No.870092

FA SS 犬達の戦争

LORAND_13さん

フレームアームズのショートストーリーになります。

コンテンツ的に自由度の高いシリーズなので執筆に至りました。

駄文ではありますが、見て頂ければ幸いです。

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2016-09-19 21:47:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1483   閲覧ユーザー数:1452

 

人間の命の価値を物に例えるなら、少なくとも一発の銃弾と同じ価値があると言える。それはつまり、何者であれその命には一発の銃弾と同じ価値しかない。一部の者達、特にFAと呼ばれる兵器を操る者の価値は、銃を手にした者とそうで無い者との差と同じように、それこそ地上から見上げた月と同じ価値がある。

 

尤も、彼らにそれほどの価値があろうが、大半は金のためにその高価な命を賭けていることに変わりないのだが。

 

……………

 

中東を拠点に活動する中規模なPMC…The sun’s securityのとあるFA部隊、WOD(War of dogs…犬達の戦争。部隊設立の際、隊長の男が意図的に名付けた気の抜ける皮肉めいた名前である)部隊員の機体収納庫にある休憩室には、生真面目に作戦指示書に目を通す少年の様な雰囲気の男と、ソファーに寝そべり兵器雑誌を顔に乗せ寝息を立てている男が居た。

 

「先輩、起きてますか?」

 

 「あぁ?なんだよ、シャノン。作戦の打ち合わせなら後にしろ。」

 

 寝そべる男は雑誌越しに面倒臭そうな声を上げ、指示書を机に置いた男…フレデリック・シャノンは大きな溜息を吐いた。

 

 「勘弁してくださいよ。今回の仕事は隊長も居ないんですから。」

 

 部隊で最も新人の彼の不安は、ソファーに寝そべっている男…ロナ・フォーサイスからしてみれば過大でしかない。民兵に流れたFAの破壊。内容そのものは何のことはない、何処の紛争地帯…“市場”の調整役。部隊の中でも比較的戦闘経験の浅いシャノンを安心させるのが仲間とのきめ細かい連携であるが故に、ロナのがさつな性格が不安を煽っていた。しかしその反面、“サベージ”と賞されるロナの機体とパイロットとしての戦闘能力の高さがシャノンを安心させていた。

 

 「大体、俺達2人で出来る程度の仕事だろ。お前はいつも通り、俺の背中を守ってくれればいい。」

 

 「そう言ってくれるのは気が楽ですけど…」

 

シャノンは窓の外から見える自らの機体…レヴァリスを見ながら複雑な面持ちになる。WOD設立当初から運用されているその機体は、以前は隊長の機体であった。彼自身、それが高望みであることは分かっているものの、自分の専用機をいち早く持ちたいと思う子供っぽさがあった。

 

 「まだ慣れないか?隊長の機体は。」

 

 「いえ…少し癖がありますけど、いい機体です。」

 

 「隊長の癖の付いた機体だ。その癖が無くなる頃には、新しい機体に乗れるだろうよ。」

 

  雑誌を取り、起き上がったロナは煙草を咥えボサボサの髪を掻きながら身体を伸ばす。

 

 「仕事の内容を聞きながら機体の調整だ。行くぞ、シャノン。」

 

 「はい。先輩。」

 

 休憩室の扉を開け、2人は命を乗せる機体の調整に向かう。自らの命に一発の銃弾以上の価値を持たせる為。

 

 

……………

………

 

 

崩れかけのビルの階段を、1人の男が銃を手に上って行く。光が漏れ出す屋上へと続く扉をゆっくりと開け、乾いた熱風を肌に感じる。穴の空いた壁から男はセイフティー(安全装置)を外し、コッキングレバーを引いて銃を構え、スコープを覗きこみトラックとその荷台に座る兵士達を捉える。

熱い空気を肺に送り込み、息を止めて運転手を狙う。そして人差し指を引き金に掛け、躊躇いなく引いた。

 

 銃声が鳴り響き、その音よりも早く放たれた銃弾が運転手の脳天を貫いて脳髄を運転席一面にぶちまけた。コントロールを失ったトラックは横転し、荷台に乗っていた兵士達は地面に投げ出される。後ろに並んでいたトラックが急ブレーキで止まり、止まり切れなかった車両が追突する。その一発の銃声を合図に、辺りの建物に身を潜めていた男の仲間達がトラックと兵士達に向け銃弾を浴びせる。一瞬のうちに死地と化した大通りを見下ろす男は、その間は彼らを一方的に殺せる立場にあった。

 

 だが一瞬にして男の立場は逆転する。突如として空から落ちてきた“巨人達”がビルと男を押し潰した。撃墜し損ねた降下艇から落下した、俗に“アント”と呼ばれるfaが死地に静寂をもたらした。トラックを襲っていた者達は撤退し、一方的に銃弾を浴びせられた者達は辛うじて窮地を脱する。彼らからしてみれば、空から落ちてきた巨人達が自分たちを救ったように思えただろう。ましてや彼らが月を信仰する者達であった為に、この偶然が偶然と思えなくなってしまうのは明らかだった。古来暦となり、地球の大部分を占める海に満ち引きを与える月は、着実に地球との距離を離しながら、訳も知れず地球を襲いながらも、未だに人の心を乱すのであった。

 

……………

………

 

 

 時として、自らに降りかかる災難を神からの警告として捉える者達が現れる。それは、やり場のない感情を清算するには悪くない方法と言える。だがそれはまた時として、その災難を共有した者達に伝播する。そしてその元となった災難が激烈であればあるほど、感染症の様に伝播したそれは、人々を狂わせる狂信として十二分に機能してしまう。そうなってしまえば、彼らは命を落とすことも奪うことも厭わない。生きる為に他者の命を奪いそれが正当化された職として成立している世界では、その狂信すら糧となってしまう。

 

 MSG社からWODに依頼された仕事の背景も、月を信仰する狂信者達と政府軍の内戦であった。拮抗していた(させられていた)戦況が変わったのは、狂信者側に無傷のアントが渡った為だった。彼らはアントを粗悪ながらも改造し、対歩兵用兵器として運用することでパワーバランスを崩し始めていた。単にそれだけならばFAを投入すれば済む話なのだが、狂信者側が保有する“FA”に政府軍は頭を悩ませていたのである。

 アントとの戦闘にしか慣れていないパイロットにとって、人の乗ったFAとの戦闘など想定外であり、ましてや民兵を主に敵としていた軍が対処出来る問題ではなかった。

 WODの2人に課せられた依頼は、改造されたアントとFAの破壊、そして“適度に民兵の戦力を削ぐ”ことであった。

 

 

……………

 

 そこでは一日も休むことなく銃声が鳴り響いていた。尤も、ここ数百年の人類史において銃声が鳴り止んだことはないのだから、それは何ら異常な状態ではなかった。

 ロナの機体を運ぶ為、“SS”とマークの入った大型ヘリからワイヤーが垂らされて彼らの機体に繋がれる。通常FAの運搬は陸路か、faの状態にしてから個別に空路で行うのが一般的であるが、ロナの機体…ベオウルフのコックピットブロックが後部に大きく露出した形状であったため、彼の機体は装甲を付けたままヘリに繋がれて運ばれるのが大半であった。対空兵器に狙われるリスクを承知で降下し、背中を撃たれれば即死もあり得る機体で敵を駆るからこそ、彼が“サベージ”と呼ばれるに相応しい者と言えるだろう。

やがてロナを乗せた機体がゆっくりと上昇し、重力の柵から解放されていく。シャノンの機体はトレーラーに乗せられ、もう一台のトレーラーには“WOD”と書かれたコンテナが積まれた。コンテナの中身は“ラウンドドッグ”と呼ばれる無人支援機である。

 

 2人の機体は戦地へと向かう。移動中もシャノンは現地の情報に目を通し、ロナは眼下に映る地上をただぼんやり眺めていた。やがて目的地が見えてきた所で、彼らは対照的な表情になる。シャノンは緊張し機体の調子を再度確かめ、ロナは待ちきれないと言わんばかりに操縦桿を握っては離し、堪らず笑みを浮かべた。救いようのないことだが、戦場でしか生きられない者は数えきれない程居る。自らの命を危険に晒すことでしか生を実感出来ない者達、彼もまたその一人である。だが最も救えないのは、その状態が人間にとって正常な状態であるという点であるということだろう。

 

 戦場となっている市街地の手前、シャノンの機体とコンテナを乗せたトレーラーが止まり、彼の機体…レヴァリスと“ラウンドドッグ”が起動する。既に銃声は休むことなく鳴り続け、遠くからは小さく地響きの様な音がしていた。

 

 「先輩。そちらの状況はどうですか。」

 

 「最高だ。今すぐ飛び出したい気分だよ。」

 

 ビルの屋上に居た民兵がヘリと彼の機体に気が付き、瞬く間にロックオンされたことを知らせるアラートが鳴り響く。ヘリは彼の機体を投げ捨てるようにしてワイヤーを切り離し、フレアを焚きながら離脱する。地上に落ちていく瞬間、ロナは心の底から歓喜の声を上げる。それに呼応したのか、戦場に得体の知れない化け物の唸り声が響いたようにシャノンは感じた。

 

 ………

 

 戦場は唯々空薬莢と死体を吐き出し続けていた。大通りでは政府軍の歩兵に向け、腕をチェーンガンとシールドに交換し、所々に装甲を付けたアント達が容赦なく銃弾を浴びせていた。FCSを搭載していない為、手動で照準を合わせる射撃は弾幕としての役割を果たす程度だが、運悪く銃弾が当たってしまった兵士は粉々に吹き飛ばされ、辺りに細切れになった肉片と血液を撒き散らした。政府軍のFA…轟雷は砲撃を加えるものの、姿を現さない敵のFAを警戒してじりじりと距離を詰めるにとどまっていた。

 ロナが地上に降り立ち、轟雷のパイロットの1人が彼に無線を飛ばす。

 

 「お前が雇われの増援か、二機だと聞いていたが。」

 

 「相方は後から来る。俺が先行しよう。」

 

 通信を一方的に切り、ロナは目に映る獲物目掛けて獣の様に突進する。改造されたアント達は後退しながら彼の駆る獣に向け銃弾を浴びせるも、獣は左右に蛇行しながら躱し、跳躍して一機のアントに覆いかぶさる様にして足首に付いたブレード状のスパイクでコックピットを押し潰した。

 隣に居たアントのパイロットは、低い姿勢で狩った獲物を眺める獣が次の獲物を見つけ笑みを浮かべた様に感じ恐怖する。現にロナは笑っていた。彼は向けられたチェーンガンの銃身とシールドを弾き、無防備になったコックピットに至近距離から胸部砲を放った。

  

 「シャノン!来てるか!?」

 

 穴だらけになったアントを捨て置き、ロナは興奮を抑えられぬまま声を荒げる。シャノンはラウンドドッグを連れ後から合流し周囲を警戒する。

 

 「あんまり突っ込むと援護出来ませんよ。」建物の屋上からロナの機体を狙う民兵達にラウンドドッグの上部に付けられたガトリングガンが向けられ、瞬く間に掃討していく。

 

 「悪かったな。さて、次の獲物だ。」

 

 複数の敵機を捉え、ロナは再び動き出す。シャノンは少し距離を開け追従し、細かく回避運動をする彼に合わせて砲撃を加える。丁度、ロナの機体を暗器にする様にして放たれた弾は敵機を確実に射抜いていった。

 

 ロナとシャノンの登場により戦況は大きく政府側に傾き、一気に前線を押し上げながら民兵達を駆逐していく。ただ、未だに姿を現さない民兵側のFAの存在を気にかけていたのが2人だけだった為に、戦況は再び傾くことになる。

 

 改造されたアントの大半が撃墜された頃、街に風が吹き始めたのだ。

 

 「先輩、砂嵐が来るみたいです。」

 

 シャノンがラウンドドッグに積まれた予備弾薬を取り出しながらロナに伝える。彼は弾倉を取り換えながら小さく笑った。

 

 「砂嵐だけじゃないな、本命の御登場だ。」

 

 彼の言葉通り、防砂布をまとった一機のFAが砂嵐を背に高速で街へ向かって来ていた。砂嵐が街を覆い、直ぐ近くに居る僚機すら目視では確認できないほど視界は失われる。砂色に塗装されたそのFAは嵐と完全に同化し、通り抜ける様にして政府軍の轟雷を“切り裂いた”。

  

 「轟雷の反応がロストしていきます。なんて速さだ…」

 

 シャノンはレーダーを見ながら恐怖を感じ、ロナは乾いた唇を舐めて喉を鳴らす。5分と経たない間に今度は大半の轟雷が撃墜されていった。

 

 「動かなくていいんですか?味方が…」

 

 「アイツらは“味方じゃあない”。俺達の仕事は敵の撃退“だけ”だからな。」

 

 冷たく、だが正しい言葉を吐き出す。金の為に命を賭ける彼らにとって、必要以上の行動に価値は無い。

 

 正体不明の敵機がレーダー上、彼らと一直線に並ぶ。猛烈な勢いで突っ込んでくる機体を、2人は寸前で躱す。若干ではあるが、敵機の頭部がSA系統である事と、その機体が長いブレードを手にしていたのが彼らには分かった。

 

 速い。ロナとシャノンは感情の中では正反対であるものの同じことを考える。直線的過ぎるとはいえ、その機体の速さは十二分に脅威であった。

 

 「敵の反応、“政府軍”の轟雷の前でロストしました。撃墜…?」

 

 レーダーを注視していたシャノンが疑問を抱きながら報告する。ロナは分かり切った様に再び笑って、向かって来る政府軍の轟雷を待ち構えた。

 

 轟雷を“盾”に敵機が再び彼らに向かって突撃して来ていた。ロナは躊躇いなくトリガーを引いたが、“友軍機”に指定されている轟雷に弾は発射されなかった。

 

 「クソッタレが!」

 

 照準をマニュアルに切り替え、ロナは両手の二丁のショートバレルアサルトライフルと、懸架腕のサブマシンガン二丁、そして胸部砲を一斉に射撃する。弾は轟雷に当たるものの、背後の敵機には当たらず、敵は轟雷の胴体ごとロナの機体を貫かんとする。

 轟雷を暗器にしたのが幸いだったのか、彼の直感が勝ったのかは定かではないが、ブレードがベオウルフを貫くことは無かった。轟雷を押し付けられたベオウルフは地面に倒れ、敵は遺憾そうに、だが楽しそうにロナの機体を見下ろしている。二度刃を避けられた事が腹立たしいのか、“避けられる相手に巡り合えたのが嬉しいのか”。

 

だがその一瞬の間で、倒れた獣に止めを刺すより早くシャノンのレヴァリスが敵の片腕を打ち抜いた。

 

 砂と同化したその機体は興が削がれたと言わんばかりに姿を消す。砂嵐も晴れ、一応の終結を見た戦場には、何とも言えない虚無感が残されただけだった。

 

彼らが勝利の栄光を手にすることはない。全人類共通の敵が現れたとしても。DOW(Dogs Of War…戦争の犬達)であることを拒もうとする彼らには、決して。

 

 

 

 
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