。さて出発しようか、と言おうとしたときに、リアシートに置いていた妙に大きなバッグから、彼女はタッパーとラップに包まれた小ぶりなおにぎりを出した。驚いて目を丸くしていると、

「買うより、安いかなと思って…あの、食べたくないなら言ってね」

「いや…全然。むしろ、いただきます」

 彼女は恥ずかしそうにその蓋を開け、おにぎりを差し出す。中には卵焼きと唐揚げ、塩茹でのブロッコリー、赤いタコさんウィンナーが入っていて、おにぎりの中身は鮭と梅干だった。唐揚げに赤と黄色の串が2本刺さっており、箸を使わなくても食べられるようになっている気遣いに、僕は感心するしかない。ドライブで手作り弁当を作ろうなんて、考えたこともなかった。

 唐揚げは醤油と生姜がしっかり効いていたが、卵焼きはダシ巻きだと思っていたら甘かった。

「なんか遠足思い出すなぁ」

 おにぎりを頬張り、綺麗に作られたタコさんウィンナーに串を刺して眺めながら、何の気なしに言う。

「え、あっ、ごめん。そうだよね、子供っぽいよね、お弁当って…」

「ああ…、あの、そうでなくて…」

 隣で口を動かしていた彼女が、顔を真っ赤にして俯く。悪いことを言ってしまったと思ったが、なんとフォローしていいか分からず、「いつもコンビニだから、新鮮でいいよ」と言ったものの、言ってからフォローになっていないな、と思う。

「そのー…美味しいよ。手作りのお弁当なんて、すごく久しぶりに食べたから」

「……ほんと?」

「全部、手作りでしょ?」

「うん…」

 本当に美味しかった。卵焼きが甘かったことだけが悔やまれるが、そんなことよりも全て手作りだったことが何より嬉しい。

「唐揚げ出来立てで食べてみたかったなぁ」

 お母さんから教えてもらったの、と彼女はまだ顔に赤みを残したまま、ぼそぼそと言う。これが彼女が育った味なのかと思いながら、残りを味わった.

 

 駐車場を出て、再び229号線に戻る。僕たちは大した言葉も交わさず、ただひたすら流れる景色をそれぞれ目で追って、僕は運転に集中し、彼女は流れる景色を惜しむようにシャッターを切り続けていた。

 坂の上から、積丹町の全貌を望むと、彼女は窓を開けてシートベルトも煩わしそうにカメラを向ける。車を停めて気の済むまで撮らせてあげたいところではあるが、坂道の途中、路側帯も無いところで停まるわけにもいかず、僕はなるべくゆっくりと、僕たちを追い抜いてゆく車を見ながらジムニーを走らせた。

「…停まれないもんね」

 顔は外に向けたまま、エンジン音に掻き消えそうなくらい小さな声で、彼女は言う。

「残念だけど」

 無理だね、と言うと、彼女はとても残念そうな声で、あーあ…と呟いているのが聞こえて、苦笑いする。

海から遠ざかり、山道を走り抜ける。ここで撮れるものと言えば、まっすぐ続く道路と流れる木々だけで、彼女の興味を引くものはこれと言って無かったらしい。カメラはシャッターを切られることも無く、しばらく彼女の膝の上で抱えられたままになっていた。

 頭の上の青看板が積丹岬の文字を表すと、彼女はすぐにカメラを手に取り、再びシャッターを切る音が続く。

 看板の矢印に倣って右折し、坂をのぼってゆくと、道が開けて狭い駐車場が姿を現す。駐車場の出入り口付近に、観光客用のレストランがあるが、中に客が居る気配はない。駐車場にも車は一台も停まっておらず、おそらく今ここに居るのは僕たちだけなのだろう。

「誰も居ないね」

 先にそう言ったのは彼女だった。僕は「そうだね」と返して、ジムニーを出入り口に一番近いところに停め、リアシートからジャケットを取って車を降りる。彼女もレンズにキャップをし、少し遅れて降りてきた。坂の上だからなのか、風が強い。

 岬に続く通り道は、照明ひとつ無い黒い穴のトンネルしかない。トンネルの正面から立っても、奥に光が見えるだけで中がどうなっているか分からない。若いころにも一度来たが、記憶と変わっていない。当時、僕はまだ結婚する前で、妻だった人とまだ恋人の頃に来たのだ。あの時、あの人がトンネルを怖いと言ったことを思い出す。

ふと彼女を見ると、トンネルの前で立ち止まる僕をふと見て、そんなことも意に介さずに目で「行かないの?」と言った。

記憶を辿りながら、天井から水が滴る背の低いトンネルを抜けると、断崖絶壁の岩山に囲まれた真っ青な海が広がる。思った通り僕達以外には誰も人は居なかった。高台だからだろう、少し風が強い。潮風は思ったより冷たく、思わず手に持っていたジャケットを羽織る。僕の後ろをついてきた彼女は、せかせかとカメラのファインダーを覗いて、シャッターを切っていた。

高台の端には海岸へ続く長い階段があり、僕達はどちらともなくそれを降りていった。海が近くなるに連れて彼女の足の運びが早くなってゆく。

「ねえ、危ないよ」

「うん、平気」

 慣れてるから、と声をかけた僕を振り返りながら、彼女は一秒でも惜しいというように階段を下っていった。石だらけの岸辺に着くと、彼女は深く息を吸って、とても嬉しそうに僕の顔を見た。その笑みに僕も微笑み返す。

 海岸には、朽ち果てて土台の一部しか残っていない番屋の名残があるだけで、他に人工物らしいものはこれといって無い。背後にそびえる100m超の断崖絶壁を見上げて、高台がとても小さく見えた。こんなに高かったかな?と、思ったより自分の記憶が曖昧で驚いた。

 僕がぼうっとしながらこんな事を考えている間、彼女は僕のことも気にせず立ったりしゃがんだりして写真を撮っている。フォーカスを覗いている間は、彼女の目に僕は入らないのだろう。

何故彼女はこんなに海が好きなのだろうか。彼女が海を見ている時、ただ楽しいだけでなく、また別の感情すら抱いているように見える。けれど、彼女は海に行ったと言っても、泳いできたとは言わない。

先日、まだ真夏の天気だった時に、石狩の海に行った時も、僕は海に入ってもいいようにタオルを用意したが、彼女は波に足をつけることもなく、写真だけ撮って帰ってきた。波打ち際まで行っても、彼女は絶対に海に入ろうとしない。

 今もまた、海の上の岩の上をひょこひょこと渡ってゆくが、靴を脱いで海水に足を浸す、ということはしない。

「ねえ、入らなくていいの?」

「うん、いいの」

 少しだけでいいから僕の方を見て欲しいと思って声をかけたとき、返事をしながら風で少し乱れた三つ編みをかき揚げる仕草が綺麗だと思った。

彼女は少し離れたところにいる僕を一瞥して、もう一度「いいの」と首を振る。

 

 彼女がしゃがんでいる岩の下に、小さい蟹が居ることに気がついた。

数分前に、彼女が突然しゃがみ込んで何をするでも無く、時々強い波の来る海を眺めはじめたので、僕もまたその後ろでしゃがみ、何も言えずに彼女の後ろ姿を見ていた。ただ、全く動きそうにない背中を見るのもそろそろ飽きて、視線を下にやったときに蟹を見つけただけの話だ。けれど僕はそれを捕る気も無く、カサカサと動く蟹と、ちっとも動かない背中とを見ながら、あくびを噛み殺す。

 彼女はずっと自分で自分を抱きしめるようにしていたので、もしや寒いのかと思い、痺れそうな足で立ち上がり、羽織っていたジャケットを、そっと彼女の肩に掛けた。

「え?」

 驚いた表情で、彼女は僕を見上げる。潮風にあたっていたせいか、顔が赤くなっていた。

 ああ、くそ、かわいいなあ、もう。

「寒くなかった?」

「…ちょっとだけ」

 ごめんなさい、と続けてジャケットを返そうとするので、着ていていいよ、と言うと、案の定寒かったのだろう、彼女はそれにきちんと袖を通した。

「ありがとう…」

 彼女の服装とは全くチグハグだが、それでも気にせずに受け取ってくれたことが嬉しい。彼女にはやはり少し大きいようで、袖からしっかりと手が出ていないところもまた可愛げがある。服を着ているくせに、なんとなく目のやり場に困った。

「遅くなるから帰ろう」

「……うん」

 駐車場に戻るまで、階段を登っている間も彼女は何度も立ち止まり、名残惜しそうに振り返って、まるで網膜に景色を焼き付けようとしているようだった。

 どうしてなのだろう。ずっとそんな疑問が頭の中で巡り続けたが、今その疑問を彼女にぶつけるのは、はばかられる気がした。

 

 帰り道、彼女は僕のジャケットをずっと着たまま、うとうと目を閉じたり開けたりしていた。最近日が沈むのが早くなってきて、小樽に入る頃には夕焼けが空を染め、水平線が濃いオレンジ色になっている。

「……綺麗」

 彼女が、一度だけ夕日に向かってシャッターを切りながら、眠たそうな声で僕に言う。

「…なんか久しぶりだな、こんな夕焼け」

 その夕日を横目で見たが、思っていたより日が強くて目が眩む。

最近、曇りが続いてたもんね、と彼女は答える。その横顔は夕日の色を受け、少し赤く見えるが、きっと僕も同じだろう。

 写真を撮り疲れたのだろうか、彼女はそれからずっとカメラを膝の上に載せたまま、シャッターを切ることはしなかった。所在なげに足の横に放り出されたその右手を、何度握りたいと思ったかわからない。左手でシフトレバーを無駄にしっかり握り締めて、うっかり彼女の右手に伸びていかないようにしていた。

「人の気も知らないで」

 いつの間にか、頭をウィンドウにもたれかからせながら眠っていた彼女に向かって、思わず口の中で呟く。

 
 

 
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