No.84182

~真・恋姫✝無双 魏after to after~side華琳(後)

kanadeさん

後編で完結です。
最後まで読んでいただけたら幸いです。

感想・コメント待ってます
それではどうぞ

2009-07-14 00:11:51 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:33448   閲覧ユーザー数:21431

 ~真・恋姫✝無双 魏after to after~side華琳(後)

 

 

 

 成都に向かっている華琳たちは・・・訂正しよう。華琳の心の中には、誰よりも大きな焦りと恐怖があった。

 「・・・一刀!」

 叫ばずにはいられないその名前。

 改めて自分が倒れてしまったことを恨めしく思ってしまう。あの時倒れたりしなかったなら、こんなことにはならなかったのにという気持ちが華琳の心を大きく締めていた。

 

 ――一刀と初めて出会ったあの時、私の中にあったのは好奇心だけだった。

 中々有能そうな男・・・そんな認識だった。許子将に自分の事を占われ春蘭が怒ったこともあったが、それでも今となっては笑って話せる思い出。笑えないのは、この時はあまり大事だと考えていなかった一刀の事、

 

 ――天命に逆らうな・・・・逆らえば、待っているのは身の破滅

 

 それを聞いた私は一刀に未来の話を極端に制限した。

 それでも使える限りの天の知識を使ったこともあって魏の国はよい形で発展していくこととなったわ。警備隊の件で私から一本取った時の事は、最高の思い出の一つね。

 思い返してみれば、いつから一刀に想いを寄せるようになったのかしら・・・アイツは私を覇王としてではなく、常に女の子として接してくれた初めての異性で。

 私はそこに自分の居場所を見出していた。一刀と共に過ごす時間に幸せを感じて、色々困らせてみたりもしたわ。

 ――一刀、私はこんなに幸せなのよ

 ところがあの男は、そんな私の気持ちをよそにデレデレと色んな女の子に手を出していき、一向に私の気持ちに気付こうともとしない。

 それが不快で仕方がなかった。

 だけど私は中々素直になれなくて・・・・・・春蘭たちの留守を狙った劉備たちの侵攻は、一刀がいなければどうなっていたかわかったものではなかったわね。あの理想論者との舌戦で頭に血が上っていた私を一刀が叩いて諫めてくれなかったなら、今を生きる私はいなかったことでしょうね。

 ――だから、戦が終わった後に震え始めた一刀を抱きしめてあげた。

 せっかく私が素直になったというのに空気を読まないものだから、血気盛んな狼の群れに一刀を放り込んであげたわ。これもいい思い出ね

 それから、結局つのった思いは溢れだして、一刀に自分の立場というものをわからせてあげた。

 甘い口付け、そして制約の意も含めた大事な口付け。

 ここからの思い出にはたくさんの幸せが詰まっている。そして、哀しい思い出も――。

 幸せな思い出といえば、やはり一刀と結ばれたこと・・・・・・これ以上の幸せはきっとないわ。

 仕事中の一刀にちょっと悪戯をしたこともあったけど、あれもいい思い出、だけど定軍山の後はそんな思い出も色あせそうになったわ。

 あのとき、一刀が未来を知っていなかったなら・・・私は秋蘭と流琉という掛け替えのない宝を失っていた。でも、これが一刀の天命への抗いの始まり――。

 まるで、この世界と・・・・・・私たちとの繋がりが消えていくかのように一刀は頻繁に意識を失うようになって、私は一刀と出会ったときに話した胡蝶の夢の事を思い出してしまった。

 私は、自分が王であることをこのとき心から呪った。王でなければ、必死になって彼の存在を繋ぎ止めることが出来たのに・・・王であることを選んで、覇者になることを選んだ私は進むしかなく、赤壁の時にはある程度覚悟を決めていたわ。

 それでも――私は一刀を手に入れたままでいたかった。

 馬騰の死を目の当たりにして、私の心には小さな虚ろが出来た。もし一刀がいなくなったりしたら・・・それを考えただけで恐ろしくて、暇を見つけては一刀との思い出をたくさん作ったし体も重ねた。一刀が消えなくていいように――そう願って。

 

 だけどその願いは――。

 ――叶うことはなかった。

 

 

 あの時、私は〝曹操〟ではなく〝華琳〟として、〝覇王〟ではなく〝女の子〟として泣いた。あの時は一生分の涙を流したと思っていた。

 だから、覇王として私は一刀が消えたことを皆に伝えた。

 あの時、私は凪の怒りを甘んじて受けるつもりだったわ。そうすれば一刀を繋ぎ止めることが出来なかったことへの赦しになると思っていたもの。そんなはずないのにね・・・。

 それからの私は――魏はまさに抜け殻というに相応しかった。

 今までは日々の政務、そして日常に何らかしらの輝き――価値を見出していたというのに、何も感じなくなってしまったの。

 ――それは、私一人の傷ではなかった。

 皆が、一刀に想いを寄せていて、一刀との繋がりを持っていて・・・・・・だから、自然と一刀の話を誰もしなくなったわ。

 でもやっぱり忘れることなんてできる筈もなくて、夜な夜なすすり泣く声が城に響いた。

 そして、哀しみに耐えられなくなってしまうものがとうとうでてしまった。

 ――凪。

 皆が皆、それぞれで哀しんでいる中で、あの子はとうとう最悪の結論に辿り着いてしまったの。

 

 ――自らの死を以って天へと逝く。

 

 あの子はそれを本当にしようとしてしまって・・・皆が其れを必死に止めようと奮起して・・・止めるたびにあの子は大粒の涙を流して――。

 

 『私を隊長のところへ逝かせてください!!』

 

 そう叫んだ。

 本当の事を言うのであれば、それを叶えてやってもよいという気持ちがあったの・・・でも、いつかきっと一刀は帰ってきてくれる。そんな何の根拠もないことを信じて、その時凪がいなくなってしまったら一刀はきっと哀しむ。私はそう言って凪を諌め続けた。

 結果として踏みとどまってくれたことに私たちは安堵したわね。

 それから、僅かであれど活気を取り戻しつつあった魏に・・・・否、三国に再び戦乱が起こった。

 

 ――五胡の侵攻。

 

 呉、蜀にも大軍が向けられていたが、私たち魏はその比ではなかったわ。

 百万を超える軍勢にいつ呑み込まれてもおかしくはなかったというのに、先に勝利を収めてくれた呉と蜀の援軍もあって我ら魏も勝利を収めることが出来たが、それは他の二国のお陰というよりも・・・それまで戦局を持たせてくれた兵たちと将たちのお陰だと私は思っている。

 一刀が愛した国は一刀を愛していた。

 一刀がもたらしてくれた平和を守るために皆が奮起したから・・・だから勝てた。

 中でも一番の功労者は凪、あの子でしょうね。

 ひたすら前進を、死地を求めるように進む凪には修羅が宿っていたもの。

 それこそ春蘭ですら息を呑んだほどに。

 

 そして一年後、私たちはあらゆる願いよりも願っていた夢が現実となってくれたの。

 

 それは、一刀の帰還――。

 ――一緒にいた凪を先に一刀と抱き合わせてあげたけど、あれは今でも正しかったと思っているわ。だってその光景を見て、一刀がいることが嬉しくて・・・あの時の一刀のままでいてくれたから・・・ほんの少し泣いたもの。

 

 ――ああ、嬉しくても涙って流れるのね。

 

 ――心からそう思った。

 

 洛陽に帰ってからは皆が皆、一刀との時間を楽しんでいた。そんな中で私はいつも空回り――。

 いい加減我慢が限界になってきた時に一刀が約束をくれた。だから、制約の証として唇を重ねたわ。久しぶりの一刀の唇付けはとても甘くて・・・ずっと味わっていたい気持ちになってしまったけど、そこはなんとこ自制した。

 まさか、自制がこんなに困難であるとは思いもしなかったわね。

 でも、それから私は悪夢を少しずつ見るようになってしまって・・・・・・とうとう倒れてしまった。

 

 ――それが、こんな事態を引き起こすなんて僅かでも考えもしなかった。

 「お願い・・・間にあって!!」

 その叫びを皆が聞いて、皆が何も言えなかった。

 ただ、一刀がいることだけを切に願って馬を走らせ続けた。

 

 

 一方の一刀はというと。

 「?ここはどこだろう」

 知らない部屋で目を覚ました。

 確認のために体を起こそうとするが動かない。何事かと思って見てみれば。

 「すぅ・・・・すぅ・・・・・・」

 可愛らしい寝息を立てている猫――もとい、恋が乗っかっていた。

 「姫、起きてくだされ」

 「・・・・・・・にゃ・・・かずと、おきた?」

 「うん、起きたけど・・・・・・ここどこ?」

 「お城」

 割とすんなりと爆弾発言が飛び出した。

 ――城ってお城?劉備玄徳がいるお城?

 などと一刀が混乱していると、すっかり目を覚ました恋がセキトを預けて部屋を出て行った。何 でも一刀が目を覚ましたことを伝えに行くらしい。

 「伝えるって誰にだろう?・・・それ以前に・・・・・・」

 「ワンッ」

 なんかえらく懐かれてしまっているようだが、一体どうすればいいのだろう。

 どうすればいいも何も、待つ以外の選択肢なんて貴方にないですよ。

 「今なんか抗えない意思みたいなのを感じたけど・・・・・・気のせいだなきっと」

 「わふっ?」

 なんてどうでもいいことをやってるうちに、恋が見覚えのある少女を連れてきた。

 「えっと・・・・・・劉備さん、だよね?」

 「あ、はいっ!覚えていただいていたんですね、ご主人様♪」

 「・・・・・・」

 爆弾発言には違いないが、規模がまるで違う。この時代には存在しない核爆弾の類の規模と破壊力だ。

 お陰で思考が正常に戻るまでたっぷり五分はかかってしまったではないか。

 「あの、なんで俺がご主人様になるんですか?」

 「だって三国の平和をもたらしてくれた人なんですよ。だから、私たちの御主人さまですよ♪」

 ――ああ、そこに♪がつくんですねー

 そして、そこでさらなる追い打ちが一刀を襲う。

 横でジト目で見ていた関羽が、なにか合点がいったような表情を見せ一歩前にでた。

 「失礼いたしました!お詫びと言ってはなんですが、私の事は愛紗とお呼びくださいご主人様!!」

 「あ、愛紗ちゃんずるいー!ご主人様、私の事は桃香って呼んでくださいね♪」

 「ねねも・・・真名」

 「ふぇ?ねねも教えなければいけないのですか!?・・・・・・・・・恋殿がいうから、仕方なく教えてやるから感謝しやがれなのです。ねねは音々音なのです!呼びにくいからねねと呼びやがれなのです!!」

 矢継ぎ早の真名ラッシュ、これは一体どういう状況だろう。

 などと混乱もしたが、彼女たちなりの覚悟と決意があって真名を預けてくれたのだから、こちらもそれに応えなければならない。

 「ありがとう、皆の真名、確かに預かります。だから、こちらも一刀と呼んでください。流石にご主人様は気がひけますから」

 「わかりました。では私は一刀さんとお呼びします」

 「私は呼び捨ては流石にできません。ですので一刀様と呼ばせていただきます」

 「お前なんてお前で十分なのですよ」

 「ねね・・・め」

 痛くない拳骨がお見舞いされるが、さっきと違って微笑ましい・・・?さっきと違って・・・って初めて見たんじゃなかったっけ?まぁいいか

 などと考えていたらあるものがないことに気がついた。

 「えっと、桃香・・・俺の刀・・・武器、知らない?」

 「ああ、それでしたら・・・・私が預かっておりました。どうぞ」

 「ありがとう愛紗」

 「///いえ、私は・・・・・・」

 一刀の攻撃、一刀は笑顔をくりだした。

 一撃必殺、愛紗はやられてしまった。

 「あ~、愛紗ちゃんいいなぁ・・・私も一刀さんに褒めてもらいた~い」

 「かずと・・・恋も」

 てんやわんやの有様になってしまった一刀に充てられた部屋は、賑やかなものとなってしまった。

 

 

 「なんでこんなことになったのだろう・・・・」

 「まぁよいではありませぬか」

 はっはっはと笑うのは趙雲だ。彼女は今、槍を構えている。

 あの後部屋を訪れた趙雲が刀に興味を示してしまい、こうして一戦交えることとなったのだ。

 しかも周りはやじ馬であふれかえっている。

 「はわわ~御遣い様、星さん相手に大丈夫でしょうか」

 「あわわわ・・・御遣い様だもん、大丈夫だよきっと」

 「ふんっ!あんな男が星に勝てるわけないじゃない!!」

 「詠ちゃん、そんなこと言っちゃだめだよ。すっごく優しそうだよ?」

 「なんか細っちい武器だよな」

 「弱そうなのだ」

 「ええ~、結構カッコイイかも」

 「あんな優男がかっこいいとは・・・所詮」

 「うっさい脳筋!!」

 「桔梗、貴女はどう思うかしら?」

 「んく・・・・・・そうだのぅ、あの御遣い殿はかなりできるお方の様だ。願わくば、儂も一戦交えてみたいものよのう」

 「かずと・・・強い。恋、わかる」

 「一刀さん、がんばれ~」

 もぉ勝手にしてくれ・・・。一刀は半ば自棄になっていた。一度諦めるとすんなりと気分が落ち着いてしまった。

 「じゃあ、趙雲さん・・・始めようか」

 「ええ、ふふっ・・・心躍る一戦になりそうですな」

 「では二人とも構えてください」

 鞘から抜き放ち、桜華を構える一刀と龍牙を構える趙雲。

 一刀にとって初めての他国の将との手合わせ、少なからず気分が高揚していた。

 「始めっ!!」

 愛紗の合図と共に二人は激突した。

 

 それからおおよそ十分は打ちあっていたが、どちらも一歩も引かなかった。

 ギィンッ!ギンッ!ガギィィィン!!!

 ぶつかり合っては距離をとって再びぶつかる。二人はこれをずっと繰り返していた。

 端から見れば互角に見えるかもしれないが、実のところ趙雲は押されていた。連続の突きを得意とする彼女には、懐に踏み込み続けてくる一刀が酷く相性の悪い相手だったのだ。

 (以前見た時はまるで別人、これは本物の武人にしか出せぬ気迫・・・・そして)

 

 ――何と美しい〝氣〟だろうか。

 

 趙雲だけでなく見物していた蜀の面々、そして審判を務めている愛紗も一刀の放つ桜の花びらの散りざまのごとき氣の放出に心奪われていた。

 それが僅かな隙を趙雲にださせてしまった。

 「もらった!!」

 「しまっ!」

 ガっギィィィンという轟音が響いた後には、趙雲の槍は彼女の手元にはなく、少し離れたところでグサッという音が聞こえた辺り、地面に突き刺さったようだ。

 それを確認した愛紗が高らかに宣言した。

 「勝者、北郷一刀!!」

 わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!歓声が場内に響き渡った。

 「いやはや、お強いですな」

 「そんなことないって、今回は最初に趙雲が手加減してくれていたから懐に飛び込み続けられた訳だしね。それがなかったら負けてたよ」

 純粋にそう思ったからそう言ったと理解した趙雲は、笑顔を見せた。それは戦っていたときとはまるで別の、優しい笑顔で・・・・・・思わず一刀は見惚れてしまう。

 「北郷・・・・・・いえ、一刀殿とお呼びさせていただきましょう。私の事は星と呼んでくださって結構。我が真名、貴方に預けましょう」

 「ありがたく預からせてもらうよ。ありがとう、星・・・おかげでいい経験になったよ」

 「ええ、そうでしょうとも。経験を積まれれば、一刀殿はさらなる高みを目指せましょう。まだ滞在されるというのであれば、再び互いの武を交えましょうぞ。ああ、夜の武も拝見したいですな・・・・・・風が言うにはかなりの猛将だとか」

 「・・・・・・」

 一体彼女に何を教えてんだ風。彼女みたいな美人にお願いされると――。

 「断りきれませんか?やっぱりお兄さんは種馬なのです」

 「ふっ風!?」

 「風だけじゃありませんよ」

 どういうこと?そう聞こうと思っていたが、言葉は一気に飲み込んでしまった。

 ――何故なら。

 「この曹孟徳がこれほど心配してあげてたというのに」

 死神鎌〝絶〟を握った彼女は、まさに死神そのもの。

 「貴方という人は・・・・・・」

 冷汗が止まらない、全身が笑っている。

 一刀はこの世界に帰ってきて初めて、

 

 ――本気で命の危険を感じた。

 

 「一刀の・・・・馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バッチーンという伝説の左のびんたがお見舞いされ、一刀の意識は再び闇の中に沈む。それでも、意識を失う寸前、彼は確かに見た。

 

 ――華琳は、笑っていた。

 

 

 一刀は夢を見ていた。

 あちらの世界に戻った頃の夢を――。

 

 ――目が覚めた時、俺が見たのは見慣れたフランチェスカの男子寮の自分の部屋。日付を見れば驚くことにあの世界に行った日付けのままだった。

 夢だったのかとさえ疑ったが、多くの戦場を共にした制服はあちこちがボロボロだったのを見て、あれが夢でなく現実であったことを教えてくれた。だから俺は泣いたんだ。

 それから三日ほどは何をやるにも力が入らなかった。あーでも、制服だけは新品を購入したんだ。

 たくさん泣いて悩んで、いつか帰れると考え信じるようになって・・・そこからは一気に日常にも力が入るようになったっけか。

 とりわけ、武の方に力を入れるようになったが、もちろん他の事にも精を出すようになった。真桜が再現できそうなからくり・・・基、機器を集めたり、あちらで使えそうな政策をまとめてみたりと日々が充実してたな。

 学校生活の方も雰囲気が変わったとか言われてなんかモテた。もっとも、華琳たちのもとに帰ると決めていたから、告白はすべて断り続けたね。

 心苦しいものもあったけど、やっぱり華琳たちがいるから。

 部活は部活で、なんとあの不動主将から一本取ったんだから、驚きだ。

 「ふむ、何かあったのでござるか?少し前までの北郷殿とはまるで別人でござったが・・・」

 すんません主将、少しどころかかなり前です。

 あちらの武将たちに比べたらルールがある分、戦いやすい相手になってしまっていたようだ。

 もっとも、あの主将が負けっぱなしでいる筈もなく、負かされまくったが、いい思い出だよ。

 

 ――そして、主将が卒業する日も俺はあの人と戦った。

 「いやいや、中々良い試合でござった。卒業する前に、今一度剣を交えることが出来てよかった」

 「ありがとうございます。不動主将・・・うっ・・・」

 「一刀殿、今の主将はお主でござる。それに、それがしのことは〝如耶〟と呼ぶようお願いした筈でござる。よもや、実力を認め合った仲であるそれがしの事を侮辱しておられるのか?」

 「そういうわけではないんですけど・・・・・如耶さんは俺にとっては、いつまでも尊敬すべき剣道部の主将ですから・・・・・・つい」

 「まぁ、今ちゃんと名前で呼んでくださったから特別に赦してしんぜよう・・・・・・いや、そうでござるな、赦す代わりに一つだけ・・・それがしの問いに答えてはもらえぬだろうか?」

 「ええ、構わないですけど・・・」

 なんだろうと思っていたら、如耶さんはとんでもない質問をしてきた。

 ――今でもあれは覚えている。

 「一刀殿はどこにいっておられたのかな?」

 「!!」

 「一刀殿のあの気迫は、一日二日で得られるものではござらん。確かにそなたには下地があった。しかし諦め癖がついてしまっていた。そんなそなたが再び立ち上がってくれることを願ってはいたが、これほど短期間で変貌してしまったとあれば、何かあったと考えるのは当然のことでござろう?」

 このパーフェクトお嬢様は一体どこまで完璧なんだろう。不思議なことに如耶さんが華琳に重なってしまって俺は思わず涙をこぼした。だから、話しを聞いてもらおうと思って話すことを決意したんだ。

 「話しますけど・・・結構突拍子もない話ですから」

 「構わぬ、聞かせてくだされ」

 それから、あの乙女だらけの三国志の話を聞かせた。覇王と共に歩んだあの世界のことを――。

 

 「とまぁ、こんな感じです・・・信じてくれますか」

 「信じるも何も・・・それが一刀殿の〝真実〟なのでござろう?ならばそれがしは、それを信じるのみ・・・・・・しかし、それほどの女子たちのハートを射止めるとは・・・いやはや、驚きでござるな」

 「う・・・・・・」

 「しかし、それほどまでに思っているなら再び会いに行かねば男が廃りまずぞ?」

 励ましてくれた如耶さんに俺は力いっぱい応えた。

 「ええ、必ず・・・彼女たちのもとに帰ります」

 「ふふ・・・・・・それでこそ、それがしが惚れた殿方でござる」

 「如耶さ・・・ん」

 あれは――華琳たちには話せない、話したら・・・確実に殺される。

 「もし、それがしが一刀殿のいる世界に行けたのなら、そのときはそれがしの心だけではなく、体も貰ってくだされ。ではごきげんよう」

 「あの、如耶さん!」

 立ち去る如耶さんを俺は呼びとめ――。

 「もしあちらで出会ったらその時は必ず。だから、これからも時々でいいですから、俺と戦ってくれませんか?」

 「ええ、喜んで」

 そう言って如耶さんは今度こそ本当に俺の前から立ち去った。そして俺は、その背中が見えなくなるまでずっと頭を下げた。

 ――そして、それからも如耶さんは剣道場を訪れ俺と戦ってくれた。もっとも、剣道ではなく、木刀を使った実戦だったけど。

 それ以外にも長期休暇の時や卒業した後は、爺ちゃんのいる鹿児島の道場で徹底的に鍛えてもらったわけだけど・・・あれは部活なんかよりよっぽど地獄だ。

 なにせ爺ちゃんってば一切手加減無しなんだもん。

 それに如耶さんも加わって・・・いっそのこと殺してくれと思ったよ。

 そして、この世界に帰ってくる直前の夜に爺ちゃんに道場に呼び出されたんだ。

 「一刀よ・・・お主にこれをやろうと思ってな」

 「これ・・・は?」

 「〝菊一文字〟といってな免許皆伝と認められた者に贈る一振りじゃよ。今のお主にならば託してもよかろう」

 「爺ちゃん・・・」

 「これががお主の願いの助けになるかはわからんが・・・・・・一刀よ、願いとは思いじゃよ。強い思いがあれば叶えられない願いはないと、儂は思うておる。一刀よお主の願いと想いの道を塞ぐ闇を・・・きっとこの刀が切り開いてくれよう・・・頑張るのじゃぞ」

 「爺ちゃん、きっと恩返しするから・・・・・・いつかきっと」

 「であればひ孫でも期待しようかの。ふぉふぉふぉふぉふぉ」

 忘れることのできない最高の思い出、俺はきっと自分に子供が出来たらそのことを教えてやるんだって決めたんだ。

 

 ――そして、あの筋肉だるまと許子将に出会って・・・俺はあの世界に――華琳たちのいる世界に帰ってきたんだ。

 

 そして誓ったんだ。

 

 ――必ず、華琳たちにプロポーズするって

 

 

 「んっ・・・あれ?確か趙雲と戦って・・・風がでてきてそれか・・・・ら!?」

 目が覚めて思い出すあの時の恐怖に全身が震え始めると。

 「心配しなくても、もう何もしないわよ」

 優し声が隣から聞こえた。

 「華琳・・・・・・ごめん、勝手に蜀に来たりして」

 「その事だったら別に怒ってないわ。貴方にだって頭を冷やす時間くらい必要だったでしょうしね」

 どこまでも優しい華琳の笑顔に、彼女がいることに心から安堵した一刀はほほ笑んだ。

 ああ、愛しい彼女がいる場所に俺はちゃんと帰ってきたんだなと噛みしめていた。

 「あなた、二日も眠ってたのよ?陳宮に蹴られた時は三日ほどね」

 「は?三日も眠って・・・目が覚めて早々星と戦って華琳に気絶させられて二日・・・・・・眠ってばっかしだな」

 「そうね、でも・・・その割には顔色がいいわよ?いい夢でも見たんじゃないの?」

 「ああ、とてもいい夢だったよ。だから改めて決心が決まったよ」

 「決心?」

 「ああ、だからちょっと二人っきりにならないか?」

 「いいけど・・・・・・その前に、入りなさい!!」

 華琳の激と共に張三姉妹以外の魏の面々がぞろぞろと入ってきた。

 「えっと・・・何?」

 流石に何が何だか分からない一刀の前に、春蘭が一歩前にでていきなり土下座してきたもんだから更にわけがわからない。

 「一刀!!本当に申し訳なかった!!我らのために昼夜を問わず頑張っていてくれたというのに 話一つ聞かずに問答無用で台無しにしてしまって・・・この頸、貴様の好きにしてくれ!!」

 「ちょちょちょっと!!幾らなんでも極端だってば春蘭、そんなことよりさ・・・教えてくれないか?なんで皆はあんなに怒っていたんだ?そりゃあ朝からいなかったことは申し訳ないとは思うけど・・・」

 「ああ、簡単よ私が心労で倒れたのよ」

 「華琳が!?」

 「ええ、そうよ。あなたとの約束の日があんなにも待ち遠しかったのに、その日が近づくにつれ貴方が消える夢を見るようになってしまって・・・とうとう体がそれに耐えられなくなってしまったというわけ」

 考えてた以上に皆の怒りが納得できる理由だったことに一刀は言葉を失くしてしまう。

 それは春蘭が怒るのも無理はない。むしろ当然だ・・・。

 「貴方が気に病む必要なんてないわ。それより春蘭だけど、どうするの?」

 「どうするも何も・・・・・・どうもするわけないだろ・・・・と思ったけど・・・そうだな、俺と華琳を二人っきりにしてくれ。後つけたりしないこと・・・これでいいかな?」

 「そんなことでいいのか?」

 「うん、俺にとっては春蘭だって大事な女の子なんだからさ・・・」

 「かずと~!!」

 がばっと春蘭が一刀に思いっきり抱きついてきた。華琳も秋蘭も他の皆も、微笑ましくそれを見守っていたそうだ。

 

 

 ――そして、その日の夜。

 一刀と華琳は思い出の場所・・・といっても良い思い出とはとても言えないのだが。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 そのせいか華琳は終始無言だ。表情も暗く俯いてしまっている。

 それでも一刀にはソレを笑顔に変える自信があった。

 そして小川に辿り着いた。

 あの時と違って満月ではないものの、美しい半月と星空――とくれば、一刀の計画には絶好のシチュエーションといえる。

 「華琳、申し訳ないんだけど・・・これに着替えてくれないかな?」

 「これは?」

 「着て見ればわかるよ・・・あ、髪はおろしといてね。一応礼儀だし」

 「ええ?わかったわ・・・」

 よくわからないといった感じで華琳が木の陰に隠れて着替え始める。時々聞こえてくれる衣ずれ音に妙にドギマギしてしまう一刀だが、なんとかそれは堪えた。

 それからほどなくして、着替え終わった華琳が姿を見せて・・・一刀は呼吸さえ忘れてしまうほどに魅入られてしまった。そしてこう思う。

 ――女神なんてものがいたとしても彼女にはきっと敵わない。

 純白のウエディングドレスを身にまとう華琳には、それほどの美しさがあった。

 「どう・・・かしら」

 「・・・・・・」

 「一刀?」

 「ああ、ごめんごめん。凄く綺麗だから見惚れちゃってた」

 「///・・・・・・そんなことより、この衣装は何?」

 「それはウエディングドレスって言って婚儀の時に着るものなんだ」

 「婚儀の・・・・・・でも、貴方はあの時の制服なのね」

 「そういう服を作る時間がなかったからね・・・今の俺に合わせて作り直してもらったんだ」

 「そう・・・貴方はやっぱりその服が一番素敵よ」

 「ありがとう・・・・・・それじゃあ誓いを交わそう・・・ていっても俺から君にだけどね」

 そう言って一刀は苦笑した。全てが終わった後に華琳は、一刀にその理由を聞き、一刀の話す理由に彼女はすんなりと納得したそうだ。

 

 ――ちなみに、一刀が言ったこととは

 『こればっかりは他の皆と誓いを交わした後でないと俺の方は受け取れないと思うからね』

 ――だ。

 

 「華琳、左手を・・・・・・」

 「こう、かしら?」

 ああ、と頷いて一刀はポケットから指輪を取り出した。唯一無事だった華琳へ贈るはずだった指輪。

 それを彼女の薬指にはめた後。手の甲に口付けをし誓いを立てた。

 「この私、北郷一刀は・・・健やかなる時も・・・病める時も・・・いかなる時も愛する者の傍にいることを・・・・・・喜びも哀しみも分かち合うことを・・・生涯誓います。貴方は私の想いに応えてくれますでしょうか?」

 「愚問ね・・・・。愛してるわ一刀・・・・・・この世界の何よりも貴方の事を」

 そして二人は唇を重ねた。月明かりの下のとても幸せな光景――。

 「ん・・・あむ・・・・・んん、ちゅ、れろ・・・・」

 長く蕩けてしまいそうな甘い口付け。二人はお互いの気がすむまで互いの唇を・・・味わった。

 「一刀・・・・・・ここで、この恰好のまま私を愛しなさい」

 「仰せのままに・・・世界で一番愛しい我が覇王・・・・・・」

 「私も・・・貴方が一番愛しいわ・・・・・・んむ・・・ちゅ・・・」

 

 ――二人の夜は静かに――そして永く流れるのだった。

 

 ――余談ではあるが、この後魏に帰った後で一刀は、再び指輪を作り直し全員にプロポーズしたそうだ。

 もちろん結果は大団円、皆が一刀の妻になることを喜んで受け入れてくれたらしい。

 

 

~epilogue~

 

 

 

 あれから随分と時が流れた。

 それもあってか、一刀もすっかり父親が板についていた。

 (爺ちゃんが俺に、〝アレ〟を託してくれた時もこんな気持ちだったのかな・・・)

 一刀は腰にさした桜華とは別に右手に短刀を握っている。

 「ごめんな、爺ちゃん・・・爺ちゃんが託してくれたアイツは鍛えなおしたよ」

 朝の澄んだ青空に向かって詫びていたら、聞きなれた足音が聞こえてきて視線をそちらに戻すと、一人の少女がやってくるのが見えた。自分と同じ髪の色と母親の容姿(背や胸など細部に違いがあるが)を受け継ぐ我が娘の姿だ。

 「お待たせしました、お父様。曹丕、ただいま参りました」

 「公の場じゃないんだからさ、いつものとおりでいいよ?曹丕」

 「本来ならばそうしたいところなのですが・・・今日のお父様には真剣なものを感じましたから」

 そういう察しの良いところは、母親に――華琳によく似ている。

 敵わないなと苦笑して一刀は表情を引き締めた。

 「曹丕、お前は何を目指し、そのために何を成す?それを聞かせてくれ」

 「急にどうされたのですか?」

 「うん、最近は、政務も、武もかなり身についてきたみたいだからね。もう自分の将来の事を考えているのかなって思ったからさ」

 それで納得したのか、曹丕は言葉を探すようにしばらく黙りこんで。

 

 ――在りし頃の華琳と同じ凛とした表情になった。

 

 「私は――曹丕は、〝王〟としては母を超えるより良い王に。〝人〟としては、父を超える立派な人になりたいと考えています。具体的にどうすればそうなれるか・・・それはまだ模索中ではありますが、一歩一歩確実に歩んでいこうと思います。歩まない限り、永遠に辿り着くことはできないと思いますから・・・・・・」

 すぅ、と深呼吸をして言葉を区切って――。

 「これが、今の私がお父様にお答えできることです」

 ――そう言った。

 そんな娘の姿に眩しいものを感じた一刀は、ただ呆然とするほかなかった。

 この子は、曹丕は――、やはり華琳の娘だと改めて思い知らされてしまう。

 目尻に熱いものを感じた一刀はそれを堪え、真剣な表情のまま、右手に握っていた短刀を曹丕に差し出した。

 「これは・・・〝菊花〟ですか?」

 信じられないと言わんばかりの顔になる曹丕。

 これが一刀にとって、そして自分にとってどんな意味を持つのかを知っているからだ。

 一刀が差し出した短刀は、〝菊一文字〟を、一刀自身の手で鍛えなおした一振りで、銘を〝菊花〟という。

 そして、これが自分に差し出されたということが意味すること――それは即ち。

 「華琳なら、まだ早いっていうのかもしれない。でも、俺はそういう決意が持てるようになったお前を一人前だと思ってる。だから受け取ってほしい・・・自分の決意を見失わない確かな証としてこれを持つんだ、曹丕」

 微かに震える両手で〝菊花〟を受け取る曹丕に、一刀はさらに言葉を贈る。

 「実戦ではこいつに出番はないだろうけど・・・お前が、これから歩む人生の中で道を見失ってしまうこともあるかもしれない・・・・・そのときはコイツが道を切り開いてくれるよ」

 「お・・・・・・父・・・様」

 「まあ、最後にモノを言うのは自身の強い思いだ。だから、まあ・・・お守りとして持っていてくれ」

 くしゃくしゃと頭を撫でると、曹丕は大粒の涙を流しながら一刀に抱きついた。

 「お父様!、お父様!・・・・・曹丕は・・・曹丕は・・・・・・必ずや、自身の言葉に恥じぬ立派な人間になります」

 何かしらあるとこうして飛びついてくるのはいつもの曹丕の姿で、一刀はそれをしっかりと受け止めてあげるのだった。

 

 それから、曹丕は自分の持つ刀とは別に一刀から受け取った〝菊花〟を腰にさして中庭を後にした。なんでも姉や妹たちと朝の稽古をするらしい。

 日々を全力で生きる我が娘たちの事を思い浮かべ、思わず笑顔になってしまう。

 そこに、愛する彼女がやってきた。

 「私からすれば、あの子はまだまだ半人前だというのに・・・・・・甘いわね」

 「俺だって、答え次第じゃアレを託したりはしなかったさ」

 「あれぐらい、この私の娘なら当然よ」

 「その割には嬉しそうだぞ?」

 「そうね、あれだけハッキリと自分の意見を言ったんだから・・・それくらいは認めてあげるべきだわ」

 

 一刀の傍らに寄り添う華琳の肩を、そっと抱き寄せる一刀。

 そのことに、彼女は満足そうに眼を細めた。

 

 「ねえ一刀」

 「何かな?」

 「私は今、幸せよ」

 「俺もだよ、華琳」

 「そしてこれからも幸せよ」

 「俺もだよ、華琳」

 「愛してるわ、一刀」

 「俺もだよ、華琳・・・愛してる」

 ごく自然に二人の唇は重なった。

 

 ――それは、唇同士が触れ合うだけの優しいキス。

 それでも二人の心の中には温かいものがあった。

 

 ――戦乱の世で出会った二人は、共に道を歩み、惹かれあい、結ばれ、そして別れ、再び巡り合った。

 

 ――華琳、俺は君に出会えてよかった。だからこれからもずっと君の傍に居させてくれ。

 ――一刀、私は貴方に出会えてよかった。だからこれからもずっと貴方の傍に居させて。

 言わずとも伝わる二人の想い。

 再び二人の唇が重なった。

 そんな二人を祝福するかのように空はどこまでも澄んでいる。

 二人はそんな空を見つめ、たがいにほほ笑む。

 

 ――一刀、これからも私は・・・私たちは貴方と共に物語を書き続けるわ。未来永劫語り継がれるような、幸せの物語を。

 ――だから、貴方に今一度伝えるわね。

 

 ――一刀、愛してるわ。

 

                                        ~FIN~

 

~あとがき~

 

 

メッセージにも書きましたが・・・・ホントにすいません。前後編にしたにもかかわらず、結局・・・・非常に長いお話となってしまいました。

あれこれ考えていたら話しが膨らみに膨らみ、結果としてこんなに長くなってしまったわけです。

最後まで読んでくださった皆様には心からの感謝を述べさせていただきます。

ありがとうございまず。

 ~真・恋姫✝無双 魏after to afte~side華琳(後)

とうとう最後のafter to afteの作品となりましたが、このシリーズは皆さまにとってどのような作品だったでしょうか?

感動した、心に残る作品だ、泣けた・・・・そんな風に感じてもらえる作品になっていたなら、作者として感無量です。

時に、今回のお話、とあるキャラが出演していますが、このキャラを知らない人はbasesonで探してみてください。

after to afteシリーズはこれで終わりますが、番外編として何か書くかもしれませんし、今自分の書いてる小説のキャラを登場させた恋姫かもしれません。

呉や蜀の子たちも書きたいと思いますが、はっきり言って魏の時の様に全員を書くということはないと思います。

それでも私の作品を変わらず読んでいただけら幸いです。

改めましてafter to afteシリーズを最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。

次の作品が何になるかはわかりませんが、またお会いしましょう。

Kanadeでした

 


 
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