「君へ」
お母さんは、お父さんたちとはちょっぴり変わった女の子だった。
まるで真夏の空に浮かぶ雲のように白く柔らかく、瞳は朝焼けの色をしていた。
「白子症」という遺伝子のイタズラ。
つらいこともあったろう、でも、お母さんの笑顔は
そういうものを知らないような無垢な輝きをしていて、
お父さんは今でも、とてもとても大好きなんだよ。
でも、お母さんは寂しがり屋さんで、笑っているのに、
赤い瞳を波立つみなものように、フルフル震わせていることがあった。
まるで、雪ウサギのようで、
独りぼっちにしたら次の瞬間には溶けていなくなってしまうんじゃないかって。
そんなときのお母さんは、
「なんもないよ」
と、余計に笑って見せたんだ。
お父さんは放っておくことができなかった。
かわいくてかわいくていとしくてかなしくて、
でも何もできないお父さんは、自分のことをひどく恨んだ。
だけど、お母さんはお父さんのことが大好きだと、必要なんだよと言ってくれた。
だから、お父さんは、何もできないんじゃない、できることを探そうとお医者様になったんだよ。
君は、大きくなったら何になりたい?
うん、そうだね。その夢を一生懸命目指すのもいいね。
もしかしたら、君にもなにか出会いがあって、目指す道が変わるかもしれない。
でも、それでいいんだよ。
今まで歩いてきた道は、けして無駄なものではないから。
いいかい、だから、今を大切に生きるんだよ。
幸せに、笑顔を忘れず、でも、時々泣いて、
その心を失わず、真っ直ぐ真っ直ぐ、君の道を進むんだよ。
お父さんは、お母さんと、君のことを、
ずっとずぅっと見守っているからね。
おしまい。
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「ふたりのこと」 (http://www.tinami.com/view/870078 )
お母さんのこと