「普通に出遅れた……」
「司馬懿殿が一騎打ちなんてするから遅れるんですよ、まったくもう……」
(いやあなたの説教が長かった所為もあるでしょうが!)
鄴の城門前に辿り着いた司馬懿ら官軍の目に入ったのは、城門に並ぶ「曹」と「公孫」の旗だった。
壺関を一日足らずで陥落させたこともあってか自分達が一番乗りかと思っていただけに司馬懿も意外そうな顔で呟く。
その後ろでぼやく鍾会だが、さらに後ろにいる羊祜、張郃、高覧は心の中でツッコミを入れていた。
「……ま、まあ、城内に入るとしますかね。曹操と公孫賛のお二人がお待ちだろうし」
「我々の到着前に勝手な沙汰を下していないと良いのですがね」
乾いた笑い声で馬を進める司馬懿の後ろを鍾会が不機嫌そうに続く。
(胃が痛い……)
その後ろに続く三人の胸中は完全に一致していた。
鄴の城内、謁見の間は異様なまでに静まり返り、また恐ろしい程空気が張り詰めていた。
「……」
その原因となっているのは二人の人物。
一人は言わずもがな、この戦を始めた張本人である麗羽。
もう一人は腕を組み、瞑目したまま柱に背を預けている白蓮。
前者は悄然とした様子で俯いており、更には後者から無言の圧力が掛けられていた。
あの後、白蓮の問いに対して答えることも出来ず、且つ名士達にはただの傀儡として担がれていたことを知った麗羽は今に至るまで顔を伏せたまま一言も発していない。
その麗羽を捕らえた白蓮もまた、無言のまま彼女をこの場に引っ立てた後は、麗羽に視線をくれることも無く静かに佇むのみ。
(……参ったわね)
この場では白蓮と同等の立場にある華琳ですら、この空気の中では発言出来ずにいた。
普段であれば率先して自分のペースに持って行こうとする華琳だが、今回に限ってはそれも出来そうにないと考える。
と言うか顔良や文醜でさえ、白蓮の雰囲気に圧倒されていて麗羽に話しかける事すら出来ていないのだ。
無論、夏侯姉妹も華琳自身が発言していないのに口を出すような臣ではない。
(ふぅ。…………仕方ないわね)
「――こ」
「申し上げます! ――っ!?」
とは言え、いつまでもこのままでは居心地が悪すぎる。
秘かに溜め息を吐いた華琳が白蓮に話し掛けようと声を発しかけたその時、髑髏の意匠を基調とした甲冑に身を包んだ華琳の兵が駆け込んで来た。
膝を付いた兵士が報告しようと顔を上げるが、この場の空気の異様さに気付き声を詰まらせているのを見て取った華琳は、これ幸いと助け舟を出す。
「構わないわ、報告なさい」
「……は、はっ! 司馬懿様率いる軍が只今到着されました!」
(やっと来たか……)
「そう。では、直ぐに通しなさい」
これで場が動くだろう。
遅れた司馬懿に胸中で愚痴りながらも、ようやくこの修羅場を脱する機会が訪れたことに華琳は感謝していた。
「では公孫賛殿。貴殿に裁定を下して貰います」
開口一番、謁見の間に到着した官軍一行は麗羽への裁きを白蓮に任せた。
正確に言えば、袁紹を一番最初に降した者に任せると劉協より命じられていたらしい。
自分達がそうではなかったことに歯噛みする鍾会は、何故か白蓮ではなく華琳に鋭い視線を送っており、それに対して春蘭も威嚇(流石に唸り声までは出してはいないが)していた。
一方の白蓮は突然の事に先程までの空気を霧散させ、困ったような顔で著莪や斗詩を見る。
「白蓮様」
その視線を受け、斗詩は僅かに目を瞑った後に真剣な表情で白蓮に頷いた。
「お願いします」
猪々子もまた、真摯な光を宿した瞳で白蓮に深く一礼する。
「…………解った」
二人の言葉を受け、白蓮は静かに麗羽の前へと歩を進めた。
華琳や司馬懿が、一連の流れをただ静かに見守っている中、
「麗羽」
重い口を開いて、白蓮が静かに麗羽の名を呼ぶ。
低く、だがよく通る声に麗羽は俯いたままびくりと肩を震わせた。
「もう一度聞くぞ。お前を持ち上げていた連中を集めて、お前を心配した友人達を切り捨てて満足したか?」
しゃがみこみ、白蓮は麗羽の顔を上げさせると先程より穏やかな声で訊ねる。
「っ!?」
触れられた麗羽は名士を名乗っていた男に打たれたのを思い出し、反射的に手を撥ね退けようとしたが、
「――ぁ」
労わる様な白蓮の手に、伏せていた目を上げて彼女の瞳を見た。
「――なあ、麗羽。答えてくれるか?」
上げた目の先には、穏やかな琥珀が麗羽を映している。
その静かな色に、麗羽は自身の心がじんわりと温まってくるのを感じた。
「…………あの時、わたくしは浮かれていました」
重い沈黙を破り、麗羽の唇がひとりでに言葉を紡いでゆく。
「都を追われた立派な家柄の方達が、名士を軽んずる今の陛下よりもわたくしを慕って集ったことに満足していました」
言葉を続けていくうちに、麗羽の瞳に涙が浮かんでいった。
「滑稽ですわね……祭り上げられれば誰でも良かった方達の繰り言に浮付いて……」
ぽろぽろと涙を零す麗羽の顔は、憑き物が落ちたかのように清々しいものに変わっていく。
「……挙句、わたくしを案じていてくれた斗詩さんや猪々子さん、他にも多くの方を傷つけてしまった」
ぎゅっと握られた手の平に強く爪を食い込ませ、麗羽は眉間に皺を寄せた。
「――本当に取り返しのつかない事をしてしまいました」
顔を斗詩達へと向けて、静かに頭を下げる麗羽。
「最早謝って済む問題ではない事は解っております。……ですが」
斗詩、猪々子、張郃に高覧へと向き直り、
「申し訳ありませんでした」
麗羽は謁見の間の冷たい床に額をつけた。
静まり返った謁見の間に誰かが息をのむ音がやけに大きく響く。
(これは――)
幼い頃より麗羽を知る華琳は麗羽のその在り様に思わず瞠目した。
彼女が知るいつもの麗羽であれば、たとえ負け戦を喫して華琳の眼前に引き立てられようと居丈高な態度は変わらないだろう、と。
故にこそ、華琳はその瞳に焼き付ける。
――未だ額を床につけたままの麗羽に対し、穏やかな声で裁定を告げる白い王の姿を。
「――報告は以上です」
「ご苦労」
静謐な空気が漂う謁見の間に、司馬懿とその主たる劉協の声が響く。
(成る程、そのように括りましたか)
列をなす群臣の上座に戻る司馬懿の背を見遣り、劉協は描いていた図を思わぬ形で締めくくった白蓮の決断に内心舌を巻いていた。
手にした書簡と司馬懿の報告によると、公孫賛は袁紹から任地と官位を剥奪し、且つ今後一切官位に就けぬよう裁定を下したらしい。
王朝に対して反旗を翻した罪人への処罰としては、一見甘いようにも思えるのだが。
(まあ、私も同じ――いや寧ろ罠に嵌めた様なものでしたからね)
反董卓連合の際に下した自身の裁定を回顧し、内心苦笑を漏らす。
ともあれ、これで袁紹を首謀者とした河北の乱は終結した。
袁紹が再起を果たすことはない、と劉協は踏んでいる。
――名家が戦に敗れ、一市民へと堕ちた。
名声が大きければ大きい程、落差もまた大きい。
最早彼女の下に集う名士(と言う名の自殺志願者たち)は居ないだろう。
袁紹に自滅への道を拓いた劉協として、公孫賛が下したこの裁定は及第点だった。
(公孫賛であれば、袁紹に二の轍を踏ませることはないでしょう……恐らくは)
また、既に齎された報せによると益州の平定は御遣い率いる軍が成し遂げ、荊州での戦も董卓が無事に勝利したらしい。
(これで土台が八割方は仕上がった――といったところですか)
書簡を傍らに控える董承に手渡すと、劉協は玉座に座したまま微かに吐息を漏らした。
主だった反乱分子は潰したとはいえ、桓帝や霊帝が残した負債はまだまだ大きい。
人材登用による朝廷内部の刷新は現行で続行中であり、儒教の名を借りた腐った登用制度の害悪は払拭されつつある。
先ずは人。続いてそれを十全に活かすのが皇帝であり、為政者でもある自身の役目だ。
(爺、王允。これでようやく一歩目を踏み出せました)
「四海の難は去った。――皆の者、これよりは我等の真の戦いが始まる」
高みに座する龍が、その幼い容姿に似合わぬ重々しい口調で告げる。
「ここに集う全ての者に告げる。――その才の全てを、天下へと揮え!」
『ははあっ!!!!!』
玉座より立ち上がった皇帝に、居並ぶ全ての新鋭達が一斉に応えた。
「ようやく、か」
襄陽の城外、小高い丘にそびえる紅の孫旗。
その中でもひときわ太く、高々と掲げられた将帥旗の下で雪蓮はポツリと呟いた。
足元には朱に染まった布の包みが一つ。
「随分と回り道をさせられたけど……母様、仇は取ったわよ」
黄祖との決戦の後、雪蓮と朱儁率いる官軍連合は一気呵成に襄陽へと攻め上る。
「……董卓に譲られた形になったのは気に食わないけど、ね」
先代当主の仇の一人が黄祖を討ったものの、将卒含めあまりに潔い散り様を目の当たりにした雪蓮は兵に命じてその遺体を丁重に弔った。
刃折れるまで戦い抜き、最後まで兵を鼓舞して向かってきた黄祖の姿を見て、雪蓮を含め孫堅の代より孫家に仕えて来た者達は皆が感銘を受けていたのだ。
――ああ、先代はこのように誉れある武人と戦い、命を落としたのだと。
故にこそ――
「でも、それで良かったのかもしれないわね。……こんな木偶一人を斬る為に無駄な血を流さなくて、ホント」
――地に転がる布包み――劉表の首――を一瞥して雪蓮は苦虫を噛み潰したようように表情を歪めた。
襄陽城が落城した事の経緯を董卓の下より帰った桓階から聞かされた孫家の主だった将兵達は、窮地に陥って尚奮起した黄祖とは天と地の醜態を晒した劉表に失望する。
――なんだそれは、と。
それは董卓軍より劉表が引き渡され、後ろ手に縛られた状態で陣前に引き出されたときに――
「はは、ぅふはははえへははははぁくきあぁははふふふへぇへへへ」
――完全に正気を失い、涎を垂らしながら薄気味悪い笑い声を漏らす狂人の姿を見た瞬間に、失望はより深いものとなる。
最早視界に入れる事すら汚らわしいとばかりに、雪蓮は一太刀にて劉表を黙らせ、直ぐに董卓へと謝意を伝え帰陣した。
「――終わったな」
「ホントにね。――誰かさんのおかげで、完全に目論見は外されちゃったけど」
「仕方なかろう。あんな存在が現れるなど、誰も想定出来んよ」
いつの間にか側にいた親友の言葉に、態と不貞腐れたような調子で返すと、冥琳もまた苦笑交じりにそう返す。
「あ~あ…………ホ~ント、なんであんな辺鄙な所に落ちちゃったんだろ」
「儂が居るというに、また随分と肝の座った事をぬかしおるのう」
「!? ――っておばさま!? いつからそこに!?」
「周瑜と一緒に居ったじゃろうが……ふぅ」
本気で自身の存在に気付いていなかったらしい友人の忘れ形見に溜め息を漏らしつつ、
「――あたッ!?」
朱儁は軽く雪蓮の頭をはたく(ただし手甲は嵌めたままである)。
「――!!! ったぁー!! もう! おばさま! 馬鹿になったらどうすんのよ!」
「大丈夫じゃろ、もう下がりようが無い筈じゃからの」
「どういう意味よ!!!」
割と鈍い音が響き、雪蓮が朱儁に食って掛かるが軽くいなされている。
「ふっ――これはしばらく楽が出来そうだ」
「お疲れ様、冥琳」
「おっと……これは失言でしたかな蓮華様?」
「良いのよ。皆、冥琳がいつも姉様の事で苦労しているのは解っているから……」
(雪蓮よ…………)
言葉と仕草の端々から優しさと労りが溢れている蓮華に、冥琳は改めて
「……ま、まああちらの事は兎も角」
沈み込みそうな気持ちを無理矢理にでも切り替え、冥琳はどこか晴れ晴れとしているように見える蓮華に向き直る。
「蓮華様は、あまり気を落とされては居られぬ様子。――やはり、あのように落ちぶれた者であっても文台様の仇。それを討てたのは嬉しく思われますか?」
自分を含め、祭や思春などの主だった将達がどこか遣り切れない様子で居る中でただ一人、違う場所を見ているかのような蓮華の、その蒼穹を映す瞳を冥琳は不思議に思った。
「――――そうね、劉表に関して私の思いは、多分皆が感じているのと同じだと思うわ」
「――」
「――だけどね、冥琳? 私が嬉しい様に見えたのなら、それは当たりよ」
両手を胸に重ね、ゆっくりとした口調で語る蓮華の姿を冥琳は瞠目する。
(これは!? 雪蓮とは違うが――――紛れもなく、王――!!)
「だって、これでようやく、私は『私としての一歩目』を踏み出す機会を得られるのだから」
――いつの間にか喧噪(といっても騒いでいたのは二人だけ)が止んでいて、静謐な空気の中央には紅の王の姿があった。
「前線の臧覇殿より報告! 公孫賛様が袁紹との戦に勝利したとのことです!!」
「ホント! 白蓮ちゃん……。はぁ~……よかったぁ~」
「袁紹さんの拠点を落として顔良さんを味方に付けた時点で大勢は決していましゅた――あわわ。で、でしゅが曹操さんがそれに加わったのが今回の早期決着に繋がったかと」
「本当に良かった……。白蓮ちゃんが負けなくて」
「いざとなれば私が出るつもりでいましたが……立派に成長したようですね、白蓮は」
北海、孔融が袁紹に追われたその城内には劉備、鳳統、そして盧植が詰めていた。
「先生、ありがとうございます。先生が来てもらえたから北海の戦が早く終えられました」
「礼は不要ですよ桃香、私は元々そのつもりでこちらに赴いたのですから」
深々と頭を下げる桃香に、盧植は柔らかく笑いかける。
「あ、あの……失礼でしゅが、あ、あわ。そ、その策を示された方は……?」
「ああ、こちらには来ていないのですよ鳳統殿。彼女――」
しなやかな肢体には似つかわしくない巨大な斧。
しかも全身に氣を廻らせればそれすらもまるで子供が小枝を振るかの如く扱う女傑、漢が擁する最高戦力が一人、盧子幹。
かの黄巾の乱では兵権を得るや否や自身の武と類い稀なる指揮能力で最終決戦を締めくくった文武に秀でる傑物である。
その彼女をして百年に一人の逸材とまで言わしめる人物。
それこそが――
「――司馬懿殿は」
(――!)
――司馬八達が一人、司馬仲達。
黒山賊を味方に付けた上で壺関を一日と経たずに落としたかの人物は。
――公孫賛の戦況が有利になり。
――曹操が介入し。
――そして、劉備、いや鳳統がその機を狙って北海へと兵を動かすことを完全に読んだ上で盧植をこちらへと派遣したという。
(――)
帽子を深く被り直しながら、雛里は自身の深奥を深く掻き抱く。
そこには、畏敬、恐怖、焦燥――――そして。
(――居たよ、朱里ちゃん)
――隠し切れない、歓喜の色があった。
(ああ、居るよ。――私と同じ、バケモノを飼ってる)
「ひ~な~りちゃんっ」
「――!? あ、あわわっ!?」
彼女自身、何故浮かんで来たのかも判らぬその歓びに知らず、口の端が三日月を描こうとしたその時に雛里の後頭部をぽふり、と柔らかな感触が包む。
「んと、大丈夫?」
「あ、あわわ……と、桃香しゃま、な、何がでしょうか?」
「ん、今ちょっと怖い感じがしたよ?」
(――!?)
よもや、と雛里は自身の顔をぺたぺたと触る。
ふと目を上げると盧植と目が合うが、彼女も不思議そうに雛里を見返すだけだ。
「もう心配要らないよ、戦は終わったから……ね?」
顎を持ち上げた先に映るのは、いつもと変わらぬほんわかとした優しい、深い蒼色の瞳。
「だから今はちょっと休も? 雛里ちゃん、一生懸命ずっと頑張ってたから」
「あ、あぅ……」
抱きすくめられたまま、優しく頭を撫でられた雛里はあれ程までに昂っていた『バケモノ』が急に静まってゆくのを感じた。
「そうですね。ふふ、桃香、貴女もしばらく見ない内に成長しましたね」
「え? わ、私なんて雛里ちゃんや白蓮ちゃんに比べればまだ全然ですよー」
(『それ』、が意図せずとも出来る時点で十分ですよ桃香。後は更に実地で研鑽を積めば貴女は――)
そ知らぬふりをして、一瞬だけ感じた雛里の裡より溢れかけた、血の色をした紅い氣の奔流(と盧植には見えた)を思い返して盧植は改めて眼前の弟子を見る。
――どこまでも穏やかで優しく、まるで柔らかな木漏れ日を齎す森の様な、人の心そのものを包み込むような氣を発している碧の王の姿を。
「出陣、ですか?」
「ええ、そうよ」
不思議そうに聞き返した秋蘭に、華琳は玉座より立ち上がった。
「袁紹は既に力を失った――とは言え、未だ蛆虫共は腐肉の下へと蠢いているわ」
「成る程、反董卓連合に参加していた袁紹よりの諸侯、ですか」
華琳の言葉に得心がいったとばかりに頷いた秋蘭に不敵な笑みを浮かべて答えを返すと、愛刀『絶』を握り、歩き出す。
「河内を追われた王匡が同じ境遇の橋瑁らと図っている、と聞き及んでいます」
静かな口調で告げる桂花は、自身の横を華琳が通り過ぎると、ざっ、と踵を返して主の後を追う。
「春蘭」
「はっ!」
真名を呼ぶと、股肱の臣からは即座に声が返る。
「秋蘭、桂花!」
「「はっ!!」」
「季衣! 流琉!」
「「はいっ!!」」
「凪! 真桜! 沙和!」
「はっ!」「はいな!」「はいなの!」
カツカツと軍靴の音も高らかに、石造りの固い廊下を歩きながら華琳は次々と信を置く将の名を呼んでいく。
熱の籠っていく華琳の声に比する様に、彼女の将達の返事もまた、大きく、熱が籠っていた。
「――これより開かれるは天の祝福を受けた帝が治める新しき世! 我等、その道を阻む者達を切り裂く刃なり!! 皆の者、我に続け!!!」
『御意ッ!!!!!!!!』
兵舎の前に居並ぶ将兵達の前で、華琳が一際鋭い檄を飛ばす。
(天よ! ――私は――――曹孟徳は、ここより道を拓く!!!)
――どこまでも深く、窮みの見えぬ蒼穹を見上げ、蒼の王は己に誓った。
――劉表、袁紹の敗北。
それは桓帝より続いて来た、暗い時代の終焉を告げるものだった。
それに続くようにして反王朝を唱える者達は曹操ら若き王朝の臣に乱を起こす間もなく討伐され。
中には、丸め込もうとした豪族や民に非難され、領地を追われた者もいたと言う。
古くから続いて来た悪習、既得権益を手放すことを嫌がる悪吏達。
それらに賢帝、劉協は疑問を投げ掛け、民自身の裡にある本当の心を引き出す切欠を作り出した。
加えて天を支える者、御遣いたる北郷一刀は元々市井に身を置いた経験を活かすべく、四海全土を巡り民と交流して民の裡に眠っていた熱――活きる力――を取り戻させた。
無論、そこに至るまでは様々な苦難もあった。
だが、常に前を向く彼、或いは彼女ら志士達の姿は、長く続いた腐敗の時代に諦め掛けていた民の
後は多くを語るまい。
『私』以外の方が綴る正式な史書が、より正確な記述をするだろうから。
だから――。
「お疲れ様想夏、お茶持って来たよ」
――『私』は『私』の書の最後に、この一文を加えたい。
「ありがとうございます。丁度、一区切りするところでした」
――彼方より来訪した彼より学んだことわざを。
「灯さんから貰ったんだけど……ほら、あの時の麦茶」
――天馬行空(てんまこうくう)。
或いは、てんまぎょうくう、てんばくうをゆく、とも読むらしい。
「――ふふ、今度は私もゆっくりと味わえそうですね?」
「天上に住まう翼をもった馬」こと天馬が大空を自由自在にかけめぐる様子から。
転じて、束縛されることなく伸び伸びと自由な様子を。
若しくは着想や言動、手腕などが自由奔放な様を。
また、思想、行動などに束縛がなく自由なさまで、これは人柄にも用いるそうだ。
「う……あの時は悪かったって。ぅう、想夏、意外と記憶力が良いんだな……」
「何か言いましたか」
「イエナンデモアリマセン」
――これを聞いたとき、私はまるで彼を表すのにぴったりな言葉だと思った。
「……ふぅ、香ばしい、良い味ですね」
(……よし! 上手く淹れられたみたいだ……!)
流星と共に私の前に現れて、皆と一緒に疾風の様に四海を駆け巡った彼のことを。
私だけでなく、沢山の人の心に輝いている、とっても大好きなあの人のことを。
――これで、『私』の本はおしまい。
「おお一刀ここに居たか…………っと、想夏、お邪魔したかな?」
「いいえ星さん。大丈夫ですよ」
「おおーなにやら香ばしい薫りがーという訳でお邪魔しますよお兄さんー」
「風! 何さらっと星殿達の会話を無視して一刀殿の膝に座っているの!?」
――そして、
――ここからは、『私達の物語』。
あとがき
申し訳ありません。間隔を空けたくない、と言っておきながらの有様です。
ここ暫く公私共にかなり大事があったとはいえ、せめて生存報告くらいはしておくべきでした。
本当に申し訳ありません。
さて、前回予告させていただいた通り、今回で最終話となります。
こんな亀更新の作品をここまで読んで頂き、まことにありがとうございました。
一応、本編はここで終了となります。
後は、以前にコメント返しでちらっと書きましたが小話集と言う名の本編アフターを幾つか書こうかな、と思っております。
結局本編で明かされなかったエピソードとかもいくつかありますし……。
現状、早い更新は出来ないかとは思いますが、書き上がり次第、随時投稿していきたいと思います。
それでは。
ここまでお付き合い頂いた皆様へ。
本当に、有難うございました!
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真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
のんびりなペースで投稿しています。
一話目からこちら、閲覧頂き有り難う御座います。
皆様から頂ける支援、コメントが作品の力となっております。
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