No.875215

ガーデン・コール(絢瀬絵里生誕祭2016)

あらすじ1:
唐突にはじまった、のぞえりによる校内放送。その中でサプライズが……。

あらすじ2:
二年前。誕生日が近い絵里だったが、希にそれを話していないことを思い悩み……。

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2016-10-20 23:52:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:309   閲覧ユーザー数:307

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「では一通。『とある音ノ木坂現役のお兄さん』さんからいただきました」

「……?」

「ん? どしたんえりち? なんや首傾げて。可愛いなあ」

「こら希。可愛いとか言わなくていいわよ。いえ……うちは女子高なのに、って少し不思議に思っただけよ。おたより、ありがとうございます」

「堅い。堅いよえりち。そんなんやと聴いてくれてるみんなまでガチガチになってまうよ? だいたい、こういうお名前にいちいちつっこんでたらきりないで? 普段、ラジオとか聴かんの?」

「気分転換に聴くことはあるけれど……。持っている音楽だけでは飽きてしまうことがあるから」

「あ~。あかんあかん。それFがつくほうのラジオやろ? これそういうのとちがうから。Aのほうがイメージ近いから。そやね、具体的には土曜の夜、日付が変わるくらいに流れてるような?」

「? よくわからないわ」

「そう? うちはお笑いも好きやし、夜さびしいとき誰かさんがかまってくれないときは、よく聴くからなあ」

「しっかり睡眠はとらないと、体に悪いわよ?」

「それがガチガチやゆうてるの。あ、でも一通目のお便り読む前から脱線するのは、すごいかも。お昼休みの放送時間に合わせて台本書いてくれた放送委員の子、青い顔してるで?」

「ご、ごめんなさい! いいから進めて」

「そやね。とりあえずお便りくれた人らのこと、なんて呼ぼか? えりち、なんか思いつく?」

「そうね……」

「だいたいこういうのって、その番組のタイトルからつけたりするもんやけど」

「μ'sの広報用のつもりで時間をいただいたのだから、たとえば……μ's広報部、とか?」

「それもええけどね。部活やとジャージでやったりなんかしてな。ん~でもちょっとちゃうよね。聴いてる子らが、えりちに期待してんのは普段見れないえりちの可愛いとことかだろうし」

「普段もなにもないわよっ。……ほら、また話がそれてる。私たちはμ'sだから……μ'sネーム? いえ、ごめんなさい。語呂があまりよくないわね。それに、音ノ木だからμ'sのファンって決めつけるのも良くないわ」

「だったらラブライブなんやから、ラブライバーネームってとこ?」

「そうね。語呂は悪くないわ」

「ほんならとりあえず、さっきのお便りをご紹介するね。あらためまして、ラブライバーネーム『とある音ノ木坂現役のお兄さん』さんからいただきました。『絵里さん、希さん、こんにちは。ラブライブご出場おめでとうございます。応援しています』」

「「ありがとう」」

「ほい。『μ'sもかなり有名になって嬉しいのですが、そんなみなさんが、いまでも屋上で練習しているのが少し心配です。雨の日や風の強い日は大変ですよね? 元生徒会のお二人であれば、体育館などの場所を確保することもできると思うのですが、どうなのでしょうか?』……だって。そのへんどうなん?」

「そうね。まずは、心配してくれてどうもありがとう」

「おおきに。ん~。たしかにそやね。実際んとこ、夏はめっちゃ暑かったし、雨の日やと練習できないもんね。えりち元生徒会長なんやから、ほかの部活なんて圧力かけてどうとでもできるやん。つーんってこわい顔すれば、誰も文句いえへんて」

「いや、しないわよそんなこと……。私はそんな、こわい顔で圧力かけたりなんてしたことありません」

「……え?」

「? なにかおかしなことを言ったかしら?」

「えっと、まあ本人がそう言ってるからそっとしておくとして、どうなん? ラブライブ優勝目指してるんやから、きっとみんな応援してくれてるやろうし、お願いしたら場所くらい空けてくれるんとちがう? あ、メールとか募集してみる?」

「やめなさい希。いいのよ、私たちは屋上で。あの子たちが選んだあの場所……いまさら他に移ったら、なんだかさびしいじゃない」

「せやね。うちもそう思う。あの場所はなんていうか、うちらに……とくに穂乃果ちゃんにぴったりの場所なんよ。お天道様の日差しをたっぷり浴びれて、たまぁに練習休んで遊びたいときには雨も降ってくれる。ちょっぴり気まぐれで、だけどまっすぐで優しい場所」

「そうね。それに、あれだけ上が抜けている場所で声を出すと、ライブのときは自然と大きな声も出るから、ちゃんと効果もあるのよ」

「そうそう。部室まで戻るの面倒くさくて、屋上でばって着替えちゃう子がいるときなんかは役得とか思ったり……あいたっ!」

「こほん。さて、とにかく心配いらないわ。私たちはあの場所ではじまったの。μ'sがどこまで行けるのかなんてまだわからない。けれど、飛び立つのも帰ってくるのも、この音ノ木であることは間違いないわ。応援してくれる気持ちだけで、私たちはもっともっと先へ行ける。だからこれからも、応援よろしくね」

「無理矢理キレイにまとめようとせんでも……」

「はい、黙りなさい。あ、放送だから黙ったらダメよね。先生方も聴いているのだから、あまり変なことは言わないの」

「は~い。なんやこういうのがあったほうが人気は出ると思うんやけどなぁ。んじゃま、次のお便りいこか。えっとラブライバーネーム『ブラックジュエリーの姉』さんからいただきました。あ、これ学校のホームページから募集して、学校の外から来たお便りらしいで。なんでもたっくさんメールくれたとか」

「外のファンの方なのね……残念ながら校内放送だから聴いてはもらえないけれど、ありがとう」

「ありがとうな。『拝啓。秋たけなわの頃、味覚の秋を迎え、木犀の香りがほのかに漂って秋の長雨が続いております。灯火親しむ秋となりました。衣更えをして、秋の深まりを待つばかりです。紅葉だよりに旅心をさそわれます』……どゆこと?」

「時候の挨拶ね。こんにちは、ってことよ。たぶん、その後が本文よ」

「長いなぁ。う~ん。その後もなんや難しいことつらつら書かれてるけど……。簡単に言うと『親愛なる絢瀬絵里さま。この度は、お誕生日おめでとうございます』……ってわけで、えりちお誕生日おめでとう~! いえーい! めでたい! めでたい!」

「な、な、なに!? なによこれ!?」

「サプライズでハッピーバースデーに決まってるやん。はいそれじゃ、ケーキかもんっ! 運んで来てくれるのはスペシャルゲスト! われらがμ'sのリーダーにしていまの生徒会長さんである、高坂穂乃果ちゃんで~っす!」

「はいは~い! 高坂穂乃果ですっ! 絵里ちゃんお誕生日おめでとう! 十八歳って大人だねぇ!」

「ちょ、ちょっと二人とも! どういうこと? 私こんなの聞いていないわっ!」

「あたりまえやん。サプライズを言うてまうおばかさんなんておらんよ。あ、ちなみに聴いてくれてる子らに言っとくと、本当のお誕生日は今日ではないんやけどね。でもさっきメールくれた子も含めて、えりちの誕生日祝ってくれる内容がめっちゃ多かったから、特別にやらせてもらったんよ」

「そうだよ! 絵里ちゃんはみんなに人気者だからねっ! 先生たちもいいよって言ってくれたくらいだもん。あ、ことりちゃんからお母さんに頼んで貰ったりもしたけどね。ありがとことりちゃ~ん! 聴いてる~? 穂乃果だよ~!」

「こらこら穂乃果ちゃん。マイクに手ぇ振ってもしゃあないよ。ほい、それじゃ一発歌っとくかな。火ぃ使うのはさすがにあかんけどね。……できれば、音ノ木のみんなも一緒に歌って欲しいな。それじゃ穂乃果ちゃん。うちらで歌おか?」

「うんっ! せ~のっ!」

 

 

   ガーデン・コール(絢瀬絵里生誕祭2016)

 

   ~二年前~

 

「……ふぅ」

「なんや、絵里。ため息なんてついて。可愛らしい」

「こら希。可愛いとか言わなくていいわよ」

「えへへ」

 そんな風に冗談めかして言って、私の顔を上目遣いで見上げて希は笑う。

 まったくもう。可愛いのはどっちよ……。

 お昼休み。

 私の前の椅子に座った希は、お昼を食べたらそのまま私の机に腕をおいて居座る。いまのように、私の顔を見上げるような姿勢で。

 そのままお喋りをすることもあれば、私に本を読ませた上で、その様子をじっと楽しそうに眺めていることもある。とても落ち着かないけれど、放っておけば昼寝をはじめてしまうので、とくに害はないと思う。

 寝顔を見れるぶん、私の方が得をしているようにも思える。

「で、なに悩んでるん?」

「べつに、なにも悩んでいないわよ」

「あまいなぁ。うちがそんなことに気がつかんと思う? ここにしわが寄ってるで? 美人さんが台無しやん」

 つん、と眉の間をつつかれる。

 人なつこい猫のよう。

 希の誕生日に友達だと明言してからは、いつもこんな風なのでもう気にしてないけれど。

「希には関係ない」

「あ。またそんなこと言う。あかんで? うちにはそんなん効かないけど、ほかの子は傷つくから。まあええよ。うちに話せないのは、話せない理由があるからやろ?」

「……」

「だんまりは肯定、ってね。……だいじょぶ、うちは絵里の味方やから」

 とろん、と目元がいつもよりも垂れていく。

 お腹が膨れて眠くなったのね。本当に猫みたい。

 私はぽん、と希の頭に手を乗せる。

 気まぐれに撫でてみただけ。

 そう。猫みたいだったから。

「気持ちええなぁ」

 すぐに、希は寝息を立てはじめた。

 さて。どうしたものかしらね。

(……もうすぐ私の誕生日なんだけど)

 たぶん希は、それを知らない。

 話した覚えがない。

 どうしよう。

 実際の所、もう時間はない。かといってわざわざ自分から話すのも格好悪いというか、見返りを求めているのがばればれでいやしい。当日にそれとなく話すという手もあるけれど、希はこう見えて一人暮らしをしているし、神田明神で巫女のバイトもしているから、下手をすれば予定が合わない。だいたい、一人暮らしをしていてお金だって苦しいはずの希に、プレゼントを催促するなんて出来ない。なにかが欲しい訳ではないし、希から貰えるのであればなにを貰ってもうれしいけれど、やっぱり自分からそれを話すのはどうにも躊躇われる。

 つまるところ、希だから話せない。

「……バカみたい」

 なんで私がこんなことで悩まないといけないのよ。お誕生日は家で祝ってもらえるし、ロシアにいるおばあさまと亜里沙からだってプレゼントが届くもの。

 そして、ロシアの二人と電話でたくさんお話をするの。亜里沙が日本に来るのもそう遠くないし、日本語がどれくらい話せるようになったのかとか、私と離れていてさびしくないかとか、そんなお話をたくさん。

 それだけで私は、

 ずきん。

「……ほんと、バカみたい」

 私は希に、振り回されてばかりだ。

 突然降ってわいたみたいに現れて、ちょろちょろ私の周りをかけまわって、いつの間にかこんなに近くにいる。

 それでこんな気持ちにさせられて、こんなの私らしくない。

 ちがう。

 そうじゃない。

 私らしさなんてものが、いかに私の中でちっぽけなものだったのかを、希は教えてくれた。

 なのに、こんなに近くにいるのに、私には少し触れてあげるくらいのことしかできない。

 この子はきっと、私よりもずっとさみしいはずなのに。

 家に帰って、ただいまを言える相手がいる。待っていれば、おかえりを言える相手が帰ってくる。

 そんな私が、この子よりもさみしいはずがない。一人暮らしをしている希は、本当に偉いと思う。

 この子は強い。

 そして私は、弱い。

 ひどく無愛想だった絢瀬絵里に声をかけるだけの勇気なんて、私にはない。

「……バカ」

 希の髪に触れる。

 あなたは私のどこが良かったの?

 どうして友達になろうと思ったの?

 どうしたらあなたのように、人に優しくすることができるの?

 誕生日を祝って欲しい。ただその一言を冗談めかして言うこともできない私に、あなたの隣にいる資格があるとは思えない。

「……絢瀬さん、あの」

「は、はい!」

 少し、意識が遠くなっていたらしい。

 二つ隣の席の子に声をかけられて、気がつく。

「ごめんね。たぶん、希ちゃんに用があるみたいなんだけど、あの子……」

「?」

 指さす先に目を向けると、教室の前の扉のところに、女生徒が立っていた。

 小柄なツインテールの女の子。

「あ……はい。希は寝ているから、私が聞いておくわ。ありがとう」

 よかった、声をかけて貰えて。

 希のおかげもあって、クラスメイトと話す機会も増えていた。

 それはありがたいのだけれど、

「う、うん! どういたしまして! こっちこそありがとう、絢瀬さん!」

 大体みんな、こんな反応なのよね。顔を赤くされて、目を背けられてしまう。希はもっと自然に話していると思うのだけれど。

 笑い方が不自然なのかしら?

 とにかくいまは、話を聞きに行かないと。

 席を立って、ツインテールの子のところへ向かう。

 そういえばこの子、ときどき希と話しているような……。

「げ、絢瀬絵里……」

 なんて、ツインテールの子は露骨に表情をゆがめる。

「……ずいぶんな言われようだけれど」

 私自身、無愛想を振りまいていた時期があったので、身に覚えがない訳ではないから、別段怒ったりはしない。

 少しは不愉快だけれど。

「ああ、いいのいいの気にしないで。ほら、あんたの相方の東條希いるでしょ?」

「べつに相方ではありませんっ」

 もう、なによこの子!

「希に用なら、起こしてくるわよ?」

「寝てるの? なによ、のんきに昼寝? ……あ、そうだ」

 にこり。

 にこりと、ツインテールの子が笑みを浮かべた。なぜだかすごく不安にさせられるような、そんな笑顔。

「なら、東條希に言っといてくれる?」

「ええ……。構わないけれど」

「約束したものを渡しに、神田明神まで遊びに行くわ、って」

 ずきん。

 ずきん。ずきん。

「わかったわ。えっと、あなたの名前は?」

「矢澤にこ。にこにーって言えば伝わるわ。それじゃね」

 それだけ言って、矢澤さんは背中を向ける。

「ああ、それと……」

「?」

「……ううん。なんでもない」

 そのときだけは、小柄な彼女の後ろ姿がどこか大人びた印象に見えた。

「まったく……」

 なにがまったく、なのだろう。

 少しだけ不遜な態度の矢澤さんが?

 こんなときでものんきに昼寝をしている希が?

 不意に襲われた胸の痛みに戸惑いながら、私は矢澤さんの小さな背中を見送る。

 私は少し、おかしいのかも知れない。

 座席に戻ると、

「絢瀬さん、大丈夫? 顔色がすこし悪く見えるけど……」

 声をかけてくれた子が、心配そうにしてくれる。

「ええ、大丈夫。希に伝言らしいわ」

「そう。……えっと、勧誘とかではなかった?」

「勧誘?」

「ほら、あの子ってスクールアイドル研究部の子でしょ? 絢瀬さんすっごく綺麗だから、勧誘されそうだなって思って。それに前と雰囲気変わっ……」

 そこまで言って、しまった。といったような顔になるのがわかった。

 私は思わず、くすりと声をもらして笑って、

「いいのよ。いままで愛想がなかったのは、自分が一番わかっているから。ありがとう」

「希ちゃんの、おかげだね」

 彼女はやわらかく笑って、眠っている希に視線を送る。

「ええ。本当に、感謝しているの」

 それから少し、その子とお話をした。

 そのだいたいが、希の話。

 しばらくして、

「ん~。よく寝た。これで午後もがんばれそう」

 希が胸を張るように伸びをしながら、体を起こして、

「……」

 私の顔を見て、固まった。

「あ、希。矢澤さんから伝言があって……」

 けれど希は、私の顔を見て固まったまま。

「……どうしたの?」

「いやぁ、目ぇ覚めてえらい美人さんがおるから、まだ夢見てるのかと思って」

「くだらない冗談はいいわよ」

 私が答えると、希と、お話をしていた子まで目を丸くする。

 なによ、二人とも。

「で、なんやったっけ? 矢澤さんって、にこっちのこと?」

 とくん。

「……ええ。たぶん。その子から伝言で、約束したものを渡しに神田明神まで遊びに行く、だって」

「あの子はもう、しゃあないなぁ。うん、とにかくありがとう」

「……それでわかるの?」

「うん。ちょいと困ってたから、助けてもらってるとこ」

 とくん。とくん。

「へえ、そうなんだ」

「どしたん絵里? 顔色悪くない? 保健室いこか?」

「大丈夫。大丈夫だから」

 チャイムが鳴る。

 そっか。

 矢澤さんは、希を助けられるんだ。

 

 

「ってわけで、お誕生日おめでとえりち! ハラショー!」

「絵里ちゃんおめでとー! これは学校のみんなからだよ! お誕生日と、生徒会長おつかれさま! がさがさしてうるさいけど、花束だよ~」

「……もうっ。こんなの、ずるいわよ」

「お? えりち、泣いてる? 泣いてまうん?」

「な、泣かないわよ。うれしいけど、その顔見てたら涙もひっこむわよっ」

「はいはい。いただきましたっ、と。んじゃま、ケーキも後でおいしくいただくとして、進行してくよ?」

「え? 希ちゃん、これで終わりじゃないの?」

「あくまでもμ'sの宣伝で時間もろてるわけやし、そこんとこはマジメにいくで?」

「そうよ、穗乃果。あなたはμ'sのリーダーで生徒会長なんだから、きちんと示しがつくようになさい」

「穗乃果はケーキが食べれるって海未ちゃんから聞いてきたんだけど!?」

「食べれるよ、後でな。いま穗乃果ちゃんはゲストなんやから、しゃんとせんと」

「うぅ、わかりました」

「ってわけで引き続き穂乃果ちゃんにもいてもらいます。いらっしゃいませませ~。ほい、じゃあつぎのお便り。ラブライバーネーム『フォーチュンクッキー』さんからいただきました」

「ありがとう」

「ありがと!」

「『いつも素敵な曲をありがとうございます。ヘビロテで聞かせていただいています。ところで、μ'sの皆さんは厳しいトレーニングをする中で、筋トレもしていると思いますが、メンバーで誰が一番強いですか? とても気になります』……ってことみたいやけど」

「ケ、ケンカはダメだよ!? っていうか、普通に考えて海未ちゃんが一番強いに決まってるよ! 園田流だよ!?」

「ちょいと勘違いがあるとあれやから言うとくと、園田流は日本舞踊の流派の名前で、海未ちゃんのお母さんがその家元さんやね。お父さんが武道道場やってて鍛えてるから、強いには変わりないんやろうけど」

「そこで培われた海未の何事にも真摯に向き合う姿勢は、とても素晴らしいわ。……そういえば、穗乃果は海未と一緒に剣道をやってなかったかしら?」

「え? そうだっけ?」

「はーい。というわけで、誰が強いか決めるために腕相撲、やってみよか?」

「「腕相撲?」」

「おお。新旧生徒会長は息もぴったりやね。そそ。腕相撲。勝ったらそうやね、なんでも言うこと聞くってことで。うちが勝ったら二人ともわしわしマックスや!」

「……希、大した自信ね」

「そんなことないよ~。うちは可愛い女の子やもん」

「というか、校内放送で腕相撲って伝わるの?」

「なぜかおんなじようなお便りいっぱい来てたみたいやで?」

「需要があるのなら、構わないけれど……」

「腕相撲かぁ。うん。いいよ!」

「お、じゃあえりちはめでたいからシードにして、まずはうちと穗乃果ちゃんでやろか」

「はーい。負けないよ!」

「おお、穗乃果ちゃんの手ぇやわらかくて気持ちええなぁ」

「あははっ、くすぐったいよ希ちゃん!」

「ほら、ふざけないの。それじゃいくわよ? レディ……ゴー!」

「ふん! あまあまやで穗乃果ちゃん! うちは荷下ろし得意やし、神田明神さんでぎょうさんほうきかけさせてもろてるおかげで、そこそこ筋力握力には自信が……あれ?」

「? 希ちゃんどしたの? ぜんぜんちから、入ってないよ?」

「う、うそ……やろ?」

「……穗乃果、やってしまいなさい」

「? でも……」

「ん~! んん~っ!」

「穗乃果。私はあなたの、いつだって一生懸命なところが好きよ。だからそう。いつもの勢いで、やってしまいなさい!」

「ん~っ!!」

「絵里ちゃん……うん! ファイトだ……よっ!」

「ぎゃふん!」

「……悪いことを考えるからこうなるのよ」

「いえ~い! 穗乃果の勝ちぃ!」

「あ~。あか~ん。あ~」

「……大丈夫、希? 肩から持っていかれたように見えたけれど……」

「大丈夫やないよ! なんで? なんでこんなに穗乃果ちゃん強いん!?」

「ん~? あるとしたらお店の手伝いかなぁ?」

「穗乃果の家は和菓子屋さんなのよね。穗むらのおまんじゅうは、私のおばあさまも大好きなの」

「えへへ、照れちゃうなぁ。あ、聴いてくれてるみんなも穗むらのおまんじゅう、よろしくね!」

「ほ、ほんならつぎは、えりちと穗乃果ちゃんで勝負やね」

「あ、私は棄権するわ。優勝おめでとう、穗乃果。この調子でラブライブも優勝を目指しましょう」

「ずるいでえりち! うちが肩ごと持っていかれただけになってまうやん!?」

「はい、スペシャルゲストの高坂穗乃果さんでした。穗乃果、ケーキが食べたければ先に食べてていいわよ」

「ホント!? でもガマンする! 絵里ちゃんのだもんね。ばいば~い! またねぇ。あ、それじゃここで一曲流しちゃうね! えっと、lily white! リリホワでー」

 

   ~秋のあなたの空遠く~

 

 放課後。

 私は、神田明神までやってきていた。

 なぜ来てしまったのかしら……。

 あのときも、そうだったような気がする。凍らせたような冷たい心で、無愛想を振りまいていたあの頃。それでも私に声をかけてくれた希が、不意に流した涙。

 いつも無駄に明るくて、まぶしいくらいの笑顔を振りまくあの子が、なぜ?

 それがどうしても気になったあのときの私は考えるよりも早く、覚えていた住所を頼りにあの子のマンションの近くまで向かった。それがきっかけで友達だと明言するようになったのだけれど。

 私は、難しく考えるよりはすぐに行動に移してしまう。

 ああ、おばあさま。エリーチカは賢くて可愛くなんてありません。

「……なによ、それ」

 くすりと笑えてくる。

 いいわ。やってやろうじゃない。

 開き直ってしまえばこわくない。

 矢澤さんの言葉が気になったから。

 放課後ひまだったから。

 希に、会いたかったから。

 もうなんでもいいわ。あの子を前にして、思ったことを言ってしまえばいい。

 だって私は、あの子の友達なのだから。

「……よしっ」

 男坂へ一歩を踏み出す。覚悟を決めてしまえば足は重くなくて、むしろ羽のように軽い。

 登り切る頃には胸がすこし高鳴るくらいに体が温まった。

 鼓動の早さに合わせて歩くと、あっという間に神田明神の境内の中についてしまった。

「……いないの?」

 きょろきょろと辺りを見回すけれど、希の姿はない。

 もしかして、また先回りしてしまったの?

「どうしようかしら……」

 待つ、ということがあまり得意ではないのかもしれない。

 落ち着かなくて、そわそわする。

 境内を抜けたところに公園があるから、そこで時間をつぶしてまた来ようかしら。

 ヘンな見栄を張るみたいで格好悪いけれど、参拝する訳でもないのにここで待つのも気が引けるし。

 境内をまたぐように歩いていると、

「あ~も~。うちみっともない!」

「っ!?」

 希の声が聞こえて、私はさっと角に体を寄せた。

「っていうか、にこはこう見えても忙しいのよ。もう帰っていい?」

 この声は、矢澤さん?

 そっか。裏手の方にいたんだ。

 そして二人は、なにかお話をしている。

 やだ。こんなところで立ち聞きなんて、みっともない。

「私、悪い子なのかな……」

「こら、口調。たとえお芝居だろうと、やると決めたからにはやりきりなさい。っつーかなにがあったのか言いなさいっての」

 悪い子?

 お芝居?

 ずきん。

 ずきん。ずきん。

 まさか。

 まさか、それってー

「今日な、絵里がクラスの子と楽しそうにお喋りしてたんよ」

 私の話……。

 やっぱり、それって。

「よかったじゃない。あんただってその方がうれしいんでしょ?」

「そりゃうれしいけど!」

 ずきん。ずきん。

 ああ、そうなんだ。

 私は、耳をふさぐこともできずに立ち尽くしていた。

 どさ、とカバンが落ちてしまった。

 けれどもう、どうでもいい。

 心が冷えていくのがわかる。

 あたたかさを知ってしまったせいなのか、前よりもずっとこの冷たさが苦しくて辛いものに思える。

 いいえ。冷たいとか、そういうのではなくて、なにもない。

 希にそんな風に思われてしまった私には、もう、なにもない。

 いつから?

 いつから私は、こんなに弱くなってしまったのだろう。

 目頭が熱くなって、つい空を見上げた。秋の空は高く遠くて、よく澄んだ空は青いはずなのに、いまの私には白と黒にしか見えない。

 ひどく空虚で、なんの感情も湧いてこない。

「? いまなんかー」

「気のせいよ。ほら、で、あんたはどうなの? なにをどうしたいの?」

「にこっち……」

「早く。絢瀬絵里があんた以外の子と話してるの見て、ホントはどう思ったの?」

「そんなの……」

 そんなの、聞きたくない。

「早く! 言っとくけど、ここがどこかわかってんの? にこは神様なんて曖昧なものより自分を信じるけど、ここでウソなんかつくんじゃないわよ!?」

「そんなの、決まってるやん……」

 いや、聞きたくない。

 逃げなくちゃ。

 重たい足を、引きずるように動かす。

「……待ちなさいっての!!」

 驚いて、足が止まる。

 矢澤さんの大きな声。

「? にこっち?」

「じゃなくって、あんたはさっさと続けなさい」

「うちは……」

 そんなの、聞きたくないのに。

「私は、絵里が他の子と話してるの見て、すごく腹が立った……」

「……っ」

 ひどく細い声が、私の喉からもれた。

「ふーん。それで?」

「そんなの駄目だよ。私は、絵里の良いところたくさん知ってるから、もっともっと他の子にそういうところ見てもらって、いろんな子に絵里と仲良くなって欲しい。なのに……それなのに!」

「のぞ……」

 その声は泣いているようで。

 ううん。

 いま泣いているのは、私だ。

「ならいいじゃない。あんたが絢瀬絵里から離れれば、それであんたの望みは叶う。それでいいじゃない」

「良くないよ!」

「……」

「全然良くないっ。私は絵里のことが好きなんだもん。ワガママでも! 自分勝手でも! 私は、私が一番、絵里のそばにいたい!」

「……はい、いただきました、っと。……アホらしいから帰るわね」

「うぇ!? ちょ、ちょっとにこっち!?」

 にじむ視界が青く染まる。

 私の景色に、色が戻ってきた。

「……ふん。盗み聞きとは、ずいぶんいい趣味してるじゃない」

 矢澤さんの声。

 私の隠れていたところまで、すぐにやってきたみたい。

「あなた……」

「にこは忙しいの。あんたたちの痴話ゲンカに巻き込まれるのはまっぴらごめん。ごめんごめん。あとは勝手にやんなさい」

 やっぱり、ずいぶんな言い方。

 この子とは、すぐに仲良くなれそうにない。

 けれど。

「矢澤さん。ありがー」

「絢瀬絵里。にこはあんたが好きじゃない。なんでも持ってることに気がつかないで、悲劇のヒロインぶってるあんたが……」

「……矢澤さー」

「なんでも持ってるんなら、舞台のセンターで主役張るくらいのこと……してみせなさいっての。にこはあんたみたいなの、ほんっとに好きじゃない」

 まくしたてるようにそう言って、矢澤さんは手をひらひら振って去っていく。

 また、その小さな背中がひどく大人びて見えた。

「……奇遇ね。私も、あなたがちょっと苦手かも」

 その背中を見送りながら、私はそんなことを呟いた。

 いまはまだ、私に余裕がないけれど。

 それでも、いつかきっと。

 

 

「続きまして、こちらのコーナー。今週の、ハラショー!!」

「……なによこれ?」

「このコーナーでは、いただいたお便りにえりちがハラショーで点数をつけます。んーと、とりあえず10ハラショーでなんか差し上げます」

「ほんのわずかに悪意みたいなものを感じるのは気のせい?」

「気のせい気のせい。では一通、ラブライバーネーム『ブラックジュエリーの妹』さんからの、今週のハラショー。あれ?」

「さっきのはお姉さんで、こちらは妹さんかしら?」

「みたいやね。あ、今度はすぐ内容書いてあるから読みやすい。なになに? 『わたしはお姉ちゃんのことが大好きで、お姉ちゃんと一緒にスクールアイドルのまねっこしたりするのが、とっても楽しくて大好きです。でもルビ……』っと、あぶない。これ本名やない? こほん。『でも、わたしはちっちゃくて泣き虫で、大好きなお姉ちゃんの隣にいるのがちょっと恥ずかしいです。そんなときはμ'sさんの曲を聞いて、がんばる……ようにしています。応援しています。大好きです』」

「10ハラショー」

「はやっ!? え? どしたんえりち? こういうの、結構きびしめに行くかと思ってたんやけど……」

「お姉さんが大好きな妹さんに、悪い子はいないわ。これからも姉妹、ずっと仲良くしてね」

「あまっ! 思いっきり自分に重ねてもうてるやん!? まあえっか。ほいじゃ、ブラックジュエリーの妹さんにはなにか……え? あ、住所もらってなかったん? あちゃあ、残念やなぁ。せっかくえりちの私物でもなんか送ったげようかと思とったのに」

「メールアドレスは残っているのでしょう? だったら私が連絡してみるわ。まかせて」

「いや、妹ちゃんに甘すぎやから……。んじゃつぎいこか。えっと、タイタンサーバー? の『クルルさんの弟子』さんからいただきました。『こんこん。イベントお疲れさまでした。今回のアプデで念願だったカメラの』……これ、なんかちゃうくない?」

「間違いメール? けれどカメラとか、なんのお話かしらね?」

「うーん。オンラインゲーム、みたいな? せっかくやから聞いとくけど、えりちはゲームとかしないん?」

「私はやらないわね。やったことがない、が正しいのかもしれないけれど」

「えりちは頑固やし負けず嫌いやから、たぶんはじめるとあかんタイプやと思うわ。休みの日とか、ずっとやってそう」

「そうかしら? けれど、べつにそういうものを否定するつもりもないわよ? 穗乃果だけじゃないけれど、趣味でもなにか好きなことを一生懸命にしている人は、好きだもの」

「んではまってもうて、休みの日は家にこもってなんぼでしょ、とか言い出すんやね」

「? なんの話よ?」

「まあ間違いでもお便りはお便りやから、いまのなんハラショー?」

「ゼロね」

「いや厳しすぎひん!?」

「宛先を間違えるなんて、テストで名前を間違えるようなものでしょ?」

「うーん。わかるような、わからんような……。んじゃどんどんいくで? 二年の……って、これクラスと名前入ってもうてるやん。匿名希望さんの、今週のハラショー。『先日、彼氏が』」

「ゼロハラショーね」

「聞いてあげるのもあかんの!?」

「そういう話はよそでやって頂戴。私は知りません」

「ゼロかイチしか出てへんし……あ、イチやなくて10やけど。ってかえりち、思ったよりノリノリやん」

「そう? 私は冷静に判断しているつもりよ?」

「だとしたら、いまんとこただのシスコンやからね……。っと、ここで時間みたいやね」

「そう。それならなんとしても、ブラックジュエリーの妹さんにはなにか贈らなくてはいけないわね」

「それでは一曲。BiBiで」

 

   ~Silent tonight~

 

 ほう、と息を吐いて、空を見上げる。

 もうすぐ日が暮れる。

 夕焼けの赤と、水色みたいに薄い青と、その間にあるピンク色。

 三色がだいたい同じくらいに見えて、綺麗。

 空を見上げてぼんやりするのなんて、いつぶりだろう。

 ロシアにいた頃は、おばあさまや亜里沙と一緒に向こうの景色を眺めていたけれど。

 空を見上げるだけなら、気持ちは幼いあの頃のままなのに。ただただ綺麗な景色を眺めて、少しだけさびしい気持ちになるの。

 そんなときは、おばあさまと亜里沙に体を寄せて、温かい体温と気持ちを一緒に感じる。

 なつかしくて、あたたかい気持ち。

 目を閉じればもっと思い出せる気がする。けれど私はいま、ここにいる。

 それが夢でなんてあるはずはないけれど、私はここにいて、そう、あの子を待ってる。

 少し前のやりとりを思い出す。

『あの……』

 私は一歩踏み出して、角から姿を見せる。

『え、り……?』

 希は普段からまあるい目を、よりいっそうまんまるにする。

 そして、

『……〜っ!』

 きゅう、と声にならない声を出して、顔を真っ赤に染める。

 初めて見る表情。

『い、いまの……聞いてた?』

『うん……』

『よ、よしっ! ちょっと待っててな! ちゃっちゃとお仕事終わらせてくるから、その辺に座って待っといて!』

『え、でも……』

『ええから! ……ごめん、ちょっと時間ちょうだい。おねがい』

 それからこうして、待ちぼうけ。

 ううん。べつに、待ちくたびれたりはしていないの。

 ただ、なんだかぼんやりと夢見心地で、ふわふわとしているうちに、日が暮れそうになっている。

 まったく、現金なものね。

「嫌われて、なかった……」

 確かめるように呟く。

 そうすると、またふわりと心が軽くなる。

 嫌われてなかった。

 私は希に、嫌われてない。

 それだけ。

 それだけのことなのに、こんなにも世界が綺麗に見えるだなんて、本当にどうしようもないくらいに、私は単純だ。

 単純なくせに、硝子のように壊れやすい。

「……ごめん。待たせた、かも」

 声がする。

 希の声が。

「ええ。いいのよ」

 振り返ると、制服姿に戻った希が、さっきと変わらない真っ赤な顔で立っていた。

 思わず私は、くすりと声を出して笑っていた。

「ちょ!? なんで笑うん!?」

「い、いえ。そんな顔、見たことなかったから。……本当にもう、可愛いわね」

「か、かわいい!? な、なに言うてんの!?」

 いよいよ怒っているのか照れているのか、わからなくなってる。

「それで? 私になにか、話があるの?」

 少し意地悪く言ってみる。

「う〜。聞いてたくせに……」

 ほっぺたを膨らませているところも、初めて見るかも知れない。

 もっともっと、希のことを知りたい。

「冗談よ。だから、今度はこっちの番!」

 私は希のほっぺたに両手をあてる。

「むぅ?」

 すべすべで、柔らかい。

 熱いくらいに、あたたかい。

 ぱちぱちと希の目がまばたきを繰り返す。

 残念だけれど、目をそらすのは許さない。ちょっと恥ずかしいのはお互い様だから。

 だから。

 私はもう、頑張らない。

「私も同じよ」

「……?」

 希の目が疑問の色を帯びる。

「私も希とおんなじ。あなたが他の誰かと仲良くしていると、気になって仕方がないの。矢澤さんに相談してることがあるって聞いて、すごく胸が痛かった」

 瞳の奥に、私の顔が映る。

 なによ、その顔。

 そんなに嬉しそうに泣いている私を、私は知らない。

「私なんかと一緒にいても、つまらないんじゃないかって、他の子と一緒の方が、希は楽しいんじゃないかって、不安だった」

 そんな風に泣けるのなら、そんな風に笑えるのなら、泣けばいいのに。笑えばいいのに。

 せめてこの子の前だけでは、そうやって素直であればいいのに。

「私も希が大好き。それだけ。悪い?」

 ぶわり。

 希の瞳から涙があふれ出す。

 まばたきの必要なんてないくらいに、とめどなく涙があふれてくる。

 涙の熱さは私の手にも伝わってくる。

 話が終わるまで喋らせたくなくて離さなかったその手を離そうとすると、

「……そんなん」

 その手に、希の手が重なる。

「そんなん言ってくれなきゃ、わかんないよ……っ」

 ぼろぼろ泣きながら、強く私の手を握る。

「あなたがそれを言う? だから言ったでしょ? 私も同じだったって。お互いさまよ」

「うちはずっと好きって言うてたもん。絵里は好きなんて言うてくれたことなかったもん!」

「そうかも」

「そうかもやないよ。ぜんぜんお互いさまやないし! もうなんやの!? アホちゃう!?」

「おこった?」

「おこだよ!」

 こんなに怒ってる希を見るのも、初めてかも。

「とにかく、これから私はもう我慢しないから」

「……ガマンしてたん?」

「してたわよ。むしろ他の人の前よりも、希の前の方が我慢してたくらい」

「? なんで?」

 希はまた目を丸くする。

 ああもう、いつも押しが強いくせにこういうときは鈍いの?

「私があなたの隣に相応しいとか、そんなこと関係なく、私は隣にいたかったのよ。私なんかと仲良くー」

 ばちん。

 なにが起こったのかわからなかったけれど、眉をつり上げる希の顔を見て、私がしたのと同じように頬を抑えられたのだと気がついた。

 というか、平手打ちされたみたいになってる。

「お返し! ……私なんか、なんて言わないで。そんなことない」

 そんなこと、ないから。

 消え入りそうな声で言って、

「ああ、もうやめよやめよ! ああ恥ずかしい! うちらは両想いやったってことでええやん!」

「ふふ、それもそうね」

 なんでこんな、まるで告白するみたいなことになったのかしら……。

「あ……。ごめん、希。私もうすぐ誕生日なの」

 気がつけば、まるで消しゴムを忘れたくらいの気分で話していた。

 こんなに簡単なことができなかったなんて、不思議に思えてくるくらいに。

「うん? もちろん、知ってるよ」

「……え? だって私、そんな話した覚えが」

「あ、あ〜。そうやったっけ? ほら、うちスピリチュアルなもん見えるし、それで知ったんよ」

 いや、さすがにそれは無理があるわよ。

「……先生にでも聞いたの?」

「ああ、そうそう。センセに聞きにいったんよ」

 ……嘘っぽいけれど、まあそこはあまり重要ではないかしら。

 たぶん私も逆の立場なら、同じように駆け回っていただろうから。

「そしたらもう、うちも聞いてまうわ。絵里、お誕生日はなにが欲しい? 言うだけ言うてみ?」

 やれやれ、のような仕草で希は言う。

 それも言われるかな、と想像はしていたの。

 さっきまで考えてた。

「希の誕生日に、私があげたものは覚えてる?」

「うん。……名前で呼んで、って言うたよね」

 いまではすっかり、希って名前を呼ぶことには慣れたけれど。

「……矢澤さんのこと、にこっちって呼んでたわよね?」

「ああ、うん。そやね……って、まさか、そんなんでいいの?」

「ええ。私をなにか、そんな風に呼んでみて」

「正面切って言われるとなぁ……。んん〜。……ほんなら、絵里のおばあちゃんは絵里のこと、なんて呼ぶん?」

「は、はい?」

 まさかそれを聞かれるとまでは思ってなかった。

 けれどもう、隠さないと決めたから。

「か……」

「か?」

「賢い可愛い、エリーチカ……って」

 そう私を呼ぶおばあさまのことが、私は大好き。

 だから恥ずかしいことなんてない。

 ほら、希もにこりと微笑んでくれてる。

 そして希は、はにかみながら、

「なら、えりち。えりちでどう?」

「……うんっ」

 ほんの少しくすぐったいその名前は、なんだか胸の奥にすとんと落ち着くようで、

「えりち。ちょいと早いけど、お誕生日、おめでとさんっ……!」

「ええ。ありがとう、希」

 

 

「はい。ひじょ〜に残念なお知らせなんやけど、エンディングのお時間になってしまったみたいやね」

「……そう」

「お? なんやえりち、ホントに残念そうやん」

「だって……楽しかったもの。ライブやファンレターとはちがう形で、こうして大々的にμ'sを応援してくれる人たちと触れ合うことができるのは、とても貴重な時間だったわ」

「そうやね。まだまだお便りもぎょうさんあるし、なんならやってないコーナーもあるし」

「それは時間の配分が……」

「つまりうちらのせいやからね。反省せなあかんで?」

「ごめんなさい。……って、あなたもでしょっ!?」

「あはは。そうそう。みんなきっと、えりちの怒ったり笑ったりするとこ聴けて、うれしかったと思うよ」

「だといいけれど。なんだか、私が楽しんでばかりだったような気もするから」

「それでええの。話す方が楽しくないと、楽しさは伝わらんもんやから。……さ、おしまいにしよか」

「うん……。聴いてくれたみんな、どうもありがとう。どうかこれからもμ'sを、よろしくお願いします」

「うちもおんなじ気持ちやで。みんなよろしくね。それでは最後はこの曲。せっかくやからね……。東條希とー」

「絢瀬絵里でー」

 

「「硝子の花園」」

 

 

 ………

 

 

「おつかれえりち。なんやしらんけど、やけに様になってたで?」

「あなたこそ。ほとんど進行は希がやっていたじゃない。……終わっちゃったわね」

「……そんなに悲しいん?」

「うん……。こうして何かが終わってしまうのは、とても苦手なのよ」

「そっかぁ。でもまぁ、楽しかったよ……ね?」

「そうよ。だから、だからこそなの……」

「どうなん? 言うだけ言うてみ? ……うちの前では、ガマンなんていらんよ」

「っ……。やりたいわよ。また希と一緒に。でもー」

「いただきましたぁっ! というわけで今回お送りしました、希と絵里の……う〜んと、のぞえり放送? ラジオっぽかった? とにかくそんなんは、残念ながらおしまい!」

「え? ちょっと希、放送はもう終わってー」

「で・す・が! えりちがどうしてもって言うもんで、また近いうちに名前でもつけて帰ってきますんで、まだまだお便りぼしゅーちゅーやで! みんな頼むで!」

「こらもう! 勝手に進めないでよ!」

「おっとぉ! えりちがおこや! ほらほら。どうせまたできるんやから、落ち着いて」

「わかったわよっ。うれしいです! どうもありがとう! ハラショーよ!!」

「うんうん。素直が一番やね。それじゃ、今日のホンマの最後はこの曲。えりち!」

「ええ。これが終わりでなくてはじまりなら、そうね……。聞いて下さい。μ'sでー」

 

「「Music S.T.A.R.T!!」」


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