No.754034

唯一無二の伴侶―帰る家と、愛しい人―

さん

仕事から帰る鬼灯と、彼を迎える白澤(♀)の話。

2015-01-27 13:42:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1477   閲覧ユーザー数:1471

重い体を、引き摺るように歩く。一歩一歩、足を前に出すのも疲れる。

だが、それでも彼の目に、我が家の灯りが見えた。そうなれば彼の足は自然と速くなった。一分、一秒でも早く我が家に着きたい。

 

 

「鬼灯!你回来啦!」

扉を開けてすぐに、喜び溢れた妻の笑顔と声が迎えてくれた。

「ただいまかえりました、白澤さん」

鬼灯は、この笑顔を見る度に家に帰ってきたのだと実感する。嬉しくて、皆に陰で能面と言われている顔に笑みを浮かべた。

家に入ると、白澤は心配そうに見上げてきた。

「大変だったね。三日振りだもんね。ご飯とお風呂…あ」

「?」

言葉の途中で、彼女は何か閃いた顔をした。訝しむ鬼灯に、悪戯っ子のような表情で見上げ言った。

「ご飯にする?お風呂にする?それともわ、た、し?」

彼は思わず吹き出してしまった。ついでに疲れも吹っ飛んでしまった。それを見て、白澤は満足そうに笑った。

「では、貴女でお願いします。…と、言いたいし言うのが正解でしょうが、お腹がすいたのでご飯をお願いします」

「分かった。じゃ、椅子に座って待ってて」

白澤は言い置いて食事の準備を始めた。

 

 

「どう?美味しい?」

「はい。閻魔殿の食堂よりも美味しいですよ」

白澤は料理が上手だ。中華は言うに及ばず、日本食も腕が上がっている。元々上手かったが、鬼灯との婚姻後に更に上達している。

鬼灯の返事を聞いて、白澤は嬉しそうに笑った。夫の料理の評価というのは、妻にとって重要なのだ。

「良かった」

白澤はホッと呟き、自分も料理に口をつけた。

 

 * * *

 

「何処か痒い所はありますか?」

「首の裏」

白澤の答えに、鬼灯は彼女の湯に濡れ泡でモコモコになった首の裏を丁寧に擦る。

「お前、好きだねぇ。疲れてないの?」

実に三日ぶりの帰宅だから、獣姿の白澤の体を洗うより自分一人で入浴した方がすぐに済む気がする。鬼灯はそれに短く息を吐き答えた。

「貴女の顔を見たら疲れが吹っ飛んだんですがね。浴室が暖かいからか、なんだか眠くなってきました。貴女のモフモフを抱いて寝たいです」

鬼灯は獣姿の白澤を洗うのが好きだ。彼女が気持ち良さそうに目を細めるのが可愛いし、乾かした直後はモフモフキラキラしてとても美しい。

「白澤さん、気持ち良いですか?」

「うん。鬼灯に洗って貰うの、好き」

機嫌良さそうに答えられ、鬼灯も嬉しそうに笑った。

 

 

白澤の体から良い香りがする。毛はとても柔らかく暖かい。眠ってしまいそうだ。

己の手でピカピカのキラキラにし、良い香りのする白澤を抱くのが好きで、鬼灯はよく疲れていても彼女を洗う。疲れて眠い時にそうする事が鬼灯にとっての癒しのひとときだ。

「本当に…貴女の毛は、素敵ですね…」

「お前はホント、動物やモフモフが好きだね」

白澤が苦笑する。以前…結婚前にコレが原因でした喧嘩を思い出した。

「一応言っておきますが、私は貴女のモフモフ以上に、貴女自信を愛しています」

眠そうながら、頭を撫で白澤の目をまっすぐに見て言う。嬉しくて、恥ずかしい。

獣の姿で良かったと思う。人の姿だったら、絶対に顔が赤いのがバレてしまう。

「ありがとう、鬼灯」

自分がこうして愛する人と結ばれるなんて、奇跡だと思う。最初は絶対に嫌われていると思い込み希望なんて抱いていなかった。

そしてそれは、理由は違うが鬼灯も同じ。

神である彼女と、鬼である自分が一緒になれたのは当たり前の事ではなくて、だからこそ彼女を大切にしようと思う。以前は、暴力すら振るっていたから。

「明日は、休みです」

「え、真的?」

「三日も働き通しだったんで、閻魔大王が気をきかせてくれました」

鬼灯の言葉を聞き、白澤が嬉しそうに目を細めた。それを見る度に、頑張って良かったと、休みを貰って良かったと思う。彼女を抱き締める腕に、僅かに力が籠った。

「明日は、ずっと傍にいられます」

「うん」

「一日中、付き合って貰いますからね」

「あはは…。どんな事するんだろ」

鬼灯は無表情で突拍子もない事をしたりするので少々怖いが退屈もしない。でも、鬼灯は白澤と結婚後、彼女の嫌がる事はしない。それに、白澤も鬼灯も、互いが傍にいるならそれだけで良いのだ。

「明日が楽しみだね」

白澤が鬼灯に擦り寄りながら言う。

「はい、そうですね」

鬼灯が寝惚け眼で頬擦りしながら言う。

 

 

それから、鬼灯からスゥスゥと寝息が聞こえたのはすぐだった。口の端が上がり、穏やかな顔で寝ている。

夫の寝顔を見て、幸福感に満たされながら白澤も眠りについた。


 
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