No.785757

命一家 1話

初音軍さん

命の不安やこれからのことを心配する思考と周りの暖かい励ましが入り混じる内容。似たような部分もあるかもですが、それくらい大事なので何度も考えているのだと思います。何せ一人の愛娘のことですからね、繰り返すことだってありますよ(*´ェ`*)
イラスト→http://www.tinami.com/view/785755


久しぶりに長く書けて満足&少し疲れた;2時間3時間くらいで書き終えようとするのは最近大変になってきました。年かな・・・^q^

2015-06-25 16:35:26 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:483   閲覧ユーザー数:483

命一家 1話

 

【命】

 

 死ぬような思いをしながらも、無事に産まれてきてくれた娘のみき。

それからも体が完治するまではしっかり療養して、娘の夜泣きや我侭に苦労しつつも

少しずつ意思疎通が図れるようになってみきが落ち着いた頃、

 

 私は忙しくて忙しくてすっかりあることを忘れていたことをふと思い出し

私に笑顔を向けて甘えてくるみきを抱っこしてある場所に二人で向かったのだった。

 

 ちなみに萌黄も瞳魅さんも仕事で忙しいこともあり会社に行った。

マナカちゃんもみきのお世話をけっこうしてくれていたから疲れが溜まっていた

ようなので家でお留守番してもらっている。

 

 そんな大層なことではないという直感があったから、ちょっとした散歩気分で

向かうことにしたのだ。電車に揺られながらみきは目まぐるしく変わる風景に

きゃっきゃっと喜んでいるのを見ていると微笑ましくて疲れも飛びそうになる。

 

「ほら見て、みき綺麗でしょ?」

「あうー!」

 

 私の言葉に反応して更にきらきらな目をさせながら外を眺めていた。

娘の左右の瞳の色は私と萌黄の目の色が片方ずつ表れていて、光に反射した目が

宝石のように美しく輝いていた。

 

 

***

 

 目的地の最寄駅に着くと私はみきを抱っこしながら駅の外に出ると強い光が

目に差し込んできて眩しい。快晴のせいか少し太陽光の照り付けてくるのが気になった。

 

 暑さを少しでも和らげるために木陰のある場所を通っていきながら歩いていく。

何度も来ていないせいもあってややうろ覚えではあったけど部分部分に印象が残っている

箇所がいくつかあって、1時間かけてどうにか病院に辿り着くことができた。

 

 以前と同じく敷地を大きな塀と門で囲んでいる場所で入り口は堅固に固められている。

門にはカメラ付のインターホンが取り付けられていて、確認したのちに中へ入れて

もらえる。

 

 そうやって説明しつつクヌギさんに顔を確認してもらった後、門を開けて

迎えに来てくれた。

 

「わざわざすみません」

「用なら先に予約してくれればよかったのに・・・」

 

 と言いつつも無表情だけど少し申し訳なさそうに小走りで私の元に来たので私は。

 

「連絡してから行こうと思ったのですが、電話番号を知らなかったもので・・・」

「あれ、教えていませんでしたか」

 

 私がそういうとクヌギさんは自らのスマートフォンを取り出しながら電話番号を

調べてメモ帳に記して渡してくれた。そしてクヌギさんはその後、私を連れて

研究者で院長である伊佐さんの所へ案内してくれた。

 

 周りの自然の多さを改めて見てると涼しい風が心地良くて、建物が古いことを

除いてはすごく環境が良いように思った。

 

 案内された部屋に通されるとクヌギさんはそこから先は行かずに私とみきだけ

中へと入って奥へと歩を進める。

 

 するともう一つ扉があり、中へ入ると最初に入った部屋より一回り狭い所で

窓際に車椅子に座った若い外見の伊佐さんが窓に向いて私を待っていた。

 

「久しぶりだね、命君」

「はい、お久しぶりです」

 

 背中を向けて話しかけてくるも、声の感情的に迷惑そうな雰囲気は感じない。

私は机を挟んだ先にある椅子に座ると伊佐さんから話しかけてきた。

 

「しかし珍しいね、一度僕と関わった者は二度と会いたいと思うことなんて今まで

なかったのに。」

「え、そんなことないですよ。だって私たち似たような境遇同士じゃないですか。

もうここまで慣れちゃうと家族の一員のようなものですよ」

 

 勢いで思っていたことをよく考えもせずに口に出してから気付いた。

 

「なんて、ちょっと図々しいこと言っちゃいました? あれ、伊佐さん?」

 

 私の言葉に背を向けたまま黙っている伊佐さん。もしかして怒らせちゃったかなと

焦ると、一言伊佐さんの方から言葉をかけてきてくれた。

 

「そうか、そう言われるのも悪くはないな・・・」

 

 ちょっとだけ言葉を詰まらせるようにして言ったけれど、どうやら機嫌を損ねるような

ことではなかったようで私はホッとしたのだった。

 

 

***

 

「それで、用事というのは?」

 

 少ししてから私の方に向きなおしてジッと見てくる伊佐さんに私は不安に思ってる

ことを聞いてみたのだ。

 

「この子・・・みきについてなんですけど」

 

 人とは違う能力というか血というか。そういうのが混ざるとどうなるか心配だった。

人を傷つけるのでないか、コントロールが利かないとどうなってしまうのか等。

 

「ふむ・・・」

 

 まずは健康的な面を見るために私の膝元に乗っているみきを色々調べていた。

聴診器を当てたり熱を計ったり。いわゆる一般的な部分を先に行っていると

伊佐さんは言っていた。私自身普通の病院というもの経験したことがないから

よくわからないで見守っていたけれど・・・。

 

「至って健康的だね」

「あうー!」

 

「あはは、元気もいっぱいだ」

 

 みきを見て笑顔を見せる伊佐さん。それから生活のこととかなるべく詳しくと

聞かれたのでその通りに話すと、話したことを一枚の紙に記していった。

 

「なるほどね、今のとこ能力や変わった兆候は見られないわけだ」

「はい・・・」

 

「うーん、異能同士の子供は何回か診たことはあるんだけど基本は男女の間だからね。

みきちゃんの場合は例外中の例外だから必ずというものは言えないんだけど」

「はい・・・」

 

「もしかしたら両親の遺伝子だけではなく二人の両親の遺伝子が含まれてる可能性も

あるよね。例えば命君は狐の妖怪の遺伝子。萌黄君は怪力に関わるものの遺伝子。

だけど二人には表面上浮かんでいない血があるのはわかるかい?」

 

「母の血・・・」

「そう」

 

 子供に聞くような優しい言い方で次々と話を進めていく伊佐さん。

少し不思議で捉えようのないところもあるけど頼りたくなってしまう感覚。

 

「二人には母方の血は出てきてはいないんだけど遺伝子はしっかり受け継いでいるんだ。

普通の人にも祖父母の遺伝子が両親より極端に出てくるケースもあるというしね」

「つまりみきは・・・」

 

 私たちの母の血を・・・? そう頭に浮かぶと伊佐さんは軽く首を横に振った。

 

「可能性はあるっていうだけで、確実とは言えないけどね。どっちにしろ今の段階では

様子を見てみるしかないから、何かあったらすぐ連絡してね」

「はい」

 

 結果的に何かを得たわけではないけれど、私の胸の内はかなり晴れていることに

話し終えた後に気付いた。

 

 話すべきことは終わったのをクヌギさんはどこで知るのかタイミングよく

私を迎えに来てくれて入り口まで再び案内をしてくれた。

 

 基本行き来はするべき場所は一つなのだけど、院内が広すぎるせいか迷いそうな

感じがして、それを考慮してくれてるのか毎回クヌギさんが送る役目を負っていた。

 

 帰りの電車の中では抱っこしている私の中ですやすやと眠っている

みきの寝顔を見ていると難しいことを考えない方がいいかなと思って

その寝顔を見て気持ちを和ませながら揺られていた。

 

 それでも私や萌黄のように大変な生き方しなくてもいいようには考えていかなくては。

今日はともかくこれからは少しずつ・・・。そう愛する娘を抱きながらいつしか一定間の揺れ

を感じているうちにいつしか眠ってしまっていた。

 

 ちょうど降りる駅の手前で目が覚めて慌てて荷物の持つ位置を整えていつでも

降りられるように準備しておく。そうやって準備をしてからみきを見るとまだ眠っている

様子が見られた。

 

 周りには他の乗客はほとんどいなくて時間帯のせいもあるだろうけどこのシンッとした

空気の中にいるのはそんなに悪い気はしなかった。

 

「まもなく~駅~駅」

 

 アナウンスが流れて私は立ち上がってドアの前で少しだけ待つと駅に到着をして

ドアが開いたのと同時に私は歩き出した。

 

 駅を出るとすぐにバスが出ていたから慌てて乗って、ICカードを当てて後ろ座席の

方へ乗ってから外を覗くと見ていて気持ちがいいくらいの青い空が広がっていた。

 

 

***

 

「ただいまー」

 

 玄関に着いた私は荷物を置いてからそのまま赤ちゃん用のベッドにみきを置いて

背筋を伸ばす。

 

「ん・・・!ふぅ・・・」

 

 少し変な声が出ちゃったけど、良い感じに脱力できた。ただその後のだるさが

一気に押し寄せてきて疲れてるんだなぁって実感する。

 

「おかえり~、お疲れ様」

 

 そう言って麦茶を淹れたコップを差し出しにきてくれるマナカちゃんを見て

自然と笑顔になる。

 

「ありがとう」

 

 よく冷えた麦茶を飲み干すとうっすら汗ばんでいたとこも少し引いた気がした。

色々と大変なことも疲れることもあるけど、悪くない・・・そう、まるで悪くない。

 

 私を見て微笑みを見せてくれたマナカちゃんはそのままみきの元へと小走りで

駆け寄っていく。一度子守を任せてからはすっかりみきのことが大好きなようで

安心した。

 

 最初の内は怖がって嫌がっていたのに。ちゃんと面倒見れたらお姉ちゃんらしい

顔つきになっていて私もマナカちゃんのことを信頼している。

 

「後はよろしくね」

「まかせて!」

 

 少しずつだけどマナカちゃんの目が生き生きし始めたのを見ていると嬉しくなる。

人から何か言われるより自分自身でこれからどう考えて行動するか、それをゆっくり

見守ろうと思えた。

 

 私はそのまま部屋を出て台所へ向かってエプロンを身につけた。

これから夕飯の仕度が始まる。早めに外に出たのにも関わらず家に帰ってから

今の時間を見ると結局日が落ちる時間帯になっていることに驚いてしまう。

 

 急いで簡単なものを下ごしらえから始める。それからみんなが帰ってから

短時間で仕上げられるものを作ろうと思っている。

 

 ちょうどそれが終わる頃に先に萌黄が帰ってくるのが玄関から聞こえてきて

私は心が跳ねるようにして嬉しい気持ちが一気に高まって小走りで声のした方へ向かった。

 

「ただいまー、命ちゃん~」

「おかえりなさい」

 

 これまでかけがえのないくらい愛おしい人だったのがみきが産まれてからは更にそれが

深まった気がする。

 

 少し疲れたような萌黄の顔を見て、萌黄も私を見てから笑顔がこぼれるように

浮かんでいた。

 

「お風呂入る?」

「うん」

『みきと一緒にね』

 

 最後は二人でハモるようにして言って考えてることが同じことを確認したら

萌黄がベッドからみきを抱き上げてキスをするような仕草をした。

 

「おかえり、萌黄」

「ありがとうね、マナカちゃん」

 

 最初こそあまり関係がよくなかったマナカちゃんと萌黄も今ではすっかり関係が

改善されて自然に対話するようになっていたのが私は嬉しかった。

 

「じゃあ、みきちゃん。一緒にお風呂入りましょうね~」

「マナカちゃん、少しの間よろしくね」

 

「うん、ゆっくり入ってきていいよ」

 

 私がマナカちゃんにそう告げると自信を持って返事がきたので私と萌黄は

お風呂に入ることにした。その前に萌黄はスーツを脱ぎに部屋まで一度戻ることにして

それまで私はお風呂場の前で待っていた。

 

 すぐに戻ってきた萌黄を見て笑顔で待つと二人は賑やかにしてお風呂場へ入っていく。

それを私が後を追う形に。

 

 湯船が大きいわけではないから全員入れないのでどっちかが体と頭を洗って

どっちかが湯船でみきの相手をするという感じで入っていた。

 

「きゃっ!きゃー!」

「ちょっと、大人しく入ってなさい」

 

 ばっしゃ!ばっしゃ!

 

 何がツボに入ってるのか、みきはとても愉快そうに両手を水面に叩くようにして

はしゃいでいるとみきの相手をしていた萌黄は思い切りお湯を被って

みきを軽く叱っているのを見ていてとても面白い。

 

 長い髪をしっかり洗って時間をかけた後、体を洗う時に今日あったことを

萌黄に話すと遊んでいた手を止めて驚いた顔をしてこっちを見ていた。

 

「言ってくれれば一緒にいったのに」

「だってその度に会社休ませるわけにはいかないですもん」

 

「そうは言ってもだね」

「きゃっ!きゃっ!」

 

 ばしゃしゃー!

 

「あー、お湯が目に入ったー!」

 

 私にできることは自分でやる。ただそういう当たり前のことをやっているのだけど

萌黄は少し私に対して心配性なとこがあるみたい。

 

 みきがタイミングよく話を逸らしたので私は報告だけして萌黄と交代してみきの

相手をした。みきの頭にお湯を軽くかけながら簡単に頭を洗う。

 

 しばらくのお風呂タイムを楽しんだ後はマナカちゃんと、入ってる間に帰ってきた

瞳魅さんと交代するようにして私は夕ご飯の支度の続きを始めた。

 

 下ごしらえをしてあるので後は軽く炒めたり煮込んだりしてお皿に乗せてから

食事をするテーブルに置いていく。お風呂に入っていた瞳魅さんたちも手が空き次第

私の手伝いをして早く準備が終了してみんなで楽しく食事の時間が始まり。

みんなそれぞれの報告や話題などを挙げて笑顔で食事をしているとあっという間に

食事の時間が終わり、片付けをしてからそれぞれ自由な時間を過ごす。

 

 私はちょっと疲れていたからみきと一緒に自室に戻ってもう一つの赤ちゃん用の

ベッドにみきを寝かせてから自分のベッドに倒れるようにして横になった。

 

「ふぅ・・・」

 

 考えることは色々あるけど、今はちょっとだけ休もうかと目を閉じるとすぐに誰かの

気配を感じた。

 

「おつかれさま~。命ちゃんのことだから色々考え込んでたんじゃない?」

「萌黄・・・」

 

「大事な娘のことだからさ、私にも遠慮しないで頼りなよ」

「はい、でも今日は本当に大丈夫でしたよ。今度、頼りたいことがあったら萌黄に

言いますね」

 

「うん」

 

 近づいて私の視界に入るようにベッドに乗る萌黄。

同じ視線で横になってから二人で見つめあって手を握る。

 

 指と指を絡めてゆっくりと顔を近づけてキスをした。

お風呂の後のせいかシャンプーの香りと萌黄の匂いが混じって疲れた頭に刺激があって

軽くクラクラする。

 

 まるで酔いでも回ったかのようになって顔が火照っていくのがわかる。

今日は疲れてるからこれ以上はしないけれど、でもキスまでなら・・・。

 

「萌黄、今日はちょっと・・・甘えてもいいですか?」

「うん、私ももう少ししたかった」

 

 とろけるような眼差しで萌黄を見ながらもう一度、もう何度目かのキスを交わした。

身も心も溶けそうな感覚のまま萌黄に身を委ねた。

 

 気持ちいい感覚に包まれながらいつしか私は意識がおぼろげになって

萌黄に愛を囁かれたのが最後で眠ってしまった。

 

 

**

 

 みきのことや家族のこと。色々考えることはあるけれど、考えても進まないことも

多くてその場その場でやっていくしかないのは肌で感じているのはわかっていて。

 

 苦しいことよりも楽しいことを思い出を、いっぱい作るほうが有意義なのだと

これまでのことを通じてわかってはいるつもりだったけど、まだまだだった。

 

 でも萌黄に言われて少し楽になった。

 

 考える時はその時に応じて、みんなで相談して。それこそが家族の形なのだと。

直に言葉で言われなくても触れ合って感じられた。そんな暖かい感情が。

頼ってくれという一つの言葉で感じ取れたんだ。

 

 また色々迷うかもしれないけど、私にはみんながいるから・・・。

 

 そう、全てはこれから始まるのだから…。

 

 


 
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