No.895680

司馬日記外伝 遺失物件第一号

hujisaiさん

その後の、とある遺失物の話です。

2017-03-03 15:41:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7153   閲覧ユーザー数:5072

鞄の中。

引き出しの中。

洗濯籠。

物干し台。

まさかとは思うが秋蘭の鞄の中。

そして、この部屋のどこにも。

 

―――――無い。

机についた両手を握り締めると、急いで教室から飛び出して玄関へと向かう。

 

「あ、もう宜しいんですか?曹操様」

「ええ悪かったわね、突然鍵を開けてもらって。ちょっと急ぎの用があるのでこれで失礼するわ」

無理を言って開けてもらった当直の管理人への挨拶もそこそこに、庁舎へ走る。

通用門から後宮へ。玄関口で出勤の札を見る。一刀は――――出勤だ。執務室へ向かう途中、幸いにも一人で歩く一刀を見つけて足音を忍ばせつつ小走りに近づいた。

私達は夫婦、妻の危機は夫の危機。何も知らぬ平和そうな表情に僅かに苛立つ。

 

「(一刀!)」

「うわ!?」

「(声が大きい!)」

背後から軽く袖を引きながら囁いたのは逆効果だった。

「(どうしたの、華琳)」

「(不味い事になったわ)」

「(何が?)」

「見つからないのよ、アレが」

「(…アレ?)」

昨日の今日でアレで通じないのか。わざとか。わざとなのか。いやわかってる、この人が腹芸の才能が絶望的に乏しい事は。

羞恥プレイはまあ嫌いな方じゃない。しかしそれは二人きりでやるもので、執務の合間に廊下でやるものじゃない。

 

「っ…だ、だからぁ――――」

 

 

 

 

 

 

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ようやくまとめきった糧食台帳を片手に、庁舎の廊下をコツ、コツと乾いた音を鳴らして歩く。

―――――穏やかな日常。

 

ある意味、いやある意味ではなく、まさしく私がかつて望んでいたものだ。

それは私の手によるものではなかったけれど、私の手に――――皆の手に確かにあるもの。

その中でも、私にもまだやるべき事がある。

決して人並み外れて優秀というわけでもない私でさえ求められ、行い、そしてその成果がこの大陸の暮らしに反映されていく。

 

そして、出会った良人。

私と同じように普通っぽそうでいて決してそうではなかった奴で、毎日一緒にこそいられないものの確かに感じられる彼の優しさや、週に一度は必ず強請りに来るお握りを二人で食べる時間は代え難い幸福な時間であることは疑いない。

 

――――加えて、得られた友人。

星との出会い。

桃香たちとの出会い。

雛里たち。

紫苑たち。

さらには、仲達さん。蓮華。

そして今まさに白蓮さーん、と手を振りながら駆け寄ってくる杏も。

 

偶に起こる、小さな騒動も。

全てが私の幸せの象徴。

 

「どうしたんだ、杏さん?」

「あ、ちょっともし知ってたら聞きたいことがあって…って、白蓮さんなんか遠い目してません?」

「はは、ちょっとガラにもなく感傷に浸っちゃっててさ。それより私に何か用か?」

「あ、もし知ってたらで良いんですけどぉ、三国塾の掃除してたら忘れ物見つけちゃって。このブルマ、名前の欄に『かりん』ってだけ書いてあって返してあげたいんですけどどこの子だか知ってます?」

「おぉぉぉぉぉい!!!!?」

 

 

 

神は言うのか。

お前に休息の時は未だ早過ぎると。

 

 

 

 

 

 

-------------------------

 

「………マジで?」

「マジだから聞いてるんじゃないの…。一応確認するけど、貴方持って帰ってたりしてないわよね?」

「持って帰れないの知ってるだろ?」

「それは分かってるけど」

私室と言えど俺のプライベートはほぼない。書棚から箪笥、ベッドの隙間に至るまで必ず誰かの目と手が入る。

そんな所に隠してはおけないし、しれっと洗濯物に出しておけば月が何も言わず何事も無かったかのように洗ってくれるだろうが、それは流石に気がひけるし華琳の方でも落ち着かないだろう。

 

「秋蘭が拾ってたりは?」

「してたら言うか何か、分かるように伝えてくるわよ」

私室外で致す時はよく秋蘭が場所の予約や周囲の警戒などの段取りをしているのを見たことがあるが、確かに秋蘭が拾えば華琳が探している事にすぐ思い至るだろう。

「マズいな…誰かがもし拾ってたりしたら」

 

「――――平和な時代が来て、この手で直接人を殺める事はもう無いと思っていたけど」

「オーケー冷静になろう華琳」

いつの間に手にしていたのか、戦時は愛用していた大鎌をじっと見つめる華琳の目がマジ過ぎて心臓が冷える。

 

「もし誰かが見つけていたらちょっとした騒ぎになっているだろ、多分まだ誰も見つけてないんじゃないか?それと探す手が二人だけじゃ心許ない、秋蘭と…詠に話して探すの手伝って貰おう」

「秋蘭はいいけど、詠の手も借りなきゃいけないの?」

「背に腹は代えられないだろ?詠は割とそういう…事とか華琳の立場に理解あるし、他に気心知れててこういう事で気が利いた対応が出来て口が堅そうなのって誰かいるか?」

「…仕方ないわね、あまり借りは作りたくないんだけれど」

嫌そうな表情を浮かべる華琳を説き伏せながら、もし探す折に紫苑に会ったら彼女にもそれとなく探してくれるようお願いしようと考える。

 

「ところで」

「?」

「詠がそういうのに理解あるって貴方言ってたけれど…詠のあの性癖って本当ってこと?」

「いや、パンスト直穿きプレイにハマってたりとかはしない」

「貴方語るに落ち過ぎよ!?私の事も他所で喋ってたりしないでしょうね!」

 

怒られました。

『してない』って言ってるのに何故皆してるって断定出来るんだ?

 

 

 

 

 

--------------------------

 

「なあ杏さん、何でそう死にたがるんだ?何か辛い事でもあったのか?」

「ごめん白蓮さんが何を言ってるのかあたしちょっとわからない」

彼女の両肩に手をかけて真剣に聞いた私に、かわいそうなものを見る目で答える杏さんはそこそこ失礼だと思う。

いや知らないからだろうけど。分かってないからなんだろうけど!

 

さぁどうやったらうまく伝えられる?てか、どうすれば回避出来るんだ?えーっと、彼女は『かりん』って人がブルマを持ってる事を知っちゃったわけで。で、華琳が『かりん』であることはいずれ分かっちゃうって言うか、華琳の手に渡った時点で華琳は誰かがこのブツを見たってことを知っちゃうわけで。

…………あれっもう詰んでないか?

 

「いや知らなきゃ別にいいんですよ、塾の忘れ物置き場に置いて『かりん』さんの忘れ物ですって掲示板に書いてくるだけですから」

「待て!それはちょっと待て、物凄い人数が死ぬ!」

「なんで忘れ物届けたら大量殺人が起こるのさ!?」

 

それ見た子全員華琳に抹殺されるだろ、とも言えず。

「あ、ひょっとして…そういう事?」

「そうだよ!分かってくれたか!?」

やっと察してくれたっぽい杏さんに一縷の望みを抱く。学生でも、普通名前書くときもう少し大人っぽい字で書くだろ?学年と組くらい書くだろ?それが無いってことは分かるよな?あっちの性協でバイトしてるんだからそれくらい分かるよな?

 

「忘れ物とかバレるとまずいんだ?寮の同室の子達全員連帯責任で罰とか厳しいんだね三国塾って」

「違ぁぁぁぁぁぁう!!」

このもどかしい思いをエビ反りで表すが一向に彼女に伝わらない。いや、伝えちゃいけないんだ。知ったら、知ったことが華琳に知れたら彼女を待つのは確実過ぎる死だ。

 

どうすればいい?

どうすればいい?

いやまず落ち着け私。ブツがここにあると言う事は華琳はまだ気づいていないか、気づいていて血眼で探しているかだ。

前者だったら?そうだ、そっと元の場所においておけばいい。

「なあ杏さん、ソレ見つけた後誰かに会ったか?」

「えー?掃除終わって管理員さんに挨拶した後、特に誰とも会ってはいないですよ」

「よっしゃぁあ!じゃあ」

「あ、でもなんか目が血走った金髪くるくるの女の子とは擦れ違いましたけど」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!なんだそのカスり方!?」

 

良いのか悪いのか、一体どういう運してるんだこの人は!?つか、杏さんてひょっとしてほっといても平気なんじゃないかって考えが一瞬頭を掠めるがこの状態で見つかったら杏さん共々私も消される。いや、杏さんは生き残るかもしれないが経験上私は確実に理不尽に死ぬ。

既に華琳は本気モードの筈だ、早晩ここも見つかるだろう。

どうすればいい!?

どうすればいい!?

とりあえずこの場で見つかる訳にはいかない。ならば!

「杏さん…」

「な、何なんですか、急に真剣な顔して」

私のありったけの知。それを総動員して閃いた策、おそらくこれが唯一無二。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ履くんだ。それを」

「白蓮さん頭大丈夫!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真剣に言っているのに変態を見るような目つきで返す杏さんに微妙にイラっとする。

「至ってまともだ、履かなきゃ死ぬぞ!」

「むしろ履いたら社会的に死にますよ!」

「大丈夫だ、あいつ(華琳)も流石に一人一人女の子のスカートめくって歩いたりはしないはずだ多分!」

「めくられなきゃ良いってもんじゃないでしょー!?」

「つべこべ五月蠅い!もういい、杏さんが履かなきゃ私が履こう!」

「白蓮さんが壊れたー!?」

事態は一刻を争うというのに!こうしてブルマを二人で引っ張り合っている間にも華琳が、その廊下の角を。

 

 

 

 

 

 

「居た!」

 

 

 

 

 

 

「あ…ああぁ…」

詠を引き連れて廊下の角から現れたその姿に、不覚にも涙した。

 

「一刀ぉぉぉおおお!」

「見つけちゃったんだな!?アレを」

「恐かったっ、恐かったよぉぉぉぉー!」

「よしよし良く頑張ったな白蓮、もう大丈夫だ」

「えっとすみません、何が起こってるの?」

きょとん顔の杏さんは放っておき、華琳のブルマを握りしめたまま私の王子様に駆け寄って縋りつく。

 

「ブツはこっちで預かる、詠が拾ってくれたことにして返しておくから」

「あ…うん」

「待って。残念だけど、ちょっと遅かったみたい」

手の中の薄い布で出来た爆弾を一刀に渡そうとした瞬間、詠がため息混じりに背後に視線をやる―――――

 

 

 

 

「か、華琳…」

「あら白蓮、御機嫌よう。…どうしたのよ、二人ともそんな絶望したみたいな顔して。何かあったのかしら?」

「据わった目して抜き身の大鎌後ろ手に近寄って来たらそりゃ絶望するだろ!?」

 

終わった。

あー、私の人生こんなところで終わるのか。

とっくの昔に易京で死んでたはずが今まで生きてこれたんだ、恵まれてたと言えば恵まれていたのかも知れないけどさ。

でも折角これから幸せに暮らすはずだったんだけどなぁ。

ダンナ見つけて。

料理大会で優勝とかしちゃったりして。

友達増えて。

ごめんな杏さん助けてやれなくて。初めっから私が履けばよかったな。

 

「待ってくれ」

諦めかかったその気持ちを、隣に立つ私の王子様が遮った。

 

 

 

 

---------------------

 

「今話す事なんてあるかしら?」

流石にここから一刀が割って入ってこられてももうどうにもならない。

あの杏とか呼ばれてた…逢紀と言ったかしら、のアホそうな様子を見て殺すかはともかくただでは置けない肚はもう決めた。

なんとか殴り倒すとかで記憶だけ吹っ飛ばすとか出来ないかしら。

監禁するか。

華陀に記憶喪失薬とか作らせて飲ませるか。

凌遅ならどうかしら、記憶を消すのは無理か。でも従順になるのなら…

「いや華琳とじゃない、杏さんちょっと聞いてくれ」

「はえ?私?」

思いを巡らせていた私ではなく彼女に向かって、妙に爽やかな笑顔の一刀が語りかける。

 

 

「ごめんそのブルマ、俺のなんだ」

「「「「は?」」」」

その場にいた私を含めて全員が一斉に突っ込んだ。何を言い出すのかしらこの男は。

「…えっと?これまさか一刀さんが履くって事?

「いや流石にそういう恐ろしい想像はやめてくれ。そのブルマは…俺が華琳に履かせようと思って買ったんだ」

「はぁぁ!?」

 

「「「……………………」」」

素っ頓狂な声を上げた逢紀以外の三人が息を飲む。一刀のあの笑顔に、三人が同時に意図を察していた。

「あれ初等部の子用の運動着だよ!?」

「うん、杏さんは大人っぽくて魅力的だけど、華琳は華琳で小柄で可愛らしいから似合うかと思ったんだ」

「いい年して『可愛らしい』…」

「駄目だ詠。今そこ突っ込んじゃ駄目だ今大事な所なんだ」

真顔で呟いた詠の肩を押さえた白蓮はギリ許す。パンスト眼鏡はいつか覚えてなさい。

 

「えっ…で、着せてその…ゴニョゴニョ………するの?」

「うん、したいなぁと思って」

「そんなのおかしいよ…、一刀さん変態!変態!!変態だよ!!!」

「ぐっ…」

「だ、大丈夫か華琳?」

知らない女に言葉で脇腹に三発入れられて倒れ込みそうになる処を白蓮に支えられた。

 

「一刀…あんたなかなか見上げた変態ね、見直したわ。白蓮、近くに月と斗詩と仲達が居ないか監視して。貴女はあっち、ボクはこっちを見張るわ」

確かにその中の誰かが居たらいよいよこの娘は始末するしかなくなる、私とは違う理由で。

「わかった…ってうわっ!?」

しかし廊下の曲がり角まで近寄った白蓮の足が、出会い頭にぶつかりそうになった長身の女の前でぴたりと止まる。全員の視線が白蓮を向くが、悪い予感は当たるように出来ている。そんな事は戦乱の頃に嫌と言うほど学ばされた。

 

「ん、これは白蓮殿。どうされましたか…――――んっ!?…んむっ!」

その無表情で白く端正な、仲達の顔がみるみるうちに朱に染まる。腹に強烈な打突を受けたかのように片膝がカクリと折れかかると慌てたように鼻と口に手拭いを当てながら、ザッ、と私達から離れるように飛びずさった。

 

「え、えっと…いや、ボクたちの方は別に大したことしてた訳じゃないんだけど、それよりあんた大丈夫?」

「そ、そうですか…いえ、気のせいか誰かが一刀様を罵倒しているような声が聞こえたような気がしたもので」

ふーっ、ふーっと肩で息をしながら手ぬぐいの下からくぐもった声で答える仲達は何故か既に涙目だ。この娘も相変わらず対一刀専用の異常な五感の持ち主だ、成績は抜群なのに人事会議で毎回処遇で揉めるのも分からないでもない。

「あっ!そうなんですよ、司馬懿さん聞いて下さいよ、一刀さんったらねえんぐむぐもご!?」

「「「なんでもない」」」

「そ、そうですか…」

 

白蓮と詠と私の三人掛かりで逢紀の口を押さえつけながら、仲達に有無を言わせぬ強さで否定する。ところでこの逢紀と言う女、よくよく自殺が趣味なのかしら?

「ところで仲達さん、具合悪そうだけど大丈夫なのか?」

さっきから気になっており、詠も訊いた事を白蓮が再び問うた。――――それが、一番踏んではいけない地雷だとも知らずに。

 

「こ、これは…体質、で…私は一刀様の、その、御精…………(ゴニョゴニョ)…………の御芳香を嗅ぐと、その…………………酔ってしまいますので…」

「へっ?」

逢紀が意図が分からないと言うように首を傾げたが、私と一刀は真顔で目を見合わせた。

 

うん。

まぁ、あれよ。

つまり何て言うのかしら。

所謂一つの使用済みという奴で?かなり時間が経ってるから正直私達には分からないんだけど、凪と並ぶこの一刀臭専用猟犬にはまぁ噎せるほどの媚薬を嗅がせてるようなものと言う事な訳ね?

でも仕方がないじゃない、体操着プレイだってのに全部脱がす一刀なんて居るわけないでしょ?ってなったらブルマ越しに挟んで擦らない女だって居るわけないでしょう!?

 

「えっすいません、今良く聞こえなかったんでもう一回言ってもらえます?」

「だ、だからっ…!」

バカか、バカなのか。この女はどうしても夕べ一刀がぶちまけて体操着をべっとべとにしたモノの固有名詞を言わせる羞恥プレイを仲達にさせたいらしい。

 

「杏さんて地雷踏みに行く天才だよな」

「そうね。今度軍で探知機代わりに使ってもらいましょう」

ここまで自分から死にに来たならしょうがない、まずボコって記憶を失うか試してみよう。それでダメなら凌遅で洗脳、うん、これで行くわ。

 

「へぇっ!?せ、精え…って…、そ、そんなのが何からそんなに匂ってるんです?」

「そ、そのそれですっ、一刀様がお持ちになっている…」

言いながら、羞恥責めにますます顔を赤くした仲達が一刀の持っているブルマを指さす。万事休した。

「…やっちゃっていいわ、華琳。性格は悪くなかったんだけど、ちょっと軽はずみなとこもある子だったから」

「悪いわね、次の求人には魏から出すわ」

諦めた詠の言葉に答えながら、絶を片手に逢紀に近づいていく。肚を括ってしまえば割と気も楽になった、あと二歩の間合いで後頭部をガツンと一発するだけの簡単なお仕事。戦乱の頃や普段の政治上の決断の数々を思えば何ということも無い。

そして何の警戒もしていない逢紀にあと一歩、という所で、絶を握る右と反対の左の手がそっと握られた。

 

「ごめん杏さん、俺一つ嘘ついてた」

「えっ?な、何?」

私の手を握りながら、逢紀を見つめる一刀の表情はどこまでも澄んでいて。

 

 

 

 

 

「華琳に着せるの待ちきれずに自分でしちゃったんだ」

「は?」

かなり最低な事を言った。

 

 

 

―――――但し『逢紀から見て』。

 

 

 

 

「…くぅっ……!あ…あんた、偉いわ…!…………後世の歴史家はあんたを古今東西最低最悪の変態と書くでしょうね。でも、あんたは三国に誇る変態…!ボク達の誇る変態よ…!」

「一刀、偉いな…変態だけど、偉いよ。私も感動した」

「有難う、でも今余り変態変態連呼しないでくれるかな」

詠がもらい泣きし、白蓮が半分引きなら一刀の自己犠牲に呆然としている。そしてもちろん私も。

確かに仲達は一刀の匂いには異常に鼻が利くけど、あくまで一刀専用で私の事は分からない。そこを突いた捨て身の嘘。

有難う、貴方にはいくら感謝してもし足りない。この埋め合わせはなんでもするわ。

またメイドプレイと奴隷プレイしましょうね。尽くして尽くして尽くし抜くわ。

こないだ『似合うかも』って言われたのに余り馬鹿っぽいのはちょっとと言って断っちゃった『仙術少女☆まじかる華琳』も喜んでやらせてもらうわね。

 

 

 

 

「へっ…?自分でって」

「ごめんちょっとこっち来てくれる?あと詠、一着」

「…!分かったわ、標準寸法でいいわね」

一刀が私達から離れ逢紀の肩を抱いて廊下の隅のほうへと連れて行きながら、詠の方を見ずに人差し指を立てると、詠は何かを察したらしく生協の倉庫へと飛び込んで行った。

 

「(…を、…して、…って感じで)」

「えっ?えっ?えぇー?…ほ、ホントに?」

「杏さんちょっと声大きい」

二人の背中しか見えないが、一刀のこそこそ話に逢紀が顔を赤らめて大仰に驚く。この空気の読めなさ、うちの幹部には要らない種類の人間ね。

「ウソ…一刀さん、そこまで好きなの?ソレ」

「かなり吝かでない」

「えっと華琳さん…でしたっけ?華琳さんだってこんなの着せられて…なんてちょっと引きますよねぇ?」

このアマ。あんただって他人に言えない性癖の一つや二つあるでしょうが。

 

「え、ええ…そうね、でも一刀がしたいって言うのならわた」

「ホラ、華琳さんだってそんなの変態だって言ってますよ」

言ってない。そこまで言ってない。悪いか。変態で悪いか。こっちは普段どれだけ脳と精神に負担かかる仕事してるか知っているのか。惚れた男と息抜きにちょっと特殊なプレイをしたぐらいでガタガタ言われる筋合いがあるとでも。

 

「…いや、でもまあ華琳も寛容だか」

「ましてや初等部になりきらせて『かじゅとぉ、かりんのぱんつ見たいぃ?』とか言わせてたら病気もんですよ?華琳さんまで変態だって思われちゃって可哀想じゃないですか?華琳さん、呉蜀に誇る変態王扱いされもごもが!?」

「杏さんマジでその辺にしてやって!!マジでやめてくれ!」

 

ぱんつ見せて何が悪い?

私は一刀の第一の妻なのよ?

多少羽目を外したプレイぐらい良いでしょう?

特注のくまぱんとねこぱんとスケぱん見せて立ったまんまぱんつが見えるスカート履いたプレイで貴女に何か迷惑かけたかしら?

 

「一刀っ!」

私の右手が無意識に絶を構えたのを見た白蓮が半泣きで逢紀の口を塞ぎにかかった瞬間、生協から戻った詠が何かを一刀に投げつけた。

それ―――――『何かの布らしき物が入っているらしい』その袋を、一刀は器用に逢紀の瞳を見たまま掴む。

 

 

 

「そうかも知れない。だから、代わりに杏さんが付き合ってくれる?」

「…えっ?」

 

「えっえっえっ!?ほ、本気でー!?」

一刀が逢紀の肩を抱き寄せて、ゆっくりと手近な会議室へと向かって行く。

「本気本気、でも着てもらって愛でるだけだから安心して」

「え、で、でも私初等部の寸法とか絶対無理だよ!?」

顔を赤くしながら抵抗しない。理由も論破待ち。あざとい鼠め。

「大丈夫、杏さん用の寸法のやつ持ってきてもらったから」

「えーっ!?えっ?えー!?まじ!?ちょ、ちょっと待ってぇ!?」

言いながら一刀の肩に顔を載せるな。受け上手なつもりか。一刀が会議室の扉を後ろ手に閉めた瞬間、詠と白蓮と三人で一斉に扉に耳を当てる。

 

「えー…ちょっとホント、私恥ずかしいってばー」

「…」

「無理無理、お尻とか入んないって…んな、高等部とか言ったって」

「…」

「どーしても?どーしてもなの?」

「…」

「もー…ちょっとだけだからね?」

「…」

「見ちゃダメ!良いって言うまで絶対こっち見ちゃダメだかんね」

「…」

「い、いーよー…」

「…」

「うー…、これすっごいぴちぴち…ちょ、これやっぱ超恥ずかし、やっぱダメ、見ちゃダメ!」

「…」

「褒めたってダメ、あ、ちょ、ダメ、ダメだってばっ、一刀さん触り方やらしっ、んっ…」

 

 

 

「「「…」」」

三人が一斉に無言で扉から耳を離した。

「ガチの『そういう』プレイを体操服プレイにすり替えて誤魔化すつもりみたいね。…じゃ、ま、三十分後に集合って事で」

そう呟いて会議室の扉に鍵と『使用中』の札を掛けると、詠はすたすたと自室へと戻って行った。

 

「…白蓮。貴女は黙ってられるわよね」

「あ、ああ、勿論だ」

えっとごめんなとよく分からない謝られ方をして別れた三十分後、妙に肌艶と機嫌の良い逢紀が一刀の腕にしがみ付きながらもぉ一刀さんったら変態なんだからぁまたそーゆーの着せたくなったら私に言うんだよ高等部の娘とかに手ェ出しちゃだめだからねんーっちゅっとか言いながら出てきた挙句、あっ華琳さぁんまだ居たんだぁもー一刀さんのえっちっぷりには困るよねェやだったらヤダって言わなきゃダメだよじゃーねーとか別の理由でこの娘殴っていいわよねと思わされた事も、遅れて会議室から出てきた一刀からよく堪えてくれたって言いながら私のブツを渡された瞬間にギリ許そうと思えた。

だって私は魏王。感情に任せて暴走していい時代はとっくに過ぎている。失敗を次に生かす、それこそが最も重要な事。

 

「…今回は反省したわ」

「…そうだな」

「今度からは服じゃなくて中か口に出すようにしましょ」

「そこかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------

 

 

「いやぁ一刀さんってもーホンットえっちだなあ…おねーさん体持たないってばー、ウェヒヒッ♪さーて掃除掃除!…あれ?また落とし物だ、なんだろ…あ、制服だけどなにこれ、すっごい胸のところだぶだぶだけど。えーっと名前名前…『はくたつ』かぁ、どこの娘のだろ?」


 
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