No.824321

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・四話

月千一夜さん

改訂版の一章・四話になります
地味にこの天界本が、のちに大きな鍵を握ることになるというのがポイントだったりしました。

2016-01-11 00:43:45 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5419   閲覧ユーザー数:4075

「ようやく着いた、か」

 

 

城門の前

一人の青年が、安心したように呟いた

その赤き髪を、悠々と風に靡かせながら

 

 

「ダーリンよ、思えばこの地も久しぶりじゃな」

 

 

その隣

一人の偉丈夫が言葉を紡ぐ

渋く野太いその声に、隣にいた赤髪の青年は頷いた

 

 

「ああ、ここ最近は忙しくて中々来れなかったからな

“彼女達”は、元気にしているだろうか?」

 

「うぬ、元気には元気じゃろうが・・・“克服”出来たかどうかは、また別じゃろうな」

 

「そう、だな・・・」

 

 

吐き出すように呟き、彼は空を見あげる

見上げた先、空は快晴

そんな心地の良い空を見上げたまま、青年は“まぁ・・・”と笑みを漏らした

 

 

「きっと、大丈夫だ

今がダメでも、きっといつか・・・近いうちに、彼女達なら乗り越えられる

そんな気がするんだ」

 

「うぬ・・・」

 

 

同じように空を見上げ、偉丈夫は微笑む

その微笑みを見て城門にいた兵士何人かが卒倒していたが、彼らは気づいていない

 

 

「さて、行くか“卑弥呼”

病に苦しむ人々が俺を・・・“華佗元化”を待っている!!」

 

「うぬ、行くかダーリン!!」

 

 

叫び、力強く足を進める2人

その瞳には、熱き炎が宿る

 

城門の向こう・・・この天水の街にいるであろう、病に苦しむ人々を救う為に

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 第四話【新たな出会い】

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「やっぱり、小っちゃい男の子っていいですよね~♪」

 

「・・・?」

 

「こう、思わず抱き締めたくなるといいますか

お菓子あげるからお姉ちゃんと一緒にイイことしましょ~って、ホイホイお持ち帰りしそうになっちゃいませんか?」

 

「・・・?」

 

「あ、やっぱり一刀さんもそう思います?

うんうん、趣味が合うようで私も嬉しいです♪」

 

「これ、白蘭

一刀は一切頷いておらんぞ

さっきから、首を傾げておるだけじゃからな?

話を一切理解出来ておらんからな?」

 

 

天水の街中を歩く三人

その三人は姜維を筆頭に(というか、殆ど彼女だが)、賑やかに話をしながら歩いていく

 

 

「う~ん、せっかく“しょたこん”仲間ができると思ったんですが・・・」

 

「“しょたこん”?」

 

「天の国の言葉で、“小さい男の子が好きな人のこと”だそうです

ほら、この本に載ってますよ♪」

 

 

言いながら彼女が自身の懐から取り出したのは、一冊の真新しい本だった

その本を彼女から受け取り、美羽は僅かに首を傾げる

 

 

 

「なんじゃ、この本は?」

 

「知らないんですか、美羽ちゃん

これは魏の有名な軍師さんが、かの“天の御遣い”より聞いた“天の国の言葉”を纏めた珠玉の一冊ですよ♪

因みに、これは第三弾です

第一弾は、二年前に発売してすぐに売り切れちゃって・・・もう、一部の人しかその存在を知らないという伝説の本なのです!」

 

「そ、そうか・・・」

 

「・・・っ!」

 

 

拳を天高く突き上げ、熱く語り出す彼女

その勢いに美羽は凄まじく距離をとり、一刀はビクリと体を震わせると美羽の後ろにサッと隠れた

周りの人たちも、彼女からいそいそと距離をとっている

そんな周りの様子に気づいていないのか、はたまた気にしていないのか

彼女は嬉々とした表情のまま、美羽と一刀の手をとった

 

 

「さぁ、美羽ちゃんと一刀さん

一緒に素晴らしき“しょた”の世界へと旅立ちましょう!

そしていずれ、天下を“しょた”で染め上げるのです!」

 

 

“嫌すぎる、そんな天下”

そう思い、美羽は頬をピクピクとさせていた

そんな中・・・

 

 

 

 

「天下・・・」

 

 

ただ一人・・・一刀だけは、空を見上げていた

その両の瞳に、僅かに光を宿したまま

彼は、空へと手を伸ばす

 

 

「天・・・」

 

 

呟き、彼は目を細める

“その言葉”が、何故かとても心地よく聴こえて

何故か・・・とても、大切なような気がして

 

彼は、伸ばした手を

そして、青々とした空を見つめていた・・・

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「・・・で、どういう状況なんじゃ?」

 

 

開口一番、美羽の呆れたような声が響き渡る

その言葉に答えたのは、同じように呆れたふうに溜め息を吐きだしていた夕だった

 

 

「また勝手に酒を飲んでいてな・・・それを、よりにもよって“アイツ”に見つかってしまったんだ」

 

 

クイと指で夕が指し示す先

そこに、一人の男が腕を組み立っていた

赤い炎のような髪をしたその青年は、目の前に正座する祭を見つめ深い溜息を吐きだしていた

 

 

「祭殿・・・俺はあれほど、酒を飲みすぎるなと言ったではないか」

 

「う、うむ・・・」

 

「それなのに、人目を盗みこっそりと・・・それも、毎日飲んでいるらしいな」

 

「な、何故それをっ・・・!?」

 

 

青年の言葉に明らかに動揺する祭

そんな彼女の姿を見つめ、小さく七乃が笑いを零していたのを夕と美羽は見逃さなかった

 

((お・ま・え・か))

 

(あらあら、何のことでしょうか~?)

 

所謂アイコンタクトで会話をする三人

その三人をよそに相変わらず笑顔のままショタについて想いを馳せる姜維と、無表情のまま目の前の光景を見つめ続ける一刀

場は、とても混沌としていた

そもそも、何故このような状況になっているのか

まずは、そこから説明しなくてはならないだろう

 

 

 

 

 

あれから、一人熱く語り続ける姜維をよそに三人は家へと向かい歩き続けた

美羽達の住む家は天水の中心から離れた位置にあるので、それなりに歩くことになる

隣では頼んでもいないのに、さっきから自身の趣味について熱く語る者がいるから尚更遠く感じた

そのため家が見えた瞬間、美羽の口からは特大の溜め息が零れ出たのだ

言わずもがな、“安堵”の溜め息である

そうして、ようやく一息つけると美羽が安堵したのも束の間・・・

 

 

『祭殿ぉぉおお!!』

 

『うひゃいっ!?

おおお、お主が何故ここにいぃぃぃぃ!!?』

 

『そんなことは、どうでもいい!!

今重要なのは、その手に持っている酒樽だ!!!

卑弥呼、没収しろ!!』

 

『うぬ、任せるんじゃ!!』

 

『ああぁぁぁぁあああああ、儂の秘蔵の酒があぁぁぁぁあああああ!!!!?』

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

ピクリと、美羽と姜維は体を震わせる

それから若干疲れたような表情を浮かべたまま、2人は顔を見合わせた

 

 

「あ奴、来ておったのか?」

 

「それを伝えようと思って、今日は来たんですけどね~」

 

 

“あはは”と、乾いた笑みを浮かべ姜維は言う

だがその表情もすぐに、先ほどのように明るいものへと変わった

 

 

「よっぽど、心配だったんでしょうね

彼、美羽ちゃん達のこと気にしてましたから」

 

「そうか・・・」

 

 

その一言に、目を瞑る美羽

彼女はそのまま、胸元で手を握っていた

 

 

「入らないの・・・?」

 

 

そんな二人の様子も、どこ吹く風かと

いつものように無表情のまま、一刀は家を指さし首を傾げていた

その言葉に、二人は小さく笑いをこぼす

 

 

「入るかの」

 

「そうですね」

 

「ん・・・」

 

 

そうして家の中へと入った矢先

目の前には、冒頭にあった光景が広がっていたのだ

美羽としては先ほど、外から聞いていたから大体の状況は分かっていたのだが・・・

酒を没収してから正座への流れが驚くほどに早かったため確認の為に聞いたのだ

それについて返ってきたのは、“慣れたのだろう”という呆れ半分の言葉

これに、美羽は苦笑を漏らすことしかできなかったとか

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「お・・・美羽じゃないか」

 

 

あれから数分後

ようやく祭への説教が終わったのか青年は笑みを浮かべ美羽に軽く手を振ってきた

因みに、祭はというと・・・

 

 

「うぅ・・・酒えぇぇ~」

 

 

などとボヤキながら、現在も尚絶賛正座中だ

その様子を美羽と姜維は、苦笑しながら見つめていた

 

 

「久しぶりだな、元気にしていたか?」

 

「うむ

華佗も元気そうで何よりじゃ」

 

「姜維殿も、久しぶりだな

済まないな、どうしても気になって先に来てしまった」

 

「いえいえ、構いませんよ

華佗さんのことだから、もしかしたらって思ってましたし」

 

 

挨拶を交わし、三人は軽く笑いあう

それから、華佗と呼ばれた青年は視線を美羽と姜維の後ろ

一刀へと視線を移した

 

 

「彼は?」

 

「おお、そうじゃ!

一刀のことを、華佗に診てもらおうと思っておったのじゃ!」

 

「俺に・・・彼を?」

 

「うむ」

 

 

言われ、華佗は一刀のことをジッと見つめた

そして笑顔を浮かべる

 

 

「俺の名前は華佗、字は元化という

君の名前は?」

 

「一刀・・・って、呼ばれてた」

 

 

華佗の言葉に、静かに答える一刀

その様子に、華佗が僅かに眉を顰める

 

 

「呼ばれてた?」

 

「うむ・・・実は一刀は、記憶喪失らしいのじゃ」

 

「なんだと?」

 

 

“記憶喪失”

その言葉に、華佗の表情が強張った

 

 

「詳しく、聞かせてもらえないか?」

 

「でしたら、私がご説明しますね~」

 

 

言いながらにこやかに手を上げたのは七乃だ

彼女はそのまま、“向こうのお部屋でお話しましょう”と華佗を促す

それに対し彼は頷き、七乃と共に別の部屋へと移動した

 

 

 

「ううぅぅぅう・・・儂の秘蔵の酒ぇぇ~」

 

「はいはい、いつまでも拗ねてないで昼食の準備をするぞ

白蘭も、食べていくだろう?」

 

「あ、は~い

ごちそうになります♪」

 

 

“それじゃぁ、もうしばらく待っていてくれ”と、夕は未だグズる祭を引き摺りながら部屋から出ていく

その場には美羽と姜維と一刀、三人だけが残った

 

 

 

 

 

 

 

「ウホッ・・・イイおのこ♪」

 

「・・・っ!!!!??」

 

 

・・・わけではなかった

 

突如として、部屋に響いた声

それと同時に感じた凄まじい寒気に、一刀はその場から素早く身を引いた

その瞬間、彼の前にこれまた凄まじい筋肉の持ち主が現れたのだ

歪みないその筋肉に、軽い眩暈さえ覚えるくらいだ

 

 

「うぬ・・・中々、儂好みのおのこじゃな

思わず、涎が出てしまうところじゃった」

 

 

・・・因みに、現在進行形でその筋肉は涎を垂れ流している

 

 

「・・・!?、!?」

 

 

その突然の出現に、彼はどうしたらいいのかわからないようだ

対して美羽と姜維はというと、この異常な事態にも驚くほどに冷静である

というのも、この筋肉も彼女達にとってはもはや“見慣れた光景”となっていたからだ

 

 

「久しぶりじゃな、“卑弥呼”よ」

 

「お久しぶりです、“卑弥呼”さん」

 

「うむ、二人とも久しぶりじゃな」

 

 

見慣れた光景ゆえの、軽い挨拶

そんな二人の様子を、一刀は戸惑いながら見つめていた

 

 

「おお、一刀よ

この者は卑弥呼といってな

華佗と共に国中を旅しているのじゃ」

 

「・・・そう、なのか」

 

 

呟き、いつもの無表情に戻る

彼はそれから、卑弥呼を見つめたままゆっくりと口を開いた

 

 

「一刀・・・よろしく、お願いします」

 

「一刀か・・・儂は卑弥呼という

こちらこそよろしく頼むぞ、イイおのこよ!」

 

 

“がっはっは”と、卑弥呼の豪快な笑い声が響いた

それに伴い、卑弥呼の鍛え上げられた筋肉が揺れる

見る人が見たら、思わず“歪みねぇ”と呟いていたことだろう

 

 

「見た目はあれじゃが、良い奴なのじゃぞ?

見た目はあれじゃがな」

 

「美羽ちゃんの言うとおり、見た目はあれですけどとってもいい御方なんですよ?

見た目はアレですが」

 

「ん・・・」

 

 

二人の言葉に、一刀はとりあえず頷く

“見た目はアレ”という言葉にはツッコまない

 

 

「さて、儂はダーリンのもとへと行くかのう

また後でな、イイおのこよ」

 

 

言って、卑弥呼は部屋をあとにする

その後ろ姿を、一刀は黙って見つめ続けていた

 

(“イイおのこ”って・・・なに?)

 

などと、心底どうでもいいことを考えながら

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「なるほど・・・な」

 

 

三人から離れた後に、卑弥呼は小さく呟く

その表情からは、先ほどまでの雰囲気は感じられない

 

 

「“貂蝉”の言っていた通り・・・いや、それ以上じゃな」

 

 

呟き、卑弥呼はスッと瞳を閉じる

それから、深く息を吐きだした

 

 

「覇王の“想い”は確かに、外史の扉を開き

そして・・・この世界に再び、御遣いを呼び戻した」

 

 

“しかし”と、卑弥呼は閉じていた瞳を開いた

その瞳が、微かに揺らいでいる

 

 

 

「“記憶喪失”か

なんとも、似て非なるものよ

“あれ”は、そう簡単なものじゃない

“思い出せない”のではない・・・あ奴は、何も“知らない”のじゃから」

 

 

“何も知らない”

そう言った瞬間、卑弥呼は乾いた笑みを浮かべる

その視線の先を、窓の向こう・・・蒼天の彼方へと向けながら

 

 

 

 

 

「あれは、“抜け殻”じゃ

あ奴は“何も知らず”、そして“何も持っていない”」

 

 

 

 

誰もいない廊下

卑弥呼の言葉が、静かに響いていった


 
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