No.732614

紫閃の軌跡

kelvinさん

第21話 身の回りの変化(第二章 麗しき翡翠の公都)

2014-10-26 00:30:38 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3885   閲覧ユーザー数:3539

ケルディックでの『誘拐未遂事件』―――この事態を受けて、リベール王国はエレボニア大使のダヴィル・クライナッハに厳重に抗議……大使は表情を青褪め、すぐさま本国に対して取次ぎを行った。それだけでなく、ヘイムダルにあるリベール大使館の駐エレボニア大使が帝国政府に対し、本国からの今回の事態に関しての抗議、そして当事者の保護者たるセンティラール州のシュバルツァー侯爵家とレグラム自治州のアルゼイド侯爵家が皇帝陛下への陳情を行うという事態に発展。

 

大事な子を攫われかけるというこの一大事……リベールの国家元首であるアリシア・フォン・アウスレーゼⅡ世は数年前の“教団事件”のことも鑑み、異例の声明を発表。

 

『此度に関しては、私も流石に看過できるものではありません。大切な我が子を理不尽な理由で攫われ、拘束される……このようなことは許される所業ではありません。我が国といたしましては、エレボニア帝国に対して毅然とした対応を求めます。』

 

“三大国”同士の外交問題……この事態を受け、リベール王国から国家元首のアリシア・フォン・アウスレーゼⅡ世女王陛下、王国軍中将カシウス・ブライト、自治州代表ヴィクター・S・アルゼイド侯爵、彼の妻であるアリシア・A・アルゼイドの四名が。エレボニア帝国側は国家元首のユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世皇帝陛下、帝国政府代表ギリアス・オズボーン宰相、テオ・シュバルツァー侯爵にヘルムート・アルバレア公爵らが話し合った結果……

 

・シュバルツァー家の格上げ(侯爵→公爵)

・ケルディック以西(ルナリア自然公園を含む)の地域の管轄をシュバルツァー家が担う

・今回の事件に関わった領邦軍に対しては厳罰処分(最低でも十年以上の懲役刑)とする

 

リベール側としては毅然とした対応―――再発防止策の具体的提示と謝罪さえすれば、それ以上のことはあえて望まないスタンスであったが……ユーゲント皇帝は内密にアリシア女王への会談を行い、とあることが協議された。

 

今回の当事者は双方共に皇帝陛下に縁のある名家ということで、皇帝陛下自らテオ・シュバルツァー侯爵やヴィクター・S・アルゼイド侯爵との個別会談を行い、謝罪の言葉を述べた。それだけでなく、皇帝は皇家で保管されていたアルゼイド家所縁の代物を今回の詫びという形でヴィクターに贈呈した。

 

一方、テオの爵位と領地加増に関しては相手方のアルバレア公爵が猛烈に反対したが…クロイツェン州の領民に対する嫌がらせ…そして、皇帝陛下にとって身内とも言える人間を攫おうとしたことは皇帝の怒りを買う形となり、これ以上の反論は公爵家にとっても不利になると判断し、已む無くその命に従う他なかったのだ。それと、シュバルツァー家は皇族に縁のある名家ということで爵位が公爵に上がるということには<五大名門>の四家は難色を示したものの、アルノール家と血縁で連なる関係である以上公爵の位を受けるに値しうることをユーゲント皇帝陛下自らが説明したので、渋々ながらも納得せざるを得なくなった。これによる副産物として、<五大名門>の権力バランスにも変化が生じ……カイエン公爵家の相対的立場が向上していた。それに次ぐ形でシュバルツァー家も目立つ存在となり、自ずとリィンもその立場から目立つこととなるのであった。

 

ケルディックに対しての売上税云々の問題については、領地の運営が売上税の増税をしていないシュバルツァー家が担うこととなったことで自然消滅し、それによって起きていた諍いも自然と少なくなっていたのである。センティラール領邦軍は駐在している鉄道憲兵隊と折り合いをつけてやっていくことで道筋をつけた。一介の男爵家から今や<五大名門>の中核に近い部分を担うことにテオはため息をつきつつも今までのスタンスを貫きつつ領地運営をこなしていった。

 

 

初めての特別実習も終わり……リィン達は再び学院生活に戻っていた。Ⅶ組の特別カリキュラムに加えて、高等教育の一般教養、更には士官学校ならではの特別授業―――所謂『軍事学』だ。担当しているのは現役軍人であるナイトハルト教官。第四機甲師団の精鋭将校と噂され、第七機甲師団に所属するミュラー・ヴァンダール少佐とは同期の間柄に当たる。

 

「導力革命は戦場に様々な革命を齎した。導力銃や導力砲に代表される『導力兵器』、それに伴う『軍の機甲化』、立体的な戦術・戦略を生み出した『飛行船』の存在……そして、もう一つあるが……そうだな、ここはフォストレイトに答えてもらうか。」

「―――『導力通信』。距離に関係なく戦況を素早く把握し、効果的な戦略・戦術を生み出す上で必須の『情報』を得るための手段の発明です。」

「正解だ。流石は導力先進国で鍛えられているだけはあるようだな。」

 

さて、ここでクラスの席順について述べると……

一番前の廊下側からエリオット、マキアス、エマ、フィー、ステラ

その後ろはユーシス、ガイウス、リィン、アリサ、ラウラ

で、アリサの後ろにアスベル、ラウラの後ろにルドガーが座る形である。まぁ、“原作”に少し足した程度だ。

 

軍事学の授業も終わり……5時限目は男女別授業―――男子は導力端末入門、女子は栄養学・調理技術の調理実習である。とはいえ、人数も少ないのでⅠ組とⅦ組の合同授業であるが。

 

女子の調理実習―――内緒話をしているのを横目に、アリサは愚痴を零した。

 

「はぁ~……感じが悪いったらないわね。」

「大方予想はつくが……我らの事が気になって仕方がないのだろう。」

「う~ん……これでいいかな?」

「フィーちゃん、十分ですよ。」

「そうですね。」

 

傍から見れば『寄せ集め』とも言われるが……成績的には優秀な生徒揃いのⅦ組。とはいえ、プライド的な所からか納得がいかないのだろう。貴族と平民が仲良くするだなんて云々かんぬん……ということもあるのだろうが。

 

一方、男子の導力端末入門……アスベルとルドガーにしてみれば、転生前のコンピューターの知識がある程度役に立つようで、すんなり呑み込めていた。マキアスとユーシスはそれぞれ端末に集中していた……当の担当教官であるマカロフ教官は窓際でタバコを吸っていた。いや、学生の前で吸っていいのか?という率直な疑問はあるのだが、それを指摘して何か言われるのは面倒なので敢えて言わないが。アスベルの端末のところにルドガーがその様子を見ていた。

 

「“知識”が生かせるというのは、かなりの強みだな。」

「だな。そのお蔭で“ピエロ”のハッキングも阻止できるようになった……レンには面白くない顔をされたが。」

「ま、お株を奪われたらそうなるわな……そういえば、先月の実習……爆発したんだって?」

「その言い方だと物理的に爆発したように聞こえるんだが……アイツら、殴り合いの寸前までいきやがったからな。気絶させて止めた。」

「賢明な判断だな。ま、約束通り詫びの品は作るよ。」

「感謝する……」

 

どうやら、当たってほしくなかった方向に当たったようで、いろいろ複雑という他なかった。すると、後ろの座席から聞こえる声―――ふと、そちらの方を見るとⅠ組のパトリック・T・ハイアームズがリィン等の居る所に行って話をしているようだ。

 

「そういえば、シュバルツァー家は“公爵”になったわけだが……<五大名門>でも筆頭に近いってことか。そうなると、ハイアームズ家は格下ってことになるな。」

「正確には“次席”あたりかな。あの後でカイエン公爵家が色々目立ったわけだし……」

「お前、時々黒いよな。」

「(家族に手を出されて“教授”ボコッたって言う)お前が言うな。」

 

すると、ユーシスがリィン等の元に行き、パトリックの勧誘を阻止したようだ。本人はそんなことないと言いそうだが……すると、そのユーシスがアスベルらの元に来た。

 

「アスベル。先日は実家絡みで世話になったな。」

「気にするな。というか、こっちが口出ししたせいでそっちの実家が色々大変なことになってるし……この場合はお互い様ということだ。」

「フッ……おかしな奴だな。まあいい、言いたいことはそれだけだ。」

 

そう言ってユーシスは自分の席に戻った。

 

(ツンデレ?)

(いや、誰得だよ。俺らの元の世界のように需要なんてあるのか?)

(女学院だとそういうの流行ってるらしいし。)

(誰からの情報だ?)

(レン。本人は現物を実際に見て、顔を赤らめてすぐに閉じたそうだけれど。)

 

凄くツッコミを入れたいのだが……男の世界と女の世界って、結局は行きつくところまで行きついてしまえば同じような気がしてきたのは言うまでもないような気がする。いや、自分なりの結論なので、これが正解なのかは解らない……そう考えることにしたアスベルとルドガーの二人であった。

 

そして、その晩……アスベルはルドガーにお詫びでどら焼きを作ったのだが、

 

「18個あるんだが……9個でいいと言ったのに。」

「倍プッシュだ。」

「それ言いたかっただけだろ。」

「否定はしない。」

 

結局、食べきれないということで他の面々にも配ったのであった。このことがⅦ組の女子のプライドを折った事には、当のアスベル本人は気付いていなかったという。

 

 

戦争ではなく未遂というレベルなのでこの処罰に落ち着きましたが……これが領土侵攻だったら、賠償金取るレベルです。積極的侵攻を是としていない以上、出来る限り穏便に……帝国内部ともなればそうはいきません。しかも、皇族縁……下手すれば不敬罪に抵触することです。

 

後は色々フラグ仕込み。

 


 
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