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紺野夢叶 短編小説【ジーニアス・オン・ア・ジーニアス!】1

坂学園☆初等部の短編小説です。

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http://www.sakutyuu.com/

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2014-09-29 08:54:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:973   閲覧ユーザー数:970

 桜坂学園初等部の五年一組は他のクラスよりも賑やかなクラスだ。

 

 しかし今日はそんな五年一組でさえも妙な緊張感が走っている。というのも今日の時間割がテスト返しとスポーツテストで埋め尽くされているからである。テスト返しというものは天国と地獄、勝ち組と負け組に大きく二つに分けられる。特に小学生社会の渦中となると、どうしても学力など個々の実力にばらつきがあり、加えて桜坂学園は私立の上流お嬢様学校だ。公立小学校では見かけないようなハイレベルな問題まで出題されるとなると、この緊張感も納得であろう。その中で一人、クラスの雰囲気に呑まれることなく、涼しげな顔で、次の授業の準備をしている生徒が居た。

 

 二時間目、国語

 

「では、国語係はみんなにテストの答えを配って」

 

「はい」

 

 国語係と名指されて立ち上がった一人の生徒こそが、先の動揺を一切見せない女生徒である。先生に呼ばれ答案用紙を受け取りに行く様ですら大人の品格を纏う彼女に、クラス中の注目が集まっていた。クラスメイトから、「カッコいい」「すごい」などという歓声がひそりと湧きあがっていたが、当の本人はというとそれらを気にも留めず、あくまで涼しげに先生から答案用紙を受け取っていた。

 

「夢叶ちゃんは何点ですかー!?」

 

 その生徒は夢叶と言った。夢叶が先生と二人で、いざ答案用紙を配ろうとしたところ、クラスメイトの一人が声をあげた。

 

「夢叶ちゃんだよ? 100点に決まってるでしょ!」

 

「さっきの算数も」

 

「100点」

 

「凄いよねー!かっこいい!」

 

 先の声に続いてクラス中がざわめき始めた。

 

 夢叶は無表情でプリントを整理していたが、ほんのりと頬が赤く染まっていたのだから、彼女も本心では嬉しいのだろう。事実、国語係を務めるだけあって、夢叶は国語には絶対の自信がある。そりゃあ100点でしょ。とでも言いたげな笑みを、夢叶は、誰にも見えないようにこっそりと浮かべた。

 

「100点!?」

 

 盛り上がる生徒たちにつられて、先生がつい夢叶の点数をこぼしてしまった。

 

「いやぁ、98点だった」

 

 教室内に、わっと歓声があがった。無論、高得点を賞しての歓声である。

 

「ちょっと、98点って、どういうこと?」

 

 その歓声を、一人の声がかき消した。それは夢叶の声だった。夢叶は冷静を装いつつ先生を問い詰める。

 

「間違えたって、どこ」

 

「ああ、文章問題で一問……」

 

 夢叶は手元にある答案用紙を広げた。先生が「ここ」と指さす問題は、"~のときの主人公の気持ちを答えなさい”という問題。4点の問題だった。夢叶の答案用紙には△がついていた。今にも泣きだしそうな夢叶の後ろで、生徒たちによる、「でもクラス一位でしょ? 凄いじゃーん!」といったフォローが飛び交った。夢叶は震える手で、皆へと答案用紙を配った。

 

 夢叶は五年一組のみならず、五年生全体でもトップクラスの成績を記録しつづけている。鮮やかな金髪を二つに結い、吊り上がった目と、透き通るような白い肌。一見すると、外遊びと縁の無さそうな、つんとしたお嬢様のような印象の夢叶だが、実は運動神経も抜群である。加えて夢叶は負けず嫌いだった。先のテストの落ち度で闘争心に火が点いた夢叶が、三・四時間目に控えているスポーツテストで残した記録は、今年度の都内小学生の最高記録として、全国に名を轟かせることとなる。

 


 
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