No.803328

九番目の熾天使・外伝 ~短編㉒~

竜神丸さん

彼女が彼に惚れたワケ その2

2015-09-20 20:52:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4752   閲覧ユーザー数:1178

「…ん、もうこんな時間か」

 

午後20時。既に真っ暗なこの時間帯にて、榊家では昼寝をしていた一哉がようやく目を覚ました。部屋の壁にかけられている時計を見て、今がもう夜だと気付いた彼はソファから起き上がり、キッチンに向かおうとする。そんな彼の視界に、再びあの額縁が目に入った。

 

「……」

 

額縁に入っている写真、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊定義(さかきさだよし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊美晴(さかきみはる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊英介(さかきえいすけ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊一哉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父、母、兄、弟。

 

榊家の一員が四人、笑顔を浮かべている姿が映っていた。

 

(…何故だ)

 

一哉はコップに淹れた麦茶を飲みながらも、自分の中の苛立ちに対して少なからず困惑していた。

 

「もう昔の話なのに、どうして俺は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『父さん……母さん……兄さん…?』

 

 

 

 

 

 

土砂降りの雨が降り注ぐ、街の交差点。幼き一哉の目の前には、凄惨な光景が広まっていた。

 

 

 

 

 

 

大型トラックと衝突し、ものの見事に大破した榊家の車…

 

 

 

 

 

 

潰れた車の運転席から僅かに見える、ピクリとも動く気配の無い父…

 

 

 

 

 

 

母が座っていた助手席から流れ出る、ドロドロの赤い血…

 

 

 

 

 

 

後部座席の窓から出ている、血にまみれた兄の右腕…

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、どうしたの…? 起きてよ……ねぇ…』

 

 

 

 

 

 

奇跡的に生き残ったのは、榊家次男の一哉だけ。

 

 

 

 

 

 

突然過ぎる家族との慟哭に、一哉の頭はそれをすぐに受け入れられなかった。

 

 

 

 

 

 

駆けつけた救急車のサイレンが聞こえる中、一哉は雨に濡れながらただ見ている事しか出来なかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-パリィンッ!!-

 

「…くそっ」

 

かつての光景がフラッシュバックし、一哉は思わず持っていたコップを壁に叩きつけた。割れたコップの破片が床に散らばるのに目も暮れず、一哉は少しでも苛立ちを発散しようと冷蔵庫を開けようとする。

 

『一哉、起きてるか?』

 

「…!」

 

そんな時、一哉の目の前に映像が出現し、そこにはロランの姿が映し出される。夕食を用意しようとしていた一哉は小さく舌打ちする。

 

『今、さりげなく舌打ちしなかったか?』

 

「気の所為だ」

 

『…まぁ良い。今起きたのか?』

 

「あぁ」

 

『なら、お目覚めのところ悪いな。ちょっとばかし事件だ。今、大丈夫か?』

 

「…あぁ、大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ」

 

一方で、アリスは大きく溜め息をついていた。

 

突然バイクから変形したロボットからロランと共に逃げ切った後、ロランから「今日は早いところ家に帰った方が良い」と言われ、その言葉に従った彼女は適当に捕まえたタクシーに乗り、トーレアリア家の屋敷まで帰ろうとしているところだった。

 

(もう嫌……何なのよ、あの変なロボットは。ロランさんのおかげで逃げ切れたから良いけど……そういえば、逃げてる途中で聞こえたあの爆発音は何だったんだろう…?)

 

突然バイクから変形したロボットは、明らかにアリスを狙っていた。フルフェイスの男に化けていた時は猛スピードで突っ込み、ロボットに変形した時はアリス目掛けてガトリングを乱射。明らかに適当に襲って来たとは思えないような動きだった……最も、そのロボットは既に、ある人物によって破壊された後なのだが。

 

(でもロランさんは凄いわ。あんな状況で冷静に動けるなんて、まるで英介さんみたい……それに比べて、アイツは本当にムカつくわね……何で父さんも母さんも、あんな奴を許嫁なんかに…)

 

「…あぁもう腹立つ!!」

 

「!? お客さん、どうかなされましたか?」

 

「え、あ、すみません…」

 

一哉の事を思い出すだけでイライラして来たアリスは、目の前の助手席に思いきり頭をぶつける。それに突然驚いたタクシーの運転手が心配そうに声をかけ、ハッと我に返ったアリスはすぐに謝った。

 

(もう嫌、しばらく寝よっと…)

 

とにかく、今は他にイライラを発散する方法は無い。アリスは後部座席に後頭部をつけ、そのまま静かに眠りに落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大蛇(オロチ)だと?」

 

「あぁ」

 

場所は変わり、とあるビルの屋上。そこでロランと合流した一哉は、ロランからある情報を伝えられていた。

 

大蛇(オロチ)ってのは、この多次元世界の裏社会で暗躍している殺し屋集団、その組織名だ。主な仕事内容は、裏社会で発生した揉め事の後始末、そして裏社会に首を突っ込んで来た人間の排除。組織その物は八つの実働部隊と、それらを率いるリーダーで形成され、リーダーは「頭領」と、八つの実働部隊に配属されたそれぞれの隊長格は「頭」と、それ以外の構成員逹は「牙」と呼ばれる風習が存在している」

 

「…その大蛇(オロチ)が、この海鳴市に潜んでいると?」

 

「あぁ。ついさっき、俺の上司であるカンナ隊長から言い渡された情報だ」

 

「カンナ隊長……氷より冷たい心臓を持つと言われてる、東雲環那(しののめかんな)一等空佐の事か?」

 

「うぉい、そんな風に噂されてんのかあの人……まぁ、お前の認識でも割と間違いではないけどな。一言で告げるとすれば、まさにドSだ」

 

「…ドS?」

 

「そう、ドSだ……誰にもチクらないでくれよ? もし本人にバレたら俺が拷問されちまう」

 

「そ、そうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――へくちっ!」

 

そのドSな女戦士が、街中で可愛らしいクシャミをしていたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まぁ、それはともかく。カンナ隊長の話によると、その大蛇(オロチ)の「牙」と思われる人物が、この海鳴市の何処かに潜伏しているとの事だ。その「牙」の名は……モディ・ブレッセン」

 

ロランは一哉の前に映像を映し出す。その映像には、黒いスーツに赤い蝶ネクタイを身に付けた、銀髪で壮年の男性が映し出される。

 

「第18管理世界、ムースタウンにて発生した子供誘拐事件の首謀者と思われる男だ。どういう訳か、奴が出没した次元世界では十代前半の幼い子供ばかり誘拐される事件が多発している」

 

「子供を? 一体何の為に…」

 

「さぁな、俺にも分からん。何にせよ、奴に誘拐されればただじゃ済まないのは確かだ。実際、奴に誘拐された子供達の中には、無惨な姿に変わり果ててから帰って来た子供もいるらしい……一哉、お前やアリスちゃんが奴のターゲットにされる可能性だってあるんだ。充分に警戒しろ」

 

「…あぁ」

 

「…あのなぁ一哉。アリスちゃんの名前を出した途端、急に嫌そうな顔すんのやめろよな。見てるこっちまでキツいからさ」

 

「アンタには関係の無い話だろう」

 

一哉がフンと鼻を鳴らすのを見て、ロランは呆れた様子で告げる。

 

「いい加減、アリスちゃんに伝えないのか?」

 

「…何の話だ」

 

「とぼけるな。お前がわざとアリスちゃんに嫌われようとしてる事くらい、俺にだって分かるぞ」

 

「違う! 俺はただ…」

 

「ただ、何だ?」

 

「ッ……それは…」

 

反論しようとした一哉の言葉が詰まる。普段はクールながらも強気な態度を取る一哉だが、ロランに真剣な目で見られている時は、彼は普段の強気な態度を取れなかった。これは一哉だけでなく、アリスも同じだ。ロランに対してのみ、二人は年相応の弱い部分を見せる。

 

「…今はまだ、言わないでくれ。お願いだから…」

 

「…まぁ、俺も今はこれ以上言わんよ。伝えたいタイミングで、お前がしっかり伝えるんだ」

 

「…うん」

 

怒られた子供のように顔を伏せる一哉の頭を、ロランが右手でポンと触れる。傍から見れば、今の二人の様子はまるで兄弟のようにも見えるだろう。

 

「…さて、話を戻すぞ。モディ・ブレッセンの居場所を掴む為のサーチ魔法は既に展開してある……が、特定は難しいだろうな。奴はかなり異端な存在だ」

 

「異端…?」

 

「モディ・ブレッセンは機械を操る能力に長けているらしくてな。自動車などの乗り物も自由自在だ。俺とアリスも今日の昼間、バイクから変形したロボットに襲われたばかりだ」

 

「!? ロランさん、何でそれを早く言わないんだ!!」

 

「そのロボットから逃げた後、俺は何度もお前に連絡取ろうとはしたさ。お前は寝てたみたいだがな」

 

「あ……すまない」

 

「…で、アリスちゃんを逃がしてから戻ってみたところ、ロボットは既に何者かに破壊された後だった。現場に散らばっていた破片やパーツなどを一通り調べた結果、パーツの中から棘状の小さな端末が発見された。モディ・ブレッセンが埋め込んだ物と見て間違いない」

 

「魔力サーチャーで発見は出来ないのか?」

 

「問題はそこだ。カンナ隊長から渡された情報によると、奴はAMFの機能も所有してるらしくてな。恐らく簡単には見つからんだろう」

 

「AMF……また厄介な物を持ってるんだな」

 

「おまけに、大蛇(オロチ)は蜥蜴の尻尾を切るのが上手い。今まで大蛇(オロチ)の構成員と思われる者は何人か捕まえられたみたいだが、そいつ等が口を割る事は無かった。捕まってその数日後には、そいつ等は死体になっているからな」

 

「…口封じという事か。また、面倒な組織が絡んで来たな」

 

その時…

 

『~♪~♪♪~~♪~』

 

「ん?」

 

ロランの上着のポケットから携帯電話のメロディが鳴り響いた。何事かと思い、ロランは携帯電話を取り出して電話に出る。

 

「もしもし……あ、デイビットさん?」

 

『おぉ、ロラン君か。今、アリスはそっちにいるかね?』

 

「いえ。アリスちゃんならさっき、タクシーで帰らせた後ですが…………え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリスちゃん、まだそっちに帰ってないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前…

 

 

 

 

 

 

「―――様…」

 

「ん、ぅ…」

 

「お客様、到着しましたよ」

 

「…え?」

 

すっかりタクシーの中で寝てしまっていたアリス。彼女は運転手に声をかけられる事で、やっと眠りの中から意識を呼び覚ました。

 

「…あ、す、すみません! すぐに降ります!」

 

アリスは慌てて起きてから財布を取り出し、タクシー代を支払おうとする……が、ここで彼女は気付いた。自分達が今いる場所が、トーレアリア家の前ではなく、人気の無い工場跡地である事に。

 

「あれ…………あ、あの、目的地はここじゃないんですけど…」

 

「えぇ、分かっています」

 

アリスの疑問を他所に、運転手はタクシーから降りて振り返る。

 

「もちろん、代金も必要ありません。何故なら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代わりに、あなたの身柄を頂きますからねぇ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ひっ!?」

 

運転手―――否、モディ・ブレッセンが楽しそうに舌舐めずりをするのを見て、アリスは悟った。

 

自分は今、誘拐されかけているのだと。

 

(に、逃げなきゃ…!!)

 

アリスは怯えた表情でタクシーのドアを開けようとする……が、ドアは何故か開かない。

 

「な、何で……キャアッ!?」

 

その時、アリスの乗っているタクシーが瞬時に変形し、巨大なゴリラのようなロボットに変化。中に乗っていたアリスは変形中に外に追い出されると同時に、ゴリラ型ロボットの大きな手に捕まってしまう。

 

「だ、誰か助け…あぐ、ぅ!?」

 

「無駄ですよ。あなたは逃げられません」

 

助けを呼ぼうとするアリスだったが、ゴリラ型ロボットに強く握り締められた所為でそれは叶わない。そんなアリスが苦しむ顔を見て、モディは下卑た笑みを浮かべる。

 

「ではお嬢さん、あなたも候補の一人として連行させて頂きます。ご安心下さい。あなた以外にも、お仲間さんをたくさん捕まえて来て差し上げましょう…ホーッホッホッホッホッホッホッホッ♪」

 

(ッ……誰か……助け、て…)

 

モディの笑い声も、アリスの耳には小さく聞こえていた。そしてアリスはそのまま、何も聞こえなくなるくらいにまで再び意識を失ってしまった。それを見たモディは残念そうに呟く。

 

「おやま、もう気絶してしまいましたか。つまらん……まぁ良いでしょう。ウォーリアーよ、他の子供達を連れて来なさい」

 

モディが指を鳴らすと、アリスを掴んでいるゴリラ型ロボットではなく、一台のダンプカーがモディの目の前で停止。ダンプカーの荷台には、ロボット達によって誘拐されたと思われる子供達が、ロープで縛られた状態のまま何人も乗せられていた。その子供達を見たモディは「おぉ♪」と楽しそうな表情を浮かべる。

 

「素晴らしい! この子達なら、我々の「頭」もさぞかしお喜びになるでしょう♪」

 

「…ぅ」

 

「!」

 

その時だった。縛られていた子供の中で一人、黒いボブカットヘアの少女が目を覚ました。それに気付いたのかゴリラ型ロボットは音を立てず瞬時にタクシーに戻り、モディはニコニコ笑みを浮かべながら少女に声をかける。少女はここが自分の家ではない事に気付き、訳が分からなそうな表情で周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「え……あれ…? ここ、何処…?」

 

「初めまして、お嬢さん。今からオジサンが、君達を楽しい場所に連れて行ってあげます♪」

 

「え……オジサン、誰……いや、お家に帰して下さい…!」

 

「おやおや、そう言われても困りますねぇ。あなた達はあの方に選ばれるかも知れないのですから、帰す訳にはいきません。でも大丈夫です。とっても楽しい事が、あなた達を待っていますから♪」

 

「い、いや! 帰して下さい、お願いです…!」

 

「…ちったぁ言う事を聞けやガキが!!」

 

「あが…!?」

 

怯えた様子で言う事を聞かない少女に、モディは先程までの穏やかな口調から乱暴な口調に変化。少女の頬を思いきりビンタしてから、少女の首と頭を掴んで持ち上げる。

 

「全く、子供というのは我儘な生き物だから困る…………まぁ、一人くらい摘まみ食いしても文句は言われんか」

 

「…ッ!?」

 

モディは小声でブツブツ呟いた後、自身の背中から蛇のような長いアームを四本ほど出現させ、それぞれ少女の手足を掴んで拘束。何が何だか分からないでいる少女の唇に、モディは無理やり自身の唇を押し付けた。突然の行為に驚いた少女は首を振って抵抗しようとするが、モディは少女の頭を掴んで離さず、少女の口の中に唾液まみれの舌を侵入させる。

 

「ん、んむぅ…!!」

 

モディに何度も舌を絡まされ、少女の目には涙が浮かび上がる。数十秒が経過してようやくモディの唇が離れ、二人の舌に唾液による銀色の橋がかかる。

 

「ぷはぁ! …良いですねぇ、お嬢さん。君は実に良い」

 

「ひっ……い、嫌、やめて下さい…!」

 

「駄目だ。君はもう私の物だ……私のコレクションに、ぜひ君を加えさせて貰いますよ…!」

 

「い、嫌ぁ……んぶぅ…!!」

 

少女の口の中にゴムボールを突っ込んだ後、モディは少女が着ていたワンピースに手をかけ、胸元から左右にビリビリ引き裂いた。若干だが膨らみかけている少女の胸が露わになり、モディは興奮した表情で再び舌舐めずりをする。

 

「あぁ、良い…! 実に良い身体ですよお嬢さん……あぁ、もっと味わわせて下さい…!」

 

「んん、んむぅぅぅぅぅ…!!」

 

モディは少女を地面に押し倒し、そのまま少女の上へと覆い被さる。少女はゴムボールを咥えさせられた所為で悲鳴を上げる事も出来ず、成す術も無くその無垢な身体をモディに汚く貪られ、無惨に穢されていく。モディのつまみ食い(・・・・・)は、まだまだ始まったばかりだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市から大きく離れた、ある小さな街…

 

 

 

 

 

 

『ギ、ギギ……ギィ…ッ…!!』

 

「つまらん。所詮はただのハリボテ、という事か…」

 

こちらでも、モディの解き放ったロボットが活動していた。最も、そのロボットもまた、ある人物によって既に半壊状態だったが。その人物―――黒い神父服を着た男はつまらなさそうな表情を浮かべ、倒れているロボットを見下ろしながらその頭をグシャリと踏み潰す。

 

「失せろ」

 

『ギ、ィ…』

 

頭を踏み潰され、ロボットは完全に機能を停止。ピクリとも動かなくなった。男はフンと鼻を鳴らしてから、動かなくなったロボットを右足で蹴り飛ばす。

 

 

 

-ドゴォンッ!!-

 

 

 

「…チッ冥か」

 

「ちょっとリョウ、いきなりこっちに飛ばさないで頂戴。危ないでしょう?」

 

蹴り飛ばされたロボットが、一瞬にして粉々に砕け散る。破片がそこら中に散らばる中、黒コートを羽織った紫髪の女性―――藤美冥(ふじみめい)が、神父服の男―――高槻亮(たかつきリョウ)に対して薄い微笑みを浮かべながら文句を告げる。

 

「危ないだと? その飛ばしたハリボテを、粉々に粉砕してみせた奴が言う言葉ではないな。冥とやら」

 

「あぁ言えばこう言う……砕いた時の破片で、私の肌に傷でもついたらどうするのよ。せっかく綺麗に化粧したばかりなのに」

 

「ほぉ、おかしな事を言うじゃないか。私には汚いババァしか目に映っていないのだが?」

 

「喧嘩を売っているのかしらエセ神父? 今のは挑戦と受け取って良いのね?」

 

「…戦るか」

 

「…戦ろうじゃないの」

 

「やめんか」

 

火花を散らし合う冥とリョウだったが、そんな二人の間に青髪をポニーテールに結んだ青年が割って入り、二人を仲裁。冥は青年を見て「あら」と声を漏らし、リョウは「チッ」と舌打ちする。

 

「ソラ・タカナシか……邪魔をするな」

 

「そういう訳にもいかん。ここで暴れたら、クライシスが怒るぞ、リョウ殿」

 

「…ふん」

 

青髪の青年―――ソラ・タカナシの言葉に、リョウは不服そうな表情を浮かべながらも大人しく引き下がる。

 

「それでソラ君。私達をここまで呼び寄せた、肝心の本人は何処にいるのかしら?」

 

「ここにいるさ」

 

「「!!」」

 

ある男の声が聞こえて来た。

 

同時にリョウは拳を、冥は魔力弾を真後ろに向かって放ち、現れたシルクハットの男はその両方を素手のみで弾いてみせた。リョウと冥は後方に下がり、リョウは小さく舌打ちする。

 

「ふん、相変わらず腹の底の読めん男だ…」

 

「それは何よりだ。冥、君も相変わらず良い腕前だ……ところで、白夜は何処にいる?」

 

「あぁ、白夜なら…」

 

「……」

 

その時、近くの街路樹の陰に隠れていたピンク髪の少女がひょこっと顔を出した。少女は冥の傍まで寄った後、冥の後ろから覗き込むようにクライシスを見据える。

 

「やぁ、こんにちは白夜」

 

「…!」

 

クライシスが挨拶すると、少女―――藤美白夜(ふじみびゃくや)は無表情ながらも恥ずかしげに冥の後ろに素早く隠れる。これにはクライシスも若干だが寂しげな表情になる。

 

「む……やはり、私は怖がられる一方か」

 

「それよりクライシス。私達をここに呼んだ理由を説明して貰おうか。まさか、さっきのハリボテみたいな連中を駆除する為だけに呼んだ訳じゃあるまい?」

 

リョウのこの問いかけに、クライシスはすぐに真剣な表情に戻る。

 

「…今、この世界に大蛇(オロチ)の構成員が潜伏している。一つ目の仕事は、その構成員の始末だ。奴等も奴等で実力はあるが……旅団の傘下に加えるには、少々我が強過ぎる」

 

「それで、二つ目は何かしら?」

 

「二つ目の仕事は、ナンバーズ候補の調査だ。現時点ではデルタ、Unknown、朱音の三人がナンバーズの一員として決定し、あのロスト・ハーヴェイもナンバーズ入りが決まりかけている。更にナンバーズの一員を増やしていくからには、それなりの実力者を見つけ出す必要がある」

 

「そのナンバーズ候補の事だが」

 

ソラが会話に割って入り、他の四人の視線がソラに集中する。

 

「今、海鳴市にそれなりの実力を持っていそうな奴が一人滞在している。もしかしたらそいつは、旅団にとってかなりの戦力になり得るかも知れない」

 

「あらま。ソラ君ったら、本当に仕事が早いわね」

 

「役に立たなければ意味は無いがな……どうなんだ? そいつは」

 

「まぁそれは、そいつの戦闘を直接見てからアンタ逹で判断してくれ。ちなみにその候補の名前は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊一哉。時空管理局に身を置いている、嘱託魔導師の一人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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