No.710738

生贄の触手 【乱雑花の助さん×楓かえるコラボ企画】仮up

楓かえるさん

乱雑花の助さんとのうちよそコラボ小説『生贄の触手』の現時点までの仮upです。小説は花の助さんが執筆されていますが、代理で楓かえるが投稿しています。
(小説:乱雑花の助さん、挿し絵:楓かえる)
コラボ完結時点で再アップします。

2014-08-23 15:19:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:881   閲覧ユーザー数:881

 

生贄の触手

 

 

気が付くとエヴィルは知らない場所にいた。数人なら横に並んでも十分歩ける幅のある何の装飾もない通路のようで、通路のずっと先は闇で覆われている。「ここは…?いったいどうなってんだ?」確かあたしは、とエヴィルはこめかみへと手を当てる。…そうだ、事務所にいたんだ。リンフェイたちと一緒に。

 

「皆で次の依頼の話をしていて、それで…。!リンフェイは!?」顔をあげ慌てて辺りを見渡す。しかしあるのは無機質な通路だけで、人影も人の気配もない。無事なのだろうか。エヴィルは眉間にしわを寄せる。「…とにかく、探そう」一緒にいればどうにかなる。エヴィルは長い通路を歩き出した。

 

 

side-zero&rinfei-

時を同じくして、ゼロとリンフェイも似たような通路を歩いていた。「一体ここはどこなのでしょうか…」「どこもそうだけど、どうやってこの場所に連れてこられたのか、だね」魔法でなのか、それとも人為的なものなのか、と。「あ」突然リンフェイが立ち止まる。

 

「どうしたんだい、リンちゃん?」「今何処から物音が」そう言った瞬間体内にも響く地響きのような音を二人は聞き取った。「この音は…」「この先からです!」二人は通路の先へと向かって走り出した。息が切れはじめた頃、暗がりになっていた通路から光が差し込んでいるのが見えた。音はまだ響いている

 

その通路の先には吹き抜けになった大きな部屋があった。通路と同じような壁をしているが、通路ではなくてっぺんの見えない円柱を置いたかのようなつくりだった。「!ゼロさん、あの人!」リンフェイが広間の中心を指さす。そこにいたのは…

 

 

side-エヴィルー

通路を進んでいくと、一つだったそれが三つに枝分かれしていた。どれも先ほど同じように、先は暗闇になっていて見えない。「…」エヴィルの視線が鋭く右側の通路を見据える。微かではあったが奥から聞こえる足音を悪魔の耳は確実にとらえた。タタタ、と連続した足音だ。

 

エヴィルは右腕を構え通路の方へと集中する。足音は次第に大きくなっていき、やがて足音が正体を現した。「ぴ、ピエロ!?」「ワーオ、エヴィルじゃないかい!」呑気に手を振る赤髪の青年は、全力疾走をしながら四足歩行する何かに追われていた。「久しぶりだねー♪」「それどころじゃねえだろ!!」

 

「逃げた方が良いんじゃないのー?」「言われなくても!」エヴィルはピエロと並行して四足生物から逃げ始めた。四足生物は口思えるような場所から赤黒い触手を幾本も生やし、ピエロへと向けて捕まえようとしていた。ピエロの方は柔軟な体で右へ左へとかわしている。「お前なんで狙われてんだよ」

 

「知らないよー」「なんかしたんじゃねえのかよ!」「いや何も…あ、それよりもエヴィ聞いておくれよ!」ピエロは触手の刺突を当たり前のようにかわしながら話し始める。「僕丁度絵を描いていたところだったんだよ。あと少しで完成するところだったのにこんなところにとばされちゃったんだよ!」

 

「幸いにもここは真っ白なキャンバスのような壁で覆われてるからまた創作できてるんだけど腹の虫がおさまらなくてね…思わずあの生物にも創作活動しちゃったよ!」「やっぱなんかしてるんじゃねえかよてめえええ!!」ピエロにツッコミを入れると同時に触手はエヴィルの方へ鋭く伸びてきた

 

エヴィルは体をひねり、右手で触手を弾き返した。「ほら見ろお前のせいであたしにも…」エヴィルの言葉が途切れる。ピエロを指さした右手から血がぽたぽたと流れていたのだ。「おや触手だから硬くはないだろうと思ってたけど…ああ、だから突き刺そうとしてたのか」ピエロは目を細め興味深そうに笑っている

 

「エヴィ、どうするんだい?普通にやったら勝ち目ないよ」「決まってんだろ、普通にやらなきゃいいんだろが」そう言ってエヴィルは踵を返し、四足生物に向かって走り出す。四足生物が四方向から触手をのばしてくるのを、跳躍してかわした。そして空中で右腕を、刃をそのまま取り付けたような赤い腕を

 

四足生物の不気味に光る赤い目へと振り下ろした。爪が紅い目に深々と突き刺さった途端、四足生物の足が止まり触手が痛みに悶えるようにうごめき始めた。「どんな化け物でも、やっぱ目玉は効くんだな」爪を引き抜き、四足生物の上から退いた悪魔は呟く。

 

「ワーォさっすがエヴィ」「とっとと逃げるぞ」「いやもう少しあの生物に創作活動を…」「馬鹿かてめえは!」悶える四足生物に筆を構えたピエロを掴み、エヴィルは通路の奥へと進んでいった。

 

 

-side ????-

それは通路のを彷徨っていた。無機質な通路の中をずるり、ずるりと全身を引き摺って。引き摺っている全身には穴のついた突起が所々生えており、その穴から触ることすら拒絶したくなるような青緑色のガスが噴き出している。

 

「な、なに…あれ!」ぴたり、とそれは動きを止める。それは体から目玉を生やし、声の上がった方へと目玉を動かす。「アーちゃん、下がって!」「マ、マシュリちゃん!」二つある、とそれは認識した。認識すると同時に蔓が何本も巻き付いたような腕が2本生え出てくる。そして…その二つに向かって

 

ずる、ずる…ザザザザザザザザザザ!!

2本だけで動いているとは思えない速さで這い寄ってきた。

 

 

ーside ゼロ&リンフェイー

「…アスラさん!?」長い通路を抜けた先にあった広い部屋。その部屋の中央には蔓を何本も束ねたような4足生物がいた。その生物は頭と思われる場所から粘着質な液体を深緑のツナギを着た青年――アスラに向けて吐きつけていた。「ぎぃぃいいやあああああ!!」

 

アスラは幾つも吐き出される液体を、間抜けな悲鳴とは裏腹に全てギリギリのところで躱していた。「何をやってるんだアスラは…」ゼロは呆れた表情でつぶやく。「アスラさんがどうしてここに…」「多分僕たちとそんな大差ない理由だと思うよ。それよりもあの化け物をどうにかしよう。」

 

ゼロはナイフを懐から数本取り出すと触手生物に近づいていく。数m近づいたところで、手持ちのナイフを五つの角ができるように床へ突き立てていく。(触手生物は捕食する夢中で此方には気づかないだろう…問題は)五角形の真ん中に最後の一本を突き立てようとしたその時だった。「…あ!!ゼロ!!」

 

(…やっぱり)ゼロは眉間にしわをよせる。アスラの方が触手生物よりも先に気づいてしまったのだ。「ゼロ、ゼロ!!うわあああああこいつなんとかしてくれよおおおお!!」アスラは此方に向かって走ってくる。当然、触手生物はアスラが走る方向…ゼロのいる方向へと液体を吐きかけた。

 

ゼロは小さく舌打ちをするとアスラの腕を掴む。と、同時に二人の姿がその場から消えた。「うわあああああゼロ!良かった、君がいてくれて!速くあれを何とかして!!」「…君が気づかずにあれの注意を引きつけていられたら、どうにかできたのに」「俺のせい!?」

 

二人は触手生物の背後に姿を表した。何処に耳があるがわからないが、触手生物は二人の声に反応し後ろを振り向く。今度はその頭を振り下ろした。瞬間、二人の姿は再びその場っから消えた。触手生物は手ごたえのなさに困惑したかのように辺りを見渡す。「君のせいで発動し損ねた」「ご、ごめんなさい…」

 

二人の声がしたのは触手生物から遠く離れた場所――リンフェイがいる場所だった。「さて…あれどうしようか」「ああいうのはエヴィが得意なんですけどね」ゼロとリンフェイはいたって落ち着いた表情で、毎日同じものを見ているかのような表情で会話をしていた。

 

「と、とりあえず逃げようよ!会話なんかしてないでさ!!」アスラが泣きそうな、というかもう涙でぐしゃぐしゃになった顔で叫ぶ。リンフェイがその声にアスラの方を見る。と、同時に気づいた。アスラが小脇に何かを抱えているということに。「アスラさん、それ…」リンフェイがそれを指さした時だった

 

触手生物の口から雄たけびが上がった。鼓膜に直接響いてくるそれは、まるで怒りを露わにしているかのようだった。「声が出たんだね、一応」「…突っ込むところそこじゃないと思います」リンフェイが耳を抑えながらゼロに突っ込む。触手生物は雄たけびと共にその姿を変化させていった。

 

まず最初に、触手の生えた頭部が肉が裂ける音と共に二つに割れた。その断面から頭部に生えているものと同じ触手がうねり、互いに絡み合っていく。「…これは、マズイね。リンちゃん、いけるかい?」ゼロは触手生物を見ながら問いかける。「サポートだけでしたら」「僕もサポートだけなんだけどね…」

 

リンフェイは片手を前に構えながら一歩前に出る。その手には、小さな石が一つついた銀製の指輪がはめてあった。いつの間にか肉の音が聞こえなくなっていた。頭を垂れていた触手生物がゆっくりと顔を上げる。

ーー二つの頭からの雄たけびが戦闘開始の合図となった。

 

 

ーside エヴィ&ピエロー

「っ…何であいつ死なねえんだよ!」「致命傷を受けても死なないからだ…興味深いねえ。ちょっと僕の物に「ならねえよ!てかなれるわけねえだろ!」ピエロとエヴィはそんな会話をつづけながら通路の中を走り続ける。目を潰されたあの四足生物がまだ追ってくるのだ。

 

目玉と思って貫いた赤い二つは飾りではなかったのかと思うほど、四足生物は正確に二人へと向かって真っすぐ追っている。時々ある曲り道を曲がっても、大して壁にぶつかることなく追ってくる。「こうなったら足でも潰すか…」エヴィが再び攻撃を仕掛けようと後ろを振り向くが「そういえば、エヴィ」

 

唐突にピエロがしゃべりだした「足を潰すってので思い出したんだけど…ぼく、テキーラの足を使えなくしたことあるんだよ」エヴィの表情が強張る。ピエロはまるで楽しい思い出話のようにそれを語る「足の腱をぷちんってね。これで僕のものだって思ったんだけど…ならなかったんだよね。何でだと思う?」

 

―――ザクリ。後ろから四足生物の悲鳴が聞こえてきた。「!?」エヴィルは後ろを振り向く。ピエロは語るのを止めない。前を向いたまま恍惚と。「普通痛いなら苦しむはずでしょ?凡人なら、苦しんで苦しんで…そこで終わるんだ。だけどね、彼は…彼は笑っていたんだよ」「…なんで」エヴィルは呟く。

 

四足生物はその動きを止めていた。否、泊められていた。目の前の霧のような影が四足生物の行く先を留めていたように見えたかもしれない。しかし実際は違った。四足生物は足を切り落とされていたのだ。すっぱりと丸太ほどあるその足を全て切り落とされていた。「くっせえなあこいつ…何食って生きてんだ」

 

影は喋る。その手に禍々しい大鋏を握りしめ、口元に邪悪な笑みを浮かべその体に四足生物の体液を受けながら。「でっけえくせしてあっさりと死にやがった…つまんねえなあ」声の主の周りから霧状の陰が薄れていく。「何で…」エヴィルは体を震わせながら影を睨み付ける。「何であいつがいるんだよ!!」

 

赤黒い体液を吹き出す四足生物の前に大鋏を携え立っていたのはーー「ああ、やっぱり…やっぱり君もいたんだね、テキーラ」

心底愉しげな歪んだ笑みを浮かべたエヴィルの同族ーーーテキーラだった。

 

テキーラはゆっくりと、今になってようやく二人の存在に気づいたかのように振り返った。その顔には僅かに驚きが浮かんでいる。「…お前ら、なんでここに」「それはこっちのセリフだ!なんでお前がここにいる!」「質問を質問で返すな爆弾魔。会うたび会うたび爆発しやがって」

 

会話にならないと思ったのか、テキーラはピエロの方を見る「お前も何でここにいるんだ」「何故?それは僕も聞きたいね。何でここにいるのか…そして君は何の目的でここにいるのかをね」その言葉にテキーラの片眉が上がる。ピエロはふふ、と何を考えてるいるのかわからない笑みで相手を見つめる。

 

「…何を勘ぐってるのか知らねえがここにきた目的なんてねえよ」テキーラは体液のついた顔を手で拭いながら答える。「俺もお前らと同じ理由だ」「…いつの間にかここにいたってことか」「お前らも連れてこられたとは思わなかったな」エヴィルはまだテキーラを睨み付ける。嘘か本当か見定めているように

 

しばらくの間沈黙が流れる。「…で、お前らはどうするんだ」唐突にテキーラが口を開いた。「どういうことだ」「ここで俺らがどういう理由で連れてこられたかはわかんねえ。が、それは今どうでも良いことだ」テキーラが二人へ近づいてくる。大ハサミを持ったまま。先ほどのような笑みを浮かべて。

 

「現時点での俺にとっての問題は…いて欲しくない、殺したいくらい消えて欲しいムカつくお前らがいることだ」「!」エヴィルは即座に構えをとる。ニタリ、とテキーラはさらに笑みを深くする。「こっから出ても変わらねえが…俺の今やることはただ一つ」テキーラが得物を振り上げる。

 

「てめえらを殺すことだ」

---金属音。

いい終えると同時に聞こえたのは、テキーラの大ハサミの刃とエヴィルの出した異形の爪であった。テキーラは無理やり大ハサミで押し返し、さらに一歩踏み込んで横に薙いだ。エヴィルは体をひねり、後ろへと一回転してかわす。

 

「ワーォ、いきなり戦闘かい?やっぱりテキーラは戦闘狂だねえ」ピエロは二人が闘う様を楽しげに眺める。特に手を出すつもりはないようだ。「おいピエロ離れてろ!巻き込まれるぞ!」「はっ、人の心配できるほど余裕あんのかぁ!?」テキーラの大鋏が振り下ろされる。――避けられない。

 

エヴィルは頭上数センチ上で大鋏を受け止めた。ほぼ無意識での行動だった。爪と大鋏の刃が拮抗し、ギリギリと音をたてる。「ハッハァ…前よりは反応が良いじゃねえか。少しはマシになったな」「何言ってんだっ…てめえが遅くなっただけだろ」「ほぉう?」僅かにテキーラの鋏が前に動く。

 

「言うじゃねえか。この前はボロ負けしてたくせによぉ」「おや、そんな過去があったのかいエヴィ是非詳しく聞きたいねえ」「お前ホント空気読めねえな!!今の状況わかってんのかよ!!」「そんなこと言ってる余裕があるのかい?」ピエロが言う通り、大鋏が頭の方へ更に近づいた。

 

爪に僅かに亀裂が入る。…ヤバイ!!エヴィルが口角をひきつらせた時だった。

 

「炎魔法…レイラ」

 

暗い通路の奥から紅く輝く熱量が噴き出した。

 

 

-side エヴィル&ピエロ+?‐

一体何が起こったんだ。

エヴィルは焼ける頬の痛みを堪えながら脇の通路から黒く焼け焦げた通路を見据える。炎が飛び出してくる前に詠唱の声が聞こえたな…あたしら以外の迷い込んだ奴か?だったらなんで――

「っ!そうだピエロ…!おい!」「ここにいるよー」

 

エヴィルは声の方へと視線を向ける。ピエロがいたのはエヴィルの反対側の通路で同じく炎を回避したテキーラの後ろだった「うおっ!?なんでお前そこに!」「いやあ炎が見えたときとっさにテキーラに飛びついてね、運よく難を逃れたわけさ」「飛びついたのかよ!?」「ハハハ、テキーラは力持ちだね」

 

「僕がしがみついてもちょっと遅くなるだけで転ばなかったよ」「…そのせいで逃げ遅れたじゃねえか、クソ道化が」テキーラが殺意の籠った視線でピエロを睨み付ける。テキーラはかなり炎に焼かれたのだろうか、シャツは焼けこげほぼ半裸状態で左腕の皮膚が黒く焼けただれていた。

 

「へっ、ざまあねえなテキーラ!!よくやったピエロ!」「ほんと?やったー」「喜んでんじゃねえよぶっ殺すぞ!」テキーラが傷を負っていない手で鋏を振り上げた時だった。「!おいテキーラ!」エヴィルが声を上げる。テキーラがその声につられ中央の通路を見やる。

 

エヴィルたちから数m離れた場所に一人の少女がたっていた。地面まで届きそうなほど長い緑髪をした少女はずるずると何かを引き摺るような音をたてながら、静かに此方へと歩を進める。目は此方の方を見ているが、その瞳はどこか虚ろだ。「…女の子?」「ハハハ、さっきの子があの炎を?」

 

「一体どんなマジックを?」「ちげえよ、ありゃ魔法だ」「魔法!面白いねえ!もっかい見せてくれないかな?」「なわけねえだろ、おいお前」エヴィルがそう言って少女に近寄った時だった。少女が腕を水平にあげた。少女の手が紅く輝き、その光は少女の腕全体を包み込む。「燃え散れ…レイラ」

 

腕を包んでいた光は少女の手のひらへと収束し、スイカ程の炎を球を吐き出した。「っ!?クッソ!」エヴィルは異形を呼び出し、紅い腕を振って炎をはじく。弾いたそれは壁へと当たり、散弾銃の如く火をまき散らした。「こいつ・・・!」エヴィルは少女との距離を詰め、異形の爪を振り下ろした。

 

少女はすばやくバックステップで爪をかわし、腕を高く上げる。また炎を出す気かよ。何度も同じ手が…「逃げてください!!」誰かの声がエヴィルの鼓膜に響く。同時に少女の腕は振り下ろされ、地面へと突き刺さる。地面が蜘蛛の巣を張るように亀裂を走らせ――

少女を中心に地面が砕けた。

 

…拳で地面が割れんのかよ!!砕けた地面は徐々にその境目を大きく開いていく。このままだと呑まれて潰されてしまうだろう。エヴィルはまだ無事な脇の通路へ向かって走り出す。だがその間を少女が黙って見過ごすわけがない。「焼き尽くせ…」少女が呪文を唱えようとした時だった。

 

「潤せ、満たせ。大気を濡らせ。―――いでよ、水柱」地割れの音の中で、誰かの詠唱が聞える。そして、少女の真上から水が降り注いだ。少女は、驚いた様子は見せなかったが、ずぶぬれになったせいで炎が出せなくなっていた。「一体、何が…」「早く、こっちに!」エヴィルはその声に我に返る。

 

脇の通路へと向かって、すでに液状化を起こしている地面を蹴る。足場になった地面はあっさりと崩れてしまった。「よっと…!!」エヴィルは脇の通路まで到達するとその場に座り込んだ。あー…死ぬかと思った。「大丈夫ですか?」「ああ大丈夫だが…誰だあんた」エヴィルは黒髪の少女に尋ねる

 

「アクラです。そして先ほど魔法を使ったのが」「ジェイムスと申します。初めまして」少女の後ろにいた金髪の男性が手を差し伸べる。エヴィルはその手を借りて立ち上がった。「さあ、奥まで行きましょう。水も一時的な時間稼ぎにしかなりませんし」「おい、ピエロは?」「大丈夫です。先に行ってます」

 

「あの火傷を負った人も一緒です」「!あいつも一緒なのか!?あいつは「話はあとです」少女はエヴィルの手を取り走り出した。ジェイムスもそのあとに続く。後ろを見やると、緑の少女は此方を見ていたがおってくる気配はなさそうだった。

 

 

-side  リンフェイ&ゼロ&アスラ+???-

触手で作られた頭が、ゼロの頭の上を掠めた。直後にゼロの背後で地面が砕ける音が聞こえる。「全く…重量もある上に速度もあるだなんて、ずるいと思うんだけどなあ」ゼロはくるりと向きをかえ、頭へと向けて3本ナイフを放った。

 

放たれたナイフは速度をあげ触手の頭部に真っ直ぐに突き刺さった。緑色の体液で頭部を濡らす触手は、苦しげな寄生を発するが致命傷を受けているようには思えない。「困ったなあ僕あんまりナイフ持ってきてないんだけど」「作りましょうか?」リンフェイが地面に膝をつく「ああ、頼むよ」

 

ゼロは触手の注意を向けさせるため、リンフェイから離れるように駆け出した。ナイフの刺さった方の触手は頭を吹き飛ばそうとゼロのあとを追う。その間に、リンフェイは自分の魔力で魔方陣を床に描きこみ、詠唱した。「土よ。尖り、硬化し、魔を裂く針となれ」

 

魔方陣が淡く光り、その周りは地面が幾つも小さく盛り上がる。盛り上がった地面は段々と細くなり、白色系から光沢のある金属製のものへと変わっていく――「リンちゃん、危ない!」アスラがリンフェイの背後で叫ぶ。もう一方の触手の頭がリンフェイの頭上に迫っていた。

 

「cold!(冷凍せよ)」ゼロの声が遠くから飛んでくる。

バキン!

リンフェイの頭上少し手前で氷の層が広がった。触手はその氷へとぶつかり、それを粉砕した。氷は幾つもの破片となったが、触手の降ってくる勢いを殺し、リンフェイに当たる手前で静止する。

 

「ゼロさん!」リンフェイは後ろへと下がりながらゼロの方を見やる。ゼロは横なぎにくる触手を跳んでかわしながら魔方陣の方へと手を向けた。完成され、地面に突き立っていたナイフはわずかに揺れると宙へと浮かぶ。ゼロが指先を自分の方へと動かし浮かんだナイフを手元へと呼んだ。

 

ナイフが手元へまっすぐに飛んでくる。それをさせないとばかりに触手がナイフを弾いてしまった。「全く…邪魔しないでほしいなあ」ゼロはそういいながら触手から距離をとる。触手がゼロへと向けて何本も髪のように生えた頭部をもたげた時だった。

 

ガァアアアン!!

「!?」

突然、天井から爆発音が鳴り響く。その何秒か後に、幾つもの瓦礫となって白磁の壁がゼロたちの頭上に降り注いだ。「あんなの当たったら…!」リンフェイは手をひるがえし、即座に薄桃色の防御壁を発動させる。

 

ゼロは転移魔法を使い、自分の真上にくる瓦礫を全て触手生物に向けて落としていく。触手生物の方は体の大きさとそれゆえの移動速度で避けることもできずに瓦礫の中に埋もれていった。「あ、あ!?」アスラが突然声を上げ瓦礫の降る天井を指さした。「う、上からおおお女の子が!!」

 

リンフェイもアスラの見上げる場所へと目線を移す。アスラの言う通り、まばらに落ちてくるようになった瓦礫を足場にして徐々に降りてきている髪の長い少女がいた。「ゼロさん、あの子は!?」「わからないけど、あれは…」緑髪の少女がふわりと、丁度触手生物の埋もれた地面に降り立つ。

 

虚ろな目で此方を見る少女の後頭部にはあの触手生物たちと同じような、黒く幾本も絡み合った触手がへばりついている。その触手は少女が落ちてきた天井へと向かって伸びている。「…どう見ても話せそうな相手じゃないね」触手に取りつかれた少女、マシュリとの戦闘が始まる。

 

 

緑の髪の少女から撤退した後、テキーラとピエロはエヴィルたちを待たずに通路の先を進んでいた。分かれ道を右へ左へまっすぐに。止まることなく突き進んでいた。

「やあさっきの女の子すごかったねえ!」「何のためらいもなく火炎を放ってくるなんて!」「…」「ねえ、聞いてるかい?」

 

ピエロは二人で進んでいる間、絶え間なく喋り続けていた。火炎で消し炭にされかけていたにも拘わらず陽気に。不気味なくらい陽気に離し続けていた。そのお喋りにテキーラは何の反応も示さなかった。何も言わず振り返らず。今も振り返る様子もない。「ねえテキーラ」もう一度呼びかける。

 

「僕ちょっと気づいたことがあるんだけど」

反応はない。

「聞いてくれるかい?」

何も言わない。

「君何でここの道に詳しいの?」

テキーラの歩く足が止まった。

ようやく来た反応にピエロは満足そうな笑みを浮かべ、喋り続ける。

「僕、さっきから人形を置いてってるんだよね」

 

「同じ道ばかりはつまらないと思ってね」「結構歩いてるけど」「その人形と全然会わないんだよ」「何でかなあ?」

クスクスと小さく笑い声をあげる。足音もしなくなった通路にはよく響いた。

「…この迷路みてえな場所が広いからじゃねえのか」

振り向くことなくテキーラは答えた。

 

「成程」「じゃあそうだったとして」

ピエロが指を一本たてる。

「そんな広い場所を一人で」「なんの躊躇いなく歩けるのは」「不思議だと思わないかい?」

テキーラの視線がピエロへと向く。ピエロのお喋りはまだ続く。

「僕エヴィと一緒にいたんだけど」「何度も立ち止まったよ」

 

「それほど迷ったんだ」「その時も人形を置いてたけど」「エヴィは馬鹿だからね」

ピエロが低く笑い声をあげる

 

「何度も人形にあったよ」

「それは偶然で片が付くし俺とアイツが同じようなことになるわけがない。一緒にスンナ」

「…随分と」「お喋りになったね」

 

テキーラの表情が険しくなる。視線だけだったのが体ごとピエロの方を向く。

「他にも聞きたいことがあるんだ」

ピエロのお喋りは止まらない。

「なんであの時」「あの女の子を殺さなかったのかな」「緑の髪の女の子」

「…気分じゃ「随分と下手な嘘つくね」「君らしくない」

 

「君は深手を負った」「少女からダメージを負った」「君なら即座に殺しに行くよ」「嬉々としてね」

あの時テキーラは何をしていたか。――何もしなかった。何よりも強者との殺し合いを望む男が。事故ではあるが大やけどを負うほどの火力を持つ少女に何もしなかったのである。

 

「なんでかな?」「なんでだろう」

顎に手をあて、ピエロは唸る。しかしその行動は考えている素振りではなく、話の溜めを作るためのポーズのようにも見える。ああ、と暫くして手のひらをぽんと叩く

「そうだ思い出した」「そういえばあの時」「丁度ジェイムスと女の子が来たよね」

 

「その時さ」

「ジェイムスと何か話してたよね」

言い終えたとき、ピエロの目の前には大鋏が突きつけられていた。ほんの瞬きをした間のことだった。

「アッハッハッハッハ!!どうしたんだいテキーラ!そんなにつまらなかったかい僕の話は!」

通路全体に笑い声が反響する。

 

「どこまで知っている」

「どこまで?んん、何のことだろう?」

「とぼけんならてめえの首を落とす」

「できないね」

二度目の否定。鋏をつきつけられ、いつ首が落ちてもおかしくない状況でもピエロは笑みを浮かべている。

「君は殺せない」「僕だけじゃなく、エヴィも殺さないよ」

 

「だってそういう約束だから」「ジェイムスとの」「でしょ、テキーラ?」

ピエロの答えに何も言わなかった。

言えるわけがない。事実なのだから。

ピエロとテキーラの間に沈黙が続く。

「・・・はぁー」

テキーラが深くため息をついた。

「ゼロがもう一人いるみてえだ」

 

「うんざりするぜ。てめえみたいに察しが良すぎるのがいると」

至極めんどくさそうな表情で。大鋏を構えたまま。テキーラは喋る。

「会った時の第一声とさっきの話しぶりからすると、もうここがどういう場所かわかってんだな」

「んふふ、さあ?」澄ました顔でピエロは肩を竦める。

 

「僕は真実を『全ては』言わないよ」「ああ、でも」「エヴィたちにはちょっとだけヒントをあげるかも」

「それが困るんだよ」

テキーラの大鋏が振りあがった。くるとわかっていたのかピエロは慌てる様子もなく後方へと回避する。

振り下ろした大鋏はあっさりと地面に突き刺さった。

 

「あの女が聞けば自然、ゼロの耳にも入る。あいつも勘が良いからな、すぐに正体がばれる」

テキーラは地面から引き抜き、大鋏を構え直す。

あの火傷じゃまだ二刀は使ってこないだろうね。それも時間の問題だろうけど。

ピエロは笑みを浮かべたまま、相手の状態を細かく観察していた。

 

「ばれると色々と困るんでな…てめえにゃ死んでもらうぜ」

「殺せないんじゃないの?それに、丸腰の僕を殺すつもり?」

「命令だからな。『必要があれば殺せ』てな。極力殺すなとは言ってたが…まあ無理だな」

テキーラが一歩踏み出す。それに合わせてピエロも一歩下がる。

 

逃げられない。いくら後ろに下がろうとも、いつかは詰められバラバラにされてしまうだろう。それでも、ピエロは笑みを絶やさなかった。

テキーラが次の一歩を、ピエロの首を落とすための一歩を踏み出したとき――。

 

 

- side evil-

三人は長い通路を走っていた。「広い場所を見つけました。そこで待ちましょう」そう言ったジェイムスが先頭に立ち、エヴィルたちを先導している。「そこは幾つもの通路とつながっています。あの二人とも、向かえば会えるはずです」「よく知ってんなお前」

 

「彼女と一緒に長いこと歩き回りましたから。僕はここにきてすぐに出会ったんですよ」彼女はもっと前からいたらしいですけどね、と付け加える。エヴィルは並走するアクラを横目で見る。その表情は沈んでいて、悲しそうだった。「さっきの…襲ってきた少女は彼女の幼馴染だそうです」

 

「マシュリちゃんは…あんなことする子じゃないんだよ!」アクラは強く主張する「でも、マシュリちゃん私を庇ってマモノの前に立っちゃったから…マモノにくっつかれて、あんなになっちゃって!」「操られてるってことか。あんな炎使える奴が敵ってのは厄介だな」

 

エヴィルは苦々しげにつぶやく。(あれが敵だったら…化け物だったら殺せるのに。)「観察した結果彼女の背後に長い触手が繋がっています。恐らくそれを切れば触手の支配も解け「おい」エヴィルがジェイムスの言葉を遮る「さっきからあたしが助けるで話してるがな、やんねえぞあたしは」

 

「「え!?」」ジェイムスとアクラが戸惑いの声を上げる。「あたしはやるとは一言もいってねえぞ」「で、でもさっき厄介だ、て」「相手にしたら厄介だなってことだ。相手にするとは言ってねえ。」エヴィルは突き放すように言葉をつづける。

 

「おいアクラだったか?マシュリってやつが大事なら自分でどうにかしろ。あたしはこっから出てく」「そんな…!」アクラの顔が悲しげに歪む。「合流も勝手にやれ。あたしはこっから出る方法を一人で探」

ドォオオオオオオン。

通路の先から爆音が響いてくる。三人は立ち止まった。

 

「い、今の音は!?」「まさかマモノが…!」狼狽える二人をよそに、エヴィルは一人通路の先へと耳を澄ませた。人には聞こえない音も、悪魔であるエヴィルは拾うことができる。長い爆音の反響、石の転がる音、そして…常に耳にする者の声「…リンフェイ!?」言うと同時に走り出した。

 

「エヴィルさん危ないですよ!」ジェイムスが叫ぶがエヴィルは振り向かない。(リンフェイが危ない)それだけで頭がいっぱいだった。「ジェイムスさん!追いましょう!」アクラも走り出した。「ア、アクラさん!?」「あっちにいけば、マシュリちゃんに会える気がするんです!だから!」

 

アクラはそのままエヴィルの背を追っていく、ジェイムスはその場にとどまっていた。狼狽えていた様子が豹変したように無表情になる。「…他の方も、いるのですね」(間に合えばいいのですけど)顎に手を当て考えるそぶりを見せる。暫くしてから前の二人を追いかけ始めるのだった。

 

 

(つづく)


 
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