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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第八十三回 番外編: エロ猿を探して(前編)

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回は下着泥の常習猿を捕獲すべく、霞と桔梗が動き出す、、、!

ちなみに番外編「陳宮一線を越える」を読んでいた方が、より話を楽しめるかもです。

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2016-02-07 00:02:32 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3456   閲覧ユーザー数:2979

 

 

満天の星空に、雲の切れ間から美しい光を灯す真ん丸に満ちた月の昇る夜。

 

ヤツはまるで呼吸をするかのごとく流れるような手捌きで事を起こす。

 

事前の準備は日中からすでに行われていると言われている。

 

ターゲットとすべき人物を影も見せずどこからともなく見定め、そして、ターゲットを決めたら後は事を起こすだけ。

 

ターゲットとなるのは決まって若い女性であった。

 

夜闇にまぎれ、月明かりを頼りに、ヤツはターゲットが油断している瞬間を辛抱強く待ち続け、

 

絶好のチャンスが訪れたその瞬間、目にもとまらぬ早業で事を成し遂げるのであった。

 

狙った獲物は逃さない。

 

ヤツのことを人々は「下着泥猿公」と呼び、今現在も成都ではその被害に人々は困らされているという・・・

 

 

 

 

 

 

【益州、成都城】

 

 

「たいしょー!一大事ですー!」

 

 

 

何の変哲もないとある朝、そろそろ朝議が始まる頃合いであり、続々と玉座の間に人が集まり、

 

少し早いがさっそく朝議を始めようかと思い始めたその時、

 

赤い文字で『凡将上等』と書かれた白い羽織袴姿の青年、張虎が慌てた様子で玉座に駆け込んできた。

 

 

 

「虎、どないしてんこんな朝っぱら騒々しいな」

 

 

 

張虎の義姉である張遼は、張虎のことだからどうせ大したことはないのだろうという表情を作っている。

 

 

 

「何かあったのか?」

 

「今、毎朝の日課としていつもどーり門の前においてある目安箱の中見ましてんけど・・・」

 

 

 

北郷の問いかけに、張虎は息を整えながら事情を語りだし、

 

 

 

「初めて中にとーしょがあったんです!!!」

 

 

 

その原因を朝一とは思えない、腹に力のこもった大きな声で宣言した。

 

 

 

「な、なんだってぇえええ!!!???」

 

 

 

そして、張虎に負けず劣らずの大音量で北郷は驚きの叫び声をあげた。

 

 

 

「ホンマかいな!!??」

 

「ついに第一号が来たのですね・・・」

 

「劉璋様が去ったのち、法の整備が完了し、お館様が目安箱の設置を本格的にお始めになってから早数か月・・・」

 

「あわわ、いくら匿名とはいえ、やはり君主に物申すなど畏れ多いと思ったのか、中々投書が行われませんでしたが・・・」

 

「あのクソガキの置き土産が、ようやく日の目を見るようになったんだな・・・」

 

「・・・・・・よかった」

 

 

 

目安箱はより多くの民衆の声も聞こうという思いの元、劉璋が発案し実行に向けて法の整備を進めていたが、

 

その途中で革命がおき、劉璋は目安箱設置を前にして成都を離れてしまっていた。

 

そして、後に法の整備も完了し、目安箱の設置がなされたのだが、いくら匿名での投書が可能とはいえ。慣れないせいか、

 

また新しいものに対する警戒心からか、なかなか投書までは至らなかったのだが、今回、ようやく第一号の投書がなされたのであった。

 

玉座に集まっていた面々も、ある者は驚き、ある者は感慨にふけり涙を浮かべ、ある者は安堵の声を漏らした。

 

 

 

「で、その内容はどうなのです?」

 

 

 

そんな中、陳宮が興奮を押し殺すような表情で恐る恐るその内容を尋ねた。

 

 

 

「そ、そうだよな。いきなり国政に関して有益な投書がくるとは限らないし、まだ喜ぶのは早いよな。ていうか、このパターンは迷子の

 

仔猫探しとか雑草処理とかそんなショボイ感じかもというかそんな感じがしてしょうがない!」

 

 

 

陳宮の冷静さを見て興奮からやや冷めた北郷は、むしろ逆にこのようなシュチュエーションは、

 

たいてい残念な結果になるというお約束があると悟り、クールダウンを試みるが、結局変なテンションであることに変わりはなかった。

 

 

 

「えーと、ちょい待ってください今から読みますんで・・・」

 

 

 

北郷の妙なテンションに押されながら、張虎は内容を読み上げるべく投書された書面に目を通した。

 

 

 

「えーと・・・なんや『近年城下にて狼藉を働く『下着泥猿公』を捕獲してほしい』って書いてありますわ」

 

「下着泥エテコウ?なんだそれ?」

 

「な、一刀殿はヤツの事を知らないのですか!?」

 

「へ?いやあんまりよく知らないっていうかなんかスミマセン」

 

 

 

北郷が猿公のことを知らないと言った途端、陳宮がわりと本気で北郷に掴み掛かってきたものだから、

 

北郷は剣幕に押されてとりあえず全力で謝った。

 

 

 

「『下着泥猿公』最近民たちの間で話題になっているエロ猿のことだ。お館も話くらい聞いたことあるだろう?」

 

 

「猿?ああ、エテコウって猿公ってことか。それなら聞いたことあるな。なんか若い女の人の下着っていうか着替えばっかり盗む手癖の

 

悪い猿なんだったっけ」

 

 

 

エテコウと言われてもピンとこなかった北郷であったが、魏延にエロ猿と指摘されてようやく理解に及んだ。

 

 

 

「あわわ、そうなんです。洗濯物を干している時や、お風呂に入っているときなどに狙われるらしいです」

 

 

「夜闇に紛れ、僅かな隙を見逃さず、無駄のない完璧な手際で盗みを完遂させる。気づいたときには後の祭りというわけです。ある意味

 

では下手な盗人など比べ物にならないほどの玄人ぶりだと言います。いや、この場合玄猿というのが正しいのでしょうが」

 

 

「ふーん、下着泥のエロ猿ねぇ・・・」

 

 

 

大真面目な表情での高順の言いぶりを聞けば大業な怪盗かと思うかもしれないが、ようは厄介な下着泥というわけである。

 

そのせいか、先ほどまでの妙なテンションから一変、北郷は不謹慎ながら若干残念そうな感じで張虎が持っていた書を受け取り目を通す。

 

 

 

「(・・・・・・下着泥猿公・・・ん?でもこれって・・・いや、関係ない関係ない・・・か?・・・いやそもそも―――)」

 

 

「そう残念がりますな。要するに、今回目安箱に投書があったということは、民の誰かが国に頼んででも早くエロ猿を何とかしてほしい

 

と思ったというわけでしょう。これは皆が思っている以上に凄い成果ですぞ?なるほど、この目安箱というもの、我々の目の届かぬ民の

 

心のウチの声が聴けるというわけですな。なかなか、さすがは劉璋様といったところか」

 

 

「うん、そうだよな!とにかく、目安箱の投書にもとづき、生徒会を執行する!ってことで!」

 

 

 

北郷が沈みがちに書に目を通し、何やら引っかかるところがあるのかブツブツ言っているところ、

 

厳顔がフォローを入れることで復活し、さらに妙なテンションを変な方向へとシフトチェンジさせた。

 

北郷が妙なことを口走りんながらドヤ顔で明後日の方向を指さしたその刹那、場に寒々しい風が吹き荒れた。

 

 

 

「成都会?目安箱専門の新しい機関でも立ち上げるですか?」

 

 

「へ?いや成都の会とかそういう意味じゃなくてまぁ今のは勢いっていうかノリっていうかちょっと古いかもしれないけど一時期オレの

 

国ではどこを見渡しても生徒会生徒会ばっかりで実際本物の生徒会ってもっと地味だろうとかそんな生徒会ってのが巷で流行ってたんだ

 

気にしないでくれ」

 

 

 

生徒会が成都会という謎の会と思われたところで、北郷は妙なことを口走ってしまったと反省する。

 

 

 

「では、誰がそのエロ猿を捕まえるかを決めましょう」

 

「あわわ、こういう場合囮を使うのが常道だと思いますので、女性が任に就くのが良いと思います」

 

 

 

高順が仕切り直しをしたところで、鳳統はいつも通り控えめに囮作戦を提案した。

 

 

 

「なるほど、なら兵に頼むのではなく、ワタシたちの中の誰かというわけか」

 

「囮作戦か・・・よし、それなら霞だ!」

 

 

 

すると、北郷は誰が適任かを腕を組んで考え込んでいると、やがていい顔で張遼をビシッと指さして指名した。

 

 

 

「ウチ!?何でや!?」

 

 

 

突然指さされながら自身が指名されたものだから、張遼は不意を突かれて驚きながら訳を聞いた。

 

 

 

「いや、エロ猿の囮ってことは胸が大きい方がいいとオレは思うんだ。なら霞だろ!」

 

 

 

その刹那、陳宮高順鳳統の三人から凍てつく波動を思わせる氷点下の視線を浴びせられ、

 

勢いによって強化されていたテンションが一気に吹き飛び、死の接近を肌で感じ取るが、北郷はなんとか持ちこたえる。

 

 

 

「いやいやその考え方やったらウチの他にも恋とか焔耶とか桔梗はんとかおるやろ!?」

 

 

 

胸の大きさ基準で選んだと言うのなら、張遼はもちろんのこと、当然同等かそれ以上と目される呂布や魏延、

 

そして何より北郷軍堂々第一位の厳顔の名が挙がらないのはどう考えてもおかしい。

 

張遼の主張は至極当然のものであった。

 

 

 

「へ?う、うん、もちろん一人でやってくれなんて言わないし、他のメンバーは霞の指名でってことで」

 

 

 

しかし、北郷はバツが悪そうに顔を背けると、張遼のツッコミを有耶無耶にスルーしながらすべてを張遼に丸投げした

 

 

 

「くっ・・・ほんなら恋!一緒に行くで!」

 

 

 

北郷にはぐらかされ、若干イラッとした張遼は、半ば投槍気味に呂布に同行を求めたが、

 

 

 

「・・・・・・無理」

 

 

 

呂布は即答で拒否した。

 

 

 

「何でや!」

 

「・・・・・・恋は今日犬たちとお散歩」

 

 

 

思いがけない呂布の拒絶に、張遼は興奮しながら訳を問うが、

 

張遼は迷いなき透き通った眼で張遼と瞳を覗き込みながら自身には既に予定があると告げた。

 

 

 

「なっ、そんなお散歩て・・・なら焔耶や!無理とは言わせへんで!?」

 

 

 

呂布の答えに、張遼は納得がいかないもそれ以上引っ張るのもまた得策でないと判断すると、

 

イライラを一層倍増させながら、今度は魏延に同行を強要したが、

 

 

 

「いや、わ、ワタシは―――」

 

「・・・・・・焔耶も無理」

 

 

 

張遼の剣幕に押され気味に身を縮めていた魏延の代わりに、呂布が先ほど同様透き通った真っ直ぐな眼で再度拒否した。

 

 

 

「何でやねん!!」

 

「・・・・・・焔耶も恋たちと一緒にお散歩」

 

 

 

この呂布の発言は流石に看過できず、先ほど以上の剣幕で、半ばツッコミ精神も取り込みながらの絶妙な反応で張遼は訳を問うが、

 

それでも呂布はまったく気圧されることなく、いつも通りの落ち着いた様子で魏延もまた自身との約束がすでに入っていることを告げた。

 

 

 

「そ、そうなんだ悪いな霞!ワタシは前々から今日はリューホーを連れて恋と一緒に散歩に行く約束をしていたんだ!」

 

 

 

そのような呂布の主張に、なぜか豆鉄砲でも食らったかのように一瞬状況が呑めていなかった魏延であったが、

 

やがて急に何かを思い出したかのように呂布に同調して先約がすでにいることを告げた。

 

 

 

「んなアホな!!アンタ今の反応絶対―――!・・・こーなったらしゃーない、桔梗はん、出番や!」

 

 

 

魏延の反応から明らかに嘘であると見抜いた張遼は反論しようとするものの、

 

呂布が味方に付いている時点ですでにこの状況を覆すことは不可能であると悟り、最後の最後になって厳顔を指名した。

 

 

 

「何がしゃーない、だ!」

 

 

 

当然やむを得ないなどと評されてからの指名とあっては黙って従うわけにはいかない厳顔。

 

 

 

「そら、猿でも若い娘の方が―――」

 

 

 

その刹那・・・

 

 

 

ドカッバキッメシッ

 

 

 

痛々しい骨の軋む音が室内に木霊した。

 

 

 

「あわわあわわあわわあわわ」

 

 

 

鳳統が今にも泡を吹いて倒れそうになる中、厳顔は何事もなかったかのように動かなくなった張遼を片手でヒョイと担ぎ上げた。

 

 

 

「それではお館様、エロ猿退治はわしと霞で行って参りますゆえ、異存はありませんな?」

 

 

 

「う、うん、ヨロシクオネガイシマス」

 

 

 

そして、誰もが何も言えない状況の中、厳顔が鬼の形相で北郷を睨み付けながら言い放ち、

 

北郷はただ片言になりながら首を縦に振ることしかできず、

 

そのまま厳顔は張遼を背負ったままズカズカと部屋の外に出て行ってしまった。

 

 

 

「・・・・・・・・・今のは霞が悪いですな」

 

「・・・・・・・・・ですね」

 

「・・・・・・・・・(コクッ)」

 

「・・・・・・・・・桔梗様の前で禁句を口にするとは、命知らずな奴だ」

 

「・・・・・・・・・ひ、雛里、もう大丈夫だよ。怖くないからな?」

 

「・・・・・・・・・ぐすん、あわわ、しゅ、しゅみましぇん・・・ひっぐ・・・ご主人しゃま・・・」

 

「・・・・・・・・・ねーちゃん・・・」

 

 

 

厳顔と張遼が部屋から出て言った後、張遼の自業自得だと感想を述べる面々。

 

鳳統は恐怖のあまり北郷の胸でしくしくと泣き崩れてしまったが、普段であればすぐさま抜け駆けするなと止めに入るはずの陳宮たちも、

 

先ほどの厳顔の人睨みを見てしまった今の状況においてだけは、特例として誰も止めるといった行動に出る者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

【益州、成都・城下町】

 

 

「最近ウチの扱いが雑な気がする」

 

 

 

張遼は囮作戦の段取りの打ち合わせのために、厳顔と二人酒場に入っていた。

 

 

 

「やっておかしいやろ?なんで真っ先にウチ指名なんや?なんや面倒事は全部ウチに押し付けられてんのとちゃうやろか?」

 

 

 

張遼はなみなみ注がれた盃を一気に仰ぐと、胸の内を厳顔に明かした。

 

 

 

「まぁ、そう鼻息を荒立てるな。わしも最初はなぜ恋や焔耶の名が出なかったのかと思っておったが、きっとお館様は恋と焔耶が散歩の

 

約束をしていたのを知っておったのだろう。焔耶は元々犬嫌いということもあり、とぼけていたようだがな」

 

 

 

対して、厳顔はなみなみ注がれた盃をゆっくりと傾け、張遼の話を聞いてやる体勢に入っていた。

 

 

 

「はぁ、桔梗はんもまだまだやな」

 

 

 

しかし、厳顔が折角入れたフォローを、張遼は次の酒を盃に注ぎながら、ため息交じりに否定した。

 

 

 

「なに?」

 

「あんな、恋のあーいう感じはな、嘘言ってる時やねん」

 

 

 

張遼は店主にオススメと出されたメンマを一掴み食べながら、当然のように先ほどの呂布の発言が嘘であると告げた。

 

 

 

「なっ・・・それは本当か?」

 

 

「せや、ウチはこれでも付き合い長いからな。あれで恋は興味ないことにはとことん首突っ込まへんヤツやさかい、即答で拒否したんや。

 

たぶん、エロ猿捕獲とかやりたなかったんやろな。普通やったらあそこで『・・・(フルフル)』って首を振って断るはずや」

 

 

 

張遼は自らの首を左右に振り、呂布の『・・・(フルフル)』を見事にコピーしてみせながら呂布の思いの内を推理してみせた。

 

 

 

「なるほど、では焔耶が恋の言葉に不意を突かれていたのは本当に知らないことだったからなのか」

 

 

 

張遼の説明に思い当たる節があったのか、厳顔はメンマを掴む箸を止め、腕を組みながら納得していた。

 

 

 

「せやろな、焔耶も見た感じあきらかに行きたなさそうやったし、恋が助け舟を出したんやろ。恋の奴最近犬の関係で何かと焔耶のこと

 

気にかけてるみたいやしな」

 

 

 

呂布と魏延は、特に魏延がリューホーに触れるようになって以来、

 

呂布の方から積極的に魏延にもっと犬に慣れてもらおうと、何かにつけて魏延に気を遣っていることが多かった。

 

今回の場合も、困っていた魏延を呂布が助けたという形になったのであった。

 

 

 

「結局、一刀もそのことに気づいたんやろ。それでウチを指名したっちゅーわけや」

 

「・・・ん?では、お主はそのことに気づいておるのに何故・・・?」

 

 

 

張遼の言葉に、厳顔は疑問を抱いた。

 

それもそのはず、そもそも張遼が愚痴をこぼしているのは、北郷が呂布や魏延を指名せず自分を指名したからのはずだからである。

 

にもかかわらず、張遼は北郷が呂布や魏延を指名しなかったことを理解している。

 

これでは辻褄が合わず、張遼が何に対して不満を抱いているのかわからなかった。

 

 

 

「ウチが言いたいんは、ウチも別に行きたなかったのに、何でウチは遠慮なしに指名してくるんやっちゅー話や。一刀やってそのことは

 

気付いてくれてたはずや」

 

 

「遠慮がないと言うことはそれだけ頼みやすい、信頼の証ではないか」

 

「えー風にとらえるとせやな。けどなんやどっちかっていうと適当っちゅーか雑やねん」

 

 

 

つまり、張遼が抱いた不満というのは、北郷が呂布や魏延の胸の内を理解して指名を避けたのなら、

 

なぜ自身の胸の内を読んで避けなかったのかということなのである。

 

もちろん読んだ上での選択というのも考えられるが、それならなおさら自身の扱いが雑である、というのが張遼の感じたところであった。

 

たとえ厳顔が言うように信頼できるからというのが真実かもしれないが、想いなど本人に伝わらなければ初めからなかったも同じである。

 

 

 

「そもそも最近は女としての扱いすら受けへんようになってきてん。ついこの前までは温泉で裸の付き合いした仲やのにエライ違いや。

 

いや、元々ウチは武将やさかいあんま気にせーへんねんけど、それでも最低限のっちゅーもんがあるやろ?」

 

 

 

張遼はぐびぐびと盃を次々空にしていき、追加の酒を注文しながら酔いが回るのに比例して愚痴の幅を過激な方向に広げていく。

 

 

 

「この前なんか久しぶりにでえとに誘ってやで?それで最後の時や。上手いこと段取り練って一緒に寝るしかしゃーない場面を作り上げ

 

てん。そこまできたら普通若い男女や。ウチはついに一刀と結ばれる第一号や思ったわ。けど実際はなんもあらへん。添い寝で終わりや。

 

どう思う?ありえへんやろ?よっぽどウチから襲ったろかって思ったけど、興が覚めてそのまま寝てもーたわ」

 

 

「ふむ、まぁ、それはお館様の性格上、手を出したいのは山々だが我慢だとかそのような感じではないのか?意外とお館様はああ見えて

 

ウブなところがあるからな」

 

 

 

もはや当初の話題が何だったのか分からないほど張遼の愚痴は脱線の一途をたどっていた。

 

しかし、張遼の酒の量が増えるにつれて厳顔の酒の量も増えていくのだが、

 

二人とも一向に酒に飲まれる様子がないから恐ろしいものである。

 

ちなみに再確認するが今はお昼時である。

 

 

 

「はぁ、最近はなんや空回りばっかしや。この前も久しぶりに一刀と非番の日が合うからでえとに誘おうと思ってたら、急に仕事入って

 

なくなるし、なんや泣けてきたわ」

 

 

 

この北郷と張遼の非番の日が一緒じゃなくなった事件は、陳宮と高順の密約により、

 

張遼と高順の非番の日がチェンジされたのが原因なのだが、当然張遼は知る由もないことであった。

 

 

 

「まぁ、ここは一度酒で嫌なことは全て腹に流し込めばよかろう。いくら昼間とはいえ、特別手当みたいなものだ。文句は言わせんさ。

 

どの道エロ猿が動くのは夜だしな。それまでじっくり策を練るとしよう」

 

 

 

こうして、エロ猿捕獲作戦会議という名の酒飲みは、城下の人目もはばからず夕刻まで続いたという。

 

 

 

 

 

 

【益州、成都・露天風呂】

 

 

陽も落ち、夜となった現在、カポーンという擬音は残念ながら聞こえてきそうにない、見紛うなき完璧なる露天温泉。

 

それなりに広い湯船に、男女の仕切りの取り払われた、所謂混浴仕様の温泉であるが、ここで張遼は一人温泉に浸かっていた。

 

 

 

「ふぅ~~~~~~えぇ~湯やわぁ~~~♪」

 

 

 

呂布が温泉を掘り当てて以来、その後成都ではいくつかの天然温泉が掘り当てられ、温泉街と称せるほどの温泉があちこちにあるが、

 

中でもここの温泉は呂布が掘り当てた温泉として人気が高く、ピーク時は人があふれるほどの人気ぶりだったが、

 

ここ最近はエロ猿騒動があり、またここの温泉が一番被害を受けたということもあるせいか、客足もまばらである。

 

 

 

「(もしかしたらあの投書って番台のおばちゃんが出したりしたんやろか。これやったら潰れるもんなぁ)」

 

 

 

特に今は張遼以外に人の姿はない。

 

というのも、これからエロ猿捕獲作戦を実行するにあたり、現在ここの温泉は張遼たちが貸し切っているためである。

 

 

 

「(まぁけど、これであとはエロ猿がまんまとウチの着替えに釣られてヒョコヒョコやって来るんを待つだけや)」

 

 

 

張遼は一人湯船の中で伸びをしながらのんびりとその時が来るのを待っていた。

 

 

 

「(着替えに手ぇ出そうとしたその瞬間、桔梗はんの拳骨が待っとる。まぁ、猿相手に策って言ってもこんなもんか)」

 

 

 

つまるところ、張遼と厳顔が考えたエロ猿捕獲作戦の概要とは、張遼が囮として単身温泉に入り、

 

油断しているところをあえてエロ猿に見せつけ、無防備に放置されている着替えに手を出させ、

 

その瞬間隠れて着替えを見張っている厳顔が鉄拳制裁で無事お縄、というものであった。

 

シンプルイズベスト。

 

単純ではあるが、囮作戦としては十分なものであった。

 

 

 

「(ちゅーか今更やけど女の着替え盗む猿ってどういうことや?猿が人間の服盗んでどうするんや?やっぱ女の匂いとかそんなんが興奮

 

するんやろか―――っと、あかんあかん、話が生々しくなってまうしこれ以上はやめとこ。不毛や)」

 

 

 

そのように本当に油断した状態で湯船につかっていることはや数時間、

 

しかし、エロ猿が現れる気配は一向になかく、張遼のギブアップによりエロ猿捕獲作戦一日目が終了したのであった。

 

 

 

【第八十三回 番外編: エロ猿を探して(前篇) 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第八十三回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、今回は出すだけ出しておいて放置状態だった目安箱とエロ猿について回収するためのお話でした。

 

と同時に最近扱いが雑だった霞と桔梗さんメインのお話を作りたかったからというのが本音。

 

が、気づけば筆が進み調子に乗っていらない分までどんどん増えて、結果一話に収まらないことに 汗

 

果たして霞はエロ猿を捕獲できるのか、、、笑

 

 

それでは、また次回お会いしましょう!

 

 

 

昼間から飲み放題(非公認)なんて霞と桔梗さんにとっては夢のようなお仕事でしょうね 笑

 


 
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