No.752621

孤高の御遣い 北郷流無刀術阿修羅伝 君の真名を呼ぶ 12

Seigouさん

予兆

2015-01-20 10:48:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10336   閲覧ユーザー数:6764

冥琳「一刀!!頼む、食べてくれ!!」

 

一刀「冥琳・・・・・頼むからそんな物持ってこないでくれ」

 

冥琳「何を言う!!?本来なら、一刀はこんな所に閉じ込められる謂れは無いんだ!!」

 

ここは、天角の一角に設置されている牢屋

 

牢の中には壁から垂れ下がった鎖に首を繋がれた一刀が横になり、それを心配そうに牢の外から見つめる冥琳がいた

 

天角の侍女に持ってこさせた食事を格子越しに食べさせようとする冥琳だったが、一刀はこれを拒否した

 

一刀「俺は虜囚だ、虜囚は虜囚らしい食事だけを取ればいいんだ・・・・・」

 

冥琳「違う!!一刀は我々三国の守護神!!三国を和解させ、平和な時代を我々に与えてくれた英雄王だ!!」

 

一刀「それこそ違う話だ・・・・・俺は、そんな偉そうなものでも何でもない、元から百万人殺しの大罪人なんだからな・・・・・」

 

冥琳「一刀ぉ・・・・・」

 

一刀「だから、冥琳も俺の事は忘れてくれ、今後処刑される事が決まったとしても、庇ったり後を追うようなことはするな」

 

冥琳「そんな事、言わないでくれぇ・・・・・ここで一刀に死なれてしまっては、それこそ私は絶望してしまう・・・・・」

 

力なく俯く冥琳の目からは次々と滴が溢れてくる

 

食事を床に落とし、両手を顔に押し当て嗚咽する冥琳

 

そんな冥琳を見かね、一刀は手を伸ばした

 

鎖に長さが足りなく、首が締め付けられるが、かろうじて手は届いた

 

冥琳「あ・・・・・/////////」

 

頭を撫でられて赤面する冥琳

 

本来の冥琳であれば、子供扱いされていると受け止めて拒んでいる所だが、一刀を傷付けてしまった事もあり、その手の感触を受け入れていく

 

しかし

 

冥琳「ぐすっ・・・・・どうしてだ、どうしてこんなに優しくしてくれるんだ、一刀ぉ・・・・・私達は、一刀にここまでの所業を働いてしまったというのに・・・・・」

 

それでも罪悪感に耐え切れず泪を流し続ける

 

一刀「冥琳が気に病む事じゃない、俺は元々許されざる人間だ、こうなってむしろ当然なんだ・・・・・」

 

冥琳「っ!!一刀!!私と一緒に逃げよう!!雪蓮達の見つからない遠くへ!!そこで穏やかに暮らそう!!」

 

頭を撫でていた手を掴み、一刀に一緒にここから脱走する説得をし出す冥琳だったが、一刀は冷厳に返した

 

一刀「冥琳、それこそ俺は冥琳を軽蔑する・・・・・冥琳には呉の大都督としての責任があるのに、たった一人の男を選んでその責任を放棄するって言うのか?」

 

冥琳「・・・・・・・・・・」

 

一刀「断金の契りを結んだ雪蓮を放って呉を飛び出したりしたら、雪蓮は血眼になって冥琳を探し出そうとするなんて事は、簡単に想像出来るだろう」

 

冥琳「・・・・・・・・・・」

 

一刀「だから、二度とそんな事を言わないでくれ、俺は冥琳を嫌いになりたくない」

 

冥琳「・・・・・一刀ぉ」

 

劣等感と自責の念により、冥琳は強く握った手を緩めてしまう

 

一刀「・・・・・ここまでだな、誰か来た」

 

冥琳「え!?」

 

人の気配を感じ、一刀は手を引っ込めた

 

冥琳が振り向いた先には牢の建屋に入ってくる徐栄と張済がいた

 

徐栄「時間だ、出ろ」

 

張済「今日からお前には、西の郊外の城壁で働いてもらう」

 

冥琳「っ!!」

 

急いで目の滴を拭き払い鋭く目を尖らせ、徐栄と張済を睨みつける冥琳

 

徐栄「そ、そんな睨まないで下さい、冥琳様!」

 

張済「そうです、零様達のご命令なんですから!」

 

その圧倒的な威圧感に北郷隊副官二人は、あわてふためく

 

一刀「そんな顔をするな、徐栄と張済が困るだけだ」

 

冥琳「一刀ぉ・・・・・」

 

そして、二人は牢の鍵を開け、首に繋がれた鎖を取り外す

 

一刀は暴れる事なく、二人の指示に従った

 

徐栄「それと、お前にはこれを付けてもらう」

 

徐栄が取り出したのは、二つの錘のついた鎖だった

 

どうやら人の足に付けて自由に行動させない為の拘束具だろう

 

冥琳「ちょっと待て!!ここで働いている罪人達はこんなものを付けられてはいないだろう!!」

 

張済「それはそうなんですが、こいつの力は葵様や恋様に匹敵するらしいので、付けさせろと言われましたから!」

 

冥琳「そんなものに意味は無い!!それに一刀は暴れる事は絶対にしない!!」

 

一刀「いい、構わない、それで納得してくれるんなら・・・・・付けてくれ」

 

そうして、拘束具を両足首に填められた一刀はそれを引き摺りながら徐栄と張済に連れて行かれる

 

一刀「そうだ、もしここに龍奈が来たら、絶対に暴れ無い様にって俺が言っていたと伝えてくれ、あいつの性格だと勢い余って天角を滅ぼしそうだからな・・・・・それと、左慈と于吉にも気を付けてくれ・・・・・」

 

最後に冥琳にこう告げて、一刀は徐栄と張済に連行されていった

 

冥琳「~~~~~~っ!!一刀ぉ・・・・・すまない・・・・・一刀ぉ・・・・・」

 

これだけの事をされているにも拘らず、こちらを精一杯気遣ってくれる一刀の痛々しい後姿に、冥琳は目から再び滴を流しその場にへたり込んでしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「・・・・・で、相変わらず冥琳は牢にいるの?」

 

明命「はい、何が何でもここを離れないと聞きません・・・・・」

 

蓮華「本当にどうしてしまったの?冥琳・・・・・」

 

朱里「あの聡明な冥琳さんがあんな事になるなんて・・・・・」

 

稟「はい、未だに信じられません・・・・・」

 

玉座に一堂に会する皆は、冥琳の狂乱ぶりがまだ信じられなかった

 

徐栄「ただ今戻りました、あいつは西の城壁に移しました」

 

零「ご苦労様、あいつには戒めは付けて来たわね?」

 

張済「はい、確かに」

 

冥琳「零!!!あれはどういう事だ!!!?」

 

零「は!!?なによいきなり!!?」

 

徐栄と張済の報告を聞いている時に、血相を変えて玉座の間に入ってきた冥琳に一同は驚く

 

冥琳「一刀にあんなものを付けるなど、お前達はどこまで自分の首を絞めれば気が済むんだ!!!?」

 

零「そんな事言われてもしょうがないじゃない!!」

 

詠「そうよ、話によると、あいつは恋や葵さんに匹敵する武を持っているって言うじゃない!!」

 

穏「そうですよ~!それくらいしないともし暴れ出したら手が付けられませんよ~!」

 

冥琳「一刀はそんな事はしない!!!それに暴れようと思えば、いつでも暴れる事が出来たと思わないのか!!!?」

 

雪蓮「・・・・・ねえねえ零、ちょっと気になっていたんだけどさ」

 

零「なによ、雪蓮」

 

雪蓮「結局、彼の賞金は誰が手にするわけ?」

 

冥琳「なっ!!!?雪蓮!!!?」

 

いきなり、一番不謹慎な事を言い出す雪蓮に冥琳は目を吊り上げる

 

霞「そういやそうやな、ゴタゴタですっかり忘れとったわ・・・・・ウチは、問題外やな・・・・・」

 

桔梗「ワシら蜀は、何も出来なかったからな・・・・・」

 

凪「私も、何の役にも立てませんでしたし・・・・・貰えません・・・・・」

 

斗詩「そうですね・・・・・聞いた話によりますと最大の功労者は、冥琳さんという事になりますかね」

 

猪々子「おめでとう、冥琳~♪」

 

麗羽「これで冥琳さんの将来は安泰ですわね♪」

 

冥琳「止めろ!!!私はそんなものはいらない!!!」

 

小蓮「ちょっと、勿体ないよ、冥琳!!」

 

雪蓮「そうよ、せっかくだから貰っときなさいよ♪」

 

冥琳「そんな端金など、要らん!!!」

 

蓮華「端金って、そんなことないでしょ!!?城一つ立てられる金額よ、呉の財政も潤って願ったり叶ったりよ!!」

 

純夏「そうよ!!貰っときなさいよ!!」

 

冥琳「・・・・・そこまで言うなら貰ってやろう、ただし三千万全額を、今ここで使わせてもらう」

 

雪蓮「な、なんですって!!?・・・・・まさか・・・・・」

 

冥琳「ああ、その金で一刀を呉に引き取らせてもらう!」

 

桂花「ちょっ!!?正気なの!!?」

 

冥琳「構わん!!!一刀の価値に比べれば、そんなものはびた一文にもならん!!!」

 

菖蒲「そ、そこまでの価値があの人にあるというのですか!!?」

 

冥琳「そうだ!!!零、三千万と引き換えに一刀を渡してもらうぞ!!!」

 

零「・・・・・悪いけど、それは出来ないわ」

 

冥琳「何故だ!!?三千万ならいくらでも釣りがくるだろう!!?」

 

零「天角、刑法第22条3項に記してある、どれほど高額でどれほどの高位の人間であろうと、あらゆる免罪符を認めない」

 

冥琳「っ!!?」

 

斗詩「はい、信賞必罰をはっきりさせて、罪人にはそれ相応の罰を与えなければなりませんから」

 

雫「過去の漢王朝の例があります、上の腐敗を防ぐ為にも、こればかりは覆す訳にはいきません」

 

冥琳「~~~~~~~~っ!!・・・・・ならば、私は賞金は断固貰わない!!」

 

蓮華「そんな、私には冥琳が何を考えているのか分からないわ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、こちらは西の城壁

 

「お前の持ち場はここだ!!しっかり働け!!」

 

見張りの兵士に連れてこられたのは、城壁の材料である岩を加工し、それを運ぶ所だった

 

周りには、強制労働により罪人達が体に鞭打ち忙しく動いていた

 

しかし、強制労働とはいっても罪人達は余り疲れた顔はしていない

 

労働内容は厳しいものだが、一日の労働時間は8時間、残業を含めれば最高でも10時間と定めてある

 

明らかに怠けている者は別だが、それ以外の者達が鞭で打たれたり棒で叩かれる事は無い

 

この強制労働は、罪人達の社会復帰も兼ねている

 

懸命に働き、成果を出した人間には待遇の改善、そして一人部屋が用意される決まりがある

 

週に一度休みを設け、その時だけいろんな遊具を与え、気分をリフレッシュさせる

 

それが楽しみで自ら進んで労働に勤しむ者も多い

 

働けば働いた分だけそれ相応の報酬が貰えるという事を覚えさせるのだ

 

然るべき罰を与え、刑が果たされれば、罪は許される

 

それをはっきりさせなければ、罪人達は出所した後も再び犯罪に手を染める事になり、刑務所はただの犯罪者予備軍育成所になってしまうのだ

 

アニキ「おお、新入りか、可愛がってやるぜ♪」

 

チビ「ここの掟をみっちり体に叩き込んでやるぜ♪」

 

デク「か、覚悟するんだな」

 

そして、最初に一刀を迎えたのは、黄色い頭巾を被った三人組だった

 

一刀「よろしくお願いします・・・・・」

 

挨拶をしながら、一刀は頭を下げた

 

アニキ「ほう、礼儀は知っているみたいだな・・・・・へえ、なかなかの面構えじゃねーか、ま俺には及ばねーがな♪」

 

「そこ!!!サボってないで働け!!!」

 

アニキ「は、はい!!」

 

チビ「わわ、分かりました!!」

 

デク「た、叩かないで欲しいんだな!!」

 

見張りの叱咤で三人は、人間の半分ほどある四角に加工された岩に繋がれた縄を引っ張り城壁の上に移動させようとするが、なかなか上がっていかない

 

「お前もあの三人を手伝え!!!」

 

一刀「分かりました」

 

そして、三人に加わり縄を掴み引っ張る一刀

 

グイッ!

 

アニキ「うおおおおお!!?」

 

チビ「な、なんだ!!?」

 

デク「す、凄い力なんだな!」

 

なんと、一刀は片手だけで岩をあっという間に上に引き上げてしまった

 

これには、三人と見張りの兵も呆然としていた

 

一刀「それで、次の岩は何処にあるんですか?」

 

「あ、ああ、こっちだ・・・・・」

 

そして、見張りに案内され一刀は再び岩運びに専念する

 

しかし、そこで一つ問題が起きてしまった

 

一刀が岩を運ぶスピードが余りに早過ぎて岩の加工が追い付かなくなってしまったのだが

 

一刀「ふっ!」

 

ドゴンッ!!ガガンッ!!

 

ここでも一刀が大活躍、拳に氣を溜め素手で岩を砕き、あっという間に綺麗な四角形に加工していく

 

それを何十回と繰り替えし、一日目の労働は終了した

 

しかし、一日でどんなに成果を出したからと言っても、一刀は新人には変わりない

 

新人の役目である片付けと、次の日の準備、更には食事作りにまで駆り出され夜中まで働いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、労働時間が終わり三連星は、受刑者の宿舎へ向かっていた

 

アニキ「くそっ、面白くねぇぜ!!このままじゃあっという間に追い越されちまうぜ!!」

 

この三人は、この強制労働に付き半年経っていてそれなりの成果を出し見張りに顔を覚えられているが、一刀はたった一日で三人の成果を超えそうなそれを叩き出していた

 

チビ「でもアニキ、あいつ絶対只者じゃありやせんぜ、あんな錘を付けられていますし、それでもあれだけ働けますし・・・・・」

 

デク「そ、そうなんだな、もしかしたらとんでもない凶悪犯かもしれないんだな・・・・・」

 

アニキ「何言ってんだ、それなら捕まって早々にぶっ殺されているはずじゃねーか、こんな所に来るはずねーぜ」

 

チビ「それはそうかもしれやせんが・・・・・ぶっ!!?」

 

その時、風に吹かれて一枚の紙切れがチビの顔面に命中した

 

チビ「ちっくしょう!!なんなんだよこりゃ!!?・・・・・って、なんじゃこりゃあああああああ!!!!??」

 

その紙切れに書かれた内容を見て、チビは慌てふためく

 

デク「い、いきなりどうしたんだな!!?」

 

チビ「アニキ、これを見て下せえ!!あいつやっぱりとんでもない大物ですぜ!!」

 

アニキ「ああ~?何言って・・・・・うおおおおおおおおい!!!??」

 

デク「す、凄過ぎるんだな・・・・・」

 

その紙切れは、一刀の手配書だった

 

その圧倒的な賞金額に、三人は目ん玉を見開く

 

アニキ「三千万・・・・・一生豪遊してもお釣りがくるぞ・・・・・」

 

チビ「やっぱり、あいつ只者じゃなかったんだ・・・・・」

 

デク「お、恐ろしいんだな・・・・・」

 

手配書に描かれている似顔絵は、あきらかに一刀である

 

端整な顔立ちに、右頬の十字傷がそれを証明している

 

アニキ「な、なんでこんな奴が生かされてるんだよ・・・・・」

 

チビ「とと、とにかく、あいつは敵に回さない方がいいんじゃないですかい?・・・・・」

 

アニキ「そ、それが良いな・・・・・」

 

デク「さ、賛成なんだな・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左慈「よし、いい具合だ、流れはこちらにある」

 

于吉「ええ、問題はいつ赴くかですが」

 

左慈「このまま奴が弱りきったところを狙う、それこそ一瞬で片が付く」

 

于吉「お願いしますよ・・・・・念の為に周りの人間を操っておきますか?」

 

左慈「必要ない、向こうもこちらを警戒しているはずだ、余計な事をして北郷を警護されても面倒だ」

 

于吉「分かりました・・・・・後は、貂蝉と卑弥呼、そして管輅の動向くらいですか・・・・・」

 

左慈「何も問題は無い、例え奴らに接触し俺達の術を解除されようが、ここまで来てしまえば全てが手遅れだ」

 

于吉「そうですね、今更思い出したところで北郷は彼女達の下には帰っては来ませんし」

 

左慈「北郷の方は俺に任せろ、お前は・・・・・」

 

于吉「分かっています、あの三人及び、彼女達の足止めをします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一刀が強制労働に付き2日が経とうとしていた

 

冥琳「だから言っているだろう!!!左慈と于吉は、我々や三国の土地など眼中にない!!!奴らが狙っているのは一刀の命だけだ!!!」

 

朱里「しかし、それだと理屈に合いましぇん!」

 

詠「そこまでしてあいつの命を奪う事に何の意味があるというのよ!?」

 

桂花「そうよ!だいたいそこまで言うなら、なんであいつは自分から死刑を望んだりするのよ!?」

 

冥琳「当たり前だ、一刀は長い間三国を又にかけ山賊や水賊を一人で討ち続けて来たんだ・・・・・」

 

鈴々「にゃ?それって愛紗の事じゃないのか?」

 

愛紗「馬鹿を言うな鈴々、私が一人で賊を討っていたのは幽州限定の話だ、一人で三国などという広範囲で賊を討てるものか」

 

冥琳「一刀の話によると、山賊狩りで一刀が討った賊の数は百万を超えるそうだ・・・・・」

 

翠「ひゃ、百万だって!!!??」

 

純夏「確かにそれなら、あれほどの腕を持っているのも頷けるわね」

 

嵐「ああ、これは尊敬や畏怖に値するぞ♪」

 

冥琳「一刀本人にとっては、良いものでも何でもない・・・・・一刀は、山賊狩りで自身が奪った命の事で、今日まで苦しんで来たんだ・・・・・」

 

雛里「しかし、そのような話は聞いた事もありません」

 

風「そうですね~、それほどの数の賊を討っているのなら、噂話くらいあってもおかしくないでしょう~」

 

冥琳「当たり前だ、その記憶も左慈と于吉に奪われたのだ、覚えてもいない事を調べようとも思わないだろう、実際私もそうだったのだからな・・・・・おそらくこの大陸の人間全員に同じ術が掛けられたと見るべきだろう・・・・・」

 

華琳「そんな事、信じられるわけ「おい皆!!!すげーぜ!!!」・・・・・」

 

いきなり華琳の言葉を遮り、猪々子が玉座の間に駆け込んで来た

 

桂花「ちょっと猪々子!!華琳様がお話している最中に、あんたどんな根性してるのよ!!?」

 

猪々子「いいから来てみろって!!本当にすげー事が起きてるんだって!!」

 

雫「どうしたんですか、猪々子さん!?」

 

猪々子「なんと西の城壁があと少しで完成しちまうぞ!!!」

 

斗詩「ちょっと待ってよ文ちゃん!!西の城壁は、あと二か月はしないと完成しないはずだよ!!」

 

猪々子「あたいもそう思っていたんだけど、実際に見てみなよ、なんかすげー勢いで壁が積み上げられてるからさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニキ「旦那!!これで最後でさあ!!」

 

一刀「よし、後はそれ一つで完成だな」

 

一同が西の城壁に駆けつけると、今ちょうど最後の岩が積み上げられ城壁が完成したところだった

 

二日前までは、城壁の上側三分の一は手付かずで、外側の景色が見えていたのだ

 

なのに今では立派な堅壁が出来上がっていた

 

詠「いったい何があったのよ・・・・・」

 

村長「信じられないですじゃ・・・・・」

 

雫「いくらなんでも早過ぎます・・・・・」

 

零「ちょっと、監督官!!!監督官は何処!!!?」

 

「はい!!?なんでしょうか!!?司馬懿様!!?」

 

現場を統括する監督官に零は迫る

 

零「これはいったいどういう事なの!!?まさかあんた達、手抜き工事をしたんじゃないでしょうね!!?」

 

「め、滅相もございません!!徐庶様の計画書通りに押し進めました!!」

 

雫「では、なぜここまで早く完成したのですか?」

 

「それは・・・・・あの新人が・・・・・」

 

アニキ「すげーぜ旦那♪旦那のおかげでこんなに早く完成したぜ♪」

 

チビ「流石旦那だぜ♪」

 

デク「す、凄いんだな♪」

 

そこには、罪人達に取り囲まれ、大絶賛の嵐を浴びる一刀の姿があった

 

冥琳「・・・・・やはりな」

 

一刀「皆、喜ぶのはまだ早いぞ、今度は反対側の城壁に行かなきゃならないんだからな」

 

アニキ「旦那が居てくれれば、あっという間に終わるでさあ♪」

 

チビ「おう、この調子で東側も終わらせてやりますぜ♪」

 

デク「が、頑張るんだな♪」

 

「・・・・・信じられない事ですが、あの新人は一人で百人並みの働きをして見せました・・・・・これが各人員の役割分担と成績表です」

 

零「っ!!」

 

監督官が差し出した資料を取り上げ、新人の受刑者のページをパラパラと流し読みしていく零

 

零「・・・・・なによ、これ」

 

そこには驚くべき内容が記されていた

 

城壁に運んだ岩や土嚢袋の数が一人二日で出来る平均を圧倒的に上回っていた

 

おまけに、一刀は新人という事もあり受刑者の食事調理を任されていた

 

しかし、受刑者の食事メニューは2,3種類である

 

麦を主食とし、その他は粗末な野菜の煮汁くらいだ

 

成果を出した受刑者なら話は別だが、それ以外の受刑者の食事はこんなものだ

 

しかし、山賊狩りで長い間一人旅をしてきた一刀はそんな種類乏しい食材から受刑者全員が楽しみになるほどの一品を捻り出していた

 

それが麦と一緒にあらゆる食材を煮て作る雑炊である

 

現状ではこれ以上の料理は叩き出せないが、皆の評判は上々だった

 

腹が減っては戦は出来ぬ、食事はエネルギーと明日への活力を生み出すとはよく言ったものである

 

雫「こんなもの・・・・・百人どころか千人並みの働きです・・・・・」

 

アニキ「旦那の作る料理が楽しみでさあ♪」

 

チビ「ええ、あんな美味い飯、ここで働いている間食べた事がありやせんぜ♪」

 

デク「あ、あれだけが楽しみなんだな♪」

 

一刀「あまり期待しないでくれよ、全員分を作ると休み時間が無くなるんだ・・・・・昨日は寝る暇なんてなかったし、俺は水くらいしか口にしてないんだからな」

 

冥琳「っ!!一刀!!!」

 

一刀「・・・・・冥琳、なんで来たんだ?」

 

冥琳「一刀ぉ、もう見ていられない・・・・・もういい、もう十分だ・・・・・これ以上私を苦しめないでくれ・・・・・」

 

一刀「頼む冥琳、皆を連れていってくれ、俺はここで死ぬと決めたんだ、ここには二度と来ないでくれ」

 

冥琳「・・・・・一刀ぉ」

 

その言葉に冥琳の頬に水線が伝う

 

そんな冥琳を背にし、一刀は他の受刑者と共に東側の城壁に向かったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥琳「零!!!今すぐに一刀の待遇を上げろ!!!」

 

零「そんな事出来るはず無いじゃない!!どんなに成果を出しても、新人の待遇をいきなり上げたら、他の罪人に示しが付かないわ!!」

 

玉座の間に戻って来た一同は、再び口論を始めていた

 

冥琳「ではせめて、一刀の錘を外せ!!!」

 

零「それも出来ないわよ!!あいつに関しての報告は聞いているわ!!自由にさせたら、何をしでかすか分からないもの!!」

 

冥琳「そんなもの、やろうと思えば今すぐにでもやれると思わないのか!!!?」

 

詠「そうかもしれないけど、保険は必要よ!!」

 

音々音「そうなのです!!ねねもあいつの強さは認めています!!何の戒めも無しというのは余りに危険です!!」

 

と、このように余りに不毛な議論が飛び交う

 

時雨「・・・・・っ」

 

雫「・・・・・っ」

 

そんな中で、時雨と雫は気付かれないようにさりげなく玉座の間を出ていこうとした

 

村長「?・・・・・雫様、時雨、何処に行くのじゃ?」

 

雫「・・・・・ちょっと、気になる事がありまして」

 

時雨「はい、席を外させていただきたいのです・・・・・」

 

この時、時雨と雫の様子がおかしい事に気付いていたのは村長だけだった

 

村長「・・・・・あの者の下へ行くのですか?」

 

雫「・・・・・ええ」

 

時雨「はい・・・・・」

 

村長「・・・・・分かりました、ワシも気にはなっていますからな、共に行きましょうぞ」

 

雫「ええ、一人では心許無いですし・・・・・一応、剣は持っていきますが」

 

時雨「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、3人は東の城壁へやってきた

 

アニキ「すげーぜ、やっぱり旦那ははえーや♪」

 

チビ「ええ、あっしらの二十倍は動いているのに、全く疲れた顔をしていないんですから♪」

 

デク「と、とても真似出来ないんだな」

 

そこには、明らかに他とは違う動きをしている一刀がいた

 

岩や土嚢を肩に担ぎ、物凄い勢いで城壁と地面とを往復している

 

しかし、早いからと言って作業が雑になっている事はいっさい無い

 

土嚢はしっかりと踏み固められ、岩も綺麗に積み重ねられていっている

 

作業に漏れは無く、建造速度が尋常でないだけで、雫が作成した計画書通りに進んでいるのだ

 

これを見てしまえば、先ほどの成績表も嘘ではないと実感出来てしまう

 

拘束具を填められているというのにペースが落ちる気配が全く無い

 

これでは冥琳の言う通り、両足首につけられた拘束具も意味をなさない

 

暴れようと思えばいつでも暴れられるだろう

 

それをしないという事は、彼にはその様な気は無いという事だ

 

アニキ「よっしゃ、俺達も頑張らないとな♪」

 

チビ「ええ、とっとと建てちまって自由になるぜ♪」

 

デク「だ、旦那に楽をさせてあげたいんだな♪」

 

そして、一刀の勢いに後押しされるように周りも作業に打ち込んでいく

 

一人の気迫が周りに良い影響を与え、受刑者が一体となっていた

 

まるで一人の一騎当千の将が戦場で活躍し、その姿に惚れ付き従う重臣達を見ているようだ

 

雫「監督官は何処にいますか!!?」

 

「はっ!!ここであります!!徐庶様!!」

 

雫「あの者は、ずっとあの調子で働いているのですか?」

 

「はい、信じられない奴です、ここ数日ろくに寝ていなく、食事もあまり口にしていないはずですのに・・・・・」

 

時雨「そんな、それはあんまりなんじゃ!!?」

 

「しかし、あいつは自分から進んで仕事を要求してきますし、おまけに腹を空かせた他の奴らに自分の食事を渡しているんです・・・・・」

 

村長「・・・・・信じられないですじゃ」

 

いくら恋や葵と同等の武を持っていると言っても、この様な過酷な労働を続けていては、数日で死んでしまうのは目に見えている

 

雫「ちょっと待って下さい!!」

 

一刀「っ・・・・・何をしに来たんだ?」

 

ちょうどその時、土嚢を運び終え下に向かおうとする一刀を引き止めるが、一刀は険しい顔をする

 

雫「貴方に聞きたい事があるんです!」

 

時雨「どうかお時間を取らせてください!」

 

村長「少しだけでいいのですじゃ!」

 

一刀「言っただろう、もう俺の前に現れるなって」

 

雫「なぜそんな事を言うのですか!!?」

 

時雨「そうです、貴方は悪い人ではないと分かります、それなのになぜここまで自分を追い詰めるのですか!!?」

 

村長「そうですじゃ!!身の潔白を証明しようと思わないのですか!!?」

 

一刀「話す事は何もない、俺一人の為に無駄な時間を割くな、他にやらないといけない事がいくらでもあるだろう?」

 

雫「・・・・・・・・・・」

 

時雨「・・・・・・・・・・」

 

村長「・・・・・・・・・・」

 

この言葉に三人は、心の中に言いようのない空虚感と喪失感を感じていた

 

そして、仕事に戻ろうと一刀が踵を返したその時

 

アニキ「ほらほら!!退いた退いた!!」

 

チビ「そんな所に突っ立ってんじゃねえ!!」

 

デク「あ、危ないんだな!!」

 

土嚢袋を担いだ三連星が横切る

 

ドンッ!!

 

雫「きゃあああああああ!!!」

 

時雨「あ!!!雫様!!!」

 

村長「雫様!!!」

 

三連星と衝突した雫は足を踏み外し、城壁から真っ逆さまに落ちて行った

 

背中から来る衝撃に耐えようと目を力いっぱい瞑る雫

 

ドサッ

 

しかし、体のどこからも痛みは来なかった、それどころか暖かい何かに包まれる

 

雫「・・・・・え?」

 

強く瞑った目をゆっくり開けてみると、そこには右頬に十字傷を付けた男の横顔があった

 

落下する雫を追い越し申の型苑歩で着地し、一刀はお姫様抱っこで受け止めたのだ

 

一刀「ったく、あいつらも無茶するな・・・・・だけど今のはお前が悪いぞ、作業中に割り込んできたんだからな」

 

雫「あ、はい・・・・・申し訳ありません・・・・・」

 

ついつい丁寧語で謝ってしまった

 

一刀「どこも怪我していないな・・・・・連れて行ってやるから大人しくしていろよ」

 

雫「あ・・・・・はい・・・・・」

 

お姫様抱っこされた雫は、そのまま一刀に運ばれていく

 

不思議とこの人の命令には逆らおうという気がしなかった

 

雫「・・・・・・・・・・」

 

その腕の中で揺らされる雫は、一刀の横顔をずっと見ていた

 

雫「・・・・・///////」

 

すると、ほんのりと頬が赤く染まっていく

 

一刀「・・・・・?」

 

雫「~~~~~~っ!//////////////」

 

自分の顔を凝視している雫に何かと思い顔を向ける一刀

 

目があったのと同時に恥ずかしさの余り顔を背けてしまう雫

 

勝手に真名で呼ばれ許すべきでない相手のはずなのに、心臓が無駄に脈打ち、気分が高揚する

 

時雨「雫様!!!大丈夫ですか!!!?」

 

村長「お怪我はありませんか!!!?」

 

雫「だ、大丈夫です、何処も怪我してません//////////」

 

そして、城壁から降りてきた時雨と村長と合流し、雫は一刀の腕から降りた

 

一刀「しず・・・・・徐庶、ここにはもう来るんじゃないぞ」

 

雫「っ!!!!??」

 

真名で呼ばれなかった事にこれほどの違和感を感じ、かつ傷付くとは思わなかった

 

心の中央に巨大な大穴が開いたように、雫は意気消沈していった

 

勝手に真名で呼ばれて怒っていた自分は何だったのかと思いたくなる

 

そして、三人は城に帰って行ったのだった

 

アニキ「旦那ぁ、なんであんな事をしたんですかい?」

 

チビ「そうでさあ、あいつこの天角の筆頭軍師の徐庶だっていうじゃないですか」

 

デク「あ、あいつを人質に取れば、ここから逃げ出せたかもしれないんだな」

 

一刀「・・・・・お前ら、次にそんな事を言ったら、張り倒すぞ」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

アニキ「ひいいいい!!!?」

 

チビ「すいませんでした!!!」

 

デク「も、もう二度と言わないんだな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、東の城壁から戻って来た雫は、天角の誰も使っていない、あの二振りの剣が置いてあった部屋を訪れていた

 

別に何か目的があって来たわけではない、自然と導かれるようにこの部屋を訪れていたのだ

 

雫「この部屋は・・・・・あのお方が使っていた・・・・・」

 

部屋の中を一周し、机、壁、寝台、本棚に手を触れていく

 

自分は、何度もこの部屋を訪れていた、仕事の為に、あるいはプライベートで

 

そして、部屋に一つだけおいてある戸棚に辿り着き扉を開ける

 

雫「この服もあのお方が着ていた・・・・・」

 

中には、文官が着る服が何着か掛けてあった、その中に自分で収納した光り輝く服を手に取る

 

雫「すぅ~~~~・・・・・はぁ///////」

 

服を顔に当てその匂いを吸いこんでみると、不思議と体が上気する

 

この匂いは、先ほどお姫様抱っこされた時に嗅いだ匂い、彼の匂いだ

 

そして、重大な事に気付いた

 

自分は、処女ではない

 

この天角の自分の部屋には、数多くの下着が隠してある

 

それらは、男性を魅了する事を目的として作られた、いやらしい造形や極薄で透明なものばかりだ

 

しかし、自分は殿方とそういった事をした記憶は無い

 

雫「私は・・・・・あのお方に、抱かれた事がある・・・・・」

 

それも、一度や二度の話ではない、何十回とだ

 

しかも、強制的にでも命令されてでもなく、自分から進んで彼に抱かれたのである

 

おまけに、そういった下着を着て誘惑しながら迫っていた

 

お姫様抱っこされた時の温もり、あの逞しい腕に包まれた満足感、その感覚を記憶が無くても体が覚えていた

 

心の中のもう一人の自分が訴えてくる、冥琳の言葉を信じろと

 

雫「私は、冥琳さんの言葉を信じます!」

 

意を決し、雫は輝く服を戸棚に戻し部屋を飛び出すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥琳「そのような規則にとらわれて、一番大切なものを見失っていては、本末転倒だろう!!!」

 

零「一番大切なのは規律よ!!じゃないとこの天角は漢王朝と同じ轍を踏んでしまうわ!!」

 

玉座の間では、相変わらず不毛な論争が巻き起こっていた

 

雫「冥琳さん!!」

 

冥琳「っ!!?なんだ、雫?」

 

その時、血相を変えて雫が走り込んできた

 

雫「私は、冥琳さんの言葉を信じます!!」

 

朱里「ええええ!!?雫ちゃん!!?」

 

百合「どうしちゃったの~?雫ちゃ~ん」

 

冥琳「まさか、記憶が戻ったのか!!?」

 

雫「いいえ、そういう訳ではありません・・・・・しかし、冥琳さんの言葉に思い当たる節があり過ぎるからです!」

 

零「ちょっと待ちなさい、雫!!思い当たる節って何なのよ!!?」

 

冥琳「(よし、希望が見えてきた!!)」

 

一人より二人、二人より三人

 

今までの状況は、冥琳一人で周り全てを敵に回している四面楚歌のようなものだったのだ

 

しかし、天角筆頭軍師である雫が加わってくれれば圧倒的に違ってくる

 

雫「あのお方は、私達と一緒にここで暮らしていました!!それは間違いないのです!!」

 

詠「それってどういう事!!?何か証拠が・・・・・」

 

地和「ちょっと、どういう事なのよ!!?」

 

天和「え~~~~ん、こんなのないよ~~~~!!!」

 

冥琳「な、なんだ!!?どうした!!?」

 

雫の援護射撃を得たかと思えば、今度は張三姉妹が乱入してきた

 

華琳「どうしたの!?何かあったの!?」

 

人和「申し訳ありません華琳様、ここ数日舞台の運営が滞っていまして」

 

華琳「滞っている?何か問題でもあったの?」

 

人和「実は、天角の各地で公演をする予定だったのですが、舞台の移動が効率良く出来ていないんです・・・・・」

 

天和「そうなんだよ~!!華琳様達が来ている事もあって、通行人が凄くて全然移動できないんだよ~!!」

 

凪「それは、天角の部隊も協力していると思いますが」

 

人和「はい、それでも追い付いていない状況なんです」

 

地和「そうよ、ちぃ達のマネージャーは何やってるのよ!!?」

 

天和「そうだよー!!このままじゃ天角の公演は大失敗だよー!!」

 

桂花「は!?まねーじゃーってなによ!?」

 

地和「マネージャーはマネージャーよ!!」

 

人和「姉さん、それじゃ分からないわ・・・・・マネージャーというのは、私達のようなアイドルの計画の調整や仕事の交渉、世話にあたる人の事です」

 

聖「つまりは、宦官みたいなもの、ということ?」

 

人和「そこまで偉くはありませんが、掻い摘んで言えばそうとも言えますね」

 

雪蓮「ふ~~~ん、それで、そのまねーじゃーっていうのは誰なの?」

 

地和「そんなのちぃが聞きたいわよ!!」

 

桂花「はあ!!?あんた訳が分からないわよ!!」

 

地和「ちぃも訳が分からないのよ、誰だったのか思い出せないんだから・・・・・」

 

天和「うん、一体誰が私達のマネージャーをしていたんだっけ?」

 

人和「おかし過ぎるわ、こんな事忘れるはずないのに・・・・・」

 

みい「にゃ~~~~~!!!腹減ったにゃ~~~~!!!」

 

ミケ「美味いもの食わせろ~~~!!!」

 

トラ「食わせろ~~~!!!」

 

シャム「食わせろ~・・・・・」

 

今度は、南蛮ニャンダフルズが乱入してきた

 

紫苑「あらあら、どうしたの?貴方達♪」

 

みい「お母さ~~~ん♪お腹へったにゃ~~~♪」

 

紫苑「あら?璃々と流琉ちゃんはどうしたの?あの子達も作ってくれるはずよね?」

 

璃々「お母さ~ん、璃々もう作れないよ~・・・・・」

 

流琉「何を作っても食べてくれないんです・・・・・」

 

それに遅れ、璃々と流琉も来た

 

季衣「はぁ~~~、美味しかったぁ~~~♪////////」

 

その後に続き季衣が口周りに食べ物の粕を付けて入って来た

 

流琉「作っても作っても、みいさんは食べてくれなくて・・・・・」

 

璃々「代わりに季衣お姉ちゃんが全部食べちゃうんだも~~~ん」

 

季衣「だって勿体ないじゃ~~~ん」

 

みい「みいは、今はハンバーグが食べたい気分だにゃ♪」

 

ミケ「ハンバーグ食わせろ~~~♪」

 

トラ「ハンバーグ♪ハンバーグ♪」

 

シャム「ハンバーグ♪・・・・・」

 

明命「はんばぐ?なんだか何処かで聞いた事のある名前ですね?」

 

春蘭「はんぱーぐ?半端者という意味か?」

 

みい「ハンバーグだにゃ!!」

 

紫苑「はいはい、分かったわよ♪それで、それはどんな食べ物なの♪」

 

みい「知らないのにゃ、この世一美味いものだにゃ♪」

 

璃々「そんなんじゃ分かんないよ~!」

 

流琉「もっと具体的な食材とか形とかを言ってくれないと、こっちも作りようがありませんよ~・・・・・」

 

みい「知らないのにゃ、お肉たっぷりだにゃ♪」

 

紫苑「お肉?壇肉の事かしら?紅燒肉も作れるわよ♪」

 

凪「麻婆豆腐の様なものですか?」

 

みい「違うのにゃ、全く違う食べ物だにゃ!」

 

百合「それじゃあみいちゃん、それを作ってくれた人は誰なの~?」

 

みい「それも知らないのにゃ、誰が作ってくれたのか忘れたにゃ!」

 

桂花「ちょっと、あんた達までふざけてるの!!?」

 

みい「ふざけてなんかないにゃ!!忘れたものは忘れたにゃ!!」

 

地和「ちょっと!!!そんな事よりもちぃ達の公演の方が問題よ!!!」

 

みい「そんな事とは何だにゃ!!!?みいのお腹の方が大事にゃ!!!」

 

張三姉妹とニャンダフルズの無駄な論争が勃発する

 

そんな中

 

冥琳「地和、みい、お前達が探している人物を私は知っているぞ」

 

地和「な、なんですって!!?」

 

みい「にゃっ!!?それは誰かにゃっ!!?」

 

雫「まさか・・・・・それも・・・・・」

 

冥琳「ああ、一刀だ・・・・・」

 

地和「一刀って・・・・・まさかこの前舞台に乱入して、何もかも台無しにしたあいつの事!!?」

 

人和「冥琳さん、何かの冗談ですよね?」

 

天和「私は、ちょっと好みだけどね♥/////////」

 

みい「みいも、あんな奴知らないのにゃ」

 

冥琳「そうだ、知らなくとも無理はない、お前達は忘れた、いや忘れさせられたんだ・・・・・左慈と于吉の奴に」

 

「・・・・・・・・・・」

 

百合「それでは~、あの人にみいちゃん達が言う、ハンバーグというものを作っていただいたらどうですか~?」

 

雪蓮「あ、それ良い案ね♪あたしも食べてみたいし♪」

 

風「そうですね~、それでみいちゃん達が納得のいく料理を作る事が出来れば風も冥琳ちゃんの言う事を信じられるかもしれません~」

 

冥琳「・・・・・おそらく、それも無理だろう」

 

零「なんでよ!!?別に料理を作る時間くらいこちらでも用意するわよ!!」

 

冥琳「一刀は、私達が記憶を取り戻す為の協力はしない、それくらい一刀は自らの死を望んでいる・・・・・お前達が自力で思い出す以外に手は無い、お前達が記憶を取り戻した時にお前達の負担が少しでも軽くなるようにしたいんだ、だから私はお前達を説得しているのだ、一刀の待遇を少しでも上げろと」

 

「・・・・・・・・・・」

 

雫「では、あのお方の一人部屋は用意しましょう、まずはそれでいいですか?」

 

冥琳「・・・・・不満だが、いきなり待遇を上げ過ぎて他の罪人達の不評を買うのはお前達も避けたいだろう、ここはそれで妥協してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一刀が強制労働に付いて4日目に突入した

 

玉座の間では未だに一刀の処遇についての議論が大旋風を巻き起こしていた

 

冥琳と雫は、ただひたすらに処罰派を説得し、処罰派はそれを蹴るという余りに不毛な議論が繰り返されていた

 

 

 

葵「・・・・・そういえば、恋」

 

恋「・・・・・?」

 

葵「ずっと聞きたかったんだがな・・・・・お前が持っているその大剣、荊山であのヴリトラと戦っている時、ヴリトラの炎を掻き消したよな、あの時、何をしたんだ?」

 

恋「・・・・・分からない、でも何となく体が動いた・・・・・気が付いたら熱い火が消えていた」

 

葵「ということは、お前はその剣を使って何か特別な事をしたわけじゃないのか?」

 

恋「・・・・・(コク)」

 

葵「それじゃあ、あの現象は何だったんだろうな?」

 

桔梗「そうよな、左慈と于吉もこの剣がヴリトラを傷付ける事が出来る唯一の武器だと言っていたしのう・・・・・その剣はいったいなんなのじゃ?」

 

冥琳「・・・・・私は知っているぞ」

 

恋「え?」

 

葵「なに!?」

 

冥琳「その剣の名は、龍滅金剛刀だ」

 

桔梗「それも思い出したという事か!!?」

 

雫「ええ・・・・・その剣は、あのお方が持っていた物ですね」

 

華琳「何ですって!!?」

 

冥琳「そうだ、その剣には氣を打ち消す効果があるらしい、だから龍の炎を消すことが出来たんだろう・・・・・恋は覚えていないだろうが、お前はかつて泰山でその金剛刀を用いて一刀と戦った事があるんだ、だから体が覚えていたんだろう」

 

恋「・・・・・・・・・・」

 

冥琳「そして雪蓮、お前が持っているその刀は陸奥守忠久といい、それも一刀のものなんだ」

 

雪蓮「え、うそ!!!?」

 

冥琳「その二本の剣は、誰も使っていない部屋から持って来たと言っていたな・・・・・あの部屋が、一刀の部屋なんだ」

 

菖蒲「そ、そんな・・・・・それじゃあ、あのお方はいったい誰なんですか!!?」

 

冥琳「一刀は・・・・・一刀こそが、天の・・・・・」

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

 

「!!!!???」

 

龍奈「一刀!!!何処なの一刀!!!?」

 

いきなり言葉の続きを遮るかのように、轟音と共に青白い肌に側頭部から二本の角を生やし、金色と黒の目を持ち、腰から緑色の鱗が付いた尻尾を生やし、チャイナ服に身を包んだ人外の娘が壁をぶち抜き、玉座の間に殴り込んできた

 

蓮華「な、何が起きたの!!!?」

 

朱里「はわわわ!!!?」

 

雛里「あわわわ・・・・・」

 

純夏「げっ!!!ヴリトラ!!!」

 

悠「とうとう来やがったか!!!」

 

みい「にゃんと!!!??あれが悪龍ヴリトラの人間の姿なのかにゃ!!!?」

 

ミケ「逃げるにゃ~~~~!!!」

 

トラ「逃げろ~~~~~!!!」

 

シャム「逃げろ~・・・・・」

 

いきなりのヴリトラの乱入に玉座の間は混乱と緊張に包まれる

 

龍奈「もし一刀を殺していたら、この都を滅ぼしてやる!!!!」

 

完全に興奮状態に陥り、目をギラ付かせ殺気をばら撒く龍奈に冥琳が言葉を投げつける

 

冥琳「ま、待て!!!一刀は生きている、頼むから落ち着いてくれ!!!」

 

龍奈「うるさいっ!!!!・・・・・って、あんた一刀の事を思い出したわけ!?」

 

冥琳「・・・・・そうだ」

 

龍奈「ふ~~~~ん、それじゃあ分かってるんだ、自分がどんな事をしたのか?」

 

冥琳「ああ・・・・・我々はとんでもない事をしてしまった・・・・・どれほどの事をしても、贖罪する事は出来ないだろう・・・・・」

 

龍奈「そう言うなら一刀を渡しなさい、自分達が一刀の傍にいる資格が無いって分かってるでしょう?」

 

冥琳「・・・・・そればかりは出来ない」

 

龍奈「ふざけんじゃないわよ!!!お前達じゃ、一刀を幸せに出来ない事は分かりきっているわ、仮に一刀が戻って来たとしても、ここまで崩れた関係を修復する事は出来っこない、一刀は不幸になるだけよ!!!それより一刀は何処!!!?少しでも一刀を傷付けていたら、その時は・・・・・」

 

貂蝉「落ち着きなさい、龍奈ちゃん、この子達にご主人様を殺せっこないんだから♪」

 

卑弥呼「うむ、この外史のご主人様の因果径は計り知れんからのう」

 

今度は、筋肉ムキムキマッチョマン二人組が乱入してきた

 

小蓮「ひっ!!キモッ!!」

 

焔耶「うわっ!!?狂人か!!?」

 

華琳「へへへへ変態!!!?」

 

貂蝉「だ~~~~れがどんな凶悪犯でも尻尾を巻いて逃げ出す、筋肉ムッキムキ~な露出狂ですって~~~~~!!!??」

 

卑弥呼「だ~~~~れが恥ずかしげもなく女物の水着を着た、情緒不安定なオカマ大魔神だと~~~~~!!!??」

 

華琳「その通りでしょう!!!」

 

恋「っ!!??」

 

凪「なっ!!??」

 

嵐「こ、こ奴ら・・・・・」

 

葵「ああ、恐ろしく強え~ぞ・・・・・」

 

華佗「なんだ!!?何があったんだ!!?」

 

柊「うわっ!!?なんなんですかこの人達は!!?」

 

雛罌粟「目が、目が~~~~!!!」

 

診察室で杏奈の面倒を見ていた3人は、突然の轟音に驚き玉座の間にすっ飛んできた

 

貂蝉「わぁ~~~お、華佗ちゃん、久しぶり~~~、むちゅ~~~~~♪////////」

 

卑弥呼「おお~~~、ダーリンよ、会いたかったぞよ~~~♪////////」

 

華佗「うわっ、何だ!!!?誰なんだ、お前達は!!!?」

 

いきなり貂蝉と卑弥呼は、華佗に抱き付こうと飛び掛かる

 

管輅「貂蝉、卑弥呼、話が進まないからそこまでにして頂戴」

 

貂蝉「ああん、管輅ちゃんのい・け・ずぅ♪」

 

卑弥呼「まぁ、そちらの方が先だな、ダーリンとは後で戯れるとしよう♪」

 

管輅「龍奈、今は落ち着きなさい、貴方が暴れていては纏まる話も纏まらないわ」

 

龍奈「・・・・・分かったわよ」

 

そして、四人は玉座の間の中央に並んだ

 

華琳「あ、貴方達は誰なの!!!?」

 

貂蝉「私は貂蝉、都を彩る黒薔薇の君よん♪」

 

卑弥呼「卑弥呼、摩訶不思議な極東を束ねる巫女だ♪」

 

管輅「私は、星読みの管輅」

 

冥琳「か、管輅だと!!?まさか・・・・・」

 

管輅「ええ、天の御遣いの予言者よ」

 

杏奈「皆さん・・・・・何があったんですかぁ?・・・・・今の音はいったい・・・・・」

 

その時、轟音と騒動に釣られるように左目を抑えながら杏奈が入って来た

 

柊「あ、杏奈さん!!安静にしていて下さい!!」

 

雛罌粟「そうです、杏奈さんの病気の原因は分からないままなんですから!!」

 

ふら付きながら玉座の間に入ってくる杏奈に柊と雛罌粟が肩を貸すが

 

龍奈「ふん、無様なものね」

 

杏奈「え・・・・・誰ですか?」

 

そんな杏奈を龍奈は冷たい眼差しで射抜いた

 

龍奈「お前みたいな奴に名乗るなんで同族嫌悪もいいところだけど、名乗らない事には話が進まないから名乗らせてもらうわ・・・・・私は龍奈、春秋時代から今まで生きてきた、お前達が呼ぶ悪龍ヴリトラよ」

 

杏奈「あ、貴方が・・・・・皆さんの話に聞く・・・・・ヴリトラ・・・・・」

 

龍奈「私の眷属ともあろうものが情けないわね、他の人間が先に思い出しているのに、お前が思い出さないなんて」

 

杏奈「け、眷属?・・・・・何を言って・・・・・あぐうっ!!!??」

 

一瞬で間合いを詰め、龍奈は杏奈の顔をアイアンクローで掴み、片手で持ち上げる

 

柊「な、何をするんですか!!!?」

 

雛罌粟「杏奈さん!!!」

 

桃香「杏奈ちゃん!!!杏奈ちゃんを離してください、ヴリトラさん!!!」

 

星「おのれ悪龍め!!!杏奈を離せ!!!」

 

龍奈「大丈夫よ、傷付けたりなんてしないわ、ただし傷付いた方がましと思うくらいの苦痛を味わうかもしれないけど」

 

そして、龍奈は自分の手の甲に噛み付く

 

深めに歯を突き立て、掌から血が滲み出る

 

杏奈「んん~~~~~!!んんん~~~~~!!!」

 

アイアンクローから抜け出そうと抵抗するが、龍族の本家である龍奈の力に敵う筈も無かった

 

龍奈「お前には、一刀の事を思い出させてあげる、耐えられるか見ものだわ」

 

そう言いながら、龍奈は自身の手を杏奈の顔の真上に持っていく

 

掌から滴り落ちる龍族の生血が杏奈の金色の左目に吸い込まれていった

 

杏奈「あうああ・・・・・うあああああああああああああああ!!!!!」

 

それと同時に龍奈は杏奈を解放し、杏奈は床の上に降りると同時に頭を押さえ悲痛の叫び声をあげた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                           「うん・・・・・俺は北郷一刀だよ、よろしく、法正さん」

 

「言わずもがな・・・・・けど、俺は別にそんなことを誓ってくれなくてもいいんだけどな」

 

            「それじゃあ、通貨の表裏で表が出れば杏奈が先行、裏が出れば俺が先行、いいね?」

 

       「だから・・・・・これからはそんな風に言っちゃ駄目だよ、親から貰った大切な体なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏奈「ああ・・・・・あああああああああ!!!!ご主人様ああああああああああ!!!!」

 

焔耶「杏奈!!!?一体どうしたんだ!!!?杏奈!!!」

 

鈴々「杏奈お姉ちゃん!!!?」

 

杏奈「ご主人様、ご主人様あああああ!!!!申し訳ありません、申し訳ありません!!!!」

 

頭を抱え、ひたすらに謝罪の言葉を叫ぶ杏奈に一同は戸惑う

 

純夏「ちょっと落ち着きなさいよ、杏奈!!いったい誰に謝ってるの!!?」

 

杏奈「皆さん、今すぐにご主人様を保護するんです!!!大至急です!!!」

 

柊「ま、待って下さい!!いきなりそんなに動いたら危険ですよ!!」

 

雛罌粟「それに、ご主人様って誰なんですか!!?」

 

杏奈「もう治りました!!!ご主人様はご主人様です!!!伝説の山賊狩り、英雄王、三国の守護神、北郷一刀様です!!!」

 

桂花「何錯乱してるのよ!!?あいつに何をされたのよ!!?」

 

杏奈「錯乱もします!!!ご主人様、ご主人様に・・・・・私は、私達は・・・・・あんな事を・・・・・」

 

龍奈「・・・・・ふんっ、私の助けが無いと思い出すことも出来ないなんて、本当に情けないわね」

 

冥琳「いったい何をしたんだ?どうして杏奈は、思い出す事が出来たんだ?」

 

龍奈「そいつはね、私の子孫なのよ」

 

華琳「な、なんですって!!?」

 

龍奈「長い間、人間と血を分け続けて龍族の血が大分薄くなっているから分からないかもしれないけど・・・・・こいつの左の金色の目は龍族の血の名残よ」

 

朱里「そんな・・・・・杏奈さんがヴリトラさんの子孫・・・・・」

 

雛里「春秋時代と言っていましたから・・・・・六百歳は越えている事になります・・・・・」

 

穏「とても信じられませんよ~!!」

 

龍奈「だから私の生血を分ける事によって龍の血を活性化させたのよ、その結果あの二人の道術の束縛を振り解けたという事よ」

 

冥琳「ならば、お前の血を分けてくれ!!他の者達にも一刀の事を思い出させてやってくれ!!」

 

龍奈「それは無理よ」

 

冥琳「な、何故だ!!?」

 

龍奈「この手は、龍族の血を受け継いだ者にしか効果は無いのよ、他の者に同じ事をしたところでただの栄養摂取にしかならないわ」

 

杏奈「わ、私が・・・・・貴方の子孫・・・・・」

 

龍奈「お前と私が同族だなんて思いたくないわ、龍族の風上にも置けないわね」

 

杏奈「龍族・・・・・そうですか、だからなのですね・・・・・」

 

風「なにがだからなのですか~?」

 

杏奈「はい、私の一族は長生きをする人が多いんです、長い者では百歳近くまで生きる人もいるんです」

 

雪蓮「百ですって!!?」

 

この時代の天命は、精々五十か六十までである

 

百なんて年齢に達するなんて事は常識ではありえないのだ

 

杏奈「まさか、それが龍族の血によるものだったなんて・・・・・」

 

龍奈「種明かしが終わった所でいいかしら?一刀を渡してもらうわよ」

 

杏奈「あ、そうです!!!今すぐにご主人様を保護しなければ!!!」

 

龍奈「何言ってるのよ?お前達なんかに一刀を任せられるはず無いでしょ、一刀は私が連れて行くわ」

 

杏奈「そ、そんな事、許しませうぐっ!!!」

 

今度は、杏奈の首を片手で締め上げ持ち上げる龍奈

 

龍奈「よくもそんな偉そうな事が言えたものね、自分がどんな事をしたのか、まだ認識が足りないみたいね」

 

杏奈「うううう~~~~~!!!ぐうううう~~~~~~~!!!」

 

首を絞められた上に持ち上げられた杏奈は、苦悶の表情を見せ足をバタつかせる

 

貂蝉「龍奈ちゃん、それくらいにした方がいいわ・・・・・」

 

卑弥呼「うむ、そんな事をしてもご主人様は喜ばないと分かっているだろうに」

 

龍奈「・・・・・分かってるわよ」

 

杏奈「ううっ!!・・・・・ごほっごほっごほっ!!!」

 

強靭な龍奈の掌から解放された杏奈は床に蹲った

 

柊「大丈夫ですか、杏奈さん!!?」

 

雛罌粟「ちょっと、杏奈さんは病人なんだよ!!どうしてこんな酷い事するの!!?」

 

龍奈「安心しなさい、そいつは最初から病気じゃないわ、あの二人の道術に龍族の血が対抗していたからそう見えていただけよ」

 

冥琳「そうか、だから杏奈には記憶を取り戻す予兆があったのか・・・・・」

 

美羽「・・・・・のう皆、妾は分からない事があるのじゃ」

 

聖「私も、物凄い違和感があるわ・・・・・」

 

七乃「美羽様?」

 

彩「どうなされました?美羽様」

 

葵「聖様?」

 

その時、美羽と聖が疑問に思う事を口にする

 

美羽「三国を結びつけた、三国同盟の立役者は誰だったのじゃ?妾はどうしても思い出せんのじゃ・・・・・」

 

聖「それに、この天角の城主は誰なの?一生懸命思い出そうとしているのに、全く思い出せないの・・・・・」

 

貂蝉「あんら♪二人鋭い子がいるわねん♪」

 

冥琳「そうだ美羽!!思い出せ!!」

 

杏奈「そうです聖様!!聖様が兄と慕っていたんですよ、ご主人様を!!」

 

美羽「・・・・・思い出せんのじゃ」

 

聖「・・・・・駄目、思い出せないわ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

そう言われてみると、一同も返す言葉が無い

 

現在の三国同盟がどのようにして成立したのか、その詳しい経過を思い出す事が出来ない

 

そして、この天角が建築されているそもそもの理由、この城の城主の名前も思い出せないのだ

 

何故その事を疑問に思わなかったのか、不思議なくらいである

 

貂蝉「・・・・・ここまで言っても思い出せないのねん・・・・・左慈ちゃん達もご主人様の記憶は念入りに封じ込めたみたいねん」

 

卑弥呼「・・・・・ダーリンよ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

卑弥呼「おっとすまん、華佗よ、お主の事じゃ」

 

華佗「ん?さっきは、俺の事を呼んでいたのか?」

 

いきなりダーリンと呼ばれても、華佗もピンとくるはずがなかった

 

卑弥呼「うむ、ダーリンは、この天角の自分の部屋に診察書を保管してあるはずよな?」

 

華佗「あ、ああ・・・・・天角に来てから今日までのざっと一年分の武官と文官から庶民全ての診察書を保管してあるが、それがどうかしたのか?」

 

卑弥呼「この天角の主立った者の診察書を調べてみよ、そうすればワシらの言っている事が理解できると思うぞ」

 

華佗「・・・・・分かった・・・・・柊、雛罌粟、手伝ってくれるか?」

 

柊「はい、分かりました・・・・・」

 

雛罌粟「お手伝いします」

 

時雨「私も行きます!」

 

百合「私もお手伝いします~」

 

そして、華佗に数人が付いていき、玉座の間を出て華佗の自室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、東の城壁工事現場は昼休みになっていて、一刀は与えられた塒で一人横になっていた

 

その塒は、穴倉の中に藁を敷いただけの簡素なもので、これなら荊山に作った隠れ家の方がまだましと言えるくらいだ

 

しかし、これまで山賊狩りをしてきて野宿の連続だった一刀からしてみれば何て事はない

 

どんな環境でも眠りに付けるよう訓練されているので何も問題は無かった

 

一刀「(こういった硬いベッドも乙なものだよな・・・・・あと三日も働いていれば、死ねるかな)」

 

土と藁の感触に浸りながら罪人として死んでいく覚悟をしていた一刀だった

 

その時、独特な空気の乱れを感じた

 

左慈「くくくく♪無様だな、北郷♪」

 

いきなり何もない空間から勝ち誇った左慈が現れる

 

左慈「仲の良かった仲間に捨てられた気分はどうだ?今までの努力が水泡に帰した気分はどうだ?・・・・・人の人生が転落するのは見ていて実に気分が良いが、それが貴様だとより深みが増す♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

左慈「伝説の山賊狩り?英雄王?三国の守護神だ?貴様には不似合いな称号だったんだよ♪烏滸がましいにも程があるな♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

左慈「それとも、また山賊狩りから出直すか?・・・・・もっとも、誰もお前の事を覚えていないんじゃどうしようもないがな♪くくくく♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

左慈「・・・・・おい、なんとか言え!!いくら死ぬほど嫌いな貴様でも、ここまで無視されるのは俺も我慢ならん!!」

 

藁の上で腕を頭の後ろに交差させ仰向けになり、ただひたすらに左慈の問答を聞くだけの一刀

 

そんな一刀に左慈は怒鳴り付け、一刀は流し目で左慈に視線を移した

 

一刀「・・・・・なぁ、左慈」

 

左慈「あ?」

 

一刀「俺はさ、この三日間働きっぱなしで眠くてしょうがないんだ、それに口にしているのは水くらいで米粒一つ食っていない、おまけに背中の傷がまだ癒えていないから力が出ないんだ」

 

左慈「だからなんだ?こっちはそれだから来たんだよ、出直してくれとか言うのか?あいにく俺は、貴様に対して全く寛容じゃないぞ、冥途の土産に命乞いなら聞いてやらなくもないがな♪」

 

一刀「いや、そういう事を言っているんじゃない」

 

左慈「ならば何が言いたいんだ!?」

 

一刀「ああ・・・・・だからさ、ごちゃごちゃ御託を並べてないで、今すぐに掛かって来たらどうだ?」

 

左慈「なんだと!!?」

 

一刀「こんなチャンスは滅多に無いんじゃないのか?今の俺は本来の力の5割も出せないぞ、俺を殺したいんだろ?」

 

そう言いながら、横になったまま手招きをする一刀

 

左慈「くっ!!そんなに死に急ぎたいか・・・・・ならば望み通り死を与えてやる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雛罌粟「・・・・・なんで、どうしてこんな物があるんですか!!?」

 

柊「こ、これは、あの人の・・・・・」

 

百合「・・・・・北郷・・・・・一刀・・・・・」

 

時雨「この天角の・・・・・太守様・・・・・」

 

華佗「・・・・・・・・・・」

 

その後五人は、血相を変えて玉座の間に戻って来た

 

華佗の部屋には、紛れもない一刀の診察書があった

 

ご丁寧に、一年間に渡る詳しい診断結果も記載されていた

 

卑弥呼「・・・・・ダーリンよ」

 

華佗「ああ、これはもう認めざるを得ない、あいつは俺達と共に暮らしていた・・・・・」

 

桂花「でも、これが偽装である可能性も捨てきれないわ!!」

 

稟「そうです!!皆さんにはこのような人物の記憶は無いんですから!!」

 

華佗「偽装であってたまるか!!この診断書に書かれている文字は、紛れもなく俺の字だ!!こんな精巧な偽装が出来る人間がいるんだったら、ぜひここに連れてきて欲しいもんだ!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

理屈は通っているが、やはり納得のいかない者が大半を占めていた

 

管輅「・・・・・貂蝉、卑弥呼、もういいでしょ?」

 

溜息を吐きながら、管輅は懐から水晶玉を出す

 

卑弥呼「・・・・・そうだな、これ以上続けても時間の無駄だな、ご主人様の身の上も心配であるし」

 

貂蝉「私としては、皆には自力で思い出して欲しかったけど、仕方ないわね・・・・・」

 

華琳「な、何をしようというの!?」

 

蓮華「その水晶は何!?それで何をするの!?」

 

訳の分からない問答をする3人に一同は警戒心を強める

 

管輅「貴方達に掛けられた于吉の術を解除してあげる、精々精神が病まない事を祈るのね」

 

そして次の瞬間、管輅の水晶玉が眩い光を放つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待て!!!後半!!!


 
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