No.803671

「たとえばのはなし。」

蓮城美月さん

ベジブル、悟チチ、クリパチほか。家族中心ほのぼの作品。
ダウンロード版同人誌のサンプル(単一作品・全文)です。
B6判 / 072P / \200
http://www.dlsite.com/girls/work/=/product_id/RJ162422.html

2015-09-22 19:25:58 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9943   閲覧ユーザー数:9937

◆CONTENT◆

 

たとえばのはなし。~妊娠告知編~

たとえばのはなし。~プロポーズ編~

たとえばのはなし。~雪山遭難編~

たとえばのはなし。~はじめての電話編~

たとえばのはなし。~妻の浮気編~

たとえばのはなし。~子の心親知らず編~

たとえばのはなし。~夫婦ゲンカ編~

たとえばのはなし。~夫婦の実像編~

たとえばのはなし。~子どもたちの疑問編~

たとえばのはなし。~しあわせな寝言編~

たとえばのはなし。~サラリーマン編~

たとえばのはなし。~クリスマス編~

 

たとえばのはなし。~はじめての電話編~

 

CASE‐1 ベジータの場合

人造人間との戦いに向けて、再び修行へ向かうベジータ。ブルマから食糧などの入ったカプセルケースを受け取る際、頼んでもいない機械を渡された。

「なんだ、これは?」

「携帯電話よ。なにかあったとき、いつでも連絡が取れるから」

「いらん」

「ダメ。持ってて」

即座に返そうとするが、ブルマは頑として持っていくことを強いる。

「持っているとなにかと便利よ。着信音が鳴ったら出ればいいだけ。メモリーにうちの電話番号が入ってるから、必要なときに使えばいいの。食糧が底をついた場合は、連絡してくれたらあたしが運んであげるから。現地で補給できたら、修行に集中できるわよ」

そう言いくるめられて、ベジータは携帯電話を渋々受け取った。不服そうな様子を見せながら、必要なものが入ったカプセルケースと一緒に。

「行ってらっしゃい」

数週間の修行に発つ相手をバルコニーから見送る。

(どうせあいつのことだから、かけてこないだろうけど)

そんな胸中で、階下のリビングへ降りていった。携帯電話にはGPS機能も付属している。とりあえず居場所は掴めそうだ。

「ブルマ。そこに置いてあったカプセルケースを知らんか?」

顔を合わせたブリーフ博士がブルマに訊く。

「あたしが用意してたケースでしょ? さっきベジータが持っていったわよ」

「そいつは困ったな」

「なにが?」

「わしがうっかり、ケースを取り違えていたみたいで」

父親が差し出したカプセルケースを確認してみれば、ブルマがベジータの修行用に食糧などを入れたカプセルが入っていた。

「…じゃあ、ベジータが持っていったのって――――」

訊かずとも、中身が何であるのか容易に想像がつく。沈黙が支配すること寸刻、ブリーフ博士は大きな息をついて、

「あとは頼んだよ」

娘にすべてを丸投げした。怒気を漂わせたベジータから電話がかかってきたのは、それから数時間後の話。

 

CASE‐2 ビーデルの場合

初めて悟飯の家へ電話をかけることになったビーデルは、深呼吸して相手の電話番号を押した。五回のコール音のあと、『はい、孫です』というチチの声。

「あ…あのっ、ビーデルですけど」

緊張のあまり言葉が詰まる。悟飯くんいますか、と続きが出てこない。その間にチチは、ビーデルに対して根掘り葉掘りの質問攻め。『悟飯とはいつ結婚するんだ?』と一方的な会話に終始したため、肝心の用件を言えないまま電話を切る羽目になった。

数刻後、気を取り直して電話をかけてみれば、今度は悟天が応答する。

「悟飯くんに代わってくれる?」

『にいちゃんに? うん、わかった。ちょっと待って』

そこまでは順調にいったのだが、置きっぱなしにした受話器から、『にいちゃん。あれ、どこ行ったのかな?』、『悟天、裏山まで晩メシ取りに行くぞ』、という会話が聞こえ、忘れ去られた電話にはだれも出ることはなかった。

再び数刻たって、今度はチチや悟天が出ないように祈りながら電話をかける。十数回のコール音がして、『おーい、電話だぞ』という声が聞こえた。

『だれもいねえのか? 仕方ねえなあ』

「あの、もしもし?」

『ん? だれだ? オラ悟空。今さあ、チチも悟天もいねえんだ』

どうやら今回は、悟飯の父親が出たようだ。

「…ビーデルですけど、悟飯くんいますか?」

『ビーデル? …ああ、ミスター・サタンの』

「はい。その節は父がいろいろと…」

『ブウは元気にやってるか?』

「ええ、拾った犬と仲良く暮らしてます。それで悟飯くんは…?」

『悟飯? あ、そういえばおめえ、悟飯の彼女なんだよな!』

「えっ! いえ、まだその…」

予想外の話にビーデルは慌てふためき、ぎこちなく取り繕いながら電話を切った。マイペースすぎる孫家の人々が相手では、肝心の用件を果たすことは極めて困難。ビーデルは疲れた表情で肩を落とした。

 

CASE‐3 クリリンの場合

クリリンは緊張の面持ちで電話の前に立った。気が向いたとき、ふらりとカメハウスに現れる十八号から、ようやく電話番号を教えてもらえたのが一週間前。何度もためらった末、震える指で番号を押す。脳内では、シミュレーションを重ねた会話が繰り返されていた。

数回のコール音。そして受話器の上がる音がして、電話がつながった。

「あ、あの…オレ、クリリンだけど…!」

目をつむって、一気に口走る。しばらくの沈黙。クリリンが怪訝そうに薄目を開けると、やがて静かな口調が返ってきた。

『ああ、チビのハゲか。何の用だ?』

男の声にハッとした。十七号だ。十八号が出ると想定していたため、会話が続かない。

「ええと、その」

『用がないなら切るぞ』

「ま、待ってくれ! あの…じゅ、十八号は?」

必死に搾り出した用件に、クリリンは相手の反応を恐れた。もし、取り次いでもらえなかったらどうしよう。

『いるぞ。――――おい、十八号。電話だ』

受話器の向こうから『だれ?』と訊ねる声が聞こえる。『チビのハゲからだ』と十七号が答えたところで怒涛の足音。『人の電話、勝手に出るんじゃないよ』と揉めている気配が伝わってきた。おそらくは受話器をひったくった十八号が『なんだ?』と告げる。

「あ、ええと…オレ、クリリンだけど。急に電話してごめん。迷惑だったかな?」

『別にそんなことは言ってないだろ』

つっぱった態度だが、それは本音らしい。

「ならよかった」

『で、何の用なんだ?』

肝心の用件を問われ、「あの、その…実は」と口ごもった。あれほど何度も練習したのに…。結婚を前提に、お付き合いをしてくださいと。

『はっきり言いな。優柔不断な男は嫌いだよ!』

嫌いという単語に、クリリンはとっさに叫ぶ。

「十八号、オレと結婚してくれ!」

言ってしまってから気づいた。見事なまでに、言葉がすっぽり抜け落ちている。付き合ってもいないのに結婚してくれだなんて、とんでもない男と思われただろう。クリリンが自己嫌悪している中、寸秒の空白。

「あ、いや…その」

どう取り繕うか困惑する。だが次の瞬間、予想外の言葉が返ってきた。

『――――いいよ』

「………え?」

なにを言われたのか理解できず、自分の頬をつねる。

『おまえと結婚してやるって言ったんだ! 聞こえたか、このタコ!』

そう告げると、電話は一方的に切れた。クリリンはそのあと二時間、電話の前で固まって動かなかった。

 

たとえばのはなし。~夫婦ゲンカ編~

 

CASE‐1 悟空&チチの場合

「戻ったぞ、チチ。ハラ減った、メシはまだか?」

今日も心おきなく修行に勤しんだ悟空が、帰宅するなり空腹を訴えると、突如台所から出刃包丁が飛んできた。

「おっと! あぶねえな、こんなものが飛んできたら怪我するぞ」

「毎日修行して鍛えてるんだから、怪我なんてするわけねえ」

夫の無頓着な態度に、チチは怒気を隠さない。

「なんだよ。なんか怒ってんのか?」

悟空は首を傾げた。天然の性質を持っているため、他人の気持ちを慮ることが得意ではない。

「働きもしねえのに、一年中修行にかまけて妻子をほったらかし。ようやく帰ってくるなり『メシはまだか?』って…ふざけるにも限度があるだ! オラは、悟空さのメシ炊き女じゃねえ!」

魔人ブウとの戦いの中で生き返った悟空。チチは夫が今度こそ、まともに働いてくれると期待していたのに、その願いはあっさりと破られる。以前と同じ、修行に日々を費やす生活だった。

もう敵なんていない、戦う必要もない。充分な強さを持っているのに、満足できない。それが戦闘民族サイヤ人の本能だとしても、一家の大黒柱としては問題だ。

「だれもそんなこと思ってねえって」

「だったら、自分が食べる分くらいは働いて稼いできてけろ。じゃないとメシ抜きだ! 働かざる者食うべからずって言うだべ!」

「そ、そんな」

本気で腹に据えかねている妻の宣言に、夫は大きなショックを受ける。

「メシ抜きじゃ動けなくなっちまう。だから、メシだけは食わせてくれよ」

「ダメだ!」

「メシが食えねえと、オラ死んじまうよ…」

「なに言ってるだ? もう二回も死んでるでねえか」

嘆く悟空に対し、チチは淡々と事実を指摘した。うっかり忘れていた当人は「あ、そっか」と納得する。しかしそれに乗せられて、食事抜きまで鵜呑みにするわけにはいかない。

「頼むよ、チチ。メシだけは――――」

「だったら、働いて生活費を稼いでくるだ」

「食べ物なら獲物を獲ってくるし、畑仕事もできるだけ手伝うからさ」

宇宙一の強さを持つ男も、妻にだけは勝てない、頭が上がらない。必死で宥めすかしては機嫌を直してもらうことに懸命だ。

「その程度じゃ、一日の食事にも足りないべ」

「そんなこと言ったって、チチのメシはうまいからどんどん食べちまうんだ」

「……お、おべっか使ったって!」

「本当だって。あの世でもいろいろな食べ物があったけど、チチの作ったメシ以上にうまいものなんて、ひとつもなかったぞ」

欺瞞など欠片もない、まぎれもない本音。純朴な言葉に戸惑っていると、悟空の腹から大きな音が聞こえてくる。

「なあ、もう腹ペコで我慢できねえよ。チチの作ったメシを食わせてくれ」

真摯な表情で頼まれれば、チチに拒否はできない。結局は丸め込まれてしまい、夫を働かせるという長年の悲願は、今日も果たされず終わることになった。

 

CASE‐2 クリリン&十八号の場合

都へショッピングに出かけた十八号とマーロンが帰ってきた。久しぶりだったので、カメハウスのリビングには大量の紙袋が並ぶ。満足な買い物ができた十八号は上機嫌。マーロンは新しい帽子が気に入ったらしく、浜辺でウミガメに見せていた。そんな娘の姿にクリリンは目を細めた。

十八号は買ってきたものをリビングに並べている。クリリンの普段着や自身の洋服、靴、アクセサリー。最も多いのが愛娘の着用するものだ。オシャレにこだわりを持っている十八号としては、娘にもそういう服を着せたい。靴や小物もカラフルな色合いのものをセレクトしていた。

「なあ、その服はちょっと派手すぎないか?」

まるでドレスのようなヒラヒラの服が、クリリンの目に留まる。

「これくらい普通だよ」

自ら選んで決めた服なので、十八号は自信を持っていた。

「でも、マーロンはまだ三歳だぞ」

「オシャレに年は関係ないだろ。似合っていればいいじゃないか」

「そうかな。もっと子どもらしい感じのほうが…」

素朴な顔立ちの娘に、こんなファッショナブルな服が似合うだろうか。マーロンは髪と瞳の色は十八号に似ているが、その他は全般的にクリリン寄りだった。

「あたしのセンスに文句があるって?」

「い、いや。そんなことは言ってない」

語気を強める十八号、言葉を濁すクリリン。この夫婦の間にケンカはなく、揉め事もさほど起こらない。それなりに年の差がある上、クリリンはおおらかな性分だ。十八号がつっぱった態度をとったとしても、それは本心じゃないと容易に見抜かれてしまうため、普段のやりとりの中で問題は修復されている。その点が、十八号がクリリンと結婚した理由かもしれない。

「マーロンはなにを着ても可愛いよ」

「だったら問題ないだろう」

「ただ…」

気がかりな表情のクリリンに、十八号は先を促した。

「ただ、なんだ?」

「マーロンが大きくなったら、十八号みたいに綺麗になるんだろうなと思うと、今から心配だなって。なんたって母親がこんなに美人だと、将来がさ」

告げられた台詞になにも言い返せない。クリリン自身は思ったことをそのまま口にしているだけなのだが、言われる側としては気恥ずかしくて仕方ない。

「十八号もそう思うだろ?」

同意を求められた十八号は、視線をそらしながら小さく頷いた。戦闘力では夫より強い妻だが、こういう面では完全に負けている。クリリンの素直な性格が、夫婦円満の秘訣だった。

 

CASE‐3 ベジータ&ブルマの場合

「あのさ、今日トランクスに訊かれたんだけど」

シャワーを浴びたブルマが、ベッドへ歩きながら問いかけた。広いベッドの片側には、ベジータがいつものように寝転がっている。

「なにをだ?」

「『おとうさんとおかあさんは、どっちが先に相手を好きになったの?』って」

ベッドに腰を下ろしたブルマの話を聞いて、ベジータは瞬時言葉に詰まった。

「改めて訊かれると考えちゃうわね?」

「フン、考えるまでもない」

すぐに気を取り直し、余裕の表情を浮かべながら答える夫。

「おまえだろ」

「あんたが先じゃないの? あんたがあたしを――――」

「勝手なことを言うな」

「異論でもあるの?」

「大有りだ。嘘八百をガキに教えてどうする」

どうやら互いの認識には相違があるらしい。意見が合致せず、口論へと発展する。

「あんたが先に、あたしを好きになったんでしょう?」

「ふざけるな。おまえが先にちょっかいを出してきたんだろうが」

「なによ、それ」

「ここへ誘ったのはおまえだろう」

「いつの話よ」

「ナメック星から地球へ飛ばされたあとだ」

「あんたには行くあてがなかったし。地球の平和のためっていうか…捨て猫を拾うようなものよ」

「なんだと」

「それよりあんた、かなり最初の頃に人の着替え、覗いたわよね?」

「あれは…! それを言うなら、おまえは寝たふりまでして据え膳まがいのことを」

「それは、微妙な時期だったから、試しにっていうか」

二人が一線を越えた当時のことを回想しながら、どちらも主張を譲らない。

「最終的に迫ってきたのはおまえだ」

「たしかにキスしたのはあたしだけど、押し倒したのはあんたよ」

「そうなったのはおまえが――――」

「女と違って、男は力ずくでは無理じゃない」

そこは男としてデリケートな問題だけに、ベジータは閉口した。

「大体、そうなってからはあんたが迫ってばっかりで」

口ごもった相手を見透かし、ブルマは続ける。当初の論点から、どこかずれているような気がしないでもないが、今さら止まらない。

「それは…おまえが誘ってるような格好をしてるからだろ」

「あたしは普通の格好をしてるだけよ」

「本気で嫌がってたら応じないだろ。すぐその気になって、乗ってくるのはだれだ?」

「な…なによ、それ! あんたが強引だから、拒んだって結局」

「どうだかな?」

「あんたが……だから」

「おまえが――――」

だんだんと露骨な表現になってきた夫婦の論争は、最終的な結論を得ることなく、深夜まで延々と続くことになった。

 


 
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