No.898063

機動新世紀ガンダムX アムロの遺産

K-15さん

かつて、戦争があった。地球連邦軍と宇宙革命軍とが引き起こした壮絶な戦いは、遂に地球圏の人口の大半を死滅させる事となる。
もはや戦争に終わりは見えなくなった。
それから15年、人類はようやく自らの力で再び大地を踏み締める。
人の心の光に導かれて、アムロ・レイは在り得たかもしれない世界に降り立つ。

2017-03-20 23:24:11 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:310   閲覧ユーザー数:294

 

地球に向かって加速するアクシズ。

その最中、νガンダムはメインスラスターを全開にしてコレを押し返さんと試みた。

だが無情にもアクシズは地球の重力に引かれており、大気の摩擦が景色を赤くする。

ガンダムのマニピュレーターに収まる赤い球体。

その中に居るのはネオ・ジオン総帥であるシャア・アズナブル。

 

「そうか……しかしこの暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それをわかるんだよアムロ!!」

 

「わかってるよ!! だから世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ」

 

ガンダムのコクピットの中でアムロは叫んだ。

ニュータイプと呼ばれる存在になってしまった2人。

だがジオン・ダイクンが提唱したニュータイプ論とは程遠く、今になってもぶつかり合ったままだ。

 

「ふん、そう言う男にしてはクェスに冷たかったな。えぇ!!」

 

「俺はマシーンじゃない。クェスの父親代わりなど出来ない。だからか!? 貴様はクェスをマシーンとして扱って!!」

 

「そうか、クェスは父親を求めていたのか。それで、私はそれを迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな」

 

「貴様程の男が、なんて器量の小さい」

 

「ララァ・スンは私の母になってくれたかもしれない人間だ。そのララァを殺した貴様に言えた事か!!」

 

「お母さん……ララァが?」

 

νガンダムとサザビーのコクピットに組み込まれたサイコフレーム。

人の心の光を具現化するそれは、アクシズを包み込むと地球から押し返して行く。

人々は見る、その眩い輝きを。

 

///

 

地球連邦軍と宇宙革命軍との間に起こった戦争。

その終結は悲惨で、スペースコロニーが地球に落下し人類の殆どが死滅した。

第7次宇宙戦争と呼ばれる戦争が終わって15年。

人類は再び大地に足を付け、自らの力で歩き始めた。

アフターウォー15年、新たな歴史は動き始めたばかり。

満月が昇る荒れ果てた荒野。

アルプス級陸上戦艦フリーデンを母艦とするバルチャーが給水作業の為に巨大な水溜まりに止まって居た。

艦長であるジャミル・ニートは、レーダーでいつ狙われるかも知れぬ状況に警戒しながらも、束の間の安息を得る。

 

「ようやく逃げ切れたか。今回は少し無茶をした」

 

「それもそうですが……キャプテン、あのティファって少女は何者なのですか?」

 

「彼女はニュータイプだ」

 

「ニュータイプ……」

 

フリーデンのオペレーターであるサラ・タイレルは神妙な面持ちでジャミルの表情を覗いた。

黒いサングラスを掛ける彼の表情はいつにも増してわからない。

他のクルーは給水作業、もしくは他の作業を進めており、2人しか居ないブリッジは静寂に包まれて居る。

そんな中、数キロ先で爆発音が観測された。

シートから立ち上がるジャミルは爆発が起きた場所を見る。

 

「何の音だ? 戦闘だとすれば早急に切り上げるぞ」

 

「了解、すぐに確認を」

 

「ここまで来て、また奪われる訳にはいかん」

 

ジャミルの失われたニュータイプとしての能力では感じ取る事は出来ない。

この先に居る人物。

宇宙世紀時代のニュータイプ。

ジャミルにより救出された少女、ティファ・アディールは個室の窓から外の月を眺めて居た。

 

「ア……アムロ……あの人の名前は……」

 

 

 

第1話 アムロ・レイ

 

 

 

「っ!? どうなった……アクシズは……」

 

コクピットの中で意識を覚醒させたアムロ。

全天周囲モニターに映る景色には、アクシズの姿は見当たらない。

それどころか有り得ないモノを体が感じ取る。

地球の重たい重力。

 

「ここは……地球なのか? シャアはどうした?」

 

アームレイカーに両手を添えるアムロはガンダムを動かす。

シャアのサザビーとの激闘、大気の摩擦により装甲はボロボロだが、頑丈に設計された機体はまだ動く。

ツインアイが光輝き、エンジンからエネルギーが供給される。

νガンダムは大地に立ち、アムロはその目で地球の光景を見た。

 

「荒野……オデッサかどこかか? それよりもアクシズは落ちて居ない。だが、ガンダムには大気圏を突破出来る性能はない。どう言う事だ? いや、考えるのは後だな。軍に合流するのが先だ」

 

疑問は尽きないが、アムロはガンダムを歩かせて連邦軍との合流を優先させた。

オートで機体を歩かせながら、コンソールパネルを叩き状況を把握しようと試みるが、その全てが上手くいかない。

 

「通信は……ダメか。正確な位置だけでもわかれば動きやすいんだが。クソッ、これもか」

 

ゆっくりと進むガンダム。

コクピットの中で可能な限りの事は施したが、現状が変わる事はなかった。

今は只、闇雲でも進む事くらいしか出来ない。

コクピットのハッチを開放させるアムロは、夜風に当たりながら月を見上げる。

 

「でも地球か……久しぶりだな。コロニーの調査に掛かりっきりだったからな。結局、シャアに良いようにされてしまった」

 

アムロをライバルだと認めた男、シャア・アズナブル。

1年戦争の時から続く因縁の戦いも、最後まで決着が着く事はなかった。

そして何より、シャアは最後まで呪縛から逃れられず苦しんだ。

ジオン・ズム・ダイクンの息子としても、少女ララァ・スンを失った悲しみも、カミーユ・ビダンを通して見たニュータイプとしての可能性も、全てはシャアにとって呪いにしかならない。

どれだけ時間が経とうとも、シャアは未来を見る事が出来なかった。

 

「だが、アクシズの落下は阻止したんだ。ネオ・ジオンもこれで動きにくくなる筈だ。連邦内部との癒着はどうしようもないが」

 

連邦内部の幹部が金欲しさに譲り渡した小惑星アクシズ。

そのせいで自分達の住む場所である地球か寒冷化させられようとした事に彼らは全く危機意識がない。

連邦軍の腐敗は今に始まった事ではないが、アムロはシャアのように力で事をなす考えはなかった。

 

「奴の考えもわかってるつもりだ。だがその為に大勢の人間が犠牲になるのは間違ってる。そこだろうな、俺とアイツの違いは。俺はアイツとの決着よりもアクシズを優先した。シャアはまだ囚われたままだ」

 

過去しか見ないシャアとは違い、アムロは現実を見て居る。

ニュータイプでなくとも自分の隣には誰かが居る、けれどもシャアは共感出来るニュータイプだけを求めた。

 

「馬鹿な男だよ……全く……レーダーに反応、モビルスーツか?」

 

警告音を鳴らすコンソールパネル。

急いでシートに戻るアムロは反応が何なのかを確認すると、データには登録されて居ない機体が前方で待ち構えて居た。

ハッチを閉鎖して、メインカメラからのリアル映像に切り替えて自分の目で確かめると、見えるのは見た事のない機体。

 

「ネオ・ジオンの機体か? だがギラ・ドーガとは違う。地上専用にチューニングされて居るのか?」

 

『そこの白いモビルスーツ!! 誰に許可されて俺達の縄張りに入った!! えぇ!!』

 

野蛮な男の声が拡声器で響き渡る。

ガンダムの前に仁王立ちする3機のモビルスーツ。

それぞれフォルムが独特で、パイロットに合わせて独自にチューニングされて居る。

1機は緑色、もう1機は青色、最後の1機は黒色。

アムロはガンダムの動きを止めると、不快感をあらわにしながら男の質問に応えた。

 

「縄張りだと? ふざけて居るのか」

 

『キサマ!! 俺達を誰だと思ってる。ここいらじゃ名の知れた――』

 

「違法居住者だな。モビルスーツをどこで手に入れたかは知らないが、そんな旧型で」

 

『俺の愛機を旧型だとっ!! 野郎ども、あの白い奴を潰せ!!』

 

メインスラスターを吹かしガンダムに迫る3機のモビルスーツ。

アムロもアームレイカーに手を添えると戦闘に意識を集中させる。

 

「話しても無駄なようだな」

 

アクシズでの戦闘でフィン・ファンネルは全て使い切った。

ビームライフルは破壊され、バズーカとシールドももうない。

予備のビームサーベルも手放してしまい、頭部バルカンしか射撃武器はなかった。

それでも幾つもの激戦と修羅場を潜り抜けて来たアムロにとって、旧型のモビルスーツ3機を相手にする事など造作も無い。

ペダルを踏み込みメインスラスターとバーニアを吹かし、地上をホバーリングするように滑りながら前進する。

 

「行ける!!」

 

腰部からマシンガンを手に取る緑の機体、チューニングされたジェニスはガンダムと真っ向から対峙する。

構えを取り銃口を相手に向けトリガーを引く。

だが、弾丸が発射された時にはもう、ガンダムは回避行動を取って居た。

一切武器を持たないガンダムに、気が付いた時には間合いを詰めらて居る。

 

『は、はやい!?』

 

「侮りすぎだ。そんな事では」

 

マニピュレーターを突き出し、ジェニスの頭部にあるエネルギーチューブを引っ掴む。

強引に機体を引き寄せ、相手の機体の装甲がギシギシと悲鳴を上げる。

 

『コイツ、何を!?』

 

「先に攻撃を仕掛けたのはそっちだ。爆発させずに動けなくすれば、地上の残党部隊の居所を掴める」

 

頭部のエネルギーチューブを掴んだまま、ジェニスを前方に突き出した。

チューブは耐え切れずに引きちぎられ、機体は為す術もないまま背部から地面に激突する。

激しく揺れるコクピット。

シートベルトも装着して居ないパイロットは中で体の至る所をぶつけ、すぐには操縦桿を握り直す事が出来ない。

 

「次は!!」

 

『白い奴、よくもボトスを!!』

 

「遅い!!」

 

仲間がやられた事で頭に血が上る。

青いジェニスはヒートホークを右手で振り上げ果敢にガンダムに攻めるが、連携も取らずに1体1での戦闘で勝てる相手ではない。

アムロはアームレイカーのボタンを押し込み頭部バルカンを相手に向けた。

大量に吐き出される薬莢。

90ミリの弾丸が頭部に集中して発射された。

潰されるモノアイ、引き裂かれる装甲。

満足に近づく事も出来ないまま青いジェニスの頭部は吹き飛ばされ、煙を上げて崩れ落ちる。

仲間が一瞬の内に倒され、残るパイロットはある事が頭の中を過った。

 

『白い機体……まさか!? 15年前に作られたって言うガンダムなのか? か、勝てない……うあぁぁぁ!!』

 

背を向けて逃げる黒いジェニス。

アムロは逃がすつもりはなくトリガーを押し込むが、頭部バルカンの弾は底を突きカタカタを音を鳴らすだけ。

 

「チィッ、使い過ぎたか。逃がすものか!!」

 

倒れる緑色のジェニスが装備するマシンガンを取るガンダム。

グリップを右手に握ると地面を蹴り、同時にメインスラスターの出力を上げてジャンプした。

相手との距離はまだ、そこまで離れて居ない。

青白い炎を噴射するバックパックに照準を合わせトリガーを引く。

マズルフラッシュと共に発射される弾丸は正確に狙った位置ヘ直撃し、爆発により姿勢を崩すジェニスはその場へ転げ落ちた。

 

「やったか。コクピットは無事な筈だ。うん、何だ?」

 

気配を感じた。

空中で姿勢制御したまま回避行動を取る。

ガンダムが居た場所に、数秒遅れてビームが飛んで来た。

攻撃された方向を見ながら機体を着地させるアムロは、新たな2機のモビルスーツを目にする。

 

「アレは……ガンダムタイプ」

 

「俺の攻撃を避けやがった。伊達にガンダムに乗ってる訳じゃねぇってか」

 

「まともな武器もナシに3機を撃墜。しかもコクピットは破壊してない。中々の芸当じゃないの」

 

赤い羽を持つガンダム。

そして左腕に巨大なガトリング砲を装備する緑のガンダム。

アムロの知識では見た事のない、νガンダムのデータにも載ってない新たなガンダムタイプ。

 

「これもデータにはない機体か。だが、ガンダムタイプともなればジオンでもない。どこの所属だ?」

 

考えるアムロだが答えがわかる筈もなく、それよりも先に相手が攻撃を仕掛けて来た。

 

「来るのか!?」

 

空を飛ぶガンダムが2丁のビームライフルを構えてトリガーを引く。

 

「ロアビィ、コイツの相手は俺がする!! お前は黙って見てろ!!」

 

「はいはい、ご自由に。でも、報酬は俺もキッチリ貰うからね」

 

「わかってるよ!!」

 

空を単独飛行出来る羽のあるガンダムは3次元的な動きが出来る事で、νガンダムより優位な立場にある。

安全な上空から連続してトリガーを引くガンダムは、一方的にアムロのガンダムを攻撃した。

 

「どうした、どうした!! やって来ねぇなら、バラバラにしてパーツにしてやんぞ!!」

 

「緑のガンダムは攻めて来ない。これなら」

 

メインスラスターとバーニアを駆使して動き回るνガンダム。

相手は連射性能の高いビームライフルでビームを撃ちまくるが、銃口を向けられた時には既に回避行動に移って居る。

発射されるビームは只の1発すら当たらず、それどころかかすりもしない。

 

「クソッ!! ちょこまかと、落ちろっつてんだよ!!」

 

「相手は1機なのよ? 何やってんの」

 

「うるせぇ!! こんな奴すぐに!!」

 

苛立ちはしながらも、射撃の腕に衰えはない。

それでも直撃させる事が出来ないのは、単純に技術と経験の差だった。

ビームは地面に直撃して砂煙を上げるだけで、無駄にエネルギーばかりが減って行く。

アムロは不利な状況でも相手の力量を見極めて、反撃出来る一瞬を狙う。

 

「腕は悪くないが、まだまだ若いな。落とさせて貰う」

 

「あんなボロボロの機体に……なんで!!」

 

「甘い!!」

 

マシンガンの銃口を向けた。

初めての攻撃にパイロットは目を見開き瞬時に回避に移るが、アムロはそこまで読んで居る。

避ける先、コンマ数秒早くトリガーを引きマシンガンが火を噴く。

発射された弾丸は避けた所のガンダムのマニピュレーターに直撃し、握って居た右手のビームライフルを落としてしまう。

 

「しまった!? こんな所で!!」

 

マニピュレーターは無事だが、数少ない武器を手放してしまった。

回収に行く事も出来ず、ビームライフルはνガンダムに奪われてしまう。

 

「ウィッツ、何やってんの!! 見ちゃ居られないよ!!」

 

「ロアビィ、邪魔するんじゃない!!」

 

緑のガンダムも戦闘に加わり、左腕のガトリング砲でνガンダムを狙う。

 

「チィッ、もう1機が来たか」

 

マシンガンを投げ捨て、奪い取ったビームライフルを握らせると、直ぐ様行動に移る。

向けられるガトリング砲の弾速は早い。

それでもメインスラスターの出力を上げて何とか避けはするが、推進剤も余裕がある訳ではなかった。

 

「長引くと不利だ。仕掛ける!!」

 

ビームライフルを向け、トリガーを引く。

発射されるビームを緑のガンダムは足の裏のローラーを稼働させて回避する。

重武装であるが故に機体重量も重く、ローラーで移動する事で脚部への負荷を軽減させ、尚且つ自立走行よりも高速で動く。

アムロは瞬時に照準を合わせるとトリガーを引いた。

 

「機体の性能に頼りすぎだ!!」

 

瞬間的に引かれるトリガー、発射されるビームは3発。

緑のガンダムが避ける先、構えて居たガトリング砲の装甲にビームがかすめた。

2発目は地面に直撃して砂煙を発生させると、3発目が右脚部に直撃する。

 

「ウソでしょ!? 射撃のセンスは抜群だな。コイツの装甲じゃなかったらヤバかった。でもね!!」

 

「浅かったか」

 

「こっちだってギャラを貰ってるんでね。たかが1機に!!」

 

ビームは直撃したが機体にそれほどダメージはない。

向かって来る相手にビームライフルと推進剤の残りを気にするアムロだが、突如として上空に眩い光が灯る。

それを合図にして、迫る2機のガンダムは動きを止めた。

 

「何だ、信号弾……」

 

「停戦信号? ウィッツ、撃つなよ」

 

「わかってるよ。クッ!! 仕留められねぇなんて」

 

事態を理解出来ないアムロはガンダムの動きを止めて事の成り行きを見守った。

 

///

 

フリーデンのブリッジで戦闘を見るクルー達は、白いモビルスーツの動きに目を奪われる。

まともな装備もない相手、見た目にも明らかに損傷して居る相手に2人は苦戦を強いられて居た。

ウィッツ・スーの搭乗するガンダムエアマスター。

空中からのビームによる攻撃は、そのどれもが見切られて居る。

戦いを見ていた通信オペレーターのトニヤ・マームは、思わず声を上げた。

 

「あぁ~、もぅ!! 何やってんのよ!! あれだけ撃ってるのに1発も当たってないじゃない!!」

 

オペレーターのサラも、この有様を見て口を尖らせた。

 

「高い報酬を払って居るんだから、これくらいはしてもらわないと。これだからフリーの人間は信用出来ません」

 

「あの動き……」

 

その中で唯一、艦長であるジャミルだけは、白いモビルスーツの動きに思い当たる節がある。

かつての自分と同じ、或いはそれ以上の。

 

「サラ、あの白い機体。もう少し拡大出来るか?」

 

「はい。すぐに」

 

慣れた手付きでスムーズにパネルを叩くサラ。

望遠カメラに切り替わり、モニターに映し出される映像が何倍にも拡大された。

白い装甲、ツインアイ。

この世界に生きる人間ならその殆どが知る伝説のモビルスーツ。

 

「ガンダム……」

 

「ですがデータにはありません。見た目だけなのでは?」

 

「いいや、奴はそうだ。それにあの動き、あの2人では勝てない。シンゴ、フリーデンを前進。停戦信号もだ」

 

「了解です。メインエンジン始動、フリーデン発進します」

 

操舵士のシンゴは艦長からの指示を受け、停止させて居たフリーデンを戦闘領域目指して前進させる。

同時に停戦を意味する信号弾も発射さた。

シートに座るジャミルは、自身に残った僅かな力を頼りに、モニターに映る白いモビルスーツをもう1度見る。

 

(あのガンダムに乗って居るパイロットが本当にニュータイプだしたら……急がねば)

 

その頃、フリーデン内部には1人侵入者が紛れ込んで居た。

名はガロード・ラン。

高額な報酬を貰う事を条件に、フリーデンに囚われて居る少女、ティファ・アディールを救うべく侵入した。

戦後の世界を生き延びる為に、この手の事は慣れてしまって居る。

 

「へへ、警備が手薄で助かったぜ。問題はどこにこの子が居るかだけど……手当たり次第に行くしかねぇか」

 

足音を消して、影に隠れて、誰にも見つからずに通路を進む。

 

(捕まえられてるんだから、ロックの掛かってる部屋。ご丁寧にどの部屋も開けっ放しだ。これならわかりやすい!!)

 

進むガロードはティファが囚えられて居る部屋を探す。

その途中、欲に目が眩んだ彼はプレートに艦長室と書かれた部屋の前で足を止めた。

ニヤリと表情を変えると、懐からピッキングツールを取り出し鍵穴に差し込む。

 

(バルチャー、それも親玉の部屋なんだから、金目のモノがあるだろ。良し、開いた!!)

 

ものの数秒で解除したロック。

ドアノブを捻り、静かに開けるドアの隙間から中に滑りこむ。

真っ暗な部屋の中で、ガロードの培われて来た嗅覚が瞬時に金庫を見つけ出す。

 

「あったあった。後はコイツを解除しちまえば」

 

ダイヤル式の金庫。

経験と勘、そして自らの技術を頼りに素早くダイヤルを回すガロード。

それでも金庫が開くかどうかはやってみなければわからないし、時間との勝負だ。

ジリジリ音を鳴らして回されるダイヤル。

 

「よ~し、頼むぜぇ……キタッ!! ん、何だコレ?」

 

開かれた金庫にあったモノは1つの操縦桿。

それ以外には何も入って居ない。

 

「モビルスーツのコントロールユニット? まぁ、良いや。バラすなりすれば金になるだろ」

 

握ったコントロールユニットを懐に入れるガロードは、金庫の扉を閉じ素早く部屋から立ち去った。

本来の目的であるティファの救出。

再び影に隠れながら進むガロード。

すると、どこからかメロディーが聞こえて来る。

 

(音楽……鼻歌か?)

 

音を頼りに歩くガロード。

近づくにつれて聞こえて来る音が透き通って聞こえる。

可憐な少女の声。

 

(キレイな声……)

 

その歌が聞こえて来る部屋の前まで来たガロードは、無意識の内にドアを開けて居た。

部屋の中に居るのは、鼻歌を奏で月明かりに照らされる少女。

思わず見惚れるガロードはその場に立ち尽くしてしまう。

穏やかな雰囲気。

自分が何を目的にここまで来たのかも忘れて、少女をずっと眺めて居た。

すると、少女はゆっくりガロートに視線を向ける。

 

「アム……ロ?」

 

「えっ!? い……いやぁ、俺はアムロじゃなくてガロード。キミはティファ・アディールだよね? つまりそのぉ……」

 

突然話し掛けられ慌てふためくガロード。

頭が上手く回らず、口から言葉が出ない。

けれども、そうして居る間にもフリーデンが動き出してしまう。

艦内に多少ではあるが揺れと振動が伝わって来る。

 

「っと、こんな事してる場合じゃない。俺はガロード・ラン。キミを助けに来た」

 

「アナタを……待っていました」

 

「あのオッサンが教えてくれたのか? でも通信機があるなら俺じゃなくても……まぁ、細かい事は良いや。逃げるぞ」

 

「はい」

 

ガロードに手を引かれ、ティファは部屋から出た。

 

 

アムロの目の前に現れた白い陸戦艇。

警戒はしながらも、ビームライフルの銃口はまだ向けない。

2機のガンダムも戦闘を中止しており、相手の出方を待った。

 

「このガンダムの母艦か。だが今の時代、連邦軍で陸戦艇を使う所なんて聞いた事がないぞ」

 

理由はわからないが、地球に降下してから頭の中で疑問が尽きないアムロ。

そうして迷ってる間にも、相手側から外部音声で呼び掛けて来た。

 

『こちらはフリーデン。艦長のジャミル・ニートだ。そこの白いガンダムタイプのパイロット、応答願う』

 

「ロンド・ベル隊のアムロ・レイ大尉だ。2機のガンダムはそちらの所属で間違いないな?」

 

『そうだ。フリーのモビルスーツ乗りを雇って居る状態だがな』

 

(モビルスーツ乗り? どう言う意味だ?)

 

『こちらに攻撃の意思はない。出来れば話がしたい。その間に補給くらいはさせて貰う』

 

考えるが選択肢はなく、地球と宇宙の状況をいち早く知るには誘いに乗る他なかった。

 

「わかった。ハッチを開けてくれ」

 

『恩に着る』

 

開放されるハッチ、2機のガンダムも同じ所から内部へと入る。

アームレイカーに手を添えて機体を歩かせるアムロも同様に艦内へ足を踏み入れるが、その瞬間に何から頭の中を過った。

 

「なんだ!? この感覚……シャアでもない。カミーユなのか? いや、違う。プレッシャーのようなモノは感じない」

 

言いながらも内部に入り、ハンガーに機体を固定させた。

ハッチを開放させワイヤーで降下するアムロは、数年ぶりに地球の重力が掛かる地へ足をつける。

宇宙での活動に慣れて居たが、久しぶりの地球でも問題なく歩く事は出来た。

すぐ近くでは、さっきまで戦闘を行って居たガンダムのパイロットが2人、物珍しそうにアムロを見て居る。

 

「アイツが白い機体のパイロット? なんだジャミルと同じくらいじゃねぇか」

 

「それよりもさ、なんでノーマルスーツなんで着てるんだ? だってここ地球よ。普通そっちの方が先に来ると思うけどね」

 

「うるせぇ!! 悪かったな!!」

 

ウィッツとロアビーの会話を傍から聞いて居ると、スーツを来た女性がアムロの前に現れた。

 

「アナタがあの機体のパイロットですね。私はオペレーターのサラ・タイレルです。キャプテンの元へご案内します」

 

「頼む」

 

「ではこちらへ」

 

サラの案内に従い、アムロは艦内を進む。

彼女の背中を追いながら通路を歩いて行き、艦内の様子を観察した。

陸戦艇に乗った事のないアムロは、内部の構造を見るだけでも新鮮に感じる。

 

(だが、若いクルーが多いな。まるで昔の俺達みたいだ)

 

まだ少年だった頃の自分を思い出すアムロ。

連邦とジオンの戦争に巻き込まれ、ガンダムに乗って戦ったあの時の事を。

正規の連邦兵は殆ど居らず、民間人である自分達が生き残る為にホワイトベースを動かしジオンと戦った。

 

(もう13年も経つのか。それよりも、どうしてクルーは全員私服なんだ? 本当に連邦の管轄なのかも怪しくなって来たな)

 

疑いの目を向けながらも口を閉ざしてサラの後ろに付いて行く。

到着した先は陸戦艇のブリッジ。

扉を抜けた先には数名のクルーと黒いサングラスを掛ける男が立って居た。

 

(この男が艦長。やはり連邦ではないのか?)

 

「先程は一方的に攻撃してしまいすまなかった。私がこの艦のキャプテンをして居るジャミル・ニートだ」

 

「アムロ・レイ大尉です。よろしく」

 

言葉を交わす2人は互いに手を伸ばすと握手を交わした。

たった数秒触れただけ。

それでも2人は何かを感じるモノがあった。

 

「所で艦長。1つ聞きたいのだが、この艦はなんだ? ガンダムタイプを2機、それなりの部隊でなければ支給されない筈だ」

 

「この艦はフリーデン。修理と改修を繰り返して独自に改造したモノです。ガンダムに乗って居る彼らは、一時期雇って居るだけです。賞金を提示すれば、フリーの人間はすぐに寄って来る」

 

「そこだよ。ガンダムタイプは開発に時間と金が掛かる。それに企業も絡んでる。金さえあれば譲ってくれるような代物ではない」

 

「そこは私も知りかねます。金でやり取りをするモノ同士、深く探らないが暗黙のルール。彼らは腕の立つパイロット、くらいにしか」

 

「だったら開発元もわからないのか? 裏でアナハイムが開発したとも考えられるが」

 

「あの機体は15年前に連邦が開発したモノです。どこで見付けたのかはわかりませんが、整備されて今も使われて居ます」

 

「15年前!? キャプテン、冗談はよしてくれ。15年も前はガンダムどころか、モビルスーツだって開発されてない」

 

「うん? どう言う事ですか?」

 

(どうにも話が咬み合わない。どうなってる……)

 

「では、私からも1つ聞かせて下さい。アナタなら知って居る筈だ。ニュータイプの存在を」

 

ニュータイプ。

アフターウォー15年、かつて人の革新と呼ばれ、その力をもつ者を指す言葉。

アムロは苦笑しながら、その質問には応えた。

 

「あぁ、そうだな。俺の事をそう呼ぶ人間も居た。でも俺はそんな立派な存在じゃない。普通のパイロットさ」

 

「やはり……ニュータイプ……」

 

「成り損ないさ」

 

モビルスーツに乗って戦い戦果を上げる事で、アムロの事をニュータイプではないかと噂されるようになった。

ジャミルとアムロ。

2人が会話をする中で、トニヤは操舵士のシンゴにヒソヒソと話し掛けて居た。

 

「ねぇ、大尉って事はあの人軍人なの?」

 

「えぇ!? そうなんじゃないか」

 

「でも戦争が終わったのはもう昔の話じゃない。今もまだ階級付けて自分の事呼ぶなんて痛くない?」

 

「それに、宇宙でもないのにノーマルスーツ着てるしな」

 

「ねぇ~、だっさい」

 

2人が関係のない話をして居る時、モニターに表示される異変にサラは気付いた。

操作して居ないし、報告も受けて居ないハッチが開放されて中からバギーが走り去って行く。

 

「キャプテン、4番ハッチが開いてます!! あのバギーは」

 

「拡大しろ!!」

 

拡大される映像。

逃げるバギーのシートに座るのは見た事のない少年と、救出した筈のティファ・アディール。

 

「ティファ……すぐに追い掛けるぞ。フリーデン、全速前進」

 

ジャミルは話を切り上げ、フリーデンを動かし追い掛ける。

アムロはモニターに映ったティファを見て、心のなかで静かに思う。

 

(彼女がティファ・アディール……不思議な感覚だ)

 

///

 

バギーを走らせるガロードはティファを隣に乗せて、依頼主が待つ合流ポイントを目指した。

舗装されて居ない荒野でも、この車なら問題なく移動する事が出来る。

排気ガスと砂煙を撒き散らしながら、フリーデンとは反対方向に走った。

 

「上手く行った。後は引きちぎるだけだ。ティファ、しっかり捕まってろよ」

 

「はい」

 

静かに応えるティファ。

ゆっくりと後ろを振り返り、今まで自分が居たフリーデンの姿を視界に入れる。

けれども本当に見て居るのは、目に映るモノではない。

伝わって来る感覚を頼りに、彼女はもう1度名前を呼んだ。

 

「アム……ロ……」

 

「うん? 何か言った?」

 

「いいえ」

 

「すぐに着くからな。少し我慢してくれよ」

 

シフトレバーを握るガロードはギアを上げ、フルスロットルでバギーを加速させた。

荒野を抜け、細い林道を進んだ先。

予定した合流ポイントには、依頼を頼んで来た老紳士が立って居た。

ブレーキを踏みバギーを停止させるガロードは、エンジンは掛けたままシートから降りる。

 

「よぉ、オッサン。言われた通り助けて来たぜ」

 

「素晴らしい。時間もピッタリだ」

 

「高い報酬が掛かってるんでね。さぁ、ティファ。もう大丈夫だ。このオッサンと――」

 

老紳士の足元に用意されて居るのは幾つものアタッシュケース。

ガロードは報酬と引き換えにティファを引き渡そうとするが、少女の顔は恐怖に引きつって居た。

震えだす体、定まらない視点。

 

「あぁ……あっ……ああぁ……」

 

「ティファ?」

 

「さぁ、ガロード君。彼女をこちらへ」

 

「たす……け……て……」

 

震える声で、風にかき消されそうな程の小さな声で。

けれどもその一言を聞いたガロードは、自分が次にやるべき事を見出した。

バギーの運転席に飛び乗り、クラッチを踏み込んでギアを入れる。

アクセルを全開にして、目の前の老紳士を引き倒すつもりで突っ込んだ。

 

「なっ!?」

 

飛び退く老紳士。

ガロードは報酬に目もくれず、一目散にこの場から逃げ出した。

 

「ティファ、これで良かった?」

 

「ありが……とう……」

 

「ヨシ!! こっからまだド派手なドライブになるぜ!!」

 

逃げるガロード。

だが後方からは、意地でもティファを捕まえようとモビルスーツまで借りだして追手が迫る。

バックミラーに映る3機のモビルスーツ。

手には武器を手にしており、逃走は困難を極める。

 

「チッ!! モビルスーツまで出して来るのかよ」

 

「ガロード……あそこへ……」

 

ティファが指差す先。

そこに見えるのは、旧連邦軍のモビルスーツ工場跡。

辛うじてまだ、建造物としての形状は保って居るが、モビルスーツ工場としての面影はもうない。

至る所にゴミや瓦礫が散乱した状態。

 

「あそこに行けば良いのか?」

 

「はい……」

 

「わかった!!」

 

更にバギーを加速させる。

けれども追手は2人を逃がす筈もなく、モビルスーツが装備したライフルがバギーを狙う。

発射される弾丸。

1発でも当たれば車は大破、搭乗者も生き残れない。

それでもギリギリ外れるように放たれた1発は、バギーに当たる所がキズも付かない。

右へ左へ蛇行運転するバギーに照準を合わせてトリガーを引く。

だがそのどれも、寸前の所でかわされてしまう。

ハンドルを握るガロードの隣で、ティファが逃げる先をナビゲートして居た。

 

「次は右です。そのまま真っ直ぐに」

 

言われた通りにハンドルを切れば、弾丸はバギーと離れた所に着弾する。

ガロードはティファのナビゲートを信用しながら、モビルスーツ工場へ侵入した。

電気が通ってる筈もない古びた工場の中、ヘッドライトだけが視界を確保してくれる。

 

「なんとか着いた。でも、何で弾が来る位置がわかったんだ? まるでエスパーみたいだ」

 

「そのせいで私は狙われて居ます。ニュータイプの力……」

 

「ニュータイプ? ティファはそのニュータイプなのか? だからアイツラやバルチャーに狙われるのか?」

 

「ガロード……あれを……」

 

質問には応えないティファは、ある1点を指差した。

その方向にヘッドライトを向けると、見えて来るのは白い巨人。

 

「あれは……ガンダム……」

 

息を呑むガロード。

15年前に開発された伝説の機体。

思わず立ち上がると、鳥肌が立つのがわかる。

ティファもバギーから降りると、ゆっくりとガンダムに向かって歩いて行く。

だが、悠長にして居る時間はなかい。

外側からの攻撃で、工場の外壁は破壊された。

飛び散るコンクリート片、大量の砂煙。

その方向を鋭い視線で見るガロードは、バギーから飛び出し歩くティファの手を掴んで走った。

 

「あの機体に乗ろう。そうすれば勝てる!!」

 

仰向けに寝る白い機体。

ガロードはティファの体を抱えて、装甲の隙間を足場にしてコクピットへの登って行く。

その間にも、追手の3機が工場内へ侵入して来た。

 

『もう逃げられないぞ、ガロード君。彼女をこちらに渡すんだ。うん、アレは……』

 

量産機であるドートレスに乗る老紳士は、装備するライフルを突き付けて勧告した。

だが少年と少女はそれを無視して、内部に置かれて居たモビルスーツに乗り込む。

この男もまた、目の前の伝説の機体に目を見開いた。

 

『ガンダムだと!? どうしてこんな所に!!』

 

『動かれる前に破壊します!!』

 

味方のドートレスが銃口を向け、躊躇わずにトリガーを引く。

発射される弾丸は確実に白い装甲へ直撃し、ガンダムを激しく揺らす。

コクピットのガロードは敵からの攻撃に驚きながらも、全くダメージを受け付けてない装甲に目を見張った。

 

「全然壊れない。コイツの性能なら!! って、あれ? 操縦桿がない!!」

 

本来在るべき筈の、右手で操縦する為のレバーがぽっかりと失くなって居た。

これでは動かす事も出来ず、破壊されなくてもガンダムごと連れて行かれるだけだ。

尚も敵は攻撃を続けて来るが、いつまで経っても動かなくては相手もすぐに感づく。

焦るガロードだが、解決策は見つからない。

コンソールパネルを叩いても、ペダルを踏み込んでも、何をしてもガンダムは全く動かなかった。

 

「どうする? 折角のガンダムでもこれじゃ宝の持ち腐れだ。それにコクピットから出る事も出来ない」

 

「ガロード、コレを」

 

ティファはガロードの服に手を伸ばすと、フリーデンの金庫から盗んで来たコントロールユニットを取り出した。

それを見たガロードは笑みを浮かべて、コントロールユニットを受け取る。

 

「コイツで動かせるんだな、ティファ? 行くぜッ!!」

 

握るコントロールユニットを接続させる。

形はピッタリはまり込み、遂にガンダムのエンジンが機動した。

 

「動いた!? これなら!!」

 

ツインアイが輝き、ガンダムはゆっくりと動き出す。

攻撃を受け続けながらも、地面に足を付け上体を起き上がらせる。

 

「良いぞ、このまま。立て、立てよ~」

 

『ガンダムが動き始めた!?』

 

『怯むな、このまま撃ち続けろ!!』

 

「こんな奴らに負けてたまるか!! 立つんだ――」

 

 

 

第2話 立て!! ガンダム!!

 

 

 

動き出したガンダム。

量産機であるドートレスでは、もはや止める術はない。

 

「今まで散々追い掛け回してくれたな、今度はこっちの番だ!!」

 

『後退しろ、撤退だ。撤退するんだ!!』

 

「逃がすかよ!!」

 

工場内から逃げ出す3機のドートレス。

ガロードはバックパックにあるビームサーベルを引き抜き、逃げるドートレスに向かってジャンプした。

 

『う、ウワァァァッ!?』

 

「落ちろォォォッ!!」

 

ビームサーベルの刃が背後から迫る。

軽々と上を取るガンダムは腰部へビームサーベルを振り下ろし、ドートレスを真っ二つに両断した。

着地するガンダム、それに続いて斬られたドートレスが爆発を起こす。

 

「ビームサーベルが標準装備されてる。やっぱりガンダムってすげぇ!!」

 

『たった一撃で!? ガンダムが何だって言うんだ!!』

 

『止せ!! 勝てる相手ではない!!』

 

指揮を取る老紳士は逃げる事を優先するが、仲間を殺された事で逆上したもう1人のパイロット。

腰部のヒートサーベルを手に取り果敢にもガンダムへ突撃した。

 

「来るのか!? 至近距離でエンジンが爆発したらマズイ!!」

 

ヒートサーベルを片手に飛びかかるドートレス。

モビルスーツの爆発を避けようとするガロードはコクピットに狙いを定め、迫り来る敵機にビームサーベルを突き立てた。

 

『――――』

 

ビームサーベルの高熱はパイロットを髪の毛1本と残さない。

自分が死んだ事さえも気付かずに、ガンダムのビームサーベルはコクピットに突き刺さった。

パイロットが居なくなった事で力を失う機体。

ガロードは撃破した機体を捨て、逃げる最後の1機を目指して追い掛けた。

 

「逃がすもんか!!」

 

///

 

ティファを追い掛けるフリーデンは、戦闘による爆発をキャッチする。

レーダーですぐに方角と位置を確認し、クルーがそれぞれの仕事を進めた。

爆発が起こったのは旧連邦軍のモビルスーツ工場。

オペレーターのサラがこの事を伝える。

 

「キャプテン、場所がわかりました。西へ3キロの方角です」

 

「モビルスーツをいつでも出せるようにしておけ」

 

「はい。ですが、他の位置からもモビルスーツの反応が。恐らくさっきの爆発で嗅ぎ付けて来た可能性が」

 

「乱戦になれば救出するのが困難になる。急ぐしかない」

 

レーダーに反応するモビルスーツの数は時間が経過するごとに増えて行く。

モビルスーツ乗り達が自前の機体を頼りに、爆発元に向かって進んで行った。

僅かでもパーツを確保出来れば金に変える事が出来る。

自分の機体に使う事も出来る為、モビルスーツ乗り達はハイエナのように増えるばかり。

その様子を見守るアムロ。

 

「キャプテン、俺も出よう。モビルスーツで出た方が早い」

 

「良いのか?」

 

「乗りかかった船だ。ライフルだけ借りるぞ」

 

言うとアムロはブリッジを後にして、モビルスーツデッキに向かう。

歩いて来た通路を戻りデッキにまで来ると、既に2機のガンダムは出撃して居た。

広い空間でνガンダムだけがハンガーに固定されており、機体の足元にまで来るとハッチから伸びるワイヤーを手に取る。

コクピットにまで上昇しようとした時、背後から声が掛かった。

 

「アンタがこの機体のパイロットかい?」

 

「キミは?」

 

「俺はこの艦でメカニックをしてるキッドってんだ。時間がなかったけど、推進剤だけは補充したからな」

 

「キミのような子がモビルスーツのメカニック?」

 

「そうさ、なんたって天才だからね。それよりもライフルを使うんだろ? ジャミルから聞いてる。アレを使ってくれ」

 

キッドが言う先には、ビームライフルが1丁壁のアンカーに固定されて居る。

目でちらりと確認するアムロは、握ったワイヤーを巻き取らせた。

 

「わかった。助かる」

 

「おう、死ぬんじゃねぇぞ」

 

ハッチまで上昇するとコクピットシートに滑り込み、コンソールパネルを叩きエンジンを起動させる。

光るツインアイ。

ゆっくり歩き出すνガンダムは壁のビームライフルのマニピュレーターを伸ばす。

右手に武器を装備し、開放されたハッチから外に出る。

メインスラスターから青白い炎を噴射し機体をジャンプさせるアムロは、開放されたままのハッチから直接

外の景色を覗く。

冷たい夜風が、額に滲む汗を乾かす。

 

「本当にここは俺が知ってる地球なのか? 頭が混乱して居る。どうなって居るんだ?」

 

頭を抱えながらも、今は目の前の事態に集中する。

それでも不安は拭えないが。

ジャンプを繰り返しながら進むガンダム。

戦闘が行われて居るであろう場所まではまだ少し時間が掛かる。

その最中、月から一筋の光が降りて来た。

 

「レーザー光線? いや、違う……」

 

 

ガロードのガンダムを起点として、周辺地域からモビルスーツが次々に現れる。

初めはティファの事を狙う3機のドートレスだけだったが、今やその数は10機を超えて居た。

更にはガンダムタイプともなれば、ハイエナ達の格好の的である。

幾ら性能が高くとも、四方八方を囲まれた状態で戦える程の技術をガロードは持ち合わせて居ない。

 

「一斉に集まって来やがった。頼むぜガンダム!!」

 

ペダルを踏み込み、リフレクターに隠れて居たメインスラスターから青白い炎を吹かす。

飛ぶガンダムは握るビームサーベルを敵に目掛けて振り下ろした。

装甲を容易く分断し、エンジンの爆発が大地を揺らす。

それでも次の時には四方から砲撃を浴びせられる。

 

「ぐああァァァッ!! クソッ、負けるもんか!!」

 

激しく揺れるコクピット。

歯を食い縛り、操縦桿を力の限り握り締める。

画面に映る敵を睨み付けるガロードは、兎に角前に出た。

作戦も何も考えず、機体の性能を頼りに突撃する。

 

「ウオオオォォォッ!!」

 

突き立てられるビームサーベルは敵機のコクピットを貫く。

だが、まだモビルスーツを2機倒したに過ぎず、ガンダムの前には20を超える機体が待ち構えて居る。

更なる攻撃と爆撃がガンダムを襲う。

 

「俺はまだ死なない!! 死んでたまるかぁぁぁ!!」

 

『ガンダムを倒せば一攫千金だ!! コクピットを狙え!!』

 

『腕1本でも大金だ!! ガンダムは俺達が倒す!!』

 

『パイロットを燻り出せ!!』

 

ガンダムに向けられる様々な思念、欲、憎悪。

ガロードはそれらに対して、生きる為に牙をむき出しにして立ち向かう。

ティファもその事に気付いており、静かに目を閉じると意識を集中させた。

そして開放されるガンダムの封印された力。

 

「ガロード……アナタに……力を……」

 

戦闘画面に突如として表示される『サテライトシステム』の文字。

苦戦するガロードは思わず目を見開いた。

 

「何だ!? こんな操作してねぇぞ!! サテライトキャノン? コレか!!」

 

接続させたコントロールユニットのガジェットを押し込む。

背部のリフレクターが展開され、背負って居たビーム砲を前面に向けグリップを掴む。

月から発射される照準用レーザーが、ガンダムの胸部に当てられる。

 

「4.03秒後にマイクロウェーブ!?」

 

「来ます」

 

月にあるマイクロウェーブ発振施設。

レーダードームから発射される膨大なエネルギーはガンダムに吸収され、リフレクターと身体各所に設置された青いエネルギーコンダクターが眩く光る。

 

「エネルギーチャージ完了。撃てる!! 行けぇぇぇ!!」

 

引かれるトリガー。

砲門からは、受信した膨大なエネルギーが一気に発射された。

余りのエネルギー量に周囲は閃光に包まれ、目の前に居たモビルスーツは光に飲み込まれる。

 

///

 

フリーデンのブリッジで戦況を見て居たジャミルはシートから立ち上がった。

月から発射されるマイクロウェーブ。

その光景は戦争が終結して15年経っても忘れる事はない。

 

「マイクロウェーブ!? ティファか!?」

 

ジャミルは瞬時に理解する。

そして自身の能力でティファへ必死に呼び掛けたが、苦しい思いをするだけで声は届かない。

 

「止めるんだティファ!! その兵器は……」

 

戦場へと向かうアムロもその光景を目にして居た。

 

「何だ、この感覚……プレッシャー……来る!!」

 

ペダルを踏み込みメインスラスターを全開。

機体をジャンプさせ数秒後、目の前を閃光が通り過ぎる。

サテライトキャノンから発射されたエネルギーが、集まって来たモビルスーツの全てを飲み込んだ。

装甲は数秒として保たずネジ1本残らない。

木々を薙ぎ払い、大地を焼き、発射線上のモノ全てを消し去る。

けれどもサテライトキャノンのエネルギーも無尽蔵ではない。

数秒後にはエネルギーは尽き、その場には何も残って居なかった。

高熱を浴びせられて地面に風が触れると、溶けたガラスが固体化し始める。

先行して居たウィッツとロアビィも発射線上から離脱した先でこの光景を見ており、その先に居るモビルスーツの戦闘力に舌を巻いた。

 

「なんつー威力してんだよ。アレもガンダムなのか?」

 

「GX-9900、とんでもない機体を作ってくれたもんだ」

 

「もう1発撃たれたらマズイぜ」

 

「あぁ、同感だね。でも、向こうさんはそうでもないみたいだぜ」

 

視線を向けた先では、サテライトキャノンを構えるガンダムに迫るアムロの機体。

 

///

 

コクピットの中でガロードは唖然として口を開ける。

目の前で起きた光景が目に焼き付き、それで居ながら信じられないで居た。

ビームの照射が終わって数秒、ようやく口から空気を吸うと頭の中で思考を巡らせる。

 

「すげぇ……これがガンダムの力……でも、これで邪魔な奴らは居なくなった。行こう、ティファ」

 

隣に座る少女に呼び掛けるガロード。

けれども彼女の表情は見る見る内に青ざめて、小柄な体が震え始める。

焦点の定まらない瞳。

耐え切れなくなったティファはあらん限りの金切り声を上げた。

 

「ティファ!? どうしたんだ、ティファ!!」

 

ガロードの声は彼女に届かない。

サテライトキャノンにより破壊された無数のモビルスーツ。

当然、中にはパイロットが乗っており、破壊されたと同時にこの世から消える。

死ぬ間際の絶望、痛み、恐怖、生への執着。

それらの感情全てが塊となり、感覚の鋭いティファは感じ取ってしまう。

まだ幼い少女に、それら全てを受け止められるだけの精神力はない。

 

「ティファ!! しっかりしろ、ティファ!!」

 

呼び掛けても反応すら返せず、そして金切り声は止んだ。

ティファは気を失い、ガロードの腕の中に倒れるとまぶたを閉じて動かなくなってしまう。

 

「クソッ、どうしたって言うんだ。レーダーに反応、まだ敵が居るのか?」

 

反応がある先にメインカメラを向ける。

そこから来るのはビームライフルを握る白いモビルスーツ、νガンダムの姿。

サテライトキャノンに脅威を感じるウィッツとロアビィとは違い、アムロは2発目が来ない事を確信めいて居た。

 

「たった1機であれだけの威力……戦略級の戦闘力を持って居るのか。だが、第2射はない筈だ」

 

「ならもう1発!!」

 

ガロードは操縦桿のトリガーを押し込むが、砲門からビームは発射されない。

そして月も、現れる太陽と入れ替わる。

 

「1回のマイクロウェーブで1発しか撃てないのか? 月も沈む。他の武器は?」

 

コンソールパネルを叩くガロード。

画面に表示された指示に従い操縦桿を動かしてリフレクターと砲門を収納し、バックパックにマウントされたビームライフルを引き抜く。

向かって来る白いモビルスーツに銃口を向けて、試し撃ちするようにトリガーを引いた。

発射されるビームは狙った相手とは程遠い所へ着弾する。

 

「ビームライフル、こんなのまであるのか。これなら!!」

 

次はしっかりと狙い、本気で当てるつもりでトリガーを引いた。

だがアムロの動きは早い。

銃口を向けられた時にはもう、回避行動に移って居る。

2発3発とビームを発射しても装甲にかすりもしない。

 

「はやい!?」

 

「さっきまでのプレッシャーが消えた? 敵意が弱い。あの少女とは違う、子どもか?」

 

「このっ、このぉぉ!! 当たれってんだ!!」

 

「素人か?」

 

アムロはビームライフルを向けトリガーを引いた。

逃げようとするガロードだが、ビームは右脚部に着弾。

簡単に攻撃を当てられてしまう。

 

「ぐぅっ!? さっきまでの相手とは違う!!」

 

「悪いが逃がす訳にはいかない」

 

技量の差を痛感するガロード。

それでもティファを守る為に、当たらなくてもビームライフルのトリガーを引き続け、リフレクターからエネルギーを放出してνガンダムから距離を取る。

だが、νガンダムから鋭い攻撃が迫った。

アームレイカーを操作して、回避しながらビームを撃つ。

正確な射撃はガロードのガンダムが握るビームライフルを撃ち抜き、その衝撃にマニピュレーターから手放してしまう。

 

「ライフルが!? ぐああァァァッ!!」

 

右脚部へまた直撃。

姿勢を崩すガンダムは背部から倒れこむ。

激しく揺れるコクピットで歯を食いしばるガロード、ティファの体を支えながらペダルを踏み込んだ。

リフレクターからのエネルギー放出量が増大し、νガンダムに背を向け機体を浮遊させる。

 

「ここまでは着いて来れないだろ。一気に突き放してやる」

 

「甘い!!」

 

2機の距離は離れるが、アムロは構わずにビームライフルで狙撃する。

ガロードは当然回避するが、避けた先を先読みしてビームは放たれた。

1発がリフレクターをかすめる。

 

「ウソだろ!? これだけ離れてるのに」

 

「次で当てる」

 

アムロの宣言通り、リフレクターにビームが直撃する。

推力を失うガンダムは地面へと降下して行く。

メインスラスターを吹かすガロードは着地と同時にビームサーベルを引き抜き、迫るνガンダムに向き直った。

 

「データにはないけど、向こうもガンダムなのか?」

 

「あのパイロット、来るのか?」

 

「こっちだってガンダムだ!! 負けてたまるか!!」

 

逃げて居たガロードは一転、ビームサーベルを片手にνガンダムへ走った。

戦略も何も考えずにただ突き進むのみ。

そんな相手に冷静に対処するアムロ。

積み重ねて来た戦闘技術と場数は、気力だけで埋まるモノではない。

アームレイカーを素早く動かし、ビームを2射。

迫るガンダムの直前で地面に直撃すると土煙を発生させ、前方の視界を効かなくさせる。

更に見えなくなった事に動揺するガロードは、機体の動きを止めてしまった。

 

「煙幕のつもりか。どこから……」

 

「遅い!!」

 

「っ!?」

 

気が付いた時にはもう遅い。

土煙の中がら現れたνガンダムはマニピュレーターを伸ばして頭部を殴った。

鉄と鉄とがぶつかり合う。

重く鈍い音が響く。

殴られるガロードは必死に操縦桿を握り締めるしか出来ないが、アムロは一方的にマニピュレーターを叩き付ける。

2発、3発、4発目が入った時にメインカメラからの映像にノイズが走った。

そして股座に膝を叩き込み、ガロードのガンダムは再び地面に倒れ込む。

 

「ぐぅっ!! ここまでなのか……」

 

「動くな。投降しろ」

 

アムロはビームライフルの銃口をコクピットに密着させて、中のパイロットに呼び掛ける。

動きを停止したガンダムだが、すぐに返事は返って来ない。

 

「この至近距離でライフルを撃てばこの機体でも耐え切れまい。彼女はコクピットに置いたまま、パイロットだけ外に出ろ」

 

「わかった……」

 

考えるが、もう他に選択肢がなかった。

素直に従うガロードはティファをコクピットシートに置いてハッチを開放させる。

生身でνガンダムと対面するガロード。

その後方からは、ティファを連れ出したフリーデンが見える。

 

///

 

フリーデンに収容される4機のガンダム。

その中でもガロードのガンダムは損傷が激しかった。

脚部、スラスターにも使用出来るリフレクター。

機体は破壊せずに、けれども動けなくする為に、ピンポイントで攻撃が当てられて居る。

メカニックのキッドはその有様を見て苦言を呈した。

 

「あ~あ~、派手にやってくれちゃって。修理に時間が掛かるぞ」

 

「だが完全に破壊した訳ではない。なんとか頼む」

 

「でも、そうなるとアンタの機体は後回しになるぜ?」

 

「それで良い。ある程度は自分でやるさ」

 

「あいよ。んじゃ、さっさと仕事に取り掛かるか!!」

 

言うとキッドは部下を呼び出し段取りを説明し始める。

アムロはその場を後にして、病室へ担ぎ込まれたティファの元へ向かう。

通路の進むその途中、腕を後ろに回され両手首に手錠を掛けられたガンダムのパイロット、ガロード・ランとジャミル・ニートがそこに居た。

足早に近づくアムロはジャミルに呼びかけた。

 

「キャプテン、彼女の容態は?」

 

「2日は絶対安静だ。フリーデンは暫くここに留まる」

 

「そうか。それで、キミがガンダムのパイロットだな?」

 

視線を交わすアムロとガロード。

でもガロードは鋭い目付きで敵意をむき出しにする。

 

「キャプテン、彼と話しても良いか?」

 

「構わんが、いつ逃げ出すかもしれん。営倉の中になるが」

 

「それで良い。鍵はあるか?」

 

言われてジャミルは上着から鍵を取り出しアムロに手渡した。

受け取るアムロはガロードを引き連れてこの場から去って行く。

そしてジャミルは病室のティファの元へと向かう。

通路を歩いて暫くすると、鍵に付けられた番号札と同じ部屋番を見付けた。

アムロは扉を開け、ガロードを中に居れると自分も一緒に入る。

壁に備え付けられた電源を押し、部屋の中に明かりが付いた。

 

「俺はアムロ・レイ。キミの事は何と呼べば良い?」

 

「言いたくないね。どうしてテメェなんかに!!」

 

「わかった、言いたくないならそれで構わない。こっちは少々聞きたい事があるだけだ」

 

「素直に応えると思う?」

 

「キミが言わないなら彼女に聞く事になる」

 

「っ!! ティファの事か!?」

 

「嫌なら応えるんだ」

 

脅迫じみたやり方ではあるが、質問に応えさせるにアムロはこれを選んだ。

抵抗しようにも、満足に動けないガロードにはどうしようもなく、悔しい表情をあらわにして頷いた。

 

「良し。まずは1つ目だが、このフリーデンは地球連邦のモノなのか?」

 

「はぁ? 何馬鹿な事言ってんだよ。地球連邦なんてとっくの昔に失くなってるだろ」

 

「だったらこの艦はジャミル個人のモノなのか?」

 

「そんなの本人に聞けば良いだろ? だからバルチャーなんてやってんだろ」

 

「バルチャー……なんとなくだが理解した。もう1つ聞くが、何で地球連邦は失くなったんだ?」

 

「アンタも変な奴だな。今の地球に生きてる人間で、そんな事聞く奴なんて1人も居ないぜ?」

 

「頼む、何もわからないんだ」

 

アムロの様子を見て、ガロードは少しずつ警戒心を解いて行く。

自身も言った様に、このような事を聞いて来る人間など初めてだし、冗談で言って居る様には見えない。

肩に入れて居た力を少し緩め、備えられたベッドに腰掛けまた口を開く。

 

「15年前の戦争。まさかコレも知らないなんて言わないよな?」

 

「続けてくれ」

 

「俺もそんな細かな事まで知ってる訳じゃないけどさ。宇宙で戦争してた地球連邦と宇宙革命軍ってのが居てさ。革命軍は勝つ為にスペースコロニーを地球に落としたんだ」

 

(15年前の戦争、宇宙革命軍、また知らない単語か)

 

「んでもって、地球は穴ぼこだらけになって、とても人の住める状態じゃなくなった。人間も殆ど死んじまって……」

 

(15年も前にそんな戦争はない。宇宙革命軍もな。だが地球の状況は大まかにはわかった。どうやら俺が思ってる地球とは違うらしい。それでも節々に共通点があるのが気になるな)

 

宇宙世紀0093、地球連邦軍とネオ・ジオンとの2度目の戦争。

少なくともその時の地球圏の状況とはかけ離れて居る。

考えるアムロだが、これだけの情報で結論を導き出す事は出来ない。

 

「あんた、アムロってんだろ? 見た感じ大人なのに、どうして知らないんだ? 俺でも知ってるくらいだぜ」

 

「そうだな……7年……」

 

「7年?」

 

「地球連邦のパイロットとして戦ってた俺は、戦争が終わった後に怖くなったんだ」

 

「怖い?」

 

「あぁ、笑うかい? それから7年、俺はずっと外に出る事もなく幽閉されて居た」

 

「7年も……それで……」

 

(上手く誤魔化せたと思いたいが……兎も角、情報を集めるしかないか)

 

区切りを付けるアムロは鍵を取り出し、ガロードに掛けられた手錠のロックを外す。

もう1度向けられるガロードの視線は、初めて出会った時と変わって居た。

 

「良いのか?」

 

「この部屋からは出さないがな。大人しくして居れば、ジャミルも出してくれるだろ」

 

「なぁ、ティファは大丈夫なのか? あの子、凄く苦しんでたんだ」

 

「彼女なら大丈夫だ。感覚が敏感過ぎて、受け止め切れなかったんだろ。あのガンダムのビーム砲でキミは窮地を脱したつもりだったのだろ? だが同時に大勢の人間が死んだ」

 

「でもそれは!!」

 

「わかってるつもりだ、必死だったんだろ。俺も昔はそうだった。でも彼女はそれに耐える事が出来ない。だからさ」

 

「俺の……せいなのか……」

 

「悲観する事はない。キミはこの時代を生き延びて来たんだろ? だったら――」

 

 

 

第3話 キミは今、何を為す?

 

 

 

うつ向くガロードに、アムロはこれ以上何も言わない。

静かに部屋から出て扉を施錠すると、ジャミルが居るであろう医務室を目指して歩いた。

 

(あの時ガンダムに乗ってから13年も経っちまった。当時の俺と比べたら、まださっきの少年の方がたくましい。昔の俺だとあぁはなれないだろ。俺はこの先、どう生き延びる?)

 

長い通路を歩きながらアムロは考えた。

行く宛もない世界で、何を支えにして生きて行けば良いのか。

かつてのスペースノイドはその支えを自ら作った。

ジオン公国、光さえも届かぬ宇宙でスペースノイドが心の支えにしたモノ。

そしてジオン・ズム・ダイクンの提唱してニュータイプ論。

人と人とが誤解なくわかりあえる存在。

その答えは自身で見つけるしかない。

 

 

アルタネイティブ社に1人のモビルスーツ乗りが乗り込んで来た。

ガンダムヴァサーゴ。

赤い装甲に黒い翼。

終戦後、連邦軍がモビルスーツの開発技術をより高度なモノへ発展させた事を窺わせるこの機体。

パイロットの名はシャギア・フロスト。

アルタネイティブ社のラボで、彼はソファーに座りながら総責任者であるフォン・アルタネイティブと交渉を進めて居た。

 

「お前の目的は何だ?」

 

「ですから、何度も申し上げて居る通りです。私をここで雇って欲しいのです」

 

「貴様のような何処に居るともしれんモビルスーツ乗りを? 馬鹿馬鹿しい」

 

フォンは交渉を持ち掛けるシャギアを鼻で笑う。

物資も資源も限られてる今の時代、彼は地位を得る事で全てを手にして来た。

金も、食料も、資源も。

巨大企業の後ろ盾もある。

贅沢を尽くす彼の体は脂肪ででっぷりと膨れて居り、シャギアの事を見下すように見た。

 

「確かにモビルスーツを動かす技術は普通の奴よりも多少は出来るみたいだが、そんなモノなど探せばすぐに見つかる。貴様は――」

 

「数日前、ティファ・アディールと言う少女がこのラボから連れ去られたようで」

 

シャギアの言葉に息を呑む。

この事を知るのはファンと、奪還命令を下した数名の部下のみ。

額から汗を滲ませ、動揺を隠すべくメガネのレンズ越しにシャギアを睨んだ。

 

「どこから情報を入手した?」

 

「フフフッ、企業秘密です。雇って頂けるのならお教えしましょう」

 

「何が狙いだ? 金か?」

 

「彼女が連れ去られたのは1週間前。このラボに、バルチャーが襲撃を掛けて来た。急いで彼女を奪還すべく部隊を派遣するが、返り討ちにあい今に至る。なんでも相手は、旧連邦のモビルスーツであるガンダムが現れたとか」

 

「随分と詳しいようだな」

 

「この時代を生き延びるには、情報は幾らあっても困りません。それに、手間と時間を掛けて居ますので」

 

更に警戒心を強めるフォンは、デスクの引き出しに忍ばせた拳銃を手に取ろうと静かに視線を向ける。

シャギアに動きがない事を確認しながら、ゆっくりと手を伸ばす。

ソファーに座り足を組むシャギアはフォンに視線すら向けて居ない。

 

「そして、ティファ・アディールがこのラボで何をされて居たのかも知って居ます。彼女が持つ特殊な能力。15年前の戦争の時に居たとされるニュータイプなのだとしたら、その価値は大きいですね。このアルタネイティブ社を更に大きく出来る。ですがこんな事、無闇矢鱈と言える訳がありません。だから奪還部隊も最小限、最重要機密の彼女の存在を知られる訳にはいかない」

 

「凄いね、ここまでの情報を入手して居るとは。わかった、キミを――」

 

拳銃を取り出したフォンは素早くその銃口をシャギアに向けた。

トリガーに掛けられた指。

躊躇なく、力強く引き金を引こうとした瞬間。

響く銃声。

弾丸はソファーの皮を突き破る。

けれどもそこにシャギアの姿はもうない。

瞬時に駆けると銃を握る右手を捻り上げ、相手から武器を奪い取る。

 

「ぐぅっ!?」

 

「これで私の実力は把握出来たと思いますが? さて、如何です? 雇って頂けますか?」

 

(拒否すれば、その引き金を引くつもりか!? こんな小童にこのワシが!!)

 

突き付けられる銃口、フォンに選択肢はない。

黙って首を縦に振りシャギアの提案に賛同の意思を示す。

抵抗する気はもはや微塵も失くなってしまい、シャギアもそれを感じると銃をジャケットの中に入れる。

 

「ありがとうございます。必ずやティファ・アディールを取り戻して見せましょう。では手始めに、これからの動向を探る為にも占いでもしましょう」

 

言いながらソファーに戻り、再びジャケットに手を伸ばすと今度はタロットカードを取り出した。

両手の中でカードをシャッフルし、備えられたガラスのテーブルの上にカードを並べていく。

 

「カードなどで。そんな事をしとる場合なのかね?」

 

「既に向こうには私の弟を送り込んで居ます。上手く行けば、今頃は内部に潜り込んで居る筈です」

 

「弟だと?」

 

「えぇ、とても優秀なね。さて、占いの結果が出ました。これは……」

 

手に取ったカードは悪魔のカード。

じっと見つめるシャギアはニヤリと口元を歪めた。

 

「悪魔のカード……」

 

「ワシはカードの事などわからんが、悪魔とは穏やかじゃないな。良くない事が起こる前触れか?」

 

「いいえ、とんでもない。ここは動くべきです」

 

窓の外から差し込む太陽の光。

それは幾重にも屈折して悪魔のカードに反射する。

 

(オルバなら大丈夫だ。だが、奇妙なモノだ。これではまるで――)

 

 

 

第4話 白い悪魔

 

 

 

翌朝、艦長室で話をするのはジャミルと着替えを済ませたアムロ。

互いに向き合いながらシートに座る2人は、これからの事を話して居た。

 

「それで、どうしてあんな所に? あのモビルスーツの事も気になる」

 

「あぁ、全てを明確に応えられる訳ではないが、それでも良いか?」

 

「構わない。私も同じようなモノだ」

 

「そうか。戦争が終わってから、俺は連邦軍に幽閉されて居た。けれどもそこから逃げようともせず、7年もそこに居た。戦いが怖い、と言うよりも宇宙が怖かった。でも、そこからの記憶は酷く曖昧だ。どうしてあんな所にガンダムと居たのか、俺にもわからない」

 

「宇宙が……私はあの戦争が終わって、モビルスーツに乗るのが怖くなった。今でもコクピットに入れば、手が震える」

 

「不思議だな、どこか似たような所がある」

 

「全くだ」

 

微笑を交わす2人。

それでもまだ、アムロの心の中では混乱したままだ。

 

(自分でもまだ、本当の事がわかっちゃ居ないんだ。ここが何処なのかも、これから何をするのかも)

 

「それで、これからどうするつもりで? 行き先はあるのか?」

 

「ないよ。でもいつまでもここで厄介になる訳にもいかない。少しすれば、ガンダムと一緒に出て行くよ」

 

「だったら、ウチに雇われてくれないか?」

 

「フリーデンに?」

 

「そうだ。今までの戦闘でわかった。アナタの腕は相当なモノだ。それに、もしかしたらニュータイプかもしれない」

 

「やけに拘るな、ニュータイプに。前にも言ったが、俺はそんな立派なモノではない。ニュータイプの成り損ないの、ただの男だよ」

 

ニュータイプを否定するアムロ。

1年戦争の時、確かにララァ・スンとわかりあう事が出来た。

時の流れさえも自由に変えられると思ったが、いつまでも彼女の幻影に縛られる事をアムロは望まない。

けれども、シャアはニュータイプである彼女に執着した。

ニュータイプに囚われて周りが見えなくなったシャアが歩んだ歴史。

それは、彼に何も残さなかった。

 

「アムロ、私もかつてニュータイプと呼ばれた。あの戦場で戦い、そして引き金を引いた。ニュータイプは戦争の道具として扱われ、そして死んで行ったモノも多い。私はもう、あんな悲劇を繰り返したくはない。だが、あれだけ凄惨な戦いがあっても尚、ニュータイプを使う人間は居る。だから助けたい……かつての私のようになって欲しくない。だからティファを助けた」

 

「あの少女の事か。だがジャミル、こんな事をして居ても――」

 

爆音が響く、艦内が揺れる。

話を切り上げてシートから立ち上がる2人。

視線を合わせて意思の疎通をすると、部屋を出てブリッジに走る。

 

「状況は?」

 

ジャミルは艦長シートまで来ると、モニターを見て何が起こったのかをサラに聞く。

一緒に来たアムロも、モニターに表示された映像に視線を向けた。

見えるのは地上を高速で移動する黒いモビルアーマー。

コンソールパネルを叩きながら、オペレーターのサラは的確に状況を報告する。

 

「こちらへの攻撃ではありません。黒い機体がバルチャーに追われてます。どうしますか?」

 

「フリーデンはまだ動けん。ウィッツとロアビィをいつでも出撃出来るようにしろ」

 

「了解です」

 

指示に従い動くサラ。

7機ものモビルスーツが一方的に黒い機体を追い回す。

その状況を見るアムロは1歩前に出た。

 

「キャプテン、俺も出よう。敵の母艦も近い。数は多い方が良いだろ」

 

「だが、あのガンダムの修理はまだ出来てない」

 

「やりようはあるさ。またライフルだけ借りるぞ」

 

モビルスーツデッキに行こうとするアムロ。

けれどもジャミルは、その背中を呼び止めた。

 

「待て……これを使え」

 

差し出したのはガンダムに使用するコントロールユニット。

立ち止まるアムロはそれを受け取り、物珍しそうに凝視した。

 

「何だ、コレは?」

 

「GXのコントロールユニットだ。これがなければGXは起動せん」

 

「GXだと? あの白いガンダムか」

 

「アムロ、お前が乗ってくれ。GXに」

 

「俺が……」

 

一瞬、躊躇するアムロ。

けれどもそんな時間はなかった。

黒いモビルアーマーを追うバルチャーの機体、ジェニスがフリーデンの居場所をキャッチしてしまう。

3機のジェニスがフリーデンに迫る。

 

「わかった。俺が乗る」

 

「頼む」

 

コントロールユニットを握るアムロはブリッジを出てモビルスーツデッキへ走った。

けれどもその心中は複雑であり、心の奥に押し込んでハンガーのGXの前に立つ。

 

「アムロがGXに乗るのか?」

 

「キッド? あぁ、そうなった」

 

「まだ修理は完璧じゃないんだ。右足の駆動系はなんとかしたけど、スラスターの出力は充分じゃない」

 

「わかった。助かるよ」

 

「次は壊すんじゃねぇぞ」

 

「そのつもりだ。行って来る」

 

言われてアムロはハッチから伸びるアンカーを掴む。

上昇するアンカーは体をコクピットにまで運び、アムロはGXに乗り込んだ。

 

「全天周囲モニターじゃない。操縦桿もスティック式か。コントロールユニットは……ここか?」

 

コクピット内部の構造に疑問を浮かべながらも、ジャミルから受け取ったコントロールユニットを差し込む。

エンジンが起動しツインアイが光る。

シートベルトを装着して、両足を軽くペダルに乗せると、GXを動かす。

 

「起動したな。GX、出るぞ」

 

背部のリフレクターを少しだけ開けエネルギーを放出させ、GXはフリーデンのハッチから飛び出した。

地上をホバーリングのように移動しながら、操縦桿で感触を確かめる。

 

「操縦方法は殆ど変わらない。これなら行けるか?」

 

バックパックからビームライフルを取り、向かって来る3機のジェニスを視界に捉える。

射程距離からは少し離れて居るが、構わずにトリガーを引いた。

発射されたビームはジェニス頭部をかすめ、次の瞬間にはコクピットのすぐ横へ直撃する。

機体はまだ動くがコクピット内部にまでダメージは到達しており、パイロットは飛び散る機械部品で皮膚を突き破られ動けない。

操縦桿を手放し、機体はそのまま地面へと倒れ込む。

 

「時間は掛けられない。一気に叩く!!」

 

ペダルを踏み込むアムロ。

GXは更に加速し、残る2機へ距離を詰める。

 

『相手は1機だ!! 撃ち落とせ!!』

 

『パイルをやりやがったな!!』

 

「そんな腕では!!」

 

モビルスーツを動かせるだけで、パイロットは戦闘訓練を積んだ訳ではない。

15年前の戦争で地球の大陸が姿形を変え、ようやく人が大地を踏み締める事が出来るようになってからバルチャーは現れた。

モビルスーツは元々は軍の兵器であり、一般人は触れる事さえ出来ない代物。

けれども時代は変わり、バルチャーやフリーのモビルスーツ乗りは捨てられたモビルスーツを修理、改修して自分のモノとした。

そんな彼らの戦い方は、武器を使って喧嘩して居るに過ぎない。

アムロはビームライフルを向け牽制射撃するが、その1発はまたしてもコクピットに直撃する。

 

「こいつら、素人なのか?」

 

『よくも白いヤツ!!』

 

「ちぃ、遅すぎる!!」

 

果敢にもメインスラスターを全開にしてGXに迫るジェニス。

腰部からヒートホークを取り出し右腕を振り上げるが、胸部インテーク部のブレストバルカンが火を噴く。

4つの砲門、高速で発射される弾丸は緑の装甲をズタズタに引き裂く。

破壊される内部部品からは煙が上がり、胸部周辺には無数の穴が開く。

握り締めたヒートホークを振り下ろす事も出来ずに、3機目のジェニスは地面に倒れた。

 

「残りは……さっきのモビルアーマーは? まだ反応はある」

 

ペダルを踏み込むアムロはGXをジャンプさせる。

だが地上をホバーリングのように移動して居た時とは違い、空中では機体の速度が出ない。

完全に修理が出来てないリフレクターはパイロットの操作通りに反応しなかった。

 

「パワーがダウンしてるのか!? 自分で蒔いた種だが……間に合うか?」

 

レーダーが反応する方角、黒いモビルアーマーの位置を見るアムロ。

4機のジェニスから依然として逃げるばかりだが、旧反転すると巨大な2本のクローアームのに内蔵されたビーム砲から強力なビームを放つ。

追い掛けるジェニスの1機は回避する事が出来ず、直撃を受けると機体は爆発した。

 

「逃げながら1機倒したか。やるな」

 

機体を地上に着地させるアムロは再びホバーリングで黒いモビルアーマーの元へ向かう。

3機に減ったジェニスは目の前の獲物にしか視線を向けておらず、背後から近づくGXのビームライフルが1機を撃ち抜いた。

 

「そこの黒い機体、右に回り込め」

 

『わかった……』

 

アムロは呼び掛けると、モビルアーマーはその指示に従い動く。

GXに接近を許すジェニスが振り返った時には、白い機体はもう眼前に居る。

 

『うああぁぁぁっ!?』

 

銃口を胸部に密着させトリガーを引く。

灼熱のビームに焼かれて機体は背部から倒れる。

鋭い視線を向けるアムロは素早く操縦桿を動かし、ビームライフルをバックパックに戻しビームサーベルのグリップを掴む。

 

「あと1機!!」

 

『やってやる!! 白いモビルスーツがなんだ!!』

 

相手のジェニスもすかさずヒートホークを手に取り振り下ろすが、アムロの攻撃の方が1手早い。

ビームサーベルのグリップを横一閃。

斬る一瞬にビーム刃を発生。

ジェニスの右腕は肘から斬り落とされ、次の瞬間にはコクピットに突き立てられた。

頭部モノアイから光が消え、力を失うジェニスは前に倒れ込む。

肩の力を抜いたアムロはコンソールパネルを叩き、待機して居るフリーデンに通信を繋げた。

 

「どうにかなったな。こちらアムロ、フリーデン聞こえるか?」

 

『こちらフリーデン。モビルスーツ全機撃破、お見事です。敵艦も後退して居ます。無理に追う必要はありません』

 

「そのようだな。帰還する」

 

『わかりました』

 

オペレーターのサラとの通信を終え、すぐ近くに止まる黒いモビルアーマーを見る。

さっきまでの戦闘で、その黒いボディーに損傷などは見られない。

 

「黒い機体のパイロット。無事なようだな」

 

『えぇ、救援感謝します』

 

「敵も引いたようだ。今の内にここから離脱しろ」

 

『それが、推進剤が残りわずかで。操縦系統も故障して反応が悪いんです』

 

「そうなのか? すぐ近くに艦がある。艦長に聞くくらいはしてみる」

 

『助かります』

 

黒い機体のパイロットは密かに笑みを浮かべた。

推進剤が残り少ないのは本当の事だが、操縦系統の故障はカムフラージュする為に意図的に作ったモノ。

少し機体を配線を入れ替えればすぐに直す事が出来る。

 

(これで作戦は次のステップに移る。ニュータイプの少女、ティファ・アディール。けれども何だ? この不愉快な感覚は?)

 

「良し、許可が下りた。付いて来てくれ」

 

「ありがとうございます……」

 

フリーデンに向かうGXと黒い機体。

動かない艦の個室の窓から、ガロードはアムロが戦う風景を見て居た。

普通のパイロットとは一線を越える戦闘技術。

そのあまりの強さに舌を巻き、同時にその力の差が悔しかった。

 

「あれが……ガンダムの戦い……」

 

///

 

モビルスーツデッキに収容される2機の機体。

黒い機体のパイロットと顔を合わせるフリーデンのクルー。

その先頭には艦長であるジャミルが立って居た。

 

「アナタがこの艦の艦長ですか?」

 

「ジャミル・ニートだ。ケガもないようで何よりだ」

 

「オルバ・フロストと言います。助けて頂いで感謝します。ですが、今は持ち合わせが尽きていまして。何か手伝える事はありますか? 助けて頂いたお礼がしたいんです」

 

「お礼だと? だったらこの艦で働いてくれ。訳あって、今はこの場から動けない。さっきのように敵の襲撃が来れば防ぎきれるか怪しい。だからその間だけ、雇われてくれるか?」

 

「構いません。ありがとうございます」

 

オルバと握手を交わすジャミル。

その後ろで、サラは見定めるようにオルバの事を見て居た。

 

「戦力が増えるのは良い事だろうけど、本当に大丈夫なのかな……」

 

意味深に呟く彼女。

その意味を理解出来ないシンゴはストレートに聞き返す。

 

「どう言う意味ですか? 戦力が増えれば動きやすくなるでしょ」

 

「それはそうだけれど……人手が欲しいのもわかるけれど……このままで問題ないのかなって。あのオルバって人だけじゃなくて、アムロもそう」

 

「考え過ぎですよ。大丈夫ですって」

 

「だったら良いのだけれど」

 

GXのコクピットから降りたアムロも、コントロールユニットを片手にオルバの姿を見て居た。

見た目には普通の青年にしか見えないが、脳裏に微かな違和感が走る。

 

「オルバ・フロストか……なんだろうな」

 

不信感を抱きながらも、アムロはティファが眠って居る医務室に向かった。

扉を開けて中に入ると、そこに居たのはティファだけではない。

 

「キミは……」

 

「アムロ……」

 

彼女が眠るベッドの傍、小さな花瓶に花を生ける少年。

ガロードは見つかってしまった事に一瞬動揺するが、暴れて逃げ出すような素振りは見せなかった。

そんな彼を見て、アムロも諭すように話し掛ける。

 

 

「営倉から逃げ出したのか。でもどうしてここに居る? キミならモビルスーツを奪う事だって出来た筈だ」

 

「ティファが居る限り、俺は逃げない!! 聞いたんだ、ティファはニュータイプだって。でもそんなの、この子には何の関係もないんだ。ティファはそんな力、必要としてない。それなのにアンタ達が追い掛け回して!!」

 

「そうだな、キミの言う通りだ」

 

「え……」

 

自分の言葉を肯定された事にガロードは拍子抜けしてしまう。

アムロは優しく視線を向けながら、自らの経験を語る。

 

「ニュータイプの事をどう捉えるかは人それぞれだが、それに盲目してはいけない。何て言うかな……俺の知り合いがそうだった。そしてソイツもニュータイプだった筈だ」

 

「ニュータイプって一体何なんだよ?」

 

「人と人とが誤解なくわかりあえる存在、そう聞いた事がある。でも、ニュータイプでなくたってわかりあう事は出来る筈だ。その逆もあるがな」

 

「アムロもニュータイプなのか?」

 

「それはキミが判断してくれ。ニュータイプでもそうでなくても関係ない。そうだろ?」

 

「わかった!!」

 

「そうか。もうすぐ人が来る。見つかる前に戻った方が良い」

 

アムロにそう言われ、ガロードは眠るティファの表情をちらりと見て、病室を後にした。

けれども部屋の扉を潜る寸前、立ち止まりアムロを顔を見る。

 

「まだ名前言ってなかったよな? 俺はガロード。ガロード・ラン」

 

「ガロードか」

 

「また来るよ」

 

そう言い残して足早に去って行く。

扉の傍で立つアムロはガロードの背中を眺めながら、暫くすると医師のテクス・ファーゼンバーグがやって来た。

 

「どうした? こんな所で」

 

「いや、何でもないさ」

 

「彼女の容態が回復するにはもう少し掛かる。安静にしてやってくれ」

 

医務室に入るテクスは、ベッドの傍の花瓶に目が行きメガネの奥の瞳が少しだけ険しくなる。

 

「花なんて誰が置いたんだ。患者には良くない」

 

花瓶ごと持ち去ろうとするテクスだが、アムロはそれを静止した。

 

「待ってくれ。少しの間だけで良い」

 

「だがな……」

 

「頼むよ。今日だけで良い」

 

アムロの言葉に頷くテクス。

ティファ・アディールは未だに目を覚まさない。

 

 

翌朝、ティファの容態が急変した。

数日安静にして居れば意識は回復する筈が、強力な毒により生死の境をさまよって居る。

テックスはすぐに病状を調べるが、解毒剤もなくフリーデンの設備でも治療は出来ない。

駆け付けたジャミルとアムロは彼女の表情を覗くが、依然として目を覚ます様子はなかった。

 

「テクス、コレは……」

 

「あぁ、首筋に針で刺した様な穴がある。何の毒かまではわからんが、このままでは1週間と保たない」

 

「内部犯……だが、何の為に……」

 

考えるジャミルだが、時は一刻を争う。

誰がやったのかも重要だが、彼女をどう救うのかも見付けなければならない。

その隣でアムロもティファを見て居ると、微かにだが感じるモノがあった。

 

「あの男なのか?」

 

「わかるのか? アムロ」

 

「あぁ、だとすれば奴は動くぞ。ジャミル、俺はモビルスーツデッキに行く。ティファを治療出来る施設は近辺にないのか?」

 

「あるにはある。だが、危険な賭けになる。ティファを救出したアルタネイティブ社の研究ラボ。あそこなら治療出来る筈だ」

 

「良し、ならそこに行くしかない」

 

即決するアムロ。

それは相手の戦力、情報を知らないからでもある。

対照にその事を知って居るジャミルは二の足を踏んでしまう。

 

「だが警備は厳重だ。それに前とは違って制圧する必要がある。ガンダムがあるとは言え……」

 

「あれだけの戦闘力を持った機体だ。それに相手の殆どは量産機、4機掛かりなら行ける」

 

言うとアムロは病室の扉を開けた。

瞬間、違和感を感じ、通路に出た先には話を盗み聞きして居たガロードの姿。

 

「ガロード……」

 

「マジィ、クソッ!!」

 

他のクルーには見付からないように逃げ出そうとしたガロードだが、アムロは上着を掴み動きを止める。

そして近くまで引き寄せ、真剣な眼差しでガロードを見た。

 

「さっきまでの話は聞いてたな?」

 

「ティファが死んじまうかもしれないんだろ?」

 

「そうだ、時間がない。ガロード、ティファが居る限りフリーデンから逃げない、昨日そう言ったな?」

 

「あぁ、言ったさ!!」

 

「だったら――」

 

黒いジャケットのポケットに手を入れるアムロ。

取り出したのはGXのコントロールユニット。

 

 

 

第5話 GXにはお前が乗れ

 

 

 

コントロールユニットを受け取るガロード。

けれども以前のアムロの戦いを見ており、自身がGXに乗る事に戸惑いを覚えた。

 

「俺があの機体に……でも俺は……」

 

「俺には俺の機体がある。良いか、ガロード。ティファを守りたい気持ちが力になる筈だ。後は俺がフォローする」

 

「俺に出来るのか? アムロみたいに……」

 

「それは違うぞ。ガロードの感覚で動けば良い。そうすればガンダムが応えてくれる」

 

「ガンダムが応えてくれる?」

 

「そうだ」

 

言うとアムロはガロードの肩を叩き、モビルスーツデッキに向かって走った。

コントロールユニットを握り締めるガロードは、医務室の開かれた扉からちらりとティファを覗き、思考を切り替えて全力で走った。

モビルスーツデッキでは、各メカニックが作業を進めて居た。

オルバ・フロストも自らの機体の調整作業をしており、意図的に組み替えた回線を元に戻し推進剤の補充を済ませる。

 

「これで準備は整った。艦の進路もアルタネイティブに向かって居る。予定通り」

 

機体のコクピットに乗り込み、エンジンを起動させモノアイが赤く点灯する。

操縦桿を握り目を閉じると、兄であるシャギアに念波を飛ばす。

 

(予定通りだよ、兄さん。奴らはアルタネイティブのラボに向かって居る)

 

(流石だ、オルバ。後はティファ・アディールを連れて戻って来るんだ)

 

(この艦のメインエンジンを破壊してね。それに今なら他のガンダムも潰せる)

 

モビルスーツデッキにはメカニックだけでパイロットは居ない。

オルバはペダルを踏み込みコンソールパネルを叩き、この機体の真の姿を見せる。

 

「どう言う事だ!? 誰が動かしてる!!」

 

「とにかく逃げろ!! 踏み潰されるぞ!!」

 

「さぁ、ガンダムアシュタロン。目障りなガンダムを潰せ!!」

 

歩き出すアシュタロンはビームサーベルを引き抜き、まず初めに目の付いたガンダムエアマスターに向かう。

そして、握るビームサーベルをコクピットに突き立てようとした。

瞬間、もう1機のガンダムが起動する。

 

「こんのぉぉぉ!!」

 

「ナニィッ!?」

 

もう少しの所でオルバは妨害されてしまう。

マニピュレーターで頭部を殴られて姿勢を崩すアシュタロン。

揺れるコクピットで歯を食いしばりモニターに映る相手を見た。

そこに居るのはガロードの乗ったGX。

 

「お前がティファを!! ティファをあんな目に合わせやがって!!」

 

「GXだと!? フン、まぁ良い」

 

バックパックのアトミックシザースに内蔵されたビーム砲を、今度はハンガーに固定されたガンダムレオパルドに向けた。

トリガーに指を掛ける。

 

「っ!? この感覚は?」

 

「やらせるか!!」

 

アトミックシザースを掴み上げるνガンダム。

銃口をレオパルドから反らし、その隙を付いてGXが更にマニピュレーターを叩き込む。

 

「吹っ飛べぇぇぇ!!」

 

一方的に殴られるアシュタロンは背部から壁面に激突する。

鳴り響く金属音。

激しい揺れ。

 

「やってくれたな、GX!!」

 

(どうしたオルバ?)

 

(もう少しの所で邪魔された。ガンダムの破壊は無理だ。でもティファ・アディールは狙える)

 

(ラボの部隊を率いて私もヴァサーゴで出る。ティファ・アディールだけでも連れて来るんだ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

念波で言葉を交わすオルバは操縦桿を握り直し、機体の姿勢を維持させてアトミックシザースを動かす。

けれどもビーム砲の銃口は相手に向けるのではなく、すぐ傍の壁に目掛けてトリガーを引いた。

ビームはフリーデンの外壁を吹き飛ばし、脱出出来るだけの大穴を開ける。

 

「これなら」

 

メインスラスターを吹かし素早く脱出するアシュタロン。

外へ出たオルバは、目標であるティファが眠る病室の壁をアトミックシザースで突く。

壁には容易く穴が開き、そこからマニピュレーターを伸ばしベッドごとティファを持ち出した。

ガロードのGXも急いで外に出るがその時にはもう遅い。

 

「フフフッさようならだ、GX」

 

「逃がすか!!」

 

ビームライフルを引き抜き銃口を向ける。

けれどもトリガーを引く前に、アムロがそれを静止した。

 

「撃つんじゃない。あの子に当たるぞ」

 

「そんな!? だったらどうしたら」

 

「奴が行く先はわかってる。俺達も追うぞ」

 

アムロはνガンダムに予備に保管されて居たビームライフルを持たせて、ガロードと共にアシュタロンの姿を追う。

行く先にあるモノは、ティファが囚えられて居たアルタネイティブ社の研究施設。

コンソールパネルに手を伸ばし、ブリッジのジャミルに通信を繋げる。

 

「ジャミル、こうなったらやるしかない。敵の増援も居る。あの2機のガンダムも出すんだ」

 

『わかった。こちらからも援護はする。だがアムロ、2人だけで先行し過ぎだ』

 

「危なくなったら引くくらいするさ」

 

νガンダムとGXはフリーデンを置いてアシュタロンの先にあるラボを目指す。

けれども待ち構えるのは、シャギア率いるガンダムヴァサーゴとドートレス部隊。

その数は20を超えて居る。

大部隊を相手にガロードは思わず目を見開く。

 

「なんて数なんだ。今はサテライトキャノンも使えないって言うのに!!」

 

「焦る必要はない、後方には味方も居る。目的は彼女を助ける事と、この施設の制圧だ。敷地内での戦闘は極力避けるんだ」

 

「んな事言ったって」

 

「言っただろ、サポートはする。今は目の前の敵に集中するんだ」

 

言うとアムロはまだ距離のある敵機に銃口を向けた。

射程距離からは外れており、今の位置で撃った所で当たる訳がない。

それでもアムロはトリガーを引いた。

敵が避ける先を予測して、向けられるプレッシャーにビームを放つ。

 

(こんな距離から!?)

 

驚くガロードはビームが向かう先を見た。

長距離狙撃は目標地点に到達するまでにビームのエネルギーが少しずつ放散して行く。

νガンダムが撃つビームも、狙った相手に届く頃には威力が減少して居る。

でもアムロは構わずにもう2回トリガーを引いた。

回避行動を移るドートレス。

初弾は地面へ当たり砂煙が舞い上がる。

だが移動する先を知ってるかのように、2発のビームはドートレスに直撃した。

頭部を吹き飛ばし右脚部にダメージを受けて機体は倒れ込む。

 

「来るぞ、ガロード」

 

「っ!?」

 

ドートレスの部隊が2人の目前にまで迫る。

ビームライフルを向けるガロードは照準を合わせ、とにかく敵を倒そうとトリガーを引いた。

GXから発射されるビーム。

それは一撃で敵機を破壊できるだけの威力がある。

だが幾ら強力でも当てられなければ意味はなく、回避行動に移るドートレスはコレを避けた。

 

(攻撃されれば普通避けるよな。だったら、何でアムロは当てられるんだ?)

 

アムロが乗っていた時と今とでは明らかにGXの戦闘能力が違う。

その力の差に劣等感を抱きながら、ガロードは戦っていた。

更にビームライフルのトリガーを引き、銃口から発射されるビームは3発目にしてようやくドートレスの胴体を貫く。

そうしてる間にも、隣のνガンダムは3機目を落とす。

 

「ライフルのエネルギーを使い過ぎだ。ここからの敵は無視するぞ」

 

「そんな事できるのかよ?」

 

「フリーデンから援護射撃も来る。俺の後ろに続けば良い」

 

言うとアムロは敵陣のド真ん中を突っ切るべく、メインスラスターの出力を上げる。

敵部隊から向けられる弾丸の雨。

νガンダムは各部スラスターとアポジモーターを駆使して軽快に動く。

ビームライフルで牽制しながら、被弾する事なく第1陣を突破する。

 

『早い!? アレがガンダムなのか?』

 

『背中がガラ空きだ。後ろから撃ち込め!!』

 

振り返るドートレスはGXとνガンダムに銃口を向ける。

以前として多い敵の数に、ガロードはどうしても後ろを気にしてしまう。

 

「敵が来る!? ガンダムでも耐え切れないぞ!!」

 

「ガロード、振り向くな!!」

 

次の瞬間、無数の爆撃がドートレスを襲う。

飛来するミサイルと砲撃、無数の弾丸。

背後からの攻撃にドートレス部隊は為す術がなく、機体は瞬く間に爆散。

後方から追い付いて来たフリーデンとガンダムレオパルドによる砲撃が、敵部隊を総崩れにする。

 

「フリーデンが来てくれた!!」

 

「あぁ、ラボに突入する。来れるな?」

 

「行くぜ!!」

 

GXとνガンダムはメインスラスターを全開にして一気に飛んだ。

防衛網を突破し、アルタネイティブ社はもう目と鼻の先。

けれどもまだ、2人の進む先を妨げる存在が居る。

高出力の赤黒いビームが大地を焼く。

 

「プレッシャー!? 来るのか?」

 

「ぐっ!!」

 

散開するGXとνガンダム。

現れたのは、その名前のように悪魔のようなフォルムをした機体。

シャギア・フロストが搭乗するガンダムヴァサーゴ。

 

「月もないままに現れるか、GX」

 

「あの見た目……アイツもガンダム……」

 

「伝説のガンダムタイプが2機。だが1人は素人か」

 

「もう少しって所で!! 邪魔だぁ!!」

 

ビームサーベルを引き抜き、ガロードはペダルを踏み込みGXを動かす。

余裕の態度を崩さないシャギアも機体にビームサーベルを握らせる。

だがアムロはマニピュレーターをGXの肩に触れさせると、接触回線でガロードを呼び止めた。

 

「待て、奴は俺が止める。ガロードは早く彼女を」

 

「アムロ、でも……」

 

「悩んでいられる程時間はない。動け」

 

前を見据えるガロードは、アムロの言う事に従いヴァサーゴを無視してラボを目指す。

シャギアもGXを追い掛けようとはせず、残るνガンダムと対峙する。

 

(オルバ、ティファ・アディールはどうなった?)

 

(今、ラボに到着した所だよ)

 

(そうか。GXがそっちに向かった。パイロットは素人だ。コクピットだけを潰せ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

「さて、もう1機のガンダム。貴様はここで退場して貰う」

 

ビームサーベルを構えるヴァサーゴはνガンダムと相まみえる。

 

///

 

ティファを連れてラボに戻ったオルバ。

アシュタロンを建物屋上に位置させ、ベッドを抱えるマニピュレーターをコンクリートの床に置く。

オルバが戻った事を知ったフォンと数人の研究者は、急いで屋上に駆け付けた。

 

「ティファ・アディールを連れ戻したのか?」

 

「アナタがこのラボの責任者ですね? 兄から聞いてるとは思いますが、私が弟のオルバ・フロストです」

 

「良くやってくれた。さぁ、彼女をこちらに」

 

「えぇ、ですがその前に」

 

空いたマニピュレーターを差し出すオルバ。

全てを言われなくとも、フォンは嫌悪感をむき出しにしながら要求に従った。

アタッシュケースを片手に持ち、差し出されたマニピュレーターの上に置く。

 

「念の為にケースを開けて頂けますか?」

 

「疑り深い奴だ。これで満足か?」

 

言われてケースを開けるフォン。

中には大量の紙幣が詰め込まれており、ティファを奪還した際の報酬がこれだ。

確認を済ませるとベッドを床に降ろし、アタッシュケースをコクピットへ運ぶ。

ハッチを開放してアタッシュケースをコクピットに入れるオルバ。

 

「彼女にはAPMを投与してます。すぐに処置を施して下さい。私は追って来るバルチャーの後始末に向かいます」

 

(後始末か……そうだな。後始末は付けなくてはならん)

 

メインスラスターを吹かしラボを後にするアシュタロン。

研究員はすぐにティファの眠るベッドを移動させ、フォンは1人格納庫へと足を運ぶ。

操縦桿を握るオルバは、念波で受け取ったGXの存在をレーダーで見た。

 

「兄さんの言った通り、モビルスーツが1機向かって来てる。あの時の白い機体、GX……借りは返させて貰うよ」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射し加速するアシュタロン。

空中を飛びラボから離れて行く先で、因縁の相手が向かって来る。

 

「さっきはやってくれたね、GX」

 

「黒いガンダム!? ティファを返せ!!」

 

「残念だけどソレは出来ない。こう言う時、なんて言えば良いんだっけ? 返して欲しければ僕を倒してごらん?」

 

「舐めるなよ、こっちだってガンダムだ!!」

 

ビームライフルを向けトリガーを引く。

アシュタロンに目掛けてビームを発射するガロードだが、オルバは鼻で笑いならが簡単にコレを避ける。

アトミックシザースを前方に向け、次はアシュタロンが攻撃を始めた。

2本のビームがGXを襲う。

 

「くっ!! 相手の方が手数が多い」

 

「フフフッ、どうしたのさGX? さっきまでの威勢が失くなったようだけど?」

 

回避に専念しながら、隙を見てトリガーを引く。

だが技量に明確な差がある。

アシュタロンは余裕を持ってビームを回避し、更にGXへ攻め込む。

ビーム攻撃をしながら回り込み、相手との距離を詰める。

旋回するガロードはなんとかして攻撃を避けつつ、視界に敵を収めようとした。

それでも動きが単調になり、オルバはソレを見逃さない。

ペダルを踏み込み機体を加速させて一気に詰め寄り、マニピュレーターにビームサーベルを握らす。

 

「ビームサーベルだって!? シールド!!」

 

GXが握るライフルの装甲が展開される。

グリップ部が可動して銃口が下に向くと、ビームライフルは小型のシールドへと早変わりした。

繰り出される灼熱のエネルギー刃。

ガロードはシールドで攻撃を防ぐが、同時に機体の動きも一瞬であるが固定させてしまう。

ビームサーベルがシールドの装甲を焦がすその時、アトミックシザースがGXの両腕を挟み込んだ。

 

「しまった!?」

 

「兄さんの言ってた通り、パイロットは素人同然か。機体はそのまま、キミには死んで貰うよ」

 

アトミックシザースは両腕を掴みあげGXの動きを封じながら、マニピュレーターが握るビームサーベルがコクピットに狙いを定める。

なんとか脱出しようと操縦桿を前に後ろに押し倒すガロード。

けれども機体はビクともせず、GXはアシュタロンの拘束から逃れる事はない。

 

「こんな所で死んでたまるかァァァッ!!」

 

コントロールユニットのギミックを押し込み、サテライトキャノンを展開させるガロード。

太陽がまだ登ってる時間帯、月のマイクロウェーブ送信施設からエネルギーを受け取る事はできない。

それでもその砲身は、ビームサーベルが突き刺される寸前でアシュタロンの頭部に叩き付けられた。

 

「コイツ!?」

 

「退けェェェ!!」

 

トリガーを引き込みブレストバルカンから弾丸を発射させる。

強固な装甲を誇るガンダムだが、至近距離から無数に浴びせられる弾丸は当たり方によっては致命傷にも成り兼ねない。

アシュタロンの黒い装甲を削り取る。

ガロードはペダルを踏み込み、相手が反撃に転じるよりも前に右脚部で更に蹴った。

ぶつかり合う装甲はコクピットを激しく揺らす。

アトミックシザースは耐え切れずにGXの両腕を手放してしまう。

 

「ぐぅ!? やってくれたな!! ん、なんだ?」

 

「この反応、モビルアーマーなのか? 来る!!」

 

2機の居る所へ巨大な光の弾が発射される。

直撃を避けるべく散開する2人が見たモノは、アルタネイティ社に現れた巨大なモビルアーマー。

4本の巨大な足で自立する緑のモビルアーマーはまるで砲台。

長距離荷粒子光弾砲を搭載する機体のコクピットには、ラボの責任者であるフォンが搭乗していた。

 

「撃て!! 撃ち続けろ!! 邪魔者共は全て排除しろ!!」

 

広いコクピットスペースに搭乗する他の乗組員に号令を飛ばす。

フォンの用意したモビルアーマー、グランディーネは荷粒子光弾を立て続けに発射する。

オルバは回避行動を取りながら、シャギアに念波を飛ばす。

 

(兄さん!! あの男、モビルアーマーを!!)

 

(ティファ・アディールを渡すタイミングを間違えたな。私のミスだ)

 

(どうするの? バルチャー共も相手にするとなると骨が折れるよ)

 

(ここは無理をする場面ではない。引き上げるぞ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

モビルアーマー形態に変形するアシュタロンは加速し、GXを置いてヴァサーゴが居る地点へ向かう。

 

「待て、逃げるな!!」

 

ガロードはアシュタロンの姿を追い掛けようとするが、グランディーネの砲撃がGXを襲う。

 

「クッ!! サテライトキャノンも撃てない。だったら突っ込む!!」

 

砲身を収納し、リフレクターからエネルギーを放出してラボに飛ぶGX。

一方で、アムロのνガンダムとシャギアのヴァサーゴとの戦闘も終わりを迎える。

ヴァサーゴは被弾こそしてないが、完璧に整備された状態でνガンダムにたったの一撃すら与えられない。

互いに射撃戦を繰り返す中で、シャギアは苛立ちを感じる。

 

「碌な武器もない相手に……エネルギーを消耗し過ぎた」

 

「腕は良いが、一本調子だ。そんな事では!!」

 

「これ以上はやらせん!!」

 

ヴァサーゴの両腕を伸ばし、死角からクローユニットのビームを発射する。

だがファンネルのように射角に自由度はなく、銃口から向けられる殺意を感じ取りアムロは攻撃を掻い潜りながらビームライフルを向けた。

 

(機動力は良いが、どうやったって腕が邪魔になる。それに前がガラ空きだ)

 

「コイツ、逃げる先を狙っている!?」

 

「そこだ!!」

 

回避しながら相手の先を読み攻撃。

ニュータイプ同士の戦いともなればそれらの繰り返しである。

先を読むが故に傍から見れば見当違いの所に撃ってるようにも見えるが、アムロは今までの戦いでこれらの経験を積み重ねて来た。

それは普通の戦闘でも優位に働き、機体が万全ではない状態でもヴァサーゴと互角に戦う事ができる。

トリガーを引き発射されるビーム。

見てから反応するシャギアは操縦桿を動かし、スラスターを駆使して機体に急制動を掛ける。

ビームは停止するヴァサーゴの右肩をかすめた。

 

「この機体の弱点を見付けたのか?」

 

「落とさせて貰う」

 

「させるか!!」

 

腹部が上下に展開し、備えられたメガ粒子砲が現れる。

チャージされたエネルギーを拡散ビームとして発射し、目の前のνガンダムに発射した。

赤黒いビームは無数の雨となり敵に襲い掛かる。

けれども視線の先にはもうνガンダムは居ない。

地面に直撃するビームが土煙を上げ視界を悪くする中、メインスラスターから青白い炎を噴射してνガンダムはジャンプした。

発射線上を遮るモノは何もない。

コクピットに狙いを定めビームライフルのトリガーを引く。

懐はガラ空き、防ぐにも両腕を収納せねばならずそんな余裕はない。

眼前に迫るビームの一撃。

 

(兄さん!!)

 

ヴァサーゴを守る黒い機体。

寸前の所でアシュタロンはアトミックシザースでビームを防いだ。

同時に2門のビーム砲を向けて空中のνガンダムに攻撃を開始する。

 

「兄さん、無事だね?」

 

「オルバ、助かった。離脱するぞ」

 

合流した2人は着地するνガンダムに攻撃を続けながら距離を離す。

アムロも無理に戦おうとはせずに2機から離れて行く。

 

「合流された、モビルアーマーもある。ガロード」

 

ガロードの居るラボへ向かうアムロ。

シャギアとオルバはその様子を確認し、この戦闘領域から離脱を始める。

逃げる最中、シャギアはチラリとνガンダムの姿を視界に収めた。

その瞳に漂うのは怒りと憎悪。

 

「白い奴……2度と忘れん」

 

 

ラボに突入するガロード。

待ち構えるのは、4本の足で巨体を支えるグランディーネの姿。

その佇まいと大きく開く砲門に、ガロードは思わず鳥肌が立つ。

 

「コイツが……敵……」

 

「ふん、1機でのこのこと来おったか。対空防御」

 

「来るのか!?」

 

グランディーネに設置された4門の対空ビーム砲がGXを狙う。

無数に発射されるビームの弾が視界一杯に広がり、ガロードはビームライフルをシールドに切り替えて回避行動を取る。

リフレクターのエネルギー放出量を上げ機動力でどうにか攻撃を振り切るが、ここまで来て攻撃に転じる事ができない。

 

「上からじゃダメだ。下から潜り込む」

 

「やらせると思うか?」

 

機体の高度を下げて巨大な足の間へ潜り込もうとするガロード。

正面の、それも地面を移動して来る相手に、4門ある対空ビーム砲は正面の2門しか使えない。

ビームの数が減り、ガロードはシールドを再びライフルに切り替えて相手に銃口を向けた。

 

「足が失くなったら立てないだろ。崩れろ!!」

 

発射されたビームはグランディーネの脚部の1つに直撃する。

けれども、分厚い装甲で作られたその足は一撃では破壊できない。

更に、足裏部に設置されたホバーユニットを駆使して移動を始める。

 

「なんとしても奴を潰せ!! 先にはまだバルチャーも居るんだぞ!!」

 

「コイツ、動けるのか!? でもな!!」

 

ペダルを踏み込みGXを加速させる。

グランディーネの動きはモビルスーツの機動力に到底追い付けるモノではない。

回り込んで脚部を攻撃しようとするが、旋回するグランディーネはそうはさせまいとGXを正面に捉える。

対空ビームで弾幕を張りながら敵を寄せ付けない。

 

「思ったよりも機敏に動きやがる。アムロは、避けながら攻撃できてた。俺にだって!!」

 

攻撃を掻い潜りながらビームライフルのトリガーを引く。

発射されたビームは脚部に直撃するが、機体はまだ崩れ落ちない。

グランディーネに乗るフォンは、少しずつではあるが蓄積されるダメージに焦りを感じる。

 

「荷粒子光弾砲を撃て!! 奴を吹き飛ばすんだ!!」

 

「しかし、この距離で撃てば機体にもダメージが――」

 

「ここを突破されれば全てが無意味になる。やるんだ!!」

 

怒号を飛ばすフォンに操縦士は従う。

大きく開く砲門から、高エネルギーのビームを発射した。

 

「っ!!」

 

息を呑むガロード。

反射的にペダルを踏み、機体をジャンプさせてコレを回避する。

しかし飛び上がった事で、4門の対空ビームが一斉にGXを狙う。

 

「しまった!?」

 

「今だ!! もう1度荷光弾砲をぶち込め!!」

 

「やられっかよ!!」

 

ビームの雨を避けながらトリガーを引く。

対空ビーム砲の1つに直撃し爆発が起こる。

 

「もう1発撃ち込めば!!」

 

ガロードは攻撃に集中し過ぎていた。

そのせいで荷粒子光弾砲の存在を一瞬ではあるが頭から離してしまい、次の瞬間には発射されてしまう。

気付いた時には、目の前に強力なビームが迫る。

 

「やられる!?」

 

///

 

ガロードの元に急ぐアムロ。

モビルスーツの操縦もまだまだ甘い、更には初めてのモビルアーマーとの戦闘。

その様子を見て、アムロは脳裏に嫌な予感をピリピリと感じる。

 

「無茶をし過ぎだ。そんな事ではやられるぞ? 間に合ってくれよ」

 

機体を加速させる。

ビームの雨の中で懸命に戦うガロードに追い付こうとするが、瞬間、強い敵意を感じた。

感じた一瞬で既に回避行動に移っており、数秒後にはグランディーネの荷粒子光弾砲が飛んで来る。

幸いにも狙われたのはGXでνガンダムの方角に飛んで来る事はなかったが、アムロは敏感過ぎる自身の反応に苛立ちと焦りを感じた。

 

「なまじ戦いに慣れ過ぎた。こんな事では……」

 

それが原因で同じ艦のパイロットであるケーラ・スゥを死なせてしまった。

しかし、感傷に浸る時間はない。

GXはまだグランディーネと戦っており、感じる敵意は更に強くなる。

メインスラスターから青白い炎を噴射して機体をジャンプさせ、アムロは叫んだ。

 

「下がれ、ガロード!!」

 

アムロのνガンダムがGXの後方から飛んで来る。

タックルするようにして機体を押し出し荷粒子光弾砲からギリギリの所で離れさせた。

しかし、νガンダムにはもう回避するだけの時間はない。

ペダルを踏み込みメインスラスターを全開にするが、荷粒子光弾砲はνガンダムの右脚部を飲み込む。

 

「足をやられたか。だがこの位置なら狙える!!」

 

「ガンダムがもう1機!?」

 

瞬時に狙いを定めるアムロはトリガーを引く。

グランディーネの前面にある巨大な砲門にビームは吸い込まれるように直撃し、装甲の内側から大きく爆発が起こる。

しかし、グランディーネはまだ崩れない。

ダメージを受けたνガンダムは四つん這いのように地面へ着地する。

ガロードは自身を助けてくれたアムロに視線を向けた。

 

「アムロ!?」

 

「前を見ろ!! 敵はまだ生きてる!!」

 

「くっ!! 突っ込むしかない!! うらぁぁぁっ!!」

 

ビームライフルをバックパックにマウントさせ、ビームサーベルを引き抜き一気に距離を詰める。

反撃を一切気にせず、両手で握るビームサーベルを大きく振り上げた。

モビルアーマーでは逃げる事もできず、ビームサーベルはグランディーネの頭部部分を焼き斬る。

緑色の分厚い装甲が飴のように溶け、ガロードはダメ押しに今度はビームサーベルを突き刺した。

コクピットは完全に破壊され、グランディーネは炎に包まれる。

 

「やったか?」

 

崩壊するモビルアーマーから距離を取るガロードは、不時着したνガンダムの傍に立つ。

 

 

「やった!! やったぞ、アムロ!!」

 

「いいや、敵の増援だ」

 

望遠カメラに切り替えて視線を向ける先、アルタネイティブ社に向かって一直線に進んで来るモビルスーツ部隊。

フリーデンと合流できれば倒す事はできるかもしれないが、被弾、損傷は免れない。

それ以上に、ティファを助ける事ができない。

 

「クソッ!! あいつらを相手にしてたらティファが」

 

「ガロード、ビーム砲を使うんだ。月が出た」

 

「え……」

 

太陽は沈み、月が登り始める。

暗くなり始める周囲の風景。

コントロールユニットを握るガロードはガジェトを指で押し込む。

背部のリフレクターが展開され、砲身をマニピュレーターで支える。

数秒後には月からマイクロウェーブが送信され、GXに莫大なエネルギーが供給された。

背中のリフレクターの放熱パイプが淡く光る。

 

「まだ敵の位置が遠すぎる。もっと引き付けないと」

 

照準を睨むようにして合わせる。

しかしそこに、フリーデンから通信が割り込んで来た。

声の主は、艦長であるジャミル。

 

『いいや、今撃つんだ』

 

「ジャミル!? でも、ここからだと」

 

『指示は私が出す。それに合わせるんだ』

 

聞こえて来るジャミルの声に疑いを持つガロード。

けれども彼女を安全に助けるにはこの提案に乗るしかなかった。

 

「わかった……」

 

ガロードは一切感じ取る事はできないが、ジャミルは苦痛を伴いながらではあるがそれができる。

敵意の源、それを撃ち抜く。

 

『経緯7度、緯度15度、そこに……ぐぅっ!?』

 

「ジャミル!?」

 

『カウントを始める、5秒後だ!!』

 

呻き声を上げるジャミルだが、痛みや苦しみは無視した。

ガロードにもその意思は伝わり、今はサテライトキャノンを命中させる事だけに意識を集中させる。

敵群の姿はまだ豆粒のように小さい。

 

『5……4……3……2……1……』

 

「あたれェェェッ!!」

 

引き金は引かれた。

サテライトキャノンから、高出力ビームが発射される。

全てを焼き尽くすエネルギーは一瞬の間に目標地点にまで飛び、瞬きをすると巨大な爆発が起こった。

地鳴りが響き、爆風が吹き荒れる。

ガロードは閃光の先を覗く。

 

「敵は……どうなった?」

 

『成功だ。レーダーに反応はない』

 

「やったぜ、ジャミル!! これでティファを助けに行ける!!」

 

『そうだな、フリーデンもすぐに合流させる』

 

言うとジャミルとの通信は切断された。

操縦桿を動かすガロードは砲身を収納しリフレクターを折り畳み、傍のνガンダムに向き直る。

 

「そっちは大丈夫なのか?」

 

「あぁ、ガンダムに無理をさせ過ぎた。戦闘はもう無理だ」

 

「だったら――」

 

「俺の事は後で良い。フリーデンも来る。ガロードはティファの所に行くんだ」

 

アムロに諭されて、ガロードはアルタネイティブ社に視線を移す。

もはや基地としての戦闘能力は残っておらず、ガロードは内部へと突入した。

 

///

 

フリーデンに制圧されたアルタネイティブ社。

そこに囚われていたティファも救出、今はテクスに治療されている。

ブリッジではモビルスーツ乗りのウィッツとロアビィ、アムロとガロード、3人のクルーがジャミルを見つめていた。

オペレーターのサラは、ジャミルがここまでティファに拘る理由がわからない。

 

「説明して頂けますか、キャプテン。あのティファ・アディールと言う少女の事を。何故、ここまでして彼女に固執するのですか? 私達はキャプテンを信用するからこそ、今まで一緒に行動して来ました。ですが今回の件、わからない事が多すぎます」

 

「まさかその歳であの娘の事を好きだ、なんて言うのはナシよ」

 

茶化すロアビィにサラは突き刺さるような視線を向ける。

緊張感の漂うブリッジ。

 

「そうだな……言うべき時が来たのかもしれん」

 

艦長シートに座りながら、ジャミルは重たい口を開ける。

それでも、サングラスの奥にある表情は伺えない。

 

「15年前、私は連邦の兵士として戦った。モビルスーツのパイロット……あのGXに乗って」

 

そのセリフを聞いてガロードは驚きを隠せない。

 

「GXだって!? だから金庫にコントロールユニットなんて置いてあったのか!!」

 

「今のは聞かなかった事にしてやる。そうだ、私はGXに乗っていた。そしてあの悲劇を引き起こしたのも私なのだ。15年前の戦争、革命軍は硬直状態を打破する為に無数のスペースコロニーを地球に落とす作戦に出た。連邦もこれに対抗し、秘密裏に開発した決戦モビルスーツ、ガンダムを投入した。私はGXに乗ってあの戦場に居たのだ」

 

「でもコロニーは地球に落ちた。そのせいで大勢の人間が死んだ……」

 

「そうだ。私は止める事が出来なかった。ガロード、GXにはサテライトキャノン以外にもう1つ、フラッシュシステムが組み込まれている」

 

「フラッシュシステム?」

 

「それがガンダムが決戦兵器と呼ばれる由縁だ。GXには専用の無人モビルスーツが用意された。パイロットの精神波で無人モビルスーツを操作する。その為の装置がフラッシュシステムであり、それを動かす事が出来るのがニュータイプだ」

 

「ニュータイプ……ティファの持ってる力……」

 

自らが犯した過ちの過去を語るジャミル。

全員が戦争の真実を聞く中で、アムロだけは違った感情を抱いて居た。

話を聞く表情が次第に険しくなる。

 

「私のようなニュータイプは戦争の道具として使われ、多くのモノは戦死した」

 

「キャプテンはニュータイプの力を今も使えるのですか?」

 

「いいや、もう満足に使う事はできない。使おうとすれば痛みと苦痛を伴う。コクピットに入る事すらできないのが現状だ」

 

「でもジャミルは!! 俺とアムロ、ティファを助ける為にその力を使った!! だからサテライトキャノンを命中させて敵を倒す事ができた!! 俺……知らなかったんだ。今の今まで、アンタがそんな人だったなんて。自分がニュータイプだったから、ティファをそこまでして助けようとした」

 

「ティファだけではない。私のようなニュータイプは他にも居る。もし見付ける事ができたのなら、どんな事があっても守り抜く。これが、私が彼女に固執する理由だ」

 

言い終わるジャミルに、アムロは不快感をあらわにしながら1歩前に出た。

 

「ジャミル――」

 

 

第6話 エゴだよ、それは

 

 

 

「アムロ?」

 

アムロのこの言葉に、ガロードは納得できないで居た。

 

「そうやってニュータイプと呼ばれる人間を助けて、過去の罪を消すつもりか? そんな事をしてもどうにもならない。人の罪なんてモノは消えない」

 

「私にはあの惨劇を引き起こした責任がある。あの時、恐怖に耐え切れずサテライトキャノンを発射してしまった。私の弱さが招いた結果なのだ」

 

「だとしてもだ。その罪を1人で背負うつもりか? ジャミル、そんな事はできないし、する必要もない。生き残った人間はそんな事をされなくても生きて行ける」

 

「アムロ、お前もニュータイプならわかる筈だ。あの時の戦争を。歪んだ価値観に支配され、戦争に勝つにはニュータイプが必要だった。それが道義に反する事であっても、戦争を終わらせるにはそれしかなかった」

 

「ニュータイプが何なのか、俺にはわからない。だがな、その力だけでどうにかなる程、世界は単純ではない。ニュータイプはそんな便利な存在ではないんだ。ジャミル、今のままでは死人に魂を引っ張られるぞ」

 

鈍い音が響く。

握りこぶしを作るジャミルは肘掛けに思わず叩き付けた。

歯を食いしばり、苦しく辛い記憶に顔を歪めながらも、アムロの言葉を心に受け止める。

全員の視線を浴びながら、それでも言葉を続けた。

 

「私は……間違ってるとでも言うのか?」

 

「どうだろうな? 俺だってその1人かもしれない。だが過去は消えないし、人の罪が消える事もない。それでも、人間は頼まれなくても生きて行ける。今のガロード達がそうだ」

 

2人の間に割り込めるモノなど居ない。

アムロに言われた事で自分の考えを客観的に見る事ができたジャミルだが、そう簡単に拭い去れるモノでもなかった。

 

///

 

翌日、契約を終えたウィッツとロアビィはそれぞれの機体に乗ってフリーデンから出て行く。

この腐敗した世界を生き残る。

その目的を同じくするが、各々が行く道は違う。

次に出会う時は敵か、味方か。

もしくはもう、出会う事はないかもしれない。

朝になり、ガロードは医務室のティファの所へ行った。

アルタネイティブ社の施設により治療は滞り無く行われ、今は起き上がって動く事もできる。

それでも1週間は安静にするように指示され、ベッドの上からガロードと顔を合わせて居た。

 

「もう少ししたらフリーデンも出港するってよ。ウィッツとロアビィも居ないから、これからは俺がGXに乗る」

 

「アムロは?」

 

「アムロは盗んだドートレスを調整してる。俺のせいでガンダムを壊しちまった……」

 

「あの人なら大丈夫です」

 

「まぁ、そうだよな。悔しいけど、この前の戦闘で良くわかった。アムロは強い。モビルスーツに乗ってる経験が違うんだろうな」

 

「でも、アナタにはアナタのできる事があります」

 

「そうは言ってもよ。ティファにはわかるか? アムロの事が?」

 

言われて彼女は静かに頭を横に振った。

 

「ガロードは……」

 

「俺? 俺がどうしたんだ?」

 

「私は、アナタの事が知りたい」

 

ガロードは思わず顔がニヤけてしまう。

口元が緩んでしまうのをどうにか隠しながら、当時を思い出して彼女に語り掛ける。

 

「えぇ~と、俺の事と言っても何を言って良いか。あの戦争があってから家族も友達も死んじまった。ようやく日の当たる所に出てからは、1人で荒仕事をしてその日の食い物を食べるので精一杯だった。俺なんてこんなもんだよ。何か特別な事があった訳じゃない。今日を生きてるのも、運かもしれない」

 

「それでも、今は私の傍に居てくれてる」

 

「あぁ、そうだな」

 

ガロードの手はティファに触れるか触れないかまで近づいた。

その頃、モビルスーツデッキでは着々と作業が進んでいる。

損傷したνガンダムは修理の目処が立たず、ワイヤーで固定されデッキの隅に置かれていた。

アムロはキッドと共に、回収したドートレスのチューニングとメンテナンスを行っている。

 

「アムロ、このキャノン砲外して良いんだな?」

 

「頼む。追加で武器を付ける必要もない」

 

「でも変だよなぁ。普通のパイロットなら武器とか火力を上げるモンなのに」

 

「装備を増やせば重量が重くなる。この機体にそこまでのポテンシャルはない」

 

「重量を落として運動性能を上げるんだろ? でも、どこまで行っても量産機だからな。GXやガンダムには及ばないぞ」

 

「わかってるさ。やれるだけで良い」

 

パイロットであるアムロの注文を受けて、ドートレスのチューニングが進められて行く。

アルタネイティブ社はグランディーネを用意できるだけあってモビルスーツの設備も揃っており、弾薬や予備のパーツも充分に補充できた。

その中から拝借したのがアムロのドートレス。

メインスラスターの出力を向上させ、関節部の反応を良くする。

武器も標準的なビームライフルとビームサーベル、左腕にシールドを装備させた。

 

「シールドの裏にミサイル?」

 

「あぁ、電気信号で発射できるようにする」

 

「でもさ、防御する為のシールドにそんなの付けて大丈夫なのか?」

 

「ガンダムもそうだが、今はビーム兵器が標準装備されている。実体シールドではそこまで使えない。それなら少しでも手数を増やすほうが生き延びられる」

 

「そう言うモノなのか。わかったよ、試してみる」

 

見た目にそこまで変化はないが、アムロ用にセッティングされた機体ができあがって行く。

そうしてまた、フリーデンも次の目的地へ向かって発進する。

 

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