No.836784

開いたはこにわ (第四話 希・穂乃果編)

ラブライブ妄想SS 第四話

あらすじ:
とある放課後、希は穂乃果と映画館へ向かう。帰り道、二人は綺羅ツバサと出会う。希が綺羅ツバサに見た想いとは……。

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2016-03-11 22:07:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:785   閲覧ユーザー数:784

   第四話 開いたはこにわ(希・穂乃果)

 

   014

 

「希ちゃん! 穂乃果、ひらめいたよ!」

「うん? なんや、いきなりやね」

 のらりくらりと二人して歩いてたら、いきなり穂乃果ちゃんはそう言うた。

「穂乃果は思うんです。いつまでも海未ちゃんばっかりに負担をかけちゃいけないって」

 ふん。穂乃果ちゃんは、鼻息荒く両手をあげて、

「つまり、新曲を思いついちゃった!」

 わぁ、ぱちぱち。身振り手振りで喜びを表現する。笑顔はぴかぴかの太陽みたい。それを見てるウチも、つい笑顔にさせられる。陽の当たる場所ってのは、居心地がいいものやからね。

 ウチはへえ、とわざと興味なさそうに聞いてみる。

「何度かそう言うて、いつもみんなに却下されてるけど、今回はどんななん?」

 ふふーん。穂乃果ちゃんはたくらみ顔で、えへんと胸を張る。

「今回はなんとぉ……ソロ曲! 海未ちゃんと山登りに行った花陽ちゃんがとってもハラショ〜ッ、だったから。びびっときたの!」

「でも、花陽ちゃんは海未ちゃんが山ガールだって聞いてなかったんとちがうん?」

 まあ、ホンマはウチと凛ちゃんが隠しておこう、って悪だくみをしたせいなんやけど。

 穂乃果ちゃんは、え? そうなの? って、ぱちぱちおっきな目を瞬かせてから、

「まあいいや。とにかく聞いて! 花陽ちゃんに、どれだけお米が好きか歌にしてもらうの! どうかな?」

「? それだけ?」

「それだけ!」

 ……雑、やなあ。

 惚れ惚れするくらいにはっきりしてるのはええんやけどね。そこが穂乃果ちゃんの魅力やし。人を惹きつけるその笑顔に、ウチも惚れてしもたわけやし。

 ウチにできることは、これからもなんでもしていくつもり。

 もちろん、こんな無茶ぶりにも乗っかっていくで!

「オーケーわかったっ。まずタイトル決めよか? そうでないと、花陽ちゃんも困ってまうんとちがう?」

「あ、そうだね。えっと、そうだなぁ。お米、は絶対入れたいよね」

 首をななめに傾けながら、一生懸命な思案顔。への字に曲がったまゆげと唇。それにぴょこぴょこ動くチャームポイントの髪の毛が、可愛らしいなあ。

「お米……ライス……白米……もち米……おはぎ? うっ、あんこはおやつに入らないよ! ……ゆ、雪穂それは穂乃果のだよっ!」

 目をつむったま考えごと。それがだんだん膨らんでしまったみたい。

「ホンマ、たまらんくらいに可愛らしいなあ」

 見ててほっこりしてまうわ。

「はっ! あぶないあぶない。雪穂におやつとられるとこまで想像しちゃった」

「……穂乃果ちゃん、あんこ苦手なんやないの?」

 おやつに入らないのに取られるとご機嫌ななめ? もうようわからんなあ。楽しいけど。

「飽きちゃったの! いくら好きなものでもずっと食べてたらもう見たくない、って思うでしょ?」

 ねぇねぇ。両手をグーにして訴えかけてくる。ああもう、いちいち可愛いなあ。

 そらこんなんと小さい頃から一緒やったら、好きになってまうのもわかるわ。

 そういう意味では、海未ちゃんとことりちゃんは可哀想かもわからんね。

 あと、やっぱ可愛い子みると、いじわるしたくなってまう。もちろん、エリちがとくにそうなんやけど。

 にしし。

「んん? でもそしたら、穂乃果ちゃんはμ'sのみんなのこと、いつか飽きてまうん?」

 ええぇ〜! 学校がまた廃校になった、って聞いたんとちがうかと思うくらい、瞳孔全開で驚く穂乃果ちゃん。

「そ、そんなことあるわけないよ! だって穂乃果、みんなのこと大好きだよ? こんなに好きなのに、飽きたりするわけないよ!」

 あせってるあせってる。ホンマ可愛いわあ。

「でも、あんこは飽きてしもたんやろ?」

「うっ、そ、そんなことない。穂乃果はあんこ、好きだよ」

「うそっぽいなぁ。あぁ悲しいわ。穂乃果ちゃん、いつかウチのこと飽きて忘れてしまうんや」

 よよよ。ウチは両手で顔を隠す。泣いた振りまでして、穂乃果ちゃんの反応を待ってみる。

「……」

 あれ? やりすぎてしもた? さすがの穂乃果ちゃんもおこなん? 激おこなん?

「……大丈夫だよ希ちゃん」

 どちらかといえばらしくない、静かな声。

 そしてふわりと、あったかくて柔らかいものがウチの頭を包み込む。

「この先のこと、穂乃果にはぜんぜんわからないけど、心配なんていらない。だってもう、穂乃果たちは」

 耳元で、ささやくように、

「出会ってるんだから」

 途端に。

 なんやようわからんもんが、胸の奥から飛び出しそうになる。

「ちょ、ちょっと穂乃果ちゃん!」

 がばっとウチは体を起こして、ちょっとだけ名残惜しいあったかさから離れる。

 あかんあかんあかん! ホンマ同情するわ海未ちゃんことりちゃん。

 こんなん反則やん。

「じょ、冗談! 冗談やから!」

「ほえ? そうなの?」

 なんでもなかったように、穂乃果ちゃんは天然さんな顔でウチを見る。

 ああもう、いまウチどんな顔してるんやろ。

 我らがμ'sのリーダーは、いつでもどこでもマイペース。そうでないときっと、一癖も二癖もあるウチらの中心でなんていられないのはわかるけど、素でこんなんやられたらたまったもんやない。

 心臓ばくばくしてるし、なんやヘンな汗まで出てきそう。

エリちはなんやかんやでわかりやすいし、ウチがちょっかい出しても思った通りの反応してくれるから、からかいがいがあるんやけど。

 この子はあかん。手ぇ出したウチがからかわれてるような気がしてくるわ。

「穂乃果ちゃん、ホンマはわかってやってるんとちがう?」

 ちょっとだけ悔しくなって、ふくれっ面で聞いてみる。

「なにを?」

 きょとんとした顔なんて、妹の雪穂ちゃんの方がよっぽどしっかりしてるように見えるのに。

「……とりあえず、わしわししとく?」

 負けっぱなしは性に合わんからね。

「な、なんで!? 穂乃果なにもしてないよ!」

 ああ、おかしい。

 エリち以外とこんなに笑ったり、どきときしたり、たまーに泣いてしまったりすることになるなんて、思ってなかった。

 エリちと出会えたことだけでも、あの頃のウチにしてみれば奇跡やったのに。

 いやいや、ちょっとちがうんかな。

 エリちとだって、前よりずっと仲良うなってる。

 すっごいええやん。

「穂乃果ちゃん、ありがとうな」

 両手でわしわしガードしてたもんやから無防備だった頭を、そっと撫でてみる。

「うん? へ? 穂乃果、褒められるようなことした?」

 え、穂乃果ちゃん半ベソなんやけど……。そんなにわしわし嫌いなん? ま、泣き顔も可愛いからやめる気はないけど。

「しとるよ。いくら感謝してもしきれんくらい。ありがとうじゃ足りんかも。なにかお礼せんとな」

 言葉にするのは簡単やけど、意識せんとそれができてまう穂乃果ちゃんには、黙っといてもええのかな?

「え〜。なんのことかわかんないからお礼なんて困っちゃうよ。教えて希ちゃん。ヒントだけでも!」

 ぱん。小気味良い音で柏手を打つ。

 お。いちおう巫女さんやっとるウチとしては、それに応えんわけにはいかんかな。

「じゃ、いっこだけな」

「やったあ!」

 いつまでも立ち止まってるわけにもいかんから、そっと手をとって、歩き出す。

 あったかい手。

 もう涼しくなってきてるのに、この子はやっぱり太陽みたい。

「あ、希ちゃんの手、冷たくて気持ちいい。柔らかいし。お母さんみたい……わ、悪い意味じゃないよ!?」

 ぶんぶん繋いでない方の手を振る。

 ふふふ。ウチは思わずちょっと笑ってから、

「一番のありがとうは、やっぱりエリちのことやね。あれはホンマに子供みたいやから。ちぃっとばかしなんでもできてまうから、一人でなんでもやろうとして、それで周りからも、助けてあげんでも大丈夫って見えてまう」

 穂乃果ちゃんはちょっと真面目な空気を悟ったのか、黙ってる。

 眠たくならないくらいに、短くまとめられるかな。

「ホンマは寂しんぼで反抗期の子供なのにな。で、お母さんみたいなウチとしては、それは放っておけんかった。わざとわかりやすいように穂乃果ちゃんたちに協力したりしてな」

「絵里ちゃんは最初から、穂乃果たちのこと見ててくれたもんね」

「いやよいやよも好きのうち、ってね。だからウチは意地っ張りなエリちを落とすために、頑張ったんよ」

 μ'sって名前をつけることで、九人である必要を与えたり。

 素直じゃないだれかさんとかだれかさんとかを煽ったり。

 ひやひやすることもあったけど、楽しかったなあ。

「ぜんぶカードが教えてくれたんだよね!」

「うーん。ま、カードはほとんど確認みたいなもんやから」

「そうなの?」

「訊きたいことがあるとき、答えはいくつか思いつくやん? そのなかから心の奥でいちばん望んでるもんを確認するもん、かな。……まあ適当にやることも多いけど」

「望み、かぁ。希ちゃんの望みは、なにかないの?」

 どきんと胸が鳴る。

 いかんいかん。いくらもうひとつだけ、ちょっとだけウチに叶えたいもんがあっても、それを無理に押し付けるわけにはいかん。

 みんな優しいから、たぶん無理させてまう。

「もう十分、ウチは幸せ」

 むぅ。穂乃果ちゃんはほっぺたをリスみたく膨らませる。

「ええ〜、なにかないの?」

「ないよ。ないない。あ、穂乃果ちゃんとこのお饅頭、また食べたいな」

「そんなのいくらでもあげるよ。穂乃果だって希ちゃんにお礼したいんだもん」

「じゃ、今日こうして一緒に映画見に行くってことで、手打ちにしよ」

「あ、そうだよ忘れそうになってた! 映画だ映画〜。ひさしぶりだよ。楽しみだよ」

 ううん、簡単なんか難しいんかわからん子やね。

「そういや話それてしまったけど、花陽ちゃんの曲の名前、決まったん?」

「あ、そうだよそれも忘れそうになってた! じゃあねえ……」

「穂乃果ちゃんらしく、勢いだけでもなんとかなると思うよ」

 うーん、うーんとしばらく悩んでから、ぱぁっと電球でも光らせるみたいに目を開いて、

「『飯なき飯は、飯じゃない!』」

 ずばりと言い切って、ライスだよっ! ってガッツポーズ。

「却下やね!」

「どのへんがダメなのっ!?」

「いいから行くよ。せっかくの映画に遅れてまう」

 ウチは声出して笑いながら、ぐぃっと手を引いていく。

 

   015

 

「でも残念だったね。他のみんなも一緒にくればよかったのに」

「うーん。今日はまた、たまの休みでみんな予定あったみたいやから、仕方ないんやない?」

 やっとこ着いた映画館。まだ時間には余裕があるみたいで、あちこちうろうろしながら暇つぶし。

「えっと、真姫ちゃんは病院でしょ?」

「そうやね。なんの病気なの! ってみんなで詰め寄って、あわあわしてる真姫ちゃん、可愛かったなあ」

 ばっちり写真にも残せてるから、あとで見てみよ。

「お父さんへのお届けものなら、そう言ってくれればいいんだよ。あとは、花陽ちゃんは海未ちゃんと山登りで……あれ? ほかのみんなは?」

「ま、十人十色っていうやん」

 μ'sじゃ一人足りんけどね。

「でも穂乃果、やっぱりみんなで見たかったなあ。タダ券は二枚だけど、みんなで出せばすこしは安くなるのに」

 ぴろ、と交換済みのチケットを取り出す。

 神田明神の神主さんからいただいた、映画のタダ券。新聞の抽選で当たったとかで、なんだか御利益もありそう。

「恋愛映画だったら、みんなきたかもしれんけどね」

「ええ〜。穂乃果はそういうの雪穂とテレビで見てると、気づいたら寝ちゃうんだよ。イビキうるさいっ! ってすっごく怒られるんだ……。恐いのも苦手なんだけど、雪穂はもっと恐いよ」

 雪穂ちゃんも大変やなあ。エリちのとこの亜里沙ちゃんも、実は結構エリちに怒ったりするみたいやけど。

 あれ? なんかちょっと、違和感がある。

「穂乃果ちゃん、今日の映画の内容、きちんとわかってる?」

「え? ゾンビが出てきてバンバンバーンってやっつけてくやつだよね?」

「ええと、それは言うてしまえば、パニックホラーかな?」

「ホラーになっちゃうんだ? へぇ、穂乃果そういうのなら大丈夫だよ。みんな男の子が見るようなの嫌いなのかな?」

 あ、やっぱあかんかも。

「穂乃果ちゃん、そこでこれから観る映画の予告編やってるんやけど……」

 液晶モニタがいくつも並んでて、その一つを指さす。

 穂乃果ちゃんは、そうなんだ! って目を爛々と輝かせてるけど、これもうダメかもわからん。

「あ、でももったいないからみないほうがいいかな?」

「いや、見といたほうがええと思う」

 ウチは穂乃果ちゃんの肩をそっと掴んで、いまは真っ暗い画面に向ける。

「ちょうどはじめからみたいやね」

 簡単にまとめると。

 日本の怖い話に影響を受けた、洋画やのにめっちゃ雰囲気のあるホラー映画。

 ウチは面白そうやと思うけど。

 二分くらいの予告が終わる。

「……希ちゃん」

「お。大丈夫そうやった?」

「穂乃果は、ダメかもしれません……」

 こんなに気ぃの入ってない穂乃果ちゃん、見たことない。なんや真っ白で、サイドの髪の毛もぺたんこに寝てる。

「やっぱりそうなん? ただのホラーはあかんかったか……」

「の、希ちゃんは平気なの?」

「ウチは平気。ホンマのスピリチュアルなもんとはまたちがうし」

「そ、そういうの見えるの!?」

「ああ最近はもう、あんま見えへんけどね。けどそういうもんはだいたい、こわいもんやないよ」

 ぽかぽか陽気でぽつぽつ雲があって、木が囁いて、海へまっすぐ風が吹く。

 それだけのことでも、たくさんの神さんが見えてたこともあった。

 どっか心配そうな顔でウチのことを気にしてくれる、世話焼きな神さんたち。

 転々として一人ぼっちやったウチのこと、心配してくれてたんやろね。

 それが見えなくなりはじめたのは、たぶんエリちと出会ってから。

 そしていまはもう、ほとんど見えへん。

 見えなくてももう大丈夫なんやって、ウチはわかってるから、悲しいことはない。

 それはもう、はじめから見えなかったんかって思うくらいに。長い夢みたいなもんで、起きて時間が経ったらすっかり忘れてしまうもんなのかも。

 だからウチは巫女さんやって、神さんのことを忘れないようにしてるのかもしれんね。

 ウチはにしし、言うて笑ってから、

「見えるで〜! ウチには穂乃果ちゃんの後ろに立ってる、綺麗な女の人の顔がはっきりと!」

「い〜や〜! こわいこと言わないで〜!」

 耳までしっかり塞いで、小さくなって震える穂乃果ちゃん。

 あはは。

「でもな、全部が全部、ウソってわけやないよ……」

 まだどうにか見えてたとき。

 穂乃果ちゃんをはじめて見たとき。

 その後ろに、おったんよ。

 その人がウチに笑いかけてくれたとき、ああ、頑張らなあかん。エリちと笑い合うだけで満足せんと、この子と、みんなと、手に入れなあかんもんがあるんやって。

 そうしないと、絶対後悔することになるって。

 そうや。思い出してきた。

 喉が鳴る。胸がどくんどくんと跳ねてる。

 あのとき。

 柔らかい笑顔で穂乃果ちゃんを見守る、穂乃果ちゃんに良く似ー

「わぁわぁ! 聞こえな〜い!」

「おっと! びっくりしたなあ、もう」

 あれ? なんや?

 なんか大事なこと思い出しそうになっとったような……。

 まあええか。大事なことなら、いまに思い出すよ、きっと。

「ほんなら、映画やめとく?」

「ううん、みる。もったいないもん!」

 いやあ、止めといた方がええと思うけどなあ。

 

   016

 

 ホットドッグにチュロス、塩とキャラメルのポップコーンは山盛り。ドリンクもLサイズ。

 を、上映がはじまる前に、もう半分くらい平らげてしまってるウチら。

「ぜんぜん人いないね。平日の放課後だとこんなものなのかな?」

 穂乃果ちゃんはケチャップのついた指先をぺろりとなめて、そのままポップコーンに手を伸ばす。

 エリちはこういうときあんまり派手に食べたりせんから、ウチも遠慮なくいただける。エリちといてもべつに遠慮なんかせんけどね。ちょっと怒られるだけで。

「そうやね。まあ貸切みたいでええやん」

 入場開始と同時に入ったもんで、まだちょっとは入ってくるやろうけど、中はがらがら。放映してから日にちも経ってるみたいやし、こんなもんかなって気もするけど。

 ちらほら、ウチらとおんなじ学生さんらしき子らがおるくらい。

「……ん?」

 前の方の学生さん、可愛いらしい女の子の二人組が、さっきからこっちをちらちら見てる。

 穂乃果ちゃんとウチがあんまりにも美味しそうに食べとるからかな?

 あ、目が合ってもうた。

 いちおう笑ってごまかしとく。

 その子らは、すっと思い切ったように席を立つ。恥ずかしがってるみたいな、もじもじしとる感じ。

 ああ、これはきっと大丈夫なやつやな。

「穂乃果ちゃん、口拭いとき」

 紙ナプキンを、穂乃果ちゃんの口に押し当てる。

「ん〜っ。ぷぁっ、なになに?」

 お。ケチャップやのが残念やけど、キスマークいただきました!

「ほら、あれ見てみ?」

 女の子らが近づいてくる。

「え? うわわわ、ごめんなさ〜い! 穂乃果がポップコーン食べる音、うるさかった!?」

「んー。まあうるさくないとも言わんけど、ちがうと思うよ」

「あ、あの!」

 ちょっと赤毛っぽい、さらりとしたロングヘアの子が、顔を赤くして言う。

 制服は見たことある。中学生、みたいやね。

「やっぱり、高坂穂乃果さんと、東條希さんですよね? あの、μ'sの!」

「へ? う、うん。ああ、はい! そうですそうです!」

「私達、ファンなんです! ごめんなさい、ノートしかないんですけど、サイン……貰えませんか?」

「はいはいもちろん! あ〜よかった。怒られちゃうのかと思ったよ」

 ファン言うてくれた二人と一緒になって笑って、穂乃果ちゃんとウチはたどたどしい手つきでサインをする。

 とっきどき言われて書くけど、こればっかりは慣れんもんやね。嬉しいんは嬉しいんやけど。

「じゃ、またね〜」

「ほなまたなあ」

 って軽い挨拶してもうたけど、にこっちとか真姫ちゃんあたりはもうちょっとアイドルっぽい対応しそうやね。

 にこっちはぶりぶりのにっこり笑顔。真姫ちゃんは、有名女優さんみたいな塩対応かな? 真姫ちゃんはただのツンデレさんやねんけどな。

 ああ、エリちは年下の子からモテるみたいやから慣れてるんよ。ウチはそれ見ると、顔には出さんけどちょっとだけ不機嫌になったりとかな。ウチからおしゃべりせんでおくと、甘えた子犬みたいに寄ってくるんやけど。

 それは置いといて。

 ありがとう、って言われて笑顔貰えると、やってて良かったなって再確認できる。

 やっぱアイドルは、ファンあってのもんやから。ウチらがどんだけ仲良しこよしでやってても、一人相撲じゃあかんもん。んん、一人相撲でなく、九人相撲でお客さんなし、かな。お客さんあっての見世物やからね。九人のまわし姿とか、刺激的で面白そうやね。

「あの子たち、すごいね……」

 穂乃果ちゃんが、口をぽかんと開けたままつぶやく。

「お、まさかあの子たちにスクールアイドルの才能を感じたん?」

 何気に穂乃果ちゃんは見る目あるからな。人を寄せ付けるカリスマも。

「こんなにこわそうな映画、中学生二人で見るなんて。穂乃果できなかったよ!」

「って、そこかい!」

 ああもう、ベタな突っ込みしてもうた。

 とまあ、そんなこんなで。

「んで結局、途中でギブアップなんやね」

「しょ、しょうがないよ! こわかったんだもん!」

 早々に映画館を後にしたウチら。

 いまは適当に、駅前をぶらぶら散歩中してるとこ。

 開始までに食べ物を平らげてしまったせいもあり、集中するしかなくなって、放映開始後すぐ最初の山場。そこでもう穂乃果ちゃんはウチにぴったりくっついて、がたがた震えてしまってた。

 ウチとしては役得やったから、そのまんまでも良かった気もするけど、さすがに可哀想になって、出よかって声をかけた。

 うんうんうんって涙目で黙って頷くのも、やっぱ反則やったなあ。

「ごめんねえ希ちゃん。今度べつの映画見よう。ええっと、ほら予告でやってたあれ、楽しそうだったよね。なんかロボットみたいなのが戦ってるやつ」

「ああ、なんやったっけ? メカトロンVSハンドレスケイ、とか言うたかな? でもなんか、発進するとこで声優さん、めっちゃ噛んどったような気したけど」

「え? あれってああいうものなんじゃないの? はっちゃーっ! って可愛かったよ」

 良くわからんけど、そういうのが売りなんかな?

「実はエリちもああいうん好きそうやし、ほな今度みんなで行こか?」

 うん! って穂乃果ちゃんはえくぼをつくって笑う。

 ただ、その笑顔がすぐに曇ってしもた。

「あの子たち、μ'sのファンじゃなくなったりしないかな……」

 目を軽く伏せて、穂乃果ちゃんは言う。そうしてると、ちょっとどきんとするくらい美人さんに見えるんやから不思議やね。普段のちぃっとばかしお間抜けさんなところなんて、微塵も感じさせない。

 またそれが、背伸びしたり大人ぶって出てくる雰囲気でなく、自然とそういう顔もできるあたり、やっぱりアイドルに向いてるんやろな。

「ん? ああ、サインの子ら? たしかに笑ってたような気ぃするけど、べつにー」

「うわ~どうしよ! 大事なファンが穂乃果のせいで減っちゃったかも!」

 平気やと思うよ。ってウチの声が消えてまうくらいに大きな声。

 あらら。もういつもの穂乃果ちゃんに戻ってもうた。

 お。でもこれは仕返しのチャンスかも。

「心配いらんよ、穂乃果ちゃん」

 ぽんぽんと穂乃果ちゃんの頭を撫でてみる。

 ウチは背伸びせんと、お姉さんみたいなことできんから。

「そういうところを含めての穂乃果ちゃんなんだから。あの子たちもきっと、こわがりな穂乃果ちゃんを見れてラッキーって思ってたはずだよ」

 あらら。背伸びすると話し方、よくわからなくなったりするけどね。

「う~。でも格好悪いことには変わんないよ。穂乃果はカッコいいスクールアイドルだって思われたいもん。ほら、アライズみたいに!」

「うーん。路線ちがうし、あきらめたほうがええんとちがうかな?」

「え! そ、そうかなあ?」

「よそはよそ、うちはうちってね。あちらさんの土俵でやっても、ウチらに勝ち目は薄いしな。キレッキレのダンスに圧倒的な歌唱力。土台の練習量に差がありすぎとはいえ、いまから追っかけても追いつないやろね」

 それははじめからわかってたことなんやけどね。

「じゃ、じゃあμ'sは勝てないってこと!?」

「おんなじ土俵なら、な。μ'sの曲は、素人のウチらが覚えやすくノリやすいように真姫ちゃんが気ぃきかせて作曲してくれてる。そこに海未ちゃんのまっすぐな歌詞が乗っかる。そうすると、まわりからも覚えやすくてノリやすい、楽しくて歌い出したくなる曲の完成や」

 あの二人がいてなければ、そもそもここまで来れてなかった。

 そう思うと、やっぱりぎりぎり、綱渡りなのは変わらんなあ。

「うん。そうだね! つい歌いたくなって、踊りたくなっちゃういい曲ばっかりだもん! できればファンの子……ううん、聴いてくれるみんなで一緒に歌いたいな、って思うよ!」

「そ。だから心配いらないよ。μ'sはいまのまんま、まっすぐに前だけ見ていけば、きっと……」

 アライズに勝って、先に進める。

 そう言いたいけど、ウチからはっきりと、そうは言えんかった。

 わからない。

 いいところまでは行くと思う。

 けど、良くて半々。いや、もう少し下がるか。

 アライズになくて、μ'sにあるもの。それはウチがさっき言ったのでだいたいは合ってるはず。けど、やっぱなにかが足らん。

 いま、穂乃果ちゃんに相談してみるべきなんやろか。

 でもそれは、ウチのわがままをわがままでなく叶える口実に思えてきてしまう。

「きっと、アライズに勝てるよね!」

 ウチには、曖昧に笑うことしかできなかった。

「あら、それは聞き捨てならないわね」

 穂乃果ちゃんみたいに大きくないけど、耳の奥まで抜けるような、透き通る声。

 綺羅ツバサ。

 噂のアライズのリーダーさんの登場やった。

 

   017

 

「こんにちは、東條希さん。高坂穂乃果さん」

 あら、ウチの名前先に言うてくれたみたい。深い意味はないんやろうけど、ウチが三年やからそうしたんやろか? さすがのトップアイドルは礼儀もきちんとしてる言うことなんかな。

 そんなん置いといて、この子はおでこが可愛らしいなあ。

「こんにちは、綺羅ツバサさん」

 と、まともに挨拶しとく。

「ツバサさん!? こ、こんにちわ! じゃなくて、ごめんなさい! へんなこと言って!」

 穂乃果ちゃんは頭ぶつけてまうんやないかってくらい、ぺこりと下げる。

 それを見たウチと綺羅ツバサは、顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。

 ああ、なんや。意外と話、できそうな子やん。

「べつに怒っていないわよ。むしろ、リーダーが簡単に頭を下げるものではないわよ」

「で、でもでも、勝てるなんて簡単に言っちゃいましたし……」

「そうでなくては困るわ。聞き捨てならないって言うのは、私がちょっと言ってみたかっただけよ」

 綺羅ツバサはそう言って、ぱちりとウインクしてみせる。

 にこっちやったらそれだけで気絶してまうかもわからんな。花陽ちゃんは泣いてまうかも。

「あかんよ穂乃果ちゃん。気持ちで負けてどないすんの?」

「で、でも希ちゃん。アライズだよ? ツバサさんだよ?」

「それでもや」

 ぽん、と穂乃果ちゃんの肩に手を乗せる。

 うーん。実はウチって、もとからそこまでスクールアイドルに詳しくなかったしな。いま目の前にいる綺羅ツバサを可愛いとは思うけど、いつもメンバーとか、とくにエリちみたいなバケモンと一緒にいることが多いと、可愛いとか美人さんとかの感覚がマヒしてくるわ。

 あの見た目で実はあまえんぼさんとか、神さんはなに考えてるん?

 まあ、ステージの上やったら、綺羅ツバサらの格の違いってのはわかるけど。

 そう。

 それがわかってまうから、まだ足りんてこともわかってまう。

「希ちゃん? 大丈夫?」

 そっと乗せられる、穂乃果ちゃんの手。

 やっぱあったかいなあ。

「……少し気になったのだけど、いいかしら?」

 綺羅ツバサが、ウチらの手に目を合わせて言う。

 ああ、あかんあかん。穂乃果ちゃんの悪いとこに転がされるとこやった。

「高坂さんは二年生、東條さんは三年生よね?」

「はい、そうですよ」

「そやね」

「……べつに指摘するとかではないけど、友達言葉なのはグループの方針? それともリーダーの高坂さんだから、なのかしら?」

 お。面白くなってきそうやん。

 わからんようにしてるみたいやけど、綺羅ツバサは唇を少し尖らせてるみたいやった。

 なんやこの子、やっぱ可愛いやん。

「そうです。一年生から三年生までいるので、やっぱりはじめは遠慮しちゃってて。そしたら絵里ちゃんが、先輩禁止! って決めたんです。ね、希ちゃん」

 とか言いながら、穂乃果ちゃんはウチの手をぎゅっと握り直す。

 おお、ええね。そうやって煽っていくスタイル、ウチは好きやで。

「そうやね穂乃果ちゃん。合宿とか、旅行みたいで楽しかったなあ」

ちら、と綺羅ツバサに目を向ける。

 少し大きく目を開いて、眩しいもんでも見るみたいにそらす。

 あら、やり過ぎてもうたかな?

「……だからあんなに、輝いて見えるのかしらね」

 綺羅ツバサは笑う。その笑顔はトップアイドルのものやなく、ただの女の子のもんに、ウチには見えた。

「私は好きよ。あなた達の曲。九人それぞれはべつべつの色、まったくちがう光なのに、それが一つのように見えてくる。なにが飛び出してくるかわからない、おもちゃ箱を開くときみたいに、わくわくして、楽しい気分にさせてくれる」

「えと、ありがとう、ございます」

 す、と穂乃果ちゃんが、軽くおじぎをする。

 綺羅ツバサはそれを少し悲しそうに見る。

 表情は変わらんけど、ほんの少しの色のちがいが、ウチには見える。はじめは客観的にμ'sを見てたウチには、綺羅ツバサの言う色とか、光とか、わくわくする気持ちがわかる。

 ウチはそのおもちゃ箱に、エリちと一緒に飛び込んだ。それを綺羅ツバサは憧れるような目で見てくれてる。なんて誇らしくて、なんて嬉しい気持ちなんやろ。

 そして。

 ああ、この子もやっぱ、ただの女の子やねんな。

 そんでウチは、女の子が悲しい顔してるの見て、放っておけるようにはできてない。

いつだって女の子が寂しがりなのは、ウチが一番わかってる。

 それがわかってるなら、ただ手ぇ差し伸べてやるだけや。

 大丈夫。ウチらのおもちゃ箱は、いつだって開きっぱなしなんや、って。

 くだらんおもちゃもあるし、その人にしかわからない、宝物だって入ってる。

「なあ、『ツバサちゃん』。いまちぃっとばかし時間ある?」

「え、ええ。少しなら……」

 少し瞬きを多くして、ツバサちゃんは表情を隠そうとする。

「ほんなら、ちぃっとばかし穂乃果ちゃんのこと見といてくれる? ウチちょっとお花摘みに行ってくるわ。ああ、悪いからそのへんのクレープ屋さんで甘いもんでも食べて待っといてな!」

 ひらひらと手を振って、ウチは駆け足!

「ちょ、ちょっと東條さん!?」

「希ちゃん! 穂乃果ひとりでも待てるよ! そんなに子供じゃないよ!」

 あらら。見当ちがいなリーダーさんやな。

 いまは逃げるが勝ち、やで!

「一つだけ聞いて、東條さん!」

「おっと?」

 うわ、大きい声。思わず止まってしまったわ。穂乃果ちゃんよりも大きいんとちがう?

 振り向くと、ツバサちゃんはすぅと思い切り息を吸い込んで、

「Don`t hold back!!」

 綺麗な発音。お勉強もできるみたいやね。

「こんな私に言えたことではないかも知れないけど、いちおう言っておくわ!」

「え? なに? なになに?」

 穂乃果ちゃんは、はてなマークを頭の上に浮かべてる。

 粋なはからい、ありがとさん。

「……おおきに!」

 思わず笑ってまうわ。手を振って、ウチはやっぱり逃げるが勝ち。

 意外と、ウチがツバサちゃんと友達やったら、仲良くなれたかもわからんな。

 ま、いまからでも遅くないんやろうけど。

 てかあんな大声出して、人集まってきたらどうするつもりなんやろ。

 どこのリーダーさんも、やっぱ似たもの同士なんやろか。

「……なんやお見通しやったんか」

 ガマンしないで、か。

 

   第四話 開いたはこにわ 了


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