No.786704

九番目の熾天使・外伝 ~短編⑱~

竜神丸さん

タカナシ家の休日 その2

2015-06-30 14:38:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2558   閲覧ユーザー数:848

ソラ・タカナシの妻―――リディアがユウナ達と対面している一方…

 

 

 

 

 

 

 

 

「休暇に付き合えって?」

 

「あぁそうだ。今から来れるか? ユーマ」

 

翠屋とは違う喫茶店にて、ロキは一人の人物と再会していた。再会した人物―――ユーマは、ロキの言葉を聞いて小さく溜め息をつく。

 

「いきなり呼び出されて何かと思えば……あのなぁキリヤ、こっちは今もアーキテクトの仕事で忙しいんだ。お前等の休暇に、一週間も付き合ってる余裕は―――」

 

「心配ない。お前の部下達から既に、一週間お前を借りて構わないと許可を得たからな」

 

『『『お任せ下さいませユーマさん!!』』』

 

「何でそういう根回しだけは早いかなお前って奴はよぉ!?」

 

ロキが見せたタブレットに映る、ユーマの部下達による一斉敬礼。それを見たユーマは的確に突っ込みを入れると同時に、彼の行動の早さに感服してもいた。ユーマは疲れたかのような表情のまま、注文していたチョコケーキをフォークで美味しく頂いていく。

 

「で、来てくれるよな?」

 

「…そのドヤ顔は色々と腹立つが、まぁ良い。ところで、呼んだのは俺だけか?」

 

「いや、もう一人いる。そろそろ来る頃だとは思うが…」

 

「キリヤ様~♪」

 

その時、気品がある女性の声が二人の耳に聞こえて来た。その声に気付いたロキが振り返ると同時に、女性が突然ロキに抱きつき、ロキは「うぉ!?」と驚きつつもしっかり受け止める。

 

「お久しぶりです、お会い出来て私は嬉しいですわ♪」

 

「あ、あぁ……お前もお前で相変わらずだな、ルナ」

 

ロキに抱きついて来た、銀髪ロングヘアで碧眼の女性―――ルナが嬉しそうな笑顔でロキに抱きつく中、周囲にいた他の客達が何故か嫉妬の目で睨んでいるのに気付いたロキは、同じようにギロリと睨みつけて客達を縮こまらせ黙らせる。

 

「へぇ、ルナちゃんも呼んだのか。相変わらずお盛んな事で」

 

「お盛んって言うなコラ、時と場所を弁えろ……さて。改めて久しぶりだな、ルナ。お前も来てくれるとは俺も純粋に嬉しいぞ」

 

「それはこちらの台詞です。キリヤさんが休暇で帰って来ると聞いて、急いで部下達に飛行機を飛ばさせてここまで駆けつけて来ましたわ!」

 

(それに付き合わされたルナの部下さん達、ご苦労様です)

 

今頃疲弊しているであろうルナの部下達に、心の中で労いの言葉を告げるロキ。後で何かお詫びの品でも送ろうかなとも思い始める彼だった。

 

「んで、他には誰を呼んだんだ?」

 

「俺はお前とルナ、それからエヴァ、咲、リリィの合計五人。アキヤはアリサとすずかの二人。ユウナは刀奈とスノーズという奴の二人。ルイのところには今頃ハルトやジンバが来ているだろう……あ、あとついでに葵さんも一緒に来るな」

 

「ふぅん……ん? ソラさんは? あの人は今回もいないのか?」

 

「ソラ兄さんはいつも通り、長期任務で不在だよ。こういう時くらい、一緒に休暇を過ごしたって問題は無いだろうに……主に妹達の為に」

 

「そこは揺るぎないなオイ」

 

「シスコンで何が悪い」

 

「開き直った!?」

 

「それはそうとキリヤさん、また色々お話を聞かせて下さいませ。旅団の皆さんの活躍を知りたいですわ」

 

「ん、そうだな。それじゃ移動しようか。ユーマ、会計よろしく」

 

「いや俺かよ!? たく、世話の焼ける…」

 

ブツブツ呟きながら、渋々と会計を済ませに行くユーマを他所に、ロキはルナを連れて先に喫茶店から出て行こうとする。

 

その時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、面白い人材がいるじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

ロキとすれ違おうとした、一人の男。その男の言葉に素早くロキが振り返るが、既にその男は姿が見えなくなった後だった。

 

「キリヤさん?」

 

「…いや、何でもないよ」

 

不思議そうに問いかけるルナに、ロキは何も無い事を伝えて安心させる。しかしそんな彼の首元を、一粒の汗がたらりと流れ落ちる。

 

(何だ今の……尋常じゃないぞ…)

 

-ピリリリリ!-

 

「!」

 

そんな時、ロキの携帯電話が鳴り響いた。画面にはユウナの名前が出ており、まずは電話に出る。

 

「もしもし」

 

『あ、キリヤ兄さん? ちょっと良いかな』

 

「あぁ、どうした?」

 

電話相手であるユウナから、ロキにある事が伝えられた。

 

「…え、リディアさんが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とあるアパートの一つの部屋では…

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……何とか、逃げ切ったか…!」

 

髭を生やした金髪の男性が、荒い息を整えながら窓の外を見据えていた。

 

この男性の名はシュトルヒ・アークライト。時空管理局本局の上層部に属していた、元幹部の魔導師である。

 

何故、元幹部なのか?

 

それはこの男が、裏で悪事を働いていたからだ。自身の地位を利用して散々悪事を働いて来た彼だったが、そんな彼の悪事がOTAKU旅団のNo.15―――kaitoによって全面的に公表された挙句、管理局のトップである最高評議会からもトカゲの尻尾の如く切り捨てられる羽目になってしまい、広域次元犯罪者として指名手配されてしまった彼はこうして地球まで逃げてきた訳である。

 

「くそ、忌々しいOTAKU旅団め!! 奴等が余計な事をしなければこんな事には……最高評議会までこの私を見限ろうとは…!!」

 

自分のやってきた事を全て棚に上げ、逆恨み同然の怒りを隠そうともしないシュトルヒ。先程まで齧り付いていた食べかけの林檎をグシャリと握り潰し、乱暴に床に投げ捨てる。

 

「こうなった以上、逃げ続ける為の策を練らなくてはな……人質でも取れれば確実なんだが…ん?」

 

シュトルヒは窓の外を見て、あるものに気付いた。

 

「あれは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、じゃあ一週間はこの海鳴市にいるんですね?」

 

「はい! せっかくなら、より大勢で楽しんだ方が良いと思いまして。リリィさんも一緒にどうですか?」

 

「良いですね。それじゃあ、私も参加します!」

 

 

 

 

 

 

 

知人を誘いにやって来たルイと、そんなルイに誘われて同行する事になったリリィの二人が、ちょうどアパートの目の前を通り過ぎようとしていた。そんな二人を見て、シュトルヒは気付いた。

 

(!? あの女、確かマウザーから授かった資料に載っていた…)

 

シュトルヒは手元にある複数の資料を一枚ずつ見ていき、一枚の資料を凝視する。その資料の中にある写真の女性と、視界の先にいるリリィの素顔が一致していた。

 

(なるほど……これはチャンスだな。ついでにあの女と一緒にいる小娘も、纏めて人質にすれば…)

 

シュトルヒはニヤリと醜悪な笑みを浮かべ、早速行動に出始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

直後、ルイとリリィの周囲に結界が張られる。周りにいた人達の姿が一斉に消えた事から、リリィはルイを守る形で警戒を強める。

 

(結界? 一体誰が…)

 

「初めましてだな、リリィ・マッケージ」

 

「!」

 

二人の前に、黒いカラーリングの上に黄色いラインの入ったバリアジャケットを纏ったシュトルヒが、杖型のデバイスを構えて降り立った。

 

「! シュトルヒ・アークライトね。数日前、広域次元犯罪者として指名手配された…」

 

「ほぉ、やはり知っていたか。全く、君のお仲間さんにはとんだ迷惑をかけられたものだ……貴様等OTAKU旅団が余計な事をしなければ、私は今頃満喫した人生を送れていたものを!! おかげで私は最高評議会からも見捨てられる羽目になったのだからな!!」

 

「それはあなたの自業自得でしょう。それで、私達に何の用かしら」

 

「決まっているだろう? 復讐の為の準備だよ。まずは君達を人質として捕縛させて貰う」

 

「私がそれをさせると思う?」

 

「まぁ、させないだろうなぁ。君が相当な実力者である事は知っている。だからこそ…」

 

 

 

 

 

 

-ブゥゥゥゥゥゥゥン-

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

「こうさせて貰う事にするよ」

 

直後、結界全体に謎の衝撃波が伝わった。最初は攻撃かと判断したリリィだったが、その判断は間違いだった。

 

(!? な、これは…!!)

 

衝撃波の後、何故かリリィとルイは身体の動きが急激に遅くなってしまったのだ。本人達の意志とは関係なく、身体が動きがゆっくりになり、それ以上速くは動かせない。何が起こっているのか分からない二人の前では、シュトルヒが面白そうに一つの小道具を手に持って見ていた。

 

「なるほど、これが“重加速”という奴か。事前にマウザーからコイツを貰っておいて正解だったな」

 

「重、加速…!?」

 

「貴様等には説明したところで分かるまい。さぁ、私と一緒に来て貰うぞ」

 

シュトルヒは自身の魔力で電流を生成し、それをデバイスの先端に纏わせてスタンガンのようにし、リリィの身体に少しずつ近づけていく。リリィは何とかこの状況から脱出する方法を考えようとしたが、動きがスローになってしまっている以上、今の彼女にはそれを回避する術は存在していなかった。

 

「リ、リリィさん…!!」

 

(ッ……ごめんなさい、キリヤさ―――)

 

-バチィッ!!-

 

首元に電流を当てられ、スローの状態のまま地面に倒れ伏していくリリィ。シュトルヒはそれを見て「ククク」と笑いながら、今度はルイにもデバイスを差し向ける。

 

「さぁ、お前もだ」

 

「ひっ…!?」

 

ルイが怯えた声を上げる中、シュトルヒは同じようにデバイスを近づけていく。そのままルイも同じように気絶させられるのに、そう時間はかからないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局地上本部。

 

そのとある一室では、椅子に座っているマウザーと、そんな彼の前に立っているクリウスの姿があった。

 

「よろしいのですか? 一佐殿」

 

「何がだ?」

 

「数日前に指名手配された、シュトルヒ少将の件です。あの人には確か、バイラルコア……でしたっけ? それを渡したままの筈でしたが」

 

「問題ない。奴は敢えて泳がせているだけだからな」

 

「泳がせている?」

 

「あぁそうだ……奴が重加速を起こせば起こす程、こちらはそのデータを取る事が出来る。限界まで、奴には好きなように暴れさせてやれば良い」

 

「では……“限界”が来た場合は?」

 

「もちろん用済みだ。その為の後始末も、彼に任せるとしよう」

 

マウザーが指を鳴らす。すると…

 

-コツン……コツン……-

 

靴の音と共に、暗闇の中から一人の人物がヌッと姿を現した。クリウスはその人物の姿を見て、疑問の表情を浮かべる。

 

「こちらの方は?」

 

「お前にはまだ説明していなかったな。紹介しよう…………新たに完成した、時空管理局における“処刑人”だ」

 

「……」

 

“処刑人”と称された男。

 

その男の手には、拳銃のような形状をしたツールが握られていた。

 


 
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