No.858785

双子物語71話

初音軍さん

前回の雪乃の話と同じ時間帯にあった彩菜サイドのお話。
暇つぶしに出かけようとして恋人+適当に見繕った人たちと
遊んだ結果、色んなことを思うようになって
初めて彩菜が本能以外で考えるようになったんじゃないかと思います。
そんなお話^^

2016-07-16 18:00:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:484   閲覧ユーザー数:484

双子物語71話 

 

【彩菜】

 

 夏休み中、別荘へ遊びにきていた私は数日経って半ば退屈な時間を過ごしていると

車の用意をしていたサブちゃんに声をかけた。

 

「どうしたの」

「あ、彩菜お嬢!おはようございます!実は前もって用意していた分の食料や

他のものが足りなくなっていたので買出しに行こうかと思ってまして」

 

「へ~。ねぇねぇ、私もついてっていいかな」

「ええ、いいですよ」

 

「へへ、やった。ちゃんと荷物持ちもするからさ」

「そんな、お嬢がそんなことしちゃいけやせんぜ」

 

「遠慮しないでよ。じゃあ、命令ということならいい?」

「ったく…しょうがないお人だ」

 

 ついでに春花も連れていって軽いデートでもしようかなと思い、春花のスマホに

SNS経由で連絡をした。すると数秒でOKという返事をもらった。

 

 春花がこちらへ向かってくる間、どうしようかと辺りを見回していると

なにやら雪乃と叶ちゃんが話しながら散歩をしているのを遠目に見えて

微笑ましく見守っているとその後ろからこそこそ隠れながらついてきている

怪しい人の姿が。

 

「こ~らっ!」

「ひゃう!」

 

 その人のすぐ近くまで寄ってから耳元で大きめな声をあげるとすごく驚いたような

変な声が飛び出した。あまりに集中しすぎていたのかこんなに傍まで来ていた私にも

気付かないなんて。

 

「あ、彩菜さん!?」

「エレン、せっかく二人きりになってるんだから邪魔しちゃだめでしょ」

 

「ご、ごめんなさい。つい…」

 

 私の前で謝っている金髪碧眼美人はエレンといって大学に入ってから知り合った子だ。

黙っていればここにいる誰よりも…いや雪乃と同じくらい綺麗で美しいのに

ちょっと変なところがあってそこが残念…。いや、ある意味魅力的なのかも?

 

「だって百合ップル見たいし…」

 

 指でぐりぐりしながらぼそっと呟いているエレンを見てほんと残念に思う。

 

「じゃあさ、私達と出かけない? 春花にも声かけてるし」

「え…いいの? こんなキモオタな私がいても邪魔じゃない?」

 

「…なんでそんなに自分を卑下するのさ」

「髭?」

 

「違う、卑下。自分を下に見てるってこと。まぁ、いいや。とりあえずおいでよ」

「うん、ありがとう」

 

 私は笑いながら手を差し伸べるとエレンは寂しそうなわんこのような雰囲気を

出しながら私の手をそっと握ってきた。

 

 

***

 

 こうしてサブちゃんと私、春花にエレンの4人で向かおうとした際。

通りがかった大地も捕まえて強引に車に乗せて出発した。

 

「あのぉ、強引すぎなんですけどぉ」

 

 不満そうに呟く大地に私は聞いた。

 

「何か予定でもあった?」

「いや、ないけどさ」

 

「別に彼女いないし、予定もないならいいじゃん」

「さらっとひどいこというなよ!」

 

「あははっ」

 

 久しぶりに大地で遊ぶと反応が面白かった。ここのところずっと春花と一緒だったから、

新鮮な気持ちで話しているとエレンが面白くなさそうな顔をして私を見ていた。

普通だったら疎外感があって話しに加われずそういう気持ちが表情に出るのは

わかるが、この子の場合は…。

 

「男の子と話して嬉しそうにしていたらノンケみたいじゃないですか」

「いやいやいや、大地とは友達だから。友達と楽しそうに話すのは性癖がどっちであれ

普通でしょ!?」

 

 私達とのやりとりに距離的にも話題的にも間に挟まれた大地は悲しそうな顔をして。

 

「何か俺、とばっちり受けてないかな…」

「ははは…」

 

 春花に助けを求めるように言うと、春花はただ苦笑するしかなかった。

 

 

***

 

 そうして賑やかに話をしていると、目的地に着いて私達はサブちゃんの買い物の

手伝いをすることにした。

 

 買ったものをみんなで車の後ろに詰めてから自由時間。

買出しにきた場所は買い物以外にも遊べるところがそれなりにあって迷う。

サブちゃんも誘おうとしたんだけど、買ったものを保存しなくちゃいけないと

私達を残して先に帰っていった。

 

 私達が帰る頃に連絡をくれればすぐに向かうとのことだった。

サブちゃんとは子供の時以来遊んでなかったから少し残念だった。

 

「さて、どこにいこうか」

「カラオケなんてどう?」

 

 私の言葉にさっと答える春花。確かにそれは鉄板な気がする。

普段歌声を聞くことのない面子が二人いることだし。

 

 そう考えると私の中の好奇心がどんどん膨らんでいった末、

春花の案に決めることにした。

 

 

***

 

 普段と違う薄暗い独特の雰囲気がある部屋でみんないつもと違う自分を

出して歌いまくっていた。

 

 大地とエレンはちょっと昔のアニソンを歌っていてそれでそっち系の話で

盛り上がっていたのを見て微笑ましかった。私と春花はドラマとか一般的な曲が

中心だった。エレンと大地のは新鮮で楽しかったけれど私達のは

ありきたりすぎてそんなでもなかったかな。

 

 そうして遊んで一息吐くために近くのファミレスに入って店の角の方に4人で座り、

とりあえずドリンクバーを注文してからメニューを見始める。

 

「とりあえず俺はこれとこれ」

「ずいぶんガッツリいくね~。さすが野球選手」

 

 とかいっておかないと大地が何をしているのか忘れがちになるので念入りにいっておく。

大地は肉系のガッツリしたものを注文、私と春花は二人で寄せ合って春花が食べたそうに

していた大きめのパフェを二人で分けながら食べることにした。

 

「エレンは何にする?」

「ん、私は二人がイチャついてるのを見てるだけでおなかいっぱい~」

 

「そういうのいいから」

「ん~、このホイップたっぷりパンケーキ」

 

 もう決まってたんじゃん。

そして店員さんに注文をしてからそれぞれの食事を始めると春花がいつもの

アーンをしてこようとしたので私は普通にそれを食べると口の中に甘くて冷たいのが

広がって食べさせてくれたのと相まって嬉しい気持ちになる。

 

 それをじっくり見つめてくるエレンの視線が気になるのを除けば。

私が気になっていたことに気付いたのか、エレンが謝ってきた。

 

「あ、ごめん。食べ辛かったよね。私の存在なんか気にせず食べて!」

「そういわれても…」

 

 流暢に話す日本語に彼女が外国人ということも忘れてしまうくらい。

それ以上に長いこと付き合っていた友達のようにも感じられた。

はぁ、やっぱり可愛いな。と私達を見て微笑んでいるエレンに見惚れていると

春花がちょっと気にいらなかったのか少し怒りっぽい口調になるのを

私が宥めていると。

 

「ケンカはダメだよ!」

「いや、ケンカってほどじゃ」

 

 穏やかなエレンが怒った表情で私と春花に注意、というより彼女の妄想の中身が

表に出てきたような言い方に変わってきた。

 

「普通の恋愛でもずっと付き合えるのは奇跡に近いのに同性だったらなおさらよ!

それだけ大事な愛なのだから大切にしないと…!」

「う、うん…」

 

 そんなエレンにちょっと怒り気味だった春花も圧されるくらいの勢いだった。

私も半分くらいはわからなかったけど、とりあえず仲良くしなさいってのは伝わった。

 

「そういえばさ、愛を語ってるとこ悪いんだけどエレンさんって好きな人いるの?」

 

 それまでずっと空気だった大地が隣にいたエレンに聞いてきた。

それは私も何となく気になっていたことだったけど。

 

 聞かれたエレンはさっきまで元気だったのに急激に萎れた植物のように

垂れ下がっていった。あれ、これ聞いちゃいけない系だったか…!?

 

「あ、何かごめん。悪いこと聞いたかな?」

 

 慌てて謝る大地。だけどその言葉は耳に入っていないようで俯きながらずっと

考えている様子だった。

 

「う…」

「大丈夫?」

 

 言葉にならない声が出てきて心配になって顔を覗き込むようにしてみようとする

私だったけどその直後、ガバッと俯いていた顔を上げて笑みを浮かべていた。

 

「よくわからない」

「そ、そう…」

 

「いるんだけど、それはいると言っていいのかわからない人で」

「うん…」

 

「今はそれは話せなくて、また話せるようになったら話すね。ごめんね、大地くんも」

「あ、いや。こっちこそごめん」

 

 何事もなかったかのようにいつも通りになったエレンを見て少しホッとした。

何より話題をなかったことにしないで後でっていう辺り、トラウマに触れたわけでは

ないように思えた。いや、触れてるかもしれないけれど。

 

 そんなこんなでちょっとだけ不穏な雰囲気になったけれど大体は楽しい時間を過ごせて

私は満足してサブちゃんを呼んで車に乗って帰ることにした。

 

 みんな疲れていたのか車内で私以外はみんな眠っていて助手席に座っていた私は

運転しているサブちゃんと昔の話をしながら外を眺めた。

 

 行く時は眩しいくらい明るかったのに今はすっかり暗くなり始めていてうっすらと

月が見えていた。サブちゃんも昔の話をしている時すごく嬉しそうだった。

特に母さんの話をしている時は幸せそうに見えた。

 

 みんなそれぞれ色んな好きの気持ちを持ってるんだなって感慨に耽っていた。

夜、時間があったら雪乃と今日あったことを話し合おうかな。

そう思うとまた楽しみが増えてその時間が来るのが待ち遠しかった。

その時間が来るとは限らないけれど、それでも待つことが楽しみというのもある。

 

 残りの時間めいっぱい楽しまなきゃ、ここにいられる残りの時間は少ないのだから。

悔いがないように遊び倒そう。そこで養った英気を後のバイトなり勉強なりに費やすんだ。

 

 それもまた学生ならではの青春の一部として思い出に残るのだろう。

そんな風に柄でもなく考えている内に別荘に辿りつく。

 

 そういえば私はいつも流れる川のようにその場に対応しながら生きてきたけれど

これから私は何をしたいのだろう。すっかり暗くなった空に浮かぶ星を見ながら

ざっくりとした不安を抱いていた。

 

 私には雪乃や他の子たちと違って特別なことや目指すものは何もなかったから。

将来に対してのビジョンというものは全くない。まぁ…それは追々春花と一緒に

探していけばいいかな。

 

「うん、私達はそれでいいよね…」

「ん…何か言った?」

 

「ううん。さ、夏とはいえ夜は冷えるかもしれないから中に入りな」

「はーい」

 

 こんなくさい考え方、春花には聞かせられないから恥ずかしいのを隠しながら

春花を別荘の中へと押し込んだ。

 

 先のことも大事だけどとりあえず今は今のことを精一杯がんばろう。

そうしたら先のことも少しは見えるようになるはずさ。

 

 今までそうしてきてやっていけてるんだ。

それが私のスタイルなんだ。

 

 エレンや大地。人によってスタイルは違うけど、それぞれみんな良い方向に

向かうことを祈ってるよ。

 

 そう私は星を見て想いを馳せながら私も建物の中に入った。

みんなの、私達の幸せを願いながら…。

 

 続。

 


 
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