No.774699

ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』

piguzam]さん

第42話~貴方の体の中には、紛れも無い城戸の意志が(ry

2015-05-02 02:43:09 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7628   閲覧ユーザー数:6613

 

 

前書き

 

 

む、難しいなぁ……。

 

特に主人公の心情と信条が、自分とごっちゃにならない様に気を使うのが大変(;・∀・)

 

それと主人公に対する原作キャラのオリ主マンセー化にならない様に考えるのもorz

 

今回は後半結構しつこいかもしれません。

 

これで面白くなかったらと考えると怖くて怖くてww

 

なので一昨日には仕上がってたのに怖くて投稿出来なかったという裏話ww

 

 

それと今回試しにスタンドの名前の『』を外してみました。

 

前みたいに『』があった方が良いかも感想頂ければ嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っし。このビルだな」

 

5分もしない内にビルへと到達し、俺はスケボーを止めて担ぐ。

スナイパーライフルを持って逃げる準備をしていたから、多分まだこの近くの筈だ。

そのまま人通りの少ないビルの裏手側に回りこみ、調査を開始する。

 

「ムーディ・ブルースのリプレイで追うには、”奴ら”が居た場所と時間が必須か」

 

犯人が複数系なのは、スタープラチナの超・視力のお陰で判明している。

但し、二人共ミリタリージャケットと目出し帽を被ってたから人相までは判らねえが、一人は身長は190ちょっとで細身。

もう一人は身長185前後で体格は筋肉質、いかにも軍人らしい体つきをしてるってぐらいか。

だが、これでは奴等が何処を通ったかの確証には成り得ない。

 

「なら、”地面に聞くとすっか”――アンダーワールドッ!!」

 

ザクゥッ!!

 

浅黒い肌に軽装の衣装を纏い、目にパイプの様な管が接続されたスタンド。

DIOの息子の一人であるヴェルザスのアンダーワールドだ。

こいつは地面が記憶している過去の出来事を、地面から掘り起こして再現できる能力を持ってる。

本来は フロリダ州オーランド付近でしか使えねえが、俺の場合はその制限が無い。

こういう所で改良されてるのは、俺的に凄え有難い事だ。

ちなみに言うとアンダーワールドも自我のあるスタンドなんだが、今は関係無いので割合。

やがて、アンダーワールドが掘り返した地面の中に立体的な過去の出来事が映し出される。

目出し帽を被った犯人の一人がオフロードバイクに乗り込んで何処かへと走り去っていく。

背中に背負われてる大きなバッグは、間違い無くライフルが入ってるだろう。

もう一人の犯人も同じ様なバイクに乗り込んで反対方向へと走り抜けていった。

ったく、二手に別れるとか面倒くせー事してんじゃねーっつーの。

 

「さて、どっちの方を追っかけるか……ん?……クンクン……この臭いは?」

 

と、別れた犯人のどちらを追跡するか考えた所で、ハイウェイ・スターの能力で強化された嗅覚が”ある臭い”を嗅ぎ取った。

あまり嗅ぎ慣れない臭いだが、こんな感じの臭いを極最近嗅いだ様な……。

 

「確か、夏休み入って直ぐ……伯父さんの家に行く前だった様な……クンクン、クンクン……そうだ……火薬か」

 

夏休みに入ってから遊んだ学校の友達が、スリングショットで撃って遊んでいた火薬玉と良く似た臭い。

こんな道路やビルの密集した街中で嗅ぐ事は無い臭いの筈だ。

しかも、この火薬の臭いは前に嗅いだ火薬玉なんかより何倍も濃い。

……成る程~?つまりこの火薬の臭いってのは――。

 

「さっきド派手に失礼をブチカマした奴が漂わせてる臭いって訳だ……ッ!!」

 

俺はその場での調査を中断して、車の通りが激しい大通りに出る。

まだ、臭いはそう遠くには離れてない筈――。

 

「おっと……ッ!?グレート、さすが名探偵。もう来ていたとはな」

 

しかし直ぐに大通りから路地裏へと体を隠し、俺は300メートル程先を走るバイクをスケボーで追うコナンの姿を注視した。

さすがにこの場に居る所を見られたら身動きが取り辛くなっちまう。

その様子をスタープラチナの拡大視力で見ると、コナンは探偵バッジを取り出して何か怒鳴っている。

探偵バッジって事は、少年探偵団の誰か……恐らく灰原に何かを話そうとしてるみてえだな。

――なら、そのお話を少し聞かせて貰うとしますか。

俺はスタープラチナを解除して、自分のスマホにレッド・ホット・チリ・ペッパーを送り込む。

其処から街を走る電波をジャックし、コナンの持つ探偵バッジの周波数とスマホをリンクさせる。

 

『ジ、ジジッ…………ばらっ……灰原ッ!!返事しろ灰原ッ!!』

 

『……なにッ!?雑音が酷いけど、何処に居るのッ!?』

 

『犯人らしきバイクを追ってるッ!!』

 

お、来た来た。

チリペッパーを使ってハッキングした探偵バッジの会話を盗み聞きながら、Bluetooth機能を使用。

耳に小型のイヤホンマイクを嵌めて、情報を逃すまいと二人の会話に集中した。

コナンは今はハカセを通して警察に犯人のバイクのナンバーと行き先を伝えている。

 

『ナンバーは、新宿、せ、33ー17ッ!!三ツ目通りを北上して……いや、左折したッ!!クソぉ、逃がすかッ!!』

 

おいおい、随分と熱くなってるみてぇだが、大丈夫かよ?コナンの奴。

コナンのスケボーも相当なスピードが出る筈だが、どうやらかなり離れた位置に居るみたいで、追いつくのに躍起になってるっぽい。

 

『どうしたのッ!?江戸川君、大丈夫ッ!?』

 

『あぁッ。今、言問橋で隅田川を渡っ――』

 

ジ、ジジッ!!

 

「あら?……ちっ……どうやら、探偵バッジの通信範囲外に出ちまったみてーだな」

 

コナンの途切れ途切れな情報を最後に通話は切れ、残ったのは砂嵐だけだった。

だが、奴の向かった大体のルートは分かったな。

この情報を元に、更に追跡してやる。

俺はレッド・ホット・チリ・ペッパーをスマホの中に待機させたまま、別のスタンドを喚び出す。

その意志に応じて俺の右手から『イバラ状のスタンド』が生えだした。

 

「久ぶりに”やる”けど、上手くいってくれよ……隠者の紫(ハーミット・パープル)ッ!!」

 

俺は右手に現れたスタンド、隠者の紫(ハーミット・パープル)を纏った手を地面に触れさせ、能力を発動させる。

 

バシバシバシッ!!

 

能力の発動を現すイバラを伝う電流の様なエネルギーが、道の砂埃を掻き集めて『地図』を形成。

更に俺が追う犯人を示す小石が、その地図上を走って行く。

これが隠者の紫(ハーミット・パープル)のスタンド能力、念写だ。

文字通り、遠く離れた場所にいる対象をカメラ等に映し出す能力で、DIOとの体の繋がりが無い俺にはDIOだけしか写せない、なんて事は無い。

更にスタンドの訓練も日々熟してきたお陰で、ジョセフ・ジョースターと同じ様にテレビや砂に念写をする事が可能になった。

 

「このルートで行くと……今度は江戸通りを南下中、か……警察はどうしてるかね……ちょっとお邪魔しますぜっと」

 

隠者の紫(ハーミット・パープル)を展開したまま、今度はスマホの中のチリ・ペッパーを動かして、警察無線を傍受。

バレなけりゃあ犯罪じゃ無いし、凶悪犯を追い詰める為に已む無し、ってな。

 

『こちらパトロールッ!!現在通報のあったバイクを追跡中ッ!!江戸通りを南下して……なッ!?被疑者、発砲ッ!!こ、こちらに向かって撃ってきますッ!!』

 

どうやら犯人はサツが相手だろーとお構い無しみたいだ。

傍受した警察無線に耳を澄ませると、確かにパンパンと軽い発砲音が聞こえてくる。

バイクを運転しながらとなると、サブマシンガンかハンドガンの類になる筈。

多分だが、音の間隔からしてハンドガンっぽいな。

 

『こちらパトロール3号車ッ!!1号車に合流ッ!!追跡しますッ!!』

 

『5号車も被疑者を発見ッ!!追跡に入りますッ!!』

 

お?プラス2台も追っかけが増えたのか?

……なら、こっちも念写の数を増やすとしよう。

耳に聞こえてくる情報を纏めながら、犯人以外に追跡している集団を小石でマップ上に念写する。

すると、犯人の背後を走る小石の数が一気に”5個”増えた。

 

「ん?5個?……計算が合わねえぞ……一つはコナンとして……もう一つは誰だ?」

 

追跡している小石の配列は、3個が犯人の直ぐ後ろを走り、残りの2個が離れた位置を走る形だ。

更に言えば、残りの2個はピッタリと寄り添う形で走っている。

これは恐らく同じ車両に乗っているって事なんだろうが……コナンはスケボーで追っかけた筈だが。

 

「ふーむ……考えても仕方ねぇか……お?」

 

と、残りの2個の謎を置いておいて地図を見ると、犯人のバイクが今度は吾妻橋を渡ってこっちの岸に戻ろうとしているではないか。

多分、警察の追跡を振り切る為なんだろうが、これは好都合だな。

俺が今居るのが隅田公園の近く……なら、道を選ばなきゃ、俺の方が早く追い着ける筈だ。

そう判断して俺は隠者の紫(ハーミット・パープル)を解除して、スケボーで走り出す。

ついでにもう一人の犯人の方も警察に連絡しようと思ったが、あの距離で犯人が複数だって気づけたのは、あの場では多分俺だけだろう。

なら取り合ってもらえなさそうだし、今はとりあえず後回しだ。

更にBluetooth機能をオン、耳にマイク一体型の小型イヤホンを嵌めて警察無線を聞きながら走行する。

これで新しい情報があれば、直ぐに聞く事が出来るって寸法よ。

 

そうして暫くたいした情報も無いまま走り続けていくと、警察無線が新たな情報を流し始めた。

 

どうやら俺の方が早く動けるという予想は当たったらしく、俺は何時の間にか犯人より2ブロック先を走っていたらしい。

……よーしっ……なら先に”狩り場”を整えて、獲物を待つとしますかね。

さすがに犯人をブチのめしたいとは言っても、コナン達の前で下手な事をやらかす訳にはいかねえ。

なら話は簡単。俺だと認識出来ない位置から犯人にお灸を据えてやりゃ良いだけのこった。

 

『こちら5号車ッ!!現在、被疑者は横綱二丁目を石原一丁目へ向けて直進中ッ!!』

 

『6号車、了解ッ!!こちらも現在、石原二丁目からそちらへ向かっているッ!!一丁目の交差点で合流可能ッ!!』

 

『7号車も横綱公園前を通過ッ!!同じく一丁目の交差点へ向かうッ!!』

 

そうこうしていたら、警察無線から応援と包囲の話が流れてきた。

これはかなり重要な話だと思い、俺はスケボーから降りてスマホのマップを起動させる。

 

「えっと、俺の現在地は……石原一丁目。つまり犯人はここに向かってて、警察も包囲しに向かってる訳だ」

 

自分の目で周囲を見渡し、更にマップと比べて今の情報を整理。

今現在、犯人の通れる道は3方向が塞がれ、このままなら倉前橋を渡るルートしか残らなくなる。

という事は、恐らく倉前橋の真ん中で犯人を挟み打ちにする算段だろう。

銃を持ってる相手なら、それが一番リスクが少ない筈だ。

 

 

 

――なら、俺の狩場は決まったな。

 

 

 

俺は自分の使えるスタンド能力を思い出しながら、この場で使うのに相応しいスタンドを取捨選択する。

そして、俺の姿が見られない様に、且つ銃を持った相手に対する安全距離を考慮した”場所選び”。

 

「……あそこだな……あそこが一番良い」

 

犯人が誘導される事になる逃走ルートは、恐らく倉前橋になる筈。

その倉前橋通りの直ぐ傍にあったビルを見つけて、俺はそのビルへと向かう。

正面入口から入りたいトコだが、そうするとビルの従業員やカメラに見つかるかもしれないので――。

 

「っこいしょっと(ズバァ)……お邪魔するぜ」

 

スティッキィ・フィンガーズのジッパーで裏側から侵入。

そのままカメラの目を切り抜けて屋上へ繋がる階段へと向かう。

警察無線の無断傍受に住居不法侵入……バレたら注意どころじゃすまねえな。

自分がしてきた事の半分以上が犯罪という事に苦笑しながら、俺は屋上手前の階段の踊り場で止まる。

 

「さて、と。ここから封鎖しとかねーと他の人が来ちまうし、さっさと済ませねえとな……カーペンターズ」

 

俺の呼びかけに応じて現れたスタンドは、これまた異様なシルエットをしている。

バケツの様な頭に横長の目の様な部分を開けた様な顔つき。

更に体は金属の様な骨格で作られていて、カッターの様な刃先を持つ尻尾の付いた亜人型のスタンド。

名をカーペンターズ。

なんと”原作は愚か小説にも登場した事の無いスタンド”である。

 

「まさかコイツまで使えるとは思って無かったが、正に嬉しい誤算ってヤツだな」

 

俺の傍で不動の体勢を維持したまま佇むカーペンターズに視線を送りながら、俺はそうぼやく。

こいつはとあるネット上で作られたフリーゲーム、ジョジョの奇妙な冒険”7人目のスタンド使い”という作品にのみ登場するオリジナルスタンドの一体だ。

能力は実に面白く、手の鉤爪や尾のカッター等で物体や生物を解体・改造する事が可能。

解りやすく言うなら、鉄くずを医療機器や弾丸に変える事や、人間の腕にドリルを付けたりとやりたい放題である。

但し集中力と根気が必要なので、最初の頃は良く失敗したのは良い思い出。

今は殆ど愛用品となってる鉄球のベルトですら、改造しようとしたら良く分からんオブジェになっちまったので仕立て屋にお願いしたぐらいだ。

まぁ、あれから更にスタンドの制御訓練をこなしたお蔭で、今なら問題無く造れるんだけど。

おっと、それよりもサクッと準備を整えねぇとな。

昔を懐かしんでいた思考を打ち切り、俺は『カーペンターズ』を従えて壁に備え付けられた消火栓の前に立つ。

 

「ちょっとこの”消火栓の扉”、借りますよー」

 

俺がそう呟くと、カーペンターズは手の六本の鉤爪を高速回転させ、尾のカッターを振り回して消火栓の扉に突き刺す。

そして、ドガガッ!!チュインチュインッ!!という音が鳴ったかと思えば、次の瞬間にはカーペンターズの手には『立入禁止』の看板が握られていた。

そう。たった今俺がカーペンターズに命じて作らせたのである。

 

「良し。見た目もバッチリ。後は、コイツとコイツを頼むぜ。カーペンターズ」

 

渡された看板の感触と出来を確かめてから、俺はエニグマの紙から”あるモノ”を2つ取り出してカーペンターズの目の前に出す。

するとカーペンターズはその差し出されたモノを無言で改造しに掛かった。

その改造が終わる前に、階段の踊場にさっきの立入禁止の看板を置いておく。

ん~、まぁコレで大丈夫だろ。

即席で作ったバリケードの出来に頷きながら、再び振り返る。

 

『……』

 

「お?出来たか……うん、相変わらず良い仕事だ、カーペンターズ。もう良いぞ」

 

そして、振り返った所で俺に改造したブツを差し出していたカーペンターズからブツを受け取り、俺は能力を解除。

1つは肩に担ぎ、もう一つはポケットに納める。

仕事を終えたカーペンターズが姿を消していく横を抜け、俺は屋上へと上がっていく。

入り口をジッパーで開いて不法侵入した俺は、全貌を見渡せる蔵前橋を眼前にほくそ笑んだ。

ここなら、逆光で向こうから俺の姿を見る事は出来ねえ。

犯人をブチのめす事は大事だが、俺の姿が見られねえ様に配慮する事も同じくらい大事だ。

何せ”コレ”を持ってるだけで、『銃刀法違反』で捕まっちまうからなぁ。

いや、その前に俺みたいな子供がこんなモンどっから持ってきたって話になっちまうか。

 

肩に担いだジョンガリ・Aのライフルのコピー品の手触りを確かめながら、俺は屋上の角へ寝そべる。

 

ライフルのストックは、俺の身長と手の長さに合わせて改良済み。

サイレンサーも付いてるから銃声を聞かれる心配も皆無……バッチリだな。

いざって時の事を考えて、初めてアリサ達と出会った誘拐事件の犯人達のベレッタを奪っておいて良かったぜ。

それを土台にカーペンターズで改造した元ベレッタ+鉄パイプの混合ライフルを握りしめて、俺は蔵前橋を鋭く睨む。

 

「……筋肉は信用出来ない……皮膚が風に晒される時、筋肉はストレスを感じ微妙な伸縮を繰り返す。それは肉体ではコントロール出来ない動きだ、だっけ?」

 

ライフルとしては軽く取り回しのし易い重さのソレを確かめながら、俺はジョンガリ・Aに倣ってライフルを構える。

ったく、地面に寝そべったら汚れちまうじゃねえか。それもこれも犯人の所為だぜ。

 

「ライフルは骨で支える。骨は地面の確かさを感じ、銃は地面と一体化する。それは信用出来る固定、だ」

 

ジョンガリ・Aの言葉を反復しながら、同じ様に構えてボルトアクションのコッキングをスライド。

薬莢を薬室に送り込み、蔵前橋を睨む。

……成る程、ね……確かに骨で支えりゃ、ズレは無い……こりゃ確かに、信用できる『固定』だな。

スゥ、と息を大きく吸い込んで吐く。

一度リラックスする為の呼吸を終えた俺は、体のリズムを一気に変える。

俺の身体能力を引き上げる神秘の呼吸、波紋のリズムへと。

 

「コオォォォ………………っし」

 

全身を循環する血液。

その中に含まれた波紋のエネルギーにより、俺の身体能力は普通の人間を凌駕する。

これで、俺の体はライフルの射撃に耐えられる。

あいにく専門的な事は全くと言って良い程に分かんねえけど、俺にはスタンドがあるからな。

天から貰ったその能力を使って、俺の足りない所は補う。

そうやって、俺は俺自身の平穏を打ち砕こうとする奴に”立ち向かってやる”。

 

『国道6を左折ッ!!予定通り蔵前橋に入ったッ!!両側から挟み込むッ!!』

 

『了解ッ!!こちら封鎖完了ッ!!』

 

と、そうこうしてる間にチリ・ペッパーの傍受していた警察無線から”獲物の追い込み完了”の報が届く。

そして、狙撃銃の癖にスコープの無いライフルのドットサイト越しに見た蔵前橋では、無線の言葉通りに追い込みが完了していた。

俺はそれを確かめてから片目を瞑り、精神を集中させ、スタンドを喚び出す。

 

 

 

「……――出やがれ」

 

 

 

――マンハッタン・トランスファー。

 

 

 

眼前に広がる蔵前橋の上。

その上をパトカーに追われながらも真っ直ぐに前進する犯人のバイク。

 

 

 

さぁ――狩りの始まりってヤツだぜ。

 

 

 

骨で固定したライフルのストックを抱え込みながら、走り抜けるバイクに照準を合わせる。

 

――目標との距離――1,2km、風速は3,2mの微風。

 

この距離では犯人の表情を見る事は叶わない。

しかし、あの迷いのない前進……真っ直ぐに獲物に突進して殺す事しか目的としない猪みてーだ。

ありゃ間違い無く、何か犯人には秘策があるんだろう。

ビッチリと隙間無くパトカーで埋め尽くされた道路をこじ開ける、隠し玉が。

まぁ映画とかだとこーゆー場合はお決まりで爆発物だよ、なぁ。

 

だがよぉ……んーなモン使わせて堪るかよ。

 

スタンドを発現した事で、俺の閉じた瞼の裏に流れ込む、『気流』の情報。

まるで映像化しているかの様な動きで瞼の裏を漂う犯人の形をした雲。

その動きを感覚で理解して――。

 

「とりあえず、アリサの代わりに俺が言わせてもらうか――宣戦布告だぜ」

 

名前も知らねえジョン・ドゥさんよ?

犯人を。いや人間を傷つける事への覚悟を固め、俺は躊躇う事も無く――引き金を引いた。

バスンッ!!という軽い音と共に吐き出されるスナイパープレミアム弾が描く軌跡。

俺の銃撃は、ズブのド素人である筈なのに、ターゲットまでの風速や気流を”スタンドの能力で理解”したお陰で真っ直ぐ蔵前橋へと飛んで行く。

更に、弾丸は俺の構えたライフルの射線上をフワフワと漂うスタンド、マンハッタン・トランスファーへ吸い込まれ――。

 

手榴弾のピンを引き抜こうとしていた犯人の”人指し指のみ”を、弾丸が正確に抉り取った。

 

指が無くなった激痛に操縦を誤り、手榴弾を取り落として動きが一瞬で怪しくなる犯人を乗せたバイク。

その光景を見ながら、俺はライフル越しにフンと鼻を鳴らして呟く。

 

「キスでもしてんだな……スピードがついてる分『道路さん』に、熱烈なヤツをよぉ~……」

 

俺の言葉を再現する形で、犯人は公衆の面前で道路に派手で情熱に溢れたベーゼをカマした。

派手に転倒した犯人とバイクの”気流の動き”を読みつつ、俺はコッキングレバーをスライドさせて使用済みの弾丸を排莢する。

これがマンハッタン・トランスファーの能力、シンプルに言えばライフルの弾丸を中継させる能力だ。

本体の放った弾丸を中継し、標的に反射させて撃ち込む狙撃衛星型のスタンド。

スタンド自体はまったくなにもしたりしないで、フワフワとライフルの軌道上に浮いているだけ。

要はセックス・ピストルズとはまた一風違った弾丸操作能力って訳だ。

そして、俺自身に気流を読む事は出来ない。

ジョンガリ・Aの様に培ってきた経験と技術と空気の動きを感知することで標的を正確に打ち抜くなんて芸当は無理だ。

しかし、それが可能になってる事から分かると思うが、これは俺が『全スタンド能力』を得ているお陰と言えるだろう。

マンハッタン・トランスファーは常に自身にかかる気流を読み取る事が出来る。

その敏感に察知した気流の動きに合わせて回避を行うから、回避能力に掛けて言えばかなりのもんだ。

 

 

 

ならば――ジョースター卿の言葉通り、逆に考えれば良い(・・・・・・・・)

 

 

 

ゴロゴロゴロ……。

 

『――』

 

「ウェザーリポート……天候を操り、知る能力……コイツが無きゃ、マンハッタン・トランスファーは使えなかったな」

 

俺はライフルを構えた体勢のまま、チリ・ペッパーと入れ替わりで呼び出した柔らかそーなスタンドの存在を感じながら呟く。

雲の様な見た目のスタンド、ウェザーリポートが感じる今の天気、風速、気流の流れを本能で理解しつつ、俺は目標までの全ての流れを読む。

 

そう、本体である俺自身がマンハッタン・トランスファーの感知している気流の流れを読める様になれるんじゃないかって思った訳だよ。

 

俺が今、風速を読んでいるのも、風向きを読んでいるのも、マンハッタン・トランスファーが感知した気流の流れをウェザーリポートで読んでるに過ぎない。

マンハッタン・トランスファーから俺までの気流と距離をウェザーリポートで逆算する形で読めば、目標との射程距離を測る事すら出来る。

ウェザーリポートは天候を自由に操る能力であり、天候を操るとはつまり、今の気象情報を知ってそれを塗り替える事が可能って訳だ。

俺は犯人の動きを止めた事を認識して、軽く一息つく。

 

「ふぅ……ん?……あれは、世良さんか?」

 

と、犯人を追いかけていた警察の後ろから追いすがった一台の青いオフロードバイク。

ヘルメットをしていて顔は分かり辛いが、後ろにコナンが乗っている。

事件の犯人を追いかけるコナンを乗せて一緒に走る様な、根性の座った女……そりゃ、同じ探偵の世良さんしか思い浮かばねえ。

それに確か俺を追い掛けていた時に、バイクなら直ぐ追い着くのにって言っていたから、バイクを持ってたかもしれない。

そんな予測を立てつつも油断無くライフルを構えていたら案の定。

ズッこけた犯人がパトカーから降りようとしていたポリ公に向かって、無事な方の手でハンドガンを構えようとしていた。

 

「おーじょーぎわのワリー事……」

 

バスンッ!!

 

「してんじゃねーよ(ジャキンッ!!)っと」

 

バスンッ!!

 

勿論、そんな動きを俺が見逃す筈も無く、ハンドガンの側面に当てて、犯人の手から弾き飛ばす。

更に空中に飛んだハンドガンに対して、リロード後直ぐもう一発撃ち込み――。

 

ガキィインッ!!

 

ハンドガンのトリガーのみを圧し折って使用不可能にしてやった。

そうとも知らずに道路に落ちた銃を拾いに行った犯人。

だが、その銃は既に引き金が引けねえ代物。

今この場……戦場では全く役に立たないと知り、苛つきを表現する様に地面へと投げつける。

そして、俺を、つまり狙撃手を探す様に辺りを見渡し、俺が居る方角のビル群へと視線を向ける犯人。

しかし残念無念。ここは今思いっ切り太陽が差してるから、テメェーの方からじゃどのビルか見分けるなんて不可能なんだよ。

勿論、俺の姿を確認しようとしてるポリ公も世良さんも……何やら眼鏡の機能を作動させてコッチを見ようとしてるコナンも含めて、なぁ。

 

「まっ、お陰で俺は直射日光で日光浴っつぅ、たまんねぇ思いしてる訳だが……残念なのはそこじゃねぇ」

 

俺は額を流れる汗も拭わず、再び弾倉から弾を薬室へ篭める。

そしてそのまま、こっちを見ようと無駄な努力を続ける犯人の側に漂うマンハッタン・トランスファーに狙いを定めて――。

 

 

 

「俺が心底残念なのは――テメェの青ちょびた面を(スタンド無し)で見れねえ事だよ、スカタン」

 

 

 

今度はまたもや取り出した別のハンドガンを、犯人の手の甲ごと撃ちぬいてやった。

さすがに痛烈な痛みを感じたらしく、犯人は手を抑えて蹲る。

その様子を気流で再現された映像で見ていると、やっとこさポリ公達が拳銃片手に犯人へと近づいていき始めた。

まぁ、半分くらいはこっちのビルに銃を向けながら無線で何か話してるトコを見ると、直ぐにこっちにも人が来そうだな。

さすがに俺の存在がバレちゃ敵わないので、俺は撤収する為にスタンドを解除――。

 

ドッゴォオオオオオンッ!!

 

「……は?」

 

した所で、橋の上から鳴り響く盛大な爆発音を聞いて呆けた声を出してしまう。

突如轟音が鳴り響いた蔵前橋。一体何が爆発した音なのか?

 

――それは、犯人の行く手を阻んでいた、警察のパトカーだった。

 

おいおい、気流はウェザーリポートで正確に読んでいたし、爆弾を取り出す暇なんて無かった筈だぞ。

ましてや犯人はさっきから手を握りしめていて、とても爆弾を投げられる状態じゃ無い。

って事は……今のはもう一人の犯人かッ!!仲間がヤベエと知って助けにきたって訳だッ!!

状況を把握した俺は直ぐにマンハッタン・トランスファーとウェザーリポートを再度喚び出す。

そしてそのまま気流を読んで、橋の被害を確認し始める。

だが幸いにして犯人確保の為に警官の殆どがパトカーから離れていたお陰で、誰も死んじゃいない様だ。

 

「ちっ。爆発で気流が滅茶苦茶に乱れてやがる……だが、蔵前の方にはそれらしい奴は居無さそうだな」

 

気流で人の動きを読むが、蔵前側には殆ど人が居ないし、アンダーワールドで確認した体格の奴も居ない。

とすれば、もっと別の所から爆弾が投げ込まれたって事で……それは――。

 

ギュオオオオッ!!

 

「橋の下を走る隅田川っきゃ無えよなぁ」

 

残ったルートを予測しながらそちらにライフルの照準を合わせれば見事にビンゴ。

隅田川を走る水上バスを躱しながら、小型ボートが一隻猛スピードで蔵前橋へと向かってきていた。

どうやらボートから爆発物を投げたらしい。

 

『――!!』

 

『ッ!?――!!』

 

そして、ボートの仲間が手を振りながら橋の上の犯人に何かを伝える。

すると、橋の上の犯人は橋を乗り越えて川へ飛び込もうとしていやがった。

警官達はパトカーが爆破されたから、反応が遅れている。

おいおい、そう簡単に逃がして堪るかって――。

 

ドゴォッ!!

 

「……OH MY GOD」

 

と、橋から川へ飛び込もうとした犯人の足辺りを撃とうとしたら、コナンの腹辺りから突然現れたサッカーボールが犯人を川に突き落としてしまう。

その所為で、犯人はマンハッタン・トランスファーの狙撃位置からズレてしまった。

しかも、その犯人は運良く……いや、俺達からしたら運悪く仲間のボートの上に落ちてしまったんだ。

コナンの奴、今頃「しまったッ!?」とか思ってんだろーな。しまった、じゃねーよ。

 

「S・H・I・T、駄目か……マンハッタン・トランスファーの動きじゃ、船の速度に追いつけねえ」

 

当然、犯人達がその幸運を見逃す筈も無く、奴等はボートを加速させてこの場から離脱しようとする。

それを狙撃しようにも、マンハッタン・トランスファーの移動速度じゃ直ぐに中継地点に到達すんのは無理だ。

なにせフワフワと漂ってるだけだし。

しかも奴ら偶然にも倉前橋の下を通る形で、ライフルの射角から逃れてやがる。

コナンの奴め、邪魔しやがって……しょーがねぇなぁ……丁度ライフルの残弾も少ねえし、持ち変えるとしますか。

狙撃は無理と瞬時に判断を下し、俺はマンハッタン・トランスファーとウェザーリポートを解除。

そしてライフルと空薬莢をエニグマの紙に入れて、懐に忍ばせておいた『サイドアーム』を取り出す。

 

さっきカーペンターズにライフルを改造させた時に、ついでに改造させたもう一丁の元ベレッタ。

 

ジョジョの奇妙な冒険の登場人物、グイード・ミスタが使っていたハンマーシュラウド(撃鉄を覆うシェル)付きの拳銃だ。

この銃はイマイチ形がはっきりしなかったので、俺の主観で一番形が合ってると感じた『コルト・ディテクティブスペシャル』を作らせた。

何よりコルト・リボルバーの熟成されたウイスキーのような曲線は、漢の色気たっぷりなミスタに似合うと思う。

まぁ、それが俺にも合うかって言われれば、そうでも無えんだけどな。

 

「さあて、リボルバーの射程距離まで近づかねーとな……アクトン・ベイビー」

 

まずは自分自身とスケボーを透明にして、俺は屋上から一気に飛び降りる。

それと入れ違いで屋上の扉が開いたのが見えたので、やっぱり警官が向かってたのは正しかったんだろう。

俺は自身を透明にしたままスタープラチナの足で、外灯の上に着地。

その不安定な外灯の上からボートをUターンさせようとしてる犯人達を発見した。

東京湾の方から来て東京湾向きに戻って消えようって腹らしいが――。

 

「OK!!犯人達ッ!!それでいい……そこの位置が良い(・・・・・・・・)ッ!!」

 

周りに水上バスが居ないのを確認した俺は、犯人達には聞こえないくらいの声でそう叫ぶ。

俺の真正面に”ボートの横っ腹を見せて発進しようとしてる”犯人達のボートに向かって、俺はリボルバーを構えた。

そして周囲に人の気配が無い事を確認してから透明のまま――。

 

ドンドンドンドンドンドンッ!!

 

リボルバーの弾丸を全て撃ち尽くし――。

 

『『『『『『ウッシャァーーーーーーッ!!』』』』』』

 

バギィイイイッ!!

 

「テメー等もボートも……その位置がものすごく良い」

 

ボートの後部エンジンと燃料タンクに向かって、セックス・ピストルズ達に弾丸を直角に叩き落とさせたッ!!

勿論、サイレンサーの無い銃で撃ったんだから銃声は出る。

その銃声に反応して、こちらに視線を向ける目出し帽とフルフェイスヘルメットの犯人達――。

 

ドグォオオオオオオオオンッ!!

 

『『『『『『YEEEEEEEEHAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』』』』

 

次の瞬間には、エンジンは大爆音と炎を撒き散らして吹き飛んだ。

標的を吹き飛ばした事で歓喜の声をあげるピストルズ。

しかし犯人の二人は爆発の衝撃で川に投げ出され、行方が判らなくなってしまう。

更に追撃してやりてぇ所だが……そろそろ潮時だな。

チト派手にやり過ぎたし、コナン達がこっちに向かってきてる。

アクトン・ベイビーで透明になってるから見つかる事は無えだろうけど、見つかる”かも”って危険は消しておかねえと、な。

俺はこちらに向かって走るコナンや世良さんにバレない様に注意しながら、この場を立ち去る。

本当なら奴等を追い掛けてブッ潰したい所だが、あんまり離れすぎているとコナン達に何処へ向かったのかと怪しまれかねない。

アリサ達が誤魔化してくれてる事を祈るばかりだ。

それに犯人の狙撃した方は手の甲に穴開けてやったし、指もフッ飛ばした。

再起不能とまではいかねえけど、少なくとも常人なら薬使っても2~3日の間は行動不能だろうよ。

 

『定明ッ!!ヤツ等ッテ、魚カ何カカァ~~ッ!?』

 

『全ッ然。影モ形モ見エヤシネェゼェ?』

 

『オイNO,5!!オ前潜ッテ探シテ来ヤガレッ!!』

 

『ウエェェ~~ンッ!!何デ僕バッカリィイイ~~ッ!!』

 

『デモ定明。マジニドォスル?アイツ等探シテオクカ?』

 

「必要無えよ、NO,7。奴等は暫く身を隠すしかねぇだろう。狙撃した奴の手の骨は完璧に砕いてやったし、指も千切った。もう一人の奴だって今の爆発で体に火が着いてた。まぁ直ぐに水に飛び込んでたが、ありゃ相当な火傷になる筈。これでまだ狙撃やるってんなら少なくとも2,3日は身を隠して治療しねぇとな」

 

『マァ確カニ、アレジャドッチノ野郎モ正確ナ狙撃ナンテ無理ダローナ。少ナクトモ今日ミテーナ長距離ハゼッテー撃テネーカ』

 

「そーいうことさ、NO,1。とりあえず戻るぞ……残念ながら、もうタイムアップみてーだからな」

 

やいのやいの騒ぐピストルズを諌めながら、俺は透明のままスケボーを担いでスタンドジャンプしながらベルツリーを目指す。

どうやら向こうでも、俺が居なくて蘭さん達が不安がってるみてーだしな。

メールをくれたすずかに『どうやって誤魔化してくれた?』と聞くと、返ってきたのは――。

 

「何々?……『咄嗟にお花を摘みに行ったって言っちゃった……ごめんね』って、よりによってトイレかよ……まぁ、からかわれるのはしゃーねぇか……やれやれ」

 

余りにもあんまりな言い訳に図らずもエシディシ泣きするところだった。

まぁ咄嗟に誤魔化してくれたんだし、文句は言えねえか。

俺ってば、何で戦ったらその後がこんなオチばーっかりなんだかな。

自分の不幸を嘆きながらビルとビルを飛び移り、俺は皆の元へと戻っていく。

まぁ戻ったら蘭さん達に心配されてしまったので、ちゃんと謝罪はしておいたよ……便所長くてスイマセン、ってな。

そして案の定、俺は小嶋と円谷にこれでもかとからかわれるのだった。

あんまりにもしつこかったから二人のジュースに下剤を放り込んだけど、俺は悪くない。

んでまぁ、俺達は全員警察に事情聴取を受けに行った訳だが、二人はトイレから出てこれてなかった。

まっ、それも俺をからかった仕返しだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

さて、あれから数時間が経った現在。

 

俺は小五郎の伯父さん、蘭さん、園子さん。

そしてコナンと世良さんと一緒に会議室へと通された。

理由は言うまでも無く、ベルツリーであった狙撃事件についてである。

伯父さんは直接その殺しを見た訳ではないが、伯父さんは世間で言う名探偵。

今回の事件についても一応話をしておくべきだと、目暮警部が判断しての事だ。

俺達はあくまで伯父さんの付き添いである。

 

そして会議室の反対側に座るのは、殺人を扱う捜査一課の面々。

 

アニメでは見た事がある変な髪型の白鳥警部。

小太りの千葉刑事。

更に大太りの目暮警部――そして……まぁ……。

 

「……ふふっ♪……よぉやく会えたわねぇ……」

 

「さ、佐藤さん……」

 

何やらとんでもねー威圧感ひっさげてる捜査一課の紅一点。

佐藤刑事と、その隣で顔を引き攣らせてる彼女の恋人高木刑事である。

しかもその威圧感で俺に熱い視線をビシバシ送ってきてるんだよ。

ったく、面倒くせぇ……まっ、適当に撒くしかねぇか。

俺はその視線を受けながらあくびをしつつ、パイプ椅子に凭れ掛かる。

そして何故か俺の一挙手一投足に視線を強める佐藤刑事。何だこの負のスパイラル?

 

「……ち、ちょっと少年。あんた、佐藤刑事に何かやったの?」

 

「や、やっぱりアレじゃない?定明君、佐藤刑事の事適当にあしらって事情聴取すっぽかしたって言ってたから……ねぇ定明君。佐藤刑事に謝った方が良いと思うよ?」

 

「そういえば定明君……そんな事してたって、前にファミレスで言ってたっけ」

 

と、佐藤刑事のオーラに慄いた園子さんと蘭さんから謝る様に促される俺。

その隣では、「そんな事があったなぁ」程度に思い出してる世良さんと、苦笑いのコナンの姿も。

更に向こう側では白鳥警部と千葉刑事と目暮警部が苦笑し、高木刑事は顔色を更に真っ青にしてるではないか。

そして件の佐藤さんはニコニコしながら威圧感出すなんて芸当をやってのけてる。

何ともカオスな空間を形成している中で、俺はテーブルに頬杖を突いていた顔を佐藤刑事に合わせ――。

 

「さぁ?俺にゃ身に覚えが無えッスね?全く。これっぽっちも」

 

真正面から覚えてません発言を投下してみた。

 

「ッ!!!」(バギンッ!!)

 

「な、な、なッ!?(や、止めてッ!?コレ以上佐藤さんを刺激しないでくれよ定明君……ッ!?)」

 

「ち、ちょっと定明君……ッ!?」

 

「ひぇ~……ッ!?少年、度胸有り過ぎ……」

 

(ハハ。なんでこーも堂々と人の地雷を踏み抜けるんだか……)

 

その拍子に笑顔が消えて顔に凄みが出る佐藤刑事と、対照的に顔色が白くなる高木刑事。

ちなみにさっきの音は、佐藤刑事が手に持っていたペンを握り潰した音だ。

しかも滅茶苦茶高価そうな万年筆がぐっちゃぐちゃ。あ~あ、勿体無え。

つうか手、痛くないんだろうか?

 

「まっ、もしもあの人が俺を見てんのがあの誘拐事件の事だってんなら、そりゃもう目暮警部に謝ってそれでお終いにしてますから。だから俺が睨まれなきゃいけねえ理由は皆無ッスよ。ですよねー目暮警部」

 

「ハハハッ。ま、まぁそう喧嘩腰にならんでくれ、定明君。事情は儂から佐藤君にも説明しとるんだがね……」

 

「あらら?もしかして、事実を言った事を根に持っちゃってんスか?高木刑事とのアレコレを?」

 

「ッ!?だ、だから高木君とはそういうんじゃ……ッ!!」

 

「へえ?お二人さん、今日は仲良く同じ家から出勤してきてんのに?男女が一つ屋根の下の泊まってんのにそりゃ無えッスよ」

 

「そ、それは偶々……え?……ち、ちょっと待ってッ!?どうして高木君が一昨日から私の家に泊まった事を君が知って――ッ!?」

 

「さ、佐藤さんッ!?」

 

俺の言葉を聞いて佐藤刑事は恥ずかしがる表情から一転して驚くが、その直ぐ後に高木刑事が叫んだ事で「しまったッ!?」って顔で口元を抑える。

まぁ、もう色々と手遅れな訳なんだがな。

 

「と、泊まったって……ッ!?しかも一昨日からですかッ!?」

 

「おやおやぁ?高木刑事もやるぅ~♪」

 

ほら、今の話を聞いた蘭さん園子さんコンビの女子高生達が楽しそうに目を輝かせてるし。

まぁ世良さんはそれ程でも無さそうだけど。

とりあえず、目の前のターゲットに興味が移った所で、俺はニヤニヤしながら再び椅子に凭れ掛かる。

 

「へー、やるなぁ定明君……どうして君は、あの二人が一緒の家に泊まったって分かったんだい?」

 

「ん?あぁ、二人から同じ柔軟剤の匂いがしましたから」

 

「柔軟剤?たったそれだけで?」

 

「でも定明にーちゃん。柔軟剤の匂いだけじゃ、決め手に掛けるんじゃない?」

 

「そうでもねぇぞ?あの二人が使ってる柔軟剤。最近出た女性向けの奴で爆発的に売れてんだよ。そんなレディース向けの柔軟剤を高木刑事っていう男が使うにゃ不自然極まりねぇだろ?」

 

「んー……でもさ、それなら高木刑事のお母さんが買ってきたとかは?」

 

まるで答えが分かっていながら、俺の能力を試すかの様に質問を重ねるコナン。

それに対して、俺はチッチッと指を振りながら答える。

 

「高木刑事をよぉ~く見てみな?スーツの裾のボタンがほつれてるだろ?」

 

「えッ!?あ、あれ?いつの間に……?昨日出掛けた時に何処かで引っ掛けたかな……?」

 

「な?普段から炊事洗濯をしてくれる親が居るってんなら、昨日今日ほつれたボタンなんて大事な所見逃したりしねーよ。って事はつまり、洗濯機で洗えないスーツがアレでシャツやネクタイ、ズボンがキチッとしてるって事は、スーツ以外をまとめて洗濯出来る場所に居たって事。そして最近若い女性に人気の柔軟剤の香りをさせてる、恋人持ちの男の服を洗濯する人は?」

 

「今も顔を赤くしてる、あの女刑事さんしか居ないって事だね」

 

「Exactly」

 

最後に答えを口にした世良さんにそう返しながら、俺は蘭さん達に詰め寄られて顔を赤くする佐藤刑事に視線を向ける。

そして俺に対して感心した顔をするコナンにも補足説明を続けた。

 

「まっ、どっちの家に泊まったかっていう確証と日数は、勝手に佐藤刑事さんがブチまけてくれたし……一昨日からって事は、少なくとも数日分の服があるって事じゃね?半ば同棲って事だな」

 

「ちょ……ッ!?こ、子供がそんな事言わなくて良いのッ!!」

 

「おいおいきーたかコナン?子供が、だってよ。初心なネンネじゃあるめぇし。笑っちまうよな?」

 

「う、初心なネンネ……こ、こんのぉ~……ッ!!?」

 

「あ、あはは……」

 

「ほら。コナンも笑ってますよ?いい歳した女が何カマトトぶってんだか、ハッ。的な顔で」

 

「え゛ッ!!??」

 

「コ~~ナ~~ン~~くん~~ッ!!」

 

「ちょ、違ッ!?(な、何で何時の間にか俺が標的にッ!?コ、コイツ乗せやがったなッ!?っていうか蘭の時も俺の所為にしやがって……ッ!?)」

 

とりあえず挑発に挑発を重ねて最後は隣に座っていたコナンに罪を擦り付け、俺は天井を見上げて溜息を吐く。

コナンに関しては1ミリも悪いとは思ってない。

俺の情報をデカなんぞに売り渡しやがったんだから当然の報いだ。

 

「あ、あはは……流石は毛利さんの甥っ子さんといった所ですか」

 

「まぁ、毛利さんより大分悪どい感じになってますけど……」

 

「う、うぅむ……ま、まぁ、彼もコナン君の様に中々の推理力を持ってるじゃないか、毛利君」

 

「え、えぇ。まぁ……(初心なネンネとか……あいつ何処でそんな言葉を覚えたんだ?)」

 

何やら白鳥警部や目暮警部に変な評価を持たれちまったが、まぁ良しとしよう。

苦笑い、というか引き攣った笑みで俺を見る白鳥警部や千葉刑事、そして目暮警部から視線を外す。

そしたら今度はコナンに詰め寄りたいけど目を輝かせた蘭さん達に詰め寄られて困ってる佐藤刑事とそれを落ち着けようと奮闘する高木刑事が目に入った。

おい、会議前だってのにこんな調子で良いのか捜査一課?

 

ガチャッ。

 

「すいません。お待たせしてしまいました」

 

「あぁ、いえ。大丈夫ですよ、ジェイムスさん」

 

と、会議室の空気がカオスに染まりかけていた時、扉を開いて白髪の老人が姿を現す。

その人の謝罪に問題無いと目暮警部が返し、ジェイムスと呼ばれた人に続いて二人の人間が入室。

一人は金髪のメガネを掛けた女性で、もう一人はこの前のファミレスの事件で出会ったキャメル捜査官だった。

あれ?確かキャメルさんはFBIの捜査官だって言ってたよな……って事はこの二人もFBIの人間って事か。

会議室にFBIの人間が入ってきた所でさっきまでのお巫山戯の空気は払拭され、皆席に座って真面目な顔で前を見る。

そうして会議の準備が整い、キャメルさんが会議室の隅にあったホワイトボードを出して、そこに写真を数枚貼っていく。

貼られた写真は何時撮ったのか、あのバイクで逃走した犯人の物が数枚。

そして知らない金髪の男の写真と、下に『シルバースター』と書かれた星のメダルの写真だった。

……この場であのメダルの写真を貼るって事は、あのメダルが今回の狙撃に関係してるって事か?

キャメルさんと女の人がホワイトボードの横に立つ中、ジェイムスさんはノートPCを引っ張りだして椅子に腰掛ける。

漸く会議の始まりみてーだな。

 

「こちらを御覧下さい。我々の入手した写真とあの狙撃技術から、ベルツリータワーにおける狙撃事件の犯人の一人はこの人物だと思われます」

 

「……ティモシー・ハンター、37歳」

 

「はい。元海軍特殊部隊ネイビー・シールズの狙撃兵で、2003年から3年間中東の戦争に参加。数々の功績を残した、戦場の英雄です」

 

ジェイムスさんの語る犯人と思われる人物……ハンターのプロフィールを聞いて、俺はやっぱりかと思った。

あれだけ正確な狙撃技術と逃走の手際の良さは、軍事関係の人間じゃねえとそう出来るモンじゃねえ。

 

「その英雄が、どうして白昼堂々と狙撃を……?」

 

「はい。その原因と思われるのが、このシルバースターです」

 

「シルバースター?」

 

伯父さんの尤もな意見に対してキャメルさんが答え、件のメダルの写真を指差す。

あのメダルが原因ねぇ……何か、話が段々と見えてきたな。

そしてそのシルバースターの概要を、今度は金髪の女の人が話し始めた。

 

「敵対する武装勢力との交戦に於いて、勇敢さを示した兵士に授与される名誉ある勲章です。ハンターはこの英雄の証を2005年に受賞したのですが……その翌年、交戦規定違反の嫌疑で剥奪されています」

 

「剥奪、ですか?」

 

「ええ。陸軍のある士官から、武器を持たない民間人を射殺したという訴えがあったんです。勿論、ハンターは否定。調査の結果、証拠不十分で裁判には至りませんでしたが、ハンターはこの一件で戦場の英雄から一転。疑惑の英雄と呼ばれる様になってしまいます」

 

「……疑惑の英雄、か」

 

俺は女の人の話を聞きながら誰にも聞こえない声量で小さく呟く。

それが真実かどうかはさて於いて、まだ今の話はアメリカでの話だ。

これじゃベルツリーで狙撃されたあの男の件に付いては届かねえな。

まだ推理材料が足りない中、俺は一度思考を切って金髪さんの言葉に耳を傾ける。

 

「そして、このシルバースターの件が影響したのか、戦闘に復帰したハンターは何時もの冷静さを失い、戦場に孤立……敵の銃弾を頭に受けてしまったんです」

 

「そんな……」

 

「あんまりな話ね……」

 

あまりにも酷い負の連鎖に、蘭さんと園子さんは悲しみに満ちた声を出す。

二人の呟きを誰もが聞いている中で、その空気を払拭したのは目暮警部だった。

 

「それで、ハンターは?」

 

「幸い手術は成功し、一命は取り留めました。しかし、これを機に除隊。直ぐに帰国しましたが……彼の不幸はこれで終わりませんでした」

 

おいおい……まだ不幸があんのかよ?

もうコレ以上は無くても良いだろ、と思える様な不幸続きのハンター。

それが戦場から生きて生還出来たってのにまだ続くだなんて、ホントに悪い夢だ。

だがそうは思っても、これはハンターという男が今まで歩んできた道。

キャメルさんが語り部を続けるハンターの話は、まだまだ終わりそうになかった。

 

「帰国後、平穏な暮らしを求めてワシントン州シアトルの田舎に移り住みましたが、戦場での忌まわしい記憶は消える事無く、ハンターを苦しめ続けていたそうです……そして、不幸は彼のみに留まらず、一緒に暮らしていた妻や妹にまで降りかかりました」

 

「ッ!?」

 

「??……定明にーちゃん?」

 

「……何でも無え」

 

キャメルさんの言葉を聞いて一瞬腰が浮きそうになったが、それをグッと堪える。

家族にまで及ぶ不幸……プレシアさん達の事思い出しちまったぜ、ったく。

そんな俺の行動に首を傾げるコナンに小声で大丈夫だと返しながら、俺はキャメルさんの言葉に耳を傾け直す。

 

「投資失敗による破産。婚約破棄による妹の自殺。薬物過剰摂取による妻の心乱。ハンターは名誉と財産、そして愛する家族までも……立て続けに失ってしまったんです」

 

さすがに容疑者候補に上がっているとはいえ、同情したんだろう。

ハンターのこれまでの来歴を話すキャメルさんは苦しげだ。

一方で俺も、これはさすがに酷すぎると、ハンターの過去に同情してしまった。

自分の大事な財産や愛する家族を失う苦しみ……想像しただけで、どうにかなっちまいそうだよ。

 

「それから6年間、ハンターの行方は全く分からなくなってしまいます」

 

「ならその人物が何故、今回の殺人事件の容疑者になるんですか?」

 

心を病ませるには十分な出来事だと思う中、キャメルさんに代わって金髪さんが口を開き、彼女の言葉に白鳥警部が疑問を零す。

確かに白鳥警部の疑問は尤もだ……でも、俺には多分、分かっちまった。

こいつは多分――。

 

復讐(リベンジ)……」

 

「え?」

 

「さっきキャメルさんが言ってた破産の原因てのがあの男……そこに写真貼ってる藤波っつぅおっさんだったら、そのおっさんへの復讐じゃねーんすか?」

 

俺が思った事を口にすると、警察側の刑事さんやFBIのメンバーは驚いた表情を浮かべた。

ホワイトボードに貼られた被害者……藤波宏明の写真を見ながら、俺は誰も何も喋らない中で更に言葉を紡ぐ。

 

「そのおっさん。俺達がベルツリーに居た時も、外国人の老夫婦に築30年の不良物件を売りつけようとしてましたし……その不良物件への投資失敗で破産に追い込まれた復讐だと思ったんスけど」

 

「……ほ、本当に藤波さんはそんな話を?」

 

「え、えっと、英語で話していたのは見たんですが……意味までは、ちょっと」

 

俺の言った言葉が信じられないらしく、目暮警部は蘭さんに確認を取るが、蘭さんはあの時その英語をちゃんと聞き取れた訳では無いらしく、曖昧な解答を返す。

まぁ確かにガキの言う事を一々間に受けてたら仕事になんねーか。

目暮警部の信用してなさそうな疑問の声は特に気にせず、俺は一人で頭を働かせる。

 

「うーむ……FBIの方では、そんな話はあるんですか?」

 

「……え、えぇ。実は、今彼が言った様に今回の被害者である藤波宏明こそ、日本の不良物件を売りつけてハンターを倒産に追い込んだ人物なんです」

 

「なんと……」

 

「先ほどの質問と合わせて答えますと、ハンターが捜査線上の容疑者に上がったのは、今から3週間前にシアトルで起きた事件が原因でして……」

 

目暮警部の質問に答えたのは、俺に視線を向けて驚いた表情を浮かべる金髪さんだった。

そして俺の予想がドンピシャで当たってた事に目暮警部は驚きを現す。

更にさっきの白鳥警部が出した疑問についての答えで、漸くこのハンターという男が容疑者に上がった理由が分かった。

3週間前にシアトルでブライアン・ウッズという地元新聞記者がライフルで殺害されたのだが、その人物もハンターに恨まれていた人物だったってこと。

当時ブライアン・ウッズは疑惑の英雄というハンターの心を抉る題名の連載記事を、執拗な取材で描き上げたらしい。

その余りの常識知らずで無遠慮な取材の所為で、ハンターと奥さんはノイローゼにまで追い込まれる。

ここまで聞けばその男が殺されても仕方無え男だと言う事がよーく分かったよ。

今回殺害された藤波っておっさんと合わせて二人……だが、俺には殺されても仕方無え外道だという思いしか浮かばなかった。

人の人生を狂わせた事への報いが死という結末だったって事か……哀れなモンだぜ。

殺される側には、何時だって大なり小なり恨まれる理由ってのがあるんだからな。

俺はこの事件の発端であるそのターゲット達に対する嫌悪感を隠さず、顔色に不機嫌さを表しながら話を聞く。

 

「これにより、容疑者となったハンターを警察とFBIが捜査した結果、2週間前に日本に入国している事が分かったんです。そこで、FBI本部は休暇で来日していた我々に、ハンターの身柄確保を命じたという訳です」

 

「なるほど……それで今に至る、という訳ですか」

 

「えぇ……所で、その後のハンターともう一人の共犯者の行方は?」

 

「現在も湾内を隈なく捜査していますが、今の所は……」

 

今回の捜査にFBIが加わった理由に納得した目暮警部に、返す刀でジェイムスさんが質問する。

しかし残念ながらハンター達の行方はまだ判明していないらしく、目暮警部は苦い顔をしてしまう。

そんな目暮警部に対し、キャメルさんが無理もないと言葉を漏らした。

ハンターの居た部隊、ネイビー・シールズは海空陸の頭文字であるSEALを取ったモノであり、狙撃と同様に泳ぎが得意なのだそうだ。

 

「その狙撃ですが、ライフルを撃ったと思われるビルの屋上から、妙な物が見つかっています。千葉君」

 

ん?妙なモノ?

白鳥警部の言った事に首を傾げつつ、白鳥警部に指名された千葉刑事がホワイトボードの側に立って写真を貼った。

映っていたのは……縦に置かれた空薬莢とクリアブルーに白色で点が描かれたサイコロだ。

 

「ベルツリータワー側の窓ふき用レールスペースに、”サイコロ”と長さ51ミリの空薬莢が置いてありました。薬莢については、犯行に使われた7,62ミリ弾と口径が一緒です」

 

「それはハンターが愛用していたライフル、MKー11のNATO弾と一致しますな」

 

「ではサイコロについてですが、シアトルの狙撃地点にも、サイコロと薬莢が置いてあったんでしょうか?」

 

「いえ。その様な報告は受けておりませんが……しかしハンターとサイコロは繋がりがあります」

 

薬莢についての推測をジェイムスさんが出し、白鳥警部の質問にはキャメルさんが答える。

なんでもハンターはサイコロを使ったダイスゲームが好きらしく、腕にサイコロのタトゥーを入れてるらしい。

確かに繋がりっちゃ繋がりか……偶然にしちゃ出来過ぎてる。

 

「ふーむ。定明の言った通り、これが自分の全てを奪った者達に対する復讐なら、ハンターが犯人で決まりだな」

 

と、伯父さんは自信満々の表情でそう答えるが……皆ソレを念頭に入れて会議してんの忘れてね?

案の定全員から送られる視線は呆れや苦笑いばかり。

目暮警部なんて「やっぱり眠ってない時の毛利君は……」なんて言う始末。

これで良いのか名探偵?永遠に眠っとけと言われてますよ?

 

「……そういえば、何で世良のねーちゃんは藤波さんを尾行してたの?」

 

「ん?」

 

「確かに……」

 

「何故、藤波さんを?」

 

と、そんな伯父さんの失態に被せる形でコナンが質問すると、他の刑事さん達も食いついた。

っつうか、この人藤波さんを尾行してたのかよ。

そんなコナンの質問に対して、世良さんは探偵としての身辺調査を依頼されたと答えた。

 

「僕の同級生の親戚が、あの藤波って男と結婚するって話があったんだけど、その男が胡散臭く思えたんだろうね」

 

「へー、そうだったんだぁ」

 

そして世良さんが尾行していた意味に納得したコナンは猫を被りながら感心する。

まぁ事件との関係性は全く無さそうだし、コナンの興味も薄れたんだろう。

 

「それにしても……あの弾丸。どうしてあの藤波って男の人の後ろの人に当たる前に天井に逸れたんだろう?普通はあんな角度で曲がるなんて在り得ないと思うんだけど……」

 

そりゃセックス・ピストルズの仕業だからな。

世良さんの言葉に、あの好奇心旺盛なコナンだけでなく、会議室の面々も首を捻る。

俺はその光景を見ながらちょっと面倒な事になりそうだなと心中でため息を吐く。

さすがにあの場は仕方無かったとはいえ、あれはやり過ぎたか。

 

「ふーむ。あんな事が可能なのは、HGS患者くらいなものだが……未だかつて、発射された弾丸を曲げる程に強力な能力があるなどとは聞いた事が無いな」

 

「それに、HGS患者特有のリアクターフィンもタワー内のカメラでは確認されていません」

 

「ならばHGS患者が藤波さんの後ろに居たデビットさんを助けようとしたという線は無くなるか……」

 

目暮警部と佐藤刑事の話を聞きながら、俺は内心で安堵した。

なんとかスタンドの事はバレずだったけど、まさかHGS患者の仕業になりかけるとは。

しかしそう安堵したのも束の間、更に千葉刑事からの報告で会議は紛糾する。

 

「それと、天井にもう一つ弾痕があったんですが……弾丸は発見されず、弾痕から推測すると45口径から50口径クラスの銃弾の可能性があるそうです」

 

「…………ふぅ……で?現場の窓ガラスは割れている箇所はあったか?」

 

「い、いえ。それが全く……というか、現場に居たコナン君達も銃声は聞いていないそうですので……内部では無いとするなら外からという事になるんですが、ガラスも割れたのは狙撃での穴だけでした。口径が一致しないので、7,62ミリ弾の後にガラスを突き破った可能性は無いだろうと、鑑識から報告が……」

 

「誰も銃声、それか銃声に近い音は聞いてないのかね?サイレンサー装備で撃った可能性は?」

 

「いえ、誰もその様な行動を取った人物はカメラで確認出来ませんでした。それに例えそんな人物が居たとしても、あの場所に弾丸が命中するには少なくとも真下から撃たないと不可能かと……運よく跳弾したならそれもありえますが、他に弾丸が着弾した形跡はありません」

 

「おいおい。現にそんな現象が起きているじゃないか」

 

「で、ですが、鑑識からも予測は不可能だという報告でして……」

 

あー……今度はエンペラーの弾痕についてかよ。

またもや俺が残した謎の証拠についての話になるが、蘭さん達は銃声なんて聞いていないと首を横に振る。

エンペラーは銃弾から銃本体まで全てがスタンドとして構成されてるからなぁ。

唯一普通の人間に見えてしまう名残は、銃の弾痕程度だ。

HGS患者の仕業でも無ければ、幽霊が銃でも撃ったかの如き謎の弾痕。

それに対して頭を悩ませる皆さんには申し訳無えが、犯人の仕業にでもしといてくれ。

 

「それに、今回の犯人を狙撃した謎の人物についても、狙撃地点と思われるビル周辺には何も残されていませんでした……まるで、最初から其処には何も居なかったかの様に……」

 

「……まったく……幽霊じゃあるまいし、証拠の一つくらいは残しておいて欲しいもんだわ」

 

「しかもその別の狙撃手も、今回の狙撃犯と同じぐらいの腕を持っているとなると気が抜けませんね。一体何の目的で犯人を撃ったのかが検討も付きません」

 

そして千葉刑事が口元をひくつかせながら報告した事案に、遂に会議室の空気は些か重くなってしまう。

特に幽霊の存在を信じてる蘭さんと園子さんなんて涙目ものだ。

全くもって謎な出来事に溜息を吐く佐藤刑事や震える蘭さん達の姿を見て、俺は会議室から出る事にした。

テンション突っ切ってやりたい放題しちまったけど、まさかその弊害がこんなトコで出ようとは思いもしなかったぜ。

さすがの俺も気まずい思いをしつつ、椅子から降りて出口へと向かう。

 

「さ、定明君?何処に行くの?」

 

「俺はちっと抜けますわ……人が撃たれんのを目の前で見て……まぁ、アイツ等も嫌な思いしただろーし……ちーと、心配なんでね」

 

蘭さんの疑問にそう答えて、俺は後ろ髪を掻きながら会議室の出口へ向かう。

しかし俺の言葉を最後に誰も何も言わなかったのが気になって振り返ると――。

 

「へぇ~?女の子の気遣いが出来るとは優しいじゃん、少年♪」

 

「ふっふ~ん?何だかんだ小生意気な事言っても、やっぱり子供ね~♪」

 

「うんうん♪普段はアレだけど、やっぱり定明君も紳士的な男の子だね♪そういう気遣いが出来るのはポイント高いと思うよ?どっかの推理バカよりはね♪」

 

「あ、あはは……(オイ。それって俺の事か?)」

 

「ケッ。早い内から色気付きやがって……早く行ってやれ。ちゃんと安心させてやるんだぞ」

 

ソッコーで見るんじゃなかったと後悔した。

何ていうか、皆して微笑ましいモンを見る様な目で俺を見てきてやがるんだよ。

っつうか、佐藤刑事なんて園子さんと一緒でやたらニマニマした面していやがる。

それと伯父さん、俺は別に色気付いた訳じゃねえんでそのニマニマ引っ込めてくれません?

思わずこの場の全員をボッコボコにしたくなった俺は悪く無いだろう。

しかしそんな事をするのは現実的に不味いので、俺はチラッと気になっていた事だけを呟く。

 

「あ~そうそう。佐藤刑事さん、キスマークはちゃんと隠した方が良いッスよ?こうきょーの場ではね?」

 

「んなッ!?て、適当な嘘を言うんじゃないのッ!!」

 

「さっきチラッと見えましたよ?左の襟の影に」

 

俺がそう伝えると、佐藤刑事は焦った顔から一転して勝ち誇った様な表情を浮かべる。

一方高木刑事は最早茹でダコ並に顔を赤くしていた。

 

「残念ね。そんな所に付ける様な愚考はしてないわ。ちゃんとそこ以外にしてって――」

 

「さ、佐藤さぁあああああんッ!!?」

 

「あ゛」

 

「はい。自爆乙っす。とりあえず今のは少年探偵団に教えて署内に吹聴して回ってもらおう。そんじゃ、”抜けられない重要な会議”頑張って下さいよー?俺ら市民の安全の為にー」

 

「「ちょッ!?まっ――」」

 

凄く良い笑顔で死刑宣告を下した俺は、会議室の扉を閉めて意気揚々と署内を歩く。

とりあえず俺はデビットさん達の居る会議室を目指して歩く。

そんでまぁ、その会議室を目指して歩いてる訳なんだが……。

 

「……何処だっつうの」

 

今日入ったばかりの建物の構図なんて分かるハズも無く、有り体に言えば、俺は迷子になっちまったって訳です。

ったく、面倒クセェな……こうなったらスタンドでその辺りの部屋片っ端から調べて――。

 

「ん?坊や、こんな所で何してるの?」

 

と、スタンドによる一斉捜索でもしてやろうかとやさぐれていると、後ろから二人組の婦警さんに声を掛けられた。

さすがに警察署内に親の居ない子供一人ってのは違和感があったらしく、二人共首を傾げている。

これは好都合だな。

 

「すんません。デビット・バニングスさんの居る取調室って何処ッスか?」

 

「え?……えっと、坊やはどうしてデビットさんに会いたいのかな?」

 

「ひょっとしてアレじゃない?コナン君達に憧れて少年探偵団の真似事してる……とか?……アレ?」

 

「……どうかしました?」

 

「先輩?どうしたんですか?」

 

俺と目線を合わせてくれたツインテールの人とは違い、俺を見下ろしていたロングヘアーの婦警さん。

その人が何やら失礼な事を言い始めたなと思っていたら、何故か俺を見て段々とビックリした様な顔に変えていき始めるではないか。

もう一人の婦警さんにも意味が分からないのか、彼女も首を傾げている。

一体どうしたって……ん?……視線が俺の顔を向いてない?

さすがに俺も初対面の人にこんな反応をされた事が無いのでどうしたモンかと思っていたんだが、そこでふとある事実に気付いた。

彼女の視線は俺の顔では無く、今はもっと下に向けられているのだ。

なので婦警さんの視線を辿って目線を下ろすと……。

 

「鉄球?変わった物を付けてるのね?」

 

「ハァ、まぁ……そっちの婦警さん。俺の鉄球がどうかしました?」

 

婦警さんの視線は、俺の腰のホルスターに納められた鉄球に向けられていた。

しかも同じ様に視線を辿って俺の腰の鉄球を確認したツインテールの婦警さんがぼそっと呟くと、過剰に反応を示す。

……もしかして、俺の鉄球を何処かで見た?

いや、最近人前で鉄球を使ったのは誘拐犯騒ぎとファミレスの事件の時のみ。

そのどちらでも、この婦警さんが現場に居たっていう記憶は無いんだが……俺が覚えてないだけか?

 

それとも――。

 

「もしかしてッスけど、目暮警部か高木刑事から俺の鉄球の事聞いたんスか?」

 

「……じ、じゃあ、もしかして……坊やが、毛利探偵の甥っ子の……」

 

「はい。城戸定明ッスけど?」

 

どうやら俺の読みは当たっていたらしく、この婦警さんは俺の事を目暮警部か高木刑事に聞かされていたらしい。

……つうか一体どんな話を聞いたんだか。

何とも言いにくい反応に溜息を吐くと、もう一人の婦警さんが笑顔で俺に声を掛けてくる。

 

「へー?あの眠りの小五郎さんの甥なの、君?」

 

「えぇ。まぁそうッスけど……っつうか、そっちの婦警さんは一体どんな話を聞かされたんで?」

 

「ア、アハハ。ごめんごめん。いやーまさか美和子と高木君が言ってた坊やが君だとは思わなくて、ね。想像と余りにも違ったからさ」

 

「想像?」

 

高木刑事って事は、俺が関わった事件のどっちかの話だろう。

っつうか美和子って……確か、佐藤刑事の名前だったか?

やっとこさ俺の問いかけに答えてくれた婦警さんに問い返すと、婦警さんは苦笑いしながら口を開いた。

 

「君なんでしょ?この前の女子誘拐事件で犯人の男女を叩きのめして、しかも美和子をからかいまくってトンズラこいた坊やっていうのは?」

 

「は、犯人を叩きのめした?この少年が、ですか?」

 

「美和子と高木君の話ならそうらしいわよ?まぁあの怒り様を見るに本当だと思うけど……それに目暮警部からも聞いたけど、ファミレスの事件の時に逃げようとした犯人をその腰の鉄球で倒したらしいじゃない?」

 

ロングヘアーの婦警さんの言葉に驚くツインテの婦警さん。

どうやら聞かされてたのはどっちもの事件で、犯人をシバいた時の話らしいな。

高木さんか目暮警部ならファミレスの話だと思ったんだが。

俺の事を知っていた理由に納得がいった所で、俺に視線を向けて「どうなの?」と聞いてくる婦警さんに頷いて返事を返す。

 

「まぁ、どっちも已む無しの事情があったからッスよ。俺は降りかけられた火の粉を熨斗付けて返しただけなんでね」

 

「その熨斗が上等過ぎるって話。ファミレスの犯人は鼻の骨折に前歯が全滅。誘拐犯は男が全治3ヶ月と女が髪の毛全部剃られた上に油性マジックで罰なんて書く。はっきり言って鬼畜過ぎよ」

 

「……そ、それは確かに」

 

「法を破った奴が法で守ってもらえるなんて、虫が良すぎる考えだと思いません?何よりガキで一般ピーポーの俺が犯人を止めるにゃ、それしか無かったっていう話でしょーに」

 

「な、なんつぅ末恐ろしい事真顔で言い放つかね、この坊主は……」

 

「大体髪の毛なんて、また生えてくるじゃないッスか。脱毛剤ブチ撒けなかっただけ感謝して欲しいくらいッスよ」

 

言外に誘拐犯にやり過ぎだと言われるが、俺はその言葉に己の言葉を突き返す。

本当なら脱毛剤でもぶっかけてやるつもりだったってのに、持ってなかったから出来なかったんだよなぁ。

あの当時を思い返しながらウンウン頷いている俺の横で口元をヒクつかせる二人の婦警。

まぁそんな感じで俺はデビットさんの関係者、引いては一緒に居る娘の友達だと伝えて、取調室を教えてもらう。

んで、お礼代わりに二人……宮本由美さんと三池苗子さんにさっきの会議室での佐藤刑事と高木刑事の同棲情報を包み隠さず教えてあげた。

それは二人にとってとても面白いニュースだったらしく、キャーキャー言いながら知り合い中にラインで報告しまくる。

そしたら何か色んな場所から超が付くほどの強面のおっさん達が現れて殺気に満ちた目で高木刑事と佐藤刑事の居る会議室へ視線を送り始めた。

……まぁ、どーでも良いか。

俺は未だにキャーキャー騒いでる婦警コンビと殺気立ったおっさん達の波を抜けて、教えてもらった取調室に向かった。

 

……しかしやれやれだな。犯人を叩きのめした俺の行動が捜査の邪魔になるとは。

 

まぁ、その所為で捜査が遅延しようとも”別に構やしねぇ”。

……俺がサッサとブチのめして終わりにしてやる。

今回はあの藤波っつぅおっさんの命を救う事は出来なかったが、次は無え。

俺が伯父さんの家族って事であの会議に入れてもらったのは、今回の犯人がどーいう奴か知りたかったからだ。

殺された藤波っておっさんにゃ悪いが、俺は一切同情する気は無い(・・・・・・・・・・・・)

あのおっさんが殺されたのは当然であり必然だ。

人の生活を滅茶苦茶に踏み躙った報いを受けただけの事でしかねえからな。

どっちかって言うと、俺はあのハンターっておっさんに同情してる。

愛する家族を奪われ、名誉と財産を奪われ、後には何も残らない……なのに、奪った奴等はのうのうと生きてる。

そりゃー恐ろしい復讐者(アヴェンジャー)になるのも当然だろうよ。

俺は頭の中で今回起きた事件の理由、その当然の帰結に溜息を吐きながら移動していた。

 

「えっと……おっ?ここだな」

 

そして、幾つかの角を曲がった所で三池さんと宮本さんの言っていた取調室に到着。

扉をノックして、中からの応対を待つ事に。

やがて、中から人影が見え、俺の知る限りでは初対面の刑事さんが出てきた。

 

「はい?あれ、君は?」

 

「すいません。デビットさん達に会いに来たんスけど……」

 

「あっ!?定明君ッ!!」

 

扉を開いてくれた刑事さんに要件を伝えると、刑事さんの背後からすずかの声が聞こえてくる。

その様子を見て俺が知り合いだと判断したのか、刑事さんは笑顔で横にずれて取調室から出て行く。

 

「もうお話は済みましたので、私はこれで。今日はありがとうございました」

 

「はい。ありがとうございます」

 

と、退室する刑事さんにデビットさんやアリサ達が頭を下げ、それに礼で返した刑事さんは部屋から退出。

そこでやっと、俺は落ち着いて懐かしき海鳴メンバーと顔を合わせる事が出来た。

ベルツリーに戻った後で直ぐ、アリサ達はSPの車でこっちに向かったから、ちゃんと顔を合わせず仕舞いだったんだよな。

そんな事を考えながら、俺は難しい顔をしたデビットさん、そして不安げな表情をした3人と視線を合わせる。

 

「……定明君……まずは君にお礼を――」

 

「あっ、その先はちょい待って下さい」

 

「む?あ、あぁ。構わんが……」

 

俺と視線を合わせたデビットさんがお礼の言葉を言おうとしたのを止め、俺は無言でダイバーダウンを呼び出して部屋を調べる。

部屋中の壁やランプ類に潜り込み、この部屋の音を拾う集音器なんかが無いか確かめているのだ。

そうじゃねえとこの先の会話なんて何にも出来ないからな。

部屋中をダイバーダウンで潜って調べ、鏡もマジックミラーで無い事を確認して、ダイバーダウンを解除。

これでゆっくり話が出来る。

 

「ふむ……すいません。先にこの部屋に集音器とかが無いか確認してたんス……あの出来事も捜査の対象になってますから」

 

部屋中を調べ終えたのでそう謝罪しつつ、さっきまで刑事さんが座っていたであろう椅子に座る。

俺が言葉を遮って何をしているのか気にしていたデビットさんは、今の言葉で気付いてくれたらしい。

今度はすまなそうな顔で俺に頭を下げてきた。

 

「迂闊な事を言う所だった。すまない」

 

「いえいえ。怪我はありませんでしたか?」

 

「……あぁ……君が守ってくれたお陰で、私は生きている……アリサだけで無く、私の命まで……本当に、何と礼を言ったら良いか……」

 

「構いませんって。それに、あれについちゃ俺よりアリサを褒めてあげて下さい」

 

「えッ!?」

 

「??……まさか……アリサも?」

 

俺の言葉を聞いてビックリした声を出したアリサを見て、デビットさんはもしやと呟く。

その疑問に対して、俺は頷きながら口を開く。

 

「アリサは俺より先に、デビットさんの身を守ろうとしてスタンドを呼んでいました……もし、アリサがスタンドを使わなかったら、あの弾丸はデビットさんの心臓を貫いていましたよ」

 

「ッ!?……本当かい?アリサ……」

 

デビットさんの呆然とした声音の質問に、アリサはビクッと体を震わせながらも頷いて肯定する。

 

「パ、パパを守ろうとしたんだけど……でも、弾を反らしきれなくて……結局、最後は定明に助けられたの……」

 

「あぁ、アリサ……ッ!!」

 

「えッ!?パ、パパ……ッ!?」

 

自分では助けられなかった、と答えるアリサだが、その言葉はデビットさんの行動によって遮られる。

デビットさんは隣に腰掛けていたアリサを抱きしめて、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべていたのだ。

一方でアリサはデビットさんの笑顔の意味が判らず目を白黒させている。

 

「ありがとう……私の為に、頑張ってくれたんだろう?……本当に……ありがとう……アリサの様な娘を持てて……私は幸せだ……」

 

「そ、そんな……私、駄目だったよ……私だけじゃ、パパを守れなかったわ……無駄だった」

 

「いいや、結果は問題じゃない。アリサが何とかしようと頑張ってくれたという”事実”が、私はとても嬉しいんだよ……お前の勇気ある行動、私は誇りに思う」

 

「……パパ」

 

デビットさんの万感の想いが篭められた言葉。

それを聞いたアリサは驚きながらも、デビットさんの体に抱きついて、その温もりを確かめる。

 

「デビットさんの言う通りだぜ、アリサ……お前は良くやったよ」

 

「定明……」

 

「実際、お前には困難に立ち向かう力がある……でも、実戦も経験していないお前がデビットさんを守ろうと行動した事。それは、ゼッテぇーに無駄なんかじゃねえ」

 

「……」

 

デビットさんの腕に抱かれながら、アリサは俺に視線を合わせて俺を見つめる。

そうだ……アリサがやった行動は、無駄な事なんかじゃない。

デビットさんが助かったのは、アリサの運命に抗おうとする精神力が起こした、確実たる”事実”なんだ。

アリサの死の運命を拒否する行動は”決して滅びない意志”として、俺を動かした。

その守りたいという心が産んだ結果こそが、他ならねえアリサの強い意思によるものだからな。

取調室に居る全員の視線が集まる中、俺は静かに言葉を紡ぐ。

 

「お前があの土壇場で恐怖と闘いながらスタンドを使ってデビットさんを守ろうとした行動は、誇りに思うべき事だ……本当にスゲーよ、アリサ。それにそう思ってんのは俺だけじゃ無えみてーだぜ?」

 

「定明君の言う通りだよ、アリサちゃん……私、あの時は全然判らなかったけど、アリサちゃんのした事は本当に凄い事だよ。私ね?アリサちゃんの事、凄い尊敬したもん」

 

「ええ。大切な人を守ろうとしたアリサの行動。その強い意思……私も尊敬するわ。本当に、立派だと思う」

 

「す、すずかとリサリサまで……も、もうッ!!…………ありがと」

 

俺達が心からの賞賛を篭めた言葉を聞いたアリサは、デビットさんの胸板に顔を埋めながら小さく呟く。

そんな友達の姿を見て、俺達は微笑ましく笑った。

だけど、本当に凄いと思ったな……本当に……優しい奴だよ、お前は。

 

「しかし定明君。君もアリサと同じで私の命を救ってくれた事には変わりは無い。だから、お礼はちゃんと言わせてくれ……本当に、ありがとう」

 

「……わ、私も感謝してるんだからね……ありがとう、定明。パパを守ってくれて」

 

「別にそれは良いですって。俺が勝手にやった事なんスから」

 

と、アリサへの賞賛が終わった所でアリサとデビットさんは姿勢を正して俺に礼を言ってきた。

俺はその御礼に対して気を使わないで欲しいと返すが、その言葉にデビットさんは首を横に振る。

別に感謝が欲しくてしたんじゃないしな。

オレはオレで、アリサという俺の大切な友達が笑っていられる日常を守りたかったんだし。

そうじゃなきゃ、俺の日常も暗くなりっぱなしになっちまうよ。

 

「それでは私の気が済まないんだ。恩には礼で尽くさせて欲しい。そうでないと私は、いや私達は君にずっと負い目を感じてしまうからね」

 

「……あー……じゃあ、また何時か美味い飯でも食わせて下さい。しょーしみんの俺にはそれが一番良いッスから」

 

「あぁ。そんな事なら幾らでもさせてくれ……時にアリサから聞いたんだが、今回私の命を救ってくれた君のスタンド。名前はセックス・ピストルズで良かったかな?」

 

「??えぇ、そうッスけど……ピストルズが何か?」

 

「いや、何でもピストルズには其々意志があるそうじゃないか?それでアリサから今回の報酬にピストルズも美味い食事が食べたいと要求されたらしいんだが……」

 

報酬の話をボカそうとした俺に、デビットさんは大変良い笑顔でそんな事を仰る。

……そういやピストルズの奴等、ベルツリーでそんな要求をしてたよーな……すっかり忘れてたぜ。

チラッとアリサに視線を向けてみると、アリサはフフンっと勝ち誇った笑みで俺と視線を合わせる。

 

「アイツ等だってパパの命を救ってくれたからね。勿論OKしたわ。だから早く家に来ないと、ピストルズが騒ぎ出しちゃうわよ?でもなのは達にはスタンドの事は内緒だから……旅行前に来ないと、ピストルズが騒いで寝る事も出来ないかもしれないわね~?」

 

「ふむ、それは大変だ。なら是非我が家に泊まってはどうだろうか?それなら君もピストルズ達も、美味い食事が食べれて熟睡できる。まさに一石二鳥ではないかな?」

 

どうだ、参ったか。とでも言いたげな表情のアリサと、ニコニコ顔のデビットさん。

……良い性格してるぜ、お二人さん。さすが親子ってか?

そういやデビットさん。息子と男同士の触れ合いをするのも夢の一つだって言ってたっけ。

あの誘拐犯騒ぎのお礼にとアリサの家に招かれた時も、色々話してたし。

すっかり策略に乗せられちまった事に溜息を吐きたくなるが、それを押し込んで俺は口を開く。

 

「じゃあすいませんけど、旅行の前日に泊めて貰って良いッスか?」

 

「あぁ、勿論だとも。是非我が家に来てくれ。今日の事を知ったら、いや知らなくともマリアなら大喜びで君が来るのを賛成するさ」

 

いや、マジで大事にしないでもらいてぇんだけどなぁ。

まぁ母ちゃん達に旅行の事は話してあるから、泊まりでも騒がれる事は無いだろう。

 

「って、何で前日だけなのよ?海鳴に帰ってきたら二日空いてるでしょ?……ふ、二日とも、と、泊まりにきなさいよッ……」

 

「あー……生憎だが――」

 

「ごめんなさい、アリサ。ジョジョはその日、私とデートだから♪ね、ジョジョ♪」

 

何と言ったものかと頭を悩ませる俺の言葉を遮って、リサリサがとっても良い笑顔でそんな爆弾を投下する。

しかも俺に同意させる視線を送りながらに、だ。

……おいおい。何て事してくれちゃってんだよ。

余りにもアレなタイミングで横槍を入れられたので文句の一つも言いたくなるが……。

 

「…………は?」

 

「……え、えっと……もう一回、言ってくれるかな、リサリサちゃん?」

 

それより先にアリサが呆然とした声を出し、すずかが目を白黒させながら問い返す。

彼女達の問い返しに対して、リサリサはその笑みを崩さずに答えた。

 

「ふふっ♪昨日ジョジョが誘ってくれたの。連絡を無視したお詫びに、デートに付き合ってくれるって♪」

 

「正しくは買い物だろ?」

 

「あら。子供だからデートじゃないって事?」

 

「別にそうは言わねーが、買い物=デートってなんのかよ?」

 

「男と女が二人っきり(・・・・・)で出掛けるのはデートと言うんじゃないかしら?」

 

「そうかぁ?……まぁどっちでも良いけどよ」

 

訂正すんのも面倒になったので、俺は溜息を吐いて会話を止める。

そして俺が何も言わなくなったのが御満悦なのか、リサリサは微笑みを浮かべながら俺に視線を向けている。

まぁ、俺にとっちゃ何でも良いんだよ。今回の事はお詫びでしかねえんだし。

 

「……へ~え?そう……アタシの家に来るのは渋々で、リサリサは自分から誘うんだぁ~……へ~え?」

 

「うぅ……まさかそんな約束してたなんて……」

 

「ふふっ♪」

 

と、何故かこっちに向けて怒りやら何やらが篭った視線を向けるアリサとすずか。

二人の視線を受けながらも優雅な笑みを崩さないリサリサという3人に囲まれた俺という構図になってる。

……やっぱりこいつ等って、俺の事を……この歳で痴情の縺れ、なんてのは勘弁して欲しいな。

いや、そもそも俺自身がコイツ等の誰かを、女の子として好きなのかすら曖昧だ。

 

まぁ、今はそれを無理に考える必要も無えだろう。

 

俺達はまだ小学生であり、只の9歳のガキでしかない。

まだ思春期もきて無え曖昧なこんな時期に好きだ、なんだと考えても仕方ないっての。

言葉にして好きだと面と向かって言われたなら、俺は自分なりの答えを出そうと思う。

でもそんな感じは一切無いし、こいつ等が俺にしてくれたキスについてはコイツ等自身がお礼だと言って、その後の事も口出ししてきてない。

大体こいつ等が俺の事を、その、なんだ……好きだとして、それは友愛?親愛?恋人に求める愛情のどれなんだ?

幾ら大人びてるっつても、コイツ等も俺と同じで思春期のきてない子供。

こいつ等が俺に抱いてる感情にしっかりとした答えが出る日まで、余計な事は考えなくて良いだろう。

それに俺自身、まだコイツ等に対する答えなんか全然考えらんねえ。

今の俺がコイツ等に感じてる感情は、間違い無く『好き』だ。

でもそれは俺の平和な日常を彩り、象徴している『友達としての好き』ってのだ。

それ以上、つまりコイツ等と恋人になりたいかと言われると、答えが出ない。

……だから、俺やコイツ等が自分で答えを出せる時まで、こーいう事を考えるのは止めよう。

 

 

 

そう……今はまだ、な……俺達の関係が変わるかもしれない、その日まで。

 

 

 

普段の俺からは考えられない様な事を頭の片隅で考えつつ、俺はパイプ椅子に深く腰掛ける。

こんな事をこの歳から考えて悩んでたら、中学に上がる頃にゃハゲちまうぜ。

今は只、気楽で、怠惰で、俺らしい人生を楽しくエンジョイする事だけ考えてりゃ良い。

その『日常』であるアイツ等と、楽しく生きられる様にな。

 

「所で、話は変わるのだが……定明君。君に提案したい事がある」

 

「ん?何スか、デビットさん?」

 

と、ぐるぐると回り回っていた思考を打ち切った俺に、デビットさんが真剣な表情で質問してきた。

その様子に只事ではない雰囲気を感じたのか、アリサ達も睨むのを止めてデビットさんの言葉に耳を傾ける。

 

「うむ。私は先程、海鳴に戻ってきたらという前提で話をしたが……君さえ良ければ、このまま一緒に海鳴に戻らないかね?ご両親が帰られるまで、私の家に住まないか?」

 

「え?」

 

「えッ!?良いの、パパッ!?」

 

そして、デビットさんから申し出た提案の内容にビックリする俺と、驚いた声を挙げるアリサ。

一方で提案したデビットさんは、重々しく頷いて言葉を紡ぐ。

 

「勿論、君に命を救われた礼でもあるが、誤解しないで欲しい……私は純粋に、君が心配なのだよ」

 

「……」

 

「すまないが少し、調べさせてもらった……君はこの10日余りの間に、今回も合わせて5回も事件に巻き込まれているんだろう?それも殺人や誘拐等の危険な事件に」

 

「ッ!?」

 

「そ、そんな……ッ!?」

 

「……本当なの?……ジョジョ」

 

「……良く調べましたね」

 

「仕事柄、こういった情報も入る様になっているからね……それに君が今お世話になっている伯父さんというのが、あの有名な『眠りの小五郎』というのも知っている」

 

「「「ッ!!?」」」

 

デビットさんの調べた情報を聞いて、3人は目を見開いて驚く。

確かに、新聞のテレビ欄しか見ない俺は知らなかったが、眠りの小五郎は世間でとても有名だ。

バニングスの様な大物企業なら、その手の情報だって簡単に手に入るだろうよ。

内心、アリサの家の凄さに舌を巻いている俺の目の前で、デビットさんはとても真摯な目で俺を見つめる。

 

「……私も米花町や杯戸町の犯罪発生率は噂程度に聞いていたが、実際に体験して分かったよ。ハッキリ言って、この地は危険過ぎる。まるでヨハネスブルグじゃないか」

 

「……」

 

「定明君。私は娘だけでなく私の命すら救ってくれた君を、この危険な地へ放っては帰れん。もし君に何かあれば、ご両親も悲しまれてしまう。私の家に泊まりなさい。そうすれば、君の命は安ぜ――」

 

「良いッスよ、デビットさん……俺は残りますから」

 

「ッ……」

 

「えッ!?ど、どうしてなの定明君ッ!!一緒に帰ろうよッ!!」

 

「な、何考えてるのよッ!?何でアンタはこんな危ない街に残りたがるわけッ!?」

 

俺がデビットさんのお誘いを断った瞬間、アリサとすずかは怒りながら俺に詰め寄る。

その一方でリサリサとデビットさんは「やっぱり」といった感じで目を細めるだけだった。

 

「何でも何も無えよ。俺はまだ、やらなきゃいけねえ事が残ってるからだ」

 

「や、やらなきゃいけない事って……」

 

「……まさかアンタ、さっきの犯人を捕まえるつもり?」

 

詰め寄ってきたアリサ達を見ながら俺が残る理由を説明すると、二人は不安に満ちた声で予想を口にする。

まぁ、さすがに分かるか。俺が残る意味なんてのはよ。

視線で問いかけてくる二人に対して苦笑いしながら頷くと、二人は何も言わず押し黙ってしまう。

だが、アリサとすずかの視線にはまるでそれをしないで欲しいと縋る様な気持ちが見え隠れしていた。

 

「……それってやっぱり、貴方の伯父さんや従姉の蘭さんが居るからね?ジョジョ」

 

「ったりめーだ。でなきゃ何が悲しくてこんな危ねえ街なんぞに居たがるもんかよ……ったく、面倒臭え」

 

半ば確信を持って質問してきたリサリサに、俺は髪を掻きながら答える。

正直言って、デビットさんの提案は凄く魅力的だ。

さっさとこの街からおさらばすれば、ここよりもっと安全な海鳴に帰って過ごせる。

残りの日を平和に過ごして、母ちゃんと父ちゃんが帰ってくるのを心穏やかな気持ちで待っていられるだろう。

 

 

 

――だが、そうはいかねえ理由が、この街にはある。

 

 

 

「デビットさん。正直なトコを言いますと、ね?俺もスゲー帰りてえッスよ?……酷い時は立て続けで事件が起きる米花町に後4日も居るなんて、理由が無けりゃさっさと帰ってます」

 

「……」

 

「でもね――残り4日しか無えんスよ(・・・・・・・・・・・)――俺の家族と同じくらい大切な人達を、俺がこの街に居て守れるのは」

 

真っ直ぐに俺を見て無言を貫くデビットさんにそう返しながら、俺は思い返す。

もしも蘭さん達が何かの拍子に死んだら?

それはつまり、俺の親戚が……母ちゃんと父ちゃんの大事な人達が死ぬって事だ。

あの二人のどっちかだけでも死んだら、母ちゃんと父ちゃんは絶対に泣く。

あの優しい二人が、自分の親類が死んで悲しまない訳が無い……そういう人達なんだよな。

 

――だから、俺は母ちゃん達を……俺の大切な家族を悲しませない為に、蘭さんや伯父さんを守りてぇと思った。

 

ここに来る事が出来ない父ちゃんと母ちゃんの代わりに……どんな事があろうとも。

 

それが、俺が母ちゃんから教えてもらった”後悔しない生き方”だと思ったから。

 

それに、俺も毛利家の人達の事を好きになっちまったんだ。

この10日余りの間、いきなり押し掛けた俺を文句も言わず笑顔で迎えてくれた伯父さん。

憎たらしい口ばかり聞く俺に優しく接して、毎日手間だろうに食事の用意や洗濯すらしてくれた蘭さん。

 

 

 

――俺にとってもこの人達の事が、心底大事な存在になっちまった。

 

 

 

毛利家の人達はずっと俺の日常って訳じゃ無いだろう。

同じ地域に住んで同じ生活を過ごす事も無く、それぞれに生活がある。

もしかしたらこの先、一生交わる事は無いかもしれない。

なら、今という縁があるこの時、俺があの人達を守りたいと思うのは当然じゃねえか。

俺が海鳴に帰った後も、蘭さんと伯父さんは変わらずにこの地で暮らしていくだろうさ。

もしかしたら長い人生、その間に死ぬ事があるかもしれない。

だが俺には俺の人生があって、生涯ずっと二人を死から守るなんてのは無理だ。

なら、せめて今だけでも俺が守りたいと思うのは、当たり前だと思う。

 

「もし、俺が日にちを切り上げて米花町から居なくなった次の日に、伯父さんが死んだら?蘭さんが命の危険に晒されたら?……そん時、俺は一生後悔する」

 

「……」

 

「でも、俺がこの地に居る間は――俺が傍に居る間は蘭さんも、伯父さんも、その周りの人達だって守れるかもしれない……俺が持ってるスタンドってのは、こーいう時にこそ使わねーとって思うんスよ」

 

ハッキリ言って、これは俺の我儘でエゴ。自己中な考えで偽善でしかない。

俺が居る間は俺が守る?ハッ、何様だっての。

大体、俺が帰ったら後は自分達で何とかして下さいだなんて、ムシが良いにも程がある。

――まぁ、俺は自分勝手だから好きにやるっつうだけなんだがな。

俺が守りたいと思ったから、俺は自分の為に助けたいと思ったヤツを守る。

 

「俺は正しいと思ったから、俺の我儘で勝手にあの人達を守る――俺は、俺の”日常(・・)”を壊しかねない存在は許さない……だから、俺は帰りません」

 

「……例え、彼等の命を守らなければならない事件が起きたとして……彼等が君のお陰で無事でいるという事を知らなくてもかい?」

 

「今言ったじゃないッスか。俺は自分の都合で勝手にやるんスよ。感謝が欲しくてやるんじゃねえ――だって、俺の心の平穏の為なんスから」

 

「……そうか」

 

アルフにフェイトを助けてくれと頼まれた時に、内から沸き上がってきた様な思い。

それを改めて口にして、自分の中に覚悟を持たせた。

清々しく、何処までも自分勝手で臆病な台詞を、俺はデビットさんを真っ直ぐ見つめて言葉にする。

人が勝手にした事を恩着せがましく「感謝しろよ」なんて言うつもりは無い。

何故なら、何も知らないで平和に過ごせる事こそが一番大切なんだ。

俺は俺の中の欲を満たす為に、勝手に犯人をブチのめして警察に逮捕させるだけなんだから。

そして自分の目の前で誰かに死んで欲しくないから、助ける……それだけだ。

自分の中に浮かんだ思いを口にし、ちょっと臭い台詞だったかと思って頭を振る。

しかし、そんな俺の頭上から楽しそうに笑う声が落ちてきた。

その声に頭を上げると――何と、全員が俺を見て笑っているではないか。

 

「ふふっ♪……ジョジョ、貴方気付いてる?」

 

「あ?」

 

「何よ、気付いてないの?……あのね、一つ覚えときなさい」

 

「そうやって、誰にも自分のした事を褒められたり、感謝されなくても人を救おうとする人の事はね……こう言うんだよ?」

 

 

 

――それは、”ヒーロー”なのだと――アリサ、すずか、リサリサの3人は笑う。

 

 

 

その言葉を聞いて呆けた表情を浮かべる俺を見て、3人は再びクスクスと微笑む。

……ったく、何がヒーローだよ。

 

「アホな事言ってんじゃねぇ。俺がヒーローなんて有り得ねーだろ」

 

「あら?どうして?」

 

「どうしても何も無えよ、リサリサ……俺の知ってるヒーローってのはな、世の為人の為自分の為にどんな困難も、恐怖も乗り越えてやるっていう”黄金の精神”を持った人達の事だ……俺とは違う」

 

何とも的外れな事を言ってくれた3人に、俺は溜息を吐きながら言葉を返す。

俺の知ってる、尊敬するヒーローってのは……どんな時でもタフな精神と信念を崩さない、あの歴代のジョジョ達だ。

 

それが当然とでも言う様に真っ直ぐな信念を持った紳士であり続け、勇気という言葉が誰よりも似合うジョナサン・ジョースター。

 

お調子者だがユーモアを兼ね備え、友人や尊敬する者を迫害する者にはどんな相手でも毅然と立ち向かうジョセフ・ジョースター。

 

クールで無愛想な不良であり、冷静沈着で根は優しく、その怒りは正義に震えた証の体現者、空条承太郎。

 

この世のどんな力より優しい力を、言葉という上っ面だけのモノではなく精神そのもので現した優しいツッパリ、東方仗助。

 

悪の帝王を父に持ちながら心は正義を受け継ぎ、しかし父譲りの冷徹さも兼ね備えた正義のギャングスター、ジョルノ・ジョバーナ。

 

父譲りの冷静さと正義の心を持ち、様々な出会いと別れの中で逞しく麗しい女性へと成長した只一人の女ジョジョ、空条徐倫。

 

歴代とは違い、心に秘めるのは殺人すら厭わない漆黒の意志。黄金の精神に対し、あるいは対極に位置する「殺意」の輝きを持つ、ジョニィ・ジョースター。

 

自分は何者なのか?その答えを何処までも探し、自らを救った存在の敵には”明確な殺意”を抱き守る、東方定助。

 

あの人達の様な、どんな時でも自分の信念を貫き通すタフな精神の持ち主こそが、俺にとってのヒーローって姿だ。

俺が力を使ってまで守ろうとしてるのは、自分を取り巻く日常と、その日常を生きる友達や家族。

そして、目の前で誰かの悪意に晒されてる人間だけ。

アルフの頼みを聞いたのだって、アイツの真剣で何処までも真っ直ぐな思いに心動かされたからだ。

態々困ってる知らねえ奴を探しだしてまで困り事を何とかする気は無え。

 

「俺は目の前でトラブった奴が居たら助けるってだけだ……そーいうのは全身全霊守んねーとよぉ。夢見が悪いからな」

 

目の前で死にそうな奴を助けずに放置したら、それから毎日ずっと後悔しなきゃいけねえ。

そうなるくらいなら、スタンドを使って助ける方がマシだ。

それが、母ちゃんの抱擁と言葉を貰って……俺が覚悟した、俺なりの生き方ってヤツだから。

どんな選択であれ、自分が後悔しない様に生きる……それこそ、俺が守りたいと思った”城戸定明の日常”なんだからよ。

勿論、相手が只のゲス野郎なら、許すつもりは無えけどな。

目の前で間違えてる3人の言葉を覆そうとするも、それを聞いて増々笑みを深めてしまう。

 

「そうやって、人を助けようとする心を持ってる……だから、定明君はヒーローだと思うよ――少なくとも、定明君に助けてもらった私はそう思ってるもん♪」

 

手を後ろに組みながら、俺に優しい笑顔を向けるすずか。

 

「アンタがどれだけ否定しても知ったこっちゃないわ……アンタがどう思おうと、どんな理由があろうと……あの日、彼奴等から私とすずかを助けてくれたアンタは――間違い無く、アタシ達のヒーローだったんだから」

 

何時もの勝ち気な目で俺を見ながら、口元を吊り上げて異論を認めさせないアリサ。

 

「……あの時、私を庇って誘拐犯と戦ってくれたジョジョから、私は”ダイヤモンドの様な気高さ”を感じ取ったの……貴方風に言えば、”黄金の精神”をね……私達の命を救ってくれたという事実は、ジョジョがヒーローの条件だって言う黄金の精神を持っているという、紛れも無い真実よ」

 

そして、俺達より一つしか違わないのに、とても大人びていて優雅な微笑みを浮かべるリサリサ。

 

3人が其々自分の思いを、俺に語り掛ける。

まるで、俺の意見なんて知った事では無いという風に、覆せない意志を感じさせながら。

そして思った通り、俺には3人の思いを否定する事は出来ない。

何故ならそれは俺の考えでは無く、彼女達が其々感じ取った、彼女達だけの意志だからだ。

 

「……ハァ……ったく……やれやれだぜ」

 

「ハハッ。負けたね、定明君……では、私からも言わせてもらおう……君の日常を守りたいという意志。それは紛れも無く、一本筋の通ったタフな信念であり意志だ――そして」

 

俺に対する認識を変えられない事を悟って溜息を吐いた俺に、今度はデビットさんが声を掛けてくる。

その声に従ってそっちへ振り向くと、デビットさんはとても良い笑顔を浮かべて――。

 

 

 

「君がヒーローか否か、それは自分で決めるものではない――それを決めるのは何時だって、君に救われた側なのだからね」

 

 

 

そう、とても楽しそうな笑顔で言い放った。

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

後書き

 

 

結構心臓がバクバクしてます(:.;゚;Д;゚;.:)ハァハァ

 

自分的にはメアリー・スーにはなってないなと何度も確認しながら書きましたww

 

歴代のジョジョとは違っても、定明にも黄金の精神があるのかどうか。

 

自分の為=地球を救う形になったプレシア戦でも匂わせていた、定明の持つ精神。

 

蘭と和葉を月村裕二から、誰にも知られる事も無く、感謝される事も無く、秘密裏にその心と体、そして生命の尊厳を守り通した覚悟と勇気。

 

その部分を少しだけ掘り下げてみました。

 

トラブルを嫌いながらも、母の愛を心の根幹に根付かせる定明。

 

そしてその母の愛情が、大切な人を失う事の悲しみと恐怖を……それに立ち向かう勇気を教えてくれた。

 

そうやって、受け継がれゆく精神の話を今回書いてみました。

 

 

お目汚しにならなければ幸いです。

 

 

 


 
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