~鞘華視点~
「一刀ーーー!」
私の絶叫は戦場の喧騒にかき消された
「急いで!」
操船している兵士の人に頼むが進めなくなってしまった
鎖を外したのか、元からつけていなかったのか、何隻かの小型船が行く手を阻むようにやって来たからだ
「あんた達の相手をしている暇は無いのよ!」
叫びながら斬り捨てるが、敵は次々とやって来る
(あ~、何で来るのよ!)
一瞬そう思ったが考えてみれば当たり前だった
私達が向おうとしている方向は、旗艦の方向
敵から見れば大将首を狙っているように見えるのだろう
完全な誤解なのに
しかも此処は船の上
つまり足場が不安定だ
これは「北天一心流」には辛い
蹴り技や投げ技は足を踏みしめて行う為、余程慣れていないと使えない
無理に使えば転倒するだけだ
つまり剣術しか使えない
剣術は一応、不安定な足場でも使える
「未知の技」を使う優位点が消滅したに等しい
それでも一般兵に引けを取るつもりは無いが、一騎当千の武将の様な働きは出来ない
しかし、急がなければ一君が・・・
私が確認した時、負傷していたようだった
そんな状態で川に落下すればどうなるか
更に川なので流れが有る 濁流と云うほどではないが
急がなければ一君は流されて、助けられなくなる
気は焦るが状況は好転しない
私に向かって来る兵達に言ってやりたかった
「曹操に用は無いから道を開けなさい」
~雪蓮視点~
「進め、孫呉の勇者達よ!
曹操が二度と立ち上がることが出来ぬ様、完膚なきまでに殲滅せよ!」
私は号令を掛けながら、戦場を進む
しかし、まさかこれ程とはね
一刀と冥琳が短時間の打ち合わせで、組み立てた「苦肉の計」
そして曹操軍を一気に倒す為の「火計」
その効果を最も大きくする為の「連環の計」
二人の頭脳には素直に敬服する
「雪蓮、戦況は圧倒的に我が軍が有利だ
このまま、曹操を討ち取るべく進軍すべきだ」
「珍しいわね 冥琳が強硬策を主張するなんて」
冥琳は慎重派だと思っていたので、そのままの感想をを口にすると
「好機となれば、強硬策も取るさ
それに私が慎重な策を進めるのは、お前が無茶ばかりするから強硬策など口に出来なかったんだ」
藪蛇だった
「それより、一刀の方は大丈夫かしら?」
「鞘華に任せるしかない
多くの兵を回せなかったのは心苦しいが、我が軍にも余裕が無い
鞘華を回す事でさえ、本来なら反対したかったんだ
我等の重要戦力なのだからな」
軍議でも鞘華を主戦力として組み込みたかったが、鞘華が納得しなかった
自分の想い人が危険な所に居るのだから、助けたいのは当然よね
結局、誰かが行かなければなら無い事だからと鞘華の意見が通った
我儘との見方も出来るが、一刀の救出は重要事項
孫呉の未来を安定させる為には、一刀の存在は欠かせない
「天の御遣い」の血を孫呉に入れる為に
鞘華は女性だから、難しいのよね~
~華琳視点~
「くっ、これ程までとは!」
北郷を船から叩き落とした後、直ぐに旗艦を放棄した
川岸で見た光景は、悪夢としか言いようが無かった
私の軍勢の大半が、火に焼かれている
様々な思いが去来するが、いつまでも此処にいる訳にはいかない
「華琳様、最早撤退しかありません
少々強行軍となりますが敵を振り切り、許昌まで撤退しましょう
荊州方面は劉備が動く可能性がありますし、まだ完全に華琳様に従わない者もいますから」
桂花の進言に従い、撤退を始める
だが、孫呉は追撃を仕掛けて来る
当然の事だ むしろしない方がおかしい
私達は不利な撤退戦を強いられる事になった
生き残りの兵はどんどん数を減らして行く
春蘭、秋蘭、凪達が何とか後陣を守ってくれているのでかろうじて持っている
彼女達が崩れた時が、私の覇道が潰える時だ
逆に敵を振り切り、許昌まで撤退できれば私の覇道は潰えない
まだ再起の目はある
全ての将兵も「許昌まで撤退できれば」
その想いで、気力を振り絞っている
「大変です
長安の司馬懿様、いえ司馬懿が謀反を起こしました!
洛陽を始めとする司隷を全て傘下に置き、許昌に進軍
許昌は司馬懿に落とされました」
この凶報で全てが打ち砕かれた
将兵の気力も、私の覇道も、そう全てが・・・
~あとがき~
赤壁の戦いが終了です
戦の終結と司馬懿の反乱の詳細は今後に回します
司馬懿の謀反で物語はまだ続きます
更新はゆっくりになるかもしれませんが続けるつもりです
Tweet |
|
|
16
|
0
|
追加するフォルダを選択
赤壁の戦い④