満月の夜…
「ッ……おいおい。まさかテメェ等、OTAKU旅団か…!!」
「おぉ! インテリなイケメンにワイルドなイケメン来ましたぁ!」
今は使われていない教会にて。
(OTAKU旅団? じゃあ、あの二人が合流予定だった…)
その一方で、サヤを床に押し倒していたチャンプもエンシンと同じく舌打ちする。
「くそが、また俺達のラブラブな結婚式を邪魔する気か」
「あん? …あぁ何だ、今喋ったのはテメェか。粗大ゴミが喋るなんて驚きだな」
「んだとテメ―――」
-ドゴンッ!!-
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
「!? チィ、こんな時に本物が現れるとはな…!!」
ZEROの“粗大ゴミ”発言を聞いて激怒しようとしたチャンプだったが、それより前に出現したイワンがチャンプにボディブローを炸裂させ、殴られたチャンプが壁を破壊して教会の外まで吹っ飛ばされていく。それを見たエンシンは何処からか複数のロックシードを取り出し、一個ずつ開錠してはそれらを次々と床にばら撒き始めた。
「! おやま、ロックシードまで既にお持ちとは…」
「ほらほら、やっちまえ怪物共ぉっ!!」
「「「「「シャァァァァァァァァァァァァァッ!!」」」」」
「ひっ!?」
「な、何だコイツ等!?」
「あ~らら、制御も何もあったもんじゃないですねぇ…」
真上のクラックからは、上級も含めた大量のインベスが出現。インベスの大量発生に真優やジョシュア逹が一ヵ所に固まる中、竜神丸は呑気な表情でインベス逹を見据える。そんな状況の中で一人、インベスの大量発生に歓喜している者がいた。
「ちょうど良い……ランチタイムと行こうか…!!」
≪レッドピタヤ!≫
そう、ZEROである。彼は舌舐めずりをしながらレッドピタヤロックシードを開錠し、それを予め腰に装着していた戦極ドライバーに装填。エレキギター風の待機音が鳴り響く中、ZEROはカッティングブレードを倒し、真上のクラックから出現した赤い果実状の鎧がZEROに被さった。
≪レッドピタヤアームズ! 真龍・降臨!≫
「クハハハハハ……さて、まずはどいつから喰われたい?」
「シャアッ!!」
“アーマードライダードラーク・レッドピタヤアームズ”への変身が完了。低い声で楽しそうに笑うドラークに一体のインベスが飛びかかり…
「ゲギャアァッ!?」
「遅ぇよ」
ドラークが両腕に装備していた鉤爪―――ピタヤクローで一閃される。この一撃を合図に、ドラークの“食事”は開始された。ドラークは前方から走って来たカミキリインベスを蹴り飛ばした後、装備していた両腕のピタヤクローを放り捨て、スイカロックシードを取り出す。
「精々楽しませろよ…!!」
≪スイカ!≫
「え、もう使うんですか?」
竜神丸の反応を他所に、ドラークはレッドピタヤロックシードの代わりにスイカロックシードを戦極ドライバーに装填。すると真上のクラックから、巨大なスイカアームズが降下して来た。
「デ、デカぁっ!?」
「何あれ…」
≪スイカアームズ! 大玉・ビッグバン!≫
≪ヨロイモード!≫
ジョシュアやユミカが唖然とする中、出現したスイカアームズに乗り込んだドラークは戦闘形態のヨロイモードを展開。スイカ状の球体にスイカバーのような鉤爪が装備された武器―――スイカクローを右手に装備した後、左手の指先から放たれる弾丸でインベス逹を次々と狩り始めた。
「ガハハハハハハハ!!」
「おいおい、マジかよクソが!?」
「キャー崩れるー☆」
「ッ…二人共、危ない!!」
「「キャアッ!?」」
スイカアームズの放つ弾丸はインベスを駆逐するどころか、彼等がいる教会を破壊し始めた。瓦礫や木材が上から落ちて来る中、エンシンとコスミナは崩れる教会から脱出するが、ジョシュアは逃げ遅れた真優とサヤを連れて柱の陰に隠れ、飛んで来る弾丸から身を守る事しか出来ない。何とか飛んで来る弾丸を掻い潜り、ユミカはドラークの戦闘を見ていた竜神丸に叫びかける。
「ねぇ、あなた達OTAKU旅団なんでしょう!? お願い、彼に攻撃をやめさせて!! こっちにはまともに動けない怪我人がいるの!!」
「? 誰ですか、あなた方」
「
「あぁ、イーリスさんが言ってた連中ですか……それで?」
「は? それでって…」
「私は別に、あなた方になど微塵も興味はありません。いっその事、ZEROさんの戦闘に巻き込まれて死んでくれた方が、こちらも書類纏めるのが楽で良いんですけど」
「はぁ!? 何言ってんのよアンタ、こっちはアンタ逹の味方なのよ!?」
「弱い味方なんて欲しくありませんがねぇ……何にせよ、死にたくないのであればさっさとこの場から立ち去ってくれませんかねぇ? ハッキリ言って邪魔なので」
「ッ…アンタって奴は―――」
「「キャァァァァァァァァァァァッ!?」」
「ッ…真優ちゃん、サヤちゃん!?」
スイカアームズの繰り出す弾丸や斬撃が危うく当たりかけたのか、真優とサヤの悲鳴が聞こえて来た。そんな真優逹の事など眼中にも無いドラークは、スイカアームズの巨体を活かしてインベス逹の攻撃を弾き、スイカクローで教会のあちこちを破壊しながらインベス逹を駆逐していく。
≪スイカスカッシュ!≫
「「「「「ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」」」」」
「ガッハハハハハハハハ!! もっとだぁ、もっと俺に喰わせろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
≪ジャイロモード!≫
スイカクローから放たれる斬撃が、飛び回っていた複数のコウモリインベスを纏めて斬り裂き、その斬撃の余波で教会の天井が破壊される。そこからドラークはスイカアームズを飛行形態のジャイロモードに変形させ、破壊された天井から逃げていく初級インベス逹を追いかけて行く。暴れていたドラークが外へ出て行った為、ユミカはどうにか無事だった真優逹に駆け寄る。
「三人共、無事!?」
「俺は、何とか大丈夫だ……だが…」
「う、うぇぇぇぇ…!」
「スイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖いスイカ怖い」
暴れるドラークの所為で危うく死にかけた所為か、サヤは怯えた表情で涙を流し、真優もすっかりスイカアームズがトラウマになってしまっていた。傷の具合が一番酷いジョシュアが一番精神的ダメージが少なかったのもある意味皮肉である。
「おやまぁ、すっかりトラウマになってしまったようですねぇ。可哀想に」
「元はと言えばアンタ逹の所為でしょうが!!」
「あなた方が弱いのが悪いんでしょうねぇ……さて、そろそろ私も実戦調整を始めましょうか」
≪レモンエナジー!≫
「変身!」
≪ソーダァ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー・ファイトパワー・ファイファイファイファイファファファファイト!≫
ユミカからどれだけ睨みつけられようとも、竜神丸は涼しい顔でこれをスルーした後、自身の腰にゲネシスドライバーを装着。開錠したレモンエナジーロックシードを装填してレバーを押し込み、竜神丸は降下して来たレモンエナジーアームズを被り、アーマードライダーデューク・レモンエナジーアームズへの変身を完了する。
「えぇっと、ワイルドハントは確か外に逃げた筈…っと」
教会の外に出たデュークに向かって、無数の斬撃が飛来してきた。デュークがそれらを回避すると、今度は別方向から巨大な音波が飛来し、デュークの近くに生えていた樹木が簡単にへし折られる。
「ふむ、飛ぶ斬撃に超音波ですか…」
「テメェ等はここで潰させて貰うぜ、OTAKU旅団さんよぉ!!」
「その後は、コスミナちゃんと一緒に良い事しましょ~♡」
エンシンは曲刀型の帝具“月光麗舞シャムシール”を振るって無数の斬撃を放ち、コスミナはマイク型の帝具“大地鳴動ヘヴィプレッシャー”を通じて強力なハイパーボイスを発動。無数の斬撃とハイパーボイスが同時に飛んで来る中、デュークは冷静にゲネシスドライバーのレバーを押し込んだ。
≪レモンエナジースカッシュ!≫
音声が鳴ると同時に、無数の斬撃とハイパーボイスが命中。爆発して煙が舞う中、その煙の中からは無傷のデュークが呑気に歩きながら姿を現した。
「!? 何ッ!!」
「帝具と言っても、種類によってはレベルが低いのもあるんですねぇ。期待外れも良いところです」
「チィ、だったらコイツはどうだよ!!」
エンシンはその場から跳躍して回転し、更に複数の斬撃を放つ。しかしその斬撃は先程よりも更に肥大化し、巨大な刃となってデュークに襲い掛かる。それでもデュークは冷静に対応し、ソニックアローにレモンエナジーロックシードを装填する。
≪ロック・オン…≫
(満月の時こそ、俺のシャムシールは最高のポテンシャルを発揮する!! 今日はちょうど満月!! いくらライダーシステムとやらを使ったところで、俺の攻撃を防ぐ事は出来な―――)
「ワンパターンですね、拍子抜けです」
≪レモンエナジー!≫
一瞬だった。
「―――は?」
デュークが放ったソニックボレーは、飛んで来た無数の斬撃をいとも容易く打ち破り、そのままエンシンの胸部を貫いていた。
(な、何が起き、て―――)
エンシンは何が起こったのかを全く理解出来なかった。そして心臓を貫かれてしまった以上、エンシンはその答えを永遠に理解する事も無いまま、この世を去る事しか出来ないのだった。
「さて」
「え……ひゃわぁっ!?」
エンシンの死体が地面に落ち、ドシャッと血飛沫で地面が赤く染まる。そんな光景に目も暮れる事なく、デュークは前方を向いたままソニックアローを後ろ向きに構え、再び音波を放とうとしていたコスミナのヘヴィプレッシャーを撃ち落とす。
「あ、あはは、えっと…」
「どうせこのまま戦ったところで、得られるデータは何も無いでしょう……しかし、戦闘以外でなら役立てる方法も無くは無い」
「いぎ!? ぃ、ぁ…」
「今ちょうど、実験用のモルモットが不足していたんですよねぇ……これはなかなかにラッキーな収穫です」
デュークはコスミナの首を掴み、高く持ち上げてから軽く絞め上げる。それが効いたのか、コスミナは一瞬だけ苦しげな表情を浮かべてから意識を失い、ダランと動かなくなった。
「す、凄い…」
「何なのよあの姿……ワイルドハントを一方的に倒すなんて…」
その様子を、離れた位置から見ていた真優逹。先程竜神丸に対して散々文句を言っていたユミカも、デュークの圧倒的な戦闘力の前では文句の言葉すら言い放つ事が出来なかった。
「「「シャァァァァァァッ!!」」」
「え……キャア!?」
「ぐぁっ!?」
「!? ユミカさん、ジョシュアさん!!」
その時、ドラークが取りこぼしたと思われる数体のコウモリインベスが上空から飛来し、ユイカとジョシュアを薙ぎ払ってしまう。その内、一体のコウモリインベスがサヤに狙いを定めて接近し、サヤはその場にへたり込んだまま恐怖で動けなくなってしまう。
「い、いや…」
「キシャァァァ…!!」
「ッ…サヤちゃんに手を出さないで!!」
「ギィ!? ギシャアッ!!」
「くっ!?」
サヤを守るべく、真優は手に構えたハンドガンでコウモリインベスを狙撃。しかし大してダメージにはならなかったのか、怒ったコウモリインベスは口から火炎弾を放つ。真優は何とかその火炎弾をかわすが、その隙を突かれて他のコウモリインベスに捕まってしまい、その際にハンドガンを落としてしまう。
「いや、離して下さい…!!」
「真優お姉ちゃん!!」
コウモリインベスは真優を捕まえたまま、空高く持ち上げようとする。真優は何度もコウモリインベスを殴りつけるが、やはり女の子の力ではこれが限界なのか、コウモリインベスは彼女を離そうとはしない。
「シャァァァァァァァ…!!」
(誰か、助けて…!!)
真優を捕まえたコウモリインベスは、口を開いて鋭い牙を露わにする。もう逃げられないと判断した真優が、自身の目をギュッと強く瞑ったその時―――
≪イエス・スラッシュストライク! アンダースタン?≫
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ギッ!? ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」
「…え?」
何処からか飛来した冷気の斬撃が、真優を捕まえていたコウモリインベスを両断。その拍子に解放された真優は地上へと落下し、斬られたコウモリインベスが爆散する。そして駆けつけたディアーリーズが、落下しそうになっていた真優をお姫様抱っこの要領で優しく抱き留めた。
「大丈夫ですか? 間に合って良かった…!」
「あ…!」
その時にディアーリーズが見せた笑顔。その笑顔が、真優にとってはとても眩しく見えていたのだった。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁお化けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
「だ、大丈夫だよ~! 何も怖い事はしないからね~!」
「サヤちゃんを泣かせるなデカブツ!!」
「あいたぁっ!? ちょ、脛は蹴らないで地味に痛いから!」
その近くでは、サヤに泣くほど怖がられた挙句、ユミカに脛を蹴られているボルスの姿もあったのだが。
「ッ…くそ、かなり吹っ飛ばされちまったな…!!」
一方、エンシンとコスミナがやられている事など知る由も無いチャンプは、ズシンズシンと重い足音を立てながら教会まで走り続けていた。今の彼は既に、先程獲物として狙いを定めたサヤの存在しか頭に無い。
「待っててね、さっきの可愛い子ちゃん♡ 今からオジサンが戻って、もう一度愛してあげるからね―――」
「させると思いますか?」
「―――ッ!?」
その時だった。走っていたチャンプの足元に数本の羽が突き刺さり、チャンプは慌てて足を止める。そして彼が見上げた上空からは、マスティマを展開したランが銃型アームドデバイスを連射を開始した。
「な、テメェは…」
「「喋るな下衆が」」
「がっ!? しま…ギャァァァァァァァァァァァッ!!?」
迎え撃とうとしたチャンプの両足を、蒼崎が二本の刀で容赦なく斬りつける。その所為でチャンプは体勢を崩してしまい、ランのデバイスによる射撃を全身に浴びる羽目になってしまった。
「なるほど、コイツがその殺人鬼って訳か?」
「ふぅん、見るからにクズ野郎って分かるような風貌ねぇ」
刀を納めた蒼崎の傍にチェルシーが姿を現す中、そして地面に降り立ったランは傷だらけで倒れているチャンプを見下ろし、その頭を容赦なく踏みつけたまま懐から数本の花を取り出す。
「ぐ……テ、テメェ…!?」
「広域次元犯罪者チャンプ、まさか管理局に匿われているとは思いませんでしたよ……ですが、あなたの人生はここで終わりです」
「お、おい、何を…アギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」
直後、チャンプの断末魔が響き渡った。チャンプの身体の傷口に、ランがその花を擦りつけたからだ。
「これは私達が慕っている隊長から聞いた話ですが……この花は特殊な成分を含んでいて、人体の傷口に塗り込む事で相当な痛みを発生させます。故に、この花は拷問などで使われる事もあるそうです」
「痛デェエッ痛デェェェェェェェェヨォォォォォォォォォォォォォォォォォアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」
「痛いですか? 痛いですよねぇ? でもやめませんよ? あなたの所為で失われた教え子達の無念、ここで晴らさせて頂きます」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!」
花を擦りつけるだけでなく、デバイスの先端から突出した魔力刃をチャンプの腹部に突き刺し、そのまま下に下げて肉を引き裂く。そうする事で、もはや人間の物とは思えないようなチャンプの断末魔が更に大きくなる。
「まだまだ終わらせませんよ。内臓を取り出して、目玉をくり抜いて、手足をもぎ取って、舌を斬り裂いて、存分に苦しめてから死なせてあげますよ…!!」
その時だった。
-ズダァンッ!!-
一発の銃声が、三人の耳に聞こえてきたのは。
「―――え」
「!? ランッ!!」
そしてランは気付いた。自身の胸部が、一発の銃弾で貫かれていた事に。ランはフラついてから膝を突き、ランが撃たれた事に気付いたチェルシーが彼の下へと駆け寄る。
「ッ…くそ、アイツか!!」
「クカカカカカ…」
蒼崎が見据えた方向には、散弾銃を構えている機械兵士が立ち塞がっていた。蒼崎は翼を広げて飛び去って行く機械兵士の後を追い、チェルシーは撃たれた胸部を押さえているランを魔法で治療する。
「ラン、しっかりして!! すぐ治すから…」
しかし、チェルシーは一瞬だけ忘れてしまっていた……全身ズタボロで虫の息だった筈のチャンプが、右手に球状の帝具“快投乱麻ダイリーガー”を構えていた事に。
「テメェ等、よくも俺をいためつけてくれたなぁ…?」
「!! しま…」
「ッ…!!」
「爆の球ぁっ!!!」
-ボガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!-
ランがチェルシーを突き飛ばすと同時に、チャンプの投げつけたダイリーガーが大爆発を引き起こした。その爆発の勢いで周囲の木々が消し飛ぶ中、爆風が晴れたそこには、身体の各所に火傷を負ったチェルシーと、直撃した事で全身が酷く焼き焦げてしまった状態のランが倒れ込んでいた。
「ぐ、がは…ぁ…」
「ッ……ラン、大丈夫…!?」
「ぜってー許さねぇぞテメェ等……今から二人纏めて、徹底的に嬲り殺しにしてやるよ…!!」
「が…!?」
チャンプの構えたダイリーガーから灼熱の炎が噴き上がる中、チェルシーは特に火傷の酷い右足を引きずりながらランの傍まで寄ろうとするが、そのランをチャンプが乱暴に踏みつける。
「たく、テメェの所為で嫌な走馬灯を見ちまったぜ……あの時、俺が可愛がってやった子供達の事をな」
「な、に…?」
「俺がせっかく可愛がってやったのに、あの子供達はどいつもこいつも助けて先生ってうるせぇんだ……おかげで気分が萎えちまって最悪だったぜ」
「ッ…!!」
「テメェ、俺の所為で失われた子供達とか言ってたなぁ……そうかそうか、テメェがあの子供達の教師ってか!! 道理でイライラする訳だぜ!!!」
「ぐ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
チャンプの足に踏みつけられた事で、ランの右腕からボキンと骨の折れた音が鳴り響く。チャンプはそのままランの身体を蹴り転がした後、ダイリーガーを投げる準備を整える。
「良いぜ? まずはテメェから、俺が可愛がった子供達の所に逝かせてやるよ…」
「ランッ!!!」
(ッ…!!)
「さぁ死ねや……焔の球ぁっ!!!」
チャンプの投げつけたダイリーガーが、ラン目掛けて投球される。チェルシーが叫んだその時……目を開けたランはマスティマから光の翼“神の羽根”を展開し、飛んで来たダイリーガーを翼で受け止めてみせた。
「!? 何だと…!!」
「…私は、あの子逹の教師でした……あの子逹が成長し、あの子逹が暮らしていた街を発展させていく……それを見届ける事こそが、私の何よりの夢でしたっ!!!」
「な…熱ぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!??」
そして受け止めたダイリーガーが跳ね返され、それがチャンプの腹部に命中した。同時にチャンプの全身が一瞬で燃え上がり……数秒後、そこには燃え尽きたチャンプの人骨だけが残っていた。
(あぁ……私の、教え子達……皆、の…仇は、私が……討ち、ました……よ……)
「ラン、しっかりして!! ラン!! 死なないで!!」
チェルシーがすぐに治癒魔法をかけても、ランの意識は消えかける寸前だった。焦ったチェルシーは、思わずその目から数粒の涙が流れ出る。
「おや、何ですかこの状況は」
「!!」
その時、チェルシーの前に一人の人物が現れた。先程までエンシンやコスミナと戦っていた竜神丸だ。竜神丸は死にかけているランを見て、一瞬だけ見る目が変化する。
(! ほぉ、これは…)
「竜神丸、お願い助けて!! ランが死にそうなの!!」
「おやまぁ……まぁ、あのカンナ隊長の部下ですしね。一応助けておきましょうか」
この際、ランを助けてくれるなら誰でも良かった。チェルシーは竜神丸に必死に懇願し、竜神丸も素直にそれを了承してからイワンにランを運ばせる事にしたのだった。
旅団に関わりを持つ前のチェルシーは、かつてとある暗殺部隊に所属していたものの、その部隊を管理局に壊滅させられた事で途方に暮れていた時期があった。
故に彼女は、大切な仲間を失う事を何よりも極端に恐れていた。
助けられるのなら、何としてでも助けたい。
チェルシーのその思いは、旅団のナイトレイドに加入して以降も変わらずにいた。
今、彼女の目の前で一人の仲間が死にかけている。
それ故に彼女は焦り、一つの大きな失敗をしてしまった。
その失敗とは…
(…ニヤリ)
ランの治療を、
-ドガガガガガガガ!!-
「グギャァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」
≪レッドピタヤアームズ! 真龍・降臨!≫
「…チッ」
一方、スイカアームズ・ジャイロモードに搭乗していたドラークは最後の初級インベスを仕留めた後、王都の大きな時計塔のてっぺんに降り立った。そこからレッドピタヤアームズの姿に戻ったドラークは、エネルギー切れで灰色になったスイカロックシードを見て小さく舌打ちする。
(まだ喰い足りねぇな……さっきの奴等みたいな小物じゃ足りねぇ、もっと強い奴は何処かに…)
「…!」
その時、ドラークはある方向を見据えた。その先は、王都の中心部だ。
「いるなぁ……間違いない、コイツは“強者”の匂いだ…!!」
凶獣の“食事”は、まだまだ終わらない…
To be continued…
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いざ、激戦