No.780635

熾天使外伝・運命の獅子 番外編・獅子なる守護者

第拾話 欲望の王と狂った魔術師

2015-05-30 22:39:09 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1458   閲覧ユーザー数:1391

深夜、鬱蒼とした森の中で仮面の戦士は剣を振るう。

キャスターが繰り出す海魔の軍勢を、その手に持つ大剣―メダジャリバーで斬りはらう。

背後の子供たちに、悍ましい海魔を近づけまいと。

 

しかしそれでも多勢に無勢、一人であるオーズに対してキャスターの海魔は無尽蔵、何匹かは取りこぼしてしまう。

 

だが、その海魔たちは苛烈なまでの炎に焼かれ、耳に障る断末魔を残しながら消えてゆく。

その炎を放ったのはウルティムスの義妹―咲良である。

 

「あたしがみんなを守るよー!だからあんしんしてね!」

 

掌から炎を生み出し、それを海魔たちにぶつけて燃やしていく。

義妹によって取りこぼした海魔が掃討されるのを横目にオーズは安心し、キャスターへと前進していく。

 

しかしキャスターもそれを許すほど愚昧ではない。

海魔をさらに召喚し、物量で圧倒せんとする。

さすがのオーズも津波のように迫る海魔の軍勢に驚愕し、再び右腰のオースキャナーを手に取り、メダルをスキャン―必殺技を発動するためにスキャニングチャージを行った。

 

《スキャニングチャージ!》

「ぬぅっ!?なんだ!?」

 

突然オーズから聞こえた音声にキャスターは訝しむ。

しかしこの状況で行動を起こしてきたのだ、もしや戦況を覆しうるモノ―宝具を発動しようとしているのではないか?

 

「させるか!貴様などは異界の獣に引き裂かれ無残に屍を晒すのが似合いだ!!」

 

キャスターは狂気の表情で螺湮城教本に手を叩きつけ、海魔たちに指示を送る。

 

 

 

 

『貪り尽せ』と

 

 

 

 

 

飼い主から指示を出され、歓喜に震える海魔たち。

先ほどに倍する速度でオーズへ向かう。

その体を喰らい、自身の糧とするために。

そして目の前の餌を食らい尽くしたら―ああ、なんと有りがたいことだろう!

奥の方に、まだまだたっぷり餌があるではないか!!

その為にもこの邪魔者を食い尽くさなくては!何せ主から命令されたのだから!!

 

海魔たちはオーズに殺到する。歓喜に震える海魔も、狂気に燃えるキャスターも気が付かない。

 

オーズの両脚が、先ほどとは形状が違う―さながら飛蝗(バッタ)のように変形していた事に。

 

「ハァッ!!」

 

飛蝗のような跳躍力で持って、オーズは跳ぶ。

キャスターはもちろん、海魔や、森の木々さえ飛び越す高さへと。

海魔たちに向かって高速落下するオーズは前方に発生した三色のリング―赤、黄色、緑のエネルギーのリングを通過し、そのエネルギーを纏う。

 

 

 

赤のリングを潜ると、赤い翼状のエネルギーがオーズの背中に現れ、

黄色のリングを潜ると、黄色い爪のようなエネルギーがオーズの貫通力を高め、

そして最後の緑色のリングを潜り、緑色のエネルギーで脚力を高めたオーズは、海魔たちに向けて必殺技―『タトバキック』を放った。

 

 

「セイッヤァァァア!!!」

 

 

 

―ギュピィィィィィィイアイイアイィイイアァァアアア!!!!!

 

この世の物とは思えない悲鳴を上げながら、海魔たちは爆発する。

とはいえ、タトバキックによって倒された海魔は多く見積もっても精々が全体の半分程度だ。

よってオーズはこの機を逃すわけにはいかないと、義妹に向けて声を上げる。

 

「咲良!セルメダルを!!」

「あい!ちょっとまってね…行っけー!」

 

咲良は自身の胸に手を突っ込み、コアメダルに似た銀色のメダルを取り出す。

そのうち三枚をオーズに投げ、残りを地面にぶちまけた。

 

オーズはパシッと小気味いい音を立てながら、三枚のセルメダルを右手で掴み取る。

メダルをメダジャリバーに投入し、刀身の根元に付いているレバーを操作する。

ジャリジャリジャリーン!とメダルが装填される音が鳴り、刀身の透明な部分からは三枚のセルメダルが確認できる。

 

オーズはまたもオースキャナーを手に取ると、メダジャリバーに添え―一気にセルメダルをスキャンした。

 

《トリプル!スキャニングチャージ!!》

 

 

「もう一丁…セイヤァァァ!!!」

 

 

エネルギーが滾るメダジャリバーをオーズは袈裟懸けに振るう。

だがしかし、その刀身が斬るべき場所には何もない。

キャスターは何をしているのか、と嗤っていたが―

 

「―?」

 

不意に、自分の目前の空間がズレたように見えた。

しかしそれは一瞬で、目にゴミでも入ったのだろうと結論付け、海魔が彼奴を貪り食うシーンをこの目で見届けるために再び仮面の戦士に目を向ける。

すると―

 

 

 

―ピギィィァイイァイイァヤァァアアアア!!!

 

 

 

と海魔たちが断末魔を上げ、次々と爆発していくではないか。

見ると、爆発していく海魔たちは皆一様に体が『ズレ』ていた。

まるで、鋭利な刃物で斬られたかのように。

 

―そう、オーズの必殺技『オーズバッシュ』は広範囲の斬撃を放つ必殺技であり、射線上にあるものは空間とともに断裂、一文字に切り裂かれるのだ。

しかも放った後は自動的に空間が修復されるという、実に便利な技なのである。

 

この状況下においてキャスターは幸運にも―ウルが意図した通りではあるが―オーズバッシュの射程から逃れていた。

理由は単純、唯の一撃で終わらせるには、余りにも彼は悪辣に過ぎた。

そう―ウルは腸が煮えくり返っていた。

唯でさえ彼は生前の出来事で『生命を軽視するモノ』を許せない。

特に『抗う術を持たないモノを狙う卑劣な輩』は。

この二つを共に満たすキャスターに対して、ウルティムスは一撃で終わらせるなど出来なかった。

 

「どうですか?怖いですか?…貴方に殺されてきた子供たちも、同じ恐怖を―いえ、それ以上のモノを感じてきたんですよ」

「恐怖など感じるものかァ!!子供達には聖処女復活のたメの尊い生贄となって貰ったまデ!彼らの恐怖こそが、彼ラの無念の叫びこそが聖処女を甦らせルのだ!!」

「…やはり狂信者と話しても無駄ですね。…殺します」

 

ジャキッと音を立てながらオーズはメダジャリバーを構える。

それに対してキャスターは―

 

「おのれおのれおのれおのれぇぇぇ!いい気になるなよ小童風情がガぁああ!!」

 

と、半狂乱になりながらも再び螺湮城教本を開き、海魔を呼び出す。

まさかまだ召喚を行う魔力があると思っていなかったオーズは、キャスターが持つ異形の魔術本を目にし、その答えを得た。

 

 

 

オーズに変身しているのは魔法使いであるウルだ。

その眼には、魔力を無尽蔵に生み出す魔本が映っていた。

 

 

 

「(なるほど、あの本自体に魔力を生み出す装置が備わっていて、キャスターはそれを使っているだけですか)―それなら!」

 

オーズは一度退き、咲良の隣に立つ。

 

「咲良、コンボを使うから赤のメダルを貸してくれる?」

「うん!えーっと…ハイ!」

 

と、満面の笑みで二枚の赤いメダル―クジャクが描かれたメダルと、コンドルが描かれたメダルをオーズに差し出す。

 

「ありがとう。あと、これからはアイツも本気を出してきて、僕も守るのが厳しくなるかもしれない。ウヴァ(・・)カザリ(・・・)を出して守ってもらいな」

「わかった!ウヴァ、カザリん、出てこーい!!」

 

咲良はまたも自身の胸に手を埋没させ、二枚の黄色いメダル―ライオンメダルとチーターメダル、そして二枚の緑のメダル―クワガタメダルとカマキリメダルを取り出した。

その四枚のメダルを、先ほどのセルメダルの山に色別にして投げ入れる。

するとどうだろう、メダルが人の形をなして色付いたと思えば、そこには―

 

「ふぅ、まさかこんな世界でまで戦ってるとはねぇ。ウル、君も懲りないね?」

「まったくだ。しかし子供を攫いイケニエなど意味が分からん理由で殺すとは…虫ケラにも劣る!」

 

 

獅子に似た黒い体色の怪人―猫の王、カザリ。

昆虫の意匠を持った、緑色の怪人―昆虫の王、ウヴァ。

 

 

 

かつて別の世界で仮面ライダーオーズと敵対していた怪人―『グリード』のうち、二体がここに揃った。

 

 

 

「ウヴァ、カザリ。二人は子供たちと、咲良を守ってあげて。二人なら余裕でしょ?」

「誰に言ってるんだい、ウル?タコは嫌いだけど、あんな汚物に負けるなんてありえないよ、ねぇウヴァ?」

「そうだな、あんな汚いタコどもなど俺が切り裂き、焼いてくれる!」

「…とりあえず二人のタコに関する発言はあとで彼女に報告するとして―」

「「ちょっ!?」」

 

オーズはそこで二人から視線を外し、ドライバーに装填されているタカメダルに向かって話しかける。

 

「アンクはどう?僕に力を貸してくれるかな?」

 

《無駄なことを話すんじゃねぇ、ウル》

 

メダルから頭に直接響くような声が聞こえる。

この声の主は赤いコアメダルの持ち主たるグリード―鳥の王、アンクだ。

 

《子供を殺す?…ふざけてんじゃねぇ、俺も子供は苦手だ、何を考えてるかわかったもんじゃねぇ。だが―》

 

アンクは昔を思い出す。過去、自身がヤミーの宿主とした少女の事を。

『美しい世界を見たい』と言う欲望を持った盲目の少女。

ヤミーを作り出し、人間の眼を抉らせてその眼が見てきた景色を見せる、と言う方法で順調にセルメダルを回収できた。

しかし、とある光景を見た少女は生きることに絶望し―死んだ。

 

 

そのことがトラウマとなっているのかは定かではないが、アンクは子供に非常に優しい。

ぶっきらぼうに接しているが、その実子供のことをよく見て、考えている。

よって―彼もまた、キャスターに対して静かに怒りを滾らせていた。

 

《あの魔術師は個人的に気に食わねぇ。俺のメダル、無くすんじゃねぇぞ》

「OK。行こうか。アンク。」

 

 

「なァにを話しているル!!!」

 

 

キャスターが子供達を守るウルたちを囲うように円の形に海魔を配置、一斉に襲い掛からせる。

 

しかし―二体の怪人によって防がれた。

 

カザリは黄色い竜巻を発生させ、海魔たちを切り裂き吹き飛ばす。

ウヴァはその爪で持って海魔たちを切り裂き、また爪が届かない海魔は雷撃で焼き尽くす。

 

「何故だ何故だ何故だァァァ!!!」

 

思い通りにいかない展開にキャスターは狂乱し、自身の髪の毛をかきむしり、引きちぎる。

その異様な光景に子供たちは悲鳴を上げるが―

 

「―変身!」

 

 

 

 

《タカ!クジャク!コンドル!!タ~ジャ~ドルゥ~~!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

「…きれぇなとりさん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い女の子が呟く。

その視線の先には―

 

 

 

先ほどのタトバコンボの頭部、タカヘッドを強化したタカヘッド・ブレイブへ。

 

 

 

 

不死鳥をかたどった胸部のエンブレム、そして美しく広がった翼の形をした炎。

 

 

 

 

猛禽の力強さを持つ脚と、踵に備わった鋭い爪。

 

 

 

 

仮面ライダーオーズ、タジャドルコンボ。

炎と猛禽の力を持った戦士が今―狂った魔術師との戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

そして、森の中を疾走する影が一つ。

 

 

―アインツベルンの森での戦闘は、終幕が近づいている―

 

奇蹟の力タジャドルコンボ降☆臨

 

さーてどうやってキャスターを料理してやろうかゲッヘッヘ…


 
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