No.721849

まよいライター

※1ページ目に貝木泥舟×手折正弦の腐女子向けの文章表現があります。
苦手な方や男性の方には不快な描写と思われます。飛ばしても差し支えありませんので、2ページ目の002からお読みください。

続・終物語「こよみリバース」後の四月。
北白蛇神社の神様になった八九寺真宵と、真宵にスカウトされて北白蛇神社の神主になった手折正弦の話。

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2014-09-25 13:22:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:464   閲覧ユーザー数:463

 

 

001

 春の始まりというよりは、まだ冬の終わりと言った方がしっくりくる四月の初めのこと。雪国では、梅は咲いたが桜の開花はまだ少し先、そんな季節。肌寒さを覚える早朝の冷気の中、私は拝殿の清掃をしていた。

 阿良々木くんを無事現世に送り返してからしばらくの後、この私、手折正弦もまた約一ヵ月半ぶりに、この世に戻ってきた。そんな私の前に、地獄で知り合い、今は北白蛇神社の神様となった少女・八九寺真宵が現れ、こう言った。

「わたしと契約して、北白蛇神社の神主になってください」

 そうして私は今、この神社で無免許ながら神主をやっている。

 床の拭き掃除をしていたら、春一番だろうか、どこからか一陣の突風が吹いて、本殿のほうから薄い紙きれが一枚ひらひら飛んできた。何気なく手に取り、そこに記されている文言に目を通す。

 一気に体感温度が氷点下まで急落した。

 

『「手折、愛してる」

 手折を後ろから抱きすくめて貝木は言った。

「貝木、こんなときにそんなことを言うなんて、卑怯だよ」

 息を乱しながら手折は言った。

「何度でも言ってやるぜ。愛してる」

 愛してる。

 愛してる。

 貝木の言葉が身体に刷り込まれていく。もう頭では何も考えられない。

「嘘つき」

 絶え絶えに、それだけ言うのがやっとだった。』

 

 

002

 浅葱色の差袴を引きずるように拝殿から本殿へ向かう。

 社の中心にあたるそこで、今は一人の少女が一心不乱に何か書き物をしているようだった。この神社の主・新米神様の八九寺真宵である。

 早起きした、というよりはどう見ても徹夜明けの様相だ。髪の毛がほつれて乱れ気味のツインテイルに、着崩れてウエストの下がった緋袴―神様なのになぜか巫女装束を着用している。本人は営業努力だとか言っていたな。

 書き物をしている机の傍らには、彼女のトレードマークであるところの大きなリュックサックが置いてある。

 私の気配に気づいて振り向いた彼女は、不眠不休の疲れを見せることもなく、どちらかというと徹夜明けのハイテンションで私に声をかけてきた。

「おはようございます手折さん! 今朝は通常の三倍蒼ざめておられますが、また恒例の貧血ですか、それとも毎度おなじみの低血圧ですか?」

「おはよう、八九寺ちゃん。拝殿の掃除をしていたら、こんなものが風に乗って飛んできたんだけれど……」

 先ほど拾った原稿用紙を手渡すと、八九寺ちゃんは満面の笑顔でそれを受け取って言った。

「ああ、これは今書いている漫画のシナリオの一部です」

「八九寺ちゃん、漫画を描いてるのかい? 千石撫子が普通の女の子に戻った理由を考えるとなんだか複雑な気分になるけれど」

 つまり趣味というか、あくまで自己満足の、暇つぶし程度のものなのかな? それにしては随分熱が入っているみたいだけれど。

「ていうか、八九寺ちゃんは漫画描けるんだ」

「いいえ、わたしが書くのはシナリオまでで、絵を描くのは手折さんです」

「え。私が描くのかい? いったいどこから私が漫画を描けるなんて話になったのか知らないけれど、私は漫画はおろかイラストだってろくに描けないよ?」

「ええっ!? ヲタクのくせに、三十年も生きてて今まで何やってたんですか!?」

 そんな、オタクだからって皆絵が描けるわけじゃないだろうに。

「そもそも私はアニメオタクじゃなくて、ドールやフィギュア専門だし」

「なんてことでしょう。わたしも絵は全く描けませんし、漫画はやめて小説にするべきでしょうか」

「その、君がかこうとしている漫画だか小説だかは、誰かに見せる予定はあるのかい?」

「もちろんです! オンラインでオフラインで世の中に打って出すつもりです! 阿良々木さんや阿良々木ハーレムの皆さんにも買っていただくつもりですよ!」

 あれでお金を取るつもりなのか、この娘は……。

「一応、内容を聞いてもかまわないかな? さっき一部を読んだ限りでは、どうも私と貝木がただならぬ関係になっているかのように書かれていたんだけれど」

 そう、先ほどから最も気になっていたことだ。

「女性向け、貝木泥舟×手折正弦のR指定本です」

 女性向け、とわざわざ断るからには、それは腐女子向け、BL同人誌ということなんだろうな。

 しかし、なぜ私の相手が貝木なんだ。あいつとは別に仲良くもなんともなかったし大体もう十年以上会ってないぞ。いや貝木じゃなければいいってわけじゃない。まず男は忍野だろうが阿良々木くんだろうが断固としてありえないし、いくら女だからって臥煙先輩は勘弁してくれ。どうせなら余弦とか余接とか……。いや、そうじゃなくてそうじゃなくて。貝木×私ってことは、貝木がいわゆる攻めで私が受けというやつなのか。何で私が受けなんだ。いや私が攻めならいいという問題でもないのだが。しかし一体私のどの辺が受けっぽいというんだ。憑物語で新キャラとして出てきたと思ったらいきなり死んだのがいかにも弱そうで受けっぽく見えたのか。とある事情で同期の貝木や忍野より若く見えるせいなのか。白いせいか。細いせいか。いや待て、色白で細身と言うなら貝木の奴だってどう見ても不健康に白いし結構細いよな(特にアニメ版)。してみると、私と貝木の組み合わせというのは見事な陰々滅滅コンビだな。こんな陰気なおっさん二人を掛け合わせて何が楽しいんだか。若人の考えることは分からないな。

「ですので、手折さんも手伝ってください」

「自分のBL同人を作らされるなんて、どんな拷問だよ。私は801ちゃんの夫になった覚えも恋人になった覚えもないんだけれど」

「何をおっしゃいます。手折さんは神主で、このわたし、八九寺Pの下僕ではないですか。下僕は神様の言うことには絶対服従なんですよ」

 私が低血圧ならこの娘はきっと高血圧に違いない。朝っぱらからこんなテンションで攻められては、おっさんの我が身には堪えるよ。

「それにしても、手折さんが絵が描けないというのは誤算でした」

 いや、計画が甘すぎるんじゃないかな。

「やむをえませんね。かくなる上は千石さんに絵を描いてもらいましょう。何と言っても千石さんは漫画の神様の卵ですからね! というわけで手折さん、このシナリオを持ってひとっ走り千石さんに原稿の依頼をしに行って来て下さい!」

 そう言って机の上の原稿用紙の順番を確かめながら紙を折りたたんでまとめはじめた。

「一体私はどんな顔をして自分受け同人の原稿を可憐な中学生の娘さんに依頼しに行けばいいと言うんだい」

「そうですねえ、病める薔薇のような、恨めしそうな芥川龍之介のような、中禅寺秋彦のような顔で依頼に行かれてはいかがでしょうか?」

「八九寺ちゃんがどういう路線で私を売り出したいのか大体わかったし、かの文豪や神主つながりで憑物落としの京極堂さんになぞらえてもらえるのはむしろ光栄と言ってもいいぐらいなんだが、しかしそのシナリオ、R指定と言っていたよね? つまり、ポルノグラフィなんじゃないのかい? おかたいことを言うつもりはさらさらないけれど、相当美化されているに違いないとはいえ私のようなおっさんの痴態が衆目の、ことにうら若い娘さんたちの目に触れることになるのかと思うと、さすがに一考せざるをえないよ」

 そもそもそれを書いているのがまだあどけない小学五年生の娘さんなのだけれど。

「何をおっしゃるんですか! 手折さんは、たまたまそういう場面を拾い読みしてしまっただけで、全体を読めば号泣必至の一大感動巨編ですよ! 全米が泣きますよ!」

 ああ、自分が受けの漫画を読まされたら、それは確かに号泣してしまうかもしれないね。

「アカデミー賞最有力ですよ! 大長編ドラえもんですよ! このわたし、八九寺Pが太鼓判を押します! きっとこれをちゃんと読めば手折さんも、げんしけんの笹原さんのようにぐわっときちゃいますよ!」

 待って待って。どんなメロドラマかハーレクインロマンスか知らないけれど、いくら性的な描写が一部分にすぎないとしてもそれが自分受けのストーリーである限り、とても女性と事に及ぶようなお幸せなテンションにはなれないと思うよ。

 しかも、よく考えたら笹原くんは自分が攻めキャラとして描かれていたんだよね。彼の場合は意中の女性が自分を攻めに妄想してくれているという事実に奮い立ったわけだが、私の場合は三十すぎて小学生の娘さんから受け認定された上とても口には出せないようなひどい妄想をされているという極めてブルーな事実を確認させられるだけで、ただただ凹む一方だよね。

「男の裸もまともに見たことないような小学生が男性同士の濡れ場を描こうだなんて、あさりちゃんの話を思い出すなあ」

 こんなこと言うと、歳がばれるけれど。

「じゃあ見せてくださいよ」

「えっ?」

 油断していた。というか、そもそも全く警戒していなかった。

 私は八九寺真宵に押し倒された。

 さすがにマウントポジションは取らせず、無意識のうちに両脚でガードしたものの。

「暴れないでください! パンツが脱がせにくいですから!!」

 うん、まあ、そもそも私は暴れるどころかろくに抵抗もしていないのだけれどね。

 小学生女子に馬乗りにまたがられて下着まで脱がされそうになっている中年男性の図。

 これ、人に見られたら捕まるのは多分私のほうだよね。

 じゃあ。

「えいっ」

 私は八九寺ちゃんの腕をとり、軽く位置関係をひっくり返した。

 確かに私は貝木や忍野と比べても不思議パワーに頼りがちなところがあるけれど、いくらなんでも小学生相手に勝ちを譲るほど虚弱なわけじゃないからね。一応私も大人の男だから。

 私に押し倒され返された八九寺ちゃんは、いつもの勢いはどこへやら、しばらくぽかんと私を見上げていた。そして私を見つめたまま言った。

「どうしましょう。わたし、今とても心臓がドキッとしました。全身が跳ね上がるようなこんな気持ち、生まれて初めてかもしれません。ひょっとしてわたし、手折さんのことが好きなんでしょうか。これはもしや恋のときめきでしょうか」

 袴の帯を結び直しながら私は答えた。

「違うと思うよ。普通いきなり人に押し倒されたら相手が誰でもドキッとくらいするだろうし。まして君は異性とそう場数を踏んでいるわけでもないんだろう? 同世代の男の子と取っ組み合いのけんかをしたりなんてエピソードは数に入れないよ」

「阿良々木さんには、後ろから抱きつかれたりパンツを見られたりキスの雨を降らされたり胸を揉まれまくったりしましたし、ファーストキスもファーストタッチも阿良々木さんにささげたり奪われたりして経験済みなのですが」

 高三男子が小五女子と……。何をやっているのだ、彼は。犯罪者か。

 もしや私の余接が同じように阿良々木くんに襲われたり辱めを受けたりしているのではないかと想像すると、生みの親としてとても心穏やかではいられないな。せっかく今は近くに住んでいるんだ。今度様子を見に行ってみるとしよう。

「うん、まあ、裏を返せば、君は阿良々木くん以外の年上の男性と、そう接触があったわけではないから、耐性がそれほどなかったというか、単純にびっくりしただけなんだと思うよ。まあ、そこから恋が始まるようなことも若いうちはままあるのかもしれないけれど」

「吊り橋効果みたいなものでしょうか。はあ、何だかこれまでの阿良々木さんとのあれやこれやさえも、よくよく考えてみれば吊り橋効果だったような気がしてきますが……。まあ、それはそれとして。わたしが手折さんを好きになるはずありませんよね」

 と、八九寺ちゃんはそこで大きく深呼吸する。

「ひょろひょろの骨川筋衛門で、友達いなくていつも一人ぼっちで折り紙折ってる根暗で、惚れた女に満足に告白もできないチキンなヘタレで、ロリコンでピュグマリオニズムでネクロフィリアで怪異を愛する変態で、偏執的な変質者の手折さんに、このわたしがときめいたりするわけないですよね! 危うく勘違いしてしまうところでした! ……あれ、手折さん、どうかされましたか?」

「……ああ、気にしないで……。心がぽっきり折れただけだから……」

 絶え絶えに、それだけ言うのがやっとだった。

「真実は人を傷つけると言いますからね。このシナリオでも読んで元気出してください。さて、わたしはこれから一眠りしますんで、後はよろしくお願いします。それじゃ、おやすみなさい!」

 分厚い紙の束を手渡され、私は来たときよりもずっしりと重い足取りで本殿を後にした。

 


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