No.735241

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

捜索と捕縛と斬月出陣

2014-11-05 18:02:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5155   閲覧ユーザー数:1190

「ふぅ、やれやれですね」

 

ディアーリーズは両手を払いながら、自身の足元を見下ろす。その足元には…

 

「「ゲフゥ…」」

 

ディラックとアトロワの二人が、ボロボロの状態で倒れていた。その顔面のあちこちに痣があったり前歯がへし折れてしまっていたりと、二人がディアーリーズによってどれだけ殴られたのかがよく分かる。ディアーリーズは倒れている二人をわざと踏みつけながら移動し、襲われかけていた女性の前に立ってから彼女に自身が着ていた上着をかける。

 

「佳弥さん、大丈夫でしたか!?」

 

「え、あ、えっと……はい、大丈夫ですわ…」

 

「佳弥さんですね。良かった、あなたの心に傷が残るような事が無くて」

 

「あ、あの……どうして、私を助けて下さったのですか…?」

 

「どうしてって……人を助けるのに、理由なんて用意する必要は無いでしょう?」

 

「ッ…!!」

 

(ほう、今のが無自覚フラグ建設ってか。ロキさん達が言ってた通りだな…)

 

ディアーリーズが見せた笑顔に、女性は思わず顔を赤らめて視線を逸らす。そんな彼女の反応に「?」と首を傾げてクエスチョンマークを浮かべる辺り、ディアーリーズ自身は自分のやっている事を自覚している訳ではないようだ。

 

「ところで、この馬鹿共はどうしましょうかね? 流石に放置する訳にはいきませんし」

 

「ま、レイモンズさんに引き渡すのが一番でしょう。いちいちこんな奴等の相手をしていてはキリがありません」

 

「はい、確かにそうですね(チッ、強姦魔なんて死ねば良いのに…)」

 

「ま、愛華さん…?」

 

笑顔で告げる愛華だったが、その表情にはほんの僅かに黒い何かが感じて取れたようで、ディアーリーズと刃は思わず後退りする。その時、刃はある事を思い出した。

 

「…とにかく、早く食事をユーリさんの下まで持って行くべきでしょう。これ以上待たせる訳にはいきません」

 

「あ、そうでした! 早く行きましょう…あ、その上着は返さなくても大丈夫ですからね!」

 

「え!? あ、あの!」

 

「はい?」

 

「お、お名前は…?」

 

「…ウルティムスです。ウルで構いませんよ」

 

佳弥に対して名前の名乗ってから、ユーリの食事を届けるべく去って行ってしまったディアーリーズ、そして刃と愛華の三人。ちなみにディラックとアトロワは、ディアーリーズによって乱暴に引き摺られる形で連行される事となった。

 

「おいおいアイツ、ディラックの奴を倒しやがったぞ…」

 

「でも魔導師なんだろ? 信用なんか出来んのかよ」

 

「どうせ点数稼ぎだろ。俺達の事も、内心では見下してるに決まってる…」

 

離れた位置で見ていた野次馬達がそれぞれディアーリーズ達について何かを告げている中、佳弥は自身の羽織っているディアーリーズの上着を見て、自然と上着を握り締める力を強まっていく。

 

「ウルティムス…………ウル、さん……ですか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、医務室の二百式がいる部屋では…

 

 

 

 

 

「……」

 

「やっと頭が冷えたか? 二百式」

 

「頼むぜ。これ以上暴れられると、流石の俺達も色々と困る」

 

ダニーに一度叩きのめされた後、再び意識が目覚めた二百式。冷静に自分の身体を起こしているその姿には、先程までと違って特に苛立っているような雰囲気は無かった。

 

「…キリヤ、俺は…」

 

「お前が暴れたもんだから、見ろよ? 部屋のあちこちがボロボロだ。俺達もここの連中と協定を結んだばっかりなんだ、あまり厄介事になるような事はしないでくれ」

 

「…すまない」

 

「謝るなら俺じゃなくて、ここのレジスタンスの連中にな。ちょうどそこにいる」

 

ロキの指差す方向に、壁に背をつけたまま立っているダニーの姿があった。二百式が目覚めた事を知り、閉じていた目をパチリと開ける。

 

「全く、ここまで暴れて部屋を壊すような奴はそうそういないぞ。何をどうすればこんな事になる」

 

「…俺の能力だ。力を使い過ぎると、自分を見失って暴走してしまう」

 

「そんな危なっかしい能力をモンスターとの戦闘で使うのは勝手だ。だがその能力の暴走とやらで、うちのアジトをメチャクチャにするのだけはやめて貰いたいところだな。おかげで医療班の連中もだいぶボロボロだ」

 

「…すまん」

 

「…何がお前をそこまでさせる? お前を突き動かしているのは何だ」

 

「……」

 

二百式の雰囲気が先程までと全く違っている事に違和感を抱き、ダニーが問いかける。ロキとBlazも二百式の方に振り向く中、二百式の口がゆっくり開く。

 

「…デュラハンと戦った」

 

「!? 何だと…!!」

 

デュラハンの名前を聞いて、ダニーの表情が変わる。

 

「デュラハン?」

 

「…ミッドチルダに出没するモンスターの一人だ。しかし、そいつがかなり特殊な奴でな」

 

「特殊? そりゃどういうこったよ」

 

「奴は、自分が強いと認めた者としか戦おうとしない。おまけに卑怯を嫌う性分らしくてな、今までに味方の筈のモンスターを何匹も仕留めてる」

 

「…なるほど、武人って奴か。そりゃいくらか好感が持てそうだ」

 

「好感が持てるだと……ふざけるな!!」

 

(((いやだから壊すなと言うに)))

 

二百式の拳が壁に炸裂する。その所為で壁にまた一つ皹が生える。

 

「奴は俺を倒した……倒しておきながら、俺を殺す事も無く見逃した……敗けた俺に、情けをかけやがった…!!」

 

「……」

 

「俺は必死に戦った!! 命もかけて!! なのに奴は、そんな俺の覚悟を貶しやがった!! これがキレずにいられるか!?」

 

「…ま、それは確かにキレても仕方ないだろうな」

 

黙って話を聞いていたダニーが口を開く。

 

「とはいえ、奴が何の理由も無く相手の覚悟を貶すとは思えん」

 

「何…!!」

 

「何かしらの理由があって言ったんだろうよ。例えば、お前さんの覚悟が足りなかったとか…」

 

「俺の覚悟が足りないだと……俺を馬鹿にしてんのか!! 赤の他人であるお前が何を知った風に!!」

 

「そんな事を言われてもな。実際のところ、どうなんだ?」

 

「俺の覚悟は決まっていた!! 守るべき物の為にずっと戦い続けてきた!! そんな俺が負けた、ただそれだけの事なんだ!!」

 

「…分かった、原因はそれだ」

 

「「?」」

 

ダニーの言葉に、ロキとBlazは何のこっちゃと言いたげに顔を見合わせる。

 

「たぶん、お前が途中で諦めたからだろうよ」

 

「何!?」

 

「お前は、守るべき物の為に戦い続けたんだろう? デュラハンに負けて、それで敗北を認めて、自分から命を捨てようとした。そうだろ?」

 

「何が悪い!! 俺は覚悟を決めただけだ!!」

 

「守るべき物の為に戦う事」

 

「!?」

 

「誰かの為に戦っていたのに、お前はそれを簡単に捨てようとした。それがデュラハンにがっかりさせちまったんだろうよ」

 

「…何?」

 

ダニーの核心をついた言葉に、散々怒鳴っていた二百式も言葉を失う。

 

「お前は守りたい物の為に戦ってきた、だがデュラハンに一回負けただけですぐそれを諦めようとした。「……」

 

「お前は、心の底から守りたい物があるんだろう? それを簡単に諦めちまう辺り、お前の覚悟は所詮その程度って事だ」

 

「ッ…違う!! 俺は…」

 

「違わないだろ? 守りたい物を守る為に、自分の命を軽視してるんだからな」

 

「!!」

 

「自分が死ぬようじゃ、守りたい物も守れはしない。お前は戦士としてのプライドを持ってるつもりなんだろうが、それは違う。命の重さを分かっちゃいないんだからな」

 

「…命の、重さ…」

 

「お前が死んだら、残った者がどんな気分になる? 上っ面だけで、全部を理解したつもりになるんじゃない」

 

「……」

 

(! 凄いな、二百式を口で完全に言い負かした…)

 

完全に言い負かされ、二百式は今までの苛立ちも消え失せてベッドに倒れる。この光景にはロキも内心で驚いていた。

 

「…なら」

 

「?」

 

「…俺はどうすれば良いんだ。何をすれば俺は…」

 

「そりゃ自分で考えろ。こういうのは、自分で答えを見つけなきゃ意味が無い」

 

「ッ…」

 

ベッドに寝た状態のまま、目元を右腕で隠す二百式。そんな彼の事を察したダニーは敢えて彼の寝ているベッドから離れ、ロキとBlazの方へと歩み寄る。

 

「事情はよく知らんが、お前達も苦労しているようだな」

 

「おかげ様でな。ところで、えっと…」

 

「あぁ、まだ名乗っていなかったな。ダニー・ブランシェルだ」

 

「OK、記憶した。キリヤ・タカナシだ、よろしくな」

 

「俺はBlazな」

 

「そうか。レイモンズから既に話は聞いた、よろしく頼む」

 

「あ、ダニーさん!」

 

ダニーがロキとBlazの二人にそれぞれ握手を交わしたその時、そこに一人の人物がやってきた。

 

「ん? あぁ、はやてか。どうした?」

 

「「「!?」」」

 

ダニーの告げた名前に、ロキとBlazだけでなくベッドに寝ていた二百式も驚愕する。

 

「さっきテレンスさんが探しとったで? 早く向かった方が良ぇんちゃう?」

 

「あぁ、分かった。すぐに向かう」

 

(…Blaz)

 

(あぁ、驚いたぜ。まさか小狸までいるたぁな…)

 

「誰が狸やねん!!」

 

「「「!?」」」

 

「ん? 今何か狸って言われたような…」

 

((じ、地獄耳…!!))

 

「何を言っている? とにかく俺は救助に向かう、はやては怪我人を見ていてくれ」

 

「了解や!」

 

「あ、ちょっと待った」

 

ダニーが医務室から出ようとしたその時、ロキが話に介入する。

 

「ちょっとばかり、仕事を手伝わせてくれないか?」

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の部屋では…

 

 

 

 

 

 

 

「ユーリさん!? その目は…」

 

「う、嘘…!」

 

「おやま、目の色が変わっていらっしゃいますね」

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!!」

 

ディアーリーズ、刃、愛華の三人もユーリの両目の異変を知らされて驚愕していた。ユーリは大量の汗をかきながら両目をパチパチさせているが、目の色は未だ元には戻らない。

 

「く……何がどうなってるんだ…どうして私の目が、こんな…!?」

 

「…ヘタレボーイ、これが何か分かるかしら?」

 

「えぇ。まさかとは思いますが、これは…」

 

「恐らく、能力に目覚めたのでしょうね」

 

「「「「「!」」」」」

 

ディアーリーズが葵に問いかけられていたところに、ちょうど竜神丸が姿を現す。

 

「竜神丸か。今ここに着いたのか?」

 

「どうもmiriさん。その通りです。先程、支配人さんの方にも挨拶してきたばかりです……と、今はそんな事どうでも良いとして」

 

「な、なぁ、教えてくれよ! ユーリの目に何が起こってるんだい!?」

 

 

 

 

 

「直死の魔眼」

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

「え、何? 直死の…何だって!?」

 

「…直死の魔眼か。FalSig以外にも目覚めるとはな」

 

「少し変わった能力です。でも、魔眼に目覚めるような人間はそうそういない筈なのですが…」

 

「その事で、先程げんぶさんにテレパシーで連絡を取りました」

 

「! げんぶと…?」

 

「えぇ。彼の話によると…」

 

竜神丸はユーリの両目を指差す。

 

「臨死体験の中、ある物を見た人間がその魔眼に目覚めてしまう事があるそうです。細かい事情はげんぶさんが省いてしまったので私もよく知りませんが、今のままでは魔眼に覚醒した者は死に至るそうです。仮に死ななくても廃人は免れないかと」

 

「そんな!? なら、このままユーリが死ぬのを黙って見てろって言うのか!?」

 

「話は最後まで聞きなさい。落ち着きの無い人ですね」

 

今にも泣きそうな表情で掴み掛かって来る楓に対して鬱陶しそうな表情をしつつ、竜神丸は手に持っていた眼鏡らしき形状をした物をユーリに投げ渡す。

 

「これは…?」

 

「“魔眼殺し”です。それを使えば、魔眼による負担を抑える事が可能となります。後は……そうですね」

 

竜神丸は一枚のメモ用紙にボールペンを走らせ、書き上げた内容をユーリに見せる。

 

「魔眼について、げんぶさんから聞かされた情報を一通り書き上げました。これから先も長生きをしたいのであれば、こちらを参考に」

 

「あ、あぁ、すまない。助かる」

 

「え? え? じ、じゃあ、ユーリは死なないで済むって事なのか?」

 

「その紙に書いた事さえ守れば、そういう事になりますね」

 

「「…良かったぁ~」」

 

「何であなた達が力抜けてんのよ…」

 

「だ、だって、もしユーリの命に危険があったらと思って……本当に良がっだよぉ~!!」

 

「ユーリざんに、ユーリざんにもじものごとがあっだら、私ぃ~…!!」

 

「あぁもう……はいはい二人共、良い子だから泣き止みなさ~い」

 

(((オカン、オカンだこの人…)))

 

ユーリの命にひとまず危険が無い事が分かり、へたり込むと同時に葵に泣きつく楓と愛華。そんな二人に呆れた表情をしつつも二人の涙を受け止める葵の姿を見て、ディアーリーズ達は同じ考えに至る。

 

その時だ。

 

「お~い、お前等」

 

「ん、ロキさんにBlazさん?」

 

ロキとBlazがディアーリーズ達の下に戻って来た。

 

「準備の出来た奴は一緒に来てくれ。ちょっとばかり、レジスタンスにお手伝いだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達も生存者の捜索に?」

 

「あぁ」

 

そして、レイモンズの下まで一応の確認に向かうロキ達。ちなみにダニーの救助活動に参加する事になったのはロキ、Blaz、ディアーリーズ、刃、楓、葵の六名で、miriと蒼崎、愛華の三人はユーリと二百式の容態を見ておく為にアジトに残り、竜神丸はいつの間にかロキ達の前から姿を消してしまっていた。

 

「良いだろ? 元々そういう契約なんだし、俺達も早く他の仲間を見つけ出さなきゃいけない」

 

「私の方からは何も文句は無いよ。ダニーも構わないね」

 

「あぁ、俺も特に問題は無い」

 

「うし、決まりだな」

 

「俺の部下達がアジトの入り口で待機している。俺が準備している間、先に合流しておいてくれ」

 

「OK、了解ですよっと」

 

ダニーに言われた通り、アジトの入り口まで向かう事になった一同。ここで葵がロキに問いかける。

 

「どういう風の吹き回しかしら? あなたの方から私達に頼み事だなんて」

 

「さっきも言ったろ? 早いところ、仲間を見つけ出して元の世界に戻る方法を探さなきゃならない。それに手伝える事は手伝うって契約も結んじゃったしな」

 

「え、ちょっとロキさん、いつの間にそんな契約を…?」

 

「すまん、俺の方で勝手にそうさせて貰った」

 

「「いや言いましょうよ私達にも」」

 

「なはは、悪い悪い」

 

「それは良いが、どうすんだよ? 支配人は調理場に向かってるし、竜神丸の野郎は勝手にいなくなってるし」

 

「あの二人は特に問題ないだろうよ。まずは捜索部隊の連中に合流するのが先決だ」

 

そうしている内に、一同はアジトの入り口前まで到着した。入り口付近にて数名の魔導師や隊員達を発見し、彼等に声をかける。その隊員達の中には、楓や愛華と行動していたテレンスの姿もあった。

 

「ん? アンタ等、さっきの…」

 

「お、さっき見た顔だな。俺達もアンタ達の手伝いをする事になった。よろしくな」

 

「アンタ達が? いやまぁ、手伝ってくれるのは確かにありがたいが……何故に葵さんも一緒に?」

 

「この子達に興味が湧いたからよ。いけない?」

 

「へ? あ、あぁいや、葵さんが言うなら別に文句はありませんが…」

 

「なら決まりね。さ、早く捜索に向かいましょう♪」

 

ルンルン気分で出ていく葵の後ろ姿を見ながら、ディアーリーズがテレンスに小声で話しかける。

 

(あの人、いつもあぁなんですか?)

 

(あぁ。正直、今まであの人の考えを読めた事なんか一度も無ぇよ)

 

(…苦労してるみたいですね)

 

「あ、あの!」

 

「ん? はいはい、何でし……ッ!」

 

ディアーリーズの後ろから、ある女性が声をかけてきた。そちらに振り返って返事を返そうとしたディアーリーズだったが、その女性の顔を見て言葉を失う。

 

「あなた達が、レイモンズさんの言ってた魔導師達ですね? 私はフェイト・T・ハラオウンです、よろしくお願いします!」

 

(! フェイト・T・ハラオウン…)

 

(俺達が知ってるのとは、違う世界のフェイトか)

 

話しかけてきた女性―――フェイトが笑顔で自己紹介をしてくる中、元の世界でのフェイトを知るロキ達は複雑な気分になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アジトの外では…

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい……アンタ等、本当に手伝うってのか?」

 

「あぁ、構わないぜ」

 

「頑張っちゃうよ~!」

 

「私も、アルがいなくて退屈だからな」

 

支配人、フィアレス、キーラの3名はティーダに連れられ、食糧確保の為に街中へと進出していた。ティーダ達が忙しく働いているのを見て、自分達も食糧確保を手伝うと進言したのだ。

 

「ティーダさん、本当に良いんですか? 僕はまだ彼等の事をよく知らないのですが…」

 

「う~ん……まぁ、見た感じ強そうではあるけどな。いざという時は俺とお前で戦えば良いだけだ」

 

「そうかも知れませんけど…」

 

ティーダと行動を共にする少年―――琥珀は、支配人達を見て不安に感じていた。最も、琥珀はまだ支配人達の戦う場面を見ていないので仕方の無い事ではあるのだが。

 

「ま、戦うところを見せてないからそう言われても仕方ないわな……どれ」

 

「ん? あ、ちょ、おい!?」

 

一同の前方に見えるリザードマンの群れを見て、支配人は一人堂々とリザードマンの群れの中へと歩みを進め始めた。すぐに彼を止めようとするティーダだったが、それをフィアレスとキーラが止める。

 

「大丈夫大丈夫、レイなら心配ないって」

 

「どういう事ですか?」

 

「何、見ていれば分かる事だ」

 

「「…?」」

 

フィアレスとキーラの言葉に、ティーダと琥珀は首を傾げながら支配人を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、ちょっくら準備運動と行かせて貰おうか」

 

「「「「「グルルルルル…!!」」」」」

 

一人、リザードマンの群れの目の前で立ち止まる支配人。支配人の存在に気付いたリザードマン達が一斉に彼を睨み付ける中で、支配人は竜神丸から受け取っていた戦極ドライバーを取り出し、腹部に装着。戦極ドライバーのプレートにアーマードライダーの横顔が映し出される。

 

「まずは試運転だ」

 

支配人の手にはメロンロックシードが握られ、それを顔の横まで持っていく。

 

「変身」

 

≪メロン!≫

 

メロンロックシードを開錠すると共に音声が鳴り、頭上のクラックから展開前のメロンアームズが出現。支配人はメロンロックシードを真上へと思いきり投擲し、そして落ちてきたメロンロックシードを素早くキャッチしてから戦極ドライバーに装填する。

 

≪ロック・オン!≫

 

(貴虎……お前の力、借りさせて貰うぜ…!)

 

≪ソイヤッ!≫

 

カッティングブレードが倒され、メロンアームズが降下して支配人の頭に覆い被さり、彼の全身が白い和風のライドウェアに包まれる。

 

≪メロンアームズ! 天下・御免!≫

 

メロンアームズが展開して胸部、背中、両肩の鎧に変化。最後に出現した盾―――メロンディフェンダーを左手に構え、白きアーマードライダー―――斬月(ざんげつ)への変身を完了する。

 

「な、何だありゃ!?」

 

「あれは…!」

 

ティーダと琥珀が驚いているのを他所に、斬月の周囲をリザードマン達が取り囲む。

 

「「「「「ギシャァァァァァァ…!!」」」」」

 

「あまりこの街ではしゃいで貰っちゃ困るぜ、トカゲ共…!」

 

斬月は腰に装備されていた銃剣―――無双セイバーを抜き、静かに構えてみせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部、最上部…

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、一体…」

 

ルカは一人、このモンスターに占拠された地上本部に潜入していた。現在彼はモンスターの監視を掻い潜りながら内部を捜索しており、このミッドチルダに関連する情報を入手しようとしているのである。

 

(さっきからモンスターばかりで、管理局の連中は誰一人見当たらない。おまけにそこら中にある監視カメラは見た感じ、機能しているようには見えない……やっぱり、局員は全員殺されているのか…?)

 

「グルルルル…」

 

「! おっと」

 

「グギャッ!?」

 

通路の曲がり角から現れたワーウルフの首を素早くへし折ってから、ルカは更に通路の先へと進んでいく。そしてとある部屋の前に到着し、扉のパスワードを解析しようとする。

 

(何か、手がかりになるような情報は…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残念だが、そこから先は通行止めだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

ルカが一歩下がると同時に、彼の立っていた床を何発もの斬撃が抉り取る。斬撃が飛んできた方向に振り向くと、そこには半魚人のような姿をした怪物―――サハギンが姿を現していた。

 

「半魚人……マーマンか、それともサハギンか…!?」

 

『人間よ、一体どのようにしてここに侵入した? 素直に話せば、手荒な方法を取らないで済むのだが』

 

「悪いけど、教えるつもりは無いな!!」

 

『そうか……では仕方ない』

 

素早く取り出した二丁拳銃で、ルカはサハギンに向かって射撃を開始。サハギンは手に持ったトライデントを構えて飛んで来た弾丸を次々と弾き落とし、一瞬でルカの前まで接近してみせる。

 

「(こいつ、早い!?)チィッ!!」

 

『ふむ、なかなかに素早い身のこなしだ。実に美しい!』

 

「はぁ?」

 

『私は美しい物が好きでね。君のような洗練された戦いは、この私を満足させてくれる!』

 

「気味の悪い事を言いますね…っと!!」

 

サハギンの振るったトライデントの上に乗り、そこから跳躍して一気にサハギンと距離を離そうとするルカ。しかし…

 

 

 

 

 

 

『残念だったわね、坊や』

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

それは、自身を罠に陥れる行為だった。

 

「な、これは…!?」

 

宙に舞った状態のルカを紫色の魔法陣が拘束し、ルカの身体は空中に留まってしまった。そこへ更に紫色のガスが充満し、ルカの全身を包み込んでいく。

 

(催眠ガス!? く、マズい―――)

 

ガスの正体が催眠ガスである事に気付いたルカだったが、時既に遅し。催眠ガスを少量でも吸ってしまったルカはそのまま眠りについてしまい、魔法陣が消えると共に床に倒れてしまった。

 

『レムレス、私の邪魔はしないで貰おうか!』

 

『何を言っているのかしら、シーハッグ。我等が主人は侵入者の捕縛を望んでいるのよ? こうした方が手っ取り早いわ』

 

『む、しかしだね…』

 

『とにかく、侵入者はこれで捕まえる事に成功したわ。この男には、無断で我々の城に侵入した事を後悔させてあげなきゃいけないわね…』

 

サハギン―――シーハッグが言葉に詰まる中、ルカを眠らせた呪術師(ネクロマンサー)―――レムレスはルカを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場所は街に戻り…

 

 

 

 

 

 

 

「! ありゃま」

 

「ん? どしたのガルム……んお?」

 

共に行動していたガルムとFalSigの二人は、建物の屋上にて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…これはまた、珍しい客人だな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのデュラハンと、遭遇してしまっていたのだった。

 


 
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