No.839291

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

ワイルドハント殲滅、そして…

2016-03-26 22:12:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2923   閲覧ユーザー数:991

「さてさて…♪」

 

楽園(エデン)、竜神丸の研究室。そこでは竜神丸がご機嫌な表情で手術の準備を始めようとしていた。そんな彼の様子を見て、任務を終えて退屈そうにしていたデルタが問いかける。

 

「随分と機嫌が良さげですね……何か良い事でも?」

 

「えぇ♪ 実は今回、傷付いた仲間の治療(・・・・・・・・・)を頼まれましてねぇ~♪」

 

「…気の所為でしょうか? 今、普段なら到底あり得ないような台詞が聞こえた気がするんですが」

 

「おや、聞こえませんでしたか? 傷付いた仲間の治療(・・・・・・・・・)を頼まれたんですよ」

 

「…どうしたんですか竜神丸さん。何か変な物でも食べたんですか?」

 

「おぉっと! やっぱそう思われちゃいますよねぇ」

 

デルタに不審そうな目を向けられているにも関わらず、竜神丸は楽しそうな表情をしたまま一枚の診断表をデルタに見せる。何事かと思ったデルタはその診断表に書かれているデータに目を向け……その表情を一変させた。

 

「…正気ですか? こんなマネをすれば、あの女(・・・)が黙っていませんよ?」

 

「問題ありません。ナイトレイドのチェルシーさんから頼まれた事だとでも言っておけば、一応それらしい理由として成り立ちますからねぇ。成功すれば誰もがラッキー、失敗すれば傷が酷くて手遅れだった、そのいずれかの言葉でこの話は終了です」

 

「…相変わらず、ネジが10本中10本外れていらっしゃいますねぇ。あなたという人は」

 

デルタが手にしている診断表、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ラン・アルジェント 彼を特殊型Tウイルス投与実験の第1号に指定する』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…と書かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、王都中心街では…

 

 

 

 

 

 

「くそ…ッ……逃がすかゴラァッ!!!」

 

「あぁもう、本当にしつこいな…!」

 

あれから結局、シュラ逹に見つかってしまった琥珀は、路地を全力で走って逃げてるところだった。しかし逃げている途中で、シュラの連れて来た機械兵士達が何度も琥珀の行く手を阻み、琥珀は向かって来る機械兵士達を一体ずつ刀で斬り倒していく。

 

「あぁもう、こんな時に葵さんは何処で逸れたんだか…ッ!?」

 

突如、琥珀は走っている途中で立ち止まる。逃げようとした通路先で、イゾウとドロテアが機械兵士達を連れて待ち構えていたからだ。

 

「やれやれ、そこまで逃げる事はなかろうて」

 

「さて、貴殿の命運はここまでなのか。それとも…」

 

「ここまでに決まってんだろうがよ、この眼鏡野郎…!!」

 

「うわぁ、これちょっとマズったかな…」

 

後方からはシュラが追いつき、挟み撃ちにされてしまった琥珀。前方にはイゾウとドロテア、後方にはシュラ、そして真上には翼を生やして待機している機械兵士が数体。

 

(さて、どう切り抜けるか…)

 

「逃げようったってそうはいかねぇぞ……テメェは本部に連行後、徹底的に拷問して引き摺り回しの刑だ…!! それからあのデカ乳女も性奴隷として扱ってやるよ…!!」

 

「む、そういえば女の方がおらんようじゃな」

 

「今は目の前の獲物を捕縛に専念するべし」

 

下卑た笑みを浮かべるシュラが拳をパキポキ鳴らし、イゾウは鞘に納めていた江雪(こうせつ)の柄に右手をかける。それを見た琥珀が身構えたその時…

 

 

 

 

-ドガガガガァァァァァァンッ!!-

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

「!?」

 

空中を飛んでいた機械兵士達が、突然謎の爆発を引き起こした。何事かと思ったシュラ逹が真上を見上げた直後、無音で出現したロキがシュラに接近する。

 

「吹っ飛べ」

 

「な…ごぶっ!?」

 

ロキの顔面パンチがシュラに炸裂し、シュラは壁を破壊する形で建物の倉庫へと突っ込んでいく。それに気付いたイゾウとドロテアがロキの方へと振り向くが、その直後に殺気を感じ取ったイゾウは瞬時に江雪を抜刀。いつの間にか接近していた二百式の太刀と刃が交じり合う。

 

「ほぉ、相当な手練れと見た…!!」

 

「とっとと潰す…!!」

 

二百式とイゾウは一瞬だけ距離を離し、すぐにまた刃をぶつけ合う。そのまま二人が刃を交えながら路地の外へ飛び出していく中、この数秒間の出来事にドロテアは動揺を隠せずにいた。

 

「な、何がどうなっておるんじゃ…!? えぇい、お前達!! 全員で妾を守れ!!」

 

「無駄ですわ……!!」

 

「葬る」

 

「ッ…何!?」

 

ドロテアを守ろうとした機械兵士達の内、半分は瑞希が繰り出した魔法“サンダー”で一網打尽にされ、もう半分はアカメが振るった刀型の帝具“一斬必殺・村雨”で纏めて一刀両断される。機械兵士達が全滅した事で更に冷静さを欠いたドロテアの頭を、背後から接近した朱音が両手でガッと掴む。

 

「な―――」

 

-ゴキンッ-

 

「邪魔よ」

 

骨が折れる音と共に、ドロテアの首があらぬ方向へと捻じ曲げられる。ドロテアがその場に倒れる中、朱音は呆気に取られている琥珀へと声をかける。

 

「はぁい♪ あなたが反管理局勢力(レジスタンス)の構成員さんね。もう大丈夫よ」

 

「は、はぁ…」

 

「何だ、俺が介入するまでも無かったみたいですね」

 

(!? え、何、ロボット…!?)

 

そこへ更に、空中に飛んでいた機械兵士達を破壊したと思われるνガンダムが着地。その姿を見た琥珀が驚いて目を見開いている事など露知らず、νガンダムは変身を解いてげんぶの姿へと戻る。

 

「さて……俺達は君等反管理局勢力(レジスタンス)を保護しにやって来た。君が逸れたであろう同志達も、今頃俺達の仲間が保護して楽園(エデン)まで送っている筈だ」

 

「! ユミカ逹は無事なんですか…?」

 

「さっき、ディアーリーズっていう俺達の仲間から連絡があってな。ユミカ、真優、ジョシュア、サヤ、以上の四名が無事に保護されたとの事だ」

 

「そうですか……良かった、皆が無事で…」

 

琥珀がホッと安堵の表情を浮かべる中、朱音がロキに小声で話しかける。

 

(竜神丸ちゃんとZEROちゃんに見殺しにされかけた事、彼に伝えなくて良いの?)

 

(伝えたら話がややこしくなるんで伝えません。全くもう、あの二人は毎回毎回フリーダム過ぎて、こっちは後処理で物凄く疲れますよ…)

 

「ロキ殿、朱音殿」

 

「「ん?」」

 

そんなロキと朱音に、アカメが後ろから指で突っつきながら問いかけて来た。

 

「二百式殿は一人にしてしまって良いのだろうか? ここ最近、彼は一人でよく無茶をしていると話を聞いているのだが…」

 

「ん~…まぁあの程度の剣士なら二百式も問題は無いだろうが……少し前に黒騎士にやられて、病み上がりなのもあるからな。アカメ、少し様子を見に行ってやってくれ」

 

「了解」

 

ロキの指示で、アカメは二百式とイゾウが向かって行った方向へと駆け出していく。それと同時に、ロキのパンチで建物内の倉庫に突っ込んでいたシュラが壁を破壊して飛び出して来た。

 

「ッ……クソ、テメェ等が例のOTAKU旅団メンバーか…!!」

 

「ん? おぉ、俺のパンチで気絶しないとは根性あるな」

 

「どうするロキ? 俺がアイツを潰してやっても良いが」

 

「嘗め腐りやがってクズ共が!! テメェ等全員まとめて極刑だ、男は針山の刑にして、女は裸にひん剥いて犯し抜いてやる!!」

 

「あらやだ、聞きました朱音さん? あのバッテン傷、私達を犯そうとしてますわよ?」

 

「えぇ、聞いたわ瑞希。あなた、そんな事するから世間から嫌われるんじゃないかしら? それすら分からないくらい可哀想な男なのねぇ」

 

「ねぇ~……そもそも私達、アン娘様にしか興味が無いのに一体何を言っているのかしらねぇ~」

 

「本当、あまりにアホ過ぎて逆にちょっと同情したくなるくらいよねぇ~」

 

「「嫌な物ねぇ~」」

 

「…俺はアンタ等の仲がよく分かんねぇよ」

 

まるで近所のおばさんの如く、嫌そうな顔をしてシュラを馬鹿にする朱音と瑞希。ここへ来る数十分前まで口喧嘩していた彼女等の仲の悪さは一体何処へ行ったのか、ロキはそれが気になって仕方なかった。

 

「…まぁ、それはさておきだ。勝手に俺達OTAKU旅団を騙って悪事を働くとは良い度胸をしている。それ相応の覚悟は出来ているんだろうな? ワイルドハントさん達よ」

 

「はん、上等だ。まずはテメェから嬲り殺しにしてやる…!!」

 

「…アホに効く薬は無いって訳か。良いだろう、指名されたからには仕方ない」

 

ロキはバディに収納されていたデュランダルを出現させ、それを右手に構えてシュラと真正面から対峙してやろうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

「そぉれ、おっぱいプレス♪」

 

 

 

 

 

-ドゴォンッ!!-

 

「ほぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!?」

 

「「「…あ」」」

 

…真上から急降下して来た葵・泉美(あおい・いずみ)が、その豊満な胸を使ってロキの後頭部にプレスを仕掛けたのだ。当然ながらその威力は高く、直撃したロキは地面に勢い良くキスをする羽目になってしまい、それを見た朱音、瑞希、げんぶが思わずマヌケな声を上げ、琥珀は葵の姿を見て驚きの反応を示した。

 

「あ、葵さん…!?」

 

「あら、やっぱり無傷だったみたいね。安心しなさい、ワイルドハント程度の相手なら、私一人で充分―――」

 

「葵さん、攻撃する相手を間違えてます!! その人は敵じゃありません!!」

 

「…へ?」

 

琥珀の言葉に、葵は真下を見下ろす。葵の足元には顔面を地面に減り込ませ、後頭部を葵の両足で踏みつけられているロキの無様な姿があった。

 

「あらびっくり、こんな所で地面に向かってディープキスする人がいるなんて思ってもみなかったわ!! よほどど恋愛に飢えているのね!! モテない男の悲しい性というべきかしら!? それとも―――」

 

「―――とっとと降りんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

「わぉ♡」

 

数秒後、葵を高く放る形でロキが復活したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地走り!!」

 

「むぅ…!!」

 

一方、中心街を外れて王都の外部にまで飛び出してしまっていた二百式とイゾウは、今も目に見えない速度で剣劇を繰り広げている真っ最中だった。二百式の飛ばした斬撃が地面を駆け、イゾウの振るう江雪がそれを受け流す事で斬撃の方向をズラす。剣術の腕前はどちらも互角と言える状況だ。

 

「うむ、良い腕だ…!! やはり人を斬る事こそ、剣士の歩むべき道……貴殿もそうであろう!!」

 

「俺は自分が守りたい物の為に戦うだけだ……貴様のような奴と同じにされたくはないな!!」

 

「守りたい物の為か、実に素晴らしい……だが!!」

 

「ッ…チィ!?」

 

江雪から放たれた斬撃が、二百式の腹部を僅かに斬りつける。二百式は斬られた腹部を左手で押さえつつ、イゾウの繰り出す攻撃を太刀で巧みに防いでいく。

 

「どれだけ取り繕ったところで、その為に人を斬っているという事実は変わるまいに…!! 目的の為にただ剣を振るう存在、それが剣士という物だろう!!」

 

「知った事か……少なくとも、貴様なんぞに理解されるつもりは無い!!」

 

二百式が頭を伏せると同時に、イゾウの繰り出した斬撃が大木を斜めに一閃。大木が音を立てて倒れていくのを見計らい、二百式は一度木々の中へと身を隠す。

 

(ッ……くそ、あの時の傷口が開いたか…!!)

 

かつて黒騎士に斬られた時の傷口が、今になって開いてきたのだ。腹部から流れる血は止まらず、二百式は苦痛に耐えながらも太刀を鞘に納め、イゾウの前に姿を現す。

 

「! …その傷、随分と苦しそうではないか?」

 

「うるさい、放っとけ」

 

腹部の血がブシュッと噴き上がる中、二百式は鞘を左手に持ち、太刀の柄を右手で掴んでから姿勢を低くする。居合いの構えだ。

 

「ほぉ…」

 

「俺は面倒事が嫌いなんだ……とっとと終わらせる…!!」

 

「面白い……ならば拙者も、貴殿の覚悟に応えてみせようぞ…!!」

 

それを聞いたイゾウは笑みを浮かべ、その両目が黒く染めながら同じく居合いの構えに入る。黒い目に映るその赤い瞳は獰猛な野獣の如く、前方にいる二百式を正確に捉えていた。

 

「……」

 

それに臆する事なく、二百式は構えたままスッと目を閉じる。

 

(俺は負ける訳にはいかない……アイツ等を守り通すには、今より強くならなければならない……あの黒騎士にも負けないくらい強く…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『戦え……そして強くなれ……何もかも、失いたくなければな…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…上等だ)

 

二百式の頬を、一滴の汗が流れ落ちていく。

 

(全てを投げ捨ててでも強くなってやる……黒騎士、貴様を超える為にも!!)

 

「―――滅ッ!!!」

 

イゾウが駆け出すと共に抜刀し、二百式も開眼すると同時に駆け出して抜刀。両者の刃が互いを一閃しようと対峙する。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

-斬ッ!!-

 

 

 

 

 

 

―――刃と刃が交差した。

 

二百式とイゾウは立ち止まったまま数秒間、ピクリとも反応しなかった。しかし数秒後…

 

-ブシュゥゥゥゥゥゥッ!!-

 

「…ぐぅ…ッ!!」

 

太刀を握っていた二百式の右腕が、右肩からズルリとズレていくように地面へと落ちていった。物凄い量の血が噴き出し、二百式は想像を遥かに上回る苦痛でその場に膝を突く。彼の負けか……否。

 

「…ぐ、ごはぁ!?」

 

イゾウもまた、その胸部を斜めに一閃された事で血飛沫を噴き出していた。イゾウはその場に倒れ、二百式は切断された右腕から血を流しながらも両足で再び立ち上がる。

 

「はぁ、はぁ……片腕など貴様にくれてやる……貴様の死と引き替えにな……この勝負、俺の勝ちだ…!」

 

「く、ははは……その、よう…だな……ゴフッ…」

 

仰向けに倒れているイゾウを、二百式はフラフラな状態で見下ろす。イゾウは斬られたにも関わらず満足そうに二百式の顔を見上げる。

 

「拙者の負けだ……貴殿、なら、我が江雪を……託す事が出来、よう……ゴホ…」

 

イゾウは残された体力を使い、逆手に持った江雪を二百式に託すように持ち上げる。

 

「さぁ、受け取れ……勝者である、貴殿には……我が、愛刀を、受け継ぐ…資格、が……ある…」

 

「下らない」

 

 

 

 

-バキィンッ!!-

 

 

 

 

「…ッ!?」

 

一瞬だった。

 

二百式は左手に握っていた太刀で、イゾウの掲げた江雪の刀身を真っ二つに両断したのだ。イゾウは驚愕の表情で二百式を見据える。

 

「ば、馬鹿な……貴殿は、剣士では……無、い…の…………か……」

 

その言葉と共に、イゾウは折られた江雪を握っている右腕が地面に落ち、そのまま動かなくなった。二百式は太刀に付着していた返り血を払いながら、動かなくなったイゾウを冷たい目で見下ろす。

 

「自分の為にしか斬れないような奴の刀を、受け取るつもりは無い……ッ!?」

 

しかしそんな二百式も、再び地面に膝を突いた。斬られた右腕から血を流し過ぎたのだろう、二百式は目の前の視界がグニャリと曲がるように歪んでいく。

 

(くそ、血を流し過ぎたか……アリス……はやて……)

 

結果、二百式も同じように地面に倒れ伏し、そのまま意識を飛ばす事になってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…愚か者めが』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある“存在”から、見下ろされている事にも気付かないまま…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、王都中心街…

 

 

 

 

 

「あぁ~くそ、久々に効いたわコレ…」

 

「あら、思ったより頑丈な男ね! 痛覚が無いのかしら? 見所あるわ!」

 

「誰の所為でこうなったと思ってんだろうなぁアンタって女は!!」

 

葵のおっぱいプレスを炸裂させられたロキはどうにか復活し、首を回してコキコキ鳴らしながら葵に対して愚痴を零していた。そんな彼に対し、葵は申し訳なさげな感じがまるで無く、むしろ反省度ゼロである。

 

「…琥珀とやら。あれ(・・)反管理局勢力(レジスタンス)の構成員なのか?」

 

「…恥ずかしながら、その通りでございます」

 

げんぶからの問いかけに、琥珀は恥ずかしそうに顔を隠しながら小声で返答する。げんぶの“あれ”発言にも特に反論が無い辺り、どうやら彼女に対する印象はどの人物から見ても大して変わりは無いようだ。これには流石の朱音と瑞希も苦笑いである。

 

「いきなり人に向かっておっぱい叩きつけといて反省度ゼロとか……常識という言葉を知らんのか?」

 

「常識? そんなのは猿でも分かる言葉よ! というかあなた、そうやって理屈を述べてこの私から自由を奪い取ろうとでもしてるのかしら? 無駄な頑張りね!! 私はエロくて美しい、孤独な天才の葵・泉美!! そんな逆境は難なくぶち破るわ!!」

 

「勝手に話を飛躍させんといてくれませんかねぇ!? むしろアンタの頭ん中はどうなってんだ!!」

 

「私の頭の中!? 覗いたところで見えるのは脳みそだけよ!! というかそんな物を覗いてあなたは一体どうするつもりなのかしら……はっ!? まさか、私の脳みそを見ながら×××するつもり!? どうしましょう私!! プレイがハード過ぎて付いていけないわ!!」

 

「駄目だこの人めんどくせぇ!!」

 

(あのロキが押されている、だと…?)

 

葵のハイテンションっぷりにロキは精神的に段々疲弊していき、そんな光景をげんぶは面白そうに眺める。しかしこの二人の会話に注目し過ぎていた為か……一人の人物が完全に忘れ去られていた。

 

「…テメェ等、俺を放置して会話とは良い度胸してるじゃねぇか…!!」

 

「「あ、まだいたのお前/あなた?」」

 

「しばくぞゴラァ!!」

 

『『『フッ!!』』』

 

ロキと葵の息が合った発言にシュラはブチ切れ、すぐさま新たな機械兵士達を召喚する。それを見た一同は一斉に身構える。

 

「やれ、ポンコツ共ォッ!!」

 

『『『ハァアッ!!』』』

 

「たく、性懲りも無く……ッ!?」

 

機械兵士達は右腕のガトリングを使い、一同目掛けて一斉掃射を開始。それを見たロキが防御魔法を展開しようとしたその時、一同の前に葵が堂々と仁王立ちする。

 

「おい、危ねぇぞ!!」

 

「あぁいや、大丈夫ですよ……どうせ当たらないでしょうから」

 

「…え?」

 

ロキが止めようとするより前に、琥珀が制止する。そうしている間にも機械兵士達が放った無数の弾丸は仁王立ちしている葵に向かって飛んで行き…

 

 

 

 

 

 

「―――あ?」

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

…数秒後、葵は何事も無かったかのように鼻歌を歌いながら仁王立ちしていた。これにはシュラも思わず呆気に取られる。

 

「…ん?」

 

「え、今何があった…?」

 

いや、呆気に取られているのはシュラだけではなかった。ロキやげんぶ逹も目の前で何が起こったのかすぐには気付けなかったようで、琥珀は「あぁやっぱり」と言いたげな表情だった。

 

「テ、テメェ、一体何しやがった!? どんな小細工しやがった!!」

 

「…それについては俺も同意だな。葵とやら、アンタ何をしたんだ?」

 

「あらあら、そんな事をわざわざ私に聞いちゃうの? 私が言うのも何だけど、目の前に私達の敵がいるような状況なのよ? そんな状況で、私が自分の個人情報をそんなホイホイ話すとでも思ってるのかしら?」

 

「う……まぁ、そりゃそうかもしれんが」

 

「でも私は自慢しちゃう♪」

 

「「するのかよ!?」」

 

ロキとげんぶが同時に突っ込む中、葵は自身の周囲に鳥居型の紋様が入った障壁を複数出現させる。それを見たロキは思わず目を見開いた。

 

「! これは、結界か…? いや、それにしては何か妙だ…」

 

「チィ、それが何だってんだ!!」

 

今度はシュラも複数の魔力弾を生成し、葵に向かって一斉に放つ。しかし…

 

「な…!?」

 

「ふふふ、どうしたのバッテンボーイ? 届いてないわよ」

 

放った魔力弾は全て、葵の周囲に出現した鳥居型紋様の障壁に防がれてしまった。魔力弾を受けた鳥居型紋様は砕け散り、すぐに新しい鳥居型紋様が砕け散った分だけ出現する。

 

「私はね、元々踊る事が好きなの……あ、それとエロネタもね。でもいくらエロネタが好きだからって、誰にでも簡単に自分の身体を許すと思ったら大間違いよ?」

 

「? どういう事だ…?」

 

「えぇっと、そこは僕が簡単に説明します……葵さんのあれは“高嶺舞(たかねまい)”と言って、葵さんの許可を得ていない者は例外なく葵さんに触れられなくなる術式です」

 

「!? 誰にも触れられなくなるだと…!」

 

「ん、そういやokakaからそんな話を聞いた事があるような…」

 

「そう。この私が『あぁ、この人になら枯らされても本望だ』と思えるような人以外には、この高嶺の花を摘み取る事は決して出来ない。私が高嶺の花である限り、私はいつだって孤高であり続けるのよ」

 

「な、何だと……そんな馬鹿な話があってたまるかぁ!!」

 

シュラや機械兵士達は再び葵に向かって攻撃を再開。しかし彼等の飛ばす魔力弾や弾丸は全て、葵に届くより前に防がれて消滅していく。これを見たシュラは段々焦りが生じ始める。

 

「くそ、こんな事が……こんな事があってたまるかぁ!!」

 

「ふぅん、全然届いてないわねぇ……あなたの力じゃ、花を摘み取るには少々険し過ぎたかしら?」

 

「黙れ!! 俺はワイルドハントのリーダーで、いずれ管理局の実験を握る事になる男なんだぞ!! なのに何でなんだ……何でテメェのようなデカ乳女なんぞにこの俺が邪魔されなきゃならねぇんだ!!!」

 

「それがテメェの限界だ」

 

「!?」

 

葵に向かって攻撃を集中させていたが為に、シュラは気付けなかった。いつの間にかロキが、シュラや機械兵士達の真上まで移動していた事に。

 

「散々人を玩具みたいに扱った挙句、勝手に旅団の名を騙ったんだ……五体満足じゃ済まさんぞ」

 

「く、くそ!! おいお前等、俺を守りやがれ!!」

 

「もう遅ぇよ」

 

シュラが命令するより前に、げんぶの変身したガンダムデュナメスが遠距離からGNスナイパーライフルで一機残らず狙撃。機械兵士が全滅した事でシュラは奥の手として帝具“次元方陣シャンバラ”を取り出して能力を発動しようとしたが、それすらもデュナメスに撃ち落とされる。

 

「ユーズ!!」

 

≪Yes sir≫

 

「く、くそ……俺はワイルドハントのリーダーで、世界を支配する男なんだぞ……それがこんな、こんな……こんな奴等なんかにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

-ズバァンッ!!!-

 

「…終わりだ」

 

一閃。

 

ロキが振り下ろしたデュランダルの一撃で、シュラの身体から血飛沫が舞い上がった。彼が倒れると共に、ロキもデュランダルの返り血を払うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、こんな状況の中……密かにやり過ごそうとしている者が一人いた。

 

(ふぅ、結構危ない状況じゃったのぉ…)

 

そう、ドロテアだ。先程、朱音によって首を折られた筈の彼女だったが、実は錬金術による肉体改造を繰り返していたおかげで身体の構造がかなり頑丈になっており、首を折られた程度では死なない身体になっていたのだ。その後は死んだフリをしながら、聞き耳を立ててロキ逹の会話をコッソリ盗み聞きする事で、事の一部始終を一通り把握していたのである。

 

(冗談じゃないわ……あんなヤバ過ぎる連中に関わったら、妾も命がいくつあっても足りん。ここは死んだフリして奴等が去るのを待って―――)

 

もちろん、そうは問屋が卸さない。

 

「あ、そういえば瑞希」

 

「えぇ、こっちにトドメ刺すのを忘れてましたわね」

 

(…ッ!?)

 

ドロテアは冷や汗を流し始めた。何故なら死んだフリをしている彼女の頭上では、瑞希が冷気魔法“フリザガ”で巨大な氷塊を生成し始めていたからだ。

 

「ま、待て、少し待たれよお主等!? せめて命は助けて欲しいのじゃ!! 何でもするぞ!!」

 

「ん? 今…」

 

「何でもするって……言いましたわね?」

 

「そ、そうじゃ!! 妾はこれでも錬金術師じゃ、その気になればいろんな物を作れる!! きっとお主等の役にも立つじゃろう!!」

 

「ふ~ん? そう。じゃあ……さっさと死んで頂けますでしょうか?」

 

「な…!? ま、待て、待て待て待て待て待て待て待て待て!! は、早まるでないぞ!!」

 

「私達が一番欲しいのはアン娘さんだけ……もう充分間に合ってますわ」

 

「え、永遠の命!! それならどうじゃ!? 妾の研究があれば、永遠の命だって夢ではないぞ!!」

 

「そんな物あっても不便なだけですわ」

 

瑞希の生成する氷塊は冷気を纏い、更に巨大化していく。いよいよ手がなくなったドロテアは少女らしからぬ容姿になっているのも厭わず、泣きながら瑞希に命乞いをする。

 

「や、やめるんじゃ!! やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! 何故じゃ!? そなた等は人間の寿命が短いと思わんのか!? 長く生きてみたいと―――」

 

-ドグシャアッ!!!-

 

「…その手の話は聞き飽きましたわ」

 

冷徹な目を見せる瑞希。そんな彼女が見据える先には、巨大な氷塊によって上半身を丸々押し潰されたドロテアだった物(・・・・・・・・)だけが存在するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪お疲れ様です、バディ≫

 

「おう」

 

そしてシュラを斬り伏せたロキは、返り血の払われたデュランダルをユーズに収納していた。そんな彼の後方で、シュラは血を吐きながらもフラフラと立ち上がろうとしていた。

 

「く、くそ……こんな筈、じゃ…!!」

 

「へぇ、まだ息があるのか」

 

「許さねぇぞテメェ等……俺はこんな事じゃ絶対に死なねぇ……いつの日か、管理局の全勢力を率いてテメェ等を一人残らず叩き潰してや―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『足掻くな、見苦しい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ザシュッ!!-

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

シュラの台詞は、最後まで言い終わる事は無かった。何故ならシュラの首が、一瞬にしてスッパリと撥ねられてしまったからだ。シュラの首が地面に落ちる中、ロキ逹は自分達の目の前に立っている、シュラの首を刎ねたと思われる存在(・・)を見て戦慄する。

 

『久しいな、キリヤ・タカナシ』

 

剣の返り血を払うその存在(・・)に、ロキは収納した筈のデュランダルを再び装備する。

 

「まさかまた会う事になるとは、今日はかなり嫌な一日な気がしないか? なぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…黒騎士ぃっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白黒の傭兵は再び、黒騎士と邂逅する…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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