No.790006

真・恋姫無双 刀蜀・三国統一伝 第十節:建業への帰還、眠れる桃香。

syukaさん

何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。

2015-07-17 02:27:20 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4239   閲覧ユーザー数:3569

まえがき

コメントありがとうございます。そしてお久し振りでございます。肩凝りと腰痛に頭を悩ませているsyukaでございます。どうにか生きてます・・・、はい。第十章ついに始まります!物語もついに終盤へと突入しました。うちのコンセプトは相変わらずですが、これからも気ままに読んで頂ければ幸いです。はてさて、赤壁戦も終わり、残りは魏との決着を残すのみ!となるのが本来の流れですが、そうは問屋が卸さないのが刀蜀伝でございます。彩鈴ちゃんたち四獣も加わり賑やかになった恋姫物語をこれからもよろしくお願い致します。それでは、ごゆっくりしていってください。

 

 

 桃香が倒れた・・・その事だけが頭の中を埋め尽くしている。俺が倒れたときも、皆こんな気持ちだったんだろうか。

 

「鈴、戦も終わった。 建業に戻ろう。」

「焦る気持ちも分かるが、そう慌てるな。」

「けどっ!!」

 

 皆まで言わずとも、お前の気持ちは皆に伝わっている。

 っっ・・・。

 

「一刀さん、地上に戻られるのでしたら私たちも連れて行ってください!」

「彩鈴ちゃん?」

「私にも一刀さんの気持ちが伝わってきました。 一刀さんの心の中、真っ暗で何も見えない状態になってます。 残ってるのは激しい怒りと悲しみだけ・・・そんな状態の一刀さんをそのままに出来ません!」

「お兄さん、私たちにもついて来てって言ってよ! 私たちも力になるのに・・・水臭いなぁ。」

「そ、そうですよ。 でないと私たちと契りを交わした意味がありませんし・・・。」

「そうよそうよ!! 私も力になるって言ったじゃない! こういう時こそ私たちに頼りなさいよ・・・。」

「・・・置いていかないよ。 約束したもんね。 けど、今回ばかりは自分の制御が取れなくなる可能性が高い。 そのせいで・・・俺のせいで彩鈴ちゃんたちを傷つけるかもしれないと思ったら・・・怖いんだ。」

 

 今だって心の中にどす黒い闇が渦巻いてる。こうやって、普通に彩鈴ちゃんたちと話せていることが不思議なくらいだ。

 

「これこれ、あまり気を乱すでない。」

「盤古さん・・・けど! 俺の桃香が! 大事な人が傷つけられたんだ! 彼女が泣いてたんだ・・・それに対して気を乱さない訳が・・・」

「喝っ!!」

「っ!!??」

 

 突然の盤古さんの大声に怯んでしまった。

 

「ふぉっふぉっふぉ。 頭の熱も少しは冷めたかの?」

「・・・はい。 取り乱してすみません。」

 

 頭から血が下りていくのが分かる。

 

「何も、お主の気持ちが理解できぬわけではないのじゃ。 じゃが、そこでお主が己の心の行くままに行動すれば、行き着く先は暴走と破滅。 良い方向には行かんじゃろうて。」

「じゃあどうすれば・・・」

「お主には幾人もの仲間がおるじゃろ。 もっと頼れ。 己の頭で解決できぬのなら知恵を借りるのじゃ。 それこそ人生経験で言うなら儂らや項羽が修羅場を潜っておる。」

「我は人間ではないがな。」

「これ、茶々を入れるでない。」

 

 鈴のさり気ない一言で、ピリピリしていた空気がほどよく弛緩してきた。心に渦巻いていた闇も少しずつなりを潜めていっている。

 

「とりあえずは下界へ一度降りるが良いじゃろ。 倒れた仲間の顔でも一目見ると少しは安心するじゃろうて。」

「・・・分かりました。 色々と、お世話になりました。」

「なーに、お前さんならいつでも来れるのじゃ。 首を長くして待っておるわい。 麒麟たちも、帰る場所はここにあるのじゃ。 爺の顔でも見たくなったらいつでも帰ってくるがええ。」

「はい!」

「そうね。」

「了解!」

「行ってきます!」

「盤爺、枝乃も、ここの管理は引き続き任せたぞ。」

 

 

「ふぉっふぉっふぉ! 隠居生活の爺に管理なぞ向かんわい! そのへんは他の者に任せておくかのぉ。」

「黄竜様、麒麟様方、行ってらっしゃいませ。 一刀様、麒麟様方のこと、よろしくお願い致します。」

「はい。 確かに任されました。」

「いつも湖から見守っておきますので。 それと麒麟様。 こちらをどうぞ。」

「わぁ! こんなにいっぱい! 枝乃、ありがとう!!」

 

 枝乃さんから林檎がところ狭しと詰まった籠を受け取った彩鈴ちゃんが目を輝かせている。こういうところが無邪気というか・・・幼さが残っていて可愛いんだよなぁ

 

「一刀様にはこちらを。」

「これは・・・」

「女媧が最初に植えた木から採れた林檎です。 お一つは一刀様が、もう一つは倒れられた方に食べられてください。」

「・・・真っ白な林檎。 珍しいですね。」

「えぇ。 貴重な物ですので。 味は私が保証しましょう。」

「ありがたく頂戴します。」

「では戻るとするか。 盤爺、枝乃よ。 後のことを頼む。」

 

 俺たちは盤古さんたちに別れを告げ、聖園と下界を繋ぐ扉を潜った。

 

・・・

 

「・・・杏はともかく、ちゃっかり枢もついてったわね。」

「項羽や、お前さんは己の孫の真域にいなくて良いのか?」

「一刀の闇を一時的に無理やり真域の奥底へ追いやった張本人がよく言うわ。」

「おや、何のことかのぉ? 最近物忘れが激しく・・・」

「まぁ、ボケ爺の戯言は別にいいわ。」

 

 大袈裟に項垂れている爺を気にしている場合ではないのよ。

 

「枝乃、あれを一刀に渡した思惑は何かしら?」

「思惑などと大層なものではありません。 私からのささやかな贈り物です。 恩返しといった方が良いでしょうか。」

「恩返し?」

「えぇ。 ・・・麒麟様の笑顔を取り戻してくれました。 白虎様や玄武様たちにも迷惑な顔一つせず遊びに付き合っていただき、しかも契りまで結んでいただきました。 まだ人間の身であった頃の私は子宝に恵まれず、彼女たちの事を少なからず自分の子、孫のように思っています。 そんな彼女たちに良き相手が見つかったのです。 嬉しくないわけがありません。」

「ということは、私と枝乃は親戚になるわねぇ。」

「それはそれは、何とも恐れ多いことです。」

 

 そう言いつつも優しげに目を細める枝乃。孫を嫁に出す爺というよりも、お付きのお嬢様が他家に嫁ぐ時の執事と言ったほうがいいかしら。紳士的な雰囲気からはそちらの方が彼にピッタリのように思えるわ。

 

「伏羲と女媧から一刀様へ原初の林檎を渡すことは了承をもらっているので、問題はありませんよ。」

「・・・あの万年付き合いたて夫婦はどこにいるのかしら。」

「数刻前に下界へ向かいましたよ。 女媧など、鼻歌まで歌っていましたから、相当機嫌が良いのでしょう。」

 

 ・・・厄介な時に厄介なのが増えるわねぇ。しかも二人も。

 

「けれど、あの林檎をよく二つも貰い受けられたわね。」

「伏羲は渋い顔をしていましたが、女媧は二つ返事で了承してくれましたよ。 『好きあっている者の手助けが出来るのならば何も遠慮は要りません。 また熟すまで六千年待てば良いだけのことです。』とね。」

「女媧らしいのぉ。 じゃが、一刀殿にとってはどうじゃろうか・・・。」

「大丈夫でしょう。」

「根拠はなんじゃ?」

「項羽様のお孫様なのですよ。 その点だけでも信頼の置けるというものです。 それに・・・ふふっ。 一刀様はあの方によく似ていらっしゃいますので。 麒麟様方が一刀様に対してすぐに懐かれたのは、そこにも関係しているのではないかと。」

「一刀に似ている者・・・」

「おや、噂をすればいらっしゃいましたね。」

 

 

 私たちの頭上に現れた一匹の雄々しき成鳥。持ち前の神々しさは変わってないわね。

 

「お二人で何か楽しそうなお話をされているように見受けられました! 私も混ぜてくださいな。」

 

 彼女は人の姿へと変えた途端に、こちらへスキップしながら駆け寄ってきた。菜の花色から毛先にかけて薄紅色にグラデーションの掛かった髪が、走ったせいで風に煽られあちこちに跳ねている。神々しさとは裏腹にとても好奇心旺盛というか無邪気というか・・・本質的には子供と対して変わらないのよね。

 

「鳳凰様、二人ではありませんよ。 盤古様もそちらにいらっしゃいます。」

「お爺様は何やら悄気ているので、触れない方が良いかと察しました。」

「合ってるけど、何気に酷いわね。」

 

 今思うと、・・・見た目年齢的には私よりも少し幼いくらいなのに、中身は管轤にうーちゃんを足して割ったようなものなのよね。

 

「それでそれで! どんなお話をされていたのですか!?」

 

 これで四神の長というのだから驚きよね。・・・えぇ、実力も伴っているから文句はないのだけれど。

 

「何も面白い話ではないわ。 貴女と私の孫がどこか似ていると枝乃が言うから・・・」

「美桜さん、お孫さんいたんですか!?」

「・・・えぇ、そうよ。」

 

 気になりだしたら間髪入れず突っ込んでくるわね・・・昔と姿も中身も何も変わってないようで、少し安心したわ。

 

「美桜さんのお孫さんはどこにいらっしゃるのですか?」

「貴女とすれ違いで下界に降りたわ。」

「えぇぇーーー!!?? 何で言ってくれなかったんですかー!!」

「だって貴女、いつもふらふら~とどこかへ行って、戻ってくるのも気まぐれじゃない。 伝えられないのも無理はないというものよ?」

「ぶーぶー。」

「そんなに不貞腐れないの。」

「いいですよー。 私、今からお孫さんを追います!」

「・・・あの子のこと、見たことあったかしら?」

「少し前に彩鈴ちゃんと一緒に湖から見ていたので大丈夫でーす!! じゃ、行ってきまーす! 枝乃さん、後はお任せしますねー!」

「はい。 行ってらっしゃいませ。 お気を付けて。」

「はーい♪」

 

 ・・・スキップしながら扉をくぐり行ってしまった。

 

「・・・はぁ。 虹心(ココロ)は昔とちっとも変わらないわね。」

「良いことではないでしょうか。 鳳凰、皆を照らす日輪であれ。 邪を身に纏わず、他者の闇を祓いし者。 まさに鳳凰様はそれを体現していらっしゃいます。」

「確かにそれも彼女の魅力の一つね。 ・・・虹心に芳乃に管轤、それに加えて白琥ちゃんにうーちゃんもいるわね。 やんちゃな子達が多いから、一刀が気苦労するのが目に浮かぶわ。」

「お主も十二分にやんちゃじゃよ。 お主だけでなく、黄竜たち四竜に四獣相手でも臆せず上手くやれておるのじゃ。 今更になって鳳凰や九尾が増えたところで、どうという事はないじゃろうて。」

「私は一刀のおばあちゃんだから問題ないわ。」

「自分で言う言葉じゃなかろうて・・・。」

「ふふっ・・・話が一段落ついたところで、私は畑に戻ります。」

「一刀にお土産、ありがとうね。」

「恐縮です。 それと、その件につきましては女媧本人に言ってやってくださいませ。」

 

 老体とは思えないほどの紳士ねぇ。黒いスーツを着たら似合いそうね。私たちに一礼すると、彼は畑へと戻っていった。

 

「なんで枝乃に伴侶がいないのかしら?」

「あやつは民草に精を出しすぎていたからのぉ。 じゃが、麒麟や朱雀らのように己の子と思える子らと出会えたのじゃ。 本人はさして気にしとらんじゃろ。」

「そうねぇ。 芳乃にとっての一刀みたいな感じかしら?」

「玄女にとっての一刀殿はどちらかというと、友人や弟という感じじゃろうな。」

「・・・そうね。 まぁ、あの子がはしゃぐ気持ちも分からないではないのよね。」

 

 

元々二人で一つの体を共有していた私たちにとって、美桜として下界に降りた時点であの子の存在を知る者はいない。子供が出来ても神戸を持つ者でなければ、私の中の芳乃の存在を認識できない。私たちと杏しかいない真域の中、あの子の性格を考えると毎日が退屈で仕方なかったろうに・・・。

 

「・・・今思えば、一刀が生まれたとき、初孫が出来た私より喜んでいたわね。 初めて出来た友達のような、弟のような・・・ふふっ、 あの子ったら、一刀が私のうちに泊まりに来て寝静まったら、こっそり私と入れ代わって抱っこして一人で興奮していたわね。 可愛い可愛いって。 一刀の真域が闇に飲み込まれそうになったとき、塞き止める役をやると言いだしたのも芳乃だった。」

「容易に想像がつくのぉ。 あの当時、老体の儂の身を案じてくれたのも玄女だけじゃった・・・お前や先代黄竜たちと来たら心配の欠片もなかったからの。」

 

 懐かしさに浸る盤古。身の心配もなにも、私や芳乃が子供の頃からこの見た目で、そこからおおよそ二千年は経とうというのに皺の数ひとつ増えた形跡がなく、

 

「そろそろ年かのぉ・・・。」

 

 こんな台詞を何万回と聞かされては心配の欠片も無くなるというわよ。ちなみに私は三回目以降から気にしないことにしたわ。一々相手にしていたら面倒くさいもの。

 

「・・・ひとまずは、私も建業に戻るわ。 芳乃も現地へ向かったみたいだし、三人とも一刀の真域から離れているというのもまずいもの。」

「そうじゃな。 ひとまず、虹心の手綱はお主に任せるぞ。」

「芳乃だけで手一杯だっての。 じゃあね、盤古。 また近いうちに顔を見せに来るわ。」

「首を長くして待っとるわい。」

 

 さて、私も可愛い家族たちの様子を見に行きましょうか。

 

・・・

 

 承知いたしました。菊璃たちには私の方で状況を説明しておきますので、一刀様たちは建業へとお戻りください。すぐに後を追いますので。

 よろしくお願いします。

 

「まったく、静空にまで一刀の焦りが伝わっておったではないか。 もう少し落ち着けと言ったろうに。」

「け、けど、私は一刀様のお気持ちも分かりますよ?」

「ありがと、茶々ちゃん。」

 

皆で鈴の背に乗り滑空を続けることおおよそ五分、目的地である建業へと辿りついた。地上へ足を付けるか付けないかのところで、俺は身を乗り出した。一刻も早く桃香の顔が見たい。その一心だけで、俺が城へ向け全力疾走するには十分な理由だった。

 

「おい、あまり身を乗り出すな・・・っと言う前に行ってしまった。」

「おう、姐さん。 お帰り。 随分と大変なことになってやがんな。」

 

 建業の側まで近付き、着陸を終えると燼が荒野で待っていた。ふむ、一人とは珍しいな。

 

「詳しい事情は抑えられたか?」

「いいや、あたいは何も。 戦場までちゃっかり行ってた零に聞いた方が手っ取り早いだろうと思ってよ。」

「ふむ、それならば静空ら一行と合流した後にした方が良さそうだ。 彩鈴たちを皆に紹介せねばならぬしな。」

「・・・私たちの紹介より、一刀さんの方が心配です。」

「だな。 あたいとすれ違っても視線一つ合わせなかったあたり、ありゃ相当焦ってんな。」

「ところで、漆と零はどうした?」

「漆は蒼と警邏中だぜ。 零は建業に戻ってきたと思ったらずっと桃香の側だ。」

「そうか。 あの二人にも近況は伝わっているだろうが・・・とりあえず、漆を城に来るように伝えてくれ。」

「承知した。」

 

 燼は踵を返すと城の方へ向けて駆け出していった。

 

「・・・一刀には私と違い、大切な仲間が出来たのだな。 幼い頃の一人で泣いていた小さな一刀はもういないと思うと、少し寂しい気もするが・・・随分と立派になった。」

「ヴリトラ・・・貴女ねぇ、孫の成長を思うお婆ちゃんみたいな言い草になってるわよ。」

「女狐・・・貴様までついてきていたか。」

「あら、ついてきてはいけないとは言われていないわ。」

 

 

 この面倒なときにより一層面倒な奴が・・・ほぼ間違いなく、城には既に芳乃も入城している事を考えると・・・

 

「はぁ・・・。」

「鈴さんが随分と大きなため息を吐いて・・・どうされたのですか?」

「いや、何でもない。 気にするな。」

「??」

「と、とりあえず! 私たちもお城へ向かいませんか? ここで立ち話するのも何というか・・・」

「茶々の言うとおりだな。 このままでは埒が明かん。 後を追ってきている美桜や静空たちが到着する前に、ある程度の話はしておいた方が良いだろうしな。」

「私は一足先に一刀の下へと向かう。 お前たちは城の者たちと話を進めておいてくれ。」

「了解した。」

「えっと、ヴリトラさん・・・でいいですか?」

「杏でいい。」

「では杏さん。 一刀さんの居場所は分かるのですか?」

「一刀の真域を探せば良いだけのこと。 造作無いよ。」

「そうですか。」

「あぁ・・・では、お先に失礼する。」

 

・・・

 

 とりあえず謁見の間まで走ってきたんだけど・・・誰かいないかな?

 

「んっ? ・・・っ! ご、ご主人様!?」

「愛紗!! 桃香はどこ!?」

「お、落ち着いてください!」

「あっ・・・ごめん。」

「いえ・・・。」

 

 少し気まずい空気が漂う・・・けど、桃香が倒れたというのに愛紗が一人で謁見の間にいるのは何故・・・。

 

「とりあえず、お帰りなさいませ、ご主人様。」

「う、うん。 ただいま、愛紗。」

「それで、桃香様ですが・・・戦が終わる直前に倒れられて・・・これまで一度も意識を取り戻していません。」

「・・・っ!!」

「戦には勝ったというのに、私は桃香様をお守り出来なかった! ご主人様がいなかったあの場で私が一番に目を向けていなければならなかったのに・・・!!」

「愛紗・・・。」

 

 多分、理解はしているのだろうな。今回の件に関しては、自分の力ではどうにもならなかった事だと。それでも・・・頭は理解していても、気持ちの方がついてこないんだろう。自軍の総大将であり、義姉である桃香が戦後とはいえ倒れたのだ。そして・・・

 

「皆にみっともない姿を見せるわけにはいかないから、一人謁見の間にいた・・・と。」

「っ・・・申し訳ございません。」

 

 ここまで弱った愛紗も珍しい・・・それも当然と言えば当然か。俺からすればよく自制を効かせて敵を追わなかったことにたいして褒めたいくらいだ。俺が戦場にいたら・・・自制を効かせる自信はないな。

 

「謝る必要はないよ。 反省会をするのであれば、また後で。 とりあえず、皆を謁見の間に集めて欲しい。 戦場の様子は見てたから分かるんだけど、その後の方針とか決まってるなら聞かせて欲しい。 それと、俺の方でも紹介したい子たちがいるからさ。」

「・・・承知しました。 ご主人様は桃香様の様子を一度ご確認しておいて下さい。 その様にそわそわされては、話しているこちらも落ち着きませんので。」

「バレちゃってたか。」

「くすっ、お互い様ですよ。 桃香様は診療室にいます。」

「了解。 それじゃ、皆の招集をお願いね。」

「はっ! それでは失礼いたします。」

 

 これで愛紗の気持ちも少しは軽くなってくれればいいんだけど・・・。

 

「っと、愛紗にバレたということは雪蓮や愛璃あたりにはすぐバレるだろうな。 早めに桃香の様子を見とかないと・・・俺も落ち着かないや。 これじゃ愛紗にどうこう言えないか。」

 

・・・

 

「失礼するよ。」

「ん? 出入り厳禁の札を・・・って、一刀じゃないか!! いつの間に戻ってきたんだ?」

「ほんの半刻前くらいだよ。 桃香が診療室で休んでるって愛紗から聞いたからね。」

 

 診療室には一息ついている艶火に・・・俺が入ってきても目を起こす様子が見えない桃香がいた。

 

「あぁ・・・戦場で倒れてな。」

「知ってる。 遠くから戦場は見てたからね。 艶火も疲れたでしょ? 桃香の番、変わるよ。」

「疲れ自体は慣れているからそうでもないさ。 だがな・・・俺たち蜀側の動揺は、兵や将関わらず過去に例を見ないほどに大きかった。 俺とて例外ではないが。」

「だよな。」

「まぁ、一刀が戦場を見ていたとなれば、お前が桃香と二人でいたいと考えるのは当然か。 一刻ほど俺も部屋を空けよう。 万が一、容態が急変するようであれば呼んでくれ。」

「ありがと。 時間は半刻でいいや。 愛紗に皆を謁見の間に招集してもらっているんだ。」

「そうか。 ならば俺もそちらに手を貸そう。」

「手間を掛けて悪いね。」

「なに、気にするな。」

 

 艶火はそう言い残して診療室を後にした。部屋の中には俺と桃香の二人きり・・・

 

「桃香・・・ただいま。」

「・・・。」

「また仲間が増えたんだ。 皆いい子ばっかりでさ、早く桃香たちにも紹介したくて・・・大将を頑張ってくれた桃香にも言ってやりたいことがたくさんあったんだよ? 」

 

 俺が側についてればこんな結果にはならなかったのではないか・・・そんな考えが頭を過る。けど、今は一刻も早く桃香を元に戻してあげることが先決だ。いまさら後悔したところで・・・結果は変わらないのだから。

 

「っと、こんな弱気になってたら桃香に笑われちゃうな。 それと・・・そんな隅っこで気配を消してどうしたの?零ちゃん。」

「っ!? バレてた・・・。 華佗にも、バレなかったのに・・・。」

 

 いや、まさか寝台の下に違和感があった。というよりも、零ちゃんの銀髪が少しはみ出てたんだよなぁ・・・気配は隠せてもこっちは隠せなかったか。位置的に恐らく艶火も気付いてたんだろうけど、気を使って言わなかったんだろうな。

 

「我・・・一刀に謝る・・・ごめんなさい。」

「零ちゃんに謝られる事はないけどなぁ。 それよりも、俺の代わりに戦場で皆の事をちゃんと見てくれてた事についてお礼を言わせて。 ありがとね。」

「(ふるふる) 桃香、倒れた。 我、ちゃんと・・・見きれなかった。 一刀と約束した・・・皆、守るって。 なのに・・・。 ごめんなさい。」

 

 零ちゃんの瞳からほろりと一粒の涙が零れた。

 

「ごめんなさい!約束守れなくてごめんなさい! 一刀、我にとても期待してくれてた・・・それに応えれなくてごめんなさい!」

 

 それからはもう止まることを知らぬかのように、止めどなく零ちゃんの涙がこぼれ落ちていく。俺と交わした約束をこんなに重く捉えてくれていたのか・・・

 

「もう・・・謝らなくていいって言ってるのに。」

 

 俺が零ちゃんと何気なく交わした指切り。それにたいして必死に応えようとしてくれた彼女が愛おしくて・・・赤子のように泣き続ける彼女をそっと抱きしめた。もう自責の涙は流して欲しくないから。

 

「桃香が倒れたのは零ちゃんのせいじゃないよ・・・。」

「けど・・・我、役に立てなかった。 どうすれば、一刀、喜ぶ?」

「うーん・・・答えは簡単なんだけどねぇ。 じゃあさ、俺が何をすれば喜んでくれる? それを聞かせて。」

「・・・遊んで、肩車して、お昼寝して・・・。」

「それで?」

「・・・。 一緒にいて欲しい。 側にいれば、我、嬉しい。」

「そっか。 ありがと。 じゃあ俺も零ちゃんの質問に答えよう。」

 

 少しだけ力を緩め、零ちゃんと視線を合わせる。彼女の翡翠色の瞳に不安が色が浮かび上がっている・・・だからそんなに心配しなくてもいいってば。

 

 

「俺は零ちゃんが側にいてくれたら嬉しいな。 ずっと、ずーっとね。」

「ずっと?」

「うん、ずっと。 側にいてくれるだけでいい・・・特別なことをしようとしなくてもいいんだよ。」

「・・・ほんと?」

「うん。」

「ずっと、一緒・・・一刀と・・・嬉しい!」

「っっ!?」

 

 不意に浮かべられた零ちゃんの笑顔・・・初めて見た。普段から表情の起伏が乏しいだけにこれはしてやられたと言うか・・・

 

「ずるいだろぉ・・・。」

「何が?」

「しかも本人は気付いてないっと・・・。」

 

 思わず視線を外してしまった。素がレベルの高い女の子だけになぁ・・・無表情からのウルトラスマイル(俺命名)のコンボはずるい!

 

「・・・一刀。」

「ん? んむっ!?」

 

 視線を元に戻したら唇を奪われました、はい。そして俺の脳内で絶賛響いてる声が・・・。

 

 あーーーーーーっ!!一刀が零ちゃんとイチャイチャしてるーーーーー!!

 もう~、せっかくいいとこだったのに~!! 雛羽ちゃん、接吻くらいで大げさだよぉ。 それにしても・・・お兄さんもやり手ですねぇ♪

 

 キスシーンまで覗かれてるとか・・・ようやく唇を離してもらえた。突如キスをしてきた零ちゃん本人はと言うと・・・

 

「ちょっぴり・・・恥ずかしい// けど・・・えへへ♪ 一刀と一緒だ♪」

 

 『・・・・・・・・・え?』

 

俺の脳内で声がステレオのように重なり・・・

 

 『零(ちゃん)が笑ったーーーーー!?』

 

「一刀の真域、うるさい。」

「いや、俺のせいじゃないよ? 俺に言われてもどうしようもできないからね?」

 

 そして真域から聞き覚えのあるような、ないような声が響いてきた。

 

 一刀ちゃん!もうちょっとでそっち着くからねー!!

 

「・・・誰?」

 

 そう思ったのも束の間。 とりゃーーーっ!と元気の良い掛け声とともに

 

ドゴオオオオオォォォォォ

 

「・・・。」

 

 俺の目の前にあった診療室の扉が一瞬にして木っ端微塵に・・・

 

「わぁ!! 生一刀ちゃんだーーー!! 久しぶりーー!! 実物を見るの何年ぶりだろ?? とりあえず、ぎゅーーーーーっ!!」

 

 扉を破壊したお姉さんに抱きしめられる俺。いや、それはともかく、ここ診療室ね。病室ではお静かに・・・と言っても手遅れか。

 

「あぁ~~、抱き心地もちっちゃい頃のままだぁ♪ 筋肉ついてちょっとゴワゴワになっちゃったけど・・・お肌はモチモチ~~♪」

 

 あぁ~~、頬擦りまで・・・この人は犬か何かですか? 恥ずかしさより、状況に頭がついてきてないんだ。

 

「・・・芳乃、一刀が苦しそう。 すぐ離す。」

「あ! 零ちゃんもこっちに戻ってたんだ! やっほー♪」

 

「挨拶は後・・・」

「そだ! 天(そら)からぼくのお友達が来るんだ!! 一刀ちゃん、零ちゃん!! 城壁まで向かうよ!!」

「人の話を聞k・・・」

 

 お姉さんは俺を零ちゃんごと抱きかかえて城壁まで駆け出した。お姉さんのお友達・・・一体何が待ち構えてるの?

 

 なお、城壁では・・・

 

「虹心、もうちょっと落ち着きなさい。 そんなに慌てなくても一刀は逃げないわよ。」

「そう言われても、待ちきれないものは待ちきれないですもん!!」

 

 鳳凰に跨り、城壁へと着地する美桜。それより・・・鳳凰がそのままの姿で現れたことにより、周辺の邑と城下町は騒然としていた。

 

「え・・・えぇーーーーーーーーーー!? なんで虹心様が!? 私たちが天を出発したときはいらっしゃらなかったのに・・・。」

「大方、美桜に話を聞いて興味があるから来てみた。 くらいの、軽い考えだろう。」

「ちょっ!? あなたたちも市の人たちを落ち着かせる手伝いしてよね!?」

「ふむ、それもそうだな。彩鈴、雛羽と白琥と共に漆を探して合流。 その後の行動は各々で考えてくれ。 連絡手段は一刀の真域を通せ。」

「はい!」

「茶々、我らは東側へ向かう。」

「わ、分かりました。」

 

 謁見の間に着くのはもう少し時間が掛かりそうです。

 

・・・

 

「すみません、その・・・顔が胸に埋まって息が。」

「んーー?? 問題ないよー♪」

「・・・。」

「一刀・・・息、してない。」

 

 そもそも謁見の間にたどり着けるのか!?

 

 ぷはっ!!勝手に殺すなあああああぁぁぁ!!うぷっ。

 

 

あとがき

 

「どうもーー!! 三度の飯より一刀ちゃんの事が気になる玄女ちゃんこと芳乃です!!」

「早く美桜さんのお孫さんのお顔を見たい虹心でーす!!」

「りんちゃんのみぎうでのこくりゅーことうーちゃんだ!!」

 

「・・・誰だ、こいつらに後書きの司会をやらせようとか考えた阿呆は?」

syuka「私です。」

 

「・・・根拠は?」

Syuka「うーん・・・なんとなく♪ あっ、鈴様ごめんなさい雷撃は止めて!! 心臓が止m・・・アッーーーーーーーーーーー!! ビリビリ」

「まったく・・・」

「あ、あははは・・・syukaさんも相変わらずお元気そうで (苦笑」

「こいつは雷撃くらいで死ぬ珠なものか。」

syuka「あーっ、死ぬかと思ったー。」

「ほれみろ。 傷一つ負ってない。」

syuka「無駄に頑丈なんで♪ ちょっ!? 火炎はまずい! ごめんなさい本題に入りますからまじ勘弁!!」

「それなら早くしろ。」

syuka「芳乃さんと虹心さんに自己紹介をして頂こうと思いまして、こちらにお呼びいたしました。」

「漆がいるのは?」

「盛り上げ役・・・ちょっ!? 何それ!? かめ○め波とか駄目だって!! 色々と怒らr・・・UUUUUURRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!! ソラガアオイナー」

「ふぅ、ようやく黙ったか。 ・・・彩鈴、司会進行は任せた。」

「は、はい。」

 

♪♪♪♪♪

 

「こほん。 それでは司会は一刀さんと一緒に林檎をいっぱい食べたい麒麟こと彩鈴が務めさせていただきます。」

「なんだ? なにかはじまるのか?」

「syukaさんが自己紹介をと・・・」

「うーちゃんはな!!」

「お前はそこらへんで一刀に遊んでもらっていろ。」

「ぶーぶー!! りんちゃんのけちんぼーー! いーもん! かずとにあんにんどーふつくってもらうもん! カズトーー! アンニンドーーフーツクッテー!!」

「ふぅ、ようやく落ち着いたか。 彩鈴、続きを。」

「は、はい。 それでは・・・syukaさんからお預かりしている【めも】を読み上げますね。 えーと・・・」

 

○簡単に自己紹介をお願いします。

 

「ぼくは玄女の芳乃だよーー♪ 普段は一刀ちゃんの神戸の奥でひっそりと暮らしてるんだー。 え? なんでそんなところにって? それはまだぼくの口からは言えないかなー。 美桜ちゃんとの約束だもん。 美桜ちゃんとは昔から・・・それこそ三千年くらいのお付き合いになるのかなー? 体を共有してるから考えとかも分かっちゃうんだよねぇ。 なんでそうなったかは・・・また別の機会にお話するからお楽しみに♪ じゃあ次は虹心ちゃんの番だね。 どうぞ~♪」

 

「は~い! 鳳凰の虹心でーす! えっとですね~? 私は四神の長っていう立ち位置なんだけど・・・現状の仕切り役は鈴ちゃんがやってるようなものなんですよ! 私はと言うと、普段は色んなところを飛び回ってますよ~? 八仙の方々のお手伝いだったり~、女媧さんの林檎園に水をあげたり~、彩鈴ちゃんたちとお昼寝したり~。 え? 特別忙しそうには見えないですか? ずっと忙しいとは言ってないじゃないですか~♪ あとあと、自慢じゃないですけど! 私の髪と服って、光の当たり方によって色が変わるんです! 不思議ですよね~。 っと、こんなところでしょうか~~。」

 

「お二人共、ありがとうございました。 では、最後・・・。」

 

○お一言ずつ、読者様方へご挨拶をお願いします。」

 

「ぼくも皆も自由気ままだからね~。 のんびりと気を楽にしてぼくたちの活躍を見ててくれれば嬉しいなぁ。」

 

「美桜さんのお孫さんも私たちもこれからたくさん頑張って、皆さんの心に残るような働きが出来たらと思っていますので、これからも末永くお付き合い頂けると幸いです♪」

 

「とまぁ、こんな感じでゆるゆるやっていくのでな、貴公らもゆるゆるとしていってくれ。 そして、これからもsyukaの刀蜀伝をよろしく頼む。」

「以上ですか?・・・はい。 今回はここまでのようですね。 それでは今回はここでお別れです。 それでは次回。 第十章:顔合わせと休息と。 人里は危険がいっぱい!? でお会いしましょう。 再見!!」

 


 
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