No.743136

不思議の国の貝木泥舟⑩

続・終物語「こよみリバース」後。
オンラインゲームを下敷きにして創られた阿良々木くんの夢の世界に迷い込んだ貝木さんの話。
元の世界に帰るため、戦場ヶ原さんと羽川さんの依頼で「ススキノ」の街にいる千石撫子を迎えに来たところ。
「ログ・ホライズン」の設定・ストーリーが基ですが、未読でも問題ありません。

2014-12-12 15:20:19 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:695   閲覧ユーザー数:694

 

 

017

「よう、千石、迎えに来てやったぜ」

 俺たちが「ススキノ」についたのは、二日目の黄昏時になってからだった。さすがに雪は降っていなかったが、もう三月も終わるというのに街のあちらこちらに雪が残っている。雪かきのされていない日陰の路地裏などは、まだ雪がうずたかく積もったままになっているのだった。まるで、いつかの北白蛇神社のように。

 「ススキノ」での千石撫子は、神様ではなく「森呪遣い(ドルイド)」だった。

 片手にうねるように伸びた木の枝のような長い杖を持ち、体の線が目立ちにくいすっぽりと覆うようなシルエットのケープ付きのワンピースのようなものをきて、回復職特有の柔らかい曲線をもった革鎧をまとっている。

「お前、髪を切ったのか。驚いたぞ。似合うじゃないか」

 ゲーム世界ならではのコスプレ装束はさておき、千石の髪型がベリーショートになっているのは大きな変化だった。イメチェンといって問題ないだろう。失恋したからか?というくだらない発想もしてしまったが、それをまさか口に出すほど俺は年寄りでもない。

「ありがとう、貝木さん」

 まだまだぎこちないながらも、新学期までに着実にステップアップしようとしている準備期間の千石だった。

 その千石の背後を守るように、アロハ服を着た忍野メメが立っていた。

 メイン職業「吟遊詩人(バード)」。

 なのに何でアロハなんだ、お前は。

「お久しぶりです、『お父さん』」

 忍野扇がすました顔で歩み寄り、忍野に抱きつこうとした。

 のけぞるようにそれをかわす忍野。

「扇ちゃん、でよかったっけ。半月前に会ったばかりの可愛い姪っ子が、甥っ子になっちゃってるってだけでもびっくりなのに、甥っ子がさらに息子になっちゃってるっていうのは、これまた一体どういう企画の産物なんだい? だいたい、仮に僕が君のお父さんだとして、君のお母さんは一体どこの誰なのかな? まさか阿良々木くんだなんて言い出すんじゃないだろうね?」

「はっはー。敬愛する神原先輩でもあるまいし、お母さんが阿良々木先輩だなんて腐女子的な設定にしたりはしませんよ。それとも何か、身に覚えでもあるんですか? 僕のお母さんは、臥煙伊豆湖です。以前、彼女が神原先輩の前で『忍野伊豆湖』と名乗ったりしたのも、早くちゃんと入籍して忍野姓になりたいという女心の表れだったんだと思いますよ? お父さん」

 俺の後ろで手折が吹きだすのがわかった。

「臥煙先輩が忍野の愛人か。いや、忍野が臥煙先輩のヒモって言った方がしっくりくる感じだね。忍野なら、あの臥煙先輩とでもそつなく息の長い大人のお付き合いができそうだ」

「何だか僕までありえるような気がしてきちゃったけど」

 そんなタチの悪い冗談はおいといて、と忍野は言った。

「正弦くん、君には随分世話かけちゃったねえ。ありがとう」

「別に、僕は自分の仕事をしたまでだよ。まあ、ほかでもない、君の頼みだったからね」

 忍野と手折の会話から推し量るに、忍野が手折と臥煙先輩の仲立ちをした、ということなのだろうか。

「貝木くんは本当に久しぶりだねえ。あの町では結局ニアミスだったから、もう何年ぶりになるのかなあ。死んだって聞いてたけど、その様子だと無事だったみたいだねえ。はっはー、君は悪運強いから、僕も簡単には死なないだろうと思ってたよ」

「そいつはお互い様だろう。お前こそ、いったい今までどこをほっつき歩いてたんだ?」

「なあに、可愛い姪っ子の計らいで、ちょっと南極までね」

 南極!?

「お前も俺も、手折も千石も、阿良々木のおかげでひとかたならぬ目に遭わされたもんだな」

「はっはー、そうだねえ。まあ、こうしてはからずもオカルト研究会の同窓会ができてよかったんじゃない? こんなことでもなきゃ、僕ら三人が一堂に会することなんてないだろうし」

「何か天変地異の前触れでもなければいいですがね」

 と忍野扇が縁起でもない付け足しを言いやがった。

 そこへ、あいつの声が降ってきた。

「楽しそうやなあ、男連中だけでつるんどらんと、うちも混ぜたってえな」

 

 

018

 ビルの谷間を横切って滑空する巨大な鳥の影。

 その鳥に騎乗しているのが影縫余弦だった。

「うわー、すごいですねー、『鷲獅子(グリフォン)』に乗ってご登場ですかー、かっこいー」

 ひたすら棒読みで忍野扇が言った。

「久しぶりやなあ、ほんまに同期会でもやったるか?」

 口調とは裏腹に殺気に満ち満ちた影縫。

 一直線に俺に向かって降下し、「鷲獅子(グリフォン)」の背から飛び降りざま、容赦ない攻撃を仕掛けてきた。不意打ちと言っていい。

「いきなり御挨拶だなあ、影縫」

 俺はその攻撃を髪の毛一筋のところでからくも回避し、数メートル後ろへ飛び退いた。

「死ぬかと思ったぜ」

「貝木くんとこうして顔合わせるんは、去年の夏以来か。またもやあの鬼畜なお兄やん絡みで再会するなんて、因果なもんやなあ。しかも今度は忍野くんまでおるし」

 敢えて手折には触れない影縫。

「三十過ぎても相変わらず乱暴だなあ、余弦ちゃんは。また何かいいことでもあったのかい?」

 いつもののんびりとした台詞を呟きながら、忍野もまた千石をかばって影縫と十二分に距離をとった。

 夕暮の中、影縫のステータスを透かし見る。

「『武闘家(モンク)』か」

 まんまじゃねえか。

「さあて、うちは気が短いからいっぺんしか言わへんよ。黙って千石撫子をうちに引き渡すんや。そうすりゃ命まではとら……んちゅうのはまた逆にやりづらいんやけどなあ。まあ、しょうがないわ。そういう仕事やし」

「お前、台詞が悪者ぶって悪乗りしすぎだろ。正義の味方が聞いてあきれるぜ。だいたいお前が言うと、はなっから説得する気がなくてバトルがしてえから一回しか言わないようにしか聞こえねえよ」

「かかっ、まあ、貝木くんの言う通りや。そもそもこっちは交渉しに来たわけやないし、金はろうたりするつもりもまるであらへんし、力ずくで千石撫子を奪い取るつもりできとるからな。かつての同期の誼で、わざわざ先に通告してやったまでや」

 突然、俺の背後から紫色の光弾が放たれ、影縫の足元で地面に着弾し、派手な音を立てて爆発した。

「あー、すみません、フライングしちゃいました」

 後ろで忍野扇のムカつくくらいのんびりした声がする。

 土煙が晴れると影縫の位置が変わっていたので、どうやら普通によけたらしい。

「そちらさんはやる気満々みたいやなあ。で、貝木くんはどないするん? おとなしく千石撫子をこっちに渡すんか?」

「悪いな、影縫。こっちも金がかかってるんでな」

 突風が吹き、俺の頭上に翼をもった美しい乙女が降臨した。手折の召喚した「風乙女(セイレーン)」だ。

 エメラルドグリーンの髪を風になびかせ、白いドレスに身を包み、純白の大きな羽をはためかせる姿からは、ギリシャ神話に登場する半人半鳥の妖婦の面影はなく、天使のように神秘的である。ただ、エメラルドグリーンの髪をツインテールにして、まどろみにたゆたうように瞼を伏せた顔に表情はなく、さながら斧乃木余接の天使ヴァージョンという感じがして気持ちうんざりさせられる。

「援護するよ、貝木」

 手折の声と共に俺の体は風に包まれ、浮きこそしないものの体が軽くなった感じがした。

「さあて、それじゃあ千石撫子はこのバトルの勝者に引き渡すってことにしようか。僕はそれまでどちら側も抜け駆けしてお姫様を横合いからかっさらっていかないように、しっかり騎士(ナイト)を務めさせてもらうとするよ」

 遠くの方でニヤニヤしながらそう宣言する忍野と、その隣で目を白黒させて慌てふためいている千石の姿が見えた。

 どうもお膳立てがうますぎるような、誰かに踊らされてるような、嫌な感じだ。

 しかしバトルが開始されたこの戦場で、俺に思考する余裕などいくらも残されていなかった。

 

 


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