No.753461

「真・恋姫無双  君の隣に」 第40話

小次郎さん

長き冬がいよいよ終わる。
各自が己のなすべき事を見つめ直して。

2015-01-24 20:49:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:13636   閲覧ユーザー数:8647

春蘭と約束した早朝訓練で、素振り後に立会いを始めた。

充分に手加減してくれてるのに、受け止めた一撃の重さは桁外れで身体の芯まで響いてる。

懐かしく思ってたけど、やっぱりとんでもないな。

「どうした、北郷。存分に打ち込んでくるがいい。来ぬなら此方からゆくぞ!」

春蘭の攻撃を俺は必死に防ぐ、少しでも集中力を欠いたら吹っ飛ばされる。

重心を崩さないようにして、全身を使って衝撃を少しでも逃がす。

十合ほど防いだところで春蘭が手を止めた。

「ふむ。貴様は大将だからな、敵を討つよりも身を守る方が確かに大事か。私が護ってやる訳にもいかんしな」

おお、春蘭が理知的だ、それに護ってやるって。

「て、何故に私が貴様を護らねばならんのだ!私がお護りするのは華琳様だけだ。下らぬ事を言う者は斬り捨ててくれる」

俺は何も言ってない、とはいえ春蘭だから反論してもなあ。

自己完結した強烈な一撃を何とか受け止めたけど、堪えきれずに尻餅をついた俺に春蘭が上から顔を近づけてくる。

「身の程を知るが良い、貴様が華琳様に降るなら序に護ってやらんでもないがな」

間近で見る春蘭の顔に、眼帯が無いのを改めて認識する。

「春蘭、右目は大丈夫なのか?」

「あ、ああ、全く問題ない」

俺は春蘭の顔に左手を添えて右目を注視する、綺麗な目がちゃんとあった。

「ほ、北郷」

「良かった、本当に」

俺のあの時の行動は将として失格で、自分の背負っている責任を放り出す行いだ。

後悔してる訳じゃない、でも死んでても不思議はなかった。

つくづく思う、こんな未熟な俺が今の立場で居られるのは皆に支えられてるからだって。

この冬が終わったら涼州外征。

翠、蒲公英、俺も君達を支えたい。

無茶はしないでくれ、準備を整えて急いで行くから。

「ほ、北郷、その、手を・・」

赤くなった春蘭が、か細い声を掛けてくる、手を顔に添えたままだった。

以前にキスした時の表情と重なって、俺はそのまま唇を寄せた。

春蘭が目を瞑り受け入れてくれる。

「あら、剣の訓練と聞いていたのだけど睦事の訓練だったのかしら?」

声を掛けられて春蘭が瞬時に距離を取った。

「か、華琳様。これはその、あくまでお礼といいますか、私の全ては華琳様の・・」

華琳は春蘭の言葉を無視して俺に問いかける。

「一刀、貴方は私に言う事があるかしら?」

「無いよ。俺には嘘も偽りも隠す理由も無い」

「桂花の事も?」

「ああ」

俺と華琳は互いに目を逸らさない、そのうち華琳の表情が緩む。

「それでいいわ。下らない態度を取ったら二度と顔を見る気はなかったけど、杞憂だったようね」

俺は立ち上がって服に付いた土を払う。

「よし、訓練はここまでにしとこうか。春蘭、ありがとう」

「・・それは私の言葉だ。・・北郷、助けてくれた事を一生感謝する。華琳様、失礼致します」

「待ちなさい、春蘭!私達は予定を繰り上げて今日中に出立するわ。桂花や皆に伝えなさい」

「はっ」

春蘭が急いで走り去り、華琳が俺に振り返る。

「見送りはいいわ。貴方は仕事に専念しなさい」

「つれないな、見送り位させてくれよ。明日の予定を今日にしたのはどうしてなんだ?」

「早く戻りたくなったのよ、貴方に負けない国を創る為にね」

「そうか。次に会うのは戦場かな」

「そうでしょうね」

俺は拳を握って華琳に突き出し、華琳も俺に拳を合わせる。

「華琳、武運を」

「貴方もね」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第40話

 

 

「ねえ、蓮華お姉ちゃん。雪蓮お姉ちゃんが柴桑に攻め込んだから、政略結婚の話は無くなったんだよね」

「そうよ。元々受ける必要は無い話だったけど、完全に無くなったと言っていいわ。戦には反対だけどね」

よかった~。

大体シャオの夫になるには小物過ぎて、この大陸一の美少女に相応しくないんだよね。

でも、そうなると誰がいいかなあ、今の大陸で一番格好良い男の人って。

「ねえ、蓮華お姉ちゃん。お姉ちゃんは孫家を継ぐから婿を貰うんだよね?」

「どうかしら。そもそも雪蓮お姉様に子供が生まれたら私が継ぐ理由は無いわよ」

「だったら御遣いに嫁ぐの?」

「それは!いえ、そうよ。私は一刀以外の人と結ばれる気は無いわ」

へえ~、蓮華お姉ちゃんがここまではっきり言うんだ。

「それならどうして嫁がないの?相手として申し分ないじゃない」

大陸有数の勢力を持つ若い王様、正妻無し、民から絶大な人気、戦も強い、聞いた限りだと性格も凄く良さそうだし、放っとく方がおかしすぎるよね。

「私がお世話になってた時から、一刀の縁談や傍仕えの話は山程あったわ。でも一刀は全て断ってたの。人の意思を無視する縁は嫌だって」

「それでいいの?断ったら恨まれない?」

「立場上断っても文句を言われない事もあるけど、その後の態度や待遇も変わらないし、一刀の人柄ともとられてるわね。私が長沙に帰る頃には誰も話を持って来なくなってたし、寿春じゃ有名な話で街の子供でも知ってるわ」

「あれ?でも種馬って言われてるよね、思春も言ってたし」

「違うわ!確かに気は多いけど誰彼構わずに手を出してる訳じゃないの。真剣なんだから!」

「落ち着いてよ、お姉ちゃん。王様の立場なら側室が沢山いて普通だよ」

跡継ぎを作るのも仕事みたいなもんじゃない。

でも真面目過ぎる蓮華お姉ちゃんが、自分以外の女性を愛するのも認めてるんだ。

やっぱり会ってみたいな~♪

「ねえ、お姉ちゃん。華との国交が祭の事で無くなってるけど、いいの?」

「・・良くは無いわ。だけど姉様が一切の関わりを禁じてしまってる。その事では商人や民からも苦情が来てるしね」

「それって良くないよね。情報だって手に入りづらいよ」

「その通りよ。でも許貢に連なる豪族達があちこちで目を光らせてて、私のところにも頻繁に顔を出しに来るわ、明らかに警戒されてる」

そうだよね、あいつら蓮華お姉ちゃんの悪口も隠さなくなってきてるし。

気になってた事、聞いてみようかな。

「こんな事聞いていいのか分からないけど、お姉ちゃん、御遣いに降ってもいいと思ってるの?」

「・・シャオ、私は孫家の娘として自覚も誇りもあるわ。でも、その誇りを汚すような道を孫家が進もうとしたら・・」

お姉ちゃんは言葉を止めたけど、聞かないといけないと思った。

「・・進もうとしたら、どうするの?」

「私自身の手で、私諸共滅ぼすわ」

 

 

フンッ、ハアッ!

青龍偃月刀を持ち基本の型を繰り返して、ようやく納得いくものになった。

汗ばむ身体に夜の冷気が心地いい。

「見事なものだね。とても綺麗だ」

「これは、北郷様。お仕事は終えられたのですか?」

「急ぎの分はね、関羽殿も鍛練は終わりかな?」

「ええ、いい感じになりましたので」

話しかけられて喜んでいる私は自分でも現金だと思う、数日前までは否定的であったのに。

こうなった切っ掛けは、華雄殿と趙雲殿から忠告を受け、半ば自暴自棄に北郷様へ自身の気持ちを打ち明けてからだ。

思い返せば子供の八つ当たりだった、頭に青龍刀を落としたくなる程に。

それなのに北郷様は真剣に気持ちを聞いてくださった、一度だけではなく幾度も。

何度目かで私にも余裕が出て来たのか、北郷様がお時間を作ってくれてる事の理由をお聞きして、目が覚めた。

「俺も聞いてもらえたら嬉しいからかな」

私がどれだけ偏見を持っていたのかに気付いた。

北郷様の笑顔がとても優しい事を知り、桃香様が尊敬され、好意を持たれている事が理解できた。

この方は桃香様の最大の理解者だった。

私や皆の様に理想に感銘したのではなく、絵空事と言われるのを承知で理想を口にして立ち上がった桃香様の勇気を誰よりも賞賛されたのだ。

最も身近にいながら、私は理想が素晴らしいから桃香様が特別だと思っていた。

思えばその時から私は桃香様を蔑ろにしていたのだ。

本当に恥ずかしくて申し訳ない。

そして私の武は、

「劉備殿の意志を示す時こそ輝くものだと思う」

桃香様の意志を、優しさを、勇気を表すものだと。

涙が止まらなかった、私の本当に成すべき事がようやく分かった。

これまでの数々の無礼を謝罪しようとしたら、不要だと言われた。

「自分の意思を表そうとするのは当然の事だし、逆にその人を知る事が出来る。国もそうだと思う。政も戦も外交も謀略も、携わる人達の心が見える機会だって俺は考えてるから」

私はもう言葉にならなかった。

それからは復興作業や趙雲殿達との交流がとても楽しかった。

真名を交わしたいとも言って貰え、とても有り難いのだが丁重にお断りした。

桃香様が私の事を慮り北郷様にお預けしなかった事を、今になって気付けたからだ。

その事を話すと趙雲殿達は笑顔で了承してくれた、次は必ずと、本当に良い方達だ。

「関羽殿、明日の準備はもう終わってるのかな?」

「はい。ご援助して頂ける物資は積み込みが完了しています」

明日、并州に戻る。

食料、武具、薬などの大量の物資と共に。

私は姿勢を正して礼をとる。

「北郷様、桃香様や并州の民に代わり御礼を申し上げます。お迎えします其の時まで、必ずや并州をお守り通して見せます」

厳しい戦になるだろう。

だが私にはこれ以上の誉れは無い。

桃香様の意志を、そしてこの方の夢の一部を担えるのだ。

「関羽殿、力を貸して欲しい」

「はっ、私の全てをかけて」

 

 

そろそろ冬も終わりか。

この俺が直々に鍛え上げた精兵、先ずは并州でお披露目だ。

ククク、北郷、楽しみにしていろ。

「左慈、気合が入っているのは結構ですが、少しは準備を手伝っていただけませんか?」

「そんなものは貴様の役目だ、実戦で役に立たないなら・・」

この気配は!!

「お久しぶりねん、二人ともん」

貂蝉!!

覚えていたくもないが、忘れようもない奴。

「貴様もこの外史に来ていたのか!」

「勿論よん、御主人様のいるところに貂蝉ありよん。うふっ」

殺す!

「左慈、落ち着いて下さい。貂蝉、貴方が直接私達のところに来るとは、一体何を企んでいるのですか?」

「フン、奴の為に俺達を潰しにきたんだろう」

相変わらず忌々しい奴だ。

「あ~ら、違うわよん。左慈ちゃん達が正々堂々と戦ってるのに、そんな野暮な真似はしないわん。私は巡業で近くまで来たから顔を見せに来ただけよん」

「・・何の巡業かは知りませんが、では貴方は北郷一刀に一切力を貸していないと言うのですか?」

「その通りよん。それに今の御主人様は素敵過ぎるわあ。出会ってしまったら離れられないわん、恋する漢女は辛いわあ」

誰がそんな戯言を信じる。

「では私の質問に答えていただけませんか?この外史、余りにも不可解な点が多くて疑問が山とあるのですよ」

そうだ、この外史は何なんだ。

一体俺達はどうなったんだ。

「その事は卑弥呼とも話したけど推測でしかないわん。私達も貴方達と同じ状況だと思うからん」

術が使えない、この外史から出られない、人と変わらないことか。

「構わん、話せ」

「そうねん。そもそも外史を終えた御主人様がもう一度外史に来た事、その事自体初めてだし、一度終わりを迎えた外史が消滅する事なく時が遡る、これも有り得なかった事だわん」

その通りだ、だからこそ以前は介入しなかった外史に態々来たんだ。

「貴方達は正史に影響を及ぼす時だけ御主人様の抹殺に動く、そうでしょん」

「ええ、曹操、孫権、劉備に代わり北郷一刀が王となる時は」

「そして外史自体も御主人様を拒否するわん。いつも最終的に御主人様は元の世界に帰るように」

「確かに、抹殺しても私達が負けてもそうでしたね」

俺達の所業を嘲笑うかのようにな。

「でも王で無い場合は外史で天寿を全うしたわん。たった一つの例外以外」

「曹操の部下だった外史!この外史か」

「何故です。蜀や呉では外史に拒否は無かった。他の勢力でもです。どうして魏の時だけ」

「あくまで推論だけど、王では無い限りどの勢力でも正史に影響は無かったからよ。どの外史でも御主人様が亡くなったら必ず戦乱の世に戻ってたものねん」

・・そうだな、天下をとったといえる蜀や呉でもそうだった。

当たり前だがな、蜀の時は所詮三国で最も弱小勢力、魏や呉にとって仲良くする理由は乏しい。

呉の時なら蜀など誰が信用できるか、北郷がいなくなれば戦を止める者などいまい。

どちらも当代はともかく、次世代で友好は保てなかった。

魏では三年も持たなかったからな、だが逆に言えば、

「つまり魏で北郷がそのまま残れば、正史に影響を及ぼしていたからか」

「私はそう考えてるわん。御主人様は人を良い方向に導く人。曹操ちゃんの短所を改めさせて、最大の力を持つ魏に多大な影響を与えたらどうなるかしらん」

「戦乱の世に戻らずに正史の晋や五胡に滅ぼされない国をつくれる、という訳ですか」

「だっておかしいでしょ。赤壁はともかく定軍山で夏侯淵ちゃんが戦死しなかった事って、正史に影響を及ぼすには理由として弱すぎるわん」

曹操の股肱の臣とはいえ、所詮は一将軍に過ぎない。

つまり真の理由は、曹操の精神への影響?

曹操の心に影を作らなかったから、北郷は外史に拒否された?

「では外史の時が遡ったのは何故です?」

「外史は人が望む事から生まれるわん。それが否定されて、やり直したいと思ったらどうなるかしらん?」

北郷のいない外史の完全な否定。

「それなら俺達はどうしてこうなった!!」

「左慈」

「左慈ちゃん」

いつ管理者になったかも分からない、どれくらいの時を重ねてきたのかも定かじゃない、ただ破壊だけが存在する理由だった。

俺は、一体何なんだ!

「そこなのよねん。まるで私達管理者の役目が終わったような、いえ、むしろ私達が真に望んでいたような今の状況。外史ではなくて、私達も歴史の一部になったのかもしれないわん」

「俺達が望んだ状況?」

「ええ、私が望む本当の御主人様の幸せがある世界。左慈ちゃん達の自由に生きる世界。そして外史という存在が何故あったのかの答えとなる世界」

俺の意思で生きる世界だと!

「外史の存在とは何の事ですか?」

「外史を望んだ無数の願いの共通点よ。幸せな世界を望み、自分もそこにいたいと思う世界。この世界こそ自分達のいる未来に繋がって欲しいと思う世界」

「では、この世界は正史だというのですか?」

「あくまで推論だし本当の理由は誰にも分からないの。魏の外史をやり直すかと思えば袁術ちゃんの所に降り立った事もねん」

誰に強制されるのでもなく、自由に生きる世界。

人と変わらない、俺。

「左慈ちゃん。答えが欲しいのなら戦いなさい。御主人様ではなくて自分自身と。答えは貴方にしか出せない事よ」

・・フン、いいだろう。

もう外史も管理者もどうでもいい。

この大陸に俺の名を刻んでやる、北郷、貴様を討った男の名をな。


 
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