No.73482

真・恋姫無双 蒼天の御遣い5

0157さん

お待たせして大変申し訳ございませんでした。

最近、新しいゲームを買ってしまい、その所為で書くのが遅れました。

前回投稿した三国会談は反応が思ったより上々でしたので続きを書くことにします。楽しみにしてください。

続きを表示

2009-05-13 20:29:29 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:43570   閲覧ユーザー数:30160

「集まってもらったのは、他でもないわ」

 

軍議の始まりは詠のそんな言葉からだった。

 

「最近、賊が増えてきているのよ。」

 

「賊が?」

 

一刀が詠に尋ねる。

 

「ええ、そうよ。まぁ、こんな世の中だから無理もないとは思うけど。」

 

詠は仕方ないとばかりにため息を吐いた。

 

「そうなのか?町を見る限りはそんなに世が乱れているようには感じなかったけど?」

 

一刀が不思議そうに言う。一刀は何度か町を見に行ったことがあるが、町の人々は皆、穏やかそうに過ごしていた。

 

「そりゃあ、ここは月が治めているさかい。町の皆もここが安全だって分かっておるんやろうしな。」

 

「月殿は民たちに負担をかけないように頑張っておられますからなぁ。」

 

一刀の疑問に霞とねねが答えてくれた。

 

「そっか、月ってえらいんだな。」

 

一刀の賞賛に月は顔を赤くしてしまう。

 

「そ、そんなことありません。全部詠ちゃんや霞さん達のおかげです。」

 

「そんな謙遜することないよ。臣下の功は主の功でもあるんだ。月はもっと胸を張っていいんだよ。」

 

そう言って一刀は月の頭を撫でる。

 

「へぅぅ」

 

月はさらに顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

「こらそこ!月を誘惑しない!」

 

すぐさま、詠の叱責が飛んできた。

 

「そう怒るなって。後で、詠も撫でてあげるから。」

 

すると、今度は詠が赤くなってしまった。

 

「ば、ば、ばっかじゃないの!?誰もそんなこと頼んでないわよ!」

 

「あれ~?なんや賈駆っち、顔が赤うなっとるで?」

 

それを見た霞がニヤニヤ笑いながら詠をからかい始めた。

 

「あ、赤くなんてなってないわよ!」

 

詠も自覚しているのだろう。あわてて言った否定の言葉には何の説得力もなかった。

 

「・・・まぁ、冗談はこのぐらいとしてだ。」

 

「あ・ん・た・ねぇ~!!」

 

詠が鋭い眼光で一刀を睨んだ。

 

「そう睨むなって。それで詠、賊が増えたってどういうことなんだ?」

 

「・・・・・・そのままの意味よ。ここから少し離れた邑が盗賊に襲われていてね、さっき救援要請が来たのよ。」

 

「はぁ!?ちょっと待ちや!さっきうちらが討伐しに行ったばっかりやで!?それにここら近辺には賊なんておらんはずやろ!?」

 

霞が訳が分からないといった風に詠に確認をとる。

 

「本当はいたのよ。あいつら、大きな町とかは狙わないで小さな邑ばっかりを襲ってたから今まで見つからなかったのよ。」

 

「それでも被害届けとかは出すんだろ?どうして今まで気づかなかったんだ?」

 

一刀が詠にそのことを尋ねると、詠が苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てるように言い放った。

 

「・・・・・・連中、襲った邑から人質をとっているのよ。それも女、子供ばっかり。もし私達に知らせたりしたら人質を殺すって村人たちを脅しているらしいわ。」

 

「なんやと・・・!」

 

「・・・・・・・・・っ!」

 

霞と恋から猛烈な怒気が湧き上がった。彼女たちにとって、その行為はあまりに許されないことだからだ。

 

だが、それ以上に怒り狂っている人がここにいた。

 

「・・・下衆共が」

 

その場にいた全員が一斉に一刀を見た。普段の彼からは想像もつかない平坦で、それでいてあまりに凄まじい殺気が混じっていたからだ。

 

一刀も皆に見られて気づいたのだろう、途端にあたりが静かになり始めた。

 

「・・・・・・すまない。・・・それで詠、盗賊共をこのまま野放しにはしておけないだろ?」

 

「え!?・・・ええ、そのとおりよ。だからすぐに誰か討伐に向かってもらうわ。」

 

一刀に尋ねられた詠は一瞬驚いたが、それでも、何とか平静に返した。

 

「そうか・・・・・・悪い、少し頭に血が上っているようだ。頭を冷やしてくるから何か決まったことがあったら伝えてくれ。」

 

そう行って一刀は評議の間から出て行ってしまった。

 

それからしばらくして、全員が一斉に息を吐いた。まるで溜まっていた何かを吐き出すかのように。

 

「全く・・・本当に何者なのよ?あいつ。」

 

「一刀・・・・・・怒ってた。」

 

「恋殿~。怖かったのです~。」

 

「ほんまや・・・・・・うちも背すじが一瞬凍ったで。」

 

「一刀さん・・・・・・あの時より怖かったです・・・」

 

全員が口々にさっきの一刀のことを話し始めた。全員、一刀のあの姿はあまりに衝撃的だったようだ。

 

「月はあないな一刀を見たことあるんか?」

 

「はい・・・虎さんから助けていただいた時に。・・・ですけど、あの時とは比べ物にならないくらい怖かったです。」

 

月がおずおずと話した。正直、月はあの時は自分の見間違いだったのではないかと思っていたのだ。それほどまでに普段の一刀からかけ離れていたのだから。

 

「なるほどなぁ・・・・・・只者やないとは思うとったが、まさかこれ程とは・・・」

 

「それ程の者なの?」

 

詠が霞に尋ねる。軍師である自分にはそういう見極めは出来ないからだ。

 

「詳しいことは実際に戦ってみん事には分からんやろうけど・・・、うちの見立てでは恋と タメ張れるくらい強いと思うで。」

 

「な、なんと!?それは真でありますか恋殿!?」

 

「(コクリ)・・・一刀・・・・・・強い。」

 

霞を除く全員が驚愕した。自分より弱い者を全て「弱い」の一言で片付ける恋にそう言わしめたのだから、その実力は想像に難くない。

 

「・・・そう、恋がそう言うなら、その実力は本物なのでしょうね。」

 

詠はそう言って、しばらく黙考する。

 

「・・・決めたわ。今回の討伐には一刀にも来てもらうことにする。」

 

詠の言葉に一同は騒然とする。

 

「ほんまかいな、詠?」

 

「ええ、本当よ。もちろん軍の指揮は霞たちにしてもらうわ。」

 

「そりゃあ、かまわへんけど・・・ええんか?詠はそういう目的のためにあいつをここに連れて来たんちゃうやろ。」

 

「・・・いいのよ。あいつには今のうちにこっちの世界のことを知ってもらわないといけないんだから。」

 

「・・・・・・?どういうこと、詠ちゃん?」

 

月だけでなく他の者たちもよくわからなかったようだ。

 

「これは、一刀から聞いた話なんだけど、天の世界、それも一刀のいた国は戦のない平和な国なんだそうよ。」

 

詠が話しはじめた天の国の話に全員が興味を引かれる。

 

「もちろん、犯罪とかはあるけどそれでも山賊や盗賊の類はまずいないそうよ。」

 

「へぇ~、けどそれがどう関係するんや?」

 

「つまり、一刀はあれだけの強さを持ちながら戦に出たことがないのよ。この世界で生きていく以上、この世界の現実を知っておかないといけないわ。」

 

そう、北郷一刀という人物はあれほどの武を持ちなおかつ頭も回るというのに、時折すごく危機感のない言動をする。それはおそらく北郷一刀のいた世界ではそれほどまでに平和で人と人が争うなんてことが考えられないことなんだろう。

 

これから共に戦うにしろ、そうでないにしても、それを知っているのと知らないのでは大きな違いがあるだろう。それなら早い段階で知っておいたほうがいい。

 

「月、いいわよね?」

 

詠は月に確認する。以前、一刀に指摘されたように詠がいくら策を考え付こうが月がそれを了承しない限りそれは実行してはならないのだから。

 

「詠ちゃん・・・」

 

月はそれきり黙りこんでしまった。確かに詠の言ったとおり、この世界を知っておくことは一刀のためになることだ。しかし、そのためにはあの心優しい青年を戦場に送り出すこと他ならない。

 

「安心して月。一刀には後方に下がらせて安全な場所にいさせるから。」

 

月が葛藤してると、それを見越した詠がそう言った。

 

「・・・本当に一刀さんは安全なのね?」

 

「もちろんよ月。大丈夫よ恋や霞、それにボクも行くから。」

 

「・・・・・・わかったわ。詠ちゃん、一刀さんのことお願いね。」

 

詠はさも当然のように言い切ったが、実を言うと戦場に絶対安全な場所なんてあるはずがない。だが、そこは言うべきではないだろう。

 

実は詠は一刀に期待しているのだ。たぐいまれなる知と武勇を持ち、それにおごることなく他人を思いやることができ、そして先ほどのように悪逆非道を許せない高潔な心も持っている。

 

まさしく人々が思い描く英雄そのものだ。占いを信じない詠でさえ、『あの占いは本当のことだったのね』と信じそうなぐらいなのだから。

 

月に嘘をつくのは心苦しいが、相手はただの賊だ。それに恋や霞にもきてもらうのだ。絶対とまでは言わないが前線に出なければ安全は保障されたも同然だろう。

 

正直、ただの賊退治には大げさなくらいだが、今回の賊のやり口はあまりにも卑劣だ。見せしめの意味合いも含めてこれぐらいはやっておかねばなるまい。

 

そんなことを考えているとねねが抗議の声を上げた。

 

「待つのです詠!恋殿を連れてねねだけお留守番ですか!?」

 

「仕方ないでしょ。城を空けておくわけにもいかないんだから。」

 

「それならねねが行くから、詠が残ればいいのです!」

 

ねねがさも名案とばかりに言うがそうは問屋がおろさない。

 

「駄目よ。ねねが討伐に言っている間の政務がまだたくさん残っているわ。ただでさえねねは恋の分もやらなければいけないのだからこれ以上滞るのは許さないわよ。」

 

「そ、そんな・・・・・・れ、恋殿も何か言ってくださいです!」

 

ねねは恋に助けを求めた。だが、恋はねねをじーっと見つめた後、

 

「・・・ねね・・・・・・・・・・・・がんばって。」

 

非情な宣告を下した。

 

この後、本日二度目の少女の悲痛な叫びが城に響き渡ったのは言うまでもないだろう。

 

 

一刀は先ほど本を読んでいた木の下で気を落ち着かせていた。

 

「はぁ・・・・・・またやっちまったな・・・」

 

出るのは後悔のため息。昔からの性分とはいえ感情が高ぶると所構わず出てしまうこの口癖はどうしようもない。

 

一刀はどうして、こんな時代がかった話し方をするようになってしまったのか考える。

 

確かはじめは、一刀の祖父であり剣術の師でもある北郷宗一郎がつかっていたのだ。

 

宗一郎は普段は好好爺だが、ひとたび胴着を着て道場に入ると今までとは打って変わって厳しくなり時代がかった口調で容赦のない稽古をし始める。

 

一刀はそんな祖父が好きだった。だから自然に祖父を真似して、稽古の時は自分も同じ口調で話すようになった。

 

さすがに今では多少は改善されたが、激しい怒りに駆られたりするとつい自然にでてしまうのだ。

 

一刀は祖父の言葉を思い出す。

 

『一刀、おぬしは類まれなる武の才能を持っておる。もし、戦国乱世に生まれておれば歴史に名を残すほどの名将になれたであろうな。』

 

『はい、ありがとうございます。』

 

『じゃがな一刀、気をつけるのだぞ。』

 

『?』

 

『その力は使いどころを誤れば自分どころか周りの者まで傷つけてしまう修羅の剣になる。そうなってしまったら待っているのはもはや身の破滅だろう。」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

『はっはっはっ!何をそんなに怯えておる。さっき言ったであろう?『使いどころを誤れば』と。安心しろ、おぬしほど心優しい者が修羅道に落ちるわけなかろうよ。』

 

その時の祖父の笑顔を思い浮かべて一刀は幾分気が楽になった。一刀は軍議に戻ることにした。やはり、途中で抜け出したのはまずいだろう。

 

一刀が評議の間に再び足を向けると背後から自分を呼び止める声が聞こえた。

 

「待て!そこの者!」

 

一刀が振り返るとそこにはショートカットの髪に、手には長大な戦斧を持つ女性が立っていた。

 

「何か用?」

 

一刀が尋ねるとその女性は訝しげな目を向けて一刀を見る。

 

「貴様見かけない顔だな?何者だ?」

 

その女性は一見ただ尋ねているだけに見えるが言外に、『くせ者だったら叩っ切ってくれる!』という気配を漂わせていた。

 

一刀は切りかかられてはたまらないと思ったので正直に答えることにした。

 

「俺の名前は北郷一刀だ。最近この城に世話になっているただの食客だよ。」

 

女性はそれで納得したのかさっきまでの剣呑な気配が消えていった。

 

「なるほど、貴様が『天の御遣い』と呼ばれている男か。」

 

「『天の御遣い』じゃなくて北郷一刀だってば。そういう君は?」

 

「我が名は華雄。董卓軍にその人ありと言われる者だ。」

 

「へぇ・・・君が。」

 

一刀は思わずつぶやいた。恋や霞のときもそうだが、街を歩いていたら偶然有名人に出会ってしまったような、そんな感慨を受ける。

 

華雄も一刀の反応を見て満足したのか機嫌が良くなったようだ。

 

「ふむ・・・お前はなかなか見る目がありそうだな、近頃の奴らは董卓軍と聞くとやれ呂布やら張遼だとか言うからな、まったく。」

 

華雄は憤然としながら荒いため息を吐いた。

 

「でも、実際呂布は強いんだろ?」

 

一刀はあえて真名で呼ぶのを避けた。真名を呼んで怒られるのは月や恋の件でもうこりごりだ。

 

「・・・まぁ、確かに呂布は強い。それは認めよう。だが!それでも董卓軍随一の将はこの私だ!それなのにあいつらときたら・・・・・・!」

 

一刀はなんとなく危機感を感じた。このまま延々と愚痴を聞かされ続けるのではないかと思ったからだ。

 

「あー・・・・・・それじゃあ、俺はもう行くわ。」

 

そう言って背を向けた一刀の肩を華雄はガシッとつかんだ。

 

「まぁ、待て。せっかくだからこの私と仕合え。」

 

「・・・・・・・・・えーっと・・・・・・なんで?」

 

あまりに唐突過ぎる申し出に一刀は困惑する。

 

すると華雄は『何を言ってるんだこいつは?』という顔をした。

 

「決まっておろう。お前のその身のこなし見ていれば、お前が強者だということがわかる。強者と強者が出会ったのなら仕合うのが当たり前だろう?」

 

そう言って華雄は一刀から距離をとりその長大な戦斧を構えた。どうやら彼女の中では一刀は仕合うことを了承しているらしい。

 

仕方なく一刀は背中に下げていた布袋から細い白木の棒を取り出す。

 

「なんだ?そんな棒切れが貴様の獲物なのか?」

 

華雄がいささか拍子抜けしたように言った。

 

「そうだよ。・・・・・・念のために言っておくけど決して馬鹿にしているわけじゃないからね。これが俺の唯一の武器だから。」

 

華雄は一刀の言葉が嘘ではないと感じたのか不敵な笑みをうかべた。

 

「ふん、まぁいい。どんな武器を使おうとも勝つのは私だからな。」

 

「すごい自信だね。」

 

「当たり前だ。私は強いのだから。」

 

「だけど、少しはわきまえた方がいいかもね。でないといずれ、その自信は慢心に変わる。」

 

「うるさい!そういうことはこの私を倒してから言え!」

 

「そうだね、じゃあその自信・・・・・・」

 

そこまで言って一刀は目を閉じる。そして目を開けるとそこにいるのは・・・・・・

 

「・・・俺が砕いてやろう。」

 

一人の武人だった。

 

 

詠は一刀を探していた。

 

「まったく・・・どこに行ったのよあの馬鹿。」

 

あの後、賊討伐について細々としたことが決まり今はその準備をしている所だ。

 

もちろん、詠だって暇ではない。彼女はその討伐軍を率いる総大将なのだからやるべきことが山積みだ。

 

だが、その前に直接確認しなければいけないことがある。一刀について来てもらうかどうかだ。

 

軍議では月からの許可が出たが当の本人に聞かなければ意味がない。一刀は月の家臣ではないのだから。

 

詠がそうやって探し回っていると、一刀がこっちにやってくるのが見えた。

 

「・・・詠がここにいるってことは軍議は終わったのか?」

 

「そうよ。まったく、軍議を途中で抜け出すなんて信じられないわ。余計な手間をかけさせないでよ。」

 

「ああ、それはすまなかった。それよりちょうど良かった詠、誰か呼んできてもらえないか。」

 

「どうしたのよ?」

 

「あっちの広場で華雄が倒れているんだ。」

 

一刀があっさり言ったその言葉に詠は驚く。

 

「はぁ!?いったいどういうことよ!?」

 

「えーっと、話すと長くなるんだが・・・」

 

「短く話しなさい。」

 

詠が即座に切って捨てる。

 

「華雄に会って、仕合した。」

 

一刀は言われたとおり短くまとめた。そして、詠はそれで理解したようだ。

 

「まったく、あいつときたら・・・・・・それにしてもあんたって本当に強いのね。」

 

「そうかな?」

 

「そうよ。華雄は頭はあれだけど、霞と渡り合えるほどの武を持っているんだから。」

 

そうなのだ。華雄は恋や霞と比べると低く見られがちだが武に関しては恋に次いでこの董卓軍を支えている柱石ともいえる存在である。その華雄を相手にして息のひとつも切らせずに倒してしまうなど恋ぐらいしか出来ないと思っていたのだから。

 

「まぁ、そんなことより華雄をあそこに寝かせっぱなしなのもどうかと思うからさ、彼女の部屋まで運ぼうと思うんだけど。」

 

「そんなことって・・・・・・まぁ、いいわ。彼女は後で部屋まで運ばせるわ。それよりも、あなたに話があるのよ。」

 

「俺に?」

 

「ええ、今回の賊討伐にはあなたにもついてきてもらうわよ。」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

詠がそう言うと一刀は押し黙ってしまった。

 

「もちろん、これは命令ではないわ。あなたはただの食客だし拒否権もある。だから、わざわざ危険な戦場に出たくないのなら正直に言って。それであなたを放り出したりはしないわ。」

 

これは本当だ。これは元々自分の思いつきなんだから、そのせいで本当は無関係なこの青年を無理やり危険な目にあわせたくない。それは詠が少なからず思っていることだ。

 

「いや、行くよ。」

 

即答だった。思っても見なかった反応に詠は目を瞬かせる。

 

「何驚いてるんだ?詠が言い出したことだろ?」

 

「いいの?さっきも言ったけど、戦場は危険なの。あなたの命の保障はしてあげられないわよ?」

 

「平気だよ。自分の身は自分で守れる。・・・・・・それに思うんだ。」

 

「・・・・・・?」

 

「どうして、俺はこの世界に来てしまったのか・・・恐らくだけど、俺には何らかの役割があると思うんだ。それが何なのかはまだ分からないけど、それを知るにはここで安穏と暮らしているわけにはいかないと思うんだ。」

 

そう言って空を見上げた一刀の顔には何か力強い意志が秘めており詠は思わず見惚れてしまった。

 

「それに、せっかく詠がくれた機会だからな。ありがとな、詠。」

 

そう言って一刀は詠に笑いかける。

 

「っ!?」

 

詠は顔の温度が上がっていくのを感じた。無論それを一刀に悟られないようにうつむく。

 

一刀はそれを意に介さず詠の頭を撫で始めた。

 

詠は一瞬体を震わせるが、文句も言わず黙って受け入れた。

 

詠は頭の気持ちいいツボを的確に突いてくる(詠にはそう感じた)一刀の手に思わず身をゆだねそうになるが、

 

「お~~~い、賈駆っちどこや~~~?」

 

「・・・・・・・・・はっ!?」

 

自分を呼ぶ声に正気を取り戻し、そして、今の状況を再認識する。すると、あふれんばかりに羞恥の感情がわき上がってきて、

 

「~~~~~~っ!!」

 

衝動のままに拳を突き出した。

 

ドゴッ!!

 

「ぐはっ!?」

 

狙いは人体の急所のひとつ、みぞおちにきれいに決まった。

 

流石の一刀も完璧な不意打ちを食らってしまい、うずくまってしまった。

 

「おー、いたいた・・・って何かあったん?」

 

霞がやって来て、目の前の状況について尋ねた。

 

「何でもないわ!それで霞!いったい何のようなの!?」

 

明らかに何かあったようなのだが、詠の有無言わせない気迫に霞はそれ以上突っ込めなかった。

 

「何って・・・・・・出陣の準備が出来たからそれを伝えにきたんやないか。」

 

「そ、そうだったわね。わかった、すぐ行くわ。・・・・・・あんたもさっさと準備して城門の前に来なさいよ!」

 

詠は早口にそう言うと、早足に去っていった。

 

「ほな、うちも行くけど・・・・・・ほんまに大丈夫か?」

 

一刀は首を縦に振ることしか出来なかった。

 

霞は心配そうに一刀を見るが、自分にもまだやることがある。霞は時折振り返りながらそのまま去っていった。

 

霞が去ってからしばらくして、一刀は何とか立ち上がることが出来た。

 

「っつ~~~・・・・・・詠の奴、なかなかいいモノを持ってるじゃないか・・・・・・」

 

一刀は弱々しく一人ごちる。詠といい、ねねといい、この世界の軍師はみんな武闘派なのか?

 

もしかしたら、ああ見えて月も・・・・・・・・・。思わずそんなありえないことまで考えてしまった。

 

「・・・・・・行くか。」

 

ある程度回復した一刀は準備を済ませるべく、部屋に向かった。小規模とはいえこれから体験するのは命の奪い合いだ。その心構えもしなければいけないだろう。

 

一刀はその場を後にした。――――――ちなみに、一刀も詠も広場で倒れている華雄のことはすっかり忘れていたりする。

 

 


 
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