No.731811

紫閃の軌跡

kelvinさん

第16話 各々の理由

2014-10-22 06:52:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3527   閲覧ユーザー数:3185

少し早い夕食は地元の食材をふんだんに使ったディナー……それを頂いた後は、食後の一時と相成った。

 

「はぁ~、美味しかった。」

「そうですね。ヘイムダルでも美味しい料理はありますが、ここでの料理はそれとは違った美味しさがあります。」

「そうね。こういうのがあるなら、特別実習も悪くないかもしれないわね。ラウラはどうだった?」

「そうだな…レグラムでも美味しい料理はあるが、この地ならではという料理は趣があるし、申し分ないと思うぞ。ライ麦を使ったパンも中々の美味だった。」

「その意見には同意するが……どうかしたのか、リィン?」

 

それぞれ先程の夕食についての感想を述べていた。すると、リィンが少し考え込んでいる様子が見られたので尋ねてみた。

 

「いや……向こうの班は今頃どうしてるのかな、と思ってさ。」

「あ~…流石に俺らのように全員で食卓を囲んでるとは到底思えないからな。」

「そうだねぇ……」

 

その光景が容易に予測できるあたり、トラブルが起こりうることを前提に組んだ結果であろう。とはいえ、ルドガーという強力なストッパーですらも対処できないトラブルが起きたと考えるのが筋か、あるいはルドガー自身が爆発したかの二択。両方という可能性もあるので三択程度に収まる。

 

「……本当、僕達―――<Ⅶ組>って何で集められたんだろう?ARCUSの適性だけってわけじゃなさそうだし。」

「うむ。それだけならば今日のような実習内容にはならないだろうし。」

「この実習を通して帝国に関わることを学ばせたいように感じましたが……」

 

訳ありの特科クラス……生まれや身分、さらには戦闘経験にも大きな開きがある12名のメンバー。ここにいる六人の中でもその核心に近い位置にいるアスベルですら、その当事者から詳しい話は伏せられている。無論、違いはそれだけではなく、

 

「それに、この学院を志望した理由も違うだろうしな。」

「志望理由……ですか。」

「そうだよね。」

 

この学院を志望した理由……思いはそれぞれであった。

 

「その点、私の場合は単純だな。目標としている人がいる……その目標に向かってまい進するためにこの学院を選んだ。父と母がトールズの卒業生という縁があったのも大きいかな。」

「へぇ~……そっか、レグラムも昔は帝国領だったね。」

「まぁ、目標としている人に関しては伏せさせてもらおう。アリサの方はどうだ?」

 

ラウラは、自らが目標と定めている人物に追いつくために。

 

「私の場合は……いろいろあるけれど、自立したかったからかな。実家との仲が悪いってわけじゃないけれど、身近に自立している人がいるから……それに憧れたのかもしれない。」

 

アリサは、自分の足でしっかりと歩けるように。

 

「う~ん、その点で言うと僕はそれほどの理由じゃないかな。元々は違う進路を希望してたんだよね。」

「そうなのですか?」

「確か、音楽系の進路だったよな?」

「あはは、そこまで本気じゃなかったけれどね。」

 

エリオットは、進路の関係でやむなく。

 

「私もエリオットと似たようなものでして、最初は聖アストライア女学院への入学を希望していたのですよ。」

「聖アストライア女学院というと……」

「貴族生徒のみが入学を許されている学校ね……って、ステラって貴族なの!?」

「(あ……)え、ええ、そうなりますね。」

 

ステラはサラッというが、アリサの指摘に慌てて取り繕った。これを見たアスベルは事情を察しつつ、助け舟を出すように尋ねた。

 

「(あ、なるほどね。)でも、何でこっちの入学を?」

「以前、見学ということで行ったのですが……その、色んな意味で凄すぎたので、こちらへの進学を決めました。」

「色んな意味って……」

「それ以上はいけないと思う。」

 

女だけの花園……こればかりは男である自分には解らないし、知りたくもないことである。人間というものは、時として本能に従って目を瞑ることも必要だ。そうした方が長生きできる。

 

「はは……ところで、リィンさんはどうしてトールズに入学を?」

「別に呼び捨てでいいんだけれど……俺の場合は……『自分』を見つけるためかもしれない。別に大層な意味じゃないけれどな。敢えて言葉で表現するなら、それが一番適切かなって思ってさ。」

「…………ふむ。そういえば、アスベルは?」

 

リィンの言葉に引っ掛かりを感じるラウラであったが、アスベルに尋ねた。

 

「俺ねぇ……この学院に入った理由は色々あるが……」

 

父親からの依頼……この国の皇族からの依頼……これから来るであろう『激動の時代』に備えるため……だが、心からの自分の本心で言えば、

 

「自分が今まで経験したことのない経験がしたい。それに加えて学院生活を満喫したい。そして、自らの技量を高める。これらの条件を兼ね備えているのはトールズだったってところだ。まぁ、平たく言えばチャレンジャー精神みたいなものだが。」

「そ、そこまで考えてるんだ……」

「ま、これでも他の皆とは3~4年長く生きてるからな。でも、同じクラスだから敬語は簡便な。」

 

厳密に転生前から計算すると精神年齢30代前半……しかも、気が付いたら転生前より長生きしてる。外見青年、中身オッサンってある意味某名探偵のようなものだ。尤も、自分の裏の肩書のせいで精神年齢だけ更に20歳ほど歳食ったような感覚だが……気にしないことにした。

 

六人はマゴットに明日起きる時間を伝えた後、レポートを書くために各自部屋に戻ろうとした際、リィンとアスベルがラウラに呼び止められた。

 

「リィンにアスベル。」

「ラウラ?」

「どうかしたか?」

「迷いはあったが、聞いておこうと思ってな……そなたら、どうして本気を出さぬ?」

 

ラウラから問いかけられた質問……アスベルは気になってリィンに小声で尋ねた。

 

(そういえば、“光の剣匠”と手合わせしたって聞いたけれど、ラウラはその場にいなかったのか?)

(ああ。何でも、お使いに行っていたらしい……アスベルのほうは?)

(あの人が話したのか……似たようなものだよ。)

 

レグラムでの手合わせの時……そして、リベールでの『鬼ごっこ』の時……双方共にラウラの前では八葉の技を敢えて封印していた。だが、アスベルに関しては旧校舎の時と実習中に見せた技の数々を見て……そして、同じ得物を使うリィンの技巧にも気づいた模様だ。

 

「そなたらの剣術、そして太刀筋……『八葉一刀流』に間違いないな?」

 

『八葉一刀流』―――“剣仙”ユン・カーファイが興した東方剣術の集大成。七つの刀の型と一つの無手の型を合わせた八つで構成され、その内の一つの型の皆伝に至ったものは“理”に通ずるとされ、“剣聖”と呼ばれる。

 

「―――驚いたな。帝国ではあまり知られていない流派のはずなんだけれど。」

「アルゼイド流は歴史を紐解けば200年以上の古武術。他流の研究も積極的にこなしていると聞くが。」

「その通りだ。それに、父から『剣の道を志すならば、いずれ八葉の者に出会うであろう』と。それが、リィンとアスベルだとは思いもよらなかったがな。」

 

いや、まぁ……確かに武の道からすれば真っ当な発言なのだが、それがどこかしら含みのあるような発言にしか聞こえないのは、俺だけなのだろうかと……アスベルは率直に思った。

 

「光栄な事とは思うけれど、俺は所詮」

「はい、ストップ。」

「あたっ!?い、いきなりチョップって何なんだよ……」

「自分を卑下するなって……何度言わせたら解るかなぁ、この阿呆が。」

「ふぇあっ!?」

「あ、そ、その……」

 

自分を見下すような発言をかまそうとしやがったので、反射的にリィンの頬を引っ張るアスベル。一方、いきなりの展開に困惑するラウラ。何この可愛い生き物。ともかく、踵を正してアスベルが話す。

 

「まぁ、コイツの場合は自分を顧みない部分があるから。それもコイツの良さであり短所でもあるってワケ。で、俺の場合なんだが……『本気を出さない』んじゃなく、『本気を出したらヤバい』って表現の方がいいだろう。」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。これでも、ラウラの父親―――“光の剣匠”とは二度ほど手合わせしたことがある。ま、引き分けで終わったけれど。」

 

もう、二度とやりたくない。理由は単純明快。戦闘好きな奴らと関わったら碌なことにならんので。(個人的真理)

 

「父上相手に引き分け……だが、あの時の剣捌きを見れば、納得できることだな。」

「理解してくれて結構。てなわけで、ラウラに進呈。」

「?メモ紙?」

「リィンとは思う存分語ればいいさ。」

「いや、どういうことだ?」

「?………―――っ!?」

 

ラウラに昼間拾った紙を渡し、二階に上がるアスベル……すると、先に上に上がっていたエリオット、アリサ、ステラが先程の会話を聞いていたようで、部屋の前にいた。

 

「ここにいたんだ。ああ、ちなみにダブルに関してはあそこにいるお二方が寝るから。」

「ええっ!?」

「あ、あの、いいんですか?」

「変にこじれるよりは納得するまで話し合ってもらった方がいいだろ?」

「ちなみに、そう仕向けたのってアスベル?」

「んなわけあるか……十中八九、ラウラの母親だろうな。」

 

サラに対して便宜が出来て、尚且つこの学院の理事長にも太いパイプを持つとなると……“彼女”しかいないのだ。事情はどうあれ、その人物もエレボニアにしてみれば重要な人物である。そして、リィンとラウラの婚約を推し進めた張本人でもある。

 

「ま、俺は先に休むわ。レポートも既に書き終えてるし。」

「い、何時の間に……(というか、アスベルの“職業”からすれば当然みたいね)その、手伝ってくれないかしら?」

「う~ん……今日やった依頼とか経験位はな。」

「それだけでもありがたいですよ。」

「それじゃ、お願いしようかな。」

 

―――こうして、各々の夜は過ぎていくのであった。

 

「………えっと、その……」

「………寝るぞ。」

「あ、はい……」

 

そして、なし崩し的というか、旧校舎での一件+今回の事の埋め合わせとして、ラウラの抱き枕にされているリィンであった。

 


 
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