No.825204

リリカルST 第11話

桐生キラさん

あけましておめでとうございます!
Sサイド:オルセア内戦1

2016-01-16 17:00:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1267   閲覧ユーザー数:1199

 

 

 

 

 

とある世界のとある酒場。ここは名うてのアウトロー共が集うという、この世界で最もホットで危険な酒場。ここでは法も秩序も関係なく、警察組織ですら手を出さないと言う。

 

「ここで間違い無いんだな?」

 

「あぁ、行けるな、士希?」

 

「誰に言ってんだよ?いつでも行けるぜ」

 

銃を取り出し、マガジン内の弾丸をチェックして装填する。俺が銃を取り出す頃には既にユキも二丁の拳銃を手にし、息を整えていた。

 

「派手に行こうぜ」

 

「ロックンロールだ!」

 

酒場のドアを蹴飛ばして中に入る。そこにはいかにも悪人面の男共が驚いた様子を隠す事もなく目を見開いていた。

 

「管理局だ!テメェら全員大人しくしろ!?」

 

ユキが叫ぶと、酒場にいた連中全員の瞳に戸惑いと怒りと殺意が込められた

 

「管理局のガサ入れ!?クソッタレ!なんだって今日なんだ!?」

 

「黙れ!捕まりたくなきゃテメェも銃を取れ!」

 

俺たちが敵と判断した途端、悪党共が銃を取り出し、こちらに向けて構え始めた。中にはザッと30人程度。こいつらが一気に撃ち始めたら、俺たちは蜂の巣待った無しだろう。

 

だが、少し遅かったな

 

「バーカ、遅ぇよ」

 

ユキが二丁の拳銃を連射し、この場にいる悪党共の銃を的確に撃ち抜いていく。耳をつんざく鋭い銃声が何発も何発も鳴り響く。それと共にボトボトと重たい金属が地面に落ちる音が聞こえる。やがて銃声が止むと、そこには悪党共が呆然と立ち尽くすという異様な光景が出来上がっていた。

 

「お前ら全員ホールドアップだ。妙な真似したら次は頭を撃ち抜く」

 

ユキのドスの効いた声がこの場を支配し、悪党共は敢え無く両腕を頭に組み、膝を地に付けた。

 

「クソガァァ!女が図に乗るなァァァ!!」

 

多くの悪党が諦めて行く中、いかにも血気盛んな筋骨隆々の男がユキ目掛けて突進をする。ユキはそれを見るなり溜息を吐き…

 

ガァン!

 

容赦無く引き金を引いた

 

「クッ!効かァん!」

 

その大男は脳天に弾丸を打ち込まれた筈なのに、風穴どころか傷一つなかった。

 

「チッ!物理保護の魔法か」

 

恐らくはユキの言う通り、こいつは魔導師なのだろう。頭に防御魔法を固めたに違いない。非常に面倒である。

 

「死ねぇぇぇ!」

 

大男が拳を振り下ろす。その先にいたユキは面倒臭そうに溜息を吐き、そして…

 

「よっ」

 

拳を避け、腕を掴み、関節を外して投げ飛ばした。その間、僅か1秒もなかった。大男がそんな僅かな間に物理保護を掛けられるわけもなく…

 

「グギャァァァ!!?」

 

大男は汚い悲鳴をあげ、ユキに顔面を思い切り踏み潰され、気を失った。

 

「お前、それうちの妹の技だろ。サブミッションなんて渋い技、お前の趣味じゃなかったと思ったが?」

 

「今ちょっと練習中でね。新しく入った同居人に教えようと思ってな」

 

「新しく?」

 

「まぁ、その話はまた今度でいいだろ。さぁ、次はどいつだ?お望みなら、この場にいる奴全員の関節をあり得ない方向に曲げるぞ」

 

この場にいる奴全員の顔が青ざめる。戦意を随分と削ったようだ。もうこいつらに戦う力なんてないだろう。

 

「さぁ士希、目当ての奴を探すぞ」

 

あれ、これ、俺がいる意味あったか?

 

「お前だな?オルセアで武器の密輸をしてるのは。ちょっと話を聞かせてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

さて、今俺とユキはオルセアの内戦を止めるために様々な世界を渡り歩いている。それもこれも、俺が保護したルネッサ・マグナスに真っ当な人生を送ってもらう為という、ただの俺の我儘を貫き通す為だ。親バカが過ぎるって?仕方ないだろ?可愛いんだもん。

 

この戦争を止めるには、まずその背後にいる組織を潰さないといけない。武器弾薬を違法に売り捌く商人グループや戦争難民を騙して奴隷として売る人身売買組織などなど、挙げればキリがない程の組織を徹底的に排除しなきゃいけない。

 

その為に必要なのは、金と情報と暴力。金の力を使って人を雇い、雇った人から情報を得て、その情報を元に暴力を行使して奴らを殲滅する。とても、正義の味方などとは呼べない、悪党に近いやり方。だが、俺たちが相手にしているのは悪党なのだ。なら、因果応報、悪党がどんな目に合おうが自業自得だよな。

 

時間は確かに掛かった。この計画を立てたのが春だったのに対し、今はもう秋で、冬も目前に迫っている。もちろん、連中だって馬鹿じゃあない。俺たちの存在に気付き、待ち構えられる事だってあり、それだけ時間もくった。その間にも戦争の犠牲者は増え続けていった。それに対し無力感を覚えながらも、俺とユキは諦めなかった。大切な家族を救う為に。

 

だけど、それをルネッサ本人には伝えなかった。それを伝えて、彼女がどう動くか予測できなかったから。彼女は義理の親、トレディア・グラーゼの指示で動いている。グラーゼ自身は根っからの悪党とは言えないが、グラーゼが頼った奴が大悪党なだけに、少し警戒していた。万が一情報が漏れたら、どうなるか分かったものでもない。だからルネッサには伝えなかった。

 

それが仇になったのかもしれない。俺とユキは確実にゆっくりとだが、終わりに近付いていた。だけど、時間を掛け過ぎた分、俺たちはルネッサにも時間を与えてしまった。

 

ルネッサとレーゲンがオルセアに向かってしまった。

 

 

 

 

 

 

ルネッサ視点

 

 

 

心苦しかった。

 

「ルネッサさん?僕に話ってなんですか?」

 

目の前にいる好青年、レーゲン君が心配そうに顔を覗いてくる。その様子を見て、私の胸はさらにキュッと締め付けられた。

 

「えぇ、最近、士希さんとユキさんが密会している様なのですが、何か知らないでしょうか?」

 

罪悪感が身体中を支配する。

 

「え!?士希さんとユキさんが?うーん…僕も最近、仕事で士希さんといる事が少ないし…ていうか士希さん、またはやてさんに怒られますよ」

 

レーゲン君は呆れ、カップに注がれたコーヒーを口に含む。私はそれを確認して、視線を少し下げた

 

「ところで、レーゲン君は旅行はお好きですか?」

 

「ふわぁ…旅行?好き…だけど…」

 

うつらうつらと、レーゲン君はハッキリしない意識で言った。そしてその数秒後には、レーゲン君は眠りに落ちていた

 

「そうですか、では旅行に行きましょう。私の故郷、オルセアに」

 

この行為は、明らかに士希さんに対しての裏切りだった。今まで私を育て、守り、陽の光を当て続けてくれた恩人に対して、仇で返すに等しいものだ。

 

吐き気がする。出来る事なら、この人達、優しい人達を巻き込みたくなかった。だけど、状況がそうさせてくれない。

 

「あれ?ルネさん?お出かけ?というか、その背負ってる人どちらさん?」

 

「あぁジーク、この人は私の友人で、疲れて眠ってしまったみたいなので連れて帰りますね」

 

「そか、夕飯はどないします?」

 

「そうですね、この後仕事で帰りがいつになるかわからないので、申し訳ないですがユキさんと二人で食べてください。それでは、戸締りはきちんとするのですよ?」

 

「はぁい!お仕事頑張ってやー!」

 

私は、もう二度と、ここには帰ってこられないのかもしれません

 

 

 

 

 

 

「……ルネッサさん、僕達はどこに向かってるんですか?」

 

「起きましたか」

 

オルセアへと向かう次元航行機の中で、レーゲン君はようやく目を覚ましたようです。確かに少量の睡眠薬は盛りましたが、ここまで来るのに4時間はあったはず。意外とあの薬、効果が強いみたいですね。

 

「この船はオルセア行です。勝手ながら、あなたには私の故郷に来てもらう事になりました」

 

そう言うと、レーゲンは少し驚き、そして直ぐに悲しげな表情をしました。

 

「そうですか、士希さんの言った通りですね…」

 

今度は私が驚く番でした。

 

士希さんの言った通り?まさか、士希さんは私の事を…

 

そんな私の疑問に答える様に、レーゲン君は小さな声で話し始めました。

 

「士希さんは気付いていますよ。あなたがトレディア・グラーゼの指示で動いている事に。それにしても、ほんと、なんの因果なんですかね。よりにもよって、神器と冥府の炎王を求めるだなんて。あぁ、スカリエッティと手を組んだんだ。その二つの因果に気付かない訳ないか」

 

……え?レーゲン君は、今なんて言った?スカリエッティ?

 

「何の冗談ですか?私はスカリエッティなどと組んでなど…」

 

「あなたはそうでしょうね。しかし、あなたの親代わりの人は?オルセア内戦を止めるために、悪魔と契約したのでは?」

 

これが証拠だよ、とレーゲン君は写真データを見せてくれました。そこには確かに、父と白衣の男が映っていました。

 

「こいつが、スカリエッティなどという証拠は…」

 

「そうですね、会った事がある僕の証言じゃあ、説得力はないのかもしれないね。でも、こいつがそうだよ。僕達がこいつを忘れる事はまず無い」

 

そういうレーゲン君の目には、彼には似合わない憎しみが込められていました。それが、彼が嘘を言っていないと物語っていて…

 

目眩がする。父はオルセアを救うのに、犯罪者と手を組んだのでしょうか…

 

「士希さんは…いえ、成る程、ユキさんもですね。あの二人は私の事を勘付いて、今何をしているのですか?」

 

あの二人が最近よく会っているのは知っていた。二人でどこかに行くのも。今までは何をしているのか読めませんでしたが、私の事を知った以上、あの二人なら私関係で何かしているはずだ。あの二人は、とんでもないお人好しだから。

 

「あの二人は、戦争を止める為に各地の武器密輸組織を潰し回ってますよ。補給を断てば、戦争をしたくても出来ませんからね。そして今頃は、そうですね、もうオルセアにいるかもしれません」

 

だとしたら、一体いつから動いていたのだろう。レーゲン君は簡単に言っていますが、それが途轍もなく途方の無い事だと私でもわかる。この無限に近い数の世界から、武器密輸組織を潰していくなんて…

 

「ありえません。いくら士希さんでも…不可能です。そんな、イタチごっこ…」

 

「それをしちゃうのが、士希さんなんだよなぁ」

 

そんな馬鹿な話、信じられない。確かに士希さんは時々頭おかしいけど、いくらなんでも単身で戦争を止めるだなんて…

 

「答えならもうすぐわかりますよ。どうやら士希さんも今、オルセアに着いたみたいですね」

 

っ!?士希さんが、オルセアに…

 

「あー、多分アレですね。見てくださいよアレ。巨大なビームが空に向かって伸びてます」

 

次元航行機の外を見てみる。その方向は、オルセア政府の官邸がある場所で、そこには確かに、ビームの様なものが確認された。

 

「そんな…まさか…」

 

次元航行機が止まりと同時に外へと駆け出す。そこには養父が、あの巨大なビームを呆然と見ている姿があった

 

「養父!これは一体…」

 

「ルネッサか!私も何が何だか…」

 

戸惑う養父の様子を見て、この現象の原因が養父にない事を悟る。なら一体なんなのか。答えなんて、考えなくてもわかっている。ただ、それを認めたくないだけで…

 

「クッ!」

 

私は思わず官邸を目指して駆け出そうとした。

 

「おっと、君達をここから先に行かせる訳にはいかない」

 

だけど、それを目の前にいた黒いスーツの男と、緑色の長髪が特徴的な男に止められてしまう。

 

「誰だか知りませんが、そこを退いてください。私は、私だけはあそこに行かないといけない!私のせいで、あの人達を…」

 

そう、いくら士希さん達でも、国一つ相手に単騎で挑むなんて自殺行為もいいところなのだ。このまま見殺しにするなんて、私には…

 

「零士さん!アコース査察官!そこのルネッサさんを止めてください!」

 

零士さん?アコース査察官?レーゲン君が呼んだその二人の名前、どこかで…

 

「なるほど、君がルネッサ・マグナス捜査官か。僕は管理局の査察官、ヴェロッサ・アコース。そしてこちらが…」

 

「東零士。士希君の父親だよ。ルネッサちゃんの話は士希君から聞いているよ」

 

!?士希さんの父親!?それにアコース査察官と言えば、あの聖王教会のカリム・グラシアの弟分。管理局が介入しない筈のオルセアに何故査察官が…

 

「色々と分かってなさげな表情だね。君の疑問を一つ一つ紐解いていこうか。その間に、多分事も終わるだろう」

 

零士さんがゆっくりと振り返り、戦場になっているであろう場所を見る。その目には、なんの不安も感じられない。

 

「まずは僕から説明しようか。きっと君は、”管理局が介入しない世界に何故査察官が?”と言う疑問を抱いていると思う。答えは簡単さ。僕ら査察官はオルセアの内戦に介入なんてしていない。”たまたまこの世界に逃げ込み、違法な武器弾薬を不正に取り引きしていた組織”を追い掛けて来たに過ぎない。まぁその結果、オルセア内の武器を取り締まる形になったけどね」

 

淡々と、だけど少し楽しげに話すアコース査察官を見て、なるほど、この人は士希さんの友人なんだなと確信した。こういうグレーな所、間違いなく士希さんの友人だ。

 

「そして僕は、士希君が事を済ますまで君達反政府軍を足止めする為にいるんだ。君達が無駄に命を散らさない様にね」

 

零士さんは何処からか銃を取り出し、それを担いで言った。そこから感じる微かな殺気に、ゾワリと悪寒を覚えた

 

「しかし、いくら士希さんでも、敵軍のど真ん中に行くなんて、死にに行く様なものです!行かせてください!」

 

「君が行ったからと、何かが変わるのかい?それより、単身で敵の中枢まで辿り着けると思うのかい?それこそ死にに行くようなものだ」

 

士希さんの父親とは思えない冷たい声音。それに対して何も言えなくなってしまう。それは、どうしようもなく正論で、私自身もよく分かっている事だから。

 

「ルネッサさん、士希さんを信じましょう。大丈夫ですよ。士希さんは絶対に帰って、このオルセアの戦争を止めてくれます」

 

レーゲン君が私の肩に手を置いて、ゆっくりと優しく言った。その手の温もりが、心を少し落ち着けてくれる。そして、レーゲン君を少し羨ましく思った。レーゲン君はこんなにも、士希さんを信じているのだから。

 

「でも…もし…帰って来なかったら…」

 

私は戦争と言うものを、士希さんが乗り込んだ敵をよく知っている。だからこそ、レーゲン君の様に信じられなかった。

 

士希さんには、まだ何も返していない。助けてくれた事も、育ててくれた事も、家族になってくれた事も、何も恩を返していない。そんな事は、あってはならない!

 

私はレーゲン君を見た。行かせてくれと懇願する様に。だけどレーゲン君は、そんな私の様子など御構い無しに、困った様に戦場を見つめていた。

 

いや、困った様ではなく、これは…

 

「大丈夫。だってあそこには…最凶の双子がいるんだから…」

 

その顔は、どこか呆れている様だった

 

 

 


 
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