No.721427 九番目の熾天使・外伝 ~改~竜神丸さん 2014-09-24 17:08:46 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:9900 閲覧ユーザー数:1776 |
荒廃したミッドチルダ…
「ぷっはぁ! ありがとう、ご馳走様でした!」
「…また随分と鱈腹喰いやがったな」
ボロボロの建物内部にて、特殊な術式の組み込まれた結界の中まで移動していたげんぶと謎の女性。げんぶはおやつとして適当に用意していた携帯食料を女性に渡した途端、女性はげんぶの了解を得るよりも前に携帯食料を一つ残さず食べ尽くしてしまったのである。その凄まじい食べっぷりにはげんぶも思わず苦笑いせざるを得ない。
「あぁ~生き返ったぁ~…やっぱり美味しい食事にありつけるって、それだけでも幸せだわぁ」
「あぁそうかい。んじゃ、飯も食い終わったところで聞かせて欲しい。ここはミッドチルダであるのは分かってるんだが……一体何がどうなってるんだ? 俺の記憶が正しけりゃミッドチルダは、つい最近までこんなにモンスターがのさばってるような状態にはなってない筈だが」
「え、何言ってるの? この世界はかなり前からこんな状態だよ?」
「…何だと?」
女性の返事に、げんぶは思わず眉を顰めた。自身の知っている情報と女性の持っている情報に、明らかな食い違いが存在しているからだ。
(かなり前からこんな状態に? しかし俺の知るミッドチルダはこんな事にはなって…)
旅団に所属するよりも前から、様々な異世界で活動を続けていたげんぶ。それ故か、情報が食い違っている原因にも彼はすぐに気付いた。
「平行世界って訳か。これまた面倒な…」
「ん、何か言った?」
「いや、何でもない。とにかくだ、俺はこの世界に来たばかりで情報が全く無い。知ってる事を一通り教えてくれると助かるんだが…」
「あれ、そうだったの? それは本当に運が悪かったねお兄さん。今、この世界は破滅に追い込まれてる寸前の状態なんだよ。あの無駄に数が多いモンスター共の所為でね」
「しかし、管理局も存在してるんだろう? そんなあっさり負けるとは思えないが」
「とっくに壊滅してるよ、管理局なんて」
「…何?」
時空管理局が既に壊滅している。この情報には、流石のげんぶも驚きを隠せなかった。
「一番最初に地上本部が攻め落とされて、その後は本局も攻め落とされて消滅したんだ。その後は残った地上本部がモンスターに占領されて、今じゃ管理局は何の機能も果たしてないって事」
「管理局が……他に生存者はいないのか?」
「うん、いるよ? 今はレジスタンスって組織を組んでる」
「レジスタンス?」
「生き残った人達で結成した組織。元管理局の魔導師もそこに所属してて、モンスターの殲滅や生存者の救助なんかをやってるんだって」
「…言い方が過去形なのが謎だがまぁ良い。それで、お前は何だってあんな場所に?」
「あぁ、それは…」
女性はげんぶに行き倒れの経緯を説明する。
「つまり、食料に上手くありつけなくて行き倒れていただけだと?」
「うん、そうだよ。たまにレジスタンスの人達に助けられたりする事もあったけど、今までも大体そんな感じだったかな」
「それでよく生きてられたな……ん? そのレジスタンスとやらの所には何で行かないんだ? そういう組織なら多少でも設備はあるだろうに」
「あぁ~その事なんだけど……あんまり好きじゃないんだよね、あそこ」
「?」
女性は若干だが嫌そうな表情を見せる。
「私ね、一時期は管理局に捕まってたんだ。持ってる能力が特殊だとか何だとかで。たまたまモンスターが管理局に襲って来たから何とか脱出したんだけど…」
「元管理局の魔導師がいるレジスタンスに、抵抗があると…?」
「悪人ばかりじゃないってのは分かってるんだけどさ……何というか、頭では理解しても、感情は何か納得が出来てないって言うか…」
「そうか…(管理局の連中め、どの世界でも相変わらずか)」
どの平行世界に行っても、時空管理局の暴虐は変わらないというのか。他人事でないげんぶは思わず頭を抱えそうになる。
「…そういえばまだ互いの名前を知らなかったな。俺は本郷耕也、お前は?」
「ん、私? 私は…」
「岸波白野だよ。よろしくね、耕也」
「…!?」
女性―――
一方、別の場所では…
「おいおい、また無茶をやったのかディアの奴」
「ま、そういうこった」
ロキ、Blaz、刃、支配人とその仲間達は現在、未だ意識の戻らないディアーリーズと女性を運びながら街中を移動している最中だった。彼等の行く先々ではボロボロになった建物や、火事が起こっているままになっている建物、道路には煙を噴いたまま放置されている自動車がいくつも並んでいる。そして上空には何体ものワイバーンが飛行しているが、地上にいるロキ達の存在にはまだ気付いていないようだ。
「しっかし、これからどうすっかねぇ。ただでさえここがミッドチルダなのもビックリだし、モンスターはそこら中にうろついてやがるし、何処かで情報を仕入れなきゃどうにもなんねぇぞ」
「だが、その情報源となり得そうな手がかりが何一つ見つかってないんだ。ここがミッドチルダである以上は時空管理局も存在してるんだろうが……ここから見てみた感じ、あまり期待は出来そうにないな」
ロキは双眼鏡を使い、遠い先にある地上本部を見据える。地上本部全体に謎の植物が茂っている辺り、管理局も無事な状態でない事は彼等も既に分かり切っていた。
「となると、やはりこのお嬢さんの目覚めを待つしかないのでしょうね……未だに目覚める気配がありませんけども」
「てか、そいつ本当に大丈夫なのかよ? 明らかに死にかけてたっぽいが」
「一応、ディアがかけた魔法のおかげで一命は取り留めたようだが……全く。こいつのすぐに無茶をしようとする癖、どうにかなんないのか?」
「残念だが、そればっかりはどうしようもねぇな。本人がその事を自覚しない限りは……ん?」
その時、ロキは立ち止まってから右方向へと視線を向ける。
「どうした?」
「…ここから少し離れた位置だ。何人か、モンスターと戦ってる」
「「「…!」」」
「…言われてみれば、確かに誰か戦ってますね」
「ロキ、刃、方角はどっちだ?」
「あぁ。方角は東」
「その少し進んだ先の住宅街…」
「「そこにある道路、ちょうどそのド真ん中!」」
ロキと刃の告げた、とある住宅街の道路ド真ん中…
『『『グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』』』
「あぁもう!! いい加減しつこいよコイツ等ッ!!」
「くそ、この化け物共めぇっ!!」
「お、お姉ちゃん!」
「大丈夫……私達が、絶対に守ってあげるから…!!」
無残にも破壊された民家が並ぶこの場所にて。とある武装集団が、大型ケルベロス率いるモンスターの大群と戦闘を行っている真っ最中だった。その内、赤みがかかった茶髪の女性は周囲にいるスケルトン達を片っ端から粉砕していき、カールした金髪の女性は一人の少年を守りながら迫り来るスケルトンを薙ぎ倒し、白髪の男性が斧型デバイスを振るってケルベロスを斬りつける。しかしスケルトンの数があまりに多過ぎるが故に、赤みがかかった茶髪の女性は苛立ちを露わにしながらスケルトンを蹴り砕く。
『『『グルルルルルルル…!!』』』
「くそ、いくら何でもタフ過ぎるだろコイツ等……楓!! 愛華!! そこの坊主を連れて、早くユーリの奴を探して来い!!」
「うぇ!? ちょ、テレンスさんはどうするのさ!?」
「俺がコイツ等を足止めしておく!! なぁに、そんな簡単にやられはしねぇよ…っとぉ!!」
白髪の男性―――テレンスは手榴弾のピンを抜き、スケルトンの集団の中へと投擲し爆発させる。しかし爆発を回避した一体のスケルトンが、手に持ったカットラスをテレンス目掛けて振り下ろす。
『カカカカカッ!!』
「!? テレンスさん!!」
「な、くそ…!?」
金髪の女性―――
≪SHOOT VENT≫
『グガカァッ!?』
「「「!?」」」
斬りかかったスケルトンが、真横からの砲撃で粉々に粉砕された。
「「「…へ?」」」
「ヒャッハー!! シグマ様のお通りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「シグマ、調子に乗らない」
「良いじゃないユイちゃん、たまには思いっきり暴れようよ!」
「そういう事です、という訳でさっさと死ねやゴラァァァァァァァァァァッ!!!」
「刃、また口調が荒くなってんぞ」
思わず唖然とするテレンス達を他所に、シグマ達が一斉にスケルトン達のいる方向へ突撃し、刃の変身したクリムゾンは荒い口調のままクリムゾンガンを乱射し、そんな彼にロキが軽く突っ込みを入れる。
「おーい、そこの御三方。怪我は無いか?」
支配人の変身したゾルダが構えていたギガランチャーを放り捨て、テレンス達の前で変身を解除する。赤みのかかった茶髪の女性―――
「え、えっと……アンタ達は一体…?」
「すまないが、説明は後にさせてくれると助かる。そこの無駄にデカいケルベロスが、かなりご立腹のようだしな」
「「「!?」」」
『『『グガァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』
放置されて完全にご立腹なのか、ケルベロスはそれぞれの首が牙を剥いて四人に飛びかかる。テレンス達がすかさず構えるも、支配人は特に身構えようとしない。
「ま、問題は無いさ。何せ俺達は…」
-ザンッ!!-
「こういう状況、とっくに慣れてしまってっからな」
支配人がそう言った瞬間、ケルベロスは一瞬にしてサイコロステーキの如く細切れとなり、血飛沫を上げながらその場にドシャリと崩れ落ちた。よく見ると支配人の手にはいつの間にか一本のシャインセイバーが握られており、その刃先はケルベロスの物と思われる血で塗れている。
「あ、ありゃま~…」
「す、凄い…」
「お~い、こっちも倒したよ~!」
「チッ、つまんねぇな。どいつもこいつも雑魚ばっかだったぜ」
スケルトンの集団も、既にシグマ達によって全滅させられていた。自分達が退治に苦労していたモンスター達をあっという間に全滅させてしまった旅団メンバー達に、テレンス達は空いた口が塞がらなかった。
「嘘だろ……あんなにいたモンスターを、こんな短時間で…?」
「うっひゃあ、こりゃ凄いのが出て来たねぇ~…」
「それにしても……あの人達は、一体…?」
そんな時、彼等の下にBlazが遅れて到着した……その背中に、ディアーリーズと銀髪の女性を強引に背負いながら。
「Blaz、お疲れさん」
「お、お前等……いきなり俺に押し付けてくんじゃねぇよ…!!」
「いやぁ悪い悪い。何せ緊急事態だったもんでな」
Blazが支配人やロキ達を睨む中、愛華はBlazが背負っている銀髪の女性に気付く。
「ユーリさん…?」
「え、ユーリだって!?」
「ん? 何だ、知り合いかお前等?」
Blazは背中に背負っていた銀髪の女性を楓と愛華の二人に引き渡し、ディアーリーズもひとまず地面に下ろす。
「ユーリさん、しっかりして下さい!! ユーリさん!!」
「安心しろって、死んじゃいねぇ。ギリギリ一命を取り留めてるってとこだ」
「じ、じゃあ、アンタ達がユーリを…?」
「礼なら、そこで気絶してる馬鹿が起きた時に言ってやれ。そこの馬鹿が治癒魔法をかけなきゃ、今頃そいつも死んでただろうよ」
「そ、そうか。ユーリを助けてくれてありがとな……それより、お前達は一体…?」
「…あぁうん、説明が面倒だな。ロキ、任せた」
「頼んだぜ、ロキ」
「いや待て俺かい!?」
ひとまず、モンスターの殲滅を完了した一同。出会ったばかりのテレンス達への一通りの事情説明は、全てロキに押し付けられる事となってしまった。
そんな中…
「ッ……ぅ、ん…」
銀髪の女性―――ユーリの閉ざされていた筈の目が一瞬だけ開き、その瞳を赤青く光らせていた。
場所は変わり、とある路地裏…
「…ふむ、なるほど」
数体のゴブリンが近くをうろついている中、路地裏に隠れていた竜神丸は拾ったボロボロの新聞紙を一通り読み上げていた。
「いやはや、これまた面白い状況に置かれているようですねぇ」
「何が面白いんだ? アル」
同じく隠れていたキーラが、真後ろから竜神丸に抱きつきながら新聞紙を覗き込む。その際、彼女の豊満な胸が竜神丸の頭に当たるのだが当の本人は気にも留めていない。
「この世界の惨状ですよ。どうやらこの世界は、モンスターの集団によって既に滅亡寸前にまで追い込まれているようです。モンスターが大量にいる世界となれば、一体か二体は確実に捕獲してからウイルス実験に使ってやりたいところです」
「相変わらずの研究欲だな……ところでアル、それは一体何だ?」
「あぁ、これですか?」
竜神丸は左手でクルクル回していたレモン型のロックシードを見せつける。
「エナジーロックシードですよ。ちょうど一つ目が完成したので、これを機に実戦調整を行おうと思ってたところです」
「ロックシード……確か、ドライバーと一緒に使うんだったか?」
「えぇそうです。こちらの世界に飛ばされる直前、ZEROさんにもドライバーを渡しましたからね。今頃、何処かで試してる最中でしょうよ」
竜神丸の予想は当たっていた。
『『『『『ブヒ…ブヒ…!!』』』』』
「…のこのこと出て来やがったな、愚鈍な豚共」
一人、武装したオークの集団に取り囲まれていたZERO。普通の人間なら絶望する光景だろうが、ZEROにはそんな常識は当て嵌まらない。
「試させて貰うぜ、竜神丸…!!」
ZEROは取り出した戦極ドライバーを装着、それと共に戦極ドライバーのライダーインジケータにアーマードライダーの横顔が浮かび上がる。ZEROはレッドピタヤロックシードを右手に持ち、前方に突き出したままそれを開錠する。
≪レッドピタヤ!≫
ZEROの頭上で開かれたクラックから、レッドピタヤ状のアームズが出現する。ZEROは小さく笑みを浮かべてからレッドピタヤロックシードを手放し、手放されたレッドピタヤロックシードが宙に浮きながら戦極ドライバーにセットされる。
≪ロックオン!≫
「変身…!!」
≪ギュイィーン!≫
カッティングブレードが倒されると共に鳴り響く、エレキギターのような音声。ZEROの頭上からレッドピタヤアームズが降下する。
≪レッドピタヤアームズ!
レッドピタヤアームズが頭部に被さり、ZEROの全身がライドウェアに包まれる。そのままレッドピタヤアームズが変形し、装着が完了される。
「あぁぁぁぁぁぁ…」
ZEROが変身したアーマードライダー―――ドラークは首をゴキゴキ鳴らし、両手の鉤爪―――ピタヤクローを広げながら姿勢を低くして構える。
「来いよ、雑魚共……俺が相手をしてやる」
『『『『『ッ…ブヒィィィィィィィィィィィィィィッ!!!』』』』』
ドラークがそう挑発し、オークの大群は一斉にドラークへと襲い掛かるのだった。
祭りの時間は、まだまだ始まったばかりである。
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