No.766636

双子物語59話~高校生編最終話~

初音軍さん

みんな色々な思いを告げたり残したりしながら一つの終わりを告げる日。
一度別れるこの二人もこのことが糧となってまた一回り大きくなることでしょう。

書きたいことが書けたので大体満足したんですがまとめるのが難しい(^q^)アハン

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2015-03-24 14:25:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:411   閲覧ユーザー数:411

双子59話~それぞれの卒業

 

【瀬南】

 

 これからのことを考えながら物思いに耽ってる中、急に部屋の中へノックも無しに

ゆきのんが入ってきてびっくりした。

 

 更に驚いたのはすっかり血の気が引いてふらふらしている今まで見たことのない

ゆきのんに私は駆け寄って今にも倒れそうな彼女の体を支えた。

 

「どうしたん!」

「あ、いや・・・何でもないわ・・・」

 

「何でもないわけあるか、体調悪いんか!?」

「悪くはないけど・・・ちょっとここで休ませてくれるかしら」

 

「それはええけど・・・」

 

 私の言葉を聞いて少しだけ笑みを浮かべて私を見た後、私のベッドに倒れるように

乗っかって目を瞑るとすぐに寝息が聞こえてきた。

 

 ただ疲れているだけなら問題ないだろうけど、今回のは異常ささえ感じられた。

体調面じゃないのだとしたら何だろう。

 

 私は腕を組んで考えてみる、精神的な部分だとしてもゆきのんはそこらへんの

生徒よりもタフだったからよほど堪えてるんだろうなぁとまで考えるとふと

叶ちゃんの顔が浮かんだ。

 

 そういえばゆきのんは叶ちゃんのことを特別お気に入りにしていたっけ。

それからだいぶ肩の力が抜けたような気がしたから私も嬉しかったのを覚えてる。

普段から気張りすぎっちゅうくらいガチガチで傍から見ると怖い印象やったからな~。

 

「まさかな・・・」

 

 その叶ちゃんと何かあったんやろうかと脳裏を過ぎったけど、あのいい子がゆきのんの

気に障ることはしないはず。ゆきのんも無意味に衝突はしないはずやしな。

 

 結局は私には何が原因かわからないまま、ゆきのんが起きるまで近くに椅子を引いて

座ってジッと静かに寝息を立てるゆきのんを見守りながら切ない気持ちを抑えても

溢れでる気持ちが小声になって口から漏れた。

 

「こんな子と離れ離れになるんは・・・勿体ないなぁ・・・」

 

 

***

 

【名畑】

 

 授業が終わり、寮の部屋にでも戻ろうかと思ったけど、滅多にないこの時期独特の

空気を味わうために生徒会の後輩と一緒に歩きまわっていた。

 

 ずっと頼っていた先輩たちは今年でみんないなくなってしまうから、残ってる

私たちがそれなりに把握していないと私達か後釜さんが困ってしまうだろうし。

果てしなく面倒くさいけど…。

 

 そんな中、澤田先輩が作った創作部の前まで辿り着くと携帯を取り出して時間を

確認した。外はじきに暗くなる頃、いくら用事があるとはいえこの時間まで中に

叶がいることはないだろうと思い、部屋を通り過ごそうとした。

 

「どうしました、先輩?」

「唯ちゃん、ちょっと待っててね」

 

 部屋の入り口から少し離れた場所に後輩を残して私は部室の扉に手をかける。

鍵はかかっていなかった。重苦しい音と共に部屋の中を覗くと真っ暗な中で魂が抜けた

ように身動き一つせず固まっている叶の姿があった。

 

「どうしたの、叶!」

 

 私は叶の傍に駆け寄って声をかける。聞こえていなかったのか、何度か大きめの

声をかけてようやく私に気付く親友。しかし、その目はこの世から大切なものを

失ったかのように虚ろで逆に私の方が身震いするほど異様な空気が漂っていた。

 

「あ、名畑…」

「何があったの…。まぁ、とりあえずこんな辛気臭いとこにいないで私と一緒に

来なさい!」

 

 強引に叶の腕を掴んで部屋から出させた。待っていた唯ちゃんも叶の様子を見て

普段変化させない顔も驚きの表情になっていた。

 

 事情がわからない以上、ここに留まる意味はない。私は落ち着ける場所を探すために

何も考えずに歩いていたら、寮に辿り着いていた。まるでそこに吸い込まれるように

来るべくして来たような感覚が私の中にあった。

 

「唯ちゃん先に帰っていていいよ。こいつは私が何とかするから」

「はい…わかりました…」

 

 唯ちゃんは何か言いたげではあったが、この場面で自分にできることはないと

悟ったのだろう。彼女は一度深々と頭を下げた後に私の前から去っていった。

 

 …あれだけ今年の初めのときに喜んでいた先輩との部屋の前まで来ても

まるで死人のような顔をしている。先輩と何かあったに違いないと

私の勘がそう告げていた。

 

 飲み物を買ってきて部屋に戻ると考える人みたいなポーズのまま叶に

買ってきたのを渡すと、叶は確認もせずにそれを飲むと思い切りむせた。

 

「ごほっ!なにこれまっず・・・!」

「青汁納豆サイダー」

 

「何でこんなもの売ってるのー!?」

「珍しかったから」

 

「そういう意味じゃなくてね」

「うーん・・・叶がまともに話せそうになかったから話せるようになりそうなものを

買っただけなんだけど」

 

「あんた・・・可愛い顔して怖いことするね」

「やぁ、いきなり褒められると照れるね」

 

「褒めてなーい!」

 

 いつものように私のことを叱りつける叶の姿を見れて私は思わずにこっと笑みを

浮かべた。

 

「ほら、話せるようになった」

「うっ・・・」

 

 私の言葉で気付いた叶はちょっとだけ言葉を詰まらせてから自分のベッドに腰を

再び下ろした。そんな叶の隣に座ってなるべくいつものような表情をしながら

叶に話しかけた。

 

「何かあったんでしょ、私にも相談くらいしなさいよ」

「名畑には関係ないでしょ・・・」

 

「あっ、ひどい。親友に向かって。すごく傷ついた。もう絶交しちゃうかも」

「え!? ごめん、そこまで言うほどひどいこと言ったつもりないけどごめん!」

 

「嘘だけど」

「くっそ・・・」

 

 くそ真面目な叶と遊ぶのは面白いけど、それじゃ話が進まないから私が先へと促すと

ちょっと言いづらそうにしながら、少しずつ話してくれた。

 

 先輩とのすれ違いのこと。一通り聞いてから私は少し考える素振りを見せるも

明らかに叶がおかしくなってることが原因なのはわかっていた。

 

 けどすぐにそれを言うと叶も可哀想だから、少しは考えて悩むくらいのリアクションは

必要だろう。そんな私の反応にごくりっと喉を鳴らす叶。

 

 本当に自分がどうなってるか気付いていないのだろう、本当に可哀想な叶。

自分を見失ったことすら気付けないなんて。

 

「何が原因かわからなくて」

「まぁ、それは叶が最初の頃と違っておかしいからだね」

 

「おかしい?」

「うん、恋は盲目というけれど叶はそれが度が超えてた」

 

「どういうこと?」

「依存していたんだよ、ちょっとした病的な意味で」

 

「依存・・・」

 

 前から思っていた、尊敬と恋愛の気持ち。そこまでは普通に微笑ましかったけど

そこから先輩へ求める愛情の強さ、重さ。

 

 もし先輩がいなくなったら生きていけないというくらいの執着心。

相手に与えるイメージも脅しに近い感じ。

 

「ねぇ、叶。あんたがここに来る前の気持ち。まだ覚えてる?」

「ここに来る前…」

 

 私の言葉に目を細めてから天井を見上げた。

思い出そうとがんばっているのが見てわかった。

 

 しばらくしてから顔を上げたとき、曇っていた瞳に光が戻っていくのが見えてきた。

当時の彼女は精神的病に振り回されていた母親のことが心配で母親を守れるくらい

強くなろうという決意があったのだ。ろくに愛情ももらっていなかったのに。

 

 それで心身共に強くしようと柔道などの道を体験をしていた。

続けていてセンスもよかったのか周りの反応も上々で期待と愛情をもらい

いつしか叶にとってなくてはならない環境ができあがっていた。

 

 そんな話を聞かされたとき、何かこの子の傍にいたいなぁと思ったことがあった。

最初は珍しい環境上、面白いことがあるかなという好奇心からだったけど。

今思えば、それはそんな頑張りやの彼女に惹かれていたことに気付けた。

 

 だからこそ叶の落ち込んでいた姿は見ていたくなかったから

私にしては珍しく叶を励ましていたのだ。

 

 その気になれば叶を振り向かせることができたかもしれなかった。

けど、そんな弱みにつけこんで付き合っても何にもならないと感じたから。

 

「そんな叶じゃ、先輩は喜ぶはずもないよ。一緒にいたかったら依存しない関係。

二人で自立してがんばれるような支えあえるような関係のほうがいいんじゃないの?」

「名畑からそんな言葉もらうとはね…」

 

 目が覚めたとばかりに吹っ切れたような顔をした叶はちょっと情けないと

苦笑を浮かべて呟いた。

 

「あーあ、何やってるんだろ。私は…先輩にもみんなにも迷惑かけて…バカやってさ」

「叶…」

 

「ありがとう、名畑。初心に戻してくれて」

「うん…」

 

「私は初心の頃に気持ちを戻して、それから…自分で成長できたと感じることができたら

…もう一度先輩とちゃんと向き合えるようにがんばるよ」

「うん…」

 

「名畑が親友でいてくれてよかった・・・!」

「・・・!」

 

 自分がどうありたかったかを思い出して私の手を握ってありがとうって満面の笑みで、

私にそう伝えてきた。違う・・・私はあんたが思ってるほど綺麗な人間じゃない。

 

 叶が心底から喜びを私に伝えてくれるのに私は半分ほど彼女を祝福できていないの

だから…。

 

「名畑・・・? 泣いてるの・・・?」

「そんなわけないじゃない・・・」

 

 これまでにないくらい綺麗な目で私を見ていて私は目頭が熱くなって思わず下を向いた。

立ち直ってくれた嬉しい気持ちと、その目を見てもう私の方を向いてくれる可能性が

なくなった寂しさ切なさ、そんな複雑な感情に押し潰されそうになって

涙が止まらなくなった…。

 

 今だけ、今だけは叶の胸の中で泣かせて欲しい。

何も言わず急に抱きつく私に叶は優しく背中を撫でてくれた。

 

 

***

 

【雪乃】

 

 彩菜の時とは全然違う。残り少ない時間の間、ずっと脳裏に叶ちゃんの悲しそうに

している顔が残っていて他に集中できずにいた。

 

 お互いのためを思って言ったことだけど、こうも引きずるとひょっとしたら

間違えた決断をしたのではないかと思い始めてくる。

 

 あの目を見てしまったら・・・姉と同じことをしてしまうのではないかと

私の中で不安と怖さが大きく膨らんでいたから。

 

 もしかしたら杞憂なのかもしれなかった。

けれど万が一・・・私のことで叶ちゃんがダメになってしまったらと思うと

たまらなかったのだ。

 

「・・・!」

 

 受験やこれからの進路について考える時間を設けているせいか他に集中できるものが

今の私にはなかった。人気のない場所をうろついてはそういう風に叶ちゃんのことを

考えていた。

 

 そこに心配そうに背後から声をかけてきた人がいた。

 

「大丈夫か、ゆきのん」

「瀬南…」

 

「顔色悪いやんか」

「ごめん…」

 

「後悔するなら言わないでおくことも大事やよ」

「うん・・・でも間違ってはいないと思うから」

 

「そっか」

 

 そう言って瀬南がにこっと笑うと、私の腕を引っ張って歩き出した。

いきなりのことで慌てるように瀬南にどこにいくのかと訊ねると。

 

「せっかくの自由時間やし、羽伸ばしにいこっ」

「時間があるって、遊ぶための時間じゃないんですけど!?」

 

「細かいことは言いっこなしやって!」

 

 それから半ば引きずられるように私と瀬南は駅前まで行って普段は遠くて

あまり行けなかったカラオケやら喫茶店やら行って羽を伸ばした。

 

 生徒会の引継ぎも全部終わってはいなかったけど、でかける前に楓や裏胡たちに

会って二人に任せる形になってしまった。

 

 二人もずっと悩んでいるようにしている私を見ていたから快く承諾してくれた。

良い仲間を持ったなと、すごく感謝をしていた。

 

 けど、やはり胸に残っていたもやもやは晴れることはなかった。

ただの後悔とか不安とかじゃなくて・・・漠然と何かを待っているという感覚があった。

 

 

 日も傾き始めてキリが良いところで寮に戻ってからは私の中でまだ済ませていないこと

があったのを思い出して近くにいた生徒に声をかける。

 

「あ、雪乃様。どうしましたか」

「いや、様付けはやめてよ。えっとね、名畑さんがどこにいるか知ってる?」

 

「名畑さんなら、そうですね。最近は食堂にいるのをよく見かけますよ」

「そう、ありがとう」

 

 情報を提供してくれた女生徒に手を振ってその場を去ろうとすると背後から

その生徒らしきすごく喜んでいる声が聞こえてきた。

 

 ぼんやりとだけど、名前の部分が私の名前っぽい響きが聞こえてくすぐったかった。

私にはそういう役は似合わないなぁと何となく思って苦笑した。

 

 言われた通り、食堂の隅に置いてある自販機前に名畑さんがどれがいいかと

迷ってる仕草をして立っていた。

 

「ねぇ、名畑さん」

「おっ、会長。お久しぶりです~」

 

「今、叶ちゃんの様子どうなってるかな・・・」

「んー、一度私と深く話し合ってからは少し調子戻したみたいですよ~」

 

 少し緊張しながら名畑さんに話しかけると、思ったより深刻そうな顔をしていなかった

ので少しホッとした。

 そんな私の雰囲気を感じたのか、ちょっと複雑そうな顔を見せて名畑さんから

話かけてきた。

 

「でも、叶も繊細で弱い部分もあるんで。全く気にしないとかそういうのはないですよ」

「うん・・・」

 

「あぁ、でも先輩の言い分もわかります。叶から聞きました。

今回のことは叶にとってもいい薬になったんじゃないかと思います」

「でも親友が苦しんでる姿を見て、私のこと悪く思わないの?」

 

 あまりに素直に私の行動に賛成するものだからつい思ったことを口に出してしまう。

すると名畑さんは私が想像もしなかったことを言ってきたのだ。

 

「だって、先輩も同じくらい苦しんでるじゃないですか~。

それを見たら恨みなんて持てませんよ」

「・・・ありがとう・・・」

 

 思いもしなかった優しい言葉に色んな感情が胸からこみ上げて涙が出そうに

なったけどグッと堪えて一つ息を吐いて、お礼の言葉を名畑さんに言った。

 

 ずっとループしていたことを後輩の一言によって詰まっていた気持ちが少し

良くなっていったような気がした。

 

「ちょっと話があるんだけど」

「はい?」

 

 名畑さんと話していてすっかり忘れていたことを思い出してすぐに言葉をつなげた。

今の状況じゃ叶ちゃんに託すのは違うと思うし負担も大きくなる。

 

 名畑さんが受けるかどうかわからなかったけど、他に託せる人はいなかったから

慌てるようにして名畑さんに頼んでみた。

 

「私のやってる部・・・創作部をみんなが楽しめるように・・・

私の後を継いでくれないかしら・・・」

「私は創作とか興味ないですけど・・・いいんですか?」

 

「もしダメだったら唯ちゃんとかでもいいの。もし伝えてくれたら」

「あっはい。いいですよ」

 

 すごい軽い感じでOKをもらって逆に私がびっくりした。

てっきり嫌がるかとばかり。でも断らない理由が一つ名畑さんが嬉しそうに

目を細めながら言った。

 

「あの不器用な叶が楽しそうに創作活動しているんですから、楽しい部活なんでしょうね。

うん、考えておきます」

「ありがとう、名畑さん」

 

「ただ・・・一つありまして」

「何?」

 

「今後、叶が何かしてこようとしたら。ちゃんと受け止めてあげてください。

あの子…次はしっかりしてると思うので」

「うん、わかってる。ありがとう・・・名畑さん」

 

 それから私達は珍しく近くにあったテーブルに座ってしばらくの間、話し込んだ。

二人の話から叶ちゃんのことをどれだけ想っているかお互い語り合って

 親睦を深めていった。いや、ちょっとした修羅場すら予感していたのだけど

名畑さんの中で整理がついているようで複雑なことは起こらなかった。でも最後に。

 

「叶のこと、よろしくお願いします。でも・・・彼女を不幸にしたら許さないですから」

「うん・・・」

 

 別れる間際の私を見る目がいきなり鋭くなって少し背筋が寒くなった。

どれだけ名畑さんが叶ちゃんのことを想っていたか、その強さを実感していた。

私の方がまだ彼女のことをわかっていなかったようだ。

 

「よし、私もがんばらないとね」

 

 そう自分に言い聞かせるように言って、瀬南の待つ部屋へと戻った。

あれからというものの、暗黙の何とかってやつで私は名畑さんと部屋を

交代してもらっている形で過ごしていたから、色々名畑さんに助けて

もらってるんだなって感じて、遠ざかる背中を見て私は頭をそっと下げた。

 

 

***

 

 それからというもの、私の中では叶ちゃんに会いたいという気持ちがありながらも

これからの進路について家と学校と何度か行き来しながら準備をしていたために

全然暇なんて作ることができなくて、一目ですら見ることはできなかった。

 

 やがて卒業式当日。これまで自分の課題を一生懸命やってきたのが今日で終わりが来る。

大変だった日々もそう考えると寂しい気持ちがこみ上げてくる。

 

 卒業生代表としての仕事を最後に私はこの学園を去る。

 

 一年生の時には考えもしなかった仲間や後輩たちへの大切さ愛おしさが

胸に押し寄せてくるようだった。全ての感謝の気持ちを置いて私達卒業生は

式が終わると共にそれぞれの道を歩みだした。

 

 卒業証書を持って外へ出ると目の前にはちょっと早めの満開の桜が私たちを祝うように

綺麗に咲いていた。

 

 関係する人たちが次々と声を掛けに来て、一つ一つに対応して一段落ついてから

私は校舎を背にして出て行こうとした時。

 

「先輩!」

 

 久しぶりに聞いた声が私の耳に届いた。

 

「叶ちゃん」

「あの・・・これ・・・!」

 

「?」

「先輩のためだけに・・・私が書いてみました」

 

 はい、と手渡されたのはコピーした用紙を折ってホッチキスで留めてある簡易な本。

それは私が彼女に教えた方法のもので渡しに出した手を見ると少し傷の後があった。

 

『叶って不器用だから』

 

 ふと名畑さんの言葉を思い出して、つい笑いそうになってしまった。

だって、そうまでしてこうやって完成させて私にくれるのだから。嬉しいに決まってる。

 

「ありがとう」

「私の気持ち・・・全て・・・詰め込みました!」

 

 私を見るその目は振られた絶望や私に執着していたような感じは微塵もなく。

真っ直ぐに先を見据えている綺麗な目をしていた。

 

「うん」

「あっ、後で読んでもらえますか・・・?」

 

「どうして?」

「は、恥ずかしいので・・・」

 

「ふふっ、叶ちゃんはやっぱり可愛いね」

「・・・」

 

 そういうと叶ちゃんの顔は真っ赤に染まり言葉を詰まらせているのを見ると

私は了解と言って、その本を鞄の中に入れた。

 

 叶ちゃん次第だけど、お互い携帯でいつでもやりとりできるのだからこの場で

感想を言うのもシャイな叶ちゃんには酷というものだろう。

 

 最後の辺りに感じた行き詰った雰囲気は一切なく、爽やかな気持ちで私たちは

別れることができた。

 

 寂しさが全くないといったら嘘になるけど、いつかみんな辿る道なのだから。

 

「がんばってね、叶ちゃん」

「はい!」

 

「色々押し付けてしまったこともあるけど、叶ちゃんは自由にして。

自分の信念を大事に進みなさい」

「先輩・・・ありがとうございました!」

 

 深々とお辞儀をした叶ちゃんの足元にある地面にはぽつぽつと流れ落ちる雫が

広がるようにじんわりと染みていった。

 

 私の中にもこみ上げてきそうな同じ感情があって、それを見せるのもちょっと

気恥ずかしくて。

 

 見ないように背を向けてから一言だけ。

 

「じゃあね、叶ちゃん。またね」

 

 そう言って少し歩を早めて駅行きのバスに乗り込んだ。

中には一緒にいた仲間たちも乗り合わせていた。

 

「私たちは家近くだけど、この日くらいはね。見送りに行くわ」

 

 言ったのは楓、隣にいた裏胡もちょっと泣いた跡はあるけど二人共すっきりした

笑顔で私に話しかけてきた。

 

「言いたいことは言えたんか?」

 

 私のことを気遣って近寄ってきたのは瀬南。私と叶ちゃんのことを仲間たちの

中で一番知っているから気に掛けていたのだろう。そんな彼女に私はしっかりと頷いた。

 

「言えたよ、もう残したものはないよ」

「そか、それは良かった」

 

 4人で学生でいるのは今日で最後だから一番後ろの長い席に一列に座って

駅につくまでの間、思い出話に花を咲かせていた。

 

 これまで少し長く感じていたこの道のりは今日が一番早く着くように感じていた。

駅についてまずは楓と裏胡とお別れしてから、駅の中に入ってからは今度は瀬南と

別れることになった。

 

「またいつか会おうな、ゆきのん」

「うん。それまで元気でね、瀬南」

 

 手を振って姿が見えなくなるまで見ていると、ふと美沙先輩のことを思い出した。

今まで見送る方が辛いと思っていたけれど、好きな人を置いていくほうも辛いんだなって。

改めて思い知ったような気分だった。

 

「さて、帰りますか・・・家に」

 

 一人になった私は思った以上の静けさを味わいながら自分の家に向かう電車に乗った。

揺れながら見る景色は今まで見たのとは全く違う色に見えて不思議だった。

 

 今日は知り合いがみんな同じ卒業式で携帯を見るといくつかの報告のメールが

入っていたのを確認して黙読を始めた。

 

 

澤田彩菜・春花と共に無事卒業。後に春花は親の元へ帰るために道半ば途中で別れた。

 今後一緒にいられるかどうかはわからないという。

 それ以降の予定などはまるで触れていない。

 

東海林春花・私への感謝を述べて簡単な身の回りのことを書かれていた。

 進路については何も書かれてはいなかったが不思議と遠くへ行くような雰囲気は

 感じられなかった。

 

植草大地・高校野球ではチーム成績こそ残せなかったが、エースの好投ぶりを評価されて

 野球を積極的に取り入れてる大学へ進路を向けたようだった。私とは違う大学に。

 しかしまだ野球を続けることに私はちょっとした安心感を得ていた。

 大地君はこの世界でがんばってる時が一番輝いていると思えるから。

 

宵町県・お祝いのメールと、私達の卒業と共にまた違う学校へ異動することになった旨が

 書かれていた。本当にこの人は自由人だなと思わず笑いがこみ上げてきそうだ。

 

 

 後は学校にいた関係している生徒や瀬南たちが改めて気持ちを書いたメールが

届いていた。みんなの顔を思い浮かべながら読んでいて一番驚いたのは瀬南の告白。

 

 このまま留めておくと燻るからと気持ちを吐き出してきた。

私にとって親友止まりだったけど瀬南は私のことが好きな気持ちがあったらしい。

思えばちょっと強めな気遣いもそういうのがあったからこそなのかもしれない。

 

 それぞれにありがとうの言葉と自分の進路について書いて送信した。

 

 最後に叶ちゃんに渡された本を読み始める、中身は簡単に書かれたわかりやすいお話。

台詞が多めだったけれどとても読みやすい。

それに登場人物のモデルは私達のことだとすぐにわかった。

 

 苦手なのがよくわかるほど上手くはないのにすごく気持ちが伝わってくる。

それが何だか照れくさくて、嬉しくて。でもやっぱり離れるのは寂しくて。

熱いものがこみ上げてくるものをグッとこらえた。

 

 最後に書き足した言葉を見て、堪えていたけれどついに私は涙が零れ落ちた。

 

『今まで恋人の関係でいてくれて嬉しかったです。振られたのは悲しかったけれど

親友のアドバイス等で私は目が覚めました。だからお願いがあります。

私はこれから一からやり直して、立派な人間に成長するようにがんばります。

だから、もし良ければその時が来たらまた一緒になりたいです・・・。

今までありがとうございました。  小鳥遊叶』

 

「うん・・・うん・・・」

 

 目頭を押さえながら私は何度も何度も頷いた。

暫く顔も上げられなかったけど、再びその拙い文面を見て叶ちゃんの決意が見て取れた。

私ももっとしっかりしないといけないと認識させられた。

 

「私もそのつもりだよ」

 

 叶ちゃんの顔を想い浮かべながら呟くように私も笑みを浮かべながら

同じことを想っていた。

 

 やがて電車は最寄り駅に着いて私は降り立つ。

 

 久しぶりのようでつい最近まで住んでいたような感覚の慣れた土地の

空気を吸ってからゆっくりと吐いた。

 

「帰りますか・・・」

 

 簡単にはいかないけど、気持ちを切り替えて私は前を見て歩きだした。

これからも続く未来に向かって、みんなに置いていかれないように。

がんばらなくちゃ。

 

 駅を出て迎えに来てくれた母の顔を見て私は微笑んで車に乗り

ドアを閉めてから走り出した。久しぶりの景色を眺めていると母から提案があった。

 

 久しぶりに食べ放題の店でも行く?って。新しく出たみたいだけど私は今気分じゃない

って言おうとしたらお腹が強く鳴り出して。

 

「あはは、おセンチな気持ちを裏切ってくれるお腹だね」

「全くだよ・・・」

 

 笑いながらからかう母にちょっと落ち込むように反応をする私。

気恥ずかったけれど、意識してしまったらすごくお腹空いているのが

わかって母と一緒にちょっと寄り道をすることにした。

 

 何だか一番私達らしくって思わず笑いがこみ上げてきた。

綺麗な終わり方ではないけれど、これはこれでいいのかなって思えてくる。

そんな私の気持ちを察した母は道を大きく変えて車を走らせた。

 

 私は久しぶりに近くにある母の気配を感じて安心しきっていたらいつしか眠りに

落ちていた。辿り着くまでの間、私は眠った。

 

 ほんの少しの間の安らぎを味わうかのように・・・。

 

 みんなのことを思い浮かべて笑みを浮かべながら・・・。

 

 これで終わりではなく、これからが新たな始まりなのだから。

 

双子物語・高校生編お終い。

 


 
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