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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第六十五回 第四章:潼関攻防編⑧・曹操軍の誤算

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回は曹操軍の誤算。北郷軍の登場により、曹操軍必勝の構図が崩れていきます。

あと今回あとがきで久々にアンケートやってますのでそちらも気が向けば是非!

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2015-05-24 00:22:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3844   閲覧ユーザー数:3211

 

ここは涼州天水にある興国。

 

そこでは、様々な刺青を施した厳めしい多くの者達に囲まれた一人の男の存在があった。

 

鎧兜に緑翠色のマントを羽織り、首や腕、足といった要所要所に毛皮をあしらっており、

 

鼻下に三日月形の立派な髭を持ったその男の名は韓遂である。

 

 

 

千万「要領を得ねェなァ、つまりは何が言ィてェんだァ?」

 

 

 

険悪な雰囲気の者たちの中でも、一際怒りをあらわにしてドスの利いたバリトンを響かせた男は、隆々とした上半身に、

 

蜘蛛の巣のような幾何学模様の刺青を施し、毛皮で作ったであろうベストのようなものだけを羽織っている。

 

ガタイの良いその男の名前は千万(センマン)

 

天水にある白項という氐族の国の王である。

 

 

 

韓遂「むむむ、では単刀直入に。我ら涼州連合に加わり、共に曹操軍と戦ってほしいぞ」

 

 

 

対して、並々ならぬ怒りのオーラをまとった集団に囲まれた韓遂であったが、特に臆した様子もなく、

 

手にした幅広の大きな斬馬刀を杖のように地面に突き立てながらあやふやな言い方などせず正直に要件を述べた。

 

韓遂は潼関で曹操軍の離間計にかかり、馬超に戦場を追われたのち、

 

異民族である氐族に援軍を求めるべく、一番手じかにあった氐族の国である興国に向かったのだが、

 

その時たまたま、興国に別の氐族の国である白項の王が居合わせていたのであった。

 

 

 

阿貴「要するにこォゆゥことかい?あたいらは黙ってアンタらに手ェ貸せと?」

 

 

 

そして、そのような韓遂の言葉に、一層怒りを強めてハスキーな声で尋ねたのは、千万とはまた別の、

 

こちらは流線的な模様の刺青を入れ、千万同様毛皮のベストのようなもののみを羽織っている女性である。

 

その衣装のせいで、豊満な胸部を持っていることもあり、極めて刺激的な格好となっているその女性の名前は阿貴(アキ)

 

興国の女王である。

 

 

 

韓遂「そういうことぞ」

 

 

 

しかし、二人の氐王から今にも周囲の氐族に消せと命令されそうな状況にもかかわらず、韓遂は平静を崩さない。

 

ただ一切言いよどむことなく肯定した。

 

 

 

千万「ケッ、舐められたもんだぜェ。確かにワシらァ馬騰姐さんには一目置いてるぜェ?だがなァ、それとこれとじゃァ話が別よォ」

 

阿貴「あんたも涼州の群雄なら知ってんだろォ?あたいら氐族の絶対的決まりを」

 

 

 

すると、二人の王が言い終えたのを合図に、周囲の者たちが一斉に槍やら剣やら弓やらの武器類を韓遂目掛けて構えた。

 

 

 

韓遂「信ずるものは力のみ、だったぞ。はぁ、やはりこうなるぞ・・・」

 

 

 

韓遂はこうなることは想定内だったようで、ため息交じりに肩を落とした。

 

 

 

千万「ならやることは一つしかねェわなァ?」

 

阿貴「あたいらを利用しようってんなら、力ずくで従わせてみなァ!」

 

 

 

そして、二人は配下の者たちを制すると、千万は細長い投槍を両手に持ちながら馬に跨り、

 

阿貴は真っ赤な花槍を見せつけるようにクルクル体中で回しながら馬に跨り、韓遂に相対した。

 

 

 

韓遂「はぁ、悪いが時間がないぞ。だから、加減無しで叩き潰すぞ・・・!」

 

 

 

そんなやる気MAXな二人の氐王の様子にげんなりしながら、韓遂は幅広の斬馬刀を肩に担ぎながら馬に跨った。

 

多くの氐族が目をギラつかせながら見守る中、韓遂の、馬超たちを救うための完全アウェーでの戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、曹操軍本陣】

 

 

曹操「稟、各地の戦況はどうなっている?」

 

 

 

曹操は後退してからしばらくした後、戦況を郭嘉に尋ねていた。

 

 

 

郭嘉「は、現在春蘭さま、秋蘭さまは呂布と交戦中ですが、押され気味とのこと。チョコは高順と交戦の後、撃破されたとのこと。季衣は

 

馬超と交戦中、こちらが押しているとのこと。また、馬岱と交戦中の公明は、馬岱を追い詰めたところで張遼が援軍に加わり、現在張遼

 

と交戦中、戦況は拮抗しているとのこと。そして、潼関本陣を攻城中の夏候惇・夏侯淵両隊は、敵の守将・鳳徳を未だ攻略できずにいる

 

とのことです」

 

 

 

曹操の質問に対して、郭嘉は淡々と静かに各戦場での状況を報告した。

 

 

 

曹操「チョコは殺しても死なないような娘だから問題ないでしょうけど、やはり春蘭たちでも呂布相手は厳しいか・・・。恐らくあの “十”

 

の旗印は北郷軍と見て間違いないのでしょうけど、まさか本当にあの娘(●●●)が言う通り北郷軍が参戦してくるなんて誤算だわ。けれど、あの

 

一団の登場でこうも形成を立て直すか・・・」

 

 

 

曹操は郭嘉の報告を聞き、圧倒的優勢だった自軍が一転、北郷軍の登場により形勢が逆転しつつある状況に表情を歪ませた。

 

 

 

程昱「一応洛陽で臧覇ら何人かの将が万一に備えて出陣の準備を整えているはずですが、今から呼びますかー?」

 

曹操「いいえ、これ以上兵を増やしては南下用に蓄えている兵糧に響くわ。ここでの勝ちより、南下の方が重要なのだしね」

 

 

 

そのように曹操軍本陣では今後の動きについて思案がなされていたが、しかしその時、

 

 

 

典韋「あっ!華琳様、煙です!」

 

曹操「何ですって?」

 

 

 

典韋が焦った様子で指さす方向を見てみると、確かに、西南の方向から煙が上がっていた。

 

そして、

 

 

 

曹操兵「申し上げます!火計です、我が軍が敵軍より火計を受けております!」

 

 

 

曹操軍の兵士がその煙の正体を告げるべく、息を切らしながら本陣に駆け込んできた。

 

 

 

郭嘉「馬鹿な!あそこでは涼州勢や北郷軍が我が軍と交戦しているはず!敵は仲間ごと焼き尽くす気なのですか!?」

 

程昱「まずいですねー、風向きは西南、敵側からこちらへ吹いてますー。このままでは本陣まで被害が及びかねませんね~ー」

 

曹操「涼州勢にこんな芸当ができるものはいない。ならこの猪のような無茶苦茶な策に出るのはあの子しかいないわ・・・陳宮ね・・・!」

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、side北郷・陳宮】

 

 

陳宮「はーはっはっは、ですぞー!こんがり狐色になるがよいです!」

 

 

 

陳宮の仕掛けた火計によって曹操軍の陣営が火の海となりつつある光景を見ながら、

 

陳宮はこれでもかと言わんばかりに完全絶壁の胸を張りながらドヤ顔で叫んでいた。

 

 

 

北郷「うわー、えげつないな・・・っていうか、あそこって恋や馬超さんとかがまだ戦ってるんじゃないのか!?」

 

 

 

火計を受け混乱の極みにある曹操軍を見ながら、北郷は顔をひきつらせている。

 

 

 

陳宮「戦いとは非情なものなのです!それに、恋殿の部隊なら、火計程度ものともしませんぞ!」

 

 

 

対して、北郷の感想を称賛と捉えた陳宮は、一層得意げになりながら告げた。

 

 

 

北郷「もはや人間じゃないぞそれ!?それにその物言いだったら馬超さんヤバくないか!?嫌だぞオレここにきて馬騰さんたちと全面的

 

に敵対することになるなんて!?」

 

 

陳宮「戦いに犠牲はつきものなのです。まぁ、心配せずとも錦馬超ほどの名のある将なら自分で何とかしますぞ?それに、見るですあの

 

曹操軍の慌て様を!ここで火計をくらうなんて想定外だったに違いないのです!」

 

 

北郷「ま、まぁ戦略的に有効打なのは間違いないか・・・。そうだよな、まさに軍師らしい判断だよな。うん、さすがは、我らが軍師様は

 

頼りになるよ」

 

 

 

陳宮の主張に、北郷はそういうものかと納得し、納得したらしたで目の前にいる小さな女の子が、

 

自分など到底及ばない頭脳を持つ軍師なのだと改めて実感するのであった。

 

 

 

陳宮「べ、別に褒めても何も出ませんぞ!ってだからいちいち頭を撫でるなと―――ぅぅ・・・」

 

 

 

そして、北郷の毎度のナチュラルスマイルからの撫で撫でコンボに、

 

陳宮はついに反発を途中で断念し、甘んじて全てを受け入れる形となってしまっている。

 

 

 

高順「・・・コホン、なに戦場でイチャイチャしているのですか」

 

 

 

そんな二人のやり取りをジトッとした目で冷視しながら、高順が不満げな言葉を投げかけ歩いてきた。

 

 

 

北郷「なな!」

陳宮「誰がイチャイチャしているですか!」

 

高順「一刀様、このような前線までいらっしゃる必要はありませんのに」

 

 

 

高順は陳宮の憤慨をスルーしながら、前線まで出張ってきている北郷に対して心配そうな表情で告げた。

 

 

 

北郷「すまん、けど無茶は絶対しないから」

 

高順「当然です!」

 

 

 

北郷の答えに、高順は珍しく声を大きくした。

 

 

 

北郷「けど、ななも無茶しすぎだぞ?そんなセクシーな身なりになって」

 

 

 

北郷は高順の着物が所々斬り裂かれ、肌色面積が多くなっていることに、若干のジョークを交えながら

 

(恐らくカタカナ語なので本人には伝わっていないだろが)心配し、自分の着ていた上着をサッと高順に着せてやった。

 

 

 

高順「―――ッ!?」

陳宮「なっ!?」

 

 

 

そのような北郷の流れるような突然の行動に、顔を真っ赤にして絶句する高順と、顔を真っ青にして絶句する陳宮。

 

 

 

北郷「あ、もしかしてオレの着ていた服とか嫌だった?」

 

高順「―――へ?いえいえ!とんでもありません!むしろ―――!」

 

陳宮「がるるるるる~~~」

 

高順「コホン、そ、それにしてもねね、相変わらず無茶苦茶な計略の使い方ですね」

 

 

 

二人の反応にやらかしたかと心配そうに尋ねる北郷であったが、

 

高順が慌てて否定し、むしろご褒美です的きわどい発言をしそうになったところで、

 

陳宮の羨望と嫉妬の入り混じった威嚇の声を聴き、何とか話題を強引に変えるに至った。

 

 

 

陳宮「ふん、それは褒め言葉ととっておきますぞ」

 

 

 

陳宮もこれ以上高順が北郷の生上着着せてもらった事件については触れまいと、高順の話題に乗っかり、無理に得意顔を作って見せる。

 

 

 

高順「はぁ・・・まぁ、一応褒めているんですけどね。あとは涼州勢が上手く巻き添えをくらわないことを祈るだけですね」

 

 

 

実際、高順は陳宮の得意顔に溜息をもらすも、高順自身もどうやら陳宮の強引な策の行使には慣れているようであった。

 

 

 

陳宮「ところで、このようなところにいるということは、ななはもう敵将を撃破したのですか?」

 

高順「ええ、玉璽を手にした時の孫堅や、昔の霞以上の戦狂いでしたよ」

 

 

 

高順は自身の傷などものともせず殺し合いという名の戦いに心酔する張郃の姿をうんざりした様子で思い浮かべていた。

 

 

 

陳宮「なら、一刀殿の護衛を頼みますぞ」

 

高順「了解です」

 

 

 

すると、高順はためらうことなく北郷と同じ馬にシレッと騎乗した。

 

ちょうど高順が北郷の背中に抱き付く形になっている。

 

 

 

陳宮「コラーッ!ふざけるなですー!何平然と一刀殿と同じ馬に乗っているですかー!別の馬に乗るですー!」

 

高順「はい?護衛なら近くにいるに越したことはないでしょう?」

 

 

 

陳宮の憤慨に、しかし高順はわざとなのか素なのかは定かではないが、不思議そうな表情で尋ねた。

 

 

 

陳宮「ち、近すぎですぞー!がるるるるる!」

 

北郷「ははは、まぁまぁ、別にオレは気にしないし」

 

 

 

そのような二人の仲の良いやり取りに、北郷は緊張感のない笑いと共になだめにかかる。

 

 

 

陳宮「うー、な、ならななだけじゃ心許ないのでねねも護衛に回りますぞ!」

 

 

 

すると、陳宮は馬から飛び降りると、北郷の馬に騎乗した。

 

今度はちょうど北郷の胸に体を預けるような形である。

 

 

 

北郷「うぉ!?」

 

 

 

当然黙っていないのは高順である。

 

 

 

高順「なっ・・・!ねね!狭いですよ!これでは一刀様が動きずらいではありませんか!」

 

陳宮「ふん、むしろ一刀殿は仲間の窮地となると勝手にどこかに行ってしまうので動かない方が良いのです!」

 

北郷「ははは・・・ナンダコレ・・・」

 

 

 

結局、このままでは一向に話が進まないため、北郷は陳宮と高順に前後から挟み込まれるような形で、

 

一頭の馬に三人もの人間が乗るというシュールな状態を了承することでこの場を何とかおさめた。

 

 

 

 

 

 

北郷「・・・この戦い、勝てそうかな」

 

 

 

しばらくして、自陣営が火計を受けているのに気付いた曹操軍が引き返してきたところを急襲する自軍の兵を眺めながら、

 

北郷はそのような言葉を漏らした。

 

 

 

陳宮「・・・まだ分からないです、と言いたいところでしたが、恐らく我らの勝利は確実になりましたな」

 

 

 

しかし、陳宮の口から出たのは、そのような含みのあるものであった。

 

 

 

北郷「??」

 

陳宮「韓遂殿が戻って来たようなのです」

 

 

 

陳宮が指差す方向を見てみると、薄緑色の韓旗を掲げた一団を先頭に、騎馬の大軍がここ潼関の戦場目掛けて突撃してきた。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、曹操軍本陣】

 

 

曹操兵「申し上げます!先ほどの碧緑の十旗の一団とは別の援軍が到着した模様!旗印は薄緑色に “韓” の一文字!涼州の乱雄・韓遂

 

に間違いありません!さらに、その一団が率いている部隊が、その出で立ちから、恐らく氐族のものたちと思われます!」

 

 

 

ただでさえ北郷軍の襲来や火計の影響で混乱気味の曹操陣営にとって、

 

韓遂が氐族を率いてやって来たという一報は、到底許容しがたい追い打ちとなった。

 

たとえ曹操軍が誇る選りすぐりの精鋭たちであっても、これら一連の出来事によって一層浮足立っていた。

 

 

 

典韋「異民族は私たち漢民族とは相容れなかったんじゃないんですか?」

 

 

郭嘉「通常であればそうなのですが、涼州勢だけは特別なのです。特に涼州連合の盟主、馬騰は羌族の血を引いていると言われています。

 

そのため、西北の異民族はたとえ漢民族であろうと、馬騰ら一部の涼州勢に対してのみ従順な傾向があると言われています」

 

 

 

この場の多くの者たちが疑問に思ったであろうことを、典韋が思わず口にしたが、

 

すぐさま郭嘉が当然と言わんばかりの落ち着いた様子で答えた。

 

 

 

程昱「韓遂はただ馬超に追い出されたのではなく、彼らを呼びに行っていたという訳ですかー。恐らく、馬超と仲違いしていたのは演技

 

ではなさそうですし、離間にかかったのは間違いないでしょうから韓遂の独断でしょうねー。申し訳ありません華琳様。風の策は空振り

 

だったようですー」

 

 

 

さらに、程昱はこれまでの状況から現状を分析し、自身の策が結果として逆に相手に利用されたことを認め、

 

眠たそうな間延びした口調ではあるが、核はしっかりとした様相で、申し訳なさそうに謝罪した。

 

 

 

曹操「あなたの策を採用したのはこの私。それに、今過ぎたことを悔いていても仕方がないわ。反省会は戦いが終わってからよ」

 

 

 

しかし、曹操は珍しく落ち込み気味な程昱を特に咎めることなかった。

 

 

 

曹操「ここからは消耗戦になるわね・・・こちらは兵力的にはさほど損害は出てないようだけれど、そもそも今回の戦いは速攻攻略する

 

つもりだったのだから、あまり時間をかけて攻略するのは望ましくないわ。・・・これ以上戦いが長引けば南下に影響が出るか・・・軍部

 

からは不満が出るかもしれないけれど、ここが引き際ね。稟、長安は一度涼州勢に預けることにするわ。全軍に撤退命令を。本国へ帰還

 

する。あと殿は公明隊とする。風、早急に手配をお願い」

 

 

 

そして、その脅威が未知数の援軍到来による戦闘の長期化及びそれに伴う自軍の損失と長安奪還とを秤にかけ、

 

かつ、今後の南下政策も見据えたうえで、即座に撤退の判断を下した。

 

 

 

郭嘉「御意」

程昱「御意ー」

 

 

 

涼州連合の勝利が確定した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、side呂布】

 

 

夏候惇「放せ秋蘭!放せというに!なぜ退かねばならないのだ!わたしはまだ戦えるぞ!」

 

 

夏侯淵「落ち着け姉者!周りを見るんだ!ここが火の海になるのは時間の問題なのだぞ!それに今本陣より撤退の命が下った!華琳様の

 

ご命令だ!」

 

 

 

陳宮の火計による火の海が迫り、兵士たちが混乱しつつある中、本陣から撤退の命令を受けた夏侯淵は、

 

未だ呂布との戦いを続けようとする夏候惇を止めようとするが、夏候惇は激しく抵抗していた。

 

 

 

夏候惇「か、華琳さま・・・いいや、たとえ華琳さまのご命令であってもここは退けん!相手はあの呂布だぞ!?ここで仕留めなければ

 

いつ仕留めるというのだ!」

 

 

 

曹操の命令。

 

この事実は夏候惇にとって決定打になるもののはずであった。

 

しかし、そのような夏侯淵の予測は裏切られた。

 

最も敬愛する曹操の命に背いてでも戦いを続けようとする今の夏候惇は、極度の興奮状態から己を半ば失っているに等しい状態であった。

 

 

 

呂布「・・・・・・何度やっても結果は一緒・・・」

 

 

 

対して、そのような夏候姉妹のやり取りを、相変わらずの無表情で見ていた呂布は、

 

その自覚はないものの、火に油を注ぐが如く言葉を静かに吐き捨てた。

 

その瞬間、夏候惇のこめかみあたりに幾重もの太い筋が浮かび上がる。

 

 

 

夏候惇「黙れ!余裕でいられるのも今の内だぞ!その澄ました顔、この夏候元譲が打ち崩してくれ―――!」

 

 

 

そして、夏侯淵の制止を振り切り、呂布に向かって突撃しようとした夏候惇であったが、しかし・・・

 

 

 

夏侯淵「姉者」

 

 

 

夏侯淵が静かに、そして気味が悪いほど落ち着いた声で夏候惇の名を呼んだ。

 

 

 

夏候惇「しゅ、秋蘭・・・・・・」

 

 

 

その刹那、夏候惇の動きが完全に停止した。

 

夏候惇は夏侯淵の名前を呼びながら、ギギギとまるで錆びついたロボットのようにゆっくりと夏侯淵の方を振り返る。

 

 

 

夏侯淵「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

しかし、夏侯淵はそれ以上何も語らない。

 

ただ黙って夏候惇を見据えている。

 

普段からクールなものであるその表情も、今となってはクールどころのものではない。

 

完全に冷めきっていた。

 

 

 

夏侯惇「・・・・・・しゅ、しゅーらん?」

 

夏侯淵「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

呂布「・・・・・・・・・??」

 

 

 

夏侯惇はもう一度恐る恐る夏侯淵の名前を呼んでみるが、やはり夏侯淵から返事はない。

 

ただ、氷点下に匹敵する冷めた視線を夏侯惇に向けるばかりである。

 

そのような二人のやり取りを、呂布は不思議そうに見つめている。

 

 

 

夏候惇「くっ・・・ぐぬぬぬぬぬくそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

 

 

そして、夏侯淵との無言のやり取りに耐えられなくなったのか、夏候惇は大声で奇声を発しながら、七星餓狼を大上段に構えた。

 

すると、夏候惇の体中からオーラのような闘気がにじみ出、

 

それらが七星餓狼に集まっていくかのようなイメージが、呂布と夏侯淵の目に飛び込んできた。

 

 

 

夏侯淵・呂布「「――――――ッ!?」」

 

 

 

そして・・・

 

 

 

夏侯惇「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!

 

 

 

夏侯惇はオーラによって光輝いて見えるかのような非現実的な大刀を、大上段の構えからまっすぐ地面に向かって振り下ろした。

 

その瞬間、激しい轟音とともに、大地が割れ、その衝撃波が呂布目掛けてまっすぐ飛んでいった。

 

 

 

呂布「・・・・・・・・・!」

 

 

 

しかし、それでも呂布が揺らいだのは夏候惇の七星餓狼にオーラが集まったその一瞬だけであり、

 

夏候惇が七星餓狼を地面にたたきつけて衝撃波を発生させている今の状況では、普段通りの無表情に戻っていた。

 

そして、一瞬目を見開いて鋭い眼光で衝撃波を睨み付けたかと思うと、それ以上は何もしなかった。

 

迫りくる致死そのものを目の前にしてのこの不可解な呂布の行動は誰しもが理解できないものであった。

 

しかし、必殺の衝撃波は呂布のすぐ隣をかすめるようにして通り過ぎていった。

 

 

 

夏侯淵「は、外れたのか・・・?」

 

 

 

呂布はその攻撃を見ただけで自身には当たらないことを瞬時に見切っていたのであった。

 

しかし、たとえそうであったとしても、あれだけの死の塊が迫る中、

 

動けないのではなく動かないという選択ができるのは、さすがと言わざるを得なかった。

 

 

 

夏侯惇「くそっ、わたしの不満はこの程度では解消されんぞ!!えぇーい呂布!!とりあえずこの勝負は預ける!!だが、わたしは絶対

 

貴様を許さん!必ずやこの魏武の大剣・夏侯元譲が討ち取ってやるからな!!」

 

 

 

つまり、この夏候惇のデタラメな攻撃は、単に撤退に対する不満を爆発させたものにすぎないのであった。

 

それでも、まだ怒りは収まらないのか、夏候惇は散々に呂布に対して罵倒しながら、

 

終いには夏侯淵に引きずられる形でこの場から撤退したのであった。

 

 

 

呂布「・・・・・・・・・いつでも相手になってやる」

 

 

 

その瞬間、ほんのわずかではあるが、呂布の表情に一瞬変化があったのだが、

 

恐らくこの変化に気づくのは陳宮か高順といった、北郷軍の中でも一部の人間だけであっただろう。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、side馬超】

 

 

許諸「うわー、今のものすごい音だったね。春蘭さまたちの方からかな。けど、へへーん、やっぱり錦馬超なんて大したことなかったね。

 

なんだか周りも熱くなってきたみたいだし、早く終わらせちゃうよ!」

 

 

 

許緒は夏候惇が生み出した轟音に驚き、陳宮の火計の接近を気にしながらも、

 

再び手にしている巨大な鉄球を軽々と頭上で振り回しながら馬超を射程内に入れるためゆっくりと近づいていく。

 

 

 

馬超「くっ・・・にゃろー、他所の戦場を気にするほど余裕ってか・・・舐めやがって・・・!」

 

 

 

すでに馬を失い得意の騎馬を封じられている馬超は、体中傷だらけになりながらも、

 

なんとか許諸の猛攻を受けきっており、今も許緒の攻撃の射程を外しながら反撃の機会をうかがっていた。

 

そして、両者の呼吸が重なったその刹那、両者ともに前に出た。

 

許緒は鉄球を前方真っ直ぐに投げ飛ばし、馬超は槍を前方目掛けて突き出した。

 

しかし、馬超は許緒の鉄球に自身の槍を当てることはせず、寸前のところで躱し、前進を続けた。

 

結果、馬超は許緒の鉄球の懐深くに潜ることに成功したのであった。

 

 

 

馬超「このときを・・・・・・待ってたぜぇぇぇぇーーーー!」

 

 

 

伸び切った鉄球はもはや使い物にならない。

 

馬超は、許緒が最後の一撃として強攻撃をしかけるこの瞬間を、猛攻を受けながらずっと待っていたのであった。

 

起死回生の一撃。

 

逆転の一撃として渾身の突きを放った馬超であったが、しかし・・・

 

 

 

許諸「まだまだ!はあああああああああっ!」

 

 

 

許緒は伸び切った鉄球を、あろうことか自身の方に引き戻したのであった。

 

驚くべきところはそれだけではない。

 

そのパワーとその結果生まれたありえないほどの速度であった。

 

結果、引き戻された鉄球は、馬超の槍が許緒をとらえるよりも早く馬超の背中をとらえたのであった。

 

 

 

馬超「がはっ!?」

 

許緒「ちょうりゃーーーーーー!」

 

 

 

そして、鉄球を背中にまともに食らった馬超を、許緒は引き戻す力と遠心力を利用して前方へと投げ飛ばした。

 

投げ飛ばされた馬超は瓦礫の中へ一直線。

 

 

 

馬超「っか・・・っか・・・はっ・・・く・・・」

 

 

 

もはや満身創痍の馬超は動ける状態ではなかった。

 

 

 

許緒「それじゃ、今度こそ終わらせちゃうよ!」

 

 

 

そして、今度こそとどめを刺そうと許緒が前へ進もうとしたが、しかし・・・

 

 

 

郭嘉「季衣、時間切れです。退きますよ」

 

 

 

郭嘉が許緒に本陣からの撤退命令を告げにやって来た。

 

 

 

許諸「稟ちゃん。えー、もう少しなのにー。もうちょっとだけいいでしょ?すぐに終わるからさ」

 

 

 

郭嘉からの伝令に、しかし許緒は不満げな言葉を漏らし、もう少しだけと戦いをやめようとしない。

 

 

 

郭嘉「駄目です、華琳様のご命令ですから。ちょっとも許されません。それに相手が錦馬超なら、たとえ瀕死でもちょっとでは済まない

 

でしょう」

 

 

許諸「うーーん、でも、華琳様はボクに馬超をちゃんと討ち取れって言ったんだよ?もし、今ここで退いたら、それこそ華琳様の命令に

 

逆らったってことじゃないの?」

 

 

郭嘉「フフフ、季衣も言うようになりましたね。けれど、華琳様はこうも言っておられましたよ?『手早く』とね。だから、時間切れだと

 

言ったのです」

 

 

 

郭嘉が曹操の名前を出してもなお、許緒が反論したのには、郭嘉も驚いているようであったが、

 

そこで崩れないのが郭嘉なのであり、見事に許緒の反論を封じて見せた。

 

 

 

許諸「うー、けど・・・」

 

郭嘉「それに、あちらに薄緑の韓旗を掲げる一団が迫っているのが見えるでしょう?」

 

許緒「えーと、げぇ、ホントだ。あんなにたくさん・・・」

 

 

 

郭嘉が指差した方向を見た許緒は、目に移った大量の騎馬隊に苦い表情を作って見せた。

 

 

 

郭嘉「敵の援軍が到着したのです。これで戦闘の長期化は避けられなくなりました。遠征中の身である我が軍としては、これ以上戦いが

 

伸びれば兵糧不足は必須です。季衣も、ご飯が食べられなくなるのは困るでしょう?」

 

 

 

そして許緒の心が揺らいだその瞬間、郭嘉はとどめの一言を告げた。

 

 

 

許緒「えー!ご飯が食べられなくなるの!?」

 

郭嘉「はい、ですから早く退きましょう。敵の火計によってここも時期に火の海です。季衣が大丈夫でも、兵達が逃げ遅れても困ります」

 

許緒「うん、わかったよ」

 

 

 

結果、最初はぐずっていた許緒は、郭嘉の話術によって見事に納得し、撤退の決断を下したのであった。

 

 

 

馬超「(・・・・・・薄緑の韓旗・・・・・・援軍・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

 

 

そして、薄れゆく意識の中、馬超は何とかかろうじて聞こえてきた郭嘉の言葉から、

 

耳に残った言葉を頭の中で反芻させ、意識を失ったのであった。

 

 

 

【第六十五回 第四章:潼関攻防編⑧・曹操軍の誤算 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第六十五回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、結局曹操軍の誤算はおおよそ「北郷軍の登場」「陳宮の火計」「韓遂+氐族の到来」だったわけですが、

 

それにしたって曹操軍撤退の判断早くね?兵力的にまだまだ圧倒的に有利だよね?などツッコミどころ満載なわけですが、

 

そこは作中でも言及されていますように、大軍の遠征にとって長期戦はイコール死であることと、

 

南下に備えてゴリ押しは避けたいという背景があったと納得していただきたく。

 

だったらなぜそのような時期に涼州にケンカ売ってんだ?それは後顧の憂いをゴニョゴニョ・・・

 

と中々言い訳が追いつかないほどお話の拙さに磨きがかかっている今日この頃なのです、、、汗

 

 

ところで、闘気を纏う春蘭と恋が戦ったらどうなるのかは非常に興味深いですが、今回は実現せず。残念、、、

 

そして、兵たち(恐らくその多くは独身男性と推測)の前で平然とイチャつくお三方には是非場を弁えて頂きたいものです。

 

 

では、最後に宣言してましたアンケート企画をば。

 

本章はあと2回、第六十七回で終了なのですが、初めに申してました通りノンストップで次章へと続いていく予定です。

 

つまり今回拠点の入る余地がありません。

 

しかし一方で時間軸無視してでもやっぱり息抜き回的なものもほしいとも思うわけでして、

 

そこで今回のアンケートの内容は以下の通り。

 

 

① 本編さくさく進んでほしいし予定通りこのまま第五章に入ってOK

② 本編ゆっくりペースでもいいから拠点とか緩い息抜き回欲しい

③ どっちでもいいしそんなことで悩む暇があったら投稿ペース早めてくれ

④ その他(例:ちんきゅーもっと書け)

 

 

一応この御遣い伝説で本編と拠点どっちの方が読みたいって思われてるのかも気になっていたので、

 

それも兼てのアンケになってます。皆さま匿名でも構いませんので是非是非遠慮なくお答えいただきたく、

 

どうぞよろしくお願いいたします。

 

ちなみに息抜き回の方はすでに原稿上がってまして、本編の方は現在絶賛作成中ですので、

 

どのような結果になろうとも対応できるようにはしてありますのでご安心くださいませ。

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

回答期限は次回投稿直前6月6日23時50分までです!

 


 
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