No.823411

九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = カムイ篇

Blazさん

どうも、Blazです。
始まりましたカムイ篇。その第一話ですが…
うん。オリジナルなんで難しいです。どう話を運ばせればいいのやら(汗
悪戦苦闘が続くのですが、どうか生暖かく見守って下さい…

2016-01-06 20:07:53 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:485   閲覧ユーザー数:458

一話 「静かな日」

 

 

 

 

 

カムイの町内に入ったBlaz。彼は先に二百式たちと合流する前に、ある場所に立ち寄っていた。

時間指定がないのが幸いしたのか、一種の情報収集だ。

 

 

 

 

 

「おーい、ジジイ居るかー?」

 

一件の古屋に入ると、奥まで聞こえるような声で玄関口から声を出す。

中はしんと静まり返っており、それでもさっきまで人が居たという暖かさのようなものは感じられた。

まだ居る。いや、表に居ないだけだ。

Blazは奥へ進むため一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その声、相変わらず奥まで響くの。小僧」

 

「―――――。」

 

 

奥から聞こえる低く、重みのある声に鼻を動かす。

ジョーカーもそれに反応したのか、揃って音もなく入っていくと少しずつだが薄っすらと奥から出てくる人影に目が慣れてくる。

白い暖簾の先、そこが()の仕事場だからだ。

 

 

「居るなら返事しろよ。頑固ジジイ」

 

「年寄りは体が弱いんじゃ。もう少し労われ、バカタレ」

 

 

くたびれた灰色のシャツと深緑のジーンズというやや場違い感のある服装をした老年の男性。額に鉢巻を巻き、鋭い目は爛々と光を放っている。

その眼の先には、その目を物ともしない彼の姿が映っていた。

 

 

頑固ジジイこと、兼定。

Blazの持つ大剣やアルトの槍などをこちらの世界に来た時からメンテナンスや修理を請け負う、叩き上げの刀匠だ。

基本剣の類であるなら問題はなく、槍や鉈、ナイフなども彼の手にかかれば見事なものに生まれ変わる。

 

ただし本人の性格があだ名通り頑固であり、また仮に請け負えたとしてもその為の修理費には莫大な額が要求される。

本人はそれに見合った対価を払ってもらうだけと言うが、その二つが理由で誰の下にもつかず、また誰の武器も専門的に作らなかった。

その中の例外が今、彼の目の前に居た。

 

 

 

「…で。何の用だ。またソイツぶっ壊したとか言うんじゃねぇだろうな」

 

「なワケあるかよ。話聞きに来ただけだ」

 

「…あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兼定に猟奇殺人の話を伝えると、彼は唸り声を出して茶の間の畳の上に座り込む。そして、長年愛用しているという煙管を取り出すと煙を燻らせ、ぽつりと呟いた。

 

 

「東洋人の顔なんだってな」

 

「…爺さん」

 

「ここいらでお尋ね者と言っちゃあ限りがある。なんせこの事件と元々のカムイがそれを拒絶しているからなぁ」

 

「で。その話、確かなのかよ」

 

「ハッ、俺を誰だと思ってんだ。カムイで悪名高い兼定のジジイだぞ。金さえありゃあ誰の仕事も受ける」

 

彼の言葉にBlazは確かな信頼を寄せ、それを元に話を聞く。

東洋人の男。歳は大体二十代半ば。顔は分からなかったが冷たい声だった。

 

そして。その人物が一度、彼の工房に訪れていた。

 

「何時だ。ソイツの仕事を受けたのは」

 

「…さてな。教えてもいいが、そこは応相談って奴だ」

 

「あ…?」

 

金か?と尋ねるが、そうではないと笑いながら首を振る彼に若干の苛立ちを感じながらもでは何か、と問う。

どうやら彼は金では到底どうこう言えない物を要求するらしい。

 

それを聞いた刹那。Blazは聞かなければよかったと後悔したが。

 

 

 

 

「…『イサリビ』。それも二グラム」

 

「ゲッ…」

 

イサリビとはアヴァロンの世界ではかなり希少な鉱石で、この世のどんな物より硬く、そして加工がしやすいものと言う。

ちなみに一グラムあれば一つの国家予算と同じらしいが、Blazの大剣にはそれがふんだんに使われている。そのため加工後でも値打ちは馬鹿にならないとかで売れば時価数千億はするという。尚、鑑定時に鑑定士はそれを見て卒倒したトカ。

 

「そこまでの野郎なのかよ…」

 

「馬鹿言え。あの嬢ちゃん(レイチェル)の口添えあったからって言えどもお前から直接の払いは終わってないんだ。俺が死ぬまでキッチリ出しやがれ。このスットコドッコイ」

 

「………いつかな」

 

 

一応は請け負うと言った彼に軽く笑い飛ばすと、茶の間近くで眠っていたジョーカーを手招きし何かを取り出す。

程よい頃合いに燻された燻製の肉を一枚、彼の前に見せると軽く動かし注意をひかせる。燻製のにおいに釣られたジョーカーはゆっくりと近づくと差し出された肉を先っぽから食べ始める。

 

 

「…二週間前だ」

 

「………。」

 

「二週間前、奴は俺にテメェの剣を鍛えて欲しいって言って来やがった。そん時は金も持ってたし、使う素材についても文句はなかった。

ただな…打っている時に感じたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷酷な殺意って奴をよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で。話を聞いた限りじゃ―――」

 

「そういうこった」

 

三人の居る一室に集まったBlazは兼定の証言をそのまま彼らに話す。

ガルムとげんぶは腕を組んで考え、二百式は証言を脳裏で纏めるとそれをまた捜査のための材料にすると目を細め考えるような姿勢でぽつりとつぶやく。

 

「つまり。二十代後半の東洋人系の男が…」

 

「今回の事件の犯人かもしれねぇか」

 

「確証はあるのか?」

 

「あの爺さん、ウソつくと絶対一回は煙管を吸ってから話すからな。なかった所を見ると、マジなようだ」

 

「―――。」

 

鋭く、目を細めた二百式に冷や汗を滲ませたBlazは直ぐに補足と付け足しを行い、彼に少しでも信じてもらうように言う。

 

「…嘘なら嘘でもうちっとマシな嘘ついてるっての」

 

本当かどうかを怪しむ顔はそのまま続き、本人もまぁいいだろうと言ってその場では水に流した。

しかしあくまでその場でという事で、二百式の顔は晴れず、言葉をずっと疑うような眼で見続けていた。

 

 

 

「取り合えず、情報をまた一つ…か」

 

「これで可能性が………」

 

「減った…のか?」

 

減ったかどうかという問いに首をかしげるげんぶ。

二枚の写真は今までの中で最も有力候補だった今回の犯人の顔写真だったが、もしBlazの情報が正しければ候補二人の特徴とは全く一致しない。

寧ろ、可能性が広がってしまい、人数が増えてしまった。

 

「…元より我々の情報は全て口伝えだ。答えが一つでないのは当然のことだ」

 

「…確かに」

 

「が。こりゃ参ったな…東洋人の候補は四人の時にも入っていない。完全に外れてしまってる」

 

ガルムの言葉にまた遠のいてしまった犯人像に頭を抱える二人。

今まで調べていた情報が全て水の泡となり、犯人への手がかりはふりだしに戻ってしまった。

確証のない情報。敵の素性は殆ど分からない。

少しずつ手繰り寄せていた筈の情報は空しくふりだしへと戻る切っ掛けとなってしまう。

流石に情報なしとなってしまうと焦りも見せるが、それでも冷静さを欠かない二百式はBlazに目を付けた。

 

「…どうする。このままじゃ手がかりどころの話じゃないぞ」

 

「だから、今回コイツ(Blaz)が居る。違うか」

 

「………。」

 

「…改めて思ったが、Blazの扱いがそんざいだな…」

 

「ああ…」

 

 

うるせぇ、と周りからの批評に痛めるBlazは頭を掻くと、言われるであろう事を予測してか直ぐにそれに対する策を打ち出す。

罵倒されるというのは考えていなかったが、情報不足になるという事だけは薄々分かっていたのか、かなり手早く手際のいい言い出しな為、関心の色と驚きを見せていた。

 

「ま、八方ふさがりは流石にねぇと思ったが…情報が少ないとは思ってたからな。それに、どの道二百式に頼まれて行くことにもなってたし…」

 

「行く…?何処にだ」

 

「…決まってんだろ。このカムイの自治と自警を行う場所だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

カムイの町には城下町は当然存在する。

そしてその城下町があるという事は、そこを纏める城があるという事だ。

しかしまさか―――

 

 

 

 

 

 

「…Blaz。本当に大丈夫なのか?」

 

「何が?」

 

「いや…」

 

ココに来てまた面倒毎にならないだろうかと心配になってしまうげんぶに、Blazは心配すんなよ、と軽口で返す。

本人は随分と成れているみたいだが、初めてである彼ら三人にとっては難しい事でしかない。別段、人生初めてという訳ではないが、こういう事をまともに経験していないせいで勝手が分からないのだ。

 

 

 

まさか正面からカムイを自治する組織、「大和」の居城に堂々入れるのだから。

 

 

「捕まらなければいいがな」

 

「それ俺に押し付けようとしてるのか?」

 

明らかに自分に失敗した場合の責任を押し付けようとするげんぶ。

ちなみに目をそらしていた二百式もそうしようとしていたのは…言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カムイ自治組織である大和はいわば地球でいう武家社会を形成している。

武士が頂点に立ち、統治や防衛などを行う。そして階級制度を敷き、武士ではない者たちから税を集める。

重税で反乱が起こるか起こったという事例も過去にはあるが、その度に体制は変化し今の状態を保っている。

 

大和の自治のやり方は実際かなりシンプルなものだ。

自治の中心であるカムイを頂点に周囲十二の家がそれぞれ割り当てられた土地を治める。

 

もし外部の者がその土地内部で自由に活動したいのなら、その地を収める長に会えばいいのだ。

 

 

「…中古、中世時代の体制の複合。それがこの大和のやり方であり、あり方だ。つまり。今回の仕事で自由に捜査したいなら、まずは頭と話を付けろというのが礼儀って事だ…」

 

「で。俺たちはその中の一つを治める大名に会う、と」

 

「俺も本当はこんな回りくどいっつーか…嫌な事はしたくないんだがよ…」

 

 

長く続く廊下をBlazと案内人が先頭に立ち、歩き続ける。

緑豊かな縁側の庭が広がり趣のある世界だが、そこはどこか寂しさも持ち合わせている。

冷え切ってしまったというより、皆恐れているからだと案内人は言う。

謎の猟奇殺人鬼が何時どこから現れるのか分からない中で、彼らはただ怯えてでも役割を果たすしかできない。

そうする事しか出来ないというより、そうさせているという者も居る。

中には力を持つ者もいるが、もし喪ってしまえば後はどうなる。

 

それが理由で、誰も殆ど外界に出ることはなかったのだ。

 

 

「お陰で、こんな面倒な事を一々しにゃあならんからな。さっさと終わらせるに限る」

 

「そうだな。で、その大名さんは…」

 

「ここじゃ守護って呼ばれてる。それぞれ頭に大字の数字を割り当てられて、それと守護を付け足して呼ばれてんだよ。壱なら第壱守護。漆なら第漆(だいなな)守護ってな」

 

「…面倒なやり方だな」

 

「面倒なのは…これからだ」

 

 

嫌そうに呟いたBlazたちが立ち止まった一室の前。

この先は大部屋で、そこにはこれからある土地の守護を任されている守護者が居ると言う。

会うことは自由だが、あまり時間を掛けたりせず、また変な事を起こさないようにと重ねて言われ、物々しさを感じた彼らは厳重な警備を覚悟し襖の前に立つ。

 

この先にそれほどの人間が待っている。

それだけ今回の事件捜査に力になってくれる人物が。

 

 

 

「んじゃ、開けるぞ―――」

 

 

そして。Blazが静かに音を立てて襖を開いた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーずぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!」

 

 

※時速百キロ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんということでしょう。

 

弾丸の如く、というか弾丸になって一人の人間がBlazめがけてロケット頭突き。

 

こうかは ばつぐんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………アイツの悲痛な叫び、聞こえたか?」

 

「…いや」

 

「…「げぶ」って一言だけ聞こえた」

 

「ああ…そうか…」

 

「………。」

 

 

 

 

 

後ろへと振り返ると、そこには壁にめり込んだBlazと

 

 

 

一人の袴姿の少女が彼に頬を擦りあてていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あいかわらずのとっしんだな――――守護者さまよ…」

 

「また会いたかったんだBlazに!だからだから、私の思いを受け取ってよ!!」

 

「受け取るのはけっこーだが…その重いは…むり………がくっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大部屋の片隅で倒れ、しばらく回復に専念することになったBlaz。

しかしその間にも時間が惜しまれるので、二百式が変わりに話すことになり、三人は少女の前に一列に座っていた。

 

信じられないと未だ納得できない事がある彼らは、Blazの言葉が本当なのかどうか。それを彼女自身の自己紹介でハッキリさせようとしていた。

 

しかしそれは思うだけ無駄。

現実と真実は変わらなかったのだから。

 

 

 

 

 

「―――改めて。

 

 

 

私は第玖(だいく)守護者。

 

九番目の地を守護する者。

 

 

 

名を『九重幻霞(このえまどか)』と申します」

 

 

澄んだ黒い瞳と黒い髪が深々と礼をすることで辺りへと散らばっていく。

まるで彼女の顔を髪が隔てて守るかのように落ちるその長さは、優に彼女の小さな身長をも超えるほどだ。

しかしその全ての原因としては彼女の身の丈にあるのだろう。

彼女の身長。もしこれを見ている彼らの推測が正しければ、身長は百五十にも満たない。

つまり。

 

 

「…挨拶して早々に済まないのだが。ええっと…」

 

「あ。面倒なのでしたら普通にマドカと。私、そっちの方が慣れていますし、Blazさんもそう呼んでいますので」

 

「…なら、マドカ。君はいくつだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっと…今年で十二になります」

 

正真正銘、本物の子供の大名だ。

 

 

「――――じ、十一歳…」

 

「…そんなに驚くことでしょうか?ニューちゃんだって三歳ですよ?」

 

 

「「いやそれ違う違う(比べる基準とかが)」」

 

 

 

十一歳の少女が、こうして自分たちと面と向かい合い、しかも一つの地を守る主として、こうしてその風格を持ちながら自分たちと話し合っている。

今まで似たような者たちは居ただろうが、こうして本当にその人物が目の前に居るのは彼らにとっては驚くことでしかない。

ただ、その中で当然不満だったり不快に思う事はある。

 

「…子どもに領主を任せるとは…随分と人手不足なのだな」

 

「ッ…」

 

二百式の辛辣な言葉に眉を寄せる幻霞だが、それ以上にその言葉に痛烈さを感じていたのは後ろで休んでいたBlazだった。

彼の表情を横目で見た幻霞は小さく俯くと重くなった口を開いた。

 

 

 

「仕方ありません。先代と先々代………父と母は、もう居ませんから」

 

「………!」

 

 

重くのしかかった言葉に二百式は目を見開く。

どうにも嘘をついているような顔でもなく、それを前向きに受け止めているという顔でもない。

彼女はただ、ありのままにそれを受け止めていた。

そして、それを哀しいと理解していた。

 

 

しかし。

 

 

 

「―――話を変えましょう。そうしないと、貴方たちは多分事態を前に進めませんから」

 

「………。」

 

直ぐに笑みを見せた幻霞は話を戻して彼らの要求を聞こうとする様になる。

一人の統べる者としての顔か、それとも自分の持つもの全てを守る者としてか。

いずれにせよ、その本音ともいえる顔はそれを最後にその場では姿を見せなくなった。

 

 

 

「―――(くだん)の猟奇殺人鬼ですか。話には聞いています」

 

 

「我々はそちらの方から依頼を受け、犯人の特定と排除を命じられた」

 

 

「存じています。こちらでもその被害などは見過ごすわけにも行きませんから」

 

一国を治める主としての風格、そして態度。

それを見せる幻霞は私情を一切出さず、淡々と自分たちの知る情報について話していく。

始めこそ違和感のある場だったが、直ぐにげんぶとガルムも慣れ、ゆったりとした体勢で話を聞く。

 

「私たちの方でも捜査部隊を派遣していますが、現状は掠りもしない。直接的な接触は今のところ皆無です」

 

「直接的遭遇はまだとして…情報については」

 

「それについては今から…」

 

背を向けて後ろの机に置かれていた何かを取ると、幻霞はそれを二百式たちの前に置く。

一枚の古風な手紙。それも折るものだ。

拝借する、と言って受け取り中を開くと、そこには筆で書かれた情報がいくつかに区分されており、一番右端から名前らしきものが書かれていた。

 

「…これは」

 

「こちらの方の調査部門が調べた結果、該当する手配犯です。東洋人、年齢は二十代。

そして今回の凶器と関連性が高いもの」

 

「刃物か?」

 

「それもありますが、魔術や魔法もある世界です。絞り込みにはかなり時間を要したのでこれが絶対という保証はありません。ですが、可能性が高いのがその三人です」

 

絶対ではないという所に不服さやこちらに対する皮肉を言っているように思えてしまう二百式は目線を彼女から紙のほうに下げる。

そこに書かれた犯人の有力候補は三人で、それぞれ巷では確かに腕のある者たちらしい。

 

刀を扱う者

 

風の魔術を持つ者

 

ナイフを使う元忍。

 

大雑把ではあるがこれが書かれていた候補三人だ。

そこにもし、冷たい声のするという事を加えれば実際二人に絞られるが、それでも確証がないとして外れることになってしまう。

 

「いずれもこの世界ではかなり上位の危険人物です。ですので、もし見つけるなら…」

 

「…十分です」

 

「…え?」

 

流石に時間の浪費に無駄を感じたのか。

二百式はそう言って自分から犯人を捜す方法を打ち明けた。

 

「残る候補は三人。なら、この三人全員を当たるまでです」

 

「………。」

 

「…途方もなく時間がかかるぞ?」

 

「そのために人数は確保している。違うか」

 

「………。」

 

 

 

様子が可笑しい。

それに真っ先に気付いたのはガルムだ。彼と長い付き合いだからだろうか。

妙な焦りというより直ぐに行きたいという逸る気持ちが表に出かかっており、彼の言動と思考は定まっていなかった。

それをいち早く気付いたガルムは何を急いているのかと疑問に思ったが、それを今聞くべきではないとしてか口を開かなかった。

 

「―――――なら。こちらでも人を動かします。それで犯人の居場所を見つめるのも容易になるでしょう」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…Blaz」

 

「なんだ?」

 

「何故…貴方は残ったの?」

 

「………。」

 

 

嘘だと直ぐにバレ、頭を掻くBlazの横には年相応の子どもの笑みを見せる幻霞が縁側に座っていた。

 

―――俺はもう少しココで調べたり聞いたりする。あとでまた合流する

 

 

「って言ってたけど。実際聞くこともないでしょ?」

 

「……まぁな」

 

「あ。もしかして私と婚約するって話「しねぇからな、俺は絶対」………むぅ」

 

当然、本当にそんな理由で残ったわけでもないし、別に嫌だからという理由でもない。

ただ彼はそれでも聞きたい事がいくつかあり、それは現状二百式たちに教えれば混乱するであろう案件だったからだ。

彼らが今、城を後にしたことでそれがようやく話せるようになり、Blazは呟くように話を切り出した。

 

「―――聞きてえのは二つ。まず一つは今回の一件でなんであの将軍さまがダンマリ決めているか」

 

「………。」

 

「んでもってもう一つ。

お前の目から見て、今回の犯人。どう思う?」

 

「…どう。という意味が不明確。どういう意味での「どう」?」

 

とぼけんなよ、と軽く切り返すが彼の顔に笑みは無い。小さく微笑んでいるという顔なのに周りの空気が全くそれと合致していなかった。

嘘をつくのならただじゃ置かない。そういった覇気のようなものが、僅かだが彼から漏れ出ていたのを感じ、幻霞はため息をつくと問いに答える。

 

 

 

「――――――あくまで私の目で、だけどいい?」

 

「ああ…今回の一件、アナスタシアにも聞いたが。どうにもキナくせぇ」

 

「………そっか。なら早いね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多分持ってる(・・・・)。今回の犯人は」

 

「………俺とアルト、んでお前を入れて三人。これで四人目か」

 

「認められているかどうかが問題よね。私やアルトはともかくとして」

 

「…チッ」

 

 

残念だなぁ。

足をバタつかせながらぼやく幻霞の顔は残念と言った顔ではなく、どこか嬉しそうな、しかし何か惜しそうと言ったもので彼女も本音と建て前とは全く別だった。

 

しかしそれでいい。Blazはその顔を見て確信した。

恐らく、彼女は犯人について目ぼしは付いている。それもかなり早い段階でだ。

そうでなければ今頃知っていては慌てるか真面目に話しているというのが幻霞の性格だ。

 

「テメェ…態と話さなかったな…」

 

「大丈夫。直ぐに使いを送ってあの人(二百式)にも話す。あの人には悪い事しちゃったから」

 

「それで済むといいんだけどなぁ。アイツ切れたら怖えぞ」

 

 

面倒そうにため息を吐き、Blazは座っていた縁側から立ち上がる。

もう行くの?と尋ねるが、どうやら言うまでもないようで直ぐに門の方へと歩き始めた。

 

「…なら。今度は私から」

 

「ん…?」

 

「本当はさ。情報だけが目当てじゃないんでしょ?」

 

見透かしたような眼で言う幻霞に、立ち止まったBlazは見せなかったが嫌そうな顔でため息をつき、だるそうな声で答えた。

 

「…ああ」

 

「うん。素直でよろしい!」

 

「………お前よ。よく俺みたいなのが好きになったな?」

 

「私好きよ?Blazみたいに面倒そうでも素直だったり優しかったりする人」

 

「んじゃその素直さで婚約は破棄な」

 

「ダメ」

 

子どもだからか、我が侭な事を言う幻霞に苛立つも大人げなさを感じ頭を掻く。

やがて冷静になって一拍置くと、そのまま後ろを振り向かずにある頼み事を言い出した。

 

 

「「ホウライ」に行かせろ。元はと言えばお前が琥黒と起こした喧嘩の所為で普通に入れなくなっちまったんだぞ」

 

「………なんであそこ?」

 

「決まってんだろ。琥黒に会う。アイツ等なら、ここ等の情報は裏も含めて詳しいだろうし………お前も聞いてんだろ?犯人候補の一人がホウライに行ったの」

 

Blazの要求にしばらく沈黙する幻霞だが、その顔は決して納得していないという顔ではない。それが当然の事か、と頭の中で考え自身を納得させていたのだ。

最初は彼が行くと言い出した時に反論の一つでもしようかと考えていた彼女も理由などを聞いて沈黙。背を向けて立つ、彼の姿をじっと見つめた。

僅かに頭を掻いたりして動いてはいるが、振り返りもしない背にしばらく目を合わせていると妙に表情を和らげてしまう。

どっちが化かしているのだろ。と。

 

 

 

 

「…なら。仕方ないな。未来の婿が頼んでいるもの。断らない理由はないわ!」

 

「だから!誰がお前のような、つか子どもを嫁に取る趣味はねぇよ!!」

 

「Blazに無くても私にはある!!私はあの時、貴方に助けてもらった時からハートを鷲掴みに―――――」

 

「いくぞジョーカー。こいつと話していたらぜってー日が暮れる」

 

「え、ち、ちょっと待って!?」

 

 

 

 

その後。城門まで引きずられる幻霞と、それをしつこく引き離そうとするBlazが居たが、どこで間違えたのか。誰かが彼女を連れ去られると誤認してしまい、城内に居た近衛兵六千が雪崩のように来襲。

それを見てBlazはジョーカーと共にカムイの城下町を逃げ回り続けていた。

その所為で時間を食ってしまい、更に命の危機に何度もさらされて逃げた所で姿を見た者は全力疾走で汗を吹き出しながら逃走する姿を目にしたという。

 

 

ちなみに。前半部分では未だ幻霞が居て、お姫様だっこを所望していたが途中で体力切れになる事を危惧して近衛兵らに投げつけた。

 

 

 

危うく命の危機にさらされた彼は、その後逃げるのに乗じてカムイを離れ、目的地であるホウライへと向かっていった。

そこにあるだろう手がかりを求めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 同時刻 楽園(エデン)・団長の部屋 =

 

 

旅団の本拠地「楽園」にある、団長クライシスの部屋。

そこに二人のナンバーズが集められた。

メンバーの中で唯一、兄弟でナンバーズ入りしているロキ。

他のメンバーに弄られることもあるが、誰よりも仲間意識を強く持つディアーリーズ。

 

彼らの前にはクライシスが悠然と椅子に座っており、シルクハットの向こうから僅かだが光る爛々とした眼で彼らを見ていた。

 

 

「よく来てくれた、二人とも」

 

「団長からの招集だからな。断る理由もねぇ」

 

「…けど…僕ら二人に一体何の用が…?」

 

当然な事を尋ねるディアーリーズに、クライシスは椅子から立ち上がると得意げに杖を回して話し始める。

 

「実は、二人にアヴァロンの方の援軍として向かってほしい」

 

「アヴァロンの…?」

 

首をかしげるロキは同じ顔をするディアーリーズと目だけを合わせ、一体どういう意味かと無言ながら訊ねていた。

それを察してなのか、小さく微笑むと話を続ける。

 

「今回、二百式たちが捜査している猟奇殺人事件。その調査のための援軍だ。

なにせ、情報量も少なく、犯人像も不明なため捜査が難航。一応は犯人候補が上がったらしいが、それを虱潰しに探すしかなさそうなのでね」

 

「そ、そんなにですか…?」

 

「――――そうらしい」

 

刹那。クライシスの返事に少し眉をひそめたロキは、僅かな彼の目に何かを見る。

見えた瞳は静かに輝きながらだが彼の目を捉えていた。

まるで全てを見透かしているか、未来を今し方まで見ていたかのように。

悪寒などは感じなかった。

ただ逸らす事も無く、一瞬だがしっかりと目を捉えている。

それだけはロキもしっかりと理解できた。

 

 

「………。」

 

「対象となる犯人の情報は端末に転送する。いずれも腕の立つ者たちらしいからな。心して行け」

 

「あ。なら、(ルカ)連れて行っていいか、弾除けとして」

 

「構わんぞ」

 

「どうもッ」

 

 

何やら一人、災いを振りかけられたように感じたディアーリーズはとりあえず自分にも飛び火しなかったという事にホッと胸をなでおろし、その場を後にした。

一方のロキは何か思う事があったのか、弟であるルカに事の説明を行って引きずってでも連れていくまでの間、しばらくは何か考えに耽った顔をしていた。

それが一体どういう意味で何を考えているのか。それが分からなかったディアーリーズは、アヴァロンに行けば分かるだろうとして、その事を頭の片隅に置いていた。

 

 

 

 

そうしなければ、この後にある彼への災難(お約束)に耐えることが絶対に出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…げんぶ」

 

「なんだ?」

 

「…二百式の事、少し見ててくれないか?」

 

「…何があった」

 

 

 

 

 

 

「…さてな。ただ、アイツ何か思い詰めていると言うか…

 

 

 

 

 

 

 

あの顔、多分犯人の事について何か知ってるってやつだ」

 

 

「なにっ―――」

 

 

ガルムの言葉に、げんぶは目を細める。

体は辛うじて動けるが、それが今の彼の限界だった。

 

何せ、今し方。その犯人と出くわしたのだから。

 

 


 
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