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浅き夢見し月の後先 〜 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 〜 1〜4章

DACAENESISさん

某所で晒した、まどマギもの連続SSの細部修正後再掲です。タイトルのとおり、叛逆の後日談となっております。全22章+私設定の計23章のうち、1〜4章の掲載です。なお、スピンオフのおりこマギカも読んでおくと、より楽しめると思います。

2015-02-02 21:30:19 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:620   閲覧ユーザー数:618

1.鹿目まどかの場合

 

 目が覚めたら、神様になっていました。

 

 見慣れた部屋、見慣れたベッド、いつも抱いて寝るぬいぐるみ。みんな変わりないのに何かが変わったと思っていたけど、変わったのは自分だったんだとはっきりわかった瞬間でした。寝たままで髪が伸びたから、ひどく寝癖がついてるんだろうなと思いながらベッドから起き上がったら、パジャマがパツパツなのに気が付きました。

 「ああ、円環の理の時のほうが少し背が伸びてたんだ」

 これで小学生って言われないぞとちょっと自信がついたけど、それと一緒に円環の理の本体に意識が及んでないことにも気が付きました。

 意識は取り戻したけど…、スマホで言えば電波が届いてない、みたいな。持ってないからよくわからないけど。

 

 鏡を見ると、いつもより幾分背が高く、髪がくるぶしまで延びて…目が金色になってる。どうしよう。今日学校なのに。

 ママ起きてるかなぁ。

 

 サニタリーに行ったら、珍しくママが先に起きて身支度を始めてました。

 「ママ、ちょっといいかな?」

 「ちょっと待って、…よし! おはよう、まど…か?!」

 今まで見たこと無いくらい驚いた表情。そんなに変わってないと思うんだけどな、髪の毛はすごい伸びてるけど。

 「いやだよママ、そんなに驚かなくてもいいと思うよ」

 「……だ、だって、待って、まどか、まどかよね?」

 「そうだよ」

 私のほっぺたを恐る恐る触るママ。いつもの気さくさがどっか行っちゃった。

 「…私、神様産んだ記憶ないんだけど、いつの間に神様になったの?」

 あ、ママには分かるんだ。でも神様はちょっと大げさだな。でも、円環の理、とか、魔法少女とか説明してたら学校に遅刻しちゃうから、とりあえずそのままでいいか。

 「今思い出したんだけど、どうも私、神様だったみたい」

 「そんなに簡単に言われてもな。しかしすごい髪が伸びたね。あと背も伸びてるね」

 「普段宙に浮いてたから気にならなかったんだけど、やっぱり髪の毛長いよね。で、ママ、学校に行かなきゃいけないんだけど、どうしよう」

 「この綺麗な髪の毛を切るのは気がひけるけど、美容院にいかないとダメよ。それに…ああ、その目か。すごい目立つなー」

 「このまんまだと皆に変に思われちゃうよ、どうにかならないかな?」

 「カラコンかな。…でも急には用意できないし、ちゃんとしたものも欲しいし…。うん、まどか、今日休んじゃいなさい。風邪ひいたって学校に連絡してあげるから。今日一日で身支度しましょ。あたしも午前中の予定をキャンセルして半休とるから」

 「え、だって、パパに頼めばいいと思うよ」

 「パパは色々出来る人だけど、そもそも男性に女の子の身支度に付き合わせるのは酷ってもの」

 「うん、分かった」

 「じゃあ、決まったところでご飯食べちゃいましょ」

 

 「おはよう、パパ」

 「おはよう、ま…?!」

 パパは手に持ってた、たつや用のスプーンを床に落として呆然としてる。あ、ちょっと待って、五体投地はやめて!

 「パパ、待って、止めて! いいから起きて!」

 「…いや、ま、まど、か? いやだって自分の娘が朝起きてきたら女神になってるんだよ。子煩悩の比喩表現じゃなくて本当に神様になってるのに」

 「だからって五体投地は止めて! もう! ママもそうだけど何で神様って分かるの?」

 「ああ、まど…か、って呼んでいいのかな、すごい目に見えないオーラのようなものが感じられるんだ。で、直感的に頭に思い浮かんだ言葉が『神様』。そのオーラを隠せないと、皆こんな反応するんじゃないかな」

 「でもパパ」とママが割って入る。「これから美容院とか行かなきゃいけないのに、皆に崇め奉られてたら大騒ぎだよ?」

 「何か隠せないかな、…その目だけでもなにか覆うといいと思うんだけど」

 「ぱぱーごあんー!」

 

 いろいろ試した結果、伊達メガネでもなんでもいいから目を覆うとだいぶオーラが落ちるらしいことが分かった。それでも相手に目を合わせると駄目らしいのでカラコンを手に入れるまで、ママの伊達眼鏡で目をそらして過ごすことにした。

 

 「しかしなあ」パパが言った。「僕の子供は確かによく出来た娘だとは思ってたけど、まさか神様になるとは思いもしなかったよ」

 

2.美樹さやかと佐倉杏子の場合

 

 「うわぁっ!」

 

 ひどい衝撃で目が覚めた。心臓がドキドキしてる。体になんか力が流れ込んでくる不思議な感覚。

 「どうした、さやか?!」

 隣の部屋で寝ていた杏子が。酷い寝癖のまんま部屋に飛び込んできた。

 「人の寝室に入る前はノックしろって言ってるでしょー!!」

 「あんな叫び声上げてる奴の部屋に、のんきにノックなんかして入れるかっ!」

 ママとパパも階段を上がってきた。そんなに大声だったのか。

 

 一部の記憶が朧げだ。体が熱っぽいのが分かる。でも風邪じゃない。これは体が弱ってるんじゃなくて、逆にパワーが過充電されてるような感じだ。

 今だったら100mで走ってオリンピック出られる気がする。もしかしたら金メダル取れるかも?

 「…何アホづら晒してニヤついてるんだよ、顔真っ赤だぞ。熱でもあるのか?」

 良い答えが思いつかない。オタオタしてたら杏子がおでこをくっつけてきた。待って、顔が近い、顔が近いよ!

 「結構熱あるな。おばさんに頼んで体温計と常備の薬を持ってきてもらおう。待ってろ」

 下に杏子が降りていったあと、杏子がママと話す声とゴトゴトと下で何かを探してる音がする。朝ごはん食べられるかな。

 

 「39.3度」杏子が言った。

 あーこれは病院行きだな。しかし体調は全然悪くない。むしろ駆け出したいくらいなんだが。

 「酷いわね、今日は学校休んで病院に行ってきなさい。私も付いて行きたいけど、会社休めないから杏子ちゃんといってらっしゃい」

 杏子が声に出さず、体全体で「ラッキー!」って表情をした。今日授業で当てられそうだというのは分かってたけど、もう少し隠せ。

 

3.巴マミと百江なぎさの場合

 

 目下の所、私には悩みがある。

 学校の登校中だけど何となくそんな文章を頭に思い浮かべた。いや、実際悩んでる。文才じゃないわよ。

 今、見滝原には全部で4人の魔法少女がいる。私と、美樹さやかさん、佐倉杏子さん、そして、暁美ほむらさん。

 

 この見滝原は不思議と魔獣の出現頻度が高い。通常なら街に一人もいれば十分な魔法少女も、ここでは3人がかりだった。私と美樹さんと佐倉さんの3人だ。二人の後輩は社会的事情で同居してるとの話だったが、それだけあって息も合っており、何かと頼りになった。

 問題は残りの一人、暁美ほむらという子だ。近寄りがたい雰囲気を持つこの下級生は、私が知るかぎりでは、私が魔法少女になる前からすでに魔法少女だったようだ。ようだ、というのは、魔法少女としての能力を持っているようだけど、その活動を一切していないように見えるから。魔法少女は願いを叶える代償として魔獣との戦いを宿命付けられる。全く活動していないということはありえないはずなのに。

 この暁美さんは、クラスの中でも敬して遠ざけられてる雰囲気があるのだが、最近、帰国子女の女の子が転校してきた時に普段は見せない積極性を見せたと話題になった。暁美さんは、そのミステリアスな雰囲気から下級生には人気があるようでファンクラブがあるらしいのだが、ファンクラブの子たちが臍を噛んで帰国子女の子をやっかんだらしく揉めたとの噂。その件も暁美さんの一喝で落ち着いたとか、私の耳にも入ってくる。

 …この話題は魔法少女と関係ないわね。

 

 要するに、せっかくの魔法少女仲間なんだからもう少し仲良くしてほしいと思うの。

 

 …と物思いにふけっていたら、突然、制服の裾を引っ張られた。振り返ると、登校するときによく見かける銀色の長い髪をした女の子が、私の裾を掴んで立っていた。印象深く、まるで昔からの知り合いのような気すらしてた子だ。

 「どうしたの、お嬢ちゃん? なにか私にお話でもあるの?」

 「…」

 すぐに伏せた顔には大粒の涙が浮かんでいた。今にも泣き出しそうな表情で俯く彼女は、なにか言いたげな表情を浮かべている。制服を放してくれそうになかったので、仕方なく川のそばのベンチに二人で座った。登校時刻には幾分余裕があるし、話を聞いてあげなきゃ、と思ってはいるものの、彼女はなかなか話を切り出さない。

 そして5分ほど経っただろうか、意を決したように女の子が口を開いた。

 「お姉ちゃん魔法少女でしょ? お願い、私を助けて!」

 

4. 暁美ほむらの場合

 

 「鹿目さんと美樹さんは風邪をひいたとの連絡がありましたので、今日はお休みです。佐倉さんも美樹さんの看病でお休みです」

 珍しく先生が普通の話題から入った。高望みなどせず自分のできることをやればいいものを。

 

 私は成した。まどかとまどかが大切に思っている人たちが本来あるべき生を生きるべく、まどかを人として取り戻した。それが故に私は砕け、別のものと化したが構わない。まどかを守れる私になりたいという私の願いは、全ての魔女を消し去りたいというまどかの優しさゆえに生じた円環の理と矛盾すること無く成就したのだから。

 この結果に私は満足している。いや、満足してしまったと言うべきか。美樹さやかや巴マミや杏子、まどかの家族、仁美やクラスの皆、そしてこれから彼女と出会う様々な人々、そういった人たちがこれからまどかを幸せにしていくだろう。私は満足し、目的を失った。

 

 私はこれからどうしたらいいだろう。事をなした事による興奮が過ぎ去り、円環の理からまどかを引き剥がしたこの世界が動き出し、ひと月ほど経ってぼんやりと思い始めた。

 当初、人としてのまどかをこの世界に戻すにあたって、彼女に帰国子女の転校生という立場を与えた。彼女が存在の根拠を失った世界に改めて彼女を引き戻す際の歪みの補正としてのつもりであったが、私の願望から出た浅慮ゆえか、その綻びはすぐさま露呈した。まどかはいとも簡単に円環の理に戻りかねないことが分かったのだ。力を使って巻き戻し、まどかに言い聞かせて事なきを得たが、あの時に変なアプローチをしてしまったことが未だに恥ずかしく思い出される。挙句、まどかに私の行為を肯定してほしいという欲求までも、本来初対面であるはずの彼女に対しての突拍子もない質問という形でつい口をついて出てしまった。そもそも、彼女がああ答えることは分かっていたのに。

 今にして思えば、それ以前に焦りすぎていた。まどかが可愛いから皆が寄っていったのについ焦りを感じたのがいけなかったのだろうか。いきなり名前で呼んでいいかとか、イキナリ抱きつくとか…いやコレは仕方ない、円環の理に戻られたら私の決断は水の泡だ。仕方ない。

 …いやそうじゃなくてそれはともかく、まどかはいとも簡単に円環の理に戻りかねない。私はこの事実をつきつけられたのだ。

 

 絶対にまどかを離したりしない。何をしてでも円環の理に戻したりしない。私の抵抗の日々が再び始まった。

 まず、かつて私が閉じ込められていた干渉遮断フィールドを応用し、「円環の理」との接触を断つ結界を構築した。当初は、完全に干渉を遮断、円環の理との接触を確実に断ってまどかを安定化する目論見だったが、円環の理に魔法少女を導く部分にも支障が出ることが分かり(あと、些細な事だが見滝原周辺でテレビと携帯電話とGPSの受信感度が悪くなった)、改めて周辺から召喚しなおしたインキュベーターを大量に消費して作り替えることになった。

 最終的に、私が閉じ込められたフィールドとは逆に、外からの干渉は受け入れるが、内側からの接触を許さないという形にした。要するにまどかから円環の理に戻らないようにすればいいのだから。構築されたフィールドは本来の目的から言えば幾分不十分であったが、力ある今の私にとっては障害ですら無い些細なレベルで収まっている。倦み疲れた今の私にとって暇つぶしに最適だとさえ言えた。

 円環の理そのものに対しても引き続き観測を行っている。元々「人としての」まどかを円環の理から引き剥がしたとしても影響は小さいことは予測していたが、私の観測する範囲ではちゃんと働いているようだ。美樹さやかに大口叩いた手前もあって、まどか無しで動いていて実は少し安心している。

 

 ここで一段落して先のことを考える余裕ができ、「私はまどかに『人として』何がしてあげられるんだろう」と思い至ってやっと、先の通り私はこれからどうしたらいいのかを考えねばならなくなった。

 実は、フィールド構築前は幾分まどかとの接触を差し控えていた。ダークオーブがまどかの因果の糸を内包する故に、私の存在そのものがまどかを円環の理に引き戻す要因になっている危険性に思い至ったからだ。結果、まどかとの仲は私の期待どころか予想ほどにも進展していない。美樹さやかとは旧知ということで、そこから佐倉杏子、巴マミと順当に友人となっていくであろうことは予想しているし、おそらくそうなるだろう。しかし、私との仲がここまで進展していないというのは予想外だった。この状況は、まどかが円環の理になった時より酷い。

 そもそも、いかなフィールドがあるとはいえ、私は本当にまどかと親しくしていいものだろうか? 私が接触することでフィールドに悪影響を及ぼし、まどかを再び円環の理に引き戻すことになったりしないか? 私は怯え、躊躇している。私はそもそも「何かしてやれるのだろうか」?

 

 救いがあるとすれば、まどかのほうから比較的積極的に声をかけてくれることだ。あの…いささか不適当、な初対面のあとも、彼女は気さくに声をかけてくれた。今のまどかに過去の記憶はない、それを自分に言い聞かせながらゆっくりと関係を構築していくことになるのだろう。

 あとは些細な事ながら、思いもしなかった私の「取り巻き」の嫌がらせもあったようだ。最近知ったのだが、私にはどうも下級生にファンクラブがあるらしい。超然とした態度が格好いいとかそんな程度のことだ。巴マミも、私達の学年にファンクラブがあると聞いたから、同じようなものなのだろう。すごく不本意だけど。

 まどかがそのファンクラブに目をつけられたと聞いたから、一喝しておいたが、なんのまどかも意外と負けてなかったと聞いた。さすがね。

 

 「暁美さん、問4の答えは?」 ええい、煩いわね、考え事してるのに。「x=4」

 

 授業が終わったらお見舞いに行かなきゃ。…それくらいなら影響も無いでしょうし。何を持って行こうかしら?

 

 


 
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